大阪高等裁判所 平成20年(行コ)168号 判決 2009年10月30日
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 控訴人は,被控訴人に対し,1372万4100円及び内金342万4100円に対する平成17年2月16日から,内金1030万円に対する同年4月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを8分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。
5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記部分について被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
本件は,控訴人の有する租税債権を滞納している会社の所有不動産(複数)について,競売手続,公売手続が順次実施され,各手続において控訴人への配当が行われたところ,当該不動産について根抵当権を有する被控訴人が,当該根抵当権に優先する租税債権は上記競売手続における配当によって全部又は一部が消滅しているから,その後の上記公売手続において控訴人に対して行われた配当処分は違法,無効なものであるなどと主張して,不当利得返還請求権に基づき,控訴人が配当を受けたことによって被控訴人が配当を受けられなかった金員相当額である1億1180万1583円の返還及び各配当受領日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求めた事案である。
原審は,上記競売手続によって控訴人が受領した配当金の充当処理及びその後の公売手続における配当金の充当処理ないし配当処分が誤っていたとして,利得金9073万6025円及び所定の利息の支払を求める限度で被控訴人の請求を認容したため,控訴人が敗訴部分の取消しと被控訴人の請求の全部棄却を求めて本件控訴をした。
1 前提事実(争いがないか,掲記の証拠(書証の番号は特に断らない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
被控訴人は,組合員に対する資金の貸付け等の事業を目的とする信用組合である。被控訴人の名称は,平成13年5月24日,P1信用組合から現在の名称に変更された。
(2) 被控訴人による貸付け及び担保権の設定等
本件に関係する不動産は,原判決別紙物件目録1ないし6記載のとおりである(以下「本件各不動産」という。)。被控訴人は,株式会社P2ほか7名に対し,それぞれ金員の貸付けを行い,本件各不動産について以下のとおり抵当権又は根抵当権の設定を受けた。被控訴人の上記債務者らに対する各貸付債権の残高及び担保権の内容は,原判決別紙「P3グループ債権及び担保権一覧表」記載のとおり(ただし,㈱P4に対する債権の残高は75,153,154円)である(甲56ないし72)。
ア(ア) P5株式会社(以下「P5」という。)の所有する原判決別紙物件目録1記載1の土地(以下「本件土地1」という。)について,平成9年5月30日,株式会社P6銀行(以下「P6銀行」という。)のために,極度額を1億5000万円とする根抵当権設定登記が経由され,平成12年12月25日,極度額が6300万円に変更され,その旨の登記が経由された(債務者株式会社P7,共同担保 目録(の)第○号)(甲1)。
(イ) P6銀行のためには,平成12年12月25日,P5の所有する上記目録記載2の建物(以下「本件建物1」といい,本件土地1と併せて「本件不動産1」という。)についても,極度額を6300万円とする根抵当権設定登記が経由された(債務者株式会社P7,共同担保 目録(の)○号)(甲2)。
(ウ) 被控訴人は,本件不動産1について,平成13年5月25日,債権額6000万円の抵当権の設定を受け(債務者有限会社P8,共同担保目録(ひ)○号),同日,その旨の登記が経由され,また,同日,債権額6000万円の抵当権の設定を受け(債務者有限会社P9),同年6月4日,その旨の登記(共同担保 目録(ひ)○号)が経由された(甲1,2)。
イ(ア) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録2記載2(1)の土地及び同目録記載2(2)の建物(以下,両者を併せて「本件不動産2の2」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P7),同日,その旨の登記(共同担保 目録(ひ)第○号)が経由された(甲16,17)。
(イ) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録3記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下,両者を併せて「本件不動産3」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P7),同日,その旨の登記(共同担保目録(ひ)第○号)が経由された(甲28,29)。
(ウ) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録4記載1(1)ないし(7)の土地及び同目録記載1(8)の建物(以下,これらを併せて「本件不動産4の1」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P2),同日,その旨の登記(共同担保 目録(ひ)第○号)が経由された(甲33,34)。
(エ) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録4記載2(1)ないし(5)の土地及び同目録記載2(6)の建物(以下,これらを併せて「本件不動産4の2」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P4),同日,その旨の登記(共同担保 目録(ひ)第○号)が経由された(甲38,39)。
(オ) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録6記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下,両者を併せて「本件不動産6」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P2),同日,その旨の登記(共同担保目録(ひ)第○号)が経由された(甲48,49)。
(カ) 被控訴人は,平成12年5月25日,P5所有の原判決別紙物件目録5記載1の土地及び同目録記載2の建物(以下,両者を併せて「本件不動産5」という。)について,極度額を1億0800万円とする根抵当権の設定を受け(債務者株式会社P4),同年6月5日,その旨の登記(共同担保 目録(ね)第○号)が経由された(甲43,44)。
(キ) 被控訴人は,平成13年7月5日,P5所有の原判決別紙物件目録2記載3の区分所有建物(以下「本件不動産2の3」という。)について,極度額を3600万円とする根抵当権の設定を受け(債務者有限会社P10),同日,その旨の登記(共同担保 目録(ひ)第○号)が経由された(甲22)。
(ク) 被控訴人は,平成13年7月5日,P5所有の原判決別紙物件目録2記載1(1)の土地の共有持分及びP5が所有する同目録記載1(2)の区分所有建物(以下,両者を併せて「本件不動産2の1」という。)について,極度額を3600万円とする根抵当権の設定を受け(債務者有限会社P10),同月11日,その旨の登記(共同担保 目録(と)第○号)が経由された(甲9,10)。
(3) 控訴人の本件各不動産の差押えその1
ア 控訴人(神戸市α区長。以下「α区長」という。)は,P5に対し,平成14年2月28日,別紙1「P11信用組合 不当利得金返還請求事件神戸市充当関係」(以下「別紙1」という。)の「■市徴収金明細表」記載の平成11年度2期(同表①記載の債権。以下,同表記載の債権を「債権①」のように表す。)から平成13年度3期(債権⑩)までの固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」という。)外計1億5749万9600円及び延滞金額2909万3400円(平成14年2月27日までの計算)の市徴収金合計1億8659万3000円を徴収するため,本件建物1を差し押え,同年2月28日,その旨の登記が経由された(甲2,乙3)。
イ α区長は,P5に対し,平成14年2月28日,債権①から⑩までの上記市徴収金を徴収するため,本件不動産2の1を差し押さえ,同年3月4日,その旨の登記が経由された(甲9ないし12)。また,α区長は,P5に対し,平成15年8月15日,債権⑪から⑲までの市徴収金を徴収するため,本件不動産2の1について参加差押えをし(以下,上記の差押えを含めて「本件差押え2の1」という。),同月18日,その旨の登記が経由された(甲9,10,乙6)。
ウ α区長は,P5に対し,平成14年3月13日,債権①から債権⑪までの固定資産税等外計1億7520万4600円及び延滞金額2967万6200円(平成14年3月8日までの計算)の市徴収金合計2億0488万0800円を徴収するため,本件土地1を差し押さえ,同年3月13日,その旨の登記が経由された(甲1,乙4)。
エ α区長は,P5に対し,平成14年3月13日,債権①から⑪までの上記市徴収金を徴収するため,本件不動産2の3を差し押さえ(以下「本件差押え2の3」という。),同日,その旨の登記が経由された(甲22,23)。
(4) 本件不動産1に係る競売手続の開始等
