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大阪高等裁判所 平成20年(ネ)64号 判決 2008年9月26日

控訴人

Y株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

蒲田豊彦

中森俊久

被控訴人

X株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

齋藤和雄

村上正巳

主文

一  本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

(1)  控訴人は、被控訴人に対し、一一九万一六〇八円及びこれに対する平成一七年三月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(2)  被控訴人のその余の請求を棄却する。

(3)  被控訴人は、控訴人に対し、一一二七万二〇〇〇円及びこれに対する平成一六年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一審、二審を通じて、これを五分し、その四を控訴人の、その余を被控訴人の負担とする。

三  この判決は、第一項(1)及び(3)に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人の請求を棄却する。

(3)  被控訴人は、控訴人に対し、五八一三万四五一〇円及びこれに対する平成一六年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は第一審、二審を通じて被控訴人の負担とする。

(5)  第三項につき仮執行宣言

二  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、商品取引所法(平成一六年法律第四三号による改正前の同法、以下同じ。以下「商取法」という。)に基づく商品取引員である被控訴人が、控訴人に対し、被控訴人が控訴人との間で締結した商品先物取引委託契約(以下「本件契約」という。)に基づくガソリンの商品先物取引(以下「本件取引」という。)によって生じた差引損金等一四八万九五一〇円及びこれに対する催告による支払期日の翌日である平成一七年三月一二日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め(本訴)、控訴人が、被控訴人の従業員による本件取引の勧誘、受託行為において、説明義務違反、新規委託者保護義務違反、事実上の一任売買、指導助言義務違反、断定的判断の提供もしくは相場観の押付けの各違法行為があったとして、被控訴人に対し、債務不履行(民法四一五条)もしくは不法行為(民法七〇九条、七一五条)に基づく損害賠償として、本件取引によって生じた差引損金五二八四万九五一〇円及び弁護士費用相当分五二八万五〇〇〇円の合計五八一三万四五一〇円並びにこれに対する平成一六年六月一日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた(反訴)事案である。

二  原審は、本件取引において、控訴人が主張する説明義務違反、新規委託者保護義務違反、事実上の一任売買、指導助言義務違反、断定的判断の提供もしくは相場観の押付けの各違法行為はいずれもなかったとして、被控訴人の請求をすべて認容するとともに、控訴人の請求をすべて棄却したため、控訴人がこれを不服として控訴を申し立てた。

三  争いがない事実及び証拠によって容易に認定することのできる事実(以下「争いのない事実等」という。)は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の第三(原判決二頁二二行目から五頁一五行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決三頁八行目から九行目にかけての「から融資を受けて、同社」を削る。

(2)  原判決四頁五行目から六行目にかけての「C(以下「C」という。)及び」を削り、同八行目末尾に「なお、本件取引開始に先立つ平成一一年ころから平成一三年三月までの控訴人担当者は、被控訴人大阪支店に勤務する登録外務員であるC(以下「C」という。)であった。」を加える。

四  争点及び当事者の主張は、原判決「事実及び理由」中の第四(原判決五頁一六行目から一七頁六行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

五  当審における被控訴人の予備的主張

仮に、本件に関し、債務不履行もしくは不法行為が成立する場合でも、控訴人には損害の発生及び拡大に対し、大きな責任があり、本件では九〇パーセント以上の過失相殺が行われるべきである。

第三当裁判所の判断

一  《証拠省略》によれば、以下の事実が認められ、各証拠中の上記認定に反する部分はいずれも採用できず、他に上記認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  控訴人代表者は、かねてよりa商店の商号でいわゆるガソリンスタンドを経営してきたが、昭和六一年四月一一日、その経営等を目的として控訴人を設立した。控訴人の資本金は二〇〇〇万円であり、役員は控訴人代表者の妻や子など親族で占められている。

平成一五年当時、控訴人は、大阪市内にガソリンスタンド三店舗を有し、従業員はアルバイトを含め一六名、年間売上高は約一〇億円であった。Dとの関係で、三菱商事石油との取引が始まったこともあり、控訴人のガソリン等の仕入れ先は、大手石油精製会社から仕入れる「系列物」、系列外の業者間で転売される「業転物」を問わず、三菱商事の一〇〇パーセント子会社である三菱商事石油であった。また、控訴人は、三菱商事傘下のコンビニエンスストアチェーンである「ローソン」の東住吉○○店を開店するなど三菱商事グループとの深いつながりがあり、控訴人代表者も三菱商事グループに対し強い信頼を寄せていた。

(2)  控訴人代表者は、本件取引に至るまで、商品先物取引の経験はなかったが、昭和六〇年代に野村證券の社員の勧めと指導の下、短期売買を中心として信用取引を含む株式取引を行った経験があった。

控訴人代表者は、毎月一回、三菱商事石油との間で、ガソリンを仕入れるにあたっての値決めしていたが、その交渉は、両社の力関係もあり、対等の交渉とはいえないものであった。しかしながら、控訴人代表者は、その際三菱商事石油の担当者から、ガソリンの現物価格の動向、今後の予想等の情報を得るとともに、日常的に、日本経済新聞や日曜、祝日を除いて発行されるガソリンスタンド経営業界の業界紙である燃料油脂新聞を購読し、「系列物」だけでなく、近時流通量が増加していた「業転物」の価格動向にも注意を払っていた。燃料油脂新聞には、地域におけるガソリンの市況とともに国際的なガソリンの市況も掲載され、ガソリンの価格動向に影響を与える出来事、声明等の記事が掲載されていた。

(3)  被控訴人は、平成三年八月一五日、b株式会社の商号で設立され、その後、三菱商事が買収して一〇〇パーセント子会社としたことに伴い、平成四年一月六日にc株式会社に商号を変更した。さらに、平成一八年四月三日、X株式会社に商号を変更し、現在に至っている。

Fは、b株式会社に入社する以前からの経歴も含め、登録外務員として約三〇年のキャリアを有している。

Cは、平成六年四月に被控訴人に入社したが、平成一三年三月に実家の都合により退社した。

Gは、平成五年五月に被控訴人に入社し、大阪支店勤務の後、平成一四年四月に名古屋支店に転勤し、平成一五年四月から大阪支店営業一課課長代理の職にあった。

(4)  ガソリンの現物取引が、支払った金額と同等のガソリンを手に入れるものであるのに対し、ガソリンの先物取引は、委託証拠金として差し入れた金額の二〇倍以上の経済価値のあるガソリンを取引するものであるから、その損益も二〇倍以上になるという「レバレッジ効果(てこ作用)」が生じる。

また、現物価格が、「業転物」の場合日一回、「系列物」の場合月一回価格が変動するに留まるのに対し、本件取引の行われた東京工業品取引所のガソリンの取引時間は、前場が午前九時から午前一一時、後場が午後〇時三〇分から午後三時三〇分までであり、先物価格は、平日の上記時間内の取引において、刻一刻と変動することとなる。

(5)  被控訴人は、平成一一年八月ころ、控訴人宛に商品先物取引に関するダイレクトメールを発信したところ、同月一九日ころ、控訴人代表者から返信があった。被控訴人は、Cを控訴人の担当外務員とし、Cは、同月二四日から平成一二年三月二七日までの間に、二〇数回にわたり架電し、九回にわたり訪問するなどしたが、控訴人代表者と面談の上、多少なりとも取引に関する話ができたのは、平成一一年一〇月二五日、同年一二月八日の二回のみであった。また、電話で市況説明等ができたのもわずか七回であった。上記平成一一年一二月八日の面談においては、控訴人名義の口座開設申込書等を作成したものの、印鑑証明書等の控訴人の法人確認書類が不足していたため、契約締結には至らず、その後も控訴人代表者の多忙等の理由から契約は締結されず、Cも平成一二年三月二七日を最後に連絡をとらなくなった。Cと控訴人代表者のやりとりにおいては、控訴人代表者は、ガソリン先物取引に関心は示していたものの、銘柄や投資金額といった具体的な話には進展していなかった。

(6)  Cの退社後、Gが控訴人の担当者となったが、Gは、平成一四年四月から平成一五年三月まで名古屋支店勤務だったこともあり、控訴人との契約は締結されないままであったところ、同年一二月一二日のGからの電話に際し、控訴人代表者は、平成一六年一月のローソン東住吉○○店開店に備え、銀行から一億円を調達し、うち一五〇〇万円はローソンの開業資金に充てるが、約八〇〇〇万円が手元に残るとして、ガソリンの商品先物取引を開始する意向を示した。この日の電話でGは、ガソリン先物市場が下げ相場である見通しを示し、「あんたが儲けてくれるのやったら、ええようにしてくれ。」という控訴人代表者に対し、「儲かると思うから、お声掛けてるんですよ。」と応じた。Gは、「預かり証は八〇〇〇万円で切っていったらいいんですか。初回ですから半分ぐらいの中でぜひ考えてもらえればね。」とも申し向けたが、投資金額は翌週の面談の際決めることとなった。なお、控訴人は、実際には、三〇〇〇万円しか借り入れていなかったが、このことはGには告げなかった。

(7)  Gは、平成一五年一二月一五日、控訴人事務所を訪問し、委託のガイド(甲五と同じもの)、準則(乙二)、口座開設のご案内(乙三)を交付した。

控訴人代表者は、上記ローソンに関する契約に関し、長時間の説明を受けた経験があったが、長時間の説明を受ける煩わしさや三菱商事グループへの厚い信頼感などから、Gに対し、商品先物取引についての説明を省略するように述べた。Gは、これを受けて、控訴人代表者に対し、委託のガイドの四頁の赤枠で囲まれた部分(「商品先物取引の危険性について 1 先物取引は、利益や元金が保証されているものではありません。また、総取引金額に比較して少額の委託証拠金をもって取引するため、多額の利益となることもありますが、逆に預託した証拠金以上の多額の損失となる危険性もあります。 2 相場の変動に応じ、当初預託した委託証拠金では足りなくなり、取引を続けるには追加の証拠金を預けなければならなくなることがあります。また証拠金を追加したとしても、さらに損失が増え、預託した証拠金全額が戻らなくなったりそれ以上の損失となることもあります。 3 商品取引所の市場管理措置により値幅制限や建玉制限がありますので、あなたの指示に基づく取引の執行ができないことがあります。」)を読んで説明した。控訴人代表者は、このときまでに、商品先物取引が原因で夜逃げしたり、倒産した例を見聞きしていたり、Dから商品先物取引は危険性が高いとの助言を得たりしていた。

控訴人代表者は、Gに対し、本件取引において、法人である控訴人を委託者とすること、本件取引対象を東京ガソリンに絞ることを告げ、以下の書類に記名あるいは署名及び押印をして、上記書類をGに差し入れた。

ア 約諾書及び通知書(甲三)

被控訴人に対し、商品先物取引委託をするに際し、先物取引の危険性を了知した上で準則の規定に従って、自己の判断と責任において取引を行うことを承知したことを証し、併せて事前に①委託のガイド、②準則、③被控訴人が定めた委託本証拠金一覧を受領したことを内容とする約諾書と、被控訴人に対し、控訴人の商号、事務所所在地、連絡先を通知することを内容とする通知書が、同一の用紙に記載されたもの。

イ 口座開設申込書(甲四、以下「本件口座開設申込書」という。)

準則、委託のガイド、「商品先物取引のリスクについて」「相場が予想した方向と逆に動いたときに」の各書類を受領し、商品先物取引の仕組み・損失リスクについて説明を受け理解した上で、被控訴人に対し口座開設を申し込むことを内容とするもの。

控訴人代表者は、本件口座開設申込書に、控訴人の資本金一〇〇〇万円以上、年商一〇億円、当初投資予定額一〇〇〇万円と記載した。

ウ 商品先物取引を始めるにあたってのご確認(甲七)

被控訴人で先物取引口座を開設する際、その仕組みやリスクに対する顧客の理解度を調査するもの。

控訴人代表者は、①準則、委託のガイドの要点がわかったか、②営業社員の説明で取引の仕組みがわかったか、③取引は控訴人自身の判断と責任で行い、結果について控訴人自身に帰属することを知っているか、④商品先物取引は投機的取引であり相場の変動によって損益が発生するから元本が保証されないことを知っているか、⑤委託証拠金の種類を知っているか、⑥値幅制限があり取引が成立しない場合があることを知っているか、⑦建玉制限があることを知っているか等の質問に対し、すべて「わかった」「知っている」との答えにチェックをつけた。

Gは、約一時間後、控訴人事務所を後にした。

(8)  被控訴人管理部は、翌一六日、控訴人代表者に架電し、控訴人代表者の取引意思及び商品先物取引の理解度を確認した。同日、Gは電話で、ガソリンの値動きについて説明するとともに、「建玉、取りあえず、僕がいいですよっていうのがマックス八〇までなんですよ。三か月たたないと駄目なんですけど。その八〇やるのも。」などとして、当初の建玉が八〇枚までに制限されるが、場合によっては八〇枚以上の建玉も可能であることを示唆した。

