大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成20年(行コ)90号 判決 2009年1月20日

主文

1  本件控訴及び本件附帯控訴に基づき,原判決主文第2,4項を次のとおり変更する。

2  控訴人は,Aに対し,2億5379万円,及び,内2788万円に対する平成17年5月1日から,内618万円に対する同月24日から,内385万円に対する同月25日から,内2億0125万4000円に対する平成18年5月1日から,内191万3000円に対する同月16日から,内1271万3000円に対する同月29日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

3  控訴人は,財団法人B財団に対し,1284万円の支払を請求せよ。

4  控訴人は,財団法人C協会に対し,3909万円の支払を請求せよ。

5  控訴人は,財団法人D協会に対し,2億0186万円の支払を請求せよ。

6  その余の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

7  訴訟費用は,第1審において控訴人に生じた費用の6分の1並びに1審原告E,同F及び同Gに生じた各費用は阿部泰隆の負担とし,第1審のその余の費用及び第2審の費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  本件控訴

(1)  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。

2  本件控訴に対する答弁

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

3  本件附帯控訴

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  控訴人は,Aに対し,2億5379万円,及び内3791万円に対する平成17年5月1日から,内2億1588万円に対する平成18年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(3)  控訴人は,財団法人B財団に対し,1284万円及びこれに対する平成18年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(4)  控訴人は,財団法人C協会に対し,3909万円,及び内385万円に対する平成17年5月1日から,内3524万円に対する平成18年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(5)  控訴人は,財団法人D協会に対し,2億0186万円,及び内3406万円に対する平成17年5月1日から,内1億6780万円に対する平成18年5月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。

(6)  訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

4  本件附帯控訴に対する答弁

(1)  本件附帯控訴を棄却する。

(2)  訴訟費用は,原審訴訟費用中,「控訴人に生じた費用の6分の1並びに原告E,原告F及び原告Gに生じた各費用を阿部泰隆の負担とする。」との部分に関する附帯控訴を却下し,附帯控訴費用を被控訴人らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,神戸市の福祉・医療関係財団法人3法人に対する平成16,17年度の派遣職員人件費に充てる補助金支出が公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律(平成12年法律第50号,以下「派遣法」という。)6条2項の手続によることなくされた脱法行為として違法であり,公益上必要がある場合の補助金支出を認めた地方自治法(以下「地自法」という。)232条の2によっても正当化されないとして,控訴人に対し,各支出当時に神戸市長の地位にあったAに対し,同補助金に含まれる派遣職員人件費相当額及びこれに対する遅延損害金について損害賠償請求することを求めるとともに,補助金を受領した各法人に対し,派遣職員人件費相当額について不当利得返還請求すること及びこれらに対する法定利息の支払を請求することを求めた住民訴訟(地自法242条の2第1項4号)である。

原審は,被控訴人らの請求を一部認容したため,これを不服とする控訴人が本件控訴を,被控訴人らが附帯控訴を提起した。なお,原審は,1審原告E,同F及び同G(以下「1審却下原告ら」という。)の訴えにつき,必要な訴訟委任がなされたと認められず不適法であるとしてこれを却下した上,民訴法70条により阿部泰隆弁護士に訴訟費用の負担を命じたところ,被控訴人らは本件附帯控訴により,これを控訴人に負担させることを求めた。

2  争いのない事実等,関係法令の定め,争点及び当事者の主張は,以下の当審での補充主張を付加する他は,原判決「事実及び理由」第2の1~4のとおりであるからこれを引用する(略語は原判決の用法による。)。但し,5頁6行目,15頁10から11行目にかけての各「規定」を「規程」に改める。

〔控訴人〕

(1) 争点1(本件支出の違法性)

ア 相手方又はその業務の性質が公益性を有し,補助対象経費がその実現のために支出される限り,地自法232条の2が許容する補助に該当し,別途,個別の補助対象経費や補助自体の公益性は問題にならず,本件については,派遣職員が従事した業務に公益性がある以上,補助金の積算根拠(補助対象経費の決定根拠)に給与相当額を含めるのは合理的であり,これが補助対象経費に含まれていることについて公益性の観点から改めて審査する余地はない。補助金支出の手続においては,①補助対象事業・事業者を選定し,②当該事業に要する経費のうち補助対象経費を決定し,③それに対する補助金額を定めるところ,①において当該事業に公益性があるかを判断し,②において補助対象事業に要する経費のうち何を補助金の対象とするかを決定し,③において市の予算上の考慮や対象団体の財政力を勘案するが,②・③が公益性要件の審査対象でないことは明らかである。

本件においては,本件各法人の補助対象事業に公益性があることを前提に必要な補助対象経費を定めたから,これを基礎として補助金額を算出・支出すること自体に公益性要件の充足性を観念する余地はない。補助対象経費に派遣職員の給与相当額が含まれるにしても,派遣職員に補助対象事業を担当させるかは派遣先の内部問題にすぎず,派遣職員が同事業に従事する以上は固有職員の人件費と区分すべき理由はなく,補助対象経費に派遣職員人件費が含まれていることをもって,交付決定等を違法とし得ない。

補助金支出にあたっては,事業担当局の予算要求,行財政局の事務事業の必要性の審査,具体的な実施方法や内容(公益上の必要性,経費単価の妥当性や人員配置の合理性等)の査定,市長による予算案の提出,議会の議決,予算成立後の補助金交付要綱の制定,要綱に定める手続に沿った補助金交付決定等(事業担当局における補助金交付申請書における見積内訳の審査,事業実績報告書の徴求等),行政評価条例に基づく評価等の手続を経ており,委託料も同様であって,公益上の判断をせずに本件支出をなしたものではない(乙30~34)。

イ 派遣法は,最高裁平成10年4月24日判決を考慮して,地方公共団体職員が公務以外の事務に従事できる要件を明らかにしたことに主眼があり(乙29・42頁),当該事務を派遣先の事務と整理した上で給与付き派遣ができないと規定しておらず(同45頁中段),同法6条2項はかかる場合に派遣元に給与支給を義務づけたものではなく,支給できる場合を例外的に定めたにすぎない。

しかも,職員派遣は複数年にわたることが通例であるから(同法3条),派遣元が派遣職員に給与を支給することとして派遣期間を通じて同法6条2項の要件を満たそうとする場合は,当該派遣が継続する限り,当該派遣職員が従事する業務の委託又はそれに対する補助金の支出を継続すべき義務を負うことになるし,また,職員派遣の際に,派遣職員が従事すべき業務が特定されていない場合には,当該派遣が給与を支給できる場合に該当するかを判断することができない。また,事務の委託に際しては,最小の経費で最大の効果をあげることを考慮しなければならず(地自法2条14項),補助に際しては,補助対象の公益性を判断しなければならない(同法232条の2)から,そこで考慮されるのは,相手方における事業の効率性,経済性又は公益性であり,派遣先であること自体によって,当然に委託先になったり,補助金の交付先になったりするものではないから,委託事業や補助対象事業に派遣職員が従事する場合であっても,当該派遣職員の給与相当額を当該事業に要する経費の一部として考慮すべきであり,そうでないと,他の事業者と比較できず,派遣先を不当に有利に取り扱うことになりかねないし,逆に,派遣元が給与を支給しない派遣職員の人件費相当額を補助できないことを理由として,派遣先を事務委託や補助対象から排除するのは不当な差別的取扱となるし,派遣職員を委託事業や補助事業に従事させられないとすれば,派遣法2条1項が,派遣職員が従事する業務ではなく,公益法人の性質に着目して派遣先となるべき資格を定めた趣旨に反することになる。