P6銀行は,本件不動産1につき,前記(2)ア(ア)(イ)の根抵当権に基づき,不動産競売の申立てを行ったところ,神戸地方裁判所は,平成14年6月11日,競売開始決定(これに基づく競売手続を,以下「本件競売手続」という。)及び滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律に基づく続行決定をした。このときのP6銀行の被担保債権額は5750万円である。(甲1ないし3,弁論の全趣旨)
(5) 控訴人の本件各不動産の差押え等その2
ア α区長は,平成14年6月26日付けで,本件競売手続において,債権①から⑪までの固定資産税等計1億7520万4600円及び延滞金額3719万8200円(平成14年6月25日までの計算)の合計2億1240万2800円の市徴収金について交付要求をした(甲6)。
イ 控訴人(神戸市β区長。以下「β区長」という。)は,P5に対し,平成15年8月7日,平成13年度1期ないし4期(いずれも法定納期限等は平成13年5月1日),平成14年度1期ないし4期(いずれも法定納期限等は平成14年4月30日)及び平成15年度1期(法定納期限等は平成15年4月30日)の固定資産税等174万1000円及び延滞金の市徴収金を徴収するため,本件不動産5を差し押さえ(平成15年8月7日登記経由)(以下「本件差押え5の1」という。),また,控訴人(α区長)は,平成15年8月7日,P5に対し,債権①から⑲までの固定資産税等2億8822万1600円及び延滞金の市徴収金を徴収するため,本件不動産5を差し押さえた(同日登記経由。ただし,同年10月1日「参加差押え」に更正された。)(以下「本件差押え5の2」という。)。(甲43,44,乙23,24)。
ウ α区長は,P5に対し,平成15年8月8日,債権①から⑲までの上記市徴収金を徴収するため,本件不動産6を差し押さえ(以下「本件差押え6」という。),同月11日,その旨の登記が経由された(甲48ないし50,乙8)。
エ α区長は,P5に対し,平成15年8月8日,債権①から⑲までの上記市徴収金を徴収するため,本件不動産2の2を差し押さえ(以下「本件差押え2の2」という。),同月11日,その旨の登記が経由された(甲16,17,乙8)。
オ α区長は,P5に対し,平成15年8月8日,債権①から⑲までの上記市徴収金を徴収するため,本件不動産3を差し押さえ(以下「本件差押え3」という。),同月11日,その旨の登記が経由された(甲28ないし30,乙8)。
カ α区長は,P5に対し,平成15年8月8日,債権①から⑲までの上記市徴収金を徴収するため,原判決別紙物件目録4記載1の(1)及び(8)の不動産を差し押さえ(同月11日登記経由),同月18日,同目録4記載1の(2)ないし(7)の不動産を差し押さえた(同日ころ登記経由)(甲33ないし35,乙8,16。以下,上記各差押えを「本件差押え4の1」という。)。
キ α区長は,P5に対し,平成15年8月8日,債権①から⑲までの上記市徴収金を徴収するため,原判決別紙物件目録4記載2の(1)及び(6)の不動産を差し押さえ(同月11日登記経由),同月18日,同目録4記載2の(3)ないし(5)の不動産を差し押さえ(同月19日登記経由),同年10月6日,同目録4記載2(2)の不動産を差し押さえた(同月7日登記経由)(甲38ないし40,乙8,16,19。以下,上記各差押えを「本件差押え4の2」という。)。
(6) 本件不動産1に係る本件競売手続の結果
ア 本件不動産1は,本件競売手続において,代金4577万0100円(本件土地1につき1650万6410円,本件建物1につき2926万3690円,以下両者を併せて「本件競売代金」という。)で売却され,平成15年11月12日,代金が納付された(甲3,乙49)。
イ 本件競売手続において,同年12月25日,配当期日が開かれ,原判決別紙配当表記載のとおり,配当表が作成された。これに従って,P6銀行は,競売手続費用114万7716円と本件土地1についての代金から1609万2501円の配当を受け,控訴人は,本件建物1についての代金から,競売手続費用の一部を差し引いた残金2852万9883円の配当を受けた(甲3,4)。
ウ 控訴人(α区長)は,平成16年1月7日,P5に対し,受け入れた上記配当金2852万9883円を,いずれも差押え及び交付要求に係る債権⑤の本税1607万2300円の一部263万7083円,債権⑥の本税の全額818万7800円(以上につき,法定納期限等は平成12年5月31日。)及び債権⑩の本税の全額1770万5000円(法定納期限等は平成13年5月1日)にそれぞれ充当した旨の通知をした(甲4)。
(7) 本件不動産2の1ないし3に係る公売手続(以下「本件公売手続2」といい,本件不動産2の1に係るものを「本件公売手続2の1」,本件不動産2の2に係るものを「本件公売手続2の2」,本件不動産2の3に係るものを「本件公売手続2の3」という。)の実施と控訴人の充当
ア(ア) α区長は,平成16年5月20日,上記(3)イのとおり差し押さえないし参加差押えした本件不動産2の1を公売に付する旨の決定をし,同日,公売公告及び公売通知をした(甲13)。
(イ) α区長は,平成16年5月20日,上記(5)エのとおり差し押さえた本件不動産2の2を公売に付する旨の決定をし,同日,公売公告及び公売通知をした(甲19)。
(ウ) α区長は,平成16年5月20日,上記(3)エのとおり差し押さえた本件不動産2の3を公売に付する旨の決定)をし,同日,公売公告及び公売通知をした(甲25)。
イ(ア) α区長は,平成16年7月20日,本件不動産2の1の入札を実施し,同月27日,最高価申込者となった者に対して売却決定をし,同日,売却代金1658万9000円を受け入れた(甲12,14)。
(イ) α区長は,同月28日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に32万8600円,第2順位の本件差押え2の1に係る市徴収金に1626万0400円を配当した(甲12。以下,この配当を「配当2の1」という。)。
(ウ) α区長は,平成16年8月4日,上記配当金1626万0400円を,本件差押え2の1に係る債権⑤の本税残額1343万5217円及び債権④の本税1610万2500円のうちの282万5183円(以上につき,法定納期限等は平成12年5月31日)に充当する処理をした(甲15)。
ウ(ア) α区長は,平成16年7月20日,本件不動産2の2の入札を実施し,同月27日,最高価申込者となった者に対して売却決定をし,同日,売却代金1466万9000円を受け入れた(甲20,21)。
(イ) α区長は,平成16年7月28日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に24万6700円,第2順位の本件差押え2の2に係る市徴収金(債権⑲を除く。なお,債権⑲については,平成16年1月ころ別途弁済された。)に1442万2300円を配当した(甲18,21。以下,この配当を「配当2の2」という。)。
(ウ) α区長は,平成16年8月4日,上記配当金1442万2300円を,本件差押え2の2に係る債権⑱の本税1550万4800円(法定納期限等は平成15年4月24日)の内金として充当する処理をした(甲15)。
エ(ア) α区長は,平成16年7月20日,本件不動産2の3の入札を実施し,同月27日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金1270万円を受け入れた(甲26,27)。
(イ) α区長は,平成16年7月28日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に21万2000円を,第2順位の本件差押え2の3に係る市徴収金に1248万8000円を,それぞれ配当した(甲24,27。以下,この配当を「配当2の3」という。)。
(ウ) α区長は,平成16年8月4日,上記配当金1248万8000円を,本件差押え2の3に係る債権⑪の本税1770万5000円(法定納期限等は平成13年5月1日)の内金として充当する処理をした(甲15)。
オ α区長は,P5に対し,平成16年8月4日付けで,配当2の1ないし3により受け入れた配当金合計4395万8000円から,滞納処分費78万7300円を除いた4317万0700円について,債権④に282万5183円,債権⑤に1343万5217円,債権⑪に1248万8000円,債権⑱に1442万2300円を,それぞれ充当した旨の通知をした(甲15)。
(8) 本件不動産3に係る公売手続(以下「本件公売手続3」という。)の実施と控訴人の充当
ア α区長は,平成16年9月24日,上記(5)オのとおり差し押さえた本件不動産3を公売に付する旨の決定をし,同月30日,公売公告及び公売通知をした(甲30,乙13)。
イ α区長は,平成16年11月30日,入札を実施し,同年12月7日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金1650万円を受け入れた(甲31,32)。
ウ α区長は,平成16年12月8日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に24万円,第2順位の本件差押え3に係る市徴収金(債権⑲を除く。)に1626万円を配当した(甲32。以下,この配当を「配当3」という。)。
エ α区長は,平成16年12月13日,上記配当金1626万円のうち,21万2000円を本件不動産3と同時に公売を行ったが売却決定されなかった別物件の滞納処分費に,残余の1604万8000円を本件差押え3に係る債権⑰の本税2214万3000円(法定納期限等平成15年4月24日)の内金1496万5500円及び債権⑱の本税(法定納期限等平成15年4月24日)の残額108万2500円に充当する処理をし,その旨P5に通知した(乙15)。
