大阪高等裁判所 平成20年(行コ)35号 判決 2008年9月05日
主文
1 一審原告らの控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告らの控訴にかかる控訴費用は一審原告らの,一審被告の控訴にかかる控訴費用は一審被告の,各負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 一審原告ら
(1) 原判決を以下のとおり変更する。
(2) 一審被告は,Aに対し,4億4728万5000円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。
(3) 一審被告は,Bに対し,6775万円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める請求をせよ。
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。
2 一審被告
(1) 原判決中一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 一審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審原告らの負担とする。
第2事案の概要
事案の概要は,以下に付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の項に摘示のとおりであるから,これを引用する。なお,略称については,原判決の例による。
1 原判決14頁15行目の「人事課が」の次に「人事配置案と照合するなどして,任用の必要性等を」を加え,同16頁4行目の「いうべきである。」を「のであって,それ以上に調査の端緒(具体的な行為について不正の疑いを抱くこと)までをも必要としないというべきである。」と改め,同5行目の「給与条例及び本件内規は,」の次に「茨木市例規集に登載されて,」を加え,同6行目の「平成13年10月」を「平成14年1月4日」と改める。
2 原判決18頁20行目の「知り得るものであるところ,」の次に「住民は,通常,予算説明書や決算説明書等,地方公共団体から提供される財務会計行為にかかる情報のすべてを目を皿のようにして読むだけの余裕をもっているとは考えられないし,」を加える。
3 原判決21頁6行目の末尾に「上記のような職員は,主に正規職員の代替職員としての目的によるものであって,業務形態は基本的に常勤の正規職員と全く同一であり,その大半は,週5日勤務のものである。」を加える。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,原判決と同様,一審原告らの本件訴えのうち,平成7年度から平成15年度までの本件一時金の支給に係る訴えは,適法な監査請求を経ていないから不適法であって却下すべきであり,平成16年度の本件一時金の支給に係る請求は理由があると判断する。その理由は,以下に付加訂正するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第3 当裁判所の判断」の項に説示のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決33頁16行目の「旧給与条例36条の」から同18行目の「規定に基づく」までを「全体を通してみれば予算措置とこれに基づく」と改め,同末行の「乙18,」の次に「乙29ないし31,」を加え,同34頁17行目の「平成13年」から同18行目の「掲載されていること」までを「平成13年10月に例規集が廃止された後は,平成14年1月から同市のウェブサイトに掲載されて,一般に公開されていること」と改める。
2 原判決35頁11行目の「乙1,18」を「乙1,乙5の1・2,乙18」と,同19行目の「この3年間で」から同21行目の「支給している」までを「この3年間で正規職員には勤勉手当0.55か月の削減があったが,正規職員の勤勉手当に見合う臨時的任用職員の増給分,6月期で4万円,12月期で4万5000円については,臨時的任用職員の勤務条件を勘案して削減していない」と,それぞれ改め,同36頁18行目の「一定の判断」の次に「(給与条例主義はもちろんのこととして,地方自治法上非常勤職員に対しては勤務日数に応じた報酬しか支給できず,条例によっても期末手当を支給できないこと,茨木市においては臨時雇として日給制の職員が多数存在すること,旧給与条例に臨時的任用職員の日給制の賃金・報酬に関する規定が存在しないこと,臨時的任用職員については本件内規が存在すること,本件内規には期末手当〔増給分〕に関する規定がないこと,の各事実を了知し,その比較対照により,臨時的任用職員の賃金については条例上の根拠がないこと,特に増給分については何らの根拠規定が存在しないことを知ることができる。)」を加え,同37頁4行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。