したがって,派遣元は,派遣法6条2項の要件を充足するか否かにかかわらず,派遣職員に給与を支払わないこととして,その給与相当額を委託料又は補助対象経費に含めることもできるというべきである。職員を派遣するか否かと派遣先に事業委託又は補助金支出するか否かとの間には論理的な関係はなく,補助金支出に係る公益性の審査において,派遣先が当該事業に従事させることとした派遣職員の給与相当額を含めることが妥当かを判断しているから,かかる態様は違法でない。

(2) 争点2(Aの故意又は過失の有無)

労働法上の賃金支払に係るノーワークノーペイの原則を理由に,賃金とは性質も支出者も異なる補助金支出についてAに過失があったとすることはできない。

適法とする通説判例がないことは,本件支出が違法でAに過失があることを直ちに意味しない。派遣法の国会審議における立法担当者の答弁(乙27),学説(乙28),裁判例(大阪高裁平成15年2月18日判決等)からして,本件支出はそもそも違法ではなく,仮に違法としても過失はない。

本件支出につき,法令に従い,事業担当局の予算要求,行財政局の事務事業の必要性の審査,具体的な実施方法や内容(公益上の必要性,経費単価の妥当性や人員配置の合理性等)の査定,市長による予算案の提出,議会の議決,予算成立後の補助金交付要綱の制定,要綱に定める手続に沿った補助金交付決定等(事業担当局における補助金交付申請書における見積内訳の審査,事業実績報告書の徴求等),行政評価条例に基づく評価等の手続を経ており,公益性の審査を放棄したものではない。

(3) 1審却下原告らの訴訟費用

1審却下原告らは本件控訴の対象でなく,同原告らは控訴を提起していないし,阿部弁護士には同原告らの訴訟代理権がないから,被控訴人らの附帯控訴のうち,同原告らの訴訟費用の負担に関する原裁判の取消・変更を求める部分は不適法である。

訴訟費用の負担を命ぜられた阿部弁護士は,これに不服があれば即時抗告を提起できたが(民訴法69条3項),当該裁判の言渡しを受けた日から1週間の不変期間内にこれをしなかったから,もはや不服を申し立てられない。

〔被控訴人ら〕

(1) 争点1(本件支出の違法性)

ア 派遣法6条2項は,派遣元が派遣職員の給与を負担する公益性がある例外的な場合を規定しており,地自法232条の2の特別法にあたる。派遣法が派遣職員人件費に充てる補助金支出を禁止する明文規定を置いていないのは,給与付派遣を原則禁止し,これが許される場合を例外として明示したことから,同法によらない給与支出がなされることを想定していなかったからにすぎず,かかる事態を許容したものではない。本件支出は同法6条2項を無意義とする脱法行為である。

イ 個別の補助対象経費の公益性を審査せず,単に補助対象事業に公益性があることを審査すれば足りるとすると,公金たる補助金を無限に注ぎ込むことが可能となる。補助金支出に段階的な手続が踏まれていても,本件における人件費の補助につき,どのような公益性があると判断したのかを,派遣・固有職員の各人数,人件費単価を示して算定の合理性を具体的に示せない以上,本件支出全体につき公益性がないことは明らかである。

仮に,派遣職員人件費の補助が地自法232条の2により許されるとしても,派遣法と整合的に解されなければならず,同法6条2項によらず派遣された以上は派遣先の給与体系によるべきであって,派遣元の給与体系で算定して補助したのは違法である。

ウ 固有職員人件費はそれぞれの団体が自費で賄うから,これを補助する公益性は通常はなく,公益性があるなら控訴人がその主張立証をすべきところ,特段の主張立証はないから,本件支出は全て派遣職員人件費に充てられたと推認すべきであって,その交付決定時点において違法である。

(2) 争点2(Aの故意又は過失の有無)

神戸市は本件支出により補助金の形式を仮装して派遣職員に給与を支給したものであり,同職員が神戸市の業務に従事していない以上,ノーワークノーペイの原則が適用され,かかる違法な給与支給につき,Aに故意又は過失がある。

本件支出を適法とする通説判例がないのは,本件のような派遣法の規制を潜脱した給与支給がなされることが法の想定外であったからにすぎず,これをもって違法でなく過失もないとすることはできない。立法担当者の国会答弁(乙27)にあたって,本件のような給与支給を正当化する議論があったものではないし,「補助金等に係る公益上の必要性などについて十分検討が行われるものと考えている」と答弁されているから,公益性につき具体的に検討していない本件支出につきAに重大な過失があるのは明らかである。学説(乙28)も派遣法が地自法の特別法であることを考慮したものではなく依拠できない。

(3) 1審却下原告らの訴訟費用

本件訴訟は住民運動(○○会)の一環として行われたもので,1審却下原告らの氏名が印字された訴訟委任状への押印は,運動の代表者である被控訴人Hが個々の了解を得てその所持する印で行ったもので,1審却下原告らは訴訟提起時に阿部弁護士に訴訟委任していた。原審は,1審原告らから印鑑証明書添付の委任状を徴求したところ,E及びFは印鑑登録していないため家族の代表である被控訴人Iのみがこれに応じたにすぎない(甲20,21)。Gは,本件訴訟に先立つ関連事案の監査請求書に自署拇印し,祝勝会に参集して写真を撮ったものであり(甲18,19),本件訴訟もその提起時に委任したもので,係属中に翻意したにすぎない。

1審却下原告らは,原審で実印を押印した訴訟委任状を追完しなかったから自らの訴えが容れられないことに異議があるものではなく,阿部弁護士の訴訟費用負担について控訴提起する動機・関心を有さないところ,阿部弁護士は訴訟当事者でなく控訴を提起できず,民訴法69条3項の適用がなく即時抗告を申し立てられず,他方,同部分を取り消すために被控訴人らから独立の控訴を提起するのは負担が重すぎた。被控訴人らは,控訴人の控訴提起を受けて,当審で上記の点を争うこととしたもので,本件附帯控訴によってこれを争えることとしなければ,阿部弁護士の裁判を受ける権利を侵害し,不当である。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記引用に係る争いのない事実等,証拠(甲2~7,10~17,乙1~13,20~22,26,27,29)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件各法人

ア B財団は,健康づくりから診断・治療,リハビリテーションにいたる包括的な医療供給体制の確立を図るため,神戸市における地域医療のシステム化を推進し,もって市民の健康と福祉の増進に寄与することを目的とする財団法人である。

神戸市は,B財団に対し,B財団要綱(平成3年3月11日施行)に基づき,補助金を支出している。同要綱2条1~4号は,地域医療システムの調査研究及び運営,地域医療システム化を推進するための普及啓発,医学研究及びその助成並びに医療従事者の研修,上記の他,地域医療のシステム化を推進するために必要な事業を行うために必要とする経費を補助の対象とする旨規定するが,その「必要とする経費」の種類等を特定,例示又は制限,限定する明文規定はない。

