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大阪高等裁判所 平成21年(人ナ)9号 決定 2010年2月18日

主文

1  本件請求を棄却する。

2  手続費用は請求者の負担とする。

事実及び理由

第1請求の趣旨

1  拘束者らは,被拘束者を釈放し,請求者に引き渡す。

2  手続費用は拘束者らの負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,アメリカ合衆国ウィスコンシン州○○郡巡回裁判所の離婚訴訟における判決により単独監護権者に指定された被拘束者の父である請求者が,被拘束者の母である拘束者Y1とその両親(被拘束者の祖父母)である拘束者Y2及び拘束者Y3を相手方として,人身保護法に基づいて,被拘束者の釈放及び引渡しを求めた事案である。

2  前提事実

疎明資料(認定事実の末尾に掲記する。なお,個別に枝番を表記する以外のものはいずれも枝番を含む。)によれば,以下の事実が認められる。

(1)  請求者と拘束者ら及び被拘束者の関係等

ア 請求者は,被拘束者の父であり,ニカラグア共和国国籍を有する。請求者は,現在,アメリカ合衆国ウィスコンシン州に居住し,同所において○○として勤務している。

イ 拘束者Y1は,被拘束者の母であり,日本の兵庫県△△市に本籍を有する日本人である。

ウ 被拘束者は,平成14(2002)年×月×日に請求者と拘束者Y1の間に生まれた女児であり,日本国籍,アメリカ国籍及びニカラグア共和国国籍を有している。

エ 拘束者Y1は,現在,△△市において,同人の父である拘束者Y2及び母である拘束者Y3とともに,被拘束者と一緒に同居している。拘束者Y1は,既にアメリカの永住権(グリーンカード)を取得している。

(以上につき,甲1~3,乙1の6)

(2)  請求者と拘束者Y1の婚姻から別居,離婚訴訟に至るまでの経緯

ア 請求者と拘束者Y1は,平成10(1998)年ころ,請求者の留学先である○○で知り合い,請求者が日本に留学していた3年間を含めて交際を継続し,平成14年×月×日(日本の戸籍上は同月×日),ウィスコンシン州の○○において婚姻した。

イ 拘束者Y1は,同年×月×日,被拘束者を出産した。

被拘束者は,毎年正月には,拘束者らと日本で1か月程度生活し,その余はアメリカで生活していた。被拘束者は,ニカラグアには,一度短期間の訪問をしただけで,生活をしたことはない。

ウ 請求者と拘束者Y1は,婚姻以来,ウィスコンシン州で暮らしていたが,やがて日常生活上の意見の不一致が生じるようになった。

そこで,拘束者Y1は,被拘束者を連れて近くのアパートに別居し,平成18(2006)年×月×日,ウィスコンシン州の○○郡巡回裁判所(以下「州裁判所」という。)に,請求者との離婚等を求める訴訟(以下「離婚訴訟①」という。)を提起した。その離婚原因は,請求者が暴力を振るうというものであり,同年×月に,被拘束者の主たる監護権者を拘束者Y1と定め,請求者が週2回面接交渉を行うという中間的な決定が出たが,請求者が,離婚を拒否し,暴力を振るわないことを約束したため,拘束者Y1は,同年×月,請求者と再度同居することになった。

そして,拘束者Y1は,同年×月×日,離婚訴訟①を取り下げたため,離婚訴訟①の申立ては却下された。

エ 請求者と拘束者Y1の結婚生活は,離婚訴訟①の取下後もうまくいかなかったところ,平成20年×月×日,請求者と拘束者Y1が諍いとなり,請求者が拘束者Y1に暴力を振るう事件が発生し,拘束者Y1は,頭部に全治2週間程度の大きなコブができる傷害を受けた。そのため,警察が呼ばれ,請求者は,家庭内虐待事件の被疑者として逮捕され,72時間の接触禁止命令を受けたが,そのまま釈放された。

