大阪高等裁判所 平成20年(ネ)3117号 判決 2009年6月05日
控訴人
X
被控訴人
全国労働者共済生活協同組合連合会
上記代表者代表理事
A
上記訴訟代理人弁護士
赤松和彦
同
寺尾祐志
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、控訴人に対し、五八万二二九〇円及びこれに対する平成二〇年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 仮執行宣言
第二事案の概要
一 事案の要旨
(1) 本件は、被控訴人との間で、自動車共済契約を締結していた控訴人が被控訴人に対し、車両が第三者に傷つけられる事故が発生したと主張して、自動車共済契約に基づいて、車両共済金五八万二二九〇円及びこれに対する平成二〇年三月二五日(被控訴人が本件車両の損害を確認した日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた反訴請求事案である。
(2) 原審は控訴人の請求を棄却したので、控訴人は控訴した。
二 争いのない事実等
以下の事実は、当事者間に争いがないか、括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。
(1) 自動車共済契約の締結
控訴人は、平成一九年五月ころ、被控訴人との間で、以下の内容の自動車共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結した。
ア 被共済自動車 控訴人所有の普通乗用自動車(オペルオメガ・登録番号《省略》。以下「本件車両」という。)
イ 被共済者 控訴人
ウ 共済期間 平成一九年五月一日から平成二〇年四月末日まで
エ 対人及び対物賠償 無制限
オ 車両共済金額 一〇〇万円、ただし、自己負担額一〇万円
(2) 本件共済契約の失効
本件共済契約は、控訴人の掛金不払により、平成一九年一二月三一日をもって失効した(乙一)。
(3) 自動車総合補償共済事業規約の規定
本件共済契約に適用のある自動車総合補償共済事業規約の車両損害補償に関する特約のうち、全危険車両損害補償特約の補償内容の規約(以下「本件規約」という。)は、以下のとおりである(甲一三)。
「この会は、衝突、接触、墜落、転覆、物の飛来、物の落下、火災、爆発、盗難、台風、こう水、高潮その他偶然な事故によって被共済自動車に生じた損害に対して、この特約に従い、第三条に規定する被共済者に共済金を支払います。」
(4) 共済金の請求
控訴人は、平成二〇年三月二五日付けの「共済金請求書」により、被控訴人に対し、本件共済契約に基づき、後記アの事故についてのみ、車両共済金の支払を請求した(甲七)。
三 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 車両事故の発生の有無
〔控訴人〕
ア 控訴人は、平成一九年六月二日午前三時ころ、大阪市中央区東心斎橋二丁目のいわゆるヨーロッパ通り付近の路上において、本件車両に乗って信号待ちをしていたところ、四、五名の男性に取り囲まれ、ボンネットやドア等を蹴られたり叩かれたり何かで引っ掻いたりされて、本件車両に傷をつけられた(以下「第一事故」という。)。
イ 控訴人は、平成一九年八月四日午前二時二六分ころ、大阪府守口市京阪本通二―四―五付近路上において、本件車両を徐行させていたところ、一名の男性から助手席ドア付近を蹴られ、本件車両が損傷した(以下「第二事故」という。)。
〔被控訴人〕
上記事故発生の事実はいずれも否認する。
本件規約に規定する偶然な事故の発生はない。
(2) 控訴人の車両共済金の額
〔控訴人〕
ア 本件車両の修理費用は、八〇万七四五〇円である。
イ 控訴人は、上記修理費用相当額(八〇万七四五〇円)から自己負担額一〇万円を控除し、さらに共済掛金未納分(一年分で合計一二万五一六〇円)を相殺した残額である五八万二二九〇円の支払を請求する。
〔被控訴人〕
争う。
第三当裁判所の判断
一 認定事実
《証拠省略》によれば、以下の事実が認められる。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、別紙X事故一覧表記載のとおりの事故が発生したと主張し、共済金の支払を請求している(なお、上記別紙の「原告」を「被控訴人」、「被告」を「控訴人」とそれぞれ読み替える。)。
(2) 控訴人は、平成一九年六月二日午前三時ころに第一事故が発生したと主張している。
控訴人は、第一事故後、大阪府警察本部や東淀川警察署に立ち寄り、事故状況を説明した旨供述しているが、正式な被害届等その裏付となる証拠の提出はないし、事故直後の被害状況を撮影した写真の提出もない。
(3) 控訴人は、平成一九年七月一三日午前一時四五分ころ、大阪市中央区東心斎橋二丁目八番三一号先路上において、本件車両が停車していたところ、aタクシーグループ勤務のB運転車両が接触し、本件車両が損傷した(以下「別件事故」という。)と主張している。
