大阪高等裁判所 平成20年(ラ)252号 決定 2008年3月25日
抗告人
甲野花子
主文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由等
抗告の趣旨は,原決定の取消しを求める旨のものであり,また,抗告の理由は,別紙「陳述書」記載のとおりであって,要するに,抗告人は,(1) 平成16年8月17日,株式会社乙川工務店(以下「当該会社」という。)の株主総会で同社の取締役に選任され,取締役会で代表取締役に選任されていたところ,当時,当該会社については,乙川葉子(抗告人の妹,以下「葉子」という。)と丙山太郎(以下「丙山」という。)を原告とし,同社と乙川桜(抗告人,葉子らの母。以下「桜」という。)らを被告らとする株主権確認等請求訴訟(大阪地方裁判所平成17年(ワ)第9112号)が係属中で,葉子と丙山は,桜が1万株,葉子が1万1333と6分の1株,抗告人及び乙川一郎(抗告人の弟,以下「一郎」という。)が各3333と6分の1株,丙山が4000株を取得することとなった旨主張して,抗告人らと対立していたから,抗告人にとっては,招集通知の相手方も分からず,また誰がどれだけの株式を有しているかも分からなかったので,退任して欠員を生じていた取締役を選任するための株主総会を招集・開催しなかった,(2) 大阪地方裁判所は,平成19年8月27日,前記訴訟の判決を言い渡し,桜が2万株,葉子が8000株,抗告人及び一郎が各4000株,東野組が4000株をそれぞれ有するとの判決を言い渡した,(3) 抗告人は,同年8月17日,当該会社の株主総会を開催し,桜,抗告人及び一郎が取締役に選任された,(4) 抗告人は,平成18年8月,前記訴訟で訴訟代理人として委任していた弁護士から,誰が当該会社の株式を有する者であるかが前記訴訟で争点となっているので,株主総会ができない状態であるとの説明を受け,抗告人はそれを信じた,(5) それ故,この度,「平成18年4月30日取締役が退任し,法定の員数を欠くに至ったのに,平成19年8月17日までその選任手続を怠った。」という理由で過料に処せられるのは納得がいかない,などと主張するものである。
第2 事案の概要
1 本件は,平成18年4月30日に当該会社の取締役が退任し,取締役について法定の員数を欠くに至ったのにかかわらず,当該会社の代表取締役であった抗告人が,平成19年8月17日まで必要な取締役の選任を怠ったとして,会社法976条22号の過料(いわゆる選任懈怠)に処すべきとされた事件の抗告事件である。
2(1) 大阪法務局登記官は,大阪地方裁判所に対し,平成19年8月31日,商業登記規則118条の規定に基づき,本件の選任懈怠を通知した。
(2) 大阪地方裁判所は,同年11月29日,抗告人(被審人)を過料金4万円に処する旨の決定(同裁判所同年(ホ)第2305号)をした。
(3) 抗告人は,上記決定を不服として,大阪地方裁判所に対し,異議申立てをした(同裁判所同年(ホ)第10042号)。
(4) 大阪地方裁判所は,当事者の陳述を聴き,大阪地方検察庁の検察官の意見を求めた上,上記決定を認可する旨の原決定をした。
(5) 抗告人は,原決定を不服として,当裁判所に対し,抗告を提起し,前記のとおりその理由を主張した。
第3 当裁判所の判断
当裁判所は,抗告人の本件抗告は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
1 抗告人の前記主張は,要するに,前記主張のような経緯においては取締役を選任する株主総会を招集することができなかったのであるから,抗告人には帰責事由がないというものと解される。
しかしながら,株式会社の取締役の選任については,会社法329条1項は,取締役等の役員及び会計監査人は,株主総会の決議によって選任する旨を定めているところ,取締役について,法令・定款所定の取締役の員数が欠けた場合には,遅滞なく後任の取締役を選任しなければならないのであるから,取締役会を設置していた当該会社の代表取締役であった抗告人は,法定の手続に従って株主総会を招集する義務を負うと解することができる(会社法351条1項)。そして,取締役等が会社法又は定款で定めた員数を欠くこととなった場合には,速やかにその選任手続をすべきであって,これを怠ったときには,株式会社の代表取締役等は,100万円以下の過料に処せられることとなる(会社法976条22号参照)。抗告人は,前記のとおりの経緯で,当該会社の取締役を選任する株主総会を招集することができなかったし,弁護士に相談していた,などとるる主張するが,その主張をすべて事実として認めるとしても,取締役の欠員が生じた場合,裁判所は,必要と認めるときは,利害関係人の申立てによって,一時取締役の職務を行うべき者を選任することができるのであるから(会社法346条2項),この申立てを怠った抗告人については,会社法976条22号の規定が定める要件である帰責事由があったというべきであって(なお,抗告人が,一時取締役の制度を知らず,弁護士と相談していたとしても,そのことによって,帰責事由がなかったとすることはできない。),同条号にいう過料に処すべきときに当たるといわざるを得ない。
以上によれば,抗告人の前記主張は,採用することはできない。
2 結論
したがって,本件抗告は理由がなく,原決定は相当である。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 森宏司 裁判官 小池一利 裁判官 山本善彦)
別紙陳述書<省略>