イ C協会は,神戸市の障害者のスポーツを振興することにより,障害者の機能回復と健康の増進を図るとともに,障害者の社会的自立と社会参加を促進し,もって障害者の福祉の向上に寄与することを目的とする財団法人である。

神戸市は,C協会に対し,C協会要綱(平成10年4月1日施行)に基づき,補助金を支出している。同要綱4条は,事業費及び事務費とともに人件費を補助の対象とする旨規定する。

ウ D協会は,神戸市の市民,事業者及び神戸市がそれぞれの有する人材,資力その他の福祉資源を総合的に活用することによって,市民福祉を振興するための事業を創造し,かつ,推進し,もって市民の福祉の向上に寄与することを目的とする財団法人である。

神戸市は,D協会に対し,同協会が実施する公園緑地事業に必要な資金について,J要綱(平成9年4月1日施行)に基づき,補助金を支出している。同要綱3条1号は,神戸市からD協会への派遣職員人件費のうち,J管理運営業務に従事する職員の人件費を補助金の交付対象となる経費とする旨規定する。

神戸市は,D協会に対し,K管理運営等業務に必要な資金について,K要綱(平成10年4月1日施行)に基づき,補助金を支出している。同要綱4条1号は,神戸市からD協会への派遣職員人件費のうち,K管理運営等業務に従事する職員の人件費を補助金の交付対象となる経費とする旨規定する。

神戸市は,D協会に対し,Lの管理運営等業務に必要な資金について,L要綱(平成15年4月1日施行)に基づき,補助金を支出している。同要綱4条1号は,神戸市からD協会への派遣職員人件費のうち,L管理運営等業務に従事する職員の人件費を補助金の交付対象となる経費とする旨規定する。

(2)  派遣法

ア 制定経緯

従前,地方公共団体毎に,職務専念義務免除,職務命令,休職,退職等,様々な方法により公益法人等への給与付きの職員派遣が行われていたところ,神奈川県茅ヶ崎市が同市の商工会議所に対して職務専念義務免除の方法により職員を派遣して給与等を支給したことの適否について判示した茅ヶ崎市住民訴訟最高裁判決(最高裁判所平成10年4月24日第二小法廷判決・裁判集民事188号275頁)等を踏まえて,職員派遣についての統一的なルールの設定,派遣の適正化,派遣手続の透明化・身分取扱いの明確化等,及び,行政と民間との連携協力による地方公共団体の諸施策の推進のために,平成12年4月26日,派遣法が制定され,平成14年4月1日から施行された(甲7,乙21,29)。

イ 派遣法の規定

地方公共団体が人的援助を行うことが必要と認められる公益法人等の業務に専ら従事させるために職員を派遣する制度等を整備することにより,公益法人等の業務の円滑な実施の確保を通じて,地域の振興,住民の生活の向上等に関する地方公共団体の諸施策の推進を図り,もって公共の福祉の増進に資することを目的とする(1条)。

職員の任命権者は,2条1項各号に定める公益法人等のうち,その業務の全部又は一部が当該地方公共団体の事務又は事業と密接な関連を有するものであり,かつ,当該地方公共団体がその施策の推進を図るため人的援助を行うことが必要であるものとして条例で定めるものとの間の取決めに基づき,当該公益法人等の業務にその役職員として専ら従事させるため,条例で定めるところにより,職員を派遣することができ(2条1項),上記取決めにおいては,当該職員派遣に係る職員の職員派遣を受ける公益法人等における報酬その他の勤務条件及び当該派遣先団体において従事すべき業務等その他職員派遣に当たって合意しておくべきものとして条例で定める事項を定める必要がある(同条3項)。

派遣職員は,派遣時就いていた職にとどまるが,その職務に従事せずに派遣先の業務に従事し(4条1,2項),その給与は派遣先団体が支給し,地方公共団体は給与を支給しない(6条1項)。派遣職員が派遣先において従事する業務が,給与支給可能業務(地方公共団体の委託を受けて行う業務,地方公共団体と共同して行う業務若しくは地方公共団体の事務若しくは事業を補完し若しくは支援すると認められる業務であってその実施により地方公共団体の事務若しくは事業の効率的若しくは効果的な実施が図られると認められるものである場合)又は給与支給可能業務が派遣先団体の主たる業務である場合は,地方公共団体の職務に従事することと同様の効果をもたらすものと認められることから,その場合に限り,例外的に,地方公共団体は,条例で定めることを条件として,派遣職員に対し給与を支給することができる(同条2項)。

派遣法は,6条2項の手続に拠らず,派遣元が派遣先に派遣職員人件費の相当額を補助金として支出して,派遣先が派遣職員に派遣元と同額の給与を支給することの可否に関する規定を置いていない。

ウ 通達等

派遣法の運用についての自治公第15号平成12年7月12日付自治省行政局公務員部長通達は,派遣法は職員派遣に関する統一的なルールを定めるものであることから,同法の目的に合致するものについては,その施行後は同法規定の職員派遣制度によるべきものであるとする(乙20・10頁)。

派遣法の国会審議において,営利法人等に対して地方公共団体が別途補助金を補助してそこから派遣職員への給与が支給されると,迂回的に地方公共団体が給与負担することになり問題であるがどう整理しているのかとの質問に対して,自治政務次官は,第三セクター自体の社会的な便益が広く地方にもたらされる事業を行う場合は,地自法232条の2により地方公共団体が財政的援助を行う場合もあり得るが,その内容については,当該第三セクターに対する地方公共団体の関わり方を踏まえて,補助金支出に係る公益上の必要性等について十分検討が行われるものと考えていると答弁したものの,地方公共団体が支出した補助金から派遣職員への給与が支給されることの可否に関しては,何ら答弁していない(甲5,乙27)。

(3)  神戸市の本件各法人への職員派遣

ア 本件条例・本件規則

神戸市は,本件条例を制定し,派遣法2条1項に規定する公益法人のうち,神戸市が基本金その他これに準ずるものを出資している法人で人事委員会規則で定めるものとの間の取決めに基づき,当該公益法人等の業務にその役職員として専ら従事させるため,職員を派遣することができるとし(2条1項1号),派遣職員のうち,派遣法6条2項に規定する業務に従事するものには,その派遣期間中,給料,扶養手当,調整手当,住居手当及び期末手当のそれぞれ100分の100以内を支給することができるとした(4条)。

神戸市は,本件条例に基づき本件規則を制定し,同条例2条1項1号に規定する人事委員会規則で定める団体として,本件各法人を規定した(2条1項)。

イ 職員の派遣に関する協定書

神戸市は,本件各法人との間で,平成14年3月29日付で,神戸市職員を派遣することについて,給与その他必要な事項に関して協定するとして,派遣法2条1項所定の取決めとして,職員の派遣に関する協定書(甲6,以下「本件協定書」という。)を本件各法人との間でそれぞれ締結した。本件協定書は,派遣職員は,神戸市において現に有する身分をそのまま有するものとして,本件各法人は,派遣職員を本件各法人の役員又は職員に併任するものとし(各2条),本件各法人は,派遣職員を神戸市の事務又は事業と密接な関連を有すると認められる業務,又は内部管理的な業務等であって,本件各法人の業務運営上派遣職員を従事させる必要があると認められる業務に従事させることができるとし(各3条),その給与及び諸手当(退職手当を除く)は,本件各法人の関係規程を適用し,本件各法人が支給するものとするが,派遣職員が神戸市において職務に従事するものとした場合に神戸市より受けることができる額を下回らないものとするとした(各6条)。