同月×日,担当検察官から取調べを受けたが,請求者及び拘束者Y1の説明が異なっており,目撃者も存在しなかったことから,請求者は,不起訴となった。

オ しかし,拘束者Y1は,接触禁止命令が切れた後,請求者からの嫌がらせ等が続いたため,州裁判所DV部のカウンセラーのアドバイスに従って,被拘束者とともに日本人女性の友人宅に一時泊めてもらった後,同月×日,被拘束者を連れて日本の実家に帰り,請求者と別居するようになった。

(以上につき,甲7,9,28,29,61,乙1の6,2,10~13,16)

(3)  請求者からの離婚訴訟の提起と州裁判所の離婚判決

ア 請求者は,平成20年×月×日,拘束者Y1に対し,州裁判所に離婚訴訟(以下「離婚訴訟②」という。)を提起した。

イ 州裁判所は,同月×日,拘束者Y1が被拘束者を日本に連れ出していたため,被拘束者に対する仮の単独身上託置権(sole legal placement)及び仮の単独法的監護権(sole legal custody)を請求者に付与するとともに,拘束者Y1に対し,被拘束者とともにウィスコンシン州の管轄地に帰り,被拘束者を請求者の元に戻すことを命じる決定をした。

また,州裁判所は,上記決定第4項において,請求者が被拘束者の身柄を確保した時点で,請求者が有する仮の単独身上託置権及び仮の単独法的監護権について,裁判期日を入れなければならないとした。

なお,ウィスコンシン州法(以下「州法」という。)における「身上託置権(legal placement)」とは,当事者が子供の基本となる居所を指定して子供と一緒にいる権利及び子の養育に関する日常的事項の決定をする権限と責任等(州法第767章第001条(5))をいい,「法的監護権(legal custody)」とは,婚姻についての同意その他を含む子に関する重要事項の決定をする権限と責任等(州法第767章第001条(2)(a))をいうものとされているが,これらは,いずれも日本の民法上の「親権」の内容とは必ずしも一致しない(以下,個別に指摘する場合を除き,州法上の「身上託置権」及び「法的監護権」については,両者を合わせて,仮の決定の場合には「仮の監護権」,「仮の単独監護権」,「仮の共同監護権」といい,終局判決の場合には,「監護権」,「単独監護権」,「共同監護権」というものとする。)。

ウ 拘束者Y1は,同年×月×日ころ,離婚訴訟②の訴訟代理人として□□弁護士を選任した。同弁護士は,同年×月×日,州裁判所に「被告に対する訴答及び反訴」と題する書面を提出し,反訴において財産分与や養育費の支払や被拘束者に対する共同監護権の指定などを求めた。

その後,同弁護士は,同年×月×日,同年×月×日,平成21(2009)年×月×日,同月×日に,拘束者Y1の訴訟代理人として州裁判所の法廷に出廷した。

エ ウィスコンシン州の離婚訴訟においては,子の福祉の観点から,子の訴訟後見人(Guardian ad litem)(州法第767章第045条にいう「未成年の子の最善の利益のため,擁護者として行動する代理人」のこと)が選任され,当事者の関係者全員と面談し,訴えにつき調査を行うとともに,同後見人と未成年の子の連絡を確保するため,未成年の子を裁判所の管轄外に連れ出すことが禁止されるのが通例であり,離婚訴訟②においても,州裁判所は,同月×日,被拘束者の裁判所の管轄外への連れ出しを禁止するとともに,被拘束者の訴訟後見人として,○△弁護士を選任した。

オ 拘束者Y1は,□□弁護士から,離婚訴訟②において,離婚に応じれば,請求者の仮の単独監護から請求者と拘束者Y1の共同監護に変更になる見込みを説明されていたにもかかわらず,それが実行されないことが明らかになったことなどから,同弁護士に対する信頼関係を維持することができなくなり,同弁護士は,同年×月×日,