(4) 控訴人は、平成一九年七月一六日、被控訴人に対し、別件事故の発生を申告したが、その際、第一事故の発生を申告していない。
(5) 控訴人は、平成一九年七月一七日、別件事故による本件車両の損傷の修理見積書を取得した。
(6) aタクシーグループの渉外担当のC(以下「C」という。)は、別件事故後、本件車両を確認した際には、足で蹴ったような凹損やコインや石で作ったような線状の傷はなかった旨陳述している。
(7) 控訴人は、平成一九年八月四日午前二時二六分ころに第二事故が発生したと主張している。
控訴人は、第二事故後、一一〇番通報した旨供述しているが、正式な被害届等その裏付となる証拠の提出はないし、事故直後の被害状況を撮影した写真の提出もない。
(8) 控訴人は、平成一九年八月九日、被控訴人に対し、第一事故の発生を申告したが、その際、事故の詳細な態様や具体的な損傷状況の報告がされた形跡はない。また、控訴人は、その際、第二事故の発生を申告していない。
(9) 控訴人は、平成一九年八月一九日、被控訴人に対し、第二事故の発生を申告したが、その際、事故の詳細な態様や具体的な損傷状況の報告がされた形跡はない。
(10) 控訴人は、平成二〇年三月二五日付け書面により、被控訴人に対し、本件共済契約に基づき、第一事故による車両共済金の支払を請求するとともに、第一事故による詳細な事故態様と損傷状況を書面で報告した。
被控訴人の担当者が同年三月二五日に本件車両を確認したところ、本件車両全体にわたり、足で蹴ったような凹損やコインや石で作ったような線状の傷が多数存在した。
(11) 控訴人は、平成二〇年五月七日、第一事故及び第二事故による本件車両の損傷の修理見積書を取得した。
二 車両事故発生の有無(争点(1))について
(1) 共済事故の主張・立証責任について
ア 本件規約に基づき、車両の損傷が共済事故に該当するとして、被控訴人に対して車両共済金の支払を請求する者は、事故の発生が被共済者の意思に基づかないことについて、主張・立証すべき責任を負わないが、共済事故の発生自体については、主張・立証責任を負うものと解するのが相当である(最高裁判所平成一八年六月一日第一小法廷判決・民集六〇巻五号一八八七頁、同裁判所平成一九年四月一七日第三小法廷判決・民集六一巻三号一〇二六頁参照)。
イ これを本件について見ると、控訴人は、第一事故及び第二事故について、被共済者以外の第三者が被共済自動車である本件車両を叩く、蹴る、引っ掻くなどしたことにより、本件車両に損傷が生じた旨主張して、車両共済金を請求しているのであるから、控訴人は、被共済者以外の第三者が本件車両に損傷を与えたことについては、主張・立証責任を負わないものの、共済期間内に本件車両に損傷が発生したことについては、主張・立証責任を負うものというべきである。
(2) 第一事故の発生について
控訴人は、平成一九年六月二日発生の第一事故により、本件車両に損傷が生じた旨主張し、本人尋問において、その旨供述している。
しかしながら、前記認定のとおり、第一事故直後に撮影された本件車両の被害状況の写真は存在せず、控訴人は、別件事故発生後の同年八月九日に被控訴人に対し、第一事故の発生自体は報告しているものの、具体的な損傷状況の報告はせず、具体的な損傷状況を報告して車両共済金の支払を請求したのは、第一事故から約九か月後で、本件共済契約が失効した後の平成二〇年三月二五日が初めてであるし、その修理見積書を取得したのは、さらにそれより後の同年五月七日である。
しかも、控訴人本人が供述するように深夜に数名の男性に取り囲まれて集団で本件車両に損傷を加えられたのであれば、直ちに警察に通報するのが通常であるところ、そのような通報ないし届出を行ったことに関する客観的な裏付資料は見当たらない。
さらに、前記認定のとおり、控訴人が本件において主張している損傷はかなり目立つものであるにもかかわらず、別件事故の示談折衝を担当したCは、平成一九年七月一三日よりも後に控訴人車両を実際に見分した際、控訴人が本件で主張しているような車両損傷はなかった旨陳述しているというのである。
加えて、前記認定のとおり、控訴人は、第一事故及び第二事故を含めると、平成一八年一月から第二事故発生の平成一九年八月四日までの約一年七か月の間に、合計八件の事故が発生したと主張して、被控訴人に共済金の支払を請求しているが、偶然というにしては、短期間に余りに多数の事故が発生していることになり、それ自体、きわめて不自然である。
以上の諸点を総合勘案すると、本件共済契約の共済期間内の平成一九年六月二日に第一事故が発生し、本件車両に損傷が生じた旨の控訴人の供述は信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(3) 第二事故の発生について
控訴人は、平成一九年八月四日発生の第二事故により、本件車両に損傷が生じた旨主張し、本人尋問において、その旨供述している。