(9) 本件不動産4の1,2に係る公売手続(以下「本件公売手続4」という。)の実施と控訴人の充当
ア(ア) α区長は,平成16年12月10日,上記(5)カのとおり差し押さえた本件不動産4の1を公売に付する旨の決定をし,同月13日,公売公告及び公売通知をした(甲35,乙17)。
(イ) α区長は,平成16年12月10日,上記(5)キのとおり差し押さえた本件不動産4の2を公売に付する旨の決定をし,同月13日,公売公告及び公売通知をした(甲40,乙20)。
イ(ア) α区長は,平成17年2月8日,本件不動産4の1の入札を実施し,同月15日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金1912万円を受け入れた(甲36,37)。
(イ) α区長は,平成17年2月15日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に37万9000円,第2順位の本件差押え4の1に係る市徴収金(債権⑲を除く。)に1874万1000円を配当した(甲37。以下,この配当を「配当4の1」という。)。
(ウ) α区長は,平成17年2月22日,上記配当金1874万1000円を本件差押え4の1に係る債権⑯の本税2214万4000円(法定納期限等平成15年4月24日)の内金1156万3500円及び債権⑰の本税(法定納期限等平成15年4月24日)の残額717万7500円に充当する処理をし,その旨P5に通知した(乙22)。
ウ(ア) α区長は,平成17年2月8日,本件不動産4の2の入札を実施し,同月15日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金2350万円を受け入れた(甲41,42,乙20)。
(イ) α区長は,平成17年2月15日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に35万5900円,第2順位の本件差押え4の2に係る市徴収金(債権⑲を除く。)に2314万4100円を配当した(甲42。以下,この配当を「配当4の2」という。)。
(ウ) α区長は,平成17年2月22日,上記配当金2314万4100円を本件差押え4の2に係る債権⑮の本税2095万2000円(法定納期限等平成15年4月24日)の内金1256万3600円及び債権⑯の本税(法定納期限等平成15年4月24日)の残額1058万0500円に充当する処理をし,その旨P5に通知した(乙22)。
(10) 本件不動産5に係る公売手続(以下「本件公売手続5」という。)の実施と控訴人の充当
ア β区長は,平成17年1月31日,上記(5)イのとおり差し押さえた本件不動産5を公売に付する旨の決定をし,同年2月3日,公売公告及び公売通知をした(甲45,乙25)。
イ β区長は,平成17年4月5日,入札を実施し,同月12日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金3639万円を受け入れた(甲46,47)。
ウ β区長は,平成17年4月12日,受け入れた上記売却代金について,第1順位の滞納処分費に38万0100円,第2順位の本件差押え5の1に係る市徴収金に246万4300円(そのまま充当),第3順位のα区長の本件差押え5の2に係る市徴収金(債権⑲を除く。)に3354万5600円を配当した(甲45,47,乙27。以下,この配当を「配当5」という。)。
エ α区長は,平成17年4月25日,上記配当金3354万5600円を本件差押え5の2に係る債権⑫の本税2095万3000円(法定納期限等平成14年4月30日)の内金162万0938円,債権⑬の本税(法定納期限等平成14年4月30日)の全額2095万2000円及び債権⑭の本税2095万2000円(法定納期限等平成14年4月30日)の内金1097万2662円に充当する処理をし,その旨P5に通知した(乙28)。
(11) 本件不動産6に係る公売手続(以下「本件公売手続6」といい,本件公売手続2から6までを併せて「本件各公売手続」という。)の実施と控訴人の充当
ア α区長は,平成17年2月10日,上記(5)ウのとおり差し押さえた本件不動産6を公売に付する旨の決定をし,同月22日,公売公告及び公売通知をした(甲50,乙30)。
イ α区長は,平成17年4月5日,入札を実施し,同月12日,最高価申込者と決定された者に対して売却決定をし,同日,売却代金1030万円を受け入れた(甲51,52,乙30)。
ウ α区長は,平成17年4月12日,受け入れた上記売却代金について,本件差押え6に係る市徴収金(債権⑲を除く。)に1030万円を配当した(甲52。以下,この配当を「配当6」といい,配当1から6までを併せて「本件各配当処分」という。)。
エ α区長は,平成17年4月19日,上記配当金1030万円を本件差押え6に係る債権⑭の本税(法定納期限等平成14年4月30日)の残額997万9338円及び債権⑮の本税(法定納期限等平成14年4月30日)の残額32万0662円に充当する処理をし,その旨P5に通知した(乙32)。
(12) 上記の控訴人のした充当関係は,別紙1のとおり(ただし,Ⅱ表ないしⅥ表の各番号⑲の税額欄の税額は「0」)である。
(13) 被控訴人の提起した別件訴訟
ア 被控訴人は,平成16年11月15日,本件公売手続2(前記(7))において,控訴人の市徴収金に配当が行われたことを不服として,α区長を被告とする配当処分取消訴訟を神戸地方裁判所に提起した(同庁平成○年(行ウ)第○号(甲53)。以下「別件配当処分取消訴訟」という。)。
イ 神戸地方裁判所は,平成19年4月20日,本件競売手続により,控訴人の債権①から③までのうち,債権①及び②の本税の全額並びに債権③の本税の一部は消滅したものとして,本件公売手続2の1ないし3の配当を実施すべきであり,本件公売手続2の2においては,これらの債権の残存部分を除けば,被控訴人が最優先の根抵当権を有するところ,本件公売手続2の1ないし3は同時に実施されているので,当事者の公平上,上記残存部分は各不動産の換価代金に応じて案分して割り付けた上で,本件公売手続2の2における被控訴人の根抵当権との優劣を判断すべきであるなどとして,債権①から③までの全額が残存することを前提としてされた,本件公売手続2の2における控訴人の租税債権に対する配当額のうち245万4318円の部分について取り消し,その余の訴え・請求を却下又は棄却する旨の判決を言い渡した(甲53)。
ウ α区長が上記判決について大阪高等裁判所に控訴を提起した(同庁平成○年(行コ)第○号)ところ,同裁判所は,平成20年4月23日,本件競売手続の配当が債権①から③までに充当されたとしても,本件公売手続2の1及び同2の3と本件公売手続2の2とについて,その先後にかかわらず被控訴人が配当を受ける余地がない(上記イのように,控訴人の債権を各不動産の換価代金に応じて案分した上で,被控訴人の根抵当権との優劣を判断すべきものとする法律上の根拠がない)などとして,上記判決の請求認容部分を取り消して,当該部分の請求を棄却する旨の判決を言い渡した(乙2)。被控訴人は,上記判決について上告及び上告受理の申立てをしたが,平成20年10月10日,上告棄却,上告不受理決定により確定した(乙47)。
2 本件の争点
本件においては,(a)本件不動産1並びに本件不動産2の1及び2の3に係る被控訴人の根抵当権(本件不動産1は抵当権。以下同じ。)の設定は,債権①から⑪までの法定納期限等に後れ,債権⑫以下のそれに先行し,(b)本件不動産5に係る被控訴人の根抵当権の設定は,債権①から⑦までの法定納期限等に後れ,債権⑧以下のそれに先行し,(c)本件不動産2の2及び本件不動産3,4,6に係る被控訴人の根抵当権の設定は,債権①から③までの法定納期限等に後れ,債権④以下のそれに先行するところ,(d)控訴人が,本件競売手続(本件建物1関係)において,債権①から⑦までにつき被控訴人の根抵当権及びP6銀行の根抵当権に優先するものとして配当を受けながら,このうちで法定納期限等が最も先行する債権①から③までではなく,債権⑤及び⑥,さらには,優先権の根拠となっていない債権⑩に充当したこと,(e)これに続く公売手続においても,上記充当に基づいて,債権①から③までが残存すること前提として,被控訴人の根抵当権との優先関係を判断した上で,その配当を債権④以下に充当していったことの適否並びに不当利得の成否及びその範囲が争われているものと要約できる。
3 争点に関する当事者の主張
(被控訴人の主張)
(1) 本件競売手続における控訴人による配当金の充当処理は,以下に述べるとおり,法定納期限等が先に到来する債権①から③までの各市徴収金が存在しているにもかかわらず,法定納期限等が後れる債権⑤の一部及び債権⑥,P6銀行による根抵当権の設定時期よりも後れる債権⑩に充当している点において誤っており,違法である。また,上記の充当処理を前提としてされた,本件公売手続2の1ないし3及び本件公売手続3ないし6の充当処理又は配当も,以下に述べるとおり,違法である。
ア 本件競売手続について
(ア) 本件競売代金は4577万0100円(本件土地1につき1650万6410円,本件建物1につき2926万3690円)であり,手続費用は114万7716円であったから,本件競売手続において配当すべき金額は,上記売却代金から手続費用を控除した4462万2384円となる。
