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大阪高等裁判所 平成20年(行コ)15号 判決 2008年8月28日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2(1)  処分行政庁がa株式会社,b株式会社,株式会社c(以下まとめて「本件建築主」という。)に対し平成18年1月25日付けでした開発許可処分(枚方市指令都査×××-××号。以下「本件許可処分」という。)を取り消す(甲事件)。

(2)  処分行政庁が本件建築主に対し平成18年6月1日付けでした一団地の認定処分(都査審認定第1号。以下「本件認定処分」という。)を取り消す(乙事件)。

(3)  被控訴人dが本件建築主に対し平成18年6月23日付けでした建築確認処分(建築確認番号×××××大建確×××。以下「本件確認処分」という。)を取り消す(丙事件)。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要(略記は,原判決のそれに従う。)

1  本件は,本件建築主が,大阪府枚方市α及びβに,後記高層マンション(以下まとめて「本件マンション」といい,本件マンションの敷地部分をまとめて「本件敷地」という。)を建築するため,本件許可処分(都市計画法29条1項),本件認定処分(建築基準法86条1項),本件確認処分(建築基準法6条1項,6条の2第1項)を受けたことにつき,その周辺住民である控訴人らが,本件確認処分には,隣地高さ制限(建築基準法56条1項2号)に代わるものとして規定された天空率の制限(同条7項2号,同法施行令135条の5,135条の7第1項)につき,違法に作出された隣地境界線を前提として天空率を算定した誤りがあるほか,建築基準法及びその委任を受けた同法施行令に適合しない算定方法を用いて天空率を算定した誤りがあるとして,本件確認処分の取消しを求めるとともに(丙事件),本件許可処分及び本件認定処分は,専ら隣地高さ制限を潜脱することを目的とした違法なものであるとして,本件許可処分(甲事件)及び本件認定処分(乙事件)の各取消しを求めている事案である(なお,本件許可処分,本件認定処分,本件確認処分の後,都市計画法及び建築基準法が一部改正されているが,本件事案に関する限り実質的な影響はないので,改正経緯は省略する。)。

2  原審は,甲・乙事件についての訴えをいずれも却下し,丙事件については,控訴人e,同f及び原審相原告gを除く控訴人らの訴えをいずれも却下し,控訴人e,同f及び原審相原告gの請求をいずれも棄却した。原判決の言渡しを受けた10名(本訴を提起した原告27名中17名が訴えを取り下げた。)のうち,控訴人4名だけがこれを不服として控訴し,その余の原審相原告6名は控訴しなかった。

3 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり付加訂正し,後記4のとおり「当審における当事者の補充主張」を加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 建築物の高さ制限に関する建築基準法等の定め」,「2 前提事実」,「3 争点及び当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決5頁23行目の「南東側」を「南西側」と改める。

(2)  原判決6頁24行目末尾に改行の上次の文章を加える。

「なお,本件裁決に対して,控訴人らは,平成18年12月13日に再審査請求をしたが,国土交通大臣は,平成20年3月26日に,これを棄却する裁決をした(乙4)。」

(3)  原判決6頁26行目及び9頁7行目の「38号,43号」を「甲事件,乙事件」と各改める。

(4)  原判決9頁9行目の「本件確認処分」を「本件許可処分」と改める。

4  当審における当事者の補充主張

(1)  控訴人ら

ア 天空率の算定について,隣地高さ制限適合建築物と隣地境界線の間に建築できる建物部分は,規制を受ける建築物には当たらないから,正射影図を投影して天空率の算定に用いることができる部分ではない。

イ 入り隅部について,被控訴人dは,視野には入らない奥側(下底)が視野に入ることを前提として天空率を算定している点で誤っている(控訴理由書別紙図面6参照)。

また,入り隅部について,水平占有角度の基準とする位置が隣地高さ制限適合建築物の設置位置である。すなわち,奥側を水平占有角度の基準とするということは,その奥側の位置で隣地高さ制限適合建築物を設定する,隣地高さ制限適合建築物の後退距離も奥側で計測するということであるから,この奥側の位置より前では20m以下の建物を建築することはできるが,20mを超える建物を建築することはできない。

(2)  被控訴人ら

ア 建築基準法施行令135条の7第1項2号は,計画建築物の後退線以上に隣地高さ制限適合建築物を隣地境界線から後退させてはいけないとするのみで,隣地境界線と後退線の間の部分に高さ20m以下の範囲において隣地高さ制限適合建築物を想定してはならないと定めているわけではない。

イ 控訴人らが入り隅部について主張する,視野に入らない奥側(下底)が視野に入ることを前提として天空率を算定してはいけないとの考え方はいわゆる東京方式で,それ自体誤りではないが,被控訴人枚方市はこのような方式を採用しておらず,被控訴人枚方市取扱要領(甲8の1)等に従って建築確認を行っている。