協定書3条上の派遣職員の上記の従事可能業務は,派遣法6条2項上の給与支給可能業務(派遣先団体が地方公共団体の委託を受けて行う業務,地方公共団体と共同して行う業務若しくは地方公共団体の事務若しくは事業を補完し若しくは支援すると認められる業務であってその実施により地方公共団体の事務若しくは事業の効率的若しくは効果的な実施が図られると認められるものである場合)とは,文言上は一致しない。なお,控訴人は,本件派遣職員が本件各法人で従事した業務が派遣法6条2項の要件を満たすものであることにつき何ら主張立証するものではない。

協定書6条上の派遣先が支給する派遣職員への上記の給料・諸手当は,派遣法を受けた本件条例4条上の神戸市が支給する派遣職員への給料・諸手当(給料,扶養手当,調整手当,住居手当及び期末手当のそれぞれ100分の100以内)とは,一致せず,給与のうち時間外勤務手当,管理職手当,通勤手当及び勤勉手当等の諸手当は,同条例上は支給対象外である。

ウ 本件派遣職員の派遣

神戸市は,本件各法人に本件派遣職員を派遣するところ,同職員は,本件各法人の業務のみに従事しており,神戸市の業務には一切従事しておらず,また,本件各法人には各法人が採用する固有職員がいる。

(4)  平成16年度補助金

ア B財団(甲10)

控訴人は,B財団によるB財団要綱に基づく平成16年6月9日付の交付申請に対し,同年7月12日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金合計2469万1000円を支出した(注・この補助金交付は本件訴訟の請求対象とはされていない。)。

上記申請書添付にかかる補助金明細書に係る年間執行予定額によれば,①地域医療連携システム運営事業費・地域医療室の運営人件費2名分として953万1000円,②地域医療連携システム推進事業費・地域医療システムの普及啓発人件費1名分として484万円,③管理費・地域医療ホールの管理運営人件費1名分として484万円の合計1921万1000円が,人件費として予定されていた(甲10・10頁)。

控訴人は,平成17年3月31日付で補助金交付確定通知書を発し,交付確定額2469万1000円のうち,人件費相当額は給料,諸手当(通勤手当を除く),共済費合計1969万1476円とした(甲10・30頁)。その内,派遣職員人件費を確定額で認定するに足りる証拠はないが,後記(5)アの認定に照らせば,1200万円を上回ると推認される。

イ C協会(甲11)

(ア) 控訴人は,C協会によるC協会要綱に基づく平成16年4月1日付の交付申請に対し,同日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金合計6283万4000円を支出した(注・この補助金交付は本件訴訟の請求対象とはされていない。)。

上記申請書添付にかかる補助金内訳によれば,①C協会運営(派遣職員費等)として2825万7000円,②M管理運営(派遣職員等)として1301万9000円が予定されていた(甲11・11頁)。

(イ) 控訴人は,上記要綱に基づく平成17年3月31日付の追加交付申請に対し,同日付で追加交付決定をし,同決定に基づき,同年5月25日に,派遣職員の人件費不足分として,385万2045円を支出した(甲11・30,32頁)。

(ウ) C協会は,控訴人に対し,同月27日付で補助事業・収支決算を報告したところ,①C協会運営補助に係る人件費は2868万1889円,②M管理運営(派遣職員人件費1名分)は1301万9000円であった(甲11・41頁。なお,上記①については同書証上開示されていないが,決算額の合計額から開示分を控除して上記のとおり計算される。)。上記人件費の合計額は4170万0889円である(注・この補助金交付につき本件訴訟の請求対象とされたのは,平成17年5月25日支出の385万2045円の限度である。)。その内,派遣職員人件費を確定額で認定するに足りる証拠はないが,後記(5)イの認定に照らせば,3500万円を上回ると推認される。

ウ D協会(甲3,12,14,16)

(ア) J(甲12)

控訴人は,D協会によるJ要綱に基づく平成16年4月1日付の交付申請に対し,同月27日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金合計9705万円を支出した(注・この補助金交付につき本件訴訟の請求対象とされたのは,平成17年1月19日支出の3235万円の限度である。)。

上記申請書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,課長級1名,係長級4名,担当5名の人件費10名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲12・22頁)。

D協会は,平成17年3月31日付で補助金実績を報告したところ,派遣職員9名の人件費として9258万8417円を充てたもので,差引返戻額として446万1583円があるとした(甲12・61,62頁)。

控訴人は,同年5月12日付で補助金交付確定通知書を発し,上記446万1583円の返還を求め,D協会は同月24日にこれを返還した(甲12・63~66頁)(注・本件訴訟の請求対象とされた3235万円との差額は,2788万8417円となる。)。

(イ) K(甲14)

控訴人は,D協会によるK要綱に基づく平成16年4月1日付の交付申請に対し,同日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金合計2116万7000円を支出した(注・この補助金交付は本件訴訟の請求対象とはされていない。)。

上記交付決定通知書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,課長級1名,係長級1名の人件費2名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲14・6頁)。

(ウ) L(甲16)

a 控訴人は,D協会によるL要綱に基づく平成16年4月1日付の交付申請に対し,同日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金合計7530万円を支出した(注・この補助金交付は本件訴訟の請求対象とはされていない。)。

上記申請書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,局長級1/2名,部長級1/2名,係長級5名,担当1名の人件費7名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲16・19頁)。

b 控訴人は,平成17年3月31日付の追加交付申請に対し,同日付で追加交付決定をし,同決定に基づき,同年5月24日に,派遣職員の人件費不足分として,追加補助金618万1220円を支出した。

c 上記派遣職員の人件費として交付された補助金の合計額は8148万1220円である(注・この補助金交付につき本件訴訟の請求対象とされたのは,平成17年5月24日支出の618万1220円の限度である。)。

(5)  平成17年度補助金

ア B財団(甲4,10)

控訴人は,B財団によるB財団要綱に基づく平成17年5月16日付の交付申請に対し,同年6月1日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金2469万1000円を支出した(同年6月8日及び同年8月16日に各823万円,同年12月6日に823万1000円)。

上記申請書添付にかかる補助金明細書に係る年間執行予定額による人件費は前年度(前記(4)ア)と同様である(甲10・51頁)。

控訴人は,平成18年3月31日付で補助金交付確定通知書を発し,交付確定額2469万1000円のうち,人件費相当額は給料,諸手当(通勤手当を除く),共済費合計1929万0231円とした(甲10・63頁)。その内,派遣職員人件費は1284万5342円である(甲4・6頁,甲10・65頁)。

イ C協会(甲4,11)