控訴人は、同日、委託証拠金一〇〇〇万円を預託したが、その原資は、控訴人が東京三菱銀行から借り入れた三〇〇〇万円の一部であった。

Gは、同日午後五時ころ、Fとともに、本件取引開始のあいさつのため、控訴人事務所を訪れた。その際、Gは、先の電話のとおり控訴人代表者から、「建玉超過についての申出書」(甲八の一)を徴収した。被控訴人の受託業務管理規則においては、法人の顧客の適合性に関するランク付与基準を定めていなかったが、被控訴人は、控訴人には資金の余裕があると判断し、Bランクとした。したがって、上記管理規則上は、取引開始から三か月間は、控訴人の建玉は五〇枚に制限されることになる。しかし、Gは、控訴人は一〇〇〇万円を預託したので、ガソリン九五枚の建玉が可能であることから、五〇枚を超えて八〇枚まで取引の意思があると判断し、上記建玉超過についての申出書の徴収に及んだものである。Gは、社内手続に沿って管理総括責任者宛の建玉超過報告書(甲八の二)を作成し、その理由欄に、「Y株式会社は石油などを通じ商品先物取引を研究しており資金的にも余裕を持って行うとの事で習熟期間中ではありますがY株式会社からの申し出が有り建玉超過の許可を頂きたくお願い致します」と記載し、課長であるHは、「委託者Y株式会社は商品先物取引経験は無いものの、取引手法・リスク等を良く理解されており、又、資金的にも余裕の範囲内であり、本人たっての希望により六〇枚の建玉超過の程、何卒、宜しくお願い致します。」との所見を付し、管理責任者であるFの決裁を得た。

(9)  平成一五年一二月一七日、Gは、午前九時過ぎ控訴人代表者に架電し、ガソリン価格について「業転物」が更に下がっている、海外の方も安いとして、平成一六年六月限の東京ガソリン六〇枚の売建を提案した。控訴人代表者はこれを了承し、六月限を二万九三六〇円で六〇枚売り建てた(なお、本件取引対象である商品は、すべて東京ガソリンであり、以下取引を記載するときは、商品名を省略する。また、限月についてはすべて平成一六年である。)。上記取引は、控訴人が、ガソリン六〇〇〇キロリットルを一億七六一六万円で売却したことを意味する。

(10)  被控訴人は、本件取引において、売買が成立する度に、控訴人に対し、当該売買の商品名、日時、数量、約定値段、総取引金額等を記載した売買報告書及び売買計算書(以下「本件売買報告書」という。)を送付した。控訴人代表者は、本件売買報告書の記載内容について、被控訴人に対し、異議を述べたことはなかった。

被控訴人は、控訴人に対し、平成一五年一二月から平成一六年四月まで、毎月定期的に、本件取引の預託必要額、預かり証拠金の額、差引損益金通算額、決済が終了していない取引の内訳、返還可能額等を記載した残高照合通知書(甲一一)を送付した。控訴人代表者は、平成一六年四月付けのものを除く前記残高照合通知書について、通知書のとおり相違ないことを回答した(甲一二)。

(11)  平成一五年一二月一八日から同月二二日までの取引

ア 同月一八日、Gは、「業転も底を打った。放しといたほうがいいで。」と述べる控訴人代表者に対し、「三菱商事の朝会では下げ止まったという話があったが逆にまた一〇〇円安くなった、下げ止まると予想したのが止まってなかったわけですから。」などと応じたため、控訴人代表者は、「G君に任すわ、危なかったらすぐばらしとき。」と申し向けた。しかし、この日の価格は二万九七〇〇円台で終始したため、取引はできなかった。

イ 同月一九日、Gは、前日よりは値下がりしそうだとの見通しを示し、三〇円の純益が出るよう二万九二五〇円を指値にして仕切る注文を提案したところ、控訴人代表者はこれを了承した。しかし、この日は指値に届かず、あえて損切りする必要はないとのGの意見に、控訴人代表者も同調した。

ウ 同月二二日、Gは、海外の値段が安いことを告げ、引き続き二万九二五〇円の指値注文を提案し、控訴人代表者はこれを了承した。同日午前九時過ぎ、二万九二五〇円で取引が成立し、売玉六〇枚がすべて仕切られた。

同日の取引により、控訴人は、手数料四五万六〇〇〇円等を差し引いて一八万一二〇〇円の利益を得た。

(12)  平成一五年一二月二四日から同月二六日までの取引

ア 同月二四日、Gは、商社が売りに出ている、海外の値が安いなどと告げたが、控訴人代表者は、月末なので取引はやめといたらどうかと述べた。しかし、Gが、月末なので買玉の決済売りが出てくるだろうとの予想を述べたので、取引に応じ、Gの提案に沿って、二万九一〇〇円の指値で六月限を六〇枚売り建てた。その後、仕切りのタイミングをはかっていたが、思うような値がつかず、この日は様子をみることとした。

イ 同月二五日、Gの提案に沿って、二万八九〇〇円の指値で六〇枚の売玉を仕切る注文をしたが、取引は成立しなかった。その後、Gは、指値を二万八九二〇円に変更することを提案し、控訴人代表者は、いったんは、「指さんと成行でやるというのも一つの方法やで。」と述べたが、Gが、それはやる必要ないと思う、との意見を述べたため、結局Gの提案を受け入れた。同日午後三時過ぎ、取引が成立し、同日の取引で、控訴人は、手数料四五万六〇〇〇円等を差し引いて六〇万一二〇〇円の利益を得た。

ウ 同月二六日の電話において、Gと控訴人代表者は、来年からは本格的に取引することを確認した。

(13)  平成一六年一月五日から同月一六日までの取引

ア 同月五日、Gの提案に沿って、六月限を二万九三〇〇円の指値で三〇枚売り建て、その後、二万九一〇〇円の指値で利食いを狙ったが、取引は成立しなかった。

イ 同月六日、控訴人代表者は、業界新聞からの情報などを元に上げ基調に転じているのではないかとの見解を示したが、Gが、OPECの増産によりまた一回下がるのではないかとの意見を述べたため、控訴人代表者は、「適当にしといて。」と応じた。Gは、灯油が下がってきているとして、新規で三〇枚の売建を提案し、控訴人代表者の了承の下、六月限を二万九五九〇円で三〇枚新規で売り建て、これを二万九五四〇円の指値で仕切った。

同日の日計り取引により、控訴人は、手数料一一万四〇〇〇円等を差し引いて三万〇三〇〇円の利益を得た。

ウ 同月七日、Gは、二万九五〇〇円以上であれば売りで対応したいとの方針を述べ、控訴人代表者はこれを了承したが、取引開始後、Gは、灯油の値が下がってきていることなどを述べ、六月限を二万九五一〇円の指値で三〇枚売り建てることを提案し、直後に取引が成立した。しかしその後、手数料抜けの指値二万九四六〇円の取引も成立せず、その日の取引は終了した。

エ 同月八日、売玉六〇枚の仕切りに備えたが、前日同様の値動きであったため、取引できなかった。Gは、大きく値下がりする可能性があるので、損切りする必要はないとの見解を示していた。

オ 同月九日、Gは、寒波や精油所の定期検査等の影響でニューヨーク市場が高値であることを述べ、買建を持ち、両建にすることを勧めた。また、一五〇枚までの建玉について上司の許可を得ていること、両建と建玉制限超過についての書面が必要であることなども述べた。

取引開始後、高値で入ってきていることを報告するGに対し、控訴人代表者は、「買いは今日は置いときよ。あまりバタバタしたらまずいぜ。勝負ごというのは。」などと買建に慎重な姿勢を示したが、Gから、追証のからみで買いが出てきやすい状況にあることなどを説明され、その勢いがつく前に買い建て、日計りで決済する方針を示されたため、それを了承した。上記方針に沿って、Gは、七月限を二万九五五〇円で四〇枚買い建て、二万九六〇〇円で上記買玉を仕切った。

同日の取引により、控訴人は、手数料一五万二〇〇〇円等を差し引いて四万〇四〇〇円の利益を得た。

「連休明け両建でやってみましょうや。」と述べる控訴人代表者に対し、Gは、上記損益の詳細には触れず、「両建方面っていう形で。うん、そうですね。」などと応じたのみで、書面の取り付けに話を移した。しかし、控訴人代表者が連休前で忙しいなどと述べたため、結局、「建玉超過についての申出書」(甲九の一)及び「両建て申出書」(甲一〇の二)が徴収されたのは同月一四日であった。被控訴人は、日付を遡及させ「二〇〇四年一月九日付け」で上記書面を作成した。「建玉超過についての申出書」(甲九の一)には、「私は、貴社への取引の委託に対して、商品先物取引の内容を理解し私の判断と責任において、余裕資金の範囲内で、貴社の規定する建玉枚数八〇枚を超えて建玉することを申し出ます。なお、今後貴社での取引開始より三ヶ月間は最高建玉枚数を一五〇枚以内とします。」との記載がある。Gは、上司宛に、「委託者Y株式会社は社内規定のBランクに該当し、余裕資金内に於ての建て玉超過願いの申し出の差し入れがあり、現在八〇枚の建て玉上限となっております。Y株式会社はガソリンスタンドとローソンを経営しており資力的に富んでおり、先物取引に関する理解、リスク等は十分承知しております。(F支店長面談済み)習熟期間内ではありますがY株式会社は商売柄エネルギー市場の動向については、よく研究しており相場の状況如何によっては、建て玉超過(八〇枚超)の建て玉をしていきたいとのY株式会社の申し出もあり建て玉超過(八〇枚超)の許可を頂きたく、宜しくお願い申し上げます。尚、Y株式会社の意向で相場の動向しだいではありますが一五〇枚までの建て玉の可能性があります。」と記載された平成一六年一月九日付けの「建て玉超過願い」(甲九の二)を作成し、決裁を得た。また、「両建て申出書」(甲一〇の二)には、「私は、両建ての仕組みや注意事項を十分理解し、取引手法の一つとして、私の責任において余裕資金の範囲で両建てを行うことに致しましたので、ここに申出します。」との記載がある。

カ 同月一三日、控訴人代表者は、手仕舞いの意向を示したが、Gが、あえて損切る必要性はないと述べたため、ローソン従業員の面接を控えていたこともあり、「午前中はあんたに任すからな。」と告げ、電話を切った。これを受けGは、七月限を二万九八七〇円で四〇枚買い建て、その旨報告した。午後にも面接を控えていた控訴人代表者は、Gに任せる旨告げ、Gもそれに応じた。Gは、上記買玉四〇枚を二万九九五〇円で仕切り、取引直後に報告の電話を入れた。

同日の取引により、控訴人は、手数料一五万二〇〇〇円等を差し引いて一六万〇四〇〇円の利益を得た。

キ 同月一四日、Gは、海外の原油が安くなっているなどとして、新たな売玉を建てて日計り取引することを提案した。控訴人代表者は、これに応じ、同日午後、六月限を二万九九一〇円で四〇枚売り建て、同日これを二万九八一〇円で仕切った。

同日の取引の結果、控訴人は、手数料一五万二〇〇〇円等を差し引いて二四万〇四〇〇円の利益を得た。

ク 同月一五日、Gは、二万九四〇〇円で売り建て、二万九五〇〇円を超えたら損切りするとの方針を示し、それに沿って、七月限を二万九四〇〇円で一六枚、二万九四一〇円で二四枚それぞれ売り建てた。その後価格は二万九四五〇円前後で推移し、流れが良くないので今日の建玉は仕切ってしまうとのGの提案を入れ、上記四〇枚の売玉を二万九五〇〇円で仕切った。

同日の取引で、控訴人には、手数料一五万二〇〇〇円等を含め、五三万五六〇〇円の損失が生じた。

Gは、上記二万九五〇〇円での仕切りに関し、昨日の利益を食ってしまっているが、「一〇万いかないぐらいだと思うんで、また次、挽回していきます。」などとして、損失額についての明言は避けた。

ケ 同月一六日、Gは、相場が急落していることを伝え、その後、控訴人代表者の了解を得て、二万九二五〇円で六〇枚の建玉をすべて仕切った。

控訴人は、同日の取引で、手数料四五万六〇〇〇円等を差し引いて四五万一二〇〇円の利益を得た。Gは、取引開始からの純利益が約一一六万円であると伝え、「まあそんなもんだと思うんですよ。」と付け加えた。

(14)  平成一六年一月一九日から同月三〇日までの取引

ア 同月一九日午前、控訴人は、Gの方針に従い、七月限を二万九二五〇円で四〇枚、その後まもなく二万九一八〇円で三〇枚それぞれ売り建て、上記七〇枚を二万九一四〇円で仕切った。その後、七月限を二万九一六〇円で三〇枚買い建てたが、安値を更新したので損切るとのGの方針に従い、二万九一三〇円で上記三〇枚を仕切った。同日の取引で、控訴人は、手数料三八万円等を差し引いて七万一〇〇〇円の利益を得た。

