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大阪高等裁判所 平成20年(行コ)128号 判決 2008年12月18日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要(略記は原判決のそれに従う。)

1  本件は,被控訴人が,本件条例に基づき,堺市長に対し,住居表示の新旧対照表(住居表示実施前後の新旧住所の対応関係を一覧化したもの)等の公開請求をしたところ,その全部につき非公開決定を受けた(本件処分)ため,そのうち旧新対照表(ただし,個人の氏名が記録されている部分を除いた部分)(本件文書)を非公開とした部分の取消しを求めている事案である。

原審は,被控訴人の請求を認容した。

控訴人は,これを不服として控訴した。

2  前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の「2 前提事実」及び「3 本件の争点及び当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決2頁15行目の「地方自治」を「住民自治」と改める。

(2)  原判決12頁8行目の「町名がどのようなものであったか」を「番地が何番であったか」と改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も被控訴人の請求は理由があるものと判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決7頁3行目から8頁23行目までを次のとおり改める。

「(1) 本件条例7条1号は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)」であって,特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものも含む。)については,同号ただし書所定の除外事由に当たるものを除き,これが記録されている公文書を公開しないことができると規定している。同号にいう「個人に関する情報」については,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である(最高裁判所平成15年11月11日第3小法廷判決・民集57巻10号1387頁参照)。

これを本件情報についてみると,本件情報は,旧新対照表の「旧住所」と「新住所」との対応関係に関する情報であって,個人の氏名を記録した部分を含まないものであるから,それ自体から特定の個人を識別することはできない。しかし,不動産登記法119条ないし121条等によれば,誰でも不動産登記記録の登記事項証明書及び地図等の写しの交付を受けることができ,これにより旧住所である土地の地番,同土地上の建物の所在の有無,土地及び建物の所有者等を知ることができるし,また,住居表示に係る新住所を地形図上に書き込んだものが一般の閲覧に供されているので,その図面に基づいて,本件文書に記載されている新住所を現地見分したり住宅地図と照合したりすることにより,当該個人の住所を知ることができる。したがって,本件情報は,少なくとも他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができるものであり,本件条例7条1号にいう「個人に関する情報」に該当するというべきである。

(2)  しかし,本件情報は,以下のとおり,本件条例7条1号ただし書アに該当するというべきである。

市町村は,住居表示法3条3項により建物に街区符号及び住居番号を設定したときにはこれを告示しなければならず,同法8条1項により当該区域内に町名及び街区符号を記載した表示板を設置しなければならない。また,当該区域内の建物の所有者等は,同条2項により見やすい場所に住居番号を表示しなければならないとされている。このことからすれば,本件情報のうち新住所表示欄の記載は法令等の規定により公にされているということができる。そして,不動産登記法44条1項1号の表示の登記,同法14条1項の建物所在図等に当該建物の敷地の地名地番が示されているところ,同法119条ないし121条により登記事項証明書,建物所在図等の写しの交付を受けることができることからすれば,本件情報のうち旧住所表示欄の記載についても,法令上公にされているということができる。

さらに,建築確認を受ける際に提出される建築計画概要書の第2面には,建築物の住居表示(新住所)と敷地の地名地番(旧住所)が併記されることになっているところ,建築計画概要書は,建築基準法93条の2及び同法施行規則11条の4の規定により建物が滅失し,又は除却されるまで,閲覧に供さなければならないとされており,新たに建築される建物については,法令等の規定により新旧住所表示欄の記載がともに公にされることが予定されているものである。

この点,控訴人は,旧住所は登記地番と一致しているわけではない,建築計画概要書第2面の「地名地番」は,建物敷地の登記事項としての地名地番が記載されているものにすぎない,また,建築計画概要書は,現在閲覧が制限されている,などと主張する。しかし,旧住所と登記地番との関係については,例外的に一致しない場合があることは否定できないにしても,基本的には一致しているとみることができるのであるし,また,建築契約概要の閲覧制限も,例外的濫用的な閲覧請求に該当しない場合にも閲覧を制限できるとは考え難いし,閲覧制限の一般的公開性が現に否定されていることを認めるに足りる客観的な証拠は存しないのであるから,控訴人の上記主張は前記認定を左右しない。

したがって,本件情報のうち新住所表示欄及び旧住所表示欄の記載は,法令等の規定により公にされ,又は公にすることが予定されているものであり,本件条例7条1号ただし書アに該当する。」

(2)  原判決10頁4行目の「十分可能といえ」から6行目の「おそれがある」までを「十分可能であるが,こうしたことが直ちに被差別部落に対する差別的取扱いや偏見等を生じさせているとはいえない上,本件情報を公にしたことにより,被差別部落に対する差別的取扱いや偏見等を生じさせ,あるいは助長する具体的ないし客観的なおそれがある」

(3)  原判決10頁11行目の「情報」の次に「(世帯主氏名等)」を,14行目末尾に「現に大阪府,京都府,兵庫県,奈良県,滋賀県,和歌山県内などの近畿一円を含む数多くの自治体で旧新住居対照表が公開されている(甲4,39)ところ,それに伴い住居表示実施事務の遂行に支障が生じていることをうかがわせる事情は全く認められないところからも,上記のことは明らかである。」をそれぞれ加える。

(4)  原判決10頁24行目の「それ自体」から25ないし26行目の「認め難い」までを「それ自体が直接的な原因となって,あるいは他の情報や状況と相まって被差別部落に対する差別的取扱いや偏見等を生じさせたり,これを助長させたりする具体的ないし客観的なおそれがあるとはにわかに認め難い」と改める。

2  以上の次第であり,被控訴人の請求は理由があり,これを認容した原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田清次郎 裁判官 坂本倫城 裁判官 松井千鶴子)

file_2.jpg原裁判等の表示

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