控訴人は,C協会によるC協会要綱に基づく平成17年4月1日付の交付申請に対し,同年5月11日付で交付決定をし,同決定に基づき3回にわけて補助金6693万2000円を支出した(同月19日に2231万2000円,同年8月22日及び同年12月2日に各2231万円)を支出した。

上記申請書添付にかかる補助金内訳によれば,①C協会運営(派遣職員費等)として3235万5000円,②M管理運営(派遣職員等)として1301万9000円が予定されていた(甲11・53頁)。

C協会は,控訴人に対し,平成18年5月16日付で補助事業・収支決算を報告したところ,①C協会運営補助に係る人件費は2895万0390円,②M管理運営(派遣職員人件費1名分)は1301万9000円であった(甲11・78頁。なお,上記①については同書証上開示されていないが,決算額の合計額から開示分を控除して上記のとおり計算される。)。上記人件費の合計額は4196万9390円である。その内,派遣職員人件費は3524万0379円である(甲4・5頁)。

ウ D協会

(ア) J(甲4,13)

a 控訴人は,D協会によるJ要綱に基づく平成17年4月1日付の交付申請に対し,同月26日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金7603万2000円を支出した(同年5月9日,同年9月15日及び平成18年1月18日に各2534万4000円)。

上記申請書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,課長級1名,係長級3名,担当4名の人件費8名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲13・22頁)。

b 控訴人は,追加交付申請に対し,平成18年3月31日付で追加交付決定をし,同決定に基づき,同年5月29日に,派遣職員の人件費不足分として,追加補助金836万9519円を支出した。

c 上記派遣職員の人件費として交付された補助金の合計額は8440万1519円である。

(イ) K(甲4,15)

a 控訴人は,D協会によるK要綱に基づく平成17年4月1日付の交付申請に対し,同日付で交付決定をし,同決定に基づき,3回にわけて補助金1154万7000円を支出した(同年5月25日,同年8月17日及び同年12月9日に各384万9000円)。

上記交付決定通知書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,課長級1名の人件費1名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲15・5頁)。

b 控訴人は,追加交付申請に対し,平成18年3月31日付で追加交付決定をし,同決定に基づき,同年5月16日に,派遣職員の人件費不足分として,追加補助金191万4863円を支出した。

c 上記派遣職員の人件費として交付された補助金の合計額は1346万1863円である。

(ウ) L(甲4,17)

a 控訴人は,D協会によるL要綱に基づく平成17年4月1日付の交付申請に対し,同月15日付で交付決定をし,3回に分けて6559万5000円を支出した(同月22日,同年8月1日及び同年12月7日に各2186万5000円)。

上記申請書添付にかかる補助金交付申請額内訳表に係る算出方法によれば,局長級1/2名,部長級1/2名,係長級4名,担当1名の人件費6名分として補助金全額が人件費として予定されていた(甲17・16頁)。

b 控訴人は,平成18年3月31日付の追加交付申請に対し,同日付で追加交付決定をし,同決定に基づき,同年5月29日に,派遣職員人件費不足分として,追加補助金434万7653円を支出した。

c 上記派遣職員の人件費として交付された補助金の合計額は6994万2653円である。

(エ) 前記(ア)~(ウ)のとおり,D協会が派遣職員の人件費として交付された補助金の合計額は1億6780万6035円である。

2  争点1(本件支出の違法性)について

前記1の認定事実を元に,以下検討する。

(1)  神戸市は,平成16,17年度に本件各法人に本件派遣職員を派遣したものであり,同職員は本件各法人のみの業務に従事して神戸市の業務には一切従事しておらず,本件各法人の業務が実質上神戸市の業務と同一視しうるものではないが,本件各法人は,派遣法2条1項1号の委任を受けた本件条例2条1項1号から再委任を受けた本件規則2条1項各号において,職員派遣可能法人として規定されているものであり,かかる派遣自体が違法であるとはいえない。

派遣法2条1項所定の取決めである本件協定書各6条において,派遣職員の給与は本件各法人が支給するものとしており,本件派遣職員の給与は法形式上は本件各法人が支給したものであって,派遣法6条2項に基づいて神戸市が給与を支給したものではない。

控訴人は,平成16,17年度に本件各法人に補助金を交付する旨決定したところ,B財団及びC協会については,その交付額のうちほぼ半分が派遣職員人件費に充てられ(少なくともC協会に対する平成17年3月31日付の追加交付決定に基づく385万2045円の交付については,決定時に,派遣職員人件費不足分としての交付であることが明らかにされている〔甲11・30頁〕。),D協会については,その交付額全額が派遣職員人件費に充てられたものである。そして,本件各法人の補助金交付申請書や補助事業・収支決算報告書の記載の体裁,本件各法人による本件支出の使途等に照らすと,本件訴訟の請求に係る本件各法人に派遣された本件派遣職員の人件費相当額は全てないしその大部分が本件支出から充てられたものであり,その交付決定等の時点でそのように充てられることが当然に予定されていたものであったことが推認され,これを覆す反論・反証は控訴人において容易になしうることが窺われるが,その旨の反証はない(例えば,本件支出のうち,派遣職員の人件費と固有職員の人件費に充てた金額を明らかにするようにとの被控訴人らの求釈明に対して〔被控訴人当審答弁書9頁〕,控訴人は,交付決定時点で本件支出が派遣職員・固有職員の人件費にどれだけ充てられる予定であったかが分かる資料を所持していないと回答してこれに応じなかったが〔控訴人当審第1準備書面6頁〕,本件各法人の補助金交付申請書や補助事業・収支決算報告書の記載の体裁や,神戸市が派遣職員に係る給与計算事務を行うものであること〔本件協定書・甲6・各15条1項〕等からすれば,要すれば本件各法人に報告を求めるなどして〔本件協定書各14条2項参照〕,これに釈明することは極めて容易であるにも関わらず,何ら釈明しなかったものである。)。

(2)  派遣法は,従前,地方公共団体毎に,職務専念義務免除,職務命令,休職,退職等,様々な方法により公益法人等への給与付きの職員派遣が行われていたところ,最高裁平成10年4月24日判決等を踏まえて,職員派遣についての統一的なルールの設定,派遣の適正化,派遣手続の透明化・身分取扱いの明確化等のために制定されたもので,その運用に関する通達上も,同法は職員派遣に関する統一的なルールを定めるものであるから,同法の目的に合致するものについては,同法規定の職員派遣制度によるべきものとされ,職員の任命権者は,2条1項各号に定める公益法人等のうち,条例で定めるものとの間の取決めに基づき,職員を派遣することができるが,派遣元の地方公共団体はその給与を支給しないものとされ(6条1項),派遣職員が派遣先において従事する業務が給与支給可能業務である場合又は給与支給可能業務が派遣先団体の主たる業務である場合に限り,例外的に,派遣元の地方公共団体が,条例で定めることを条件に派遣職員に給与を支給できると定めたものである(同条2項)。

かかる派遣法の規定,その制定経緯・趣旨,同法の運用に関する通達の内容を総合勘案すれば,同法の目的に合致する職員派遣については,同法規定の職員派遣制度によるべきものであり,同法規定の制度による職員派遣である以上は,その給与支給についても同法規定によるべきであって,派遣職員に対する派遣元による給与支給は禁止され(6条1項),例外的な場合に限って条例で定めることを条件に派遣元による給与支給が許され(同項2条),それ以外の場合は派遣元による給与支給は許されないものと解される。