イ 同月二〇日、Gは、いったん買いの方針を示したが、その後、昨日の取引では売りで利益が取れ、買いで失敗したことを踏まえ、売り三〇枚から入ることで控訴人代表者の了解を得た。七月限を二万九二八〇円で三〇枚売り建てた後、高値が続いているので難平をかけたいと申し出、控訴人代表者の承諾の下、さらに七月限を二万九三六〇円で二〇枚売り建てた。

後場に入り、二万九四〇〇円を超える値がついたため、Gは、二万九四〇〇円の指値で損切りする旨控訴人代表者の了解を得、上記五〇枚の売玉を二万九四〇〇円で仕切った。

さらにGは、「今日はやめといたらどうや。いかれた日はやっぱり験悪い日や。」と述べる控訴人代表者に対し、七月限を二万九三八〇円で三〇枚売り建てることを提案し、控訴人代表者はこれを了承し、上記取引を行った。控訴人代表者は、関係者からの情報として今後高くなるという見通しをGに伝えたが、Gは、三菱商事の朝会では逆に弱気のことを書いている、「長期戦で考えるんであればやはり僕は売りで入っていくべきだと思うんですよ。」と述べ、控訴人代表者もそれに同調した。

控訴人には、同日の取引で、手数料一九万円等を含め、六三万九五〇〇円の損失が生じた。

ウ 同月二一日午前、Gは、昨日売りで失敗しているのでと、五〇枚の買建を提案し、控訴人代表者はこれを了承したが、取引開始直後、灯油が二〇円安で入ってきているので先ほどの注文を反故にした旨報告した。さらに、売玉につき難平を提案し、二万九六三〇円で二〇枚売り建てた。その後、売玉五〇枚の仕切りのタイミングを狙ったが、結局、取引終了間際に同日の二〇枚の売玉のみ二万九五三〇円で仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料七万六〇〇〇円等を差し引いて一二万〇二〇〇円の利益を得た。

エ 同月二二日、七月限を二万九六二〇円で三〇枚売り建てたが、Gは、さらに難平をかけるとして、七月限を二万九七三〇円で二〇枚売り建てた。その後、価格が上昇の懸念から、一部損切りも含めて二万九七三〇円で上記五〇枚を仕切った。Gは、さらに、日持ちで一〇枚だけ難平をかけさせてほしいと申し出、控訴人代表者の了承の下、七月限を二万九六九〇円で三枚、二万九六八〇円で七枚売り建てた。

同日の取引で、控訴人には、手数料一九万円等を含め、五二万五五〇〇円の損失が生じた。

オ 同月二三日、燃料油脂新聞では海外の値段が上がっているとする控訴人代表者に対し、Gは、業転は下がっていることを述べ、売られやすい展開との見通しを示した。控訴人代表者は、もう分からへんようになったなどとして、Gの見通しに沿った取引を了承した。

Gは、業界紙等で高騰を続けているのは後追いニュースだとして、売り方針を維持し、七月限を二万九五八〇円で四〇枚売り建て、その後上記四〇枚のうち二〇枚を利食いして二万九五〇〇円で仕切り、残り二〇枚については、取引終了間際に二万九六二〇円で損切りして仕切った。

同日の取引で、控訴人には、手数料一五万二〇〇〇円等を含み、七万九六〇〇円の損失が生じた。

カ 同月二六日、Gは、売りの仕掛けを提案し、控訴人代表者の了承の下、七月限を二万九四四〇円で二〇枚売り建てた。そして、Gは、同月二〇日建玉分の三〇枚を先に仕切る方針を示したが、その後方針を変更して、同月二六日建玉分の二〇枚を先に仕切った。後場開始直後、七月限を二万九二五〇円で二〇枚売り建て、さらに難平をかけるとして、七月限を二万九三五〇円で二〇枚売り建てた。その後、二万九三七〇円で五〇枚を仕切った。

同日の取引で、控訴人には、手数料三八万円等を含み、二六万九〇〇〇円の損失が生じた。

同日の取引を終えた時点で、控訴人の差引損益累計は、取引開始から初めてマイナスに転じたが、Gは、控訴人代表者とのやりとりにおいて、その点には一切触れなかった。

キ 同月二七日、Gは、海外や業転が値下がりしているとして、二万九二五〇円の売玉の利食いと、日計り狙いの売建の方針を示し、控訴人代表者の了承の下、八月限を二万八七五〇円で三〇枚売り建てたが、その日は他に取引を行わなかった。

ク 同月二八日、二万八四一〇円で三〇枚、二万八八七〇円で二〇枚をそれぞれ仕切った後、Gは、迷ったときはストップしておいたほうがいいという控訴人代表者に対し、二万八四〇〇円台に入ってくる状況であれば売建したいと申し出たため、控訴人代表者は、あせったらあかんでと釘をさしつつ、これを了承した。後場に入り、八月限を二万八三二〇円で一七枚売り建てた後、それを二万八二八〇円で仕切った。

同日の取引により、控訴人は、四四万四六〇〇円の手数料等を差し引いて一三八万一一七〇円の利益を得た。Gは、同日の電話で一日の利益が一三八万一一七〇円になった旨を控訴人代表者に申し添えた。

ケ 同月二九日、Gは、取引開始前の電話で、約一二〇万円のプラスになってきて含み益もあるので、攻めるところは攻めていくなどと述べ、日計りも視野に入れ、五〇枚の売建を仕掛ける方針を示した。八月限を二万八二〇〇円で五〇枚売り建てたが、後場に入っても高値を更新する状況であったため、上記五〇枚を二万八三九〇円で損切りして仕切り、さらに、含み益を生じていた売玉一〇枚も二万八八〇〇円で仕切ったため、この時点で控訴人の建玉は零となった。

同日の取引により、控訴人には、手数料二六万六〇〇〇円等を含み、三四万四六〇〇円の損失が生じた。

コ 同月三〇日、Gの提案に基づき、八月限を二万八〇八〇円で三〇枚売り建て、上記三〇枚を二万七九一〇円で仕切って利食いした。

同日の取引により、控訴人は、手数料一一万四〇〇〇円等を差し引いて三九万〇三〇〇円の利益を得た。

同日までの手数料累計は四二八万二六〇〇円、差引損益累計は一二七万二二七〇円であった。

(15)  平成一六年二月二日から同月二四日までの取引

ア 同月二日、Gは、流れは売りだとして、売建五〇枚を提案し、控訴人代表者の了承の下、八月限を二万八一一〇円で四七枚、二万八一〇〇円で三枚それぞれ売り建てた。直後になお値を下げてきたため、Gは、さらに売建三〇枚を提案し、控訴人代表者の了承の下、八月限を二万八〇〇〇円で三〇枚売り建てた。後場に入り、いったん六〇枚を二万八〇〇〇円で仕切り、さらに日計り狙いで八月限を二万七九九〇円で一〇枚売り建てたが、結局仕切れず、三〇枚の売玉を持ち越す形となった。

同日の取引で、控訴人は、手数料二二万八〇〇〇円等を差し引いて八万七六〇〇円の利益を得た。

イ 同月三日、Gは、アメリカの精油所の火災があったためガソリン等が急騰しており、今日は終日ストップ高でないかとの見通しを示し、売玉を置いたまま、三万〇六一〇円の指値で三〇枚買い建てるとの方針を示した。しかし、取引開始直後、ストップ高の気配がないので、買建の注文を取り消したとの報告をし、さらに、三菱商事から国内はやっぱり売り圧力が強そうとのコメントが出ていたと述べ、逆に二万八三五〇円で二〇枚売り建てることを提案した。そして、八月限を二万八三五〇円で二〇枚売り建てた後、それを二万八三〇〇円ですべて仕切った。後場に入り、Gは、二〇枚の売建を提案したが、値下がりが続いたためいったん見送り、改めて難平をかける感覚でと一〇枚の売建を提案したので、八月限を二万八二二〇円で一〇枚売り建てた後、それを二万八一七〇円で仕切った。

控訴人は、同日の取引で、手数料一一万四〇〇〇円等を差し引いて三万〇三〇〇円の利益を得た。

ウ 同月四日、Gの提案に沿って、八月限を二万八二二〇円で二〇枚売り建てた後、上記二〇枚を二万八一七〇円で仕切り、さらに八月限を二万八一九〇円で二〇枚売り建て、これを二万八一四〇円で仕切った。

控訴人は、同日の取引で、手数料一五万二〇〇〇円を差し引いて四万〇四〇〇円の利益を得た。

エ 同月五日、二万七七一〇円で売玉一〇枚を仕切り、八月限を二万七七二〇円で新規に二〇枚売り建てた後、従前からの売玉一〇枚と新規の二〇枚を二万七六三〇円で仕切った。さらにガソリンが下げ過ぎているので日計り狙いで二〇枚の買い建てるとのGの提案に沿って、八月限を二万七五五〇円で二〇枚買い建てたが、安値がついてきたとして、これを二万七五三〇円ですべて損切りして仕切った。この日はさらに、八月限を二万七五三〇円で一〇枚売り建て、これを二万七四四〇円で仕切った。

控訴人は、同日の取引で、手数料三四万二〇〇〇円等を差し引いて六三万〇九〇〇円の利益を得た。

オ 同月六日、Gは、二〇枚の買建の方針を示し、八月限を二万七六二〇円で二〇枚買い建てたが、その後相場が下げに転じたため、控訴人代表者は、「今日は中止しよう。勘が狂ってるときやから。」と申し向けたが、Gは、「いや、僕、売りじゃないかってずっと話してたじゃないですか。僕は売りたいいう方ずっと強かったんですよ。」と述べ、逆に二〇枚の売建を提案し、控訴人代表者はこれを了承した。しかし、その後まもなくの電話で、Gは、上記売建を撤回して買建の様子を見るとし、後場に入り、二万七五八〇円での難平を提案し、これに沿って二〇枚を新規に買い建てた。指値で損切りにかかったが、一三枚しか仕切ることができず、同日の取引で、控訴人には、手数料九万九四〇〇円等を含め一二万九八七〇円の損失が生じた。Gは、取引終了後の電話で、今日は一〇万ほど負けたが、一週間でみると六五万九三三〇円のプラスであることを告げ、来週は逆に期待できると結んだ。

カ 同月九日、Gは、海外相場が急落していることを告げ、買玉のマイナスを食い止めるために新規で二〇枚売り建てることを提案し、八月限を二万七二〇〇円で二〇枚売り建てた後、さらに二〇枚の売建を提案し、二万七二六〇円で二〇枚売り建てた。後場に入り、売玉二〇枚を利食いして二万七一五〇円で仕切った後、Gは、流れで言えば売りだとして、八月限を二万七一三〇円で一〇枚売り建てた。その後、売玉三〇枚を二万七一八〇円で仕切り、さらに、二万七二四〇円で一〇枚の買いを入れたが、取引は成立しなかった。

同日の取引で、控訴人は、手数料一九万円等を差し引いて一万〇五〇〇円の利益を得た。

キ 同月一〇日、Gは、買い損切り、売りの利食いの方針を示し、まず買玉の仕切りを試みたが、取引が成立せず、先に八月限を二万七四五〇円で二〇枚売り建てた。後場に入り、買玉二七枚を二万七五〇〇円で損切りして仕切り、その後、同日の売玉ではなく、従前の売玉一〇枚を二万七五二〇円で仕切った。

控訴人は、同日の取引で、手数料二八万一二〇〇円等を差し引いて五万〇七四〇円の利益を得た。

ク 同月一二日、Gは、売建二〇枚を提案し、控訴人代表者の了承の下、八月限を二万八〇四〇円で二〇枚売り建てた。その後、先週の売玉の仕切りを提案したが、取引が成立しなかったため、さらに一〇枚を二万八〇〇〇円で売り建てた。後場に入り、上記一〇枚を二万七九一〇円で仕切って利食いし、さらに新規で八月限を二万七九一〇円で一〇枚売り建てた。そして、この一〇枚を二万七八五〇円で仕切って利食いするとともに、取引終了間際に三五枚の売玉を二万七七三〇円で仕切り、一方難平をかけ八月限を二万七七一〇円で一〇枚新規に売り建てた。

控訴人は、同日の取引で、手数料二六万六〇〇〇円等を差し引いて七万〇七〇〇円の利益を得た。Gは、玉の縮小ができ、難平もできた上、七万円余りの利益を得たと同日の取引を総括した。

ケ 同月一三日、Gの提案に沿って、八月限を二万七九一〇円で二〇枚売り建て、その後利食いを狙ったが売りが厚く、難平をかけるとして、さらに二万七九九〇円で二〇枚売り建てた。後場に入り、Gは、二万七九一〇円の指値で四〇枚の仕切りをねらったが、結局取引終了間際に、二万八〇四〇円で二〇枚、二万八〇〇〇円で二〇枚を損切りして仕切った。

控訴人には、同日の取引で、手数料一五万二〇〇〇円等を含め四三万九六〇〇円の損失が生じたが、Gは、「申し訳ないです。すみません。」とは述べたものの、損失の具体的金額等については触れなかった。

