大阪高等裁判所 平成20年(ネ)2283号 判決 2009年1月23日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
1 平成15年1月10日当時、原判決別紙物件目録記載の各土地はA、B、C、D及びEの5人きょうだいの共有であり(持分各30分の6)、同目録7記載の建物は上記5人のきょうだいと母親のFの共有(Fの持分10分の5、きょうだいの持分各10分の1)であったところ、Aは、同日に上記土地建物の持分を控訴人(Aの妻Gの妹)に売り渡し、同年7月15日付けでその旨の持分全部移転登記をした(甲3ないし9、弁論の全趣旨)。被控訴人は本訴で、Aに対する連帯保証債務履行請求権を被保全債権として、詐害行為取消権に基づき、控訴人に対し、Aと控訴人との間の上記売買契約の取消し及び上記持分全部移転登記の抹消登記手続を求めた。なお、被控訴人は、被保全権利として、本件訴訟提起時には主債務者を新日本ゴルフ開発株式会社とする連帯保証債務履行請求権を主張していたが、その後、同請求権に関する訴訟で裁判上の和解が成立したため(甲2、乙2、3)、主債務者をAが代表取締役の有限会社伊丹住建とする別の連帯保証債務履行請求権に改めた。原審は、被控訴人の請求を全部認容した。
2 当事者の主張は、原判決6頁9行目の「Gに対し、」の次に「主債務者を新日本ゴルフ開発株式会社とする連帯保証債務の履行として、」を加え、16行目の「しかして、上記貸金返還請求事件において」を、「その後、上記別件貸金等請求事件については、第1審で被控訴人の請求を全部認容する判決が言い渡され、A及びGが同判決を不服として控訴を提起し、控訴審において」と改め、21行目の「遅くとも」の次に「被控訴人が上記別件貸金等請求訴訟を提起した」を加え、次のとおり当審における当事者の主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第2 主張」欄に記載のとおりである。
(1) 控訴人の当審主張
最高裁判所平成11年9月9日第一小法廷判決(裁判集民事193号685頁)は、債権者が根抵当権の極度額を超える金額の被担保債権を請求債権として当該根抵当権の実行としての不動産競売の申立てをし、競売開始決定がされて同決定正本が債務者に送達された場合、被担保債権の消滅時効の中断の効力は、当該極度額の範囲にとどまらず、請求債権として表示された当該債権の全部について生じると解するのが相当であると判示している。これはすなわち、根抵当権で担保される複数の債権があり、その合計金額が極度額を上回る場合には、競売手続で複数の債権を請求債権として主張されれば、たとえ極度額を超えたときであっても、権利主張がなされたとみられるので、消滅時効の中断の効力が生じるが、請求債権として主張されなければ、消滅時効の中断の効力も生じないことを示している。このことは詐害行為取消権の場合にも同様に解される。すなわち、複数の債権があり、その合計金額が詐害行為取消しの対象物の価格相当額を上回る場合には、詐害行為取消訴訟で複数の債権が被保全権利として主張されれば、権利主張がなされたと判断されるので、消滅時効の中断の効力が生じるが、被保全権利として主張されなければ、消滅時効の中断の効力も生じない。本件において、被控訴人は、本件訴訟の提起時に主債務者を伊丹住建とする連帯保証債務履行請求権を被保全権利として主張していなかったのであり、詐害行為を知ったとき(遅くとも被控訴人が前記別件貸金等請求訴訟を提起した平成16年9月14日)から2年を経過したことにより、詐害行為取消権は時効により消滅した。
(2) 被控訴人の当審主張
控訴人の引用する最高裁判所判決は一般債権の消滅時効に関するものであり、これと詐害行為取消権の消滅時効とを同様に解することはできない。すなわち、前者は一般債権自体の消滅に関するものであるのに対し、後者は詐害行為取消訴訟の出訴期間の制限に関するものであり、その目的を異にしているから、同じ消滅時効といっても同様に解することはできない。むしろ、詐害行為取消訴訟において、被保全権利を交換的に変更しても、債務者の責任財産の保全という目的に変更はないし、訴訟物(訴え)を変更したものでもないから、被控訴人が本件訴訟を提起した時点で詐害行為取消権の消滅時効が中断している。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の請求は理由があるからこれを認容すべきものと判断する。その理由は、原判決7頁17行目の「乙7」の前に「甲2、22、23、」を加え、19行目から20行目にかけての「超えていたこと」を「超えており、Aはこの借入れについて連帯保証していたこと」と改め、22行目の「当時、」の次に「Aは、被控訴人に対し、主債務者を伊丹住建とする本件請求債権に係る2億円以上の連帯保証債務及び主債務者を新日本ゴルフ開発株式会社とする借入金に係る16億円以上の連帯保証債務を負担していたが、」を、8頁22行目の末尾に「。」を、9頁16行目から17行目にかけての「経緯」の次に「やAと控訴人との人的関係」を、19行目の「できる。」の次に「なお、前記のとおり、控訴人は、本件売買が債権者である被控訴人を害することを知らなかったことを裏付ける事情として、控訴人の伊丹住建に対する求償債権の弁済として、伊丹住建の連帯保証人であるAから本件不動産の譲渡を受けたことを主張するが、仮にそうであるとしても、控訴人において本件売買が債権者である被控訴人を害することを知らなかったとは認められない。」をそれぞれ加え、9頁末行の「貸し付けた。」を「貸し付け、その後、貸付けが更新されて、最終的に平成6年6月17日に貸付けが更新された。」と改め、10頁初行の「Gは、」の次に「昭和61年6月28日、」を加え、12頁5行目の「。」を削除し、次の2のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」中の「第3 判断」欄に記載のとおりである。
2 控訴人は、前記最高裁判所判決を援用し、複数の債権があり、その合計金額が詐害行為取消しの対象物の価格相当額を上回る場合には、詐害行為取消訴訟で複数の債権が被保全権利として主張されれば、権利主張がなされたと判断されるので、消滅時効の中断の効力が生じるが、被保全権利として主張されなければ、消滅時効の中断の効力も生じない、本件において、被控訴人は、本件訴訟の提起時に主債務者を伊丹住建とする連帯保証債務履行請求権を被保全権利として主張していなかったのであり、詐害行為を知ったとき(遅くとも被控訴人が前記別件貸金等請求訴訟を提起した平成16年9月14日)から2年を経過したことにより、詐害行為取消権は時効により消滅したと主張する。しかし、被控訴人も指摘するように、前記最高裁判所判決は一般債権の消滅時効に関するものであり、詐害行為取消権の消滅時効に関する事案についてのものではない。控訴人の主張は、一般債権の消滅時効と詐害行為取消権の消滅時効を混同するものであり、採用することができない。すなわち、原判決も説示するように、詐害行為取消訴訟における訴訟物は詐害行為取消権(本件では、本件売買の取消請求と本件不動産に係るAの持分全部移転登記の抹消登記手続請求)であり、被保全権利の主張は攻撃防御方法(請求原因)にすぎず、その変更は請求原因の変更にとどまり、訴えの変更には当たらない。したがって、控訴人の主張は前提を欠く。消滅時効についての控訴人の主張は理由がない。
3 結論
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 菊池徹 髙橋善久)