しかしながら、前記認定のとおり、第二事故直後に撮影された本件車両の被害状況の写真は存在せず、控訴人は、同年八月一九日に被控訴人に対し、第二事故の発生自体は報告しているものの、具体的な損傷状況の報告はしていない。控訴人は、第一事故と第二事故の損傷部分が共通するので第一事故の報告しかしなかった旨主張しているが(甲九)、それを前提にしても、具体的な損傷状況を報告して第一事故の車両共済金の支払を請求したのは、第二事故から約八か月後で、本件共済契約が失効した後の平成二〇年三月二五日が初めてであるし、その修理見積書を取得したのは、さらにそれより後の同年五月七日である。
しかも、控訴人本人が供述するように深夜に第三者から本件車両に損傷を加えられたのであれば、直ちに警察に通報等するのが通常であるところ、そのような通報ないし届出を行ったことに関する客観的な裏付資料は見当たらない。
加えて、前記認定のとおり、控訴人は、第一事故及び第二事故を含めると、平成一八年一月から第二事故発生の平成一九年八月四日までの約一年七か月の間に、合計八件の事故が発生したと主張して、被控訴人に共済金の支払を請求しているが、偶然というにしては、短期間に余りに多数の事故が発生していることになり、それ自体、きわめて不自然である。
以上の諸点を総合考慮すると、本件共済契約の共済期間内の同年八月四日に第二事故が発生し、本件車両に損傷が生じた旨の控訴人の供述は信用することはできず、他にこの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
三 結論
以上によれば、本件共済契約の共済期間内に本件車両に損傷が生じたことを認めることはできないから、控訴人の本件請求は、その余の点について判断するまでもなく、棄却を免れず、これと結論において同旨の原判決は相当である。
よって、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大谷正治 裁判官 川谷道郎 神山隆一)
別紙 X事故一覧表
【契約情報】契約番号:《省略》新規加入日:2005/04/25・加入窓口:共済ショップ江坂・解除日:2007/12/31・解除理由:掛金未納(3ケ月)
番号
SC受付番号
事故番号
事故日
事故情報
相手損保
対物
対人
人傷
無共済
搭傷
弁護士費用
車両
自転車
既払い金
適用
1
601-346
06A849201
2006年1月26日(報告:1月27日)
被告四輪車両(《省略》)が、相手方訴外D自動二輪(《省略》)に側面衝突される
○
230,600
1原告が、被告に、人身傷害として、180,600円+50,000円を支払い、その他につき、大阪地方裁判所・平成18年(ワ)第3509号事件に併合審理中
06A849202
○
790,000
2原告が、被告に、2006年8月9日、支払い済み
○
3請求あるも否認し、大阪地方裁判所・平成18年(ワ)3509号事件に併合審理中
損保ジャパン
4被告が、損保ジャパンの契約者訴外Dと大阪地方裁判所・平成18年(ワ)3509号事件で審理中
2
603-184
06B936401
2006年3月9日(報告:3月13日)
被告四輪車両(同上)が、相手方訴外E自動二輪(《省略》)に追突される
○
2,036,755
1原告が、被告に、人身傷害として、397,200円+50,000円を支払い、その他につき、大阪地方裁判所・平成18年(ワ)第3509号事件に併合審理中
06B936402
○
2未支払いにて、その他につき、大阪地方裁判所・平成18年(ワ)第3509号事件に併合審理中
○
3請求あるも否認し、大阪地方裁判所・平成18年(ワ)第3509号事件に併合審理中
三井住友
4原告が、三井住友の契約者Eと大阪地方裁判所・平成18年(ワ)第3509号事件に併合審理中
3
605-277
2006年4月21日(報告:5月15日)
停止中ドアミラーを衝突される
損保有り
○
怪我なしだが、弁護士特約請求有り否認
4
611-016
06H944401
2006年9月21日(報告:11月2日)
原告自転車と相手方訴外F自動車とが衝突する
不明
○
大阪地方裁判所・平成19年(ワ)第4793号事件として係争中
5
701-220
07A245701
2007年1月15日(報告:1月15日)
原告四輪車両(同上)が、相手方訴外G貨物車両に追突される
○
1大阪地方裁判所・平成19年(ワ)第4799号事件として係争中
07A245702
○
2大阪地方裁判所・平成19年(ワ)第4799号事件として係争中
富士火災
6
708-136
07J960501
2007年6月2日(報告:8月9日)
被告四輪車両(《省略》)が、停止中、酔払いに車両を叩かれる
なし
○
本件訴訟
7
707-274
2007年7月13日(報告:7月16日)
被告四輪車(《省略》)が路上にて停止中、訴外B四輪車(《省略》)に接触される
請求なし。被告が、訴外aタクシー(株)から、修理代金120,372円を受領済み
8
708-326
07J960401
2007年8月4日(報告:8月19日)
歩行者が被告車を蹴り損傷
なし
○
免責10万あり。請求無し
9
711-077
07I303201
2007年10月1日(報告:11月5日)
自転車と自転車の事故
なし
○
人傷対象外通知(自転車同士のため)済み