コ 同月一六日、Gは、預託金との関係では建玉が可能なので両建も考えると方針を示した上で、八月限を二万八二四〇円で二〇枚買い建て、さらに利益を出していこうと思えば追加の建玉が必要だとして八月限を二万八二六〇円で二〇枚買い建てた。後場に入り、利食いを狙って二万八三一〇円の指値で売り注文を出したが、取引が成立せず、取引終了間際に二万八二五〇円で二〇枚を仕切った。

控訴人には、同日の取引で、手数料七万六〇〇〇円等を含め九万九八〇〇円の損失が生じたが、Gは、「一〇円と手負けですね。」とだけ述べ、具体的金額には触れなかった。

サ 同月一七日、Gは、ロンドン市場が安く、商社が売りで入っていることなどを述べ、利食い狙いで二万八四〇〇円の指値で二〇枚売り注文を出すとの方針を示し、控訴人代表者もこれに同調したが、二万八四〇〇円では取引が成立しそうではないとして、指値を二万八三四〇円に切り替えた。その後さらに指値を二万八三二〇円に切り替え、結局八月限を二万八二五〇円で一〇枚、二万八二一〇円で一〇枚それぞれ売り建てた。Gは、日計りの方針を立てていたが、後場に入り、価格が上昇したため、同日の売玉は仕切れず、前日の買玉を二万八三四〇円で一〇枚、二万八三二〇円で一〇枚仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料一五万二〇〇〇円等を差し引いて二万〇四〇〇円の利益を得た。控訴人代表者が、「おもしろなってきたからね。ようやっと。三月三一日超えたらあと一〇〇〇万投入するから、絶対稼がんとあかんで。」などと述べたのに対し、Gは、「分かりました。」などと応じたのみで、同日時点で売玉三五枚に一六四万五〇〇〇円の値洗い損が生じていることには触れなかった。

シ 同年二月一八日、Gは、売られやすい展開であるとの見通しを示し、二〇枚の売建を提案した。八月限を二万八六四〇円で二〇枚売り建てた後、早めの仕切りを狙ったが、Gから二〇円だけだが高値を更新したとの報告を受けた控訴人代表者は、「逆に売りから入りよ。」と告げ、新規の売り一〇枚の建玉を提案した。Gは、「二万八七六〇円で一回指してみます。」と応じ、八月限を二万八七六〇円で一〇枚売り建てた。Gは、大衆投資家の飛びつき買いの状態なので、今日、明日くらいから調整が入ってくるとの見通しを示したが、後場も高値で推移し、Gは、大衆の買い人気で上がっているので、一過性の可能性は高いなどと述べつつも、二〇枚の損切りを提案した。控訴人代表者は、「明日様子見えへんか。」と述べたが、Gは、「仮にもう一発海外の方が踏み上げが入ったとなってくると今度は打つ手がなくなってきちゃうんです。目先の損は後から回収しにいけばいいわけですから。」と二〇枚の仕切りを再度提案した。控訴人代表者は、これを了承し、買玉のうち、一〇枚を二万八八三〇円で、一〇枚を二万八七八〇円でそれぞれ仕切った。

控訴人には、同日の取引で、手数料七万六〇〇〇円等を含め四〇万九八〇〇円の損失が生じた。Gは、取引終了後の電話で、面談の希望を伝えたが、控訴人代表者が今週は面談に応じられないと答えたため、用件や損益の状況には触れずに電話を切った。

ス 同月一九日、Gは売りから入る方針を述べ、前場開始後、Gから値動きの報告を受けた控訴人代表者は、「二万八八〇〇円になったら売りに入ろう。」と述べ、二万八八〇〇円で二〇枚売り建てることとした。しかし、その後値下がりが続いて取引は成立せず、Gの一〇枚の成行売りの提案を受け入れ、八月限を二万八六七〇円で一〇枚売り建てた。後場に入り、安値を切ってきたことから、Gは、上記二万八八〇〇円の二〇枚の売り注文の取消を提案し、控訴人代表者はこれに応じた。さらにGは、前場の一〇枚の利食いは可能だが、ニューヨーク市場が安いことなどを告げ、一〇枚で終わらせるのはもったいないとして、さらに八月限一〇枚を二万八六四〇円で売り建てた。控訴人代表者は、上記売玉の仕切りについて、「いけるとこで勝手にやっといて。任しとく。」と述べ、Gも「分かりました。」と応じ、二万八七〇〇円で二〇枚を仕切った。

控訴人には、同日の取引で、手数料七万六〇〇〇円等を含み一六万九八〇〇円の損失が生じたが、Gは、「申し訳ないです。」とのみ告げ、上記金額等については触れなかった。

セ 同月二〇日、Gは、二万八八〇〇円の一〇枚売建を提案し、八月限を二万八八三〇円で一〇枚売り建てた。まもなく二万八七三〇円まで値が下がったため、控訴人代表者は仕切りを提案したが、Gが、「ばらすんですか。僕、ここ突っ込み、もう一回売った方がいいと思いますよ。」と述べたので、さらに八月限を二万八七四〇円で一〇枚売り建てた。その後高値に転じたため、Gは、あと三九枚買えるとして新規の買建を提案した。しかし、その後も価格は上昇し、Gは、現在の相場は高すぎるとの見解を示した上で、このまま売りで見ていこうというんであれば、ひと相場終わる一週間、二週間で見ていって追加投資をした方が利を生むとの説明をした。控訴人代表者は、「よう置いて一週間や。」と言いつつ、「緊急に三月に入ったら一〇〇〇万円投入する。」とも述べた。その後も価格は二万九〇〇〇円台で推移したため、三九枚の買建は保留し、様子を見ることとなった。Gは、取引終了後の電話でも、価格は下がるとの見通しを示した。同日現在の値洗い損は四九二万五〇〇〇円に達していたが、Gは、このことには触れなかった。

ソ 同月二三日、Gが、三九枚の買建の方針を示したところ、控訴人代表者は、「今日は任した。おれちょっと分からんわ。もうプロの相場になった。」などと述べた。その後Gは、様子をみるとして結局この日は取引しなかった。Gは、内密な話としてゴールデンウイーク前後に定期修理が多く、定期点検前に在庫を増やすので、荷余り感から値下がるとの見通しを示した。

タ 同月二四日、Gは、二万九一八〇円以下になったら日計りで三九枚売り建てるとの方針を示した。控訴人代表者は、同日天橋立方面に出かけていたこともあり、「あんたに任しとくわ、電話なしでいって。」などと応じた。この後、Gは、八月限を二万九二〇〇円で四枚、二万九一八〇円で三五枚それぞれ売り建て、直後に控訴人代表者にその旨報告した。後場に入り、Gは、二万九三二〇円で切らないと追証がかかるとして、二万九三二〇円で三九枚を損切りして仕切る旨の了承を得て、取引した。

控訴人には、同日の取引で、手数料一四万八二〇〇円等を含む六九万三六一〇円の損失が生じた。また、同日現在の値洗い損は六六一万五〇〇〇円に拡大していたが、Gはこのことには触れなかった。

(16)  平成一六年二月二五日から同年三月二日までの取引

ア 同月二五日、Gは、ガソリンの「業転物」も上がってきたという控訴人代表者に対し、「でもこの三日間は止まってるんですよ。一つぽんと頭打って下がり出すと一〇〇〇円、二〇〇〇円すっと下がるんで。」などと述べ、さらに二万九四〇〇円を超えてくると三四〇万円ほどの追証が必要となるが、「ここで万歳、負けだって腹くくってしまうよりかは、つないでいってもらってるほうがなんぼかいいとは思うんですけれども。」と申し向けた。その後、Gが、追証として三三七万八六七〇円必要であると告げたのに対し、控訴人代表者は、「そんだけ負けとんのか。」と言った。これに対して、「負けてるのはもっといってるんですけどね。」とGが返したため、控訴人代表者は、「どのぐらい負けとんねん。」と問い、Gは、全部仕切ったら七〇〇万円であると答えた上、以前にもこのような状態になったが、両建でしのいだとの説明を加えた。さらに「この値段がいつまでも上がるってもんでもないですし。」と追証を促したところ、控訴人代表者は、「俺はそこまでへこむとは知らんかった。短時間で一〇〇〇万があっという間に消えるような。」と述べたが、一方で、「その分だけお金投入するわ。」と応じた。

結局その日は追証を免れたことを知らせるGの電話に対し、控訴人代表者は、「面白ないから、損だけの七〇〇万を稼ぎに入るから。売り方で負けたんやから、絶対売り方で勝たんとあかんねん。」などと述べ、あと五〇〇万円を投入するとし、「毎日したら負けるんやから。それが分かったからな。」と述べ、値段が上がった場合には控訴人代表者が本件取引について指示する旨を告げた。

イ 同月二六日、Gは、資金を追加して買いを入れることも考えておいてほしいとも告げていたが、後場開始後の段階で六七九万一七〇〇円の追証が発生し、取引は行わなかった。

控訴人代表者は、追証の話につき、「最後はもう、最悪の場合は現物で取るようにするから。」と述べた。控訴人の建玉は売りなので、現物で引き取ることは不可能であったが、Gは、上記の控訴人代表者の言葉に対し、「分かりました。」とだけ答え、それ以上の説明を加えなかった。また、Gは、追証の発生に際し、手仕舞いを促すことはせず、かえって「一つ波越えちゃえばですね、下げの波来れば取れるとは思ってるんで。」などと述べ、取引の継続を促した。

ウ 同月二七日、三菱商事の課長らも予想外の値上がりと捉えていたと告げる控訴人代表者に対し、Gは、「冷えるときは意外とね、予測もつかないような冷えも出てくるんで。」と述べた。

控訴人代表者は、同日昼ころに七〇〇万円の送金を告げるに際し、それ以上は資金を出さない旨を言い添え、また、「あかんかったらもう塩漬けにするか、清算してよ。」などとも口にしたが、Gは、先物取引の場合限月の関係で塩漬けはできないことや清算に賛同することは述べず、たまたま今回十数年ぶりのことが起こっているだけであるとし、「これほんとごくまれなんで。落ち着いたらいつもの、社長考えてるとおりの動きの中で収まるはずですよ。これ切らないと大損にはなんないですから。」などと応じた。

エ 同年三月一日も取引は高値から始まり、Gは、「上げ基調は上げ基調なんですけどもクライマックスに近い上げ基調だとは思ってます。」と述べ、さらに、完全なあおり買いであり、場合によっては昼から逆に急落する可能性も十分あるなどと述べたが、同日の取引終了間際でもストップ高の状態であったため、今の状態でいくとノーガードの打ち合いなので、それを食い止めるには六五枚の買いを持つ必要があると述べた。Gは、さらに同日の追証が六六一万六一七〇円であり、買いを六五枚建てるとすれば、一〇〇三万円が必要であると述べた。控訴人代表者は、「一〇日になったら五〇〇万は入るけど今はない。」などと応じたので、Gは同日の追証が六六一万円余り必要であることを再度告げた。控訴人代表者は、「そんな金額なるの、俺は七〇〇入れて、また六〇〇。どないなってるの、これ。こういうのは全然知らなかった。」と驚きを示した。その上で、今手仕舞いすれば、一〇〇〇万円程度必要なのか、と尋ねたところ、Gが、「いやもっといきますよ。」と答えたため、「いや、こんな恐ろしいの。だったらやめんといかんわ。俺全然そういうの思ってなかったもん。」と述べた。さらに、六五枚がキロリットルに直したらいくらになるのかを尋ね、六五〇〇キロリットルであるとのGの返答に対し、「我々のところの半年分ぐらいやな。失敗したな、俺は。」と口にした。Gが、以前訪問したいと言ったのは、控訴人代表者が安閑と考えていると思ったからであるとか、「ちゃんとそこら辺の認識を持ってもらおうと思って、お時間作ってくださいって話したじゃないですか。」などと述べたところ、控訴人代表者が、上司との面談を求めたので、Gはこれに応じた。さらに手仕舞いをした場合の損失が一七〇〇万円に及ぶと聞かされた控訴人代表者は、「これはもうこれで止めんとあかんわ。」と述べた。

その後、Gは、両建のためにあと一〇〇〇万円必要であることを説明し、控訴人代表者から、「それが七月まで持てるわけやな。」と尋ねられたので、「そうですね。」と答えた。また、Gは、明日大幅に下がってストップ安になれば不足は解消され、両建にすれば、値下がりに向き出したら、今度は買いを外していけば、損した一七〇〇万円は戻ってくるなどとも述べ、最後に明日の訪問を約して電話を切った。

