大阪高等裁判所 平成20年(行コ)55号 判決 2008年11月25日
主文
1 1審被告の控訴に基づき原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
2 1審原告の請求をいずれも棄却する。
3 1審原告の控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審とも1審原告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 1審原告
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 1審被告が,原判決別紙物件目録1(1)記載の土地に対し,その地目を宅地として評価せずに平成15年度ないし平成20年度の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを確認する。
(3) 1審被告が,原判決別紙物件目録1(2)記載の土地に対し,その地目を宅地として評価せずに平成15年度ないし平成20年度の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを確認する。
(4) 1審被告が,原判決別紙物件目録2記載の土地に対し,その地目を宅地として評価せずに平成15年度ないし平成20年度の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを確認する。
(5) 1審被告が,原判決別紙物件目録2記載の土地に対し,そのうちデッキプレートが設置されている部分の地目を宅地として,その余の部分の地目を池沼としてそれぞれ評価せずに平成15年度ないし平成20年度の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを確認する。
(6) 1審被告は,P1,P2,P3,P4に対し,連帯して堺市に対し100万円を支払うように請求せよ。
(7) 訴訟費用は第1,2審とも1審被告の負担とする。
2 1審被告
(1) 原判決中1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 1審原告の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも1審原告の負担とする。
第2事案の概要(略記は原判決のそれによる。)
1 本件は,堺市の住民である1審原告が,登記簿上の地目がため池ないし堤とされ,その現況も池ないし堤である原判決別紙物件目録1(1)及び(2)記載の各土地(×番1,同番2の土地)並びに同目録2記載の土地(××番1の土地)は,これを所有する地元の町会ないし自治会において第三者に賃貸され,その水面上にデッキプレートが構築されて建物が建築され宅地として利用されているにもかかわらず,1審被告は,本件各土地が地方税法348条2項6号の公共の用に供するため池,堤とうに該当するなどとして,これに対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を違法に怠り,同市に損害を与えているなどと主張して,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,1審被告堺市長に対し,本件各土地に対する固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実の違法確認を求めるとともに,同項4号に基づき,1審被告堺市長に対し,同市長又は同市北支所税務課長の職にあり又は職にあった者(P1,P2,P3及びP4)に損害賠償として連帯して100万円を支払うように請求をすることを求めた事案である。
2 原審は,本件請求に係る訴えのうち本件各土地に対する平成17年度から平成19年度までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分を却下し,1審被告が××番1の土地に対し,そのうちデッキプレートが設置されている部分の地目を宅地として,その余の部分の地目を池沼としてそれぞれ評価せずに平成15年度及び平成16年度の各固定資産税及び都市計画税を賦課徴収することを怠っていることが違法であることを確認し,1審原告のその余の請求(ただし,1審被告が××番1の土地についてα町自治会,α町自治会ことP12又はP5に対し平成15年度及び平成16年度の固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠っていることが違法であることの確認請求を除く。)をいずれも棄却した。これに対し,1審原告及び1審被告が,それぞれ敗訴部分を不服として控訴した。1審原告は,当審において,怠る事実に係る固定資産税及び都市計画税の年度を平成15年度ないし平成20年度と特定し(平成20年分を加えて請求を拡張したことになる。),原判決請求の趣旨第5ないし7項の予備的請求を取り下げ,請求を一部減縮した。
