大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成21年(ラ)1262号 決定 2010年3月03日

抗告人・附帯抗告相手方(原審相手方)

相手方・附帯抗告人(原審申立人)

主文

1  原審判を取り消す。

2  相手方の本件申立てを却下する。

3  相手方の本件附帯抗告を棄却する。

4  抗告費用は抗告人の,附帯抗告費用は相手方の各負担とする。

理由

第1抗告及び附帯抗告の趣旨及び理由

1  抗告人

抗告人は,原審が,平成21年×月×日,当事者間の和歌山家庭裁判所平成20年(家イ)第○○○号婚姻費用分担調停事件(以下「前件調停事件」という。)について平成20年×月×日に成立した調停(以下「前件調停」という。)の調停条項1項で相手方が抗告人に対して支払う婚姻費用分担金を,平成21年×月以降分について,月額1万円に減額するとの審判をしたのに対して抗告し,原審判を取り消し,本件を和歌山家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めた。

抗告理由の要旨は,①相手方は,前件調停において月額6万円を支払うと約束したばかりであり,自らの意思で病院を辞めたからといって,給料が下がったことを理由に婚姻費用分担金の減額を認めるのは不当である,②相手方は歯科医であり,その月収は18万7000円である旨主張するが,支出は月額30万円であり,その差額は10万円以上であるから,これに見合うアルバイト収入があるはずである,というものである。

2  相手方

相手方は,上記原審判に対して附帯抗告し,前件調停において当事者が合意した婚姻費用分担金を,平成21年×月分以降月額1万円に変更するとの裁判を求めた。

附帯抗告理由の要旨は,相手方は平成21年×月に人事の都合で病院を辞めざるを得ず,同年×月から大学の研究生として勤務しながらアルバイトをして生計を立てるようになり,交通費(実費)を除くと手取収入は1か月約18万7000円と大きく減少したのであるから,本件調停を申し立てた同年×月には婚姻費用分担金を減額する必要性が大きかった上,抗告人は結婚を機に辞めた○○の職に復帰して360万円もの年収を得ているのであるから,婚姻費用分担金を減額する始期は同月とすべきである,というものである。

第2当裁判所の判断

1  本件及び前件調停事件の各記録によれば,次の事実が認められる。

(1)  抗告人(昭和57年×月×日生)と相手方(昭和55年×月×日生)は,平成18年×月×日に婚姻し,平成19年×月×日に長女が出生した。

(2)  抗告人と相手方は,長女が出生したころから夫婦喧嘩が絶えなくなり,相手方の転勤を機に平成20年×月下旬から別居していたところ,相手方において,同年×月×日離婚を求めて調停を申し立て,抗告人において,同月×日,婚姻費用分担金として月額6万円の支払を求める前件調停事件を申し立てた。そして,同年×月×日に前件調停が成立し,相手方は抗告人に対し,婚姻費用の分担金として,同月から双方が別居又は婚姻の解消に至るまで,月額6万円宛を毎月末日限り,抗告人の指定する預金口座に振り込んで支払う(ただし,平成20年×月分は,既に支払済みであることを確認する。),との合意がされた。上記離婚調停は,平成21年×月×日不成立となり,相手方から離婚訴訟が提起され,平成22年×月×日,離婚を認容する判決が言い渡され,同判決は同月×日確定した。

(3)  相手方は,平成21年×月×日,前件調停により合意した婚姻費用分担金を月額1万円に減額することを求める調停を申し立てたが,同年×月×日,調停は不成立となり,本件審判手続に移行した。

(4)  相手方は,歯科医であり,平成20年×月×日から平成21年×月×日までa病院に勤務し,給与及び賞与として,平成20年中は558万4439円を,平成21年中は191万0090円を支給された。相手方は,平成21年×月×日付けで上記病院を退職し,同年×月×日から大学の研究生として勤務しながら,病院でもアルバイトをしている。相手方は,同年中に大学から給料等として91万6600円を,アルバイト先の病院から給料及び賞与として117万1200円の支払を受けた。

(5)  抗告人は,平成20年×月×日から○○として勤務するようになり,給料及び賞与として平成20年中に297万8884円の,平成21年中に362万8050円の支払を受けた。

2  上記事実関係を前提に,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更するのが相当か,変更するのが相当な場合にその額について検討する。

(1)  調停において合意した婚姻費用の分担額について,その変更を求めるには,それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると,合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など,分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。

そこで,本件についてこれをみるに,前記認定のとおり,相手方は前件調停が成立してから×か月後に就職先を退職し,大学の研究生として勤務して収入を得る状況となっており,平成21年の収入は合計399万7890円となり,前件調停成立時に比して約3割減少していることを認めることができる。相手方は,退職の理由について,人事の都合でやむを得なかった旨主張するが,実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上,仮に退職がやむを得なかったとしても,その年齢,資格,経験等からみて,同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。そうすると,相手方が大学の研究生として勤務しているのは,自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり,その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。

したがって,本件においては,相手方の転職による収入の減少は,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更とは認められない。

(2)  次に,相手方は,抗告人が○○に復職して年360万円の収入があると主張するが,抗告人は前件調停時には既に○○に復職しており,前件調停はこれを前提に合意されたものということができるから,この収入があることをもって,前件調停で合意した婚姻費用分担額を変更する事情の変更は認められない。

第3結論

以上によれば,相手方の婚姻費用分担額の減額を求める本件申立ては失当であり,抗告人の本件抗告は理由があるから原審判を取り消して,相手方の本件申立てを却下し,相手方の本件附帯抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 田中義則 永井尚子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例