オ 同月二日、Gは、買玉を四〇枚建てるのに一〇二九万一一七〇円が必要なこと、売玉と同数の六五枚を買い建てるにはさらに四〇〇万円から五〇〇万円が必要なことを述べるとともに、「こんなん四の五の言ってれる状況じゃないんで。」と言い、値動き次第では証拠金の支払に先立って買いを建てることとした。控訴人代表者は、「これ以上の損は、もう最後やから。それをよう認識して、支店長と相談して、G君が独自でやっといて。」と述べた。また、Gは、八月限でなく九月限の玉を建てた方がよいのではとの意見を述べ、控訴人代表者は、「そこのとこは分からへんからな。あんたにそこの部分は任すわ。」と答えた。しかしその後、Gは、Fと相談した結果、下手に買いを入れない方がよいということになり、両建は見送られた。控訴人代表者は、同日、一〇〇〇万円を振込み、その旨の連絡に際し、Gに、「それでもう終了、ストップ一切かけますからね。」と言い添えた。同日も、八月限はストップ高となったが、Gは、値上がりが行き過ぎているとの見解を示した。

(17)  同日、FとGは、控訴人代表者と面談した。同日の面談では、買玉を建てて両建することの是非が話題となり、Fは、現在の相場が上げ過ぎているので、買いは建てない方がよいとの意見を述べ、両建をせずに様子をみるとの結論に落ち着いた。この場で、控訴人代表者は、五〇〇〇万円までは資金を出すことができると告げた。

(18)  平成一六年三月三日から同月三一日までの取引

ア 同月三日、Gは、買建で利食いし、難平をかける資金をつくるとして三〇枚の買建を提案した。控訴人代表者は、「今の考え方、俺はちょっと分からへんねんけどな。Fさんと相談してや。」と言い、Gが、Fと相談の上まとめたなどと答えたため、それを了承したが、思うような値動きにならず、取引はしなかった。同日、約三五〇万円の追証が発生した。

イ 同月四日、Gの電話に対し、控訴人代表者は、昨晩おじが訪れ、取引を全部切って本業に専念するように言われたことを告げた。一方で、控訴人代表者は追証三〇〇万円を振り込んだ。前日の方針に沿って、九月限を三万円で一〇枚買い建てた後、控訴人代表者は、利食いに言及したが、Gは、「賭けになっちゃうんですよ。外すってことは。」として、それを制した。

ウ 同月五日、Gは、相場は高値で入っているが二万八〇〇〇円台の後半が出てきてもおかしくないとの見通しを示していたが、値動きを見て、その日は様子をみた。

エ 同月八日、Gは、今の状況では、二一枚の買建しかできず、仮に買玉三一枚、売玉六五枚のポジションを取ると、値上がりした場合には九六枚に対しての追証がかかってくると説明したところ、控訴人代表者は、「これはもう精算しとこか。」と述べた。これに対し、Gは、この前三万円に下がってきたところで六五枚の完全両建にしておくべきだったかもしれない、様子見というのは余裕のある者の取る方針なので、下がってきたところで悪いところをカットするなり買いを入れるなりしていかないと後手を踏むなどと述べたが、控訴人代表者は「上がったときにカットしていこう。そういう戦法で行きますから。」と応じた。

後場に入り、控訴人代表者は、先物のやり方がようやくわかったので、これから僕流に考えて取り戻す旨述べる一方、「買うたやつは利益出たら売っといて。」とも述べた。Gは、「確かに今これ利食ったら七〇万円かた利益は出ますけど、実際それ以上のものやられてるってことになっちゃいますからね。」と答えたが、控訴人代表者は、「何百万の損で利食ったら取り返すのも早い。日にちはおかないという態度でちょっと当分やろう。下がってきたら言うてや。」など述べ、Fにも報告しておくよう求めた。

オ 同月九日、Gは、値上がりすれば買玉の利食いも考えるとの方針を示し、Fと今日は分岐点になる可能性が高いという見方をしていることを伝えた。買玉一〇枚を三万〇二〇〇円で仕切ったことにより、控訴人は、同日の取引で、手数料七万六〇〇〇円等を差し引いて一二万〇二〇〇円の利益を得た。

カ 同月一〇日、Gは、買いの方向性も頭に入れながら対応するとの方針を示したが、取引は行わなかった。

キ 同月一一日、Gは、値下がりの見通しを示したが、価格は上昇し、取引は行わなかった。

ク 同月一二日、Gは、三〇万円程度の追証が発生する可能性を告げつつ、徐々に仕切っていってはどうかと言う控訴人代表者に対しては、下げの速さは一日に三〇〇円ないし五〇〇円と早くなると思うと述べ、仕切りの方針は示さなかった。

ケ 同月一五日、取引はなかったが、Gは、三万二〇〇〇円を超えた場合三〇万円余りの追証が発生すると伝えた。

コ 同月一六日、Gは、瞬間的に追証が発生する可能性を伝えたが、値下がりの局面となり取引は終了した。

サ 同月一七日、Gは、三万一〇〇〇円を割れてくれば、一〇枚、二〇枚程度の買いを入れる可能性を述べたが、この日は取引しなかった。

シ 同月一八日、八月限分は三万一六〇〇円前後で推移し、取引を行わなかった。

ス 同月一九日、八月限分は終値三万一五〇〇円で、取引を行わなかった。

セ 同月二二日、八月限分は終値三万一九四〇円で、取引を行わなかった。

ソ 同月二三日、終値は一〇円高で、取引を行わなかった。

タ 同月二四日、Gが追証発生を告げた際、控訴人代表者は、再度少しずつ仕切っていく方向を打診したが、Gは、下がりだしたらガソリン相場はどんどん下がるので、買いどころも考えなくてはならないと述べるとともに、悪くても瞬間的に二万九〇〇〇円割れはあると思うとの見通しを示しつつ、「僕は信念持って見てるんですけどね。できれば持って見ていただきたい。」などと応じた。

チ 同月二五日、三二万〇九七〇円の追証が発生し、控訴人代表者は翌日振り込む旨約した。Gは、「ちょっと変わってきつつあるような気がするんですけど。」と相場の見通しを述べた。

ツ 同月二六日、七〇〇円のストップ安となったが、終値は三万一一二〇円であった。Gと控訴人代表者は、安値の見通しを共有し、週明けからは買いの日計りも含めて検討する方針を確認した。

テ 同月二九日、控訴人代表者は、三万〇五〇〇円になったら買いを入れるとの方針を示したが、結局取引を行わなかった。

ト 同月三〇日、価格はいったん三万円を切ったが、その後に戻し、終値は三万〇五〇〇円であった。

ナ 同月三一日、二万九〇〇〇円台になったら仕切ることについて意見を求められたGは、二万九〇〇〇円は通過点になる可能性が強いとの意見を述べた上で、両極端な意見が多いので、OPECが減産を見送れば売り継続でよいが、減産されるのであれば買っていかざるを得ないと述べた。これに対し、控訴人代表者は、「明日はずっと張り付いといてや。瞬時で僕が決断するから。」などと申し述べた。

(19)  平成一六年四月一日から同月三〇日までの取引

ア 同月一日、Gは、昼からは原油、灯油、ガソリンが安値を更新してきたと伝え、翌日午後、Gが訪問することが確認された。

イ 同月二日、Gは、九分九厘、三万円を割ってくるとの見通しを伝えた上で、同日の値幅制限いっぱいの二万九三七〇円で手持ちの売玉を仕切ることを提案し、控訴人代表者と相談の上、三〇枚を仕切ることとしたが、結局同日二万九三七〇円の値がつかず、取引はできなかった。

同日、Gは、控訴人代表者と面談した。

ウ 同月五日、上記面談を踏まえ、二万九五〇〇円以下の値が付けば仕切を考えていく方針を確認したが、同日二万九五〇〇円の値は付かず、また、二万九四〇〇円で一〇枚の買い注文を出したが、いずれも取引はできなかった。

エ 同月六日、Gは、取引開始前の電話で、前日の二万九四〇〇円の一〇枚の買い注文を維持することを勧め、控訴人代表者はこれを了承した。同日の相場は買いが強かったが、Gは、三菱商事担当者は上げすぎている感じはする言っているなどと伝えた。この日も取引は成立しなかった。

オ 同月七日、Gは、日計りを狙ってストップ安を指値とする売建を提案し、控訴人代表者はそれを了承したが、この日も取引は成立しなかった。

カ 同月八日、Gは、高値の見通しを示し、ヘッジあるいは日計りでの利食いを狙って三〇枚の買建を提案し、控訴人代表者はこれを了承したが、取引開始後の価格を見て撤回することとした。Gが、日計りでの売建を申し出たところ、控訴人代表者は、「今日、Gさん勝負してみいや。」と申し向け、日計り限定で一〇枚の売りを建てることとなった。これを受け、一〇月限を二万八九九〇円で一〇枚売り建てたが、その後高値で張り付く状況となり、二万九〇七〇円で損切りして仕切った。

同日の取引で、控訴人には、手数料三万八〇〇〇円等を含め、一一万九九〇〇円の損失が生じた。

キ 同月九日、Gの提案に沿って、一〇月限を二万九四九〇円で三〇枚買い建て、これを二万九六〇〇円で利食いして仕切った。控訴人代表者は、「こういう展開になってきたときには、プロに任さんとあかん。僕はあかんねん。僕はアマチュアやから。」などと述べ、さらに取引を行うことを勧めたが、その日は他に取引しなかった。

同日の取引で、控訴人は、手数料一一万四〇〇〇円等を差し引いて二一万〇三〇〇円の利益を得た。

ク 同月一二日、Gは、様子を見ながらヘッジの部分だけちょっと考えていきたいとの方針を示したが、この日は取引しなかった。

ケ 同月一三日、Gの方針に沿って、一〇月限を二万九九〇〇円で一〇枚売り建てた後、さらにGが、勝負目だと思うとして三万円での一〇枚売り建てを勧めたので、控訴人代表者の了承の下、一〇月限を三万円で一〇枚売り建てた。二万九九〇〇円の売建一〇枚を、二万九八三〇円で利食いして仕切った後、三万円の売建一〇枚を二万九九一〇円で仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料七万六〇〇〇円等を差し引いて八万〇二〇〇円の利益を得た。

コ 同月一四日、Gの方針に沿って、一〇月限を二万九七五〇円で一〇枚売り建てた。Gが、勝っても負けても日計りしてよいかと尋ねたが、控訴人代表者が、「負けるのはあかん。」と述べたため、Gは、再度、「もし仮に負けでも、一応逃げるってパターンでいいですか。」と尋ねたところ、控訴人代表者は、「そう、それでよろしい。」と応じた。結局、二万九九四〇円で売玉一〇枚を仕切った結果、控訴人には、同日の取引で、手数料三万八〇〇〇円等を含み、二二万九九〇〇円の損失が生じた。

サ 同月一五日、Gは、一〇枚の売建を提案し、控訴人代表者の了承の下、一〇月限を三万〇二〇〇円で一〇枚売り建て、さらに三万〇一二〇円でこれを仕切った。その後、一〇月限を三万〇〇一〇円で一〇枚売り建て、これを二万九九一〇円で仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料七万六〇〇〇円等を差し引いて一〇万〇二〇〇円の利益を得た。

シ 同月一六日、Gは、三万〇二五〇円で一〇枚の売建を提案し、控訴人代表者はこれを了承したが、高値が付き証拠金の不足も予想できたため、これを取り消し、この日は取引をしなかった。

ス 同月一九日、Gは、売り勝負をかけてみようかなと思っていると述べ、日計りで八枚なら取引が可能であることから三万〇四一〇円で八枚の売建を提案した。控訴人代表者の了承の下、一〇月限を三万〇四一〇円で八枚売り建てたが、価格は上昇し、Gは、損切りすると委託証拠金の不足が出てきてしまう可能性があるので、「場合によっては持ち越しっていう形で考えていってもいいですか。」と控訴人代表者に申し向け、了承を得た。

セ 同月二〇日、Gは、昨日の建玉を一枚仕切れば委託証拠金の不足は解消できると告げ、控訴人代表者の了承を得て、前日の売玉一枚を三万〇六二〇円で損切りして仕切り、さらに、前日の売玉残り七枚を三万〇二八〇円で仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料六万〇八〇〇円等を差し引いて、六一六〇円の利益を得た。

ソ 同月二一日、Gは、安値気配であるとしつつ、突っ込み過ぎのところは日計り狙いで買い入れるとの見通しを示したところ、控訴人代表者は、「僕には買ういう発想全然浮かべへんねん。」と述べたので、Gは、なおのこと自分自身は買いの発想を持っておいた方がよいとの趣旨を述べた。

取引開始後、Gは、三万〇二〇〇円で一五枚売り建てることを提案し、控訴人代表者は、これを了承したが、Gは、自身の判断で一〇月限を三万〇二五〇円で一五枚売り建て、その旨控訴人代表者に報告した。前場は高値で推移したが、後場に入り、Gは、三万〇一二〇円の指値で五枚を仕切ることを提案した。「全部売ったらどうや。」との控訴人代表者の言葉に対し、Gは、「昨日もそうですけど、手堅くいって、その後、でかかったでしょ。」と言い、とりあえず五枚だけを仕切った。その後高値となったため、Gは、残り一〇枚の仕切を提案したところ、控訴人代表者は、「もうちょっと待っときなさい。」と答えたが、Gは、さらに、もうちょっと待って、売値より上にいったケースもあるとして、指値三万〇二〇〇円での仕切を再度提案したため、控訴人代表者は、これを了承した。しかし、取引はなかなか成立せず、取引終了間際に三万〇二五〇円で一〇枚を仕切った。