本件において,神戸市は,本件各法人との間で派遣法2条1項所定の取決めとして本件協定書を締結し,同法によって本件派遣職員を本件各法人に派遣してその業務に従事させたものであるところ,派遣元である神戸市による派遣職員への給与支給を定めた本件条例4条,派遣法6条2項に拠らず,法形式上,派遣先である本件各法人がその給与を支給したものであるが,協定書3条上の派遣職員の従事可能業務と派遣法6条2項上の給与支給可能業務とは,文言上一致していない上,その支給原資の全てないし大部分は本件支出(神戸市補助金)であったのであるから,本件派遣職員に対して派遣元である神戸市が給与を支給したものと評価され,かかる支給は,本件条例4条の定めるところによりなされたものでないから,派遣法6条2項により例外として許容されるものではなく,同項1項の禁止に抵触するものとして違法である。

そして,前記(1)のとおり,本件支出の交付決定等の時点で本件派遣職員の人件費相当額は全てないしその大部分が本件支出から充てられることが当然に予定されていたものであったから,本件支出の交付決定等のうち派遣職員人件費に相当する部分(以下「本件違法支出」という。)は,派遣法6条1項に違反する財務会計上の行為(地自法242条の2第1項本文参照)として,違法となる。

(3)  これに対し,控訴人は,派遣元は,派遣法6条2項の要件を充足するか否かにかかわらず,派遣職員に給与を支払わないこととして,その給与相当額を補助金交付に係る補助対象経費に含めることができると主張し,その根拠として,①派遣法が派遣先に対する補助金支出を制限する規定を置いておらず,同法6条2項は派遣元が給与支給できると定めただけで,支給すべきとまで定めていないこと,②職員派遣は複数年にわたるのが通例であるところ,派遣元が派遣職員に給与を支給することとして派遣期間を通じて同法6条2項の要件を満たそうとする場合は,派遣が継続する限り当該派遣職員が従事する業務に対する補助金支出を継続する義務を負うこととなるし,派遣職員が従事する業務が特定されていない場合には,派遣元が給与を支給できるか否かを判断できないこと,③補助に際して判断を要する補助対象の公益性とは,対象事業の効率性,経済性又は公益性であり,派遣先であることにより補助金の交付先になるものではないから,補助対象事業に派遣職員が従事する場合であっても,その給与相当額を同事業に要する経費の一部として考慮すべきであり,そうでないと,他の事業者と効率性や経済性を比較できず派遣先を不当に有利に取り扱うことになりかねないし,派遣元が給与を支給しない場合にその人件費相当額を補助できないことを理由に派遣先を補助対象から排除すると,不当な差別的取扱となるし,当該派遣職員を補助対象事業に従事させることができないとすれば,派遣法2条1項が,派遣職員が従事する業務ではなく,公益法人の性質に着目して派遣先となるべき資格を定めた趣旨に反すること等を挙げる。

①につき,確かに,派遣法は,同法6条2項所定の要件・手続に拠らず,派遣元が派遣先に派遣職員人件費の相当額を補助金として支出して,派遣先が派遣職員に派遣元と同額の給与を支給することの可否に関する規定を置いていないものである(なお,控訴人が指摘する派遣法の国会審議における自治政務次官の答弁は,その内容上,上記処理を認める旨の解釈を示したものとは到底いえない。)。しかし,かかる解釈が許されると解すると,給与支給可能業務を細かに規定し,条例で定めることを条件に例外的に給与を支給できるとした同条2項等の同法の規律は極めて容易に回避され,前記説示に係る経緯で制定された同法が無意義に帰し,不当であることは明らかであるから,前記(2)の説示のとおり,派遣法の目的に合致する職員派遣については,同法規定の職員派遣制度によるべきものであり,同法規定の制度による職員派遣である以上は,その給与支給についても同法規定によるべきであって,派遣職員に対する派遣元による給与支給は禁止され,例外的な場合に限って条例で定めることを条件に派遣元による給与支給が許されるにすぎないものと解すべきであり,同法は,同法に基づく職員派遣がなされた場合において派遣元が派遣職員人件費相当額を派遣先に補助金として支出することにより,法形式上は派遣先が派遣職員に給与支給する形をとって,同法6条1項に抵触しない態様を作出することまで想定してこれを同項の対象から除外したものとは到底いえないから,同法が派遣先に対する補助金支出を制限する明文の規定を置いていないことや派遣元が給与支給すべきことを定めていないことをもって,控訴人主張が裏付けられるものではない。

②については,同法6条2項の定める給与支給可能業務の定義上,控訴人主張にかかる場合に派遣元が当然に補助金支出義務を負うことになるとまでは解されないし,派遣元は別段職員派遣の義務を負うものではなく,当該業務につき職員派遣も補助金支出も行わないことが当然にできるものであり,主張にかかる事態によって控訴人において如何なる不都合が生じるのかも明らかとはいえない。また,派遣法に従い職員派遣を行い,派遣元がその給与を支出する場合には,当然に同法6条2項の要件を満たすか否かを判断してこれをなすべきものであり,判断できない場合には派遣に伴う給与支給ができないにすぎないものであるから,いずれも採用の限りでない。

③のうち,補助対象事業に派遣職員が従事する場合に,その給与相当額を補助対象事業に要する経費の一部として考慮しないと,他の事業者と効率性や経済性を比較できず派遣先を不当に有利に取り扱うことになりかねないとの点については,補助金支出の審査において派遣職員の給与相当額を補助対象事業の経費の一部として考慮することと,交付した補助金から派遣職員人件費が支出されることとは全く別問題である(派遣元が派遣法6条2項に従い支給する給与分を補助対象事業の経費の一部として考慮した上で,その相当分は補助金としては交付しないとすればよいだけである。)。派遣元が給与を支給しない場合に,その人件費相当額を補助できないことを理由に派遣先を補助対象から排除すると不当な差別的取扱となるとの点については,人件費相当額を補助できないと補助対象から当然に排除されることになるのかそもそも明らかでないし,前記説示の派遣法の制定趣旨に照らせば,かかる扱いが不当な差別的取扱として許されないものであるともいえない。当該派遣職員を補助対象事業に従事させることができないとすれば,派遣法2条1項が公益的法人の性質に着目して派遣先となるべき資格を定めた趣旨に反するとの点については,そもそも,交付補助金を派遣職員人件費に充てなければ当該派遣職員が補助対象事業に従事できないといえるものではないなど,いずれも採用の限りでない。

したがって,控訴人主張をもって,派遣元が,派遣法6条2項の要件を充足するか否かにかかわらず,派遣職員に給与を支払わないこととして,その給与相当額を補助金交付に係る補助対象経費に含めることができると認めることはできない。