「 一審原告らは,本件一時金の支給は,茨木市の内部職員であれば容易に知り得るが,一般市民はこれを知り得ることにはならない,本件一時金支出の適法性について合理的な疑いを抱かせるような事情もないのに,予算要求基準等の関係書類を精査して読むことは期待できないなどと主張するが,上記のとおり,本件一時金の支給の事実及び関係法令等が容易に知り得る状態にある以上,相当の注意をもってすれば,本件一時金の支給の適法性についての調査をすることができたといえ,住民の具体的な知不知は,これを問うところではないというべきであるから,一審原告らの主張を採用することはできない。」
3 原判決51頁13行目の「その」の前に「勤労すべき時間の大半を公務に従事するという」を,同16行目の「その」の前に「勤労すべき時間の一部において公務に従事するのみで,生計を支える収入をもっぱら公務から得ることを予定していないという」を,それぞれ加え,同22行目末尾の「そ」から同52頁5行目の末尾までを「そして,地方自治法等の法令が定める常勤の職員と非常勤の職員に関する他の関係規定にもかんがみると,地方自治法204条1項にいう常勤の職員と同法203条1項にいう非常勤の職員の意義については,まずもって常勤・非常勤という言葉の通常の意味に従い,これと同法が上記のとおり異なる給与体系を定めた趣旨をも勘案して理解するのが相当というべきである。そうであるとすれば,地方自治法204条1項にいう常勤の職員とは,その勤労すべき時間の大半を公務に従事する者をいい,同法203条1項にいう非常勤の職員とは,勤労すべき時間の一部において公務に従事する者をいうと解することが相当である。」と改める。
4 原判決53頁25行目の「主張するが」を「主張し,確かに茨木市においては,臨時的任用職員に対する賃金を日給で定め,勤務日数に応じて支給するものとして,地方自治法203条2項本文の適用される同条1項の非常勤職員と扱っているようにも思われるが」と改め,同54頁3行目の「対比しても,」の次に「臨時的任用により常勤職員を採用することは地方自治法の許容するところというべきであるから,」を加える。
5 原判決54頁16行目の「3日の者は,」の次に「その1日の勤務時間を7時間45分と仮定しても,」を,同17行目の「すぎないことになる」の次に「(上記基準は勤務日数のみを基準としており,1日あたりの勤務時間を基準としていないから,週3日以上勤務するパートタイム職員〔甲5の1ないし4によれば,パート作業員・パート保育士など,パートタイム職員も相当数存在すると認められる。〕も上記基準に該当する可能性があるところ,そうであれば,その勤務時間はさらに短くなる。)」を,同18行目の「係る勤務が」の次に「常勤という言葉の通常の意味にあてはまらないことはもとより,当該勤務が」を,同56頁5行目の「前記のとおり,」の次に「常勤・非常勤の言葉の通常の意味からしても,上記基準に従って職務を分けた場合の給与の性質からしても,」を,それぞれ加える。
6 原判決57頁3行目の「明らかである」の次に「(規則と区別して内規という場合には,行政機関内部の規程であって,法規としての性格を有しない内部規程に止まるものをいうと理解すべきである。現に,茨木市においても,職員証明書読取機出勤簿管理内規は訓令とされている。)」を加え,同18行目の「旧給与条例36条」から同行の「制定されないまま」までを「これを規定した条例は存在せず(旧給与条例36条が臨時的任用職員の給与について規則に委任したと解することができるとしても,その委任に基づく規則が制定されないまま)」と改める。
7 原判決61頁7行目から同65頁8行目までを,以下のとおり改める。
「 しかしながら,臨時的任用職員のうち,常勤の職員については,地方自治法204条3項,地方公務員法22条7項,24条6項等の規定により,法制度上,一般職に属する正規職員と同等の扱いをすることが定められているから,一審被告の上記主張を採用することはできない。
確かに,一審被告が主張するように,臨時的任用職員は,常勤の職に就いている者であっても,終身雇用を前提とする正規職員とは異なって雇用期間が限定されていることや,茨木市の人的体制において,正規職員の補助的な業務に従事したり,正規職員の残業や定員の増加に代えて,繁忙な職に従事するという位置づけがなされていることからすると,正規職員と常勤の職にある臨時的任用職員との間には,大きな差異があるといわなければならないが,地方自治法及び地方公務員法は,そのような差異があることを理由に,両者の給与や手当を条例で定めるにつき,異なった取扱いを許容していると理解される規定はなく,臨時的任用職員に限って,条例では期末手当の支給根拠のみを定め,支給要件や金額のすべてを規則に委任することが許されていると解することはできない。