同日の取引で、控訴人は、手数料五万七〇〇〇円等を差し引いて五一五〇円の利益を得た。

タ 同月二二日、Gの提案に沿って、一〇月限を三万〇一五〇円で一五枚売り建てた後、上記一五枚を三万〇〇五〇円で仕切った。その後、Gは、三万〇〇九〇円で一五枚を売り建てることを提案し、控訴人代表者の了承の下、一〇月限を三万〇〇九〇円で一五枚売り建てた。しかしその後は高値が続き、三万〇一一〇円の指値での取引も成立しなかった。Gは、二七一万六一一〇円の追証が発生していることに触れたが、くわしい説明はしなかった。

同日の取引で、控訴人は、手数料五万七〇〇〇円等を差し引いて九万〇一五〇円の利益を得た。

チ 同月二三日、Gは、取引開始前の電話で、既に追証がかかっており、値が高い状況の中で仕切っていくことはかなり厳しいとして、逆に売っていきたいって感じをしてるんです、ここは勝負どころと思っています、などとして、難平をかけていく資金として三〇〇〇万円あれば勝てる、チャラではなくて、プラスに持っていける自信があるが、資金の用意は可能か、と控訴人代表者に尋ねた。控訴人代表者は、「そりゃ無理や。」と答えたため、Gは、いくらまでなら可能かと尋ねたが、控訴人代表者は、「これは家のもんも全部言うてるもんな。負けは負けでええけど。ええとこであんときはバラしといたらよかったなと思ってやな。」と応じた。Gは、ここは勝負目であり、少なくとも二七〇万円の追証を入れるよう申し入れた。

その後、控訴人代表者は、二〇〇万円ないし三〇〇万円は投入しないと仕方がないとして、売玉の仕切の意向を示したが、Gが、「バラしてしまうと相当まずいんですよ。」と答えたため、「まずいな、それはそのまま置いとこか。」と応じた。

後場に入り、Gは、追証はどのみちかかるので、売ってしまおうかと申し向けたが、控訴人代表者は、「三〇〇万円から五〇〇万円を投入するから、損切りだけはやめとこ。」と答えた。さらに、控訴人代表者は、「ここまで来たら僕は六月中で勝負できると思うからね。もうそろそろ天かなと思とる。」と言い、Gも、「僕、今日の寄り付きは天かなと思ったんですよ。」と応じた。控訴人代表者は、五〇〇万円の投入に関し、「それ以上のお金は投入しませんから。これ、もう最後で、ほんまはもうやめとこ思ったけど、売りの方で利鞘を稼いでやっていくという形のもんでやっていきましょう。」と述べた。

取引終了後の電話で、控訴人代表者は、六月ぐらいにけりがつくかと尋ねたところ、Gは、「つくと思うんですけどね。」と答え、控訴人代表者は、「もう長いのはしんどい、疲れた。」と述べた。Gは、下がり出したら一本調子になる、海外の方は天だと思う、海外は急騰しているが「業転物」は動かなかったので心配ないと思うなどと見通しを述べ、売玉を少しずつ仕切っていくという方針を二人で確認した。

ツ 同月二六日、控訴人代表者は、五〇〇万円の追証を入金したが、取引はしなかった。

テ 同月二七日、Gは、僕は国内は頭打ったなあと思っているなどと述べる一方、一部買いを入れる必要があるとも申し込べたので、控訴人代表者は、「よう相談して。」と告げ、Gも、「そうですね、考えてやります。」と応じた。控訴人代表者は、同日の電話で、「絶対に勝とうぜ、もう苦労してきたんやからな。」と述べ、Gは、「はい。」と答えた。

ト 同月二八日、Gは、海外で値が上がっていることを報告し、取引開始後の電話では、高値であることを伝えるとともに、「業転物」自体は値下がりするのではないかとし、控訴人代表者が、「六月が勝負やな。」と述べたのに対し、「そうですね。」と答えた。Gが、一〇月限五枚を仕切らなければ追証がかかる旨告げたところ、控訴人代表者は、「そんな状態やったら、一〇月のもんも全部バラしてしまおうか。」と述べたが、これに対しGは、全部バラしたらまた大変なことになると答え、「どう大変。」との控訴人代表者の質問には答えず、具体的なことは述べぬまま、五枚の仕切を促した。

売玉五枚を三万〇八九〇円で仕切り、同日の取引で、控訴人には、手数料三万八〇〇〇円等を含め四二万九九〇〇円の損失が生じた。

ナ 同月三〇日、Gは、追証の可能性もあり、それを避けるために必要な分は仕切って行かざるを得ないと述べたが、その後の電話で、同日までの累積損益は九万三〇〇〇円のプラスであるが、追証を回避するために損切りをすると一〇〇〇万円の損失が確定してしまうなどとして、四〇〇万円の追証を入れることを求め、控訴人代表者もこれに応じた。

取引終了後、Gは、追証として三九三万一〇一〇円が必要であることを告げ、控訴人代表者は五月六日に準備すると答えた。

(20)  平成一六年五月六日から同月一三日までの取引

ア 同月六日、Gは、静観している以外手はないのかとの控訴人代表者の問いに対し、この苦しい時期を乗り越えれば今度は一本調子で下げてくるので、買建すると外すタイミングが非常に難しくなる、買い建てて手数料の二重払いをする必要はない、追証は見せ金なのでこれを積むだけ積んで耐えていくしかない、などと答えた。取引開始後、高値の状態が続き、Gは、このまま高値が続けば、同日集金予定の四〇〇万円弱の追証の他、さらに三九〇万円ほどの追証が必要となることを告げたが、今日は下がる見込みはないかとの控訴人代表者の問いに対しては、見込みはないとはいえない、高値での張り付きがはずれてくれば、売り手や利食いが入りやすいと答えた。昼ころには四〇一万円の追証の入金が確認されたが、さらに追証が必要な状態となり、控訴人代表者は、あと一〇〇〇万円投入して、これで最後にして、ギブアップしないと仕方がないと述べた。買いを入れるべきかとの控訴人代表者の問いに対し、Gは、冒険するんじゃなくて守らざるをえない、まとめて一〇〇〇万円預かってそれでヘッジするしかない、小出しにされちゃうとできない、と言い、実際ひとたび下がり出せばあっという間であり、控訴人の取引でも以前にも一気にマイナスがプラスになったことがあったなどと付け加えた。

イ 同月七日、Gは、海外はやや安いが円安になっているので高く入ると思うが、ファンドの利食いが殺到する可能性もあるとして、様子を見ていく方針を述べたところ、控訴人代表者は、「最後の勝負にかかるからな。七月二〇日まで。」と述べ、最後の資金を投入すると伝えた。取引開始後、Gは、出来高が多いので、後場から下がる公算はあると述べ、控訴人代表者は、「この一、二か月やから頑張ろう。全精力を傾けてください。」と応じた。後場に入り、一時価格が下がったもののまた戻りが入り、追証の危険も生じたが、それは免れて取引は終わった。控訴人代表者は、「もうええよ。もうこれで最後やって俺たち決めたんやからな。」として、損切りで仕切っていくことを確認した。

ウ 同月一〇日、Gは、取引開始前の電話で、海外市場の値上がりと円安の影響でストップ高の可能性があることを述べたが、商社が売りを出している、結構大きな落ち方をしてくるんじゃないかという期待をしている、高値警戒感もあるなどとして、慎重かつ切るとこで切っていく、今日どうしても仕切らねばならない話ではない、などと続けた。控訴人代表者は、今日、どれぐらいの損金で終了できるかと尋ねたが、Gは、現在の高値は度を超えている、全部仕切ると今預かってるものが全部なくなってさらに支払わなければならないという可能性もある、仕切値が天井ということも十分あり得るなどと述べ、同日中の手仕舞いに消極的な姿勢を示した。

取引開始後、Gは、寄り付きからのストップ高はついていないが、値段がいつ天を打ってもおかしくない、だからこそ踏ん張ってもらってという話を先だってさせてもらったなどと述べ、後場に入ってからも、ちょっと売りっぽくなってきた、今日か明日かあさって天をつく可能性が高い、今ここで仕切ったら、そこが天でそこで仕切らないほうが良かったということは十二分にある、せっかくここまで頑張ったんだからなどと、再度手仕舞いに消極的な姿勢を示した。

その後も、ここで仕切れば一〇〇万円程度の不足が出そうであり、ここまで頑張ってもらっているので頑張ってもらいたいと申し向けたため、控訴人代表者も、「一〇〇か二〇〇ぐらいやったら何とか俺は調達できるけどな。お金はないけど、いっぺんどっか当たってみますわ。」と応じた。

取引終了後の電話で、控訴人代表者は、二〇〇〇万円を超えた損が出たら社長を辞めるという話をしている、七月二〇日まで現状のままでいき、それまでに清算を要した時はその時点で本件取引を終了する、今週中に三菱商事にも話しに行かなければならないなどと述べた後、どれぐらいの損金で収まるかについて尋ねた。Gは、ここで仕切ると丸々なくなると答え、さらに、「来週、鹿島の製油所が再開しますわ。明日いきなりどんと安くなる可能性ももちろんあるわけじゃないですか。」などと述べた。

エ 同月一一日、Gは、八月限の寄りつきが四八〇円安の三万四七八〇円で、不足金は一七〇万円から一八〇万円くらいであると報告した。後場に入り、控訴人代表者は、二〇〇万円を用意したが、「もうせえへんから。」とも述べた。Gは、現在の安値がいったん跳ね上げて下がったらもう終わりだとは思うと述べ、同日追証は発生しなかったが、取りあえず用意した二〇〇万円は控訴人代表者が金庫に保管しておくよう求めた。

オ 同月一二日、Gは、取引開始前の電話でストップ高になるとの見通しを示し、取引開始後、八月限は高値で寄りついた。Gは、天の可能性は高いと述べ、前場終了後も、後場は安値方向の動きであれば売り込まれるとの見通しを示した。しかし、後場もなお高値となったため、Gは、控訴人代表者が昨日用意した二〇〇万円を織り込んで計算すると、二七枚を切る必要があり、そうすると実損が一六〇〇万円に及ぶので、Fと悩んでいると述べ、取りあえず一〇枚を仕切ることを提案した。これを受けて、三万五一〇〇円で一〇枚を仕切り、この時点での不足金は二三七万八三一〇円となった。

同日の取引で、控訴人には、手数料七万六〇〇〇円等を含め七四六万九八〇〇円の損失が生じたが、Gが上記金額に言及することはなかった。

カ 同月一三日、Gは、取引開始前の電話で、海外市場が終値ベースで原油、ガソリンとも過去最高値だが、イラクの戦闘が和らいできている、OPECが六月増産の意向を固めてきていると述べ、昨日の時点で二三八万円の不足が生じていることを告げた。控訴人代表者は、「せやけどお金出えへんで。結局切ってもらって損金でも埋めんとしょうないで。」と応じたが、Gは、二〇〇万円にプラス三八万円は調達できないかと問い、結局控訴人代表者は、二四〇万円を用意することとし、一一時から一二時の間に届けると告げた。その後、控訴人代表者は、「全部五〇〇〇万がなくなるわけ。」と尋ね、Gは、「そうなんです。それ以上にいくっていうことですよね。」と答えたところ、控訴人代表者は、「もう今日で終了にしようか。」と述べた。Gは、「まあその結論付けるには早いかもしれませんけど。ストップ、ガタッとはずれてばたばたっと売られる可能性も十分あり得ますから。」と述べたが、控訴人代表者は、「今日が最終日やて。」と答えた。後場に入り、売玉を三万四〇〇〇円で一〇枚、三万五九二〇円で五五枚をそれぞれ仕切り、控訴人の建玉は零になった。

同日の取引で、控訴人には、手数料四九万四〇〇〇円等を含め四五四七万三七〇〇円の損失が生じた。

(21)  本件取引の結果、売買利益は一二七五万八〇〇〇円であったが、他方で、売買損金五七四三万二〇〇〇円、委託手数料七七八万六二〇〇円、消費税三八万九三一〇円の負担が生じ、差引損金五二八四万九五一〇円が発生した。これに対し、控訴人は、委託証拠金として合計五一三六万円を預託している。したがって、この預託金を上記差引損金に充当しても、一四八万九五一〇円が不足することとなった。

被控訴人は、平成一七年三月二日、控訴人に対し、同月一一日を支払期日と指定して本件立替金の支払を催告した。

二  前記争いのない事実等及び上記認定事実に基づき、争点につき検討する。

(1)  本件取引における被控訴人の違法性の有無(争点2・反訴)について

ア 説明義務違反について

(ア) 商品取引員は、商品市場における取引の受託等を内容とする契約を締結しようとするときは、主務省令で定めるところにより、あらかじめ、顧客に対し受託等契約の概要その他の主務省令で定める事項を記載した書面を交付しなければならない(商取法一三六条の一九)。そして、被控訴人は、前記争いのない事実等二(4)ア、エのとおり、受託業務管理規則四条、七条において、顧客に十分な理解と納得を得るために、準則及び委託のガイドを交付し、商品先物取引の仕組み(特に委託証拠金制度、損益の計算方法)及び損失のリスク等について十分説明を行うことを定めている。