また,控訴人は,本件支出は地自法232条の2上の公益上の必要性のある場合の補助金支出として適法であり,当該必要性の判断は,本件各法人及びその事業内容の性質により判断すべきであり,補助対象経費がその実現のために支出される限り,同条が許容する補助に該当し,別途,個別の補助対象経費や補助自体の公益性は問題にならず,派遣職員が従事した業務に公益性がある以上,補助金の積算根拠に給与相当額を含めるのは合理的であり,これが補助対象経費に含まれていることについて公益性の観点から改めて審査する余地はなく,控訴人において著しく裁量権を逸脱又は濫用した違法はないなどと主張する。

しかし,前記説示のとおり,派遣法の目的に合致する職員派遣については,同法規定の職員派遣制度によるべきものであり,同法規定の制度による職員派遣である以上は,その給与支給についても同法規定によるべきであって,派遣職員に対する派遣元による給与支給は禁止され,例外的な場合に限って条例で定めることを条件に派遣元による給与支給が許され,それ以外の場合は派遣元による給与支給は許されないものと解されるところ,本件の職員派遣は同法により行われ,派遣先である本件各法人が形式上その給与を支給したが,協定書3条上の派遣職員の従事可能業務と派遣法6条2項上の給与支給可能業務とは文言上一致していない上,その支給原資の全てないし大部分は本件支出であったから,本件派遣職員に対して派遣元である神戸市が給与を支給したものと評価され,かかる支給は,本件条例4条の定めるところによりなされたものでないから,派遣法6条2項により例外として許容されるものではなく,本件違法支出は同項1項の禁止に抵触するものとして違法となるものであって,控訴人は,本件派遣職員が本件各法人で従事した業務が同条2項所定の給与支給可能業務であることにつき何ら主張立証するものでもないことに照らしても,本件違法支出が地自法232条の2により適法となるものではない。

また,控訴人は,派遣法6条2項による派遣元による給与支給をする場合についての本件条例4条は,時間外勤務手当,管理職手当,通勤手当及び勤勉手当等の諸手当を支給の対象外としており,派遣先が別途派遣職員に支給せざるを得ないところ,給与支給元と上記諸手当の支給元が異なることとなる結果,源泉徴収額,共済費額の計算等が煩雑となり,派遣職員に確定申告をさせる等の過度の負担を強いることになると主張するが,かかる程度の派遣職員の負担をもって,本件につき派遣法6条2項によらない派遣元による給与支給が許されるものとは到底いえない。

さらに,控訴人は,本件各法人は,神戸市の補助金によってそれに相当する公益活動を完遂しており,神戸市には何らの損害も発生していないとも主張するが,前記説示のとおり本件違法支出は違法な公金支出として許されないものであったから,その支出はそれ自体が損害にあたるというべきである。

以上のとおり,控訴人主張はいずれも採用できない。

3  争点2(Aの故意又は過失の有無)について

前記認定事実,証拠(甲10~13,15~17)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,本件支出当時,神戸市長の地位にあったところ,神戸市長は,本件支出の根拠たる本件各要綱を決定し,派遣職員人件費について,少なくとも平成4年度以降,B財団要綱に基づきB財団に対して,平成9年度以降,J要綱に基づきD協会に対して,平成10年度以降は,上記各要綱以外の本件各要綱に基づきC協会及びD協会に対して,交付決定等及びこれに基づく補助金支出を行わしめており,その期間は長期にわたること,従前,地方公共団体毎に様々な方法により給与付職員派遣が行われていたところ,職務専念義務免除の方法による職員派遣の適否についての最高裁平成10年4月24日判決がなされたこと等を踏まえて,職員派遣についての統一的なルールの設定を目的として派遣法が制定され,平成14年4月1日の施行後は同法の目的に合致するものについては,同法規定の職員派遣制度によるべきものとされたこと,同法6条2項は,同法規定の制度による職員派遣につき,例外的な場合に限って条例で定めることを条件に派遣元による給与支給を許したものであること,同法の有無にかかわらず,神戸市の職務に従事していない職員に給与を支給できないのは当然であり(ノーワークノーペイの原則・地方公務員法24条1項,30条,35条),かかる理を示した裁判例が既に相当数存したこと,神戸市は,派遣法制定を受けてその施行前に,本件各法人との間で派遣法2条1項所定の取決めとして本件協定書を締結し,同法6条2項所定の条例として本件条例を制定していたこと,本件協定書上の派遣職員の従事可能業務と,派遣法6条2項上の給与支給可能業務とは,文言上一致しないこと,協定書6条上の派遣先が支給する派遣職員への給料等は,本件条例4条所定の神戸市が支給する派遣職員への給料等とは一致しないこと,本件支出に係る交付決定等及び同決定等に基づく支出時には,派遣法及び本件条例が施行されて既に数年が経過していたこと,その当時において,派遣職員人件費を補助金として交付して支出させることを適法とするのが通説であるとか適法であると判示した裁判例が存在するといった状況にはなかったこと,本件支出の交付決定等の時点で本件派遣職員の人件費相当額は全てないしその大部分が本件支出から充てられることが当然に予定されていたこと等の事実に照らせば,本件違法支出に係る各交付決定等につき,Aに過失が認められるというべきである。仮に,神戸市長(控訴人)が本件違法支出に係る各交付決定等について神戸市の職員に専決させていたとしても,上記の点からすると,Aは,専決権限を有する職員が上記各交付決定等をするのを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,少なくとも過失により上記職員が上記各交付決定等をするのを阻止しなかったというべきである。

この点,控訴人は,労働法上の賃金支払に係るノーワークノーペイの原則を理由に,賃金とは性質も支出者も異なる補助金支出についてAに過失があったといえないこと,本件違法支出を適法とする通説判例がないことは,Aに過失があることを直ちに意味しないこと,派遣法の国会審議における立法担当者の答弁,裁判例,学説からして,本件違法支出はそもそも違法ではなく,仮に違法としても過失はないこと等を主張するが,前記認定・説示に照らせば,上記説示のとおり,かかる主張は採用できない。

4  争点3(本件各法人の不当利得及び悪意の有無)について

(1)  法律上の原因の有無について

上記交付決定等は違法であるところ,前記認定・説示のとおり,最高裁平成10年4月24日判決等を踏まえて,職員派遣についての統一的なルールの設定を目的として派遣法が制定され,その施行後は同法の目的に合致するものについては,同法規定の職員派遣制度によるべきものとされたこと,同法6条2項は,同法規定の制度による職員派遣につき,例外的な場合に限って条例で定めることを条件に派遣元による給与支給を許したものであること,同法の有無にかかわらず,神戸市の職務に従事していない職員に給与を支給できないのは当然であること,神戸市は,派遣法制定を受けてその施行前に,本件各法人との間で派遣法2条1項所定の取決めとして本件協定書を締結し,同法6条2項所定の条例として本件条例を制定していたこと,本件協定書上の派遣職員の従事可能業務と,派遣法6条2項上の給与支給可能業務とは,文言上一致しないこと,協定書6条上の派遣先が支給する派遣職員への給料等は,本件条例4条所定の神戸市が支給する派遣職員への給料等とは一致しないこと,本件支出に係る交付決定等及び同決定等に基づく支出時には,派遣法及び本件条例が施行されて既に数年が経過していたこと,本件支出の交付決定等の時点で本件派遣職員の人件費相当額は全てないしその大部分が本件支出から充てられることが当然に予定されていたこと等の事実に照らせば,上記各交付決定等に基づく補助金交付契約は,いずれも公序良俗に違反するものとして私法上無効であり,本件各法人の受領につき法律上の原因がないものと認められる。