(イ) 上記配当すべき金額は,債権全額を消滅させるに足りないことから,優先順位に従った充当の順位を定める必要があるが,一般に,納税者の総財産について,地方団体の徴収金とその他の債権が競合する場合,別段の定めがある場合を除き,地方税が優先する(地方税法14条)ところ,同法14条の10によれば,納税者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前に抵当権を設定しているときは,その地方団体の徴収金は,その換価代金につき,その抵当権により担保される債権に次いで徴収する旨定められている。すなわち,納税者が設定した抵当権の被担保債権は,地方団体の徴収金の法定納期限等以前に抵当権が設定され,登記されている限り,同徴収金に優先することとなる。
(ウ) 本件不動産1に係る抵当権設定登記の日と控訴人の各徴収金の法定納期限等との先後関係は,原判決別紙1の「設定時期ないし法定納期限」欄記載のとおりである。
(エ) 以上の各債権について,前記(イ)の優先順位に従って配当すると,以下のとおりとなる。
① P6銀行は,本件土地1について最先順位の根抵当権を有しているから,本件土地1の換価代金については,P6銀行が優先する。
本件土地1の換価代金は1609万2501円であり,P6銀行が有する被担保債権の額5750万円を超えないから,同換価代金の全額がP6銀行に対して配当されることとなる。
② 本件建物1について,控訴人の有する債権①から③まで(以上につき,法定納期限等平成11年4月30日)及び債権④から⑦まで(以上につき,法定納期限等平成12年5月31日)に優先する抵当権等はないから,上記各債権について本件建物1の換価代金から優先して配当されるべきところ,本件建物1の換価代金は2852万9883円であり,控訴人の有する債権①から③までの本税額の合計を超えないから,この換価代金全額が控訴人に配当されることとなる。
ただし,本件競売手続の場合,控訴人が受け入れた上記配当金2852万9883円では,配当の対象となった債権すべてを消滅させるには足りないところ,この場合,地方税法373条7項,国税徴収法129条5項の規定により,固定資産税等の滞納処分に適用される民法489条及び地方税法14条の5第1項に従い,債権①の本税1168万9000円の全額,債権②の本税1418万9000円の全額,及び債権③の本税の一部に当たる265万1883円に充当されるべきものとなる(原判決別紙3のⅡ表の「平成16年1月7日P6銀行競売事件配当金充当後の明細表」参照)。
(オ) ところが,控訴人は,前記前提事実(6)ウのとおり,受け入れた上記配当金2852万9883円を,債権⑤の本税の一部263万7083円,債権⑥の本税818万7800円の全額(以上につき,法定納期限等平成12年5月31日)及び債権⑩の本税1770万5000円の全額(法定納期限等平成13年5月1日)にそれぞれ充当しており(別紙1のⅠ表参照),控訴人によるこの充当処理は無効である。
イ 本件公売手続2について
(ア) 本件不動産2の1ないし3に係る根抵当権の設定時期,市徴収金の法定納期限等の先後関係は,原判決別紙2の「目録2-1」,「目録2-2」,「目録2-3」の各部分に対応した「設定時期ないし法定納期限」欄記載のとおりである。
(イ) 本件公売手続2において,本件不動産2の1ないし3の各物件の換価代金(ただし,滞納処分費を控除した残余のもの。以下同じ。)の合計4317万0700円(内訳は,本件不動産2の1につき1626万0400円,同2の2につき1442万2300円,同2の3につき1248万8000円)のうち,まず,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金である債権③の本税のうち上記ア(エ)の充当後の残額1153万7117円と,債権①から③までの延滞金の合計2428万7000円(内訳は,債権①の延滞金762万5500円,債権②の延滞金791万9200円,債権③の延滞金874万2300円)の合計3582万4117円(以上につき,法定納期限等平成11年4月30日)に配当されるべきこととなり,その範囲で市徴収金は消滅した(原判決別紙3のⅡ表の「神戸市α区役所による平成16年8月4日公売配当金充当後の明細表」参照)。
(ウ) ところが,控訴人は,前記前提事実(7)イ(ウ),ウ(ウ),エ(ウ)のとおり,受け入れた上記配当金4317万0700円を,債権④に282万5183円,債権⑤に1343万5217円(以上につき法定納期限等平成12年5月31日),債権⑪に1248万8000円(法定納期限等平成13年5月1日),債権⑱に1442万2300円(法定納期限等平成15年4月24日),それぞれ充当しており(別紙1のⅡ表参照),控訴人によるこの充当処理は無効である。
(エ) そして,他に被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金はないから,控訴人が配当金として受領した上記4317万0700円から正しく充当されるべき3582万4117円を控除した残額734万6583円は法律上の原因を欠いた利得であり,他方,被控訴人には,同額の損失が生じ,両者の間には因果関係がある。
ウ 本件公売手続3について
(ア) 本件不動産3に係る根抵当権の設定時期,市徴収金の法定納期限等の先後関係は,原判決別紙2の「目録3」部分に対応した「設定時期ないし法定納期限」欄記載のとおりであり,公売手続を実施する時点において,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金はすべて消滅しており,残存していない。
(イ) ところが,控訴人は,上記公売手続に係る本件不動産3の換価代金1626万円を,前記前提事実(8)エのとおり,すべて市徴収金の内金に対して配当・充当しており,控訴人によるこの充当処理は無効である。
エ 本件公売手続4について
(ア) 本件不動産4に係る根抵当権の設定時期,市徴収金の法定納期限等の先後関係は,原判決別紙2の「目録4-1」,「目録4-2」部分に対応した「設定時期ないし法定納期限」欄記載のとおりであり,公売手続を実施する時点において,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金はない。
(イ) ところが,控訴人は,本件不動産4の換価代金4188万5100円を,前記前提事実(9)イ(ウ),ウ(ウ)のとおり,すべて市徴収金の内金に対して配当・充当しており,控訴人によるこの充当処理は無効である。
オ 本件公売手続5について
(ア) 本件不動産5に係る根抵当権の設定時期,市徴収金の法定納期限等の先後関係は,原判決別紙2の「目録5」部分に対応した「設定時期ないし法定納期限」欄記載(ただし,「H12.5.25」とあるのは,「H12.6.5」と訂正する。)のとおりであり,公売手続を実施する時点において,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金は債権④ないし⑦である。
(イ) ところが,控訴人は,同公売事件に係る本件不動産5の換価代金3600万9900円を,前記前提事実(10)エのとおり,上記債権④ないし⑦以外の市徴収金の内金に対して配当・充当しており,控訴人によるこの充当処理は無効である。
カ 本件公売手続6について
(ア) 本件不動産6に係る根抵当権の設定時期,市徴収金の法定納期限等の先後関係は,原判決別紙2の「目録6」部分に対応した「設定時期ないし法定納期限」欄記載のとおりであり,公売手続を実施した時点において,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金はない。
(イ) ところが,控訴人は,本件公売手続6に係る本件不動産6の換価代金1030万円を,前記前提事実(11)エのとおり,すべて市徴収金の内金に対して配当・充当しており,控訴人によるこの充当処理は無効である。
(2) まとめ
上記(1)のウからカまでにおいて控訴人に対してされた各配当額1億0445万5000円は,いずれも法律上の原因を欠いた利得であり,他方,被控訴人には,同額の損失が生じ,両者の間には因果関係がある。
そして,上記(1)のイの無効となる配当額734万6583円との合計1億1180万1583円は,控訴人の不当利得となる。
(3) α区長の行った上記充当処理は,明らかに地方税法の規定に反するものであり,控訴人は悪意の受益者というべきであるから,本件不当利得返還請求に係る利息の起算日はα区長が充当処理をした日の翌日とされるべきである。
(4) 充当に関する控訴人の反論に対する再反論
控訴人は,複数の租税債権の滞納処分としてなされた差押処分は,債権ごとに複数の租税債権が競合するのではなく,差押債権は1個であるから,換価代金等をその複数の滞納税額に充当する場合には,「租税相互間の同順位徴収の原則」により,いずれも同順位であり,いずれの租税債権から充当するかは課税庁の自由裁量で定めることができる旨主張するが,以下のとおり失当である。そもそも充当とは,権利義務関係の変動に何ら変更を加えることなく徴税庁が内部的に処理するものにすぎないから,充当に際して第三者の権利関係に対して影響を及ぼすことは想定されていない。配当は,徴収庁が公売に係る換価代金を地方税法14条の10等の規定に従って,その差押え,交付要求に係る地方税等や抵当権者等の私債権に対して分配することであり(国税徴収法129条1項),充当は,徴収庁が,この配当により自己の具体的な年度,期,税目の税金に分配を受けた金銭をその具体的な年度,期,税目の税金に充てて,徴収庁と債務者たる滞納者との間の債権債務関係を消滅させるものにすぎない。法が充当に関して国税徴収法129条6項の本税優先の原則を定めているからといって,充当に関する法律上の規律が他にないのではなく,上記のとおり,配当に関する国税徴収法の規律に従って充当の内容及びその方法は拘束されているのである。また,控訴人の主張する「租税相互間の同順位徴収の原則」なるものは,法律上どこにも規定されていない。