一審被告は,昭和36年5月5日自治丁公発第47号高知県総務部長あて公務員課長回答『臨時職員の給与の取扱いについて』(乙22)を引用して,行政実例において,臨時的任用職員については,条例中に特別の定めをすることが許容されていると主張するが,同回答は,前記の給与条例主義に関する行政実例に例外を認める趣旨のものとは考えられず,その要点は,臨時的任用職員に係る特別の定めを条例そのものの中に規定することを求めていると理解されるものである。したがって,一審被告の引用する上記実例によって,常勤の臨時的任用職員につき,条例においては期末手当の支給根拠を定めれば足りるという解釈をすることはできないというべきである。
また,臨時的任用職員のうち非常勤の職員(既に説示したとおり,茨木市の臨時的任用職員には週3日以上勤務していても常勤とは認められない職員が存在している。)については,条例をもってしても期末手当を支給できないから,これらについては,給与条例の附則の規定をもってしても,本件一時金の支給が適法となるものではない。」
8 原判決66頁17行目の「対価は,」の次に「常勤の職員も非常勤の職員も含めて,」を,同22行目の「含まれていたとしても,」の次に「本件一時金自体は臨時的任用職員の勤務と量的な対応関係がなく,勤務の対価としての性質を有しないから,条例の規定なくしては不当利得としても請求できないものというべきであり,」を,それぞれ加える。
9 原判決70頁10行目から同21行目までを,以下のとおり改める。
「 しかしながら,市長は,普通地方公共団体の執行機関として,当該普通地方公共団体の条例,予算その他の議会の議決に基づく事務及び法令,規則その他の規程に基づく事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負うものであり(地方自治法138条の2),地方公共団体の歳出が法令上の根拠をもってなされなければならないことや,地方自治法上,地方公務員の給料等の勤務条件について条例主義がとられていることは,市長として当然知っている事柄といわなければならず,決裁にあたっては,その法令上の根拠について常に関心を払うべきものである。したがって,市長が本件一時金の支出を決裁するにあたって,その法令上の根拠を確認すれば,本件一時金の支出について,旧給与条例に臨時的任用職員の給与に関する明示の規定を欠いており,臨時的任用職員の給与について適用されるべき条例が存在しないことを容易に知ることができたといえ,そうである以上,本件一時金の支出を阻止することができたというべきである。
これに関して,一審被告は,市長は,条例等法規や行政行為の運用状況について,問題視されていると否とに関わらず,その一切合切を懐疑的にチェックし,それぞれの法規ないし行政行為に内包する問題点を洗い出さなければならないことになると主張するが,支出行為の決裁にあたって,法令上の根拠を確認することは,一審被告のいう『一切合切を懐疑的にチェック』するような困難な事柄ではなく,市長に不可能を強いるものでもないといわなければならない。
よって,一審被告の主張する事情をもって本件一時金の支給を阻止しなかったBの過失を否定する根拠とする余地はないというべきであり,一審被告の主張を採用することはできない。
さらに,一審被告は,ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解し,これに立脚して公務を執行したときは,後にその執行が違法と判断されたからといって,直ちに当該公務員に過失があったとすることは相当でないとも主張するが,既に繰り返し説示したとおり,臨時的任用職員の給与につき,条例を定めることなく内規によってその支給基準や金額を定めることや,本件一時金につき条例に支給根拠のみを定め,具体的な支給の要件や金額を全面的に規則に委任することが,地方自治法や地方公務員法の趣旨を没却する違法な処置であることは明らかである。本件一時金については,異なる見解が対立しているともいえなければ,一審被告の見解に相当の根拠があるともいうことはできない。よって,この点に関する一審被告の主張も採用できない。」
第4結論
以上によれば,一審原告らの請求のうち,平成7年度から平成15年度までの本件一時金の支給に係る訴えを却下し,平成16年度の本件一時金の支給に係る請求を認容した原判決は相当であって,一審原告らの控訴及び一審被告の控訴はいずれも理由がないから,これをともに棄却することとして,主文のとおり判決する。(なお,茨木市議会において,Bに対する本件一時金に係る損害賠償請求権の権利を放棄する決議をしたことが窺われるが,茨木市がBに対して有する本件一時金に係る損害賠償請求権は,地方自治法149条6号により茨木市の執行機関が管理すべき債権であって,その債務免除は,同法240条3項により,議会の同意を得た上で,執行機関の債務者に対する意思表示によってなされるべきものであり,議会の決議のみによって効力を生じるものということはできないから,その事実は本判決の結論に影響するものではない。)
(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 安達嗣雄 裁判官 松本清隆)