(2)  悪意の有無について

前記認定・説示のとおりの状況で,本件各法人への派遣職員人件費の補助金支出が漫然と継続されてきたものであるが,他方,本件各法人は,神戸市との間で締結した本件協定書に従い,神戸市から交付された補助金を元に派遣を受けた職員に同協定書所定の給与を支払っていたものであることにも照らせば,本件違法支出に係る補助金の受領に法律上の原因がないことについて悪意であったとまでは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠はないから,民法704条所定の法定利息を支払う義務を負うとはいえない。

したがって,本件各法人は,本件違法支出により派遣職員人件費相当額の支出を免れたことにより現存する利益として,本件違法支出の元本相当額を返還する義務を負う(民法703条。後記Aの損害賠償義務の元本部分と不真正連帯。)。

5  争点4(損害額又は損失額)について

前記1~4の認定・説示を元に,以下のとおり判断する。

(1)  平成16年度補助金

ア C協会

本件訴訟の請求対象である追加補助金支出額(派遣職員人件費相当額,以下同じ。)385万2045円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金385万円全額を認容すべきである。

もっとも,その支出日は,被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日であるとする平成17年5月1日より後の同月25日であるから,同日が起算日となる。

イ D協会

(ア) J

本件訴訟の請求対象である補助金支出額3235万円は,平成17年5月24日に446万1583円が未執行額として元金から精算されたから,これを控除した2788万8417円が損害又は損失というべきであり,請求額である内金2788万円(被控訴人らは上記精算額については請求の対象から除外している。)全額を認容すべきである。

被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成17年5月1日は,上記補助金支出(受領)日の後であるから,同部分も認容すべきである。

(イ) L

本件訴訟の請求対象である追加補助金支出額618万1220円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金618万円全額を認容すべきである。

もっとも,その支出日は,被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成17年5月1日より後の同月24日であるから,同日が起算日となる。

(2)  平成17年度補助金

ア B財団

本件訴訟の請求対象である補助金支出額1284万5342円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金1284万円全額を認容すべきである。

被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成18年5月1日は,上記補助金支出(受領)日の後であるから,同部分も認容すべきである。

イ C協会

本件訴訟の請求対象である補助金支出額3524万0379円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金3524万円全額を認容すべきである。

被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成18年5月1日は,上記補助金支出(受領)日の後であるから,同部分も認容すべきである。

ウ D協会

(ア) J

本件訴訟の請求対象である補助金及び追加補助金支出額の合計8440万1519円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金8440万円全額を認容すべきである。

もっとも,追加補助金836万9519円のうち836万8000円(請求から除外された1519円については,被控訴人らに不利益とならないよう,追加補助金から減縮する。)の支出日は,被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成18年5月1日より後の同月29日であるから,同日が起算日となり,補助金7603万2000円のみ,同月1日が起算日となる。

(イ) K

本件訴訟の請求対象である補助金及び追加補助金支出額1346万1863円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金1346万円全額を認容すべきである。

もっとも,追加補助金191万4863円のうち191万3000円(請求から除外された1863円については,被控訴人らに不利益とならないよう,追加補助金から減縮する。)の支出日は,被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成18年5月1日より後の同月16日であるから,同日が起算日となり,補助金1154万7000円のみ,同月1日が起算日となる。

(ウ) L

本件訴訟の請求対象である補助金及び追加補助金支出額6994万2653円は,精算されたものでないから全額が損害又は損失というべきであり,請求額である内金6994万円全額を認容すべきである。

もっとも,追加補助金434万7653円のうち434万5000円(請求から除外された2653円については,被控訴人らに不利益とならないよう,追加補助金から減縮する。)の支出日は,被控訴人らが遅延損害金又は法定利息の起算日とする平成18年5月1日より後の同月29日であるから,同日が起算日となり,補助金6559万5000円のみ,同月1日が起算日となる。

(3)  Aが神戸市に与えた損害額は,上記(1)及び(2)の合計額であり,被控訴人らの請求は主文2項に掲記の限度で理由がある(前記本件各法人の不当利得返還義務と不真正連帯。)。

6  訴訟費用について

被控訴人らは,被控訴人Hが各1審原告の了解を得て,その記名のある訴訟委任状にその所持する印を押したもので,1審却下原告らは訴訟提起時に阿部弁護士に訴訟委任していたところ,同原告の訴え却下に伴う民訴法70条による同弁護士の訴訟費用負担部分を取り消すために被控訴人らが独立の控訴を提起するのは負担が重すぎたし,本件に民訴法69条3項の即時抗告規定は適用されず,本件附帯控訴によって上記部分を争えるようにしなければ,同弁護士の裁判を受ける権利を侵害すると主張する。

原判決の訴訟費用についての裁判は,「被告に生じた費用の6分の1並びに原告E,原告F及び原告Gに生じた各費用は阿部泰隆の負担とし,被告に生じた費用の42分の5及び上記原告らを除く原告らに生じた費用の7分の1を上記原告らを除く原告らの負担とし,被告に生じたその余の費用及び上記原告らを除く原告らに生じたその余の費用を被告の負担とする」というものであるところ,本件訴訟は類似必要的共同訴訟であって,訴訟物は各原告に共通し,控訴人と被控訴人らとの間の訴訟費用についての裁判の内容は,阿部泰隆の負担とされた「被告に生じた費用の6分の1並びに原告E,原告F及び原告Gに生じた各費用」の如何による影響を受けるのであるから,被控訴人らの附帯控訴による訴訟費用についての裁判の対象となると解しうる。なお,民訴法69条3項は決定でされた訴訟費用の裁判についてのものであることが明らかであり,その文言上本件に適用されるものではない。

しかるところ,被控訴人らの阿部泰隆の負担とされた訴訟費用についての主張には,甲18~21が沿うものの,1審原告E,同Fの「原告でしたが」との記載が訴え提起の段階で訴訟委任をしたという趣旨か断定できず,「(原告)を止めることとしたい」という申し出をした平成20年9月1日という時点と原審で実印押印付き訴訟委任状の提出を求められたのに提出しなかった時期との齟齬を考えると,直ちに同主張にかかる同人らの訴え提起の段階での訴訟委任を肯定するに足りず,別事件に関する甲22~27の訴訟における結果は明らかでなく,同主張を認めさせるに足りず,1審原告Gに関しては,甲28に照らし,同主張にかかる1審却下原告らの訴え提起の段階での訴訟委任を肯定するに足りない。

したがって,訴訟費用は,第1審において控訴人に生じた費用の6分の1並びに1審却下原告らに生じた各費用は阿部弁護士の負担とし,第1審のその余の費用及び第2審の費用は控訴人の負担とする。

第4結語

その他,当事者提出の各準備書面記載の主張に照らして全証拠を改めて精査しても,以上の認定,判断を覆すほどのものはない。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 若林諒 裁判官 小野洋一 裁判官 菊地浩明)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例