入り隅部での後退位置は手前側(上底)の位置となり控訴人らが主張する奥側の位置ではない(建築基準法施行令135条の7第1項2号)。控訴人らがこのように入り隅部について誤解しているのは,後退位置よりも手前に隣地高さ制限適合建築物を想定できないという誤解と,水平占有角は隣地高さ制限適合建築物の前面の部分でしかとれないという誤解によるものだと思われる。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人らの甲・乙事件についての訴えをいずれも却下し,丙事件については,控訴人e,同fを除く控訴人らの訴えをいずれも却下し,控訴人e,同fの請求をいずれも棄却するのが相当であると判断する。その理由は,次のとおり付加訂正し,後記2のとおり「当審における当事者の補充主張に対する判断」を加えるほかは,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」中控訴人らに関する部分に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決12頁20行目の「38号,43号」を「甲事件,乙事件」と改める。

(2)  原判決14頁13行目の「異なるから」を「異なるだけでなく,判断時点や周辺事情も同一ではないのであるから」と改める。

(3)  原判決16頁19行目末尾に「なお,このことは,当審において提出されたビデオ(DVD-R。甲18)によっても同様である。」を加える。

(4)  原判決18頁19行目の「本件規則は,」の次に「行政事件訴訟法9条2項にいう当該法令と目的を共通にする関係法令に該当する可能性はあるが,」を加える。

(5)  原判決19頁21行目の「そうすると,」の次に「本件においては,既に本件隣接土地との隣地境界線を前提として本件許可処分及び本件認定処分がなされていて,同隣地境界線は虚偽・架空のものではないことをも加味すると,」を加える。

(6)  原判決21頁6行目の「上記主張」の前に「後退距離(水平占有角度及び勾配)についての」を加える。

(7)  原判決22頁2行目から3行目の「大きく,その結果奥側が視野に入るのであれば」を「大きいのであれば(被控訴人d控訴審第1準備書面添付図面3参照)」と改める。

2  当審における当事者の補充主張に対する判断

(1)  控訴人らは,天空率の算定について,隣地高さ制限適合建築物と隣地境界線の間に建築できる建物部分は,建築基準法56条1項2号の規制を受ける建築物には当たらないから,正射影図を投影して天空率の算定に用いることができる部分ではないと主張する。

しかしながら,同法56条7項を受けている同法施行令135条の7第1項2号は,計画建築物の後退線以上に隣地高さ制限適合建築物を隣地境界線から後退させてはならないと規定するだけであって,隣地境界線と後退線の間の部分に高さ20m以下の範囲において隣地高さ制限適合建築物を想定することを禁止する趣旨の規定は存しないのであるから,控訴人らの上記主張は,法令に規定されている以上のことを主張するものであって採用することはできない。

(2)  控訴人らは,入り隅部について,被控訴人dが,視野には入らない奥側(下底)が視野に入ることを前提として天空率を算定している点で誤っている(控訴理由書別紙図面6参照)と主張する。

しかしながら,入り隅部に係る天空率の算定方法については特定行政庁ごとに取扱いを定めていて,入り隅部の天空率の算定方法は,建築基準法施行令に明確な定めがないから,特定行政庁ごとの取扱いが隣地高さ制限を遵守した場合と同様の採光,通風等を確保することを目的とした建築基準法56条1項2号,7項2号の趣旨を没却するものでない限り,適法というべきであるところ,前記説示のとおり,被控訴人枚方市の採用した入り隅部に係る天空率算定方法は適法であると判断されるのであるから,いわゆる東京方式を採用しないというただそれだけの理由で本件確認処分が違法であるとする控訴人らの上記主張は採用できない。控訴人らは,入り隅部について,水平占有角度の基準とする位置が隣地高さ制限適合建築物の設置位置であって,奥側(下底)を水平占有角度の基準とするのであれば,その奥側の位置で隣地高さ制限適合建築物を設定し,隣地高さ制限適合建築物の後退距離も奥側で計測すべきであるから,この奥側の位置より前では20m以下の建物を建築することはできるが,20mを超える建物を建築することはできないと主張する(被控訴人d控訴審第1準備書面添付図面3参照)。

しかしながら,隣地高さ制限適合建築物の隣地境界線からの後退距離は,建築基準法56条1項2号に規定する水平距離のうち最小のものに相当する距離をいうと規定されている(建築基準法施行令135条の7第1項2号)のであるから,これは手前側(上底)の位置となり,控訴人らが主張する奥側(下底)の位置ではないことが明らかであって(上記準備書面添付図面3参照),控訴人らの上記主張は採用できない。控訴人らは,後退距離よりも手前に隣地高さ制限適合建築物を想定できない,水平占有角は隣地高さ制限適合建築物の前面の部分でしかとれないという独自の見解に基づいてその主張を展開していると思われる。

3  結論

以上によれば,控訴人らの甲・乙事件についての訴えをいずれも却下し,丙事件については,控訴人e,同fを除く控訴人らの訴えをいずれも却下し,控訴人e,同fの請求をいずれも棄却するのが相当である。

よって,本件控訴をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田清次郎 裁判官 坂本倫城 裁判官 山垣清正)

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