3 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり加除訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 法令の定め」,「3前提事実」及び「4 争点及び争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決8頁3行目,6行目,8行目の「甲2」をいずれも「甲1」と改め,17行目の「7年」を「7年間」と改める。
(2) 原判決9頁5行目の「甲2」を「甲1」と改める。
(3) 原判決11頁2行目から12行目までを削除する。
(4) 原判決13頁10行目の「あるから,」の次に「条文の文言とは必ずしも合致しないが,」を加える。
(5) 原判決13頁25行目の「ため池」の次に「,堤とう」を加える。
(6) 原判決14頁7行目の「貯溜地」を「貯溜池」と改める。
(7) 原判決15頁12行目の末尾に「また,本件の場合,次のとおり納税義務者は特定されている。」を加える。
(8) 原判決16頁5行目の末尾に「1審被告において,課税をするために全共有者ないしは町会,自治会の全構成員を確定する必要はないのである。」を加える。
(9) 原判決16頁14行目の「「P12」が」を「「P12」とは,α町自治会のことであるが,もし仮に,」と改める。
(10) 原判決16頁23行目の「貸す」を「課す」と改める。
(11) 原判決17頁19行目の「348条2項後段」を「343条2項後段」と改める。
第3当裁判所の判断
1 本件訴えのうち本件各土地に対する平成17年度から平成20年度までの固定資産税及び都市計画税の賦課徴収を怠る事実に係る部分は,適法な住民監査請求の前置を欠くから不適法として却下すべきである。この点についての判断は,原判決22頁10行目の「たとい」を「たとえ」と改めるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「1 本件訴えの適法性」の(1)(原判決21頁5行目から23頁13行目まで)に記載のとおりである(ただし,当審で取り下げられた原判決請求の趣旨5ないし7項に関する部分は除く。また,原判決は平成19年度までの分について判断しているが,平成20年度分についても同様である。)から,これを引用する。
また,本件訴えのうち地方自治法242条の2第1項4号の当該職員に対し損害賠償請求をすることを求める請求に訴えの変更がされた後の同号に基づく請求(控訴の趣旨(6)項の請求)について,当該請求に係る訴えを当該怠る事実の違法確認請求として,変更前の当初の訴えの提起時に提起されたものと同視し,出訴期間の遵守において欠けるところがないと解すべきことについては,原判決23頁末行から24頁1行目にかけての「前記第1の8」を「1審原告の控訴の趣旨(6)項」と改めるほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 争点に対する判断」の「1 本件訴えの適法性」の(2)(原判決23頁14行目から24頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 本件各土地は地方税法348条2項6号の非課税財産に該当するか(争点①)
(1) 地方税法348条2項本文は,同項各号に掲げる固定資産に対しては固定資産税を課することができない旨規定し,同項ただし書は,固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては,当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができる旨規定し,同条3項は,同条2項各号に掲げる固定資産を当該各号に掲げる目的以外の目的に使用する場合においては,同条2項の規定にかかわらず,これらの固定資産に対し固定資産税を課する旨規定している。そして,そもそも,固定資産税は,当該固定資産の資産価値に着目し,その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって,個々の固定資産の収益性の有無にかかわらず,その所有者に対して課するものであるところ,地方税法348条2項各号の規定内容にかんがみると,同条2項本文は,公用又は公共の用等に供する固定資産について,その性格,用途にかんがみ,当該公用又は公共の用等に供する固定資産の確保という政策目的のために,例外的に当該固定資産を非課税とする趣旨のものであり,同項ただし書の規定は,主として,固定資産を借り受けた者がこれを当該公用又は公共の用等に供する場合において当該固定資産の使用に対する代償として金員が支払われているときは,所有者が一定の収入を得ている以上,一般の用途に供されているものと比較して,所有者の負担能力について別段の考慮をする必要がないという見地,及びその金額の多寡にかかわらず租税政策的見地をも加味して,さらにその例外として当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができることとしたものであり,同条3項の規定は,同条2項各号に掲げる固定資産を非課税とするか否かは,単なる名義や形式によってではなく,現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用等に供されているかどうかの実質によって判断されるといういわば当然のことを確認的に明らかにしたものと解するのが相当である。