現行の国税徴収法及び地方税法1章7節(地方税優先の原則及び地方税と他の債権との調整)は,昭和34年に全文改正されたが,同改正の趣旨は,租税徴収の確保とともに,私法秩序の尊重と徴収制度の合理化にある。そして,国税通則法123条の趣旨は,国税徴収法等の上記改正経過から,租税の優先権と私法上の担保制度との調整としての基本的考え方である「予測可能性」を実現する手段を制度化したことにある。控訴人が本件で行った充当処理は,上記の予測可能性の原則ひいては私法秩序の尊重に係る上記改正の趣旨に明らかに反するものであり,公債権としての保護の範囲を逸脱したものである。
(5) 控訴人の主張(1)に対する反論
抵当権者は,抵当権の効力として抵当不動産の交換価値を実体法上把握しており,当該抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのであるから,他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたために優先弁済を受ける権利を侵害されたときは,当該他の債権者に対し,その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の不当利得返還請求をすることができる。滞納処分の手続における配当も,民事執行法上の不動産競売手続における配当と同様に,その受領資格を有する債権の存否,金額,順位等について,実体法上の権利関係を確定する効力を有するものではないから,本件各公売手続における各配当についても,控訴人が本来他の債権に配当すべき換価代金等を誤って配当した場合には,配当を受けた控訴人の不当利得となるものと解される。本件では,被控訴人は控訴人に対して,控訴人の不当利得の返還を求めており,かかる実体法上の問題を審理の対象とするものであるところ,本件各公売手続上の配当処分が公定力を有することが,被控訴人の本件不当利得返還請求を排斥する理由となり得ないことは明らかである。
本来,法定納期限等が担保権設定時期よりも劣後するにもかかわらず,事実上優先して配当を受けることはできる場合は,地方税法14条の20が適用される場合に限られているところ,本件はそのような場合に該当しない。したがって,控訴人の本件競売手続における充当及び本件各公売手続における充当は,いずれも法律上の根拠を有しないものであるから,重大かつ明白な瑕疵に当たる。
(控訴人の主張)
(1) 本件不当利得返還請求の可否について
ア 本件各配当処分の公定力について
本件各配当処分に瑕疵があり,違法なものであっても,当該配当処分が取り消されて公定力が排除されるまで,その処分は有効であるから,当該配当が法律上の原因を欠き,受領した配当金が不当利得となるものではない。
被控訴人は,配当2の1ないし3について,別件配当処分取消訴訟を提起し,敗訴したのであるから,上記配当処分は,有効に存続している。
また,配当処分が無効な原因によって行われた場合には,当該配当も法律上の原因を欠くことになると解されているが,配当処分が無効といえるためには,瑕疵が重大な法規違反であり,かつ,その瑕疵が明白であることが必要であるところ,本件においては,本件各公売手続による配当処分に重大な法規違反があるといえない。
したがって,本件各配当処分の公定力により,控訴人は,本件各配当処分によって受領した配当金について,法律上の原因なく利得を得たということはできない。
イ 配当2の1ないし3に係る不当利得返還請求について
配当2の1ないし3に係る別件配当処分取消訴訟と本件不当利得返還訴訟とは,充当の違法を主張する点において争点は同一であるところ,配当2の1ないし3に係る配当についての本件不当利得返還請求は,別件配当処分取消訴訟の確定後に形を変えて同一の違法事由を主張している請求であり,既判力に抵触している。
ウ 配当3,同4の1,2,同5,6に係る不当利得返還請求について
被控訴人は,本件公売手続3ないし6に係る配当処分については,その各配当処分の取消訴訟を提起していないが,本件において主張する上記各配当処分についての無効事由は,別件配当処分取消訴訟と同一であり,再度,上記各配当処分の無効を主張し,不当利得返還を請求することは著しく信義則に違反し,許されない。
(2) 被控訴人の主張に対する反論
ア 国税徴収法129条5項の規定は,配当すべき順位に係る規定であって,充当に関する規定ではなく,また,同条6項は,本税たる国税にまず充当することを定めているだけであって,納期限の異なる国税(地方税)の本税相互の充当順位については何ら規定がない。
イ 租税債権相互間の優先関係は,差押先着手主義(地方税法14条の6)ないし交付要求先着手主義(同法14条の7)によることから,法定納期限等に関係なく優劣が決定されるのであり,法定納期限等は,租税債権相互間の優先順位に関係していない。
そして,複数の租税債権の滞納処分としてなされた差押処分は,債権ごとに複数の差押処分が競合しているのではなく,1個であるから,換価代金等をその複数の滞納税額に充当する場合においては,「租税相互間の同順位徴収の原則」により,いずれも同順位であり,いずれの租税債権から充当するかは課税庁の自由裁量で定めることができる。
ウ 国税及び地方税は,強制換価手続において,他の債権の競合する場合には,別段の規定がない限り,すべて公課その他の債権に優先する(租税債権優先の原則。国税徴収法8条,地方税法14条)。その別段の規定として,地方税法14条の10があるところ,同条は,納税者の財産について地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは,抵当権の被担保債権が保護されることを規定しているが,それは,滞納処分の対象となった財産ごとに,換価代金の範囲内において抵当権の被担保債権となっている私債権が優先する規定になっているにすぎず,納税者の他の財産も対象にして優先関係を規定しているものではないし,配当後の租税債権をどの債権に充当するかを定めているものではない。したがって,その他に別段の規定がない以上,当該滞納処分の対象となった財産の換価代金の範囲内で優先しなかった私債権は,租税債権優先の原則により,すべての租税債権に劣後することになる。
(3) 予備的主張1
控訴人は,市徴収金の充当後,充当した市税の内容及び充当後の未納市税を記載した「市税充当通知書」をP5に送付し,充当内容を通知したが,P5は,何ら異議を述べなかった。
したがって,本件各充当は,民法488条2項による指定充当が適法になされており,控訴人に不当利得が生じることはない。
(4) 予備的主張2
地方税法14条の10を単純にあてはめて,被控訴人の根抵当権の設定登記日と控訴人の市徴収金の法定納期限等とを比較して,その先後により優先債権の額を決定する立場に立ったとしても,以下の内容により,控訴人は,別紙2〔別表1〕「1審被告充当による1審原告の「損失」について」のとおり充当することができるので,控訴人に不当利得はない。
ア 延滞金は,各年度各期における納期限の翌日から納付の日までの期間の日数に応じ,年14.6%(当該納期限の翌日から1月を経過する日までの期間については,年7.3%)の割合を乗じて計算し(地方税法369条,702条の8),一部納付があった場合の額の計算については,当該納付された税額を控除した金額を基礎に計算し(同法20条の9の4),同法附則3条の2に規定する特例基準割合適用年に該当する場合には,各年の特例基準割合とし,閏年については,利率等の表示の年利建て移行に関する法律3条,25条,神戸市市税条例13条2項の規定により365日当たりの割合によるものとし,延滞金の確定金額については,100円未満を切り捨てる。
イ 本件競売事件及び本件公売手続2については,別件配当処分取消訴訟において確定しているので,控訴人のした充当のとおりとする。
ウ 本件公売手続3については,債権①ないし③が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権③の本税全額と延滞金の一部に充当する。
エ 本件公売手続4については,債権①ないし③が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権③の延滞金残額全部,債権②の本税全額及び延滞金全額,債権①の本税の一部に充当する。
オ 本件公売手続5については,債権①及び④ないし⑦が被控訴人の根抵当権に優先するから,β区長に配当された残額の配当金額を,債権⑤ないし⑦の延滞金全額,債権④の本税全額と延滞金の一部に充当する。
カ 本件公売手続6については,債権①が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を債権①の本税残額全部及び延滞金の一部に充当する。
(5) 予備的主張3
予備的主張2が認められないとしても,以下の内容により,控訴人は,別紙3〔別表2〕「1審被告充当による1審原告の「損失」について」のとおり充当することができるので,控訴人に不当利得はない。
ア 延滞金については,上記(4) アのとおり。
イ 本件競売事件については,債権①ないし⑦が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権⑦の延滞金全額,債権⑥の本税及び延滞金全額,債権⑤の本税の一部に充当する。
ウ 本件公売手続2の1については,債権①ないし⑪が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権⑪の本税の一部に充当する。
エ 本件公売手続2の2については,債権①ないし③が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権③の本税全額と延滞金の一部に充当する。
オ 本件公売手続2の3については,債権①ないし⑪が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権⑪の本税残額及び延滞金全額と債権⑩の本税の一部に充当する。