このような規定が、商品先物取引の投機性が極めて高いという特性や、一般投資家の商品先物取引に関する知識・情報量が商品取引員と比較して限られていることが多いといった実情を踏まえて定められたものであることは明らかであり、以上に照らすと、商品取引員は、一般投資家との間で商品先物取引の委託を勧誘する場合には、その取引の仕組みや危険性等について十分説明すべき注意義務があるというべきであり、これに違反して勧誘、受託をした場合には不法行為責任を負うものと解すべきである。控訴人もしくは控訴人代表者には、本件取引まで商品先物取引の経験がなかったのであるから、被控訴人は、控訴人に対し、準則及び委託のガイドを交付した上、委託証拠金、損益の計算方法を含む商品先物取引の仕組み及び損失のリスクについて、十分に説明をすべき注意義務を負っていたというべきである。

(イ) これを本件についてみるに、Gは、平成一五年一二月一五日、控訴人事務所において、委託のガイド、準則を交付したが、控訴人代表者が商品先物取引についての説明を省略するように述べたことから、委託のガイド四頁の赤枠で囲まれた部分のみを読んで説明した(前記一(7))に過ぎないのであり、レバレッジ効果等を含めどれほどの値動きでどれほどの損失が生じるのか、あるいはどのような場合にいくらの委託証拠金の追加が必要となるのか、といった先物取引の固有の危険性や、損益の計算方法あるいは先物取引に仕組みについて具体的に、控訴人代表者が理解できるように説明をしたとは認められない。控訴人代表者の理解が不十分であることは、「俺はそこまでへこむとは知らんかった。短時間で一〇〇〇万があっという間に消えるような。」(前記一(16)ア)、「最後はもう、最悪の場合は現物で引き取るようにするから。」(同イ)、「あかんかったらもう塩漬けにするか。」(同ウ)、「七〇〇入れて、また六〇〇。どないなってるの、これ。こういうのは全然知らなかった。」「こんな恐ろしいの。だったらやめんといかんわ。俺全然そういうの思ってなかったもん。」「(六五枚が六五〇〇キロリットルに相当することをGから聞かされ)我々のところの半年分ぐらいやな。失敗したな、俺は。」(同エ)といった取引開始後の控訴人代表者の発言からも明らかである。また、本件各証拠によれば、このような控訴人代表者の発言に対し、Gは、以前訪問したいと言ったのは、控訴人代表者が安閑と考えていると思ったからであるとか、「ちゃんとそこら辺の認識を持ってもらおうと思って、お時間作ってくださいって話したじゃないですか。」などと応じており、取引に先だってそのような危険性については十分説明したはずであるとの趣旨の発言をした形跡はなく、むしろGの上記発言からは、取引開始後の控訴人代表者の態度などから、危険性に関する認識が十分でないとGが考えていたことが窺われる。

(ウ) 被控訴人は、Gは、上記説明の外に、商品先物取引の仕組みやリスクについて、東京ガソリンを例にとりながら、代金と比較して少額の証拠金により取引ができるため、予想が当たれば利益が大きい反面、予想が外れた場合は損失が大きいこと、限月があり、それまでに原則として反対売買で決済すること、反対売買による決済までに予想に反した値動きになった場合、その日の終値で仮計算した損失が委託本証拠金の半額を超過した場合は追証状態になること、商品毎に値幅制限が決められており、その値段になるとストップ高、ストップ安になって一日のうちにそれ以上の値段は動かないこと、手数料が必要なことなどを説明したと主張し、Gは、同人作成の陳述書(甲三〇)において上記主張に沿った陳述をするが、同人の原審証人尋問の結果によれば、平成一五年一二月一五日の説明内容としては、委託のガイド四頁の赤枠部分を読んだほかは、限月、追証幅、ストップ幅、一枚、証拠金いくらという話は、「無論、さらりとですけれども、そこまで詳しくはないですけども、説明はさせてもらいました。」(調書九頁)、委託のガイドの説明についても、「開いて、さらりとですけども、説明しました。」(調書二一頁)とするのみであり、平成一五年一二月一五日に、委託のガイド四頁の赤枠部分を読んだ以上の説明したことが具体的に述べられてはいない。また、同人は、平成一三年三月ころに、取扱い商品一覧(乙七)を交付するに際し、商品、手数料、追証等について説明したとも証言する(調書三ないし六頁)が、仮に上記証言にかかる事実が認められるとしても、平成一五年一二月の取引開始時に求められている説明を、取引の開始も確定しておらず、しかも二年以上前にされた平成一三年三月ころの説明で代替することはできないし、控訴人あるいは控訴人代表者は過去に先物取引の経験がないことに鑑み、平成一五年一二月一五日にされた程度の説明をもってしては、前記(ア)の説明義務が果たされたとはいえない。

(エ) 前記一(5)のとおり、平成一一年八月から平成一二年三月までの間に、前担当者であるCが、控訴人代表者に面談するなどした事実は認められるものの、本件取引開始との時間的間隔が三年以上あり、面談もわずか二回のみであること、「私の話や説明とAさんが平成一五年一二月に先物取引を始めたことには関係がないと思っています。」とのCの陳述(甲二九)に照らせば、説明義務の関係で、Cとの接触をそれを補完するものとみるのは相当ではないし、控訴人代表者が、本件取引開始までに、商品先物取引が原因で夜逃げしたり、倒産した例を見聞きしていたり、Dから危険性が高いとの助言を得ていたとしても、それは、あくまでも商品先物取引の漠然とした危険性を認識していたにすぎず、実際に商品先物取引を開始するにあたり、具体的な危険性の内容や程度につき知っていた訳ではないのであるから、被控訴人の説明義務の内容や程度を減じる事情とはならない。

(オ) したがって、Gには、先物取引の仕組みや危険性につき説明義務違反が認められる。

(カ) なお、控訴人は、控訴人代表者が予めC及びGに対し、運用金額を限定すること、損失を最小限におさえること、取引に失敗したときは損切りすること等の損失限定手法を採りたいと申し出たのであるから、G及びFは、平成一六年二月下旬及び同年三月二日以降において、控訴人代表者に対し、一般投資家向けの標準的取引方法を分かり易く説明し、控訴人代表者の十分な理解を得るべき義務を負っていた旨主張し、控訴人代表者はCに対し上記の申し出をした旨供述するが、本件各証拠によっても、控訴人代表者がC及びGに対し、上記申し出をしたことを裏付けるに足りる客観的証拠はない上、仮にCに対し、かかる申し出があったとしても、Cとの間では、取引の具体的銘柄や投資金額といった具体的な話には進展しておらず(前記一(5))、本件取引の二年以上前の話でもあり、これをもって、G及びFの具体的説明義務に結びつけることは相当ではないから、損失限定手法の説明義務違反に関する控訴人の主張は採用できない。

イ 新規委託者保護義務違反について

(ア) 先物取引の受託勧誘において、商品取引員は「誠実公正義務」(商取法一三六条の一七、受託業務規則二条)を負うとともに「適合性原則遵守義務」(商取法一三六条の二五第一項四号、受託業務規則三条)を負っており、受託業務規則三条三項は、「取引開始後においても、顧客の知識、経験、財産の状況及び受託契約を締結する目的に照らして不相応と認められる過度な取引が行われることのないよう、適切な委託者管理を行うものとする。」と定め、被控訴人は、「受託業務の誠実かつ公正な運営及びその管理について、必要な事項を定める。」として受託業務管理規則(甲二)を設けている。そして、前記第三争いのない事実等二(4)ウ及びエのとおり、取引開始以降の三か月間を習熟期間とし、建玉制限をするとともに、資金に余裕がある取引となるように顧客に勧奨するとともに、顧客の理解度・判断力・資産状況・投資予定額等からみて明らかに過度な取引と判断されるときは、顧客と相談の上取引の縮小あるいは制限等の措置をとる旨定めている。このように新規委託者について習熟期間を設け、建玉制限等をするのは、仮に取引開始にあたって商品取引員から先物取引の仕組みや危険性について十分な説明を受けていたとしてもなお、先物取引特有の仕組みや危険性に鑑み、先物取引経験のない未熟な顧客が不測かつ多額の損失を被る可能性があることから、それを防止するため、建玉を制限し、顧客の損失を量的に制限して顧客を保護する趣旨であると解される。

(イ) これを本件についてみると、平成一五年二月一六日のGの電話内容(前記一(8))は、被控訴人の受託業務管理規則によって習熟期間内に建玉制限があることやその趣旨を的確に伝えているとは見られず、取引開始当初から建玉制限を超過した建玉を前提にしているものと認めざるを得ない。しかも、取引開始前の段階において、既に、八〇枚以上の建玉の可能性にさえ言及しているのであり、Gには、新規委託者保護のために建玉制限等がされた趣旨を尊重する姿勢が欠けていたものと見ざるを得ない。

この点につき、Gは、控訴人の預託金額が一〇〇〇万円であり、ガソリン九五枚の建玉が可能であることから、五〇枚を超えて八〇枚まで取引の意思があると判断し、「建玉超過についての申出書」(甲八の一)の徴収に及んでいるのであるが(前記一(8))、本件各証拠によっても、控訴人が預託金額を決定するに際し、Gから、建玉制限の話がされたとは認められず、むしろGは、同月一二日、控訴人代表者が、銀行からの借入金のうち八〇〇〇万円が手元に残るとして、商品先物取引を開始する意向を示した際、「預かり証は八〇〇〇万円で切っていったらいいんですか。初回ですから半分ぐらい(つまり四〇〇〇万円)の中でぜひ考えてもらえればね。」などと申し向けていること(前記一(6))からすれば、建玉制限とは関係なく、できるだけ多くの資金を預かりたいとの意向を持っていたことが窺えるのであり、そうすると控訴人が、一〇〇〇万円を預託したことをもって、控訴人が、建玉制限を超過する取引をする意思を有していたとみるのは相当ではない。また、仮に、控訴人が、一〇〇〇万円の預託金の枠いっぱいでの取引を希望したとしても、上記新規委託者保護に関する規定が設けられた趣旨からすれば、Gは、その趣旨に沿って、建玉制限内の取引を勧めるべき立場にあったものといえる。

本件においては、一応、被控訴人の受託業務管理規則に沿って、「建玉超過についての申出書」(甲八の一、甲九の一)が作成されている。しかし、五〇枚から八〇枚への申出書(甲八の一)についてGは、「建玉、取りあえず、僕がいいですよっていうのがマックス八〇までなんですよ。三か月たたないと駄目なんですけど。その八〇やるのも。」などと言って(前記一(8))、Gの主導で書類の取付けをしていることや、八〇枚から一五〇枚への申出書(甲九の一)についても、平成一六年一月九日、先に一五〇枚までの建玉について上司の許可を得ているとして、同日申出書の徴収に先立って制限超過の建玉をしていること(前記一(13))などの事情に照らせば、申出書が、建玉制限を超過する取引を控訴人が自発的に希望したことを示しているということはできない。

(ウ) 上記の事情、とりわけ取引開始前に五〇枚の制限が八〇枚に緩和されたこと、さらに取引開始から一か月以内に上記八〇枚の制限が一五〇枚に緩和されたことからすれば、G及びFには、新規委託者保護義務違反が認められるというべきである。

ウ 事実上の一任売買について

(ア) 控訴人は、本件取引のうち、本件取引開始時から平成一六年二月下旬までの控訴人代表者による具体的な売買注文は、Gの誘導に追随しており、同年三月二日以降の注文も、G及びFの投資助言に依存していたのであり、本件取引のすべてが事実上の一任売買に当たると主張する。

(イ) たしかに、前記一で詳細に認定したとおり、本件取引の大半は、Gが、自己の見通しに沿って、値段、枚数などについて具体的な提案をしており、控訴人代表者はそれに追随する形で各取引を了解していったとの経過が認められる。

本件取引は、全体的に売建が先行し、ガソリン価格が下落するとの見通しのもとで取引されていると認められるが、GあるいはFが、上記見通しを有していたことは、Gの毎日の電話の内容や平成一六年三月二日にFが現在の相場が上げ過ぎているので買いは建てない方がよいとの意見を述べていることなどから明らかであり、売建の先行は、控訴人代表者独自の相場観というよりも、GもしくはFの相場観を控訴人代表者が受け入れることによってされたものと見るのが相当である。

(ウ) しかしながら、Gが個々の取引について控訴人代表者の了承を得ながら行っていたことは、前記一の認定のとおりであり、本件各証拠によっても、控訴人代表者が個々の取引について異議を述べた形跡はないのであるから、個々の取引がGの具体的提案が契機でされたものであるからといって、これらの取引が事実上の一任売買にあたり、違法であるとの控訴人の主張は採用できない。