そして,地方税法348条2項及び3項の規定の文理,内容及びその趣旨,殊に,地方税法348条2項本文が,公用又は公共の用等に供する固定資産の確保という政策目的のために例外的に当該固定資産を非課税とする趣旨のものであること,並びに,同項ただし書は,固定資産を有料で借り受けた者がこれを同項各号に掲げる固定資産として使用する場合においては,当該固定資産の所有者に固定資産税を課することができる旨規定しているのであって,所有者が同項各号の固定資産を有料で賃貸したとき所有者に固定資産税を課することができるとは規定されていないことにかんがみると,固定資産の所有者が当該固定資産を同条2項各号に掲げる公用又は公共の用等に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で貸すなどしてこれを収益している場合であっても,固定資産を借り受けた者がこれを公用又は公共の用等に供しておらず,所有者自身が当該固定資産を現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用等に供している以上,市町村は,当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課することができないものと解すべきであり,また,都市計画税についても同様に解すべきである。
これに対し,1審原告は,固定資産税は,収益税的な性格も有しており,地方税法348条2項本文は,固定資産を「公共の用に供する」場合には,当該固定資産の所有者がこれを収益する可能性が極端に小さく,収益税的財産税としての固定資産税を賦課することが課税の趣旨に合致しないところがあることから,非課税とされているのであり,同項ただし書の趣旨は,所有者において当該固定資産につき賃料を徴収している場合においては,一般の用途に供されているものと比較して,所有者の負担について別段の考慮をする必要は認められないことから,その例外として当該固定資産に係る固定資産税を課することとしたものであって,これらによれば,地方税法は,賃貸の対象とされている土地が同法348条2項各号に該当しない用途で利用されている場合はそもそも同項所定の用途的非課税の対象にならないことを前提としているのであり,固定資産が賃貸の対象とされた場合は,当該固定資産がどのような用途に供されていようとも,用途的非課税の対象とはなり得ない,本件各土地の賃借人はこれを宅地の用に供しているのであるから,本件各土地は同項ただし書により用途的非課税の対象とはならないなどと主張する。
しかし,そもそも地方税法348条2項本文が同項各号に掲げる公用又は公共の用等に供する固定資産に対する固定資産税を非課税としている趣旨については,固定資産税が基本的に財産税としての性格のものである(具体的収益の有無にかかわらず課される)ことに加えて,同項各号に列挙された多様な非課税事由の内容をみても,また,例外的に固定資産税を課することができる場合として,同項ただし書には「固定資産を有料で借り受けた」とのみ規定されていることから,通常の取引上固定資産の貸借の対価に相当する額に至らないとしても,その固定資産の使用に対する代償として金員が支払われている場合は同項ただし書にいう「固定資産を有料で借り受けた」場合に当たり固定資産税を課すべきものとされている(最高裁平成5年(行ツ)第15号同6年12月20日第三小法廷判決・民集48巻8号1676頁参照)ことにかんがみても,1審原告の主張するように当該固定資産の所有者が当該固定資産を収益する可能性が小さいことのみで説明することは困難というべきであり,前記説示のとおり公用又は公共の用等に供する固定資産の確保という政策的見地に基づくものであると解するのが相当である。この点において1審原告の立論は,その前提に問題がある。また,確かに地方税法348条2項ただし書は,所有者が当該固定資産を賃貸し一定の収入を得ている以上その負担能力について別段の考慮をする必要がないという収益税的見地をも加味して,所有者に固定資産税を課することができることとしたものであり,この理屈を推し進めれば,所有者が当該固定資産を賃貸して収入を得ている以上,賃借人において同法348条2項各号に該当しない用途で利用されている場合であっても,所有者の負担能力について別段の考慮をする必要がないということに変わりはないのであるから,同項ただし書の趣旨から推し量ってこの場合にも所有者に固定資産税を課すことができるという解釈も考えられないではない。しかしながら,そのような解釈は同項の明文の規定に明らかに反することになり,租税法律主義の原則からして租税法規をみだりに拡張適用すべきではないから,拡張解釈ないし類推適用としても許容される限度を超えるものといわざるを得ない。