カ 本件公売手続3については,債権①ないし③が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権③の延滞金残額全部と債権②の本税の一部に充当する。
キ 本件公売手続4については,債権①と②が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権②の本税残額及び延滞金全額と債権①の本税及び延滞金全額(以上合計3872万5900円)に充当する。ただし,この場合,控訴人は,配当金額の4188万5100円との差額315万9200円を不当利得していることになる。
ク 本件公売手続5については,債権④と⑤が被控訴人の根抵当権に優先するから,配当金額を,債権⑤の本税残額及び延滞金全額と債権④の本税全額及び延滞金の一部に充当する。
ケ 本件公売手続6については,被控訴人の根抵当権に優先する市徴収金がないので,控訴人は,配当金額1030万円を不当利得したことになる。
コ したがって,仮に上記の方法で計算するとしても,控訴人の不当利得金額は,上記キとケの合計1345万9200円にすぎない。
第3争点に対する判断
1 本件不当利得返還請求の可否について
(1) 民事執行法上の不動産競売手続において,抵当権者は,債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対して,その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の金員の返還を請求することができるものと解するのが相当であり,このことは,当該抵当権者が不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかった場合であっても同様である。なぜなら,抵当権者は,抵当権の効力として抵当不動産の交換価値を実体法上把握しており,当該抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのであるから,他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたために優先弁済を受ける権利が害されたときは,同債権者は同抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け,同抵当権者に損失を及ぼしたものであり,また,配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され,この配当表に従って配当が実施された場合においても,配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく,したがって,上記利得に法律上の原因があるとすることはできないからである(最高裁平成3年3月22日第二小法廷判決・民集45巻3号322頁参照)。
(2) 滞納処分の手続における配当も,受領資格のある債権の存否,その金額,その順位等について実体法上の権利関係を確定する効力を有するものでないことは,民事執行法上の不動産競売手続における配当と異ならないから,徴収庁が本来他の債権に配当すべき換価代金等を誤って配当した場合には,配当を受けた債権者の不当利得となるものと解される。したがって,この場合には,本来配当を受けるべき権利のあった者は,配当を受けた債権者に対して不当利得の返還を請求することができるというべきである。
(3) 本訴において,被控訴人は,本件競売手続における控訴人による配当金の充当処理が誤っており,違法であり,この充当処理を前提としてされた本件各公売手続の充当処理又は配当(本件各配当処分)も違法であると主張して,法律の規定に従って充当処理を行った場合に被控訴人に配当されるべき金額を控訴人が不当に利得し,被控訴人は同額の損失を被ったとして,不当利得返還請求をするものである。
控訴人は,公売手続における配当処分に瑕疵があっても,当該配当処分が取り消されて公定力が排除されるまで,その処分は有効であるから,被控訴人の主張する不当利得は成立しないと主張する。
しかしながら,上記(2)で判示したとおり,公売手続における配当処分は,受領資格のある債権の存否,その金額,その順位等について実体法上の権利関係を確定する効力を有するものではないのであって,実体法に反して行われた配当により抵当権者の権利が害された場合には,当該配当は無効と解すべきであるから,抵当権者は,配当処分に対する取消訴訟を提起することなく,不当利得返還請求訴訟を提起することを妨げられないというべきである。
公売手続における配当処分に公定力があることを前提に,当該配当処分に瑕疵があっても,当該配当処分が取り消されるまで不当利得返還請求は排斥されるとする控訴人の上記主張は,理由がない。
(4) 被控訴人が提起した配当2の1ないし3に係る別件配当処分取消訴訟は,被控訴人の請求をすべて理由がないとして棄却(一部については却下)する判決が確定しており(前提事実(13),甲53,乙2),請求棄却判決の既判力により,配当2の1ないし3については,請求棄却に係る部分の配当処分が違法でないという裁判所の判断に反する主張を被控訴人がすることは許されないことになる。しかしながら,本件配当2の1ないし3について行われた充当処理が違法かどうかということに既判力を生じるわけではないから,上記充当処理の適否について,本件各配当処分のその余のものの関係で不当利得の存否を判断するために本訴で審理することは何ら妨げられないというべきである。
さらに,被控訴人は,配当3,同4の1,2,同5,6に係る配当処分について,取消訴訟を提起していないが,本件において主張する上記各配当処分についての無効事由は,別件配当処分取消訴訟と同一であるから,本訴で不当利得返還請求をすることは信義則に反すると主張する。しかし,上記(3)で説示したとおり,配当処分に対して取消訴訟を提起し得ることは,配当が実体法に反して行われ抵当権者が損失を被ったとして不当利得返還請求をすることの妨げとはならず,配当3,同4の1,2,同5,6に係る配当処分は,別件配当処分取消訴訟の対象となった配当処分とは別個のものであるから,これらの配当処分に係る不当利得返還請求訴訟を提起することは,別件配当処分取消訴訟と同様の無効事由を主張するものであっても,信義則に反して許されないということはできず,控訴人の上記主張は根拠を欠くものであり,採用することはできない。
2 控訴人による充当の適否について
(1) 本件競売手続について
前提事実によれば,控訴人(α区長)は,本件競売手続の開始前に,債権①から⑩までの市徴収金を徴収するため,本件建物1の差押えをし,本件競売手続において,債権①から⑪までの市徴収金について交付要求していたところ,本件競売手続の配当金を,法定納期限等が先行する債権①ないし③(法定納期限等はいずれも平成11年4月30日)等に充当せずに,債権⑤の本税の一部及び債権⑥の本税全額(法定納期限等はいずれも平成12年5月31日)並びに債権⑩の本税全額(法定納期限等は平成13年5月1日)に充当している。これに対して,P6銀行のために本件建物1について根抵当権設定登記が経由されたのは,平成12年12月25日であり,被控訴人のために本件建物1についての抵当権設定登記が経由されたのは,平成13年5月25日と同年6月4日である。
そこで,被控訴人は,控訴人の受けた配当金は,配当の対象となった債権すべてを消滅するには足りないので,地方税法373条7項,国税徴収法129条5項の規定により,固定資産税等の滞納処分に適用される民法489条及び地方税法14条の5第1項に従い,債権①から③の順に充当すべきであると主張するので検討する。
まず,地方税法373条7項により固定資産税に係る地方団体の徴収金の滞納処分については,国税徴収法に規定する滞納処分の例によるとされるところ,国税徴収法129条5項は,「換価代金等が第1項各号に掲げる国税その他の債権の総額に不足するときは,税務署長は,第2章(国税と他の債権との調整),第59条第1項後段,第3項及び第4項(これらの規定を第71条第4項において準用する場合を含む。),前項並びに民法その他の法律の規定により配当すべき順位及び金額を定めて配当しなければならない。」と規定している。同規定は,換価代金等が第1項各号(差押えに係る国税(1号),交付要求を受けた国税,地方税及び公課(2号),差押財産に係る質権,抵当権,先取特権,留置権又は担保のための仮登記により担保される債権(3号),第59条第1項後段,第3項又は第4項(第三者の損害賠償請求権等への配当)(これらの規定を第71条第4項(自動車等についての準用規定)において準用する場合を含む。)の規定を受ける損害賠償請求権又は借賃に係る債権(4号))に掲げる債権の総額に不足する場合に,その配当の順位及び金額を定めたものであり,同規定の「民法・・・の規定により配当」するという趣旨は,上記配当の順位及び金額を確定する場合に民法の規定を適用するというものであって,その配当された金額の充当について民法の規定を適用することまでを定めたものではないと解される。
そして,地方税法14条の5第1項は,「地方団体の徴収金を滞納処分により徴収する場合において,当該地方団体の徴収金に配当された金銭を地方税及び当該地方税の延滞金,過少申告加算金,不申告加算金又は重加算金に充てるべきときは,その金銭は,まず地方税に充てるものとする。」と規定しているが,地方税(本税)相互の充当関係について何らの規定もしていない(なお,国税に関する国税徴収法129条6項もまず国税(本税)に充てなければならない旨を規定しているが,国税相互の充当関係についての規定はない。)。
次に,地方税法14条の10は,「納税者又は特別徴収義務者が地方団体の徴収金の法定納期限等以前にその財産上に抵当権を設定しているときは,その地方団体の徴収金は,その換価代金につき,その抵当権により担保される債権に次いで徴収する。」と規定している。これを本件についてみると,本件競売手続において,本件建物1については,控訴人の債権①ないし⑦は,P6銀行の根抵当権設定登記日に優先しているために控訴人に対してその分の配当がなされたが,控訴人(α区長)が充当した債権⑩を含む債権⑧ないし⑪については,これに劣後している(なお,債権①ないし⑪は,いずれも被控訴人の抵当権設定登記日には,優先している。)。しかし,地方税法14条の10は,地方団体の徴収金の法定納期限等以前に当該物件に設定された抵当権が地方団体の徴収金に優先することを定めたものであり,当該抵当権に優先して徴収された地方団体の徴収金を,常に当該抵当権に優先する地方団体の徴収金のみに充当しなければならないことまでを定めたものと解することはできない。
すなわち,地方税法14条の6は,滞納処分による差押えをした場合は,その換価代金について,交付要求のあった他の地方団体の徴収金又は国税に優先して徴収すると定め(差押先着手主義。なお,国税徴収法12条も同様の規定をしている。),地方税法14条の7は,上記と同趣旨の交付要求先着手主義を定めている(国税徴収法13条も同様の規定をしている。)ところ,上記差押先着手主義ないし交付要求先着手主義の規定からすると,本件競売手続において,本件建物1については,P6銀行の根抵当権に優先する控訴人の債権①ないし⑦に相当する部分について控訴人に対して配当がなされたが,仮に,控訴人がした本件建物1についての差押えに先行して他の租税債権者が本件建物1についての差押えをしていたとするならば,その租税債権の法定納期限等が控訴人の債権①ないし⑦の後であり,かつ,P6銀行の根抵当権設定日の後であったとしても,上記の租税債権者が控訴人の債権①ないし⑦に相当する部分についての配当を受けることができることなる。したがって,上記のような場合には,租税債権の法定納期限等については,競売事件における租税債権等の公債権に対する配当の順位を定めるためのものにすぎず,その配当金がどの租税債権に配当ないし充当されるかについては意味を持っていないことになる。
さらに,地方税法14条の20(地方税及び国税等と私債権との競合の調整)は,強制換価手続において地方団体の徴収金が国税,他の地方団体の徴収金又は公課及びその他の債権(私債権)と競合する場合において,法律の規定により,地方団体の徴収金が国税等に先だち,私債権がその国税等に後れ,かつ,当該地方団体の徴収金に先だつとき,又は地方団体の徴収金が国税等に後れ,私債権がその国税等に先だち,かつ,当該地方団体の徴収金に後れるときの換価代金の配当に関し,「地方団体の徴収金及び国税等並びに私債権(前号の規定の適用を受けるものを除く。)につき,法定納期限等(国税又は公課のこれに相当する納期限等を含む。)又は設定,登記,譲渡若しくは成立の時期の古いものからそれぞれ順次に本節又は国税徴収法その他の法律の規定を適用して地方団体の徴収金及び国税等並びに私債権に充てるべき金額の総額をそれぞれ定める。」(2号),「前号の規定により定めた地方団体の徴収金及び国税等に充てるべき金額の総額を第14条(地方税優先の原則)若しくは第14条の6から第14条の8まで(差押先着手による地方税の優先等)の規定又は国税徴収法その他の法律のこれらに相当する規定により,順次地方団体の徴収金及び国税等に充てる。」(3号),「第2号の規定により定めた私債権に充てるべき金額の総額を民法その他の法律の規定により順次私債権に充てる。」(4号)と規定している。同規定は,地方税及び国税等と私債権との競合によりこれらが三すくみになる場合の配当については,上記2号のとおり地方団体の徴収金及び国税等の法定納期限等の順序により私債権との優先順位を定めるとしているものの,これにより配当が実施された後の地方団体の徴収金及び国税等の配当関係については,差押先着手主義によるものとしており(したがって,前記のとおり,差押先着手主義によって配当される地方団体の徴収金又は国税等の法定納期限等は,私債権の登記日等よりも劣後するものもあり得ることになる。),法定納期限等の順序により配当されることになっていないし,また,差押先着手主義によって地方団体の徴収金又は国税等に配当された後の充当関係についても何ら規定していない。なお,上記4号についても私債権の配当関係についてのみ民法等の規定によるものとしているものであって,地方団体の徴収金及び国税等の充当関係について民法等の規定によるものと規定しているものではない(国税徴収法26条の規定も同旨である。)。
そうすると,換価代金等が(差押えないし交付要求した)地方税の総額に不足する場合については,民法489条3号の法定充当の適用はないというべきであり,本件競売事件において控訴人の受けた配当金について,法定納期限等が先に到来した地方税の順序で充当しなければならないということはできない。
もっとも,本件競売事件においては,上記のような差押先着手主義が適用される場面ではないから,法定納期限等がP6銀行の根抵当権設定登記に優先することにより控訴人の受けた配当金は,地方税法14条の10の趣旨に照らして,当該法定納期限等がP6銀行の根抵当権設定登記に優先する市徴収金に充当すべきである解するのが相当である。なぜなら,課税庁において,不動産の換価代金等から抵当権に優先する部分についての配当を受けた上,同配当金を当該抵当権に劣後する租税債権に充当することができるとすれば,当該不動産以外の複数の不動産の換価代金等からも抵当権に優先する部分についての配当を受け続けることができるようになるが,このような租税債権の反復的な優先権の行使を認めるべき法律上の根拠はなく,このような行使を許すとすれば,地方団体の徴収金の法定納期限等と抵当権設定登記の先後によって徴収金と抵当権の被担保債権との優劣を定めた上記規定の趣旨に反することになるといわざるを得ないからである。そして,課税庁において,不動産の換価代金等から抵当権に優先する部分について受けた配当金を,その優先する徴収金の範囲内で充当する限りでは,その範囲において課税庁の裁量により(すなわち,原則として,課税庁にとって有利となる法定納期限等が後に到来する市徴収金から),充当することができるというべきである。ただし,その充当は,地方税法14条の5第1項に従い,まず,地方税(本税)から行うべきであり,控訴人の予備的主張3のうち,根抵当権に優先する債権の延滞金について他の優先する債権の本税に先立ち充当するとの主張は採用できない。
被控訴人は,充当とは,権利義務関係の変動に何ら変更を加えることなく徴税庁が内部的に処理するものにすぎないから,充当に際して第三者の権利関係に対して影響を及ぼすことは想定されていないと主張するが,上記説示のとおり,換価代金等が(差押えないし交付要求した)地方税の総額に不足する場合については,民法489条3号の法定充当の適用はなく,これを上記の範囲の地方税のいずれに充当するかは,課税庁の裁量に任されているというべきであるから,被控訴人の上記主張は採用できない。また,被控訴人は,現行の国税徴収法及び地方税法1章7節(地方税優先の原則及び地方税と他の債権との調整)の改正の経過を挙げて,控訴人が本件で行った充当処理は,予測可能性の原則ひいては私法秩序の尊重に係る上記改正の趣旨に明らかに反するもので,公債権としての保護の範囲を逸脱したものである旨主張する。確かに,租税債権と私債権との間では,私法秩序との調整を図る必要があり(国税徴収法1条参照),租税は原則として私債権に優先するものの,抵当権の設定が租税の法定納期限等以前になされたときは,当該財産の換価代金につき抵当権によって担保されている債権に劣後するものとするなどにより,抵当権者が不測の損害を受け,取引の安全が害されることを防止することとしている。しかし,そのような点に配慮したとしても,上記説示のとおり,本件における競売手続及び公売処分により控訴人が換価代金から得た金員を上記の範囲においてその裁量によって充当することが,被控訴人の予測可能性を超え,公債権としての保護の範囲を逸脱するものとまではいえない。
以上によれば,本件競売事件において控訴人(α区長)のした上記充当のうち,債権⑤の本税の一部(263万7083円)及び債権⑥の本税全額(818万7800円)についての充当は適法であるが,債権⑩の本税全額(1770万5000円)についての充当は違法・無効であり,控訴人がP5にした充当通知(前提事実のとおり)も,指定充当としての効力がない(以下の本件各公売手続における充当通知についても同様である。)というべきである。
この場合,債権⑩について充当した1770万5000円については,控訴人は,債権⑤の上記充当後の本税の残額(1343万5217円)及び債権④の本税の一部に充当できたものであるから,これらの債権に充当するのが相当である。そうすると,債権⑤の本税全部が消滅し,その残額426万9783円を債権④に充当する結果,債権④の本税の残額は1183万2717円となる。なお,債権④と債権⑤は,法定納期限等は同じであり,課税庁がいずれの債権に先に充当しても特段の有利・不利となるとは考えられないから,便宜,課税時期が後の期である債権から先に充当することにする(以下の本件各公売手続に関しての充当についても同様である。)。
(2) 本件各公売手続について
本件各公売手続は,いずれも控訴人(α区長・β区長)の市徴収金に基づく本件不動産1を除く本件各不動産の差押えの後に公売がなされ,その売却代金が当該差押えに係る市徴収金に配当され,その配当金が控訴人(α区長・β区長)によって当該差押えに係る市徴収金の一部に充当されたものである。以下,上記(1) の判断に従って順次検討する。