エ 指導助言義務違反

(ア) 控訴人は、平成一六年二月下旬以降、善管注意義務の一内容として、被控訴人は、控訴人に対し、商品先物取引の初心者である控訴人代表者の混乱した言動や短慮判断に迎合することなく、一般投資家向けの標準的取引方法、とりわけ、損切りを含むリスク軽減方法をとるよう指導助言すべき義務があったにもかかわらず、売玉六五枚を維持させて損切りをせずに追証納入を推奨し、特に、値洗い損が一〇〇〇万円を下回った同年四月初旬にも、上記の義務を怠り、さらなる売買取引に誘導して、確実に利益が得られると誤解されるべき断定的判断を提供するなどしてさらに三〇〇〇万円の出資を勧誘した旨主張する。

(イ) 商品先物取引が投機性の極めて高いものであり、かつ、同取引に関する知識や情報量については一般投資家と商品取引員と極めて大きな格差があることは明らかであるから、商品取引員には、商品先物取引を勧誘、受託する際、善管注意義務の一内容として適切な指導助言をすべき注意義務があると認めるのが相当である。

(ウ) そこで本件について検討するに、平成一六年二月下旬、価格の上昇から、同月二〇日の時点で四九二万五〇〇〇円の値洗い損が生じ、同月二四日の時点では値洗い損は六六一万五〇〇〇円に拡大していたが、Gは、値洗い損の存在やそれに対する対処法について、控訴人代表者に告げることはしなかった(前記一(15)セ、タ)。同月二五日に三三七万八六七〇円の追証が発生した際にも、Gは、「一つぽんと頭打って下がり出すと一〇〇〇円、二〇〇〇円すっと下がるんで。」「ここで万歳、負けだって腹くくってしまうよりかは、つないでいってもらってるほうがなんぼかいいとは思うんですけれども。」として取引の継続を促し、控訴人代表者に尋ねられたことから損失が七〇〇万円に及んでいることを告げる際にも、この程度の損失は今までにも生じていたが両建でしのいだとして追証を入れて取引を継続することを促した(前記一(16)ア)。同月二六日も、手仕舞いを示唆することはなく、「一つ波超えちゃえばですね、下げの波来れば取れるとは思ってるんで。」などと述べて取引の継続を促し、控訴人代表者の最悪の場合は現物で取るとの誤った見解に対してもそれを正すことはなかった(同イ)。同月二七日、これ以上はもう資金を出さないとして控訴人代表者が追証を出した際、「あかんかったらもう塩漬けにするか、清算してよ。」と述べたのに対し、Gは、先物取引の場合、株式等と異なり、限月の関係で塩漬けはできないにもかかわらず、控訴人代表者の誤まった認識を正そうとせず、また、清算について商品取引員の立場から検討する姿勢を示さず、かえって、切らないと大損にはならないなどとして取引の継続を前提とした返答をしている(同ウ)。同年三月一日には、両建を勧め、そのために一〇〇〇万円の資金を追加することを促し、それにより七月まで建玉を維持することが可能かとの控訴人代表者の問いに対し、さらなる追証の可能性等には言及しないまま、「そうですね。」と答え、さらには当時の値洗い損一七〇〇万円が取り戻せるかのようなことも付け加えた(同エ)。

同年四月一九日から同月二二日の取引についても、Gの方針は、いかに追証を回避するか、という点に終始し、手仕舞いを視野に入れた方針を示すことはなかった。同月二三日、追証が回避できない状況となった時点でGは、手仕舞いにつき消極的な姿勢を示すとともに、難平をかけていく資金として三〇〇〇万円あれば勝てる、チャラではなく、プラスにもっていける自信があると申し向け、控訴人代表者に三〇〇〇万円の追加資金投入を促した(前記一(19)チ)。

さらに、同月二六日から同年五月一三日の取引終了までの間も、Gの助言は、追証を入れて取引を継続していくとの方針で一貫しており、手仕舞い方向での助言を行うことはなかった。同年四月二八日、一〇月限の売玉を全部仕切るとの控訴人代表者に対し、Gは、全部仕切ったら大変なことになるとのみ述べ、その場合の損失がいくらになるのかといった点に触れることなく、追証を回避するために必要な五枚の仕切に固執した(前記一(19)ト)。同月三〇日も、累積損益は九万三〇〇〇円のプラスであるが、追証を回避するために損切りすると一〇〇〇万円の損失が確定してしまうなどとして、専ら追証を促した(前記一(19)ナ)。同年五月六日には、Gは、追証は見せ金なのでこれを積むだけ積んで耐えていくしかない、まとめて一〇〇〇万円預かってそれでヘッジするしかない、実際ひとたび下がり出せばあっという間である、などと述べ、その時点での損失額を明示したり、一〇〇〇万円の追証を出す以外の手段について具体的に述べることはなかった(前記一(20)ア)。同月七日から取引最終日である同月一三日にかけても、Gは、常に価格が下がる可能性に触れつつ、手仕舞いではなく、取引の継続を誘導し、追証を入れることでさらに一、二か月は取引が続けられるとの控訴人代表者の認識に対する助言もしなかったことが認められる(前記一(20)イないしカ)。

このようにGもしくはその上司であるFの方針は、追証をできるだけ発生させずに取引を継続していく、追証が発生した場合に追証を入れるか手仕舞うかとの選択肢を示すことなく、追証の差入れつまり取引の継続に誘導するという点で一貫しており、追証発生の時点では値洗い損失が拡大しているのであるから、追証を入れて取引を継続することはリスクを更に大きくする可能性があることを示唆したり、手仕舞いをして取引を終了させることは損失を確定させてしまうが更なるリスクは回避できることなどを適切に指導助言すべき注意義務に違反していると認められる。しかも、Gは、控訴人の原資が、余裕資金でなく、銀行借入であると認識していたのであるから(前記一(6))、なおいっそうリスクの拡大を防ぐよう適切な指導助言をすべきであったともいえる。

(エ) したがって、G及びFには、指導助言義務違反が認められる。

オ 断定的判断の提供、相場観の押付けについて

(ア) 控訴人は、F及びGが平成一六年三月二日の控訴人代表者との面談以降において、繰返し「近い将来、必ず値下がりする」との断定的判断を提供した、もしくは相場観を押し付けたものであると主張する。

(イ) たしかに、Gが、同日以降も一貫してガソリン価格が値下がりするとの相場観を示していたことは、前記一で認定したとおりであるが、その表現内容からして、それが断定的判断の提供にあたるとまではいうことはできず、また、Gは、本件各取引について、控訴人代表者に頻繁に電話連絡を取ることによって、個別の了解を得た上で、取引を行っていたことが認められることなどからすれば、被控訴人が控訴人代表者に対して断定的判断を提供したもしくは相場観を押し付けたことが違法であるとの控訴人の主張は理由がない。

カ 以上によれば、G及びFには、先物取引の仕組み及び危険性の説明義務、新規委託者保護義務、指導助言義務の違反が認められ、本件取引の開始から手仕舞いまでの本件取引過程におけるこれら一連の義務違反行為は、全体として違法なものというべきであり、被控訴人は、G及びFの使用者として民法七一五条に基づき、控訴人に発生した損害を賠償すべき義務を負う。

(2)  控訴人の損害及び過失相殺(争点(3)・反訴)について

ア 前記第三争いのない事実等二(1)によれば、控訴人には、本件取引によって差引損金五二八四万九五一〇円が生じているが、そのうち控訴人が、被控訴人に預託した金員は五一三六万円であり、差額の一四八万九五一〇円については被控訴人の本訴請求があることからすれば(この点については後に判断する。)、上記五一三六万円をもって控訴人の損害とすべきである。

イ 次に過失相殺について検討する。

(ア) 控訴人は、年間売上高約一〇億円のガソリンスタンドの経営等を目的とする株式会社であり、控訴人代表者は、長年にわたり、ガソリンスタンドの経営に携わり、ガソリンの仕入れ先である三菱商事石油担当者、日本経済新聞、燃料油脂新聞などから日常的にガソリンの現物価格に関する情報を得ていたことなどからすれば、控訴人代表者には、ガソリン取引に関して、一般通常人以上の知識と経験があることが認められる。

控訴人代表者は、本件契約締結の際、委託のガイド、準則の交付を受けているところ、これらを精読すれば、商品先物取引の仕組みや短期間に大きな利益を得られる反面多大な損失を被ることがあるなど商品先物取引の危険性についても理解しうる状況にあり、控訴人代表者はそれを理解する能力も備えていたものであるし、控訴人代表者は、本件契約に際し、Gに、商品先物取引の説明を省略するように述べ(前記一(7))、自ら説明を受ける機会を放棄している。

さらに、控訴人代表者は、商品先物取引委託をするに際し、先物取引の危険性を了知した上で準則の規定に従って、自己の判断と責任において取引を行うことを承知したことを証する約諾書(甲三)、商品先物取引の仕組み・損失リスクについて説明を受け理解した上で、被控訴人に対し口座開設を申し込む旨の記載された本件口座開設申込書(甲四)を被控訴人に差し入れるとともに、先物取引の仕組みやリスクに対する顧客の理解度を調査する「商品先物取引を始めるにあたってのご確認」(甲七)の各質問に対し、すべて「わかった」「知っている」と答えている(前記一(7))。

取引開始後も、前記一認定のとおり、控訴人代表者は、Gからの提案を受け、個々の取引について承諾していることが認められ、平成一六年四月付けのものを除く残高照合通知書(甲一一)について、通知書のとおり相違ないことを回答(甲一二)しており(前記一(10))、本件各取引について異議を述べてはいない。

また、取引の途中においても、控訴人代表者は、「おもしろなってきたからね。ようやっと。三月三一日超えたらあと一〇〇〇万投入するから。」(前記一(15)サ)、「緊急に三月に入ったら一〇〇〇万円投入する。」(前記一(15)セ)、「損だけの七〇〇万を稼ぎに入るから」としてさらに五〇〇万円を投入する(前記一(16)ア)、「三〇〇万円から五〇〇万円を投入するから、損切りだけはやめとこ。」(前記一(19)チ)など述べて、積極的な資金投入の意向を示すことがあり、平成一六年三月二日のFとの面談においても、五〇〇〇万円までは資金を出すことができるとの発言を行っている(前記一(17))。さらに、「売り方で負けたんやから、絶対売り方で勝たんとあかんねん。」「毎日したら負けるんやから。それが分かったからな。」と述べ、値段が上がった場合は控訴人代表者が本件取引について指示すると告げ(前記(16)ア)、「上がったときにカットしていこう。そういう戦法で行きますから。」と述べるとともに、先物のやり方がようやくわかったので、これから僕流に考えて取り戻す旨述べ、また、「日にちはおかないという態度でちょっと当分やろう。下がってきたら言うてや。」(前記一(18)エ)などと述べ、自らの判断で取引に主体的に関わる意向を示すこともあった。

(イ) これらの事情を勘案すれば、控訴人にも本件取引による損害の発生及び拡大につき相当程度の過失があると認められる。したがって、被控訴人が賠償すべき損害額を定めるにあたっては、過失相殺するのが相当であり、控訴人の過失割合は、以上の認定、説示したところに照らせば、八割とするのが相当である。

そうすると、上記アの五一三六万円のうち、被控訴人が負担すべき損害賠償額は、一〇二七万二〇〇〇円(五一三六万円×<一-〇・八>)となる。

ウ 控訴人訴訟代理人が、控訴人から反訴提起を含む本件訴訟遂行の委任を受けたことは本件記録上明らかであり、本件の事情を斟酌すれば、本件不法行為による損害として控訴人が請求し得る弁護士費用は、一〇〇万円をもって相当と認める。

(3)  控訴人の立替金支払債務の有無(争点(1)・本訴)について

ア 前記一(21)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、控訴人に対し、本件契約に基づき差引損金五七四三万二〇〇〇円から預託金五一三六万円を差し引いた一四八万九五一〇円の支払請求権を有していることが認められる。

イ しかしながら、本件取引については、前記(1)及び(2)で説示したとおり、被控訴人の不法行為があったこと、控訴人の過失割合は八割であることが認められることに照らせば、被控訴人の控訴人に対する一四八万九五一〇円の請求についても、民法四一八条の法理に照らし、これを信義則上八割の限度で認めるのが相当である。

ウ そうすると、被控訴人の控訴人に対する請求は、一一九万一六〇八円(一四八万九五一〇円×〇・八)及びこれに対する催告による支払期日の翌日である平成一七年三月一二日から支払済みまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

三  以上によれば、被控訴人の本訴請求は、一一九万一六〇八円及びこれに対する平成一七年三月一二日から支払済みまで年六分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきであり、控訴人の反訴請求は、一一二七万二〇〇〇円及びこれに対する不法行為の後である平成一六年六月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、これと異なる原判決は変更を免れず、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安原清藏 裁判官 八木良一 本多久美子)

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