したがって,1審原告が主張するような同項本文及びただし書の趣旨を根拠に,地方税法が,賃貸の対象とされている土地が同法348条2項各号に該当しない用途で利用されている場合はそもそも同項所定の用途的非課税の対象にならないことを前提としているとか,当該固定資産が賃貸の対象とされた場合は,それがどのような用途に供されていようとも,用途的非課税の対象とはなり得ないと解するのは困難というべきである。
以上のとおり,固定資産の所有者が当該固定資産を地方税法348条2項各号に掲げる公用又は公共の用等に供するとともに当該固定資産の全部又は一部を有料で貸すなどしてこれを収益している場合であっても,当該固定資産が現実に当該各号に掲げる公用又は公共の用等に供されている限り,市町村は,当該固定資産の所有者に対し固定資産税を課することができないものと解すべきであり,都市計画税についても同様に解すべきである。
そこで,本件各土地が,平成13年度,平成15年度及び平成16年度の各固定資産税等の本件各賦課期日(平成13年1月1日,平成15年1月1日及び平成16年1月1日)において,1審被告が主張するように地方税法348条2項6号の公共の用に供するため池として現実に公共の用に供されていたか否かにつき検討する。
(2) 地方税法348条2項6号にいう「公共の用に供する」とは,何らの制約を設けず,広く不特定多数人の利用に供することをいい,同号にいう「ため池」とは,耕地かんがい用の用水貯溜池をいい,「堤とう」とは防水のため築造した堤防をいうものと解される。そして,前記(1)において説示したところからすれば,本件各土地がため池として公共の用に供されていたといえるためには,本件各賦課期日において,本件各土地が客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池として広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供し得る機能を有する状態にあったことに加えて,その貯溜水が何らの制約を設けず現実に耕地かんがいの用に供されていたことが必要であるというべきである。
本件各土地は,いずれも,登記簿上その地目がため池及び堤とされており,前記前提事実(2)のとおり,現実に水が貯溜する池及びその堤であって,本件各賦課期日において客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池として広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供し得る機能を有する状態にあったものと認められる。そこで,本件各土地が本件各賦課期日において何らの制約を設けず現実に耕地かんがいの用に供されていたか否かについて検討する。
ア ×番1の土地及び×番2の土地
前記前提事実(2)に加えて証拠(甲1,11,13,20ないし27,33,34,37,乙1,3,7,8,12)及び弁論の全趣旨によれば,×番1の土地及び×番2の土地は,△番1の土地等とともにP13池と呼ばれる池及び堤を構成しており,堤である×番2の土地をはさんでその両側が池(×番1の土地及び△番1の土地)となっていること,×番1の土地は,旧土地台帳に字を「P14池」,地目を「溜池」,所有主住所を空欄,所有主氏名を「共有地」として登録され,登記簿においても,表題部に所有者を「共有地」とする表示に関する登記のみがされていたこと,昭和38年ころ,これらの土地の一部をN線の道路用地として供用する必要が生じたところ,上記のとおり登記簿に所有者を「共有地」とする表示に関する登記のみがされていたことから,堺市と大阪法務局堺支局との間で堺市名義での所有権保存登記手続を行うことで協議が整い,堺市議会の審議を経た上,×番1の土地について昭和38年5月9日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとともに×番1,3及び4の各土地に分筆され,また,×番2の土地についても同日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとともに×番2,5,6,7及び8の各土地に分筆され,さらに,△番1の土地についても同日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとともに△番1,3,4,5,6,7,8及び9の各土地に分筆され,そのうち×番3の土地について昭和40年1月14日付けで昭和38年3月30日売買を原因とする大阪府への所有権移転登記が,×番4の土地について昭和44年2月5日付けで昭和41年3月30日売買を原因とする大阪府への所有権移転登記がされたほか,×番5,6,7及び8の各土地についても大阪府への所有権移転登記がされたこと,昭和44年,P13池残地の一部とされる堺市η△△番ため池0反618のうち実測面積329.89m2(99坪78)がγ町会長の名において地元公共事業資金への充当を理由に処分され,当該処分が同年第2回堺市議会の議案第32号「部落有財産の処分について」として審議されていること,×番1の土地