ア 平成16年7月28日付け配当2の1とその充当について
本件不動産2の1について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成13年7月11日である。本件差押え2の1に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③,法定納期限等が平成12年5月31日である債権④ないし⑦及び法定納期限等が平成13年5月1日である債権⑧ないし⑪については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記配当された市徴収金1626万0400円は,上記債権のうち,債権①ないし③の本税全額,債権④の本税の残額1183万2717円,債権⑩及び⑪の本税全額の合計額の範囲内であるから,上記配当処分は適法である。
そこで,控訴人は,上記配当金を債権⑤の本税残額1343万5217円及び債権④の本税のうち282万5183円に充当しているが,前記のとおり,債権⑤の本税は充当により消滅しており,債権⑪の法定納期限等は債権④の法定納期限等の後であるから,上記基準により,控訴人は,上記配当金を債権⑪の本税の一部に充当することができる。その結果,債権⑪の本税残額は144万4600円となる。
イ 平成16年7月28日付け配当2の2とその充当について
本件不動産2の2について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成12年5月25日である。本件差押え2の2に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記配当された市徴収金は,その本税合計の範囲内の1442万2300円であるから,上記配当処分は適法である。
そこで,控訴人は,上記配当金を法定納期限等が平成15年4月24日の債権⑱の本税の一部に充当しているが,これは,被控訴人の上記根抵当権設定登記日に劣後しているから,上記充当は違法・無効である。しかし,控訴人は,上記配当金を債権③の本税全額(1418万9000円)に充当し,その残金23万3300円を債権②の本税の一部に充当することができる。その結果,債権②の本税残額は1395万5700円となる。
ウ 平成16年7月28日付け配当2の3とその充当について
本件不動産2の3について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成13年7月5日である。本件差押え2の3に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③,法定納期限等が平成12年5月31日である債権④ないし⑦,法定納期限等が平成13年5月1日である債権⑧ないし⑪については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記のとおり,債権③,債権⑤ないし⑨の本税残額はないが,債権①及び債権⑩の本税全額並びに債権②,債権④,債権⑪の本税の一部は残っており,上記配当された市徴収金は,その合計範囲内の1248万8000円であるから,上記配当処分は適法である。
そこで,控訴人は,上記配当金を債権⑪の本税の一部に充当しており,この点に違法がないが,上記のとおり,配当2の1による充当後の債権⑪の本税残額は144万4600円であるから,控訴人は,上記配当金を債権⑪の本税残額に充当し,その残額の1104万3400円を債権⑩の本税の一部に充当することができる。その結果,債権⑩の本税残額は666万1600円となる。
エ 平成16年12月8日付け配当3とその充当について
本件不動産3について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成12年5月25日である。本件差押え3に係る市徴収金うち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記配当された市徴収金は,上記債権①の本税全額及び債権②の本税の残額1395万5700円の合計範囲内の1626万円であるから,上記配当処分は適法である。
そこで,控訴人は,上記配当金を本件不動産3と同時に公売を行ったが売却決定されなかった別物件の滞納処分費21万2000円並びに債権⑰の本税の一部1496万5500円及び債権⑱の本税の残額108万2500円に充当しているところ,このうち,債権⑰及び債権⑱に充当したことは,違法・無効である(別物件の滞納処分費に対する充当は有効である。)。
しかし,控訴人は,上記滞納処分費を控除した1604万8000円については,債権②の本税残額1395万5700円と債権①の本税のうち209万2300円に充当することができる。その結果,債権①の本税の残額は959万6700円となる。
オ 平成17年2月15日付け配当4の1,2とその充当について
本件不動産4の1,2について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成12年5月25日である。本件差押え4の1,2に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記債権の残額は,債権①の本税959万6700円のほか,債権①の延滞金972万2400円,債権②の延滞金1012万5900円,債権③の延滞金901万6000円(延滞金の計算については,正当と認める控訴人の予備的主張2のアに基づくものであり,別紙5「P11信用組合 延滞金シミュレーション」のとおりである。以下同じ。)の合計3846万1000円であるが,本件公売手続4について配当された市徴収金は,合計4188万5100円であるから,上記配当処分のうち上記の差額342万4100円については違法・無効である。したがって,控訴人は,上記配当金を上記債権①の本税並びに債権①ないし③の延滞金に充当することができるが,上記差額342万4100円を被控訴人の損失において不当利得したことになる。
カ 平成17年4月12日付け配当5とその充当について
本件不動産5について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成12年6月5日である。本件差押え5の1に係る市徴収金の法定納期限等は,いずれも平成13年5月1日以降であるから,被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に劣後している。他方,本件差押え5の2に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③,法定納期限等が平成12年5月31日である債権④ないし⑦については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているところ,上記配当された市徴収金は,債権④の本税残額1183万2717円及び延滞金1042万8500円,債権⑤の延滞金757万0200円,債権⑥の延滞金587万7400円,債権⑦の延滞金468万3400円の合計範囲内の3600万9900円(売却代金3639万円から滞納処分費38万0100円を控除した残額)であるから,上記配当処分(ただし,差押先着手主義により,上記配当金をまずβ区長の本件差押え5の1に係る市徴収金に配当しなければならない。)は適法である。
そこで,控訴人は,上記β区長の本件差押え5の1に係る市徴収金246万4300円を配当した残額である3354万5600円を債権⑫,債権⑭の本税の一部及び債権⑬の本税全額に充当しているが,これらは,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記日に劣後しているから,上記充当は違法・無効である。
しかし,控訴人は,上記残額3354万5600円を上記債権④の本税残額1183万2717円の全額,債権⑤ないし⑦の延滞金全額(合計1813万1000円),債権④の延滞金の一部(358万1883円)に充当することができる。その結果,債権④の延滞金の残額は684万6617円となる。
キ 平成17年4月12日付け配当6とその充当について
本件不動産6について被控訴人が根抵当権設定登記を経由した日は,平成12年5月25日である。本件差押え6に係る市徴収金のうち,法定納期限等が平成11年4月30日である債権①ないし③については,いずれも被控訴人の上記根抵当権設定登記経由日に優先しているが,上記債権は上記の充当の結果,すべて消滅しているので,上記配当された市徴収金1030万円についての配当処分は違法・無効である。したがって,控訴人は1030万円を被控訴人の損失において不当利得したことになる。
(3) 以上のとおりの本件競売手続及び本件各公売手続における控訴人の市徴収金の充当関係は,別紙4「P11信用組合 シミュレーション」のとおりである。
そうすると,控訴人は,本件公売手続4における配当金342万4100円及び本件公売手続6における配当金1030万円の合計1372万4100円を被控訴人の損失において不当利得しているところ,これは,控訴人が地方税法14条の10に基づく充当処理を誤ったことによるものであり,控訴人のした充当処理が当時一般的になされていたと認めるべき事情はないから,控訴人は,悪意の受益者と認めるのが相当である。そして,その利息の起算日は,それぞれの配当処分がなされた日の翌日(本件公売手続4に関しては平成17年2月16日,本件公売手続6に関しては同年4月13日)というべきである。
3 よって,被控訴人の本件請求は,上記の限度で理由があるところ,これと異なる原判決を変更し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 塚本伊平 裁判官 阿多麻子)