及び×番2の土地を含むP13池は,γ町水利組合がこれを管理し,平成5年ころからγ町会においてその敷地をP6協同組合に賃貸し,同協同組合は,×番1の土地のほぼ全域に加え×番2の土地(堤)を超えて△番1の土地の一部にわたりデッキプレートを構築し原判決別紙物件目録1(3)の建物の敷地として利用していること,N線をはさんでP13池(×番1の土地,×番2の土地及び△番1の土地)と反対側にあるP13池残地とされる堺市η□番ため池5.40m2について,平成19年1月12日,売主を堺市γ町会,買主をP7株式会社とする売買契約が締結され,同日付けで売主として堺市γ町会町会長P8の署名押印のある土地売買契約書が作成されるとともに,同月16日付けで堺市γ町会町会長P8から「共有地管理者堺市長」あてに上記土地の実質的な債権債務はγ町会(自治会)にあるが同町会では登記手続をすることができないため共有地管理者堺市長名義で登記手続を行うよう依頼する旨の「登記手続について(依頼)」と題する文書が出されていること,P13池(×番1の土地,×番2の土地及び△番1の土地)の近隣(堺市β区γ町)には現在においてもなお田畑が少なからず存在していること,本件監査請求に対する平成17年3月28日付け監査の結果の通知(甲1)において,現にP13池の貯溜用水を利用して耕作を行っている者がある旨の認定がされていること,平成19年11月15日付け堺市農業土木課長の堺市税政課長あて「堺市β区γ町×番1に所在するP14池(現P15池)及び同区α町ε××番1に所在するP16池について,それぞれを管理する水利組合名及び農業灌漑に利用している地域について(回答)」と題する書面(乙12)には,×番1の土地について,水利組合名をγ町水利組合,利用地域をγ町,確認時期を同年11月とする旨の回答がされていること,以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば,×番1の土地,×番2の土地及び△番1の土地から成るP13池は,古くから堺市γ町の住民により耕地かんがい用の用水貯溜池として総有的に利用されてきたものであり,遅くとも昭和44年ころまでにはγ町会(前記前提事実(1)及び弁論の全趣旨によれば権利能力なき社団と認められる。)がこれを事実上所有し,γ町水利組合により管理され,現時点においてもその貯溜水がその近隣に少なからず存在する田畑のかんがいの用に供されているものと認められる。
そうであるとすれば,本件各賦課期日において,×番1の土地及び×番2の土地は,客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池及びその堤とうとして広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供し得る機能を有する状態にあったのみならず,その貯溜水が何らの制約を設けず現実に耕地かんがいの用に供されていたものというべきであるから,×番1の土地は地方税法348条2項6号の「公共の用に供するため池」に,×番2の土地は同号にいう「公共の用に供する堤とう」にそれぞれ該当し,したがって,同項本文,同法702条の2第2項により,上記各土地に対しては固定資産税及び都市計画税を課することはできない。
イ ××番1の土地
前記前提事実(2)に加えて証拠(甲1,8ないし10,31,32,36ないし39,乙2の1ないし3,乙3,12,14,15,17ないし21)及び弁論の全趣旨によれば,××番1の土地は,旧土地台帳に字を「P16池」,地目を「溜池」,所有主住所を「P12」,所有主氏名を「共有地」として登録され,閉鎖登記簿においても,表題部に所有者を「P12 共有地」とする表示に関する登記のみがされ,現登記簿においても,表題部に所有者を「P12」とする表示に関する登記のみがされていること,「P12」は,明治21年4月公布の市制・町村制の施行により,旧来の村が新たにθの大字とされたものであるが,現在の堺市β区α町のどの地域に相当するのかは明らかではないこと,θは大正8年にιと合併してκとなった後,昭和13年に堺市と合併したが,その際,κが引継書類として作成した部落有財産目録の中に××番1の土地が記載されていたこと,昭和44年,××番1の土地のうち実測面積3万0323m2(9173坪)及び堺市α町ε□□番堤5反824のうち実測面積991m2(300坪)が「α町代表自治会長」の名において地元公共事業資金への充当を理由にP9株式会社に対して処分され,当該処分が同年第2回堺市議会の議案第36号「部落有財産の処分について」として審議された上,同年7月5日付けで××番1の土地が××番1及び2の土地に分筆され,××番2の土地について同日付けで所有者を堺市とする所有権保存登記がされるとともに同日付けで同年3月28日売買を原因とするP9株式会社への所有権移転登記がされていること,××番1の土地は,P16池水利組合が管理し,遅くとも平成10年ころからα町自治会においてその敷地の一部をP10株式会社に対し賃貸し,同社は,その一部にデッキプレートを構築してこれをP11住宅公園(住宅展示場)として利用し,デッキプレート上に複数の建物がモデルハウスとして建築されていること,本件監査請求に対する平成17年3月28日付け監査の結果の通知(甲1)において,現にP16池の貯溜用水を利用して耕作を行っている者がある旨の認定がされていること,前記平成19年11月15日付け堺市農業土木課長の堺市税政課長あて「堺市β区γ町×番1に所在するP14池(現P15池)及び同区α町ε××番1に所在するP16池について,それぞれを管理する水利組合名及び農業灌漑に利用している地域について(回答)」と題する書面(乙12)には,××番1の土地について,水利組合名をP16池水利組合,利用地域をα町ζ,確認時期を同年11月とする旨の回答がされていること,××番1の土地は,古くから耕地かんがい用の用水貯溜池として周辺の田畑にかんがい用水を供給し農業用かんがいのため堺市α町住民によって総有的に利用されてきたところ,現在では周辺田畑は少なくなったとはいうものの,依然として水路で導水されて1か所の田のかんがいに利用され,1か所の畑のかんがいにも利用され得る状態にあること,以上の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はない。
上記認定事実によれば,××番1の土地は,古く市制・町村制の施行により「P12」とされた地域の住民により耕地かんがい用の用水貯溜池として総有的に利用されてきたものであり,遅くとも昭和44年ころまでにはα町自治会(前記前提事実(1)及び弁論の全趣旨によれば権利能力なき社団と認められる。)がこれを事実上所有し,P16池水利組合により管理されてきたもので,現時点においてもその貯溜水がその近隣に存在する田畑のかんがいの用に供されているものと認められる。
そうであるとすれば,本件各賦課期日において,××番1の土地は,客観的にみて耕地かんがい用の用水貯溜池として広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供し得る機能を有する状態にあったのみならず,その貯溜水が何らの制約を設けず現実に耕地かんがいの用に供されていたものというべきであるから,地方税法348条2項6号の「公共の用に供するため池」に該当し,したがって,同項本文,同法702条の2第2項により,上記各土地に対しては固定資産税及び都市計画税を課することはできない。
(3) 1審原告は,池沼の上にデッキプレートを設置して宅地としての利用が可能な状態に置けば地目は宅地となることからして,公共の用に供するため池の上にデッキプレートを設置した場合も同様に解すべきで地目認定に差をつける合理的理由はないと主張する。しかし,たとえ池沼上にデッキプレートが設置された場合1審原告主張のように解されるとしても,公共の用に供するため池については地方税法348条2項6号で非課税とされているのであり,この規定の解釈については前記(1)で縷々述べたとおりである。したがって,ため池として公共の用に供されている以上,たとえ賃貸されるなどしてそれ以外の目的にも利用されているとしても同号に該当することとなり,固定資産税及び都市計画税を課することはできないものである。
(4) 1審原告は、堺市土地評価取扱要領(甲41)に,非課税ため池の取扱いとして,「耕作灌漑用の貯溜池と防水のために築造した堤防とで形成されており,多数の田に灌漑している溜池,堤塘とする」,「一個人の田のために作られているような溜池は,池沼とする」と記載されていることから,××番1の土地(P16池)は1つ,2つの田畑にかんがいしているにすぎないから,公共の用に供するため池とはいえないと主張する。しかし,堺市土地評価取扱要領は行政内部の取扱要領にすぎない上,その記載の趣旨は,全体としてみると,一個人のために作られたため池は公共の用に供するため池として扱えないことをいうものと解され,P16池のように古くから地域住民によって農業用かんがいのため入会財産として総有的に利用されてきて広く不特定多数人の耕地かんがいの用に供し得る機能を有する池の場合,たとえ利用者が減ってわずかになっていても,現実にかんがいの用に供されている以上,ため池と認定することの妨げとなるものではない。
3 本件においては,平成15年度の固定資産税及び都市計画税の一部についての賦課徴収権が時効により消滅しているが(地方税法18条,362条1項,堺市市税条例(昭和41年堺市条例第3号)39条1項),その分についても,1審被告堺市において固定資産税,都市計画税を課することができないのであるから,訴えの利益を欠くわけではなく,結局1審原告の怠る事実の違法確認請求は理由がないということに帰することになる。
4 以上によれば,1審原告の本件請求のうち原判決主文第1項の請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下し,その余は理由がないから棄却すべきである。
よって,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島田清次郎 裁判官 松井千鶴子)
裁判官山垣清正は差し支えのため署名押印できない。裁判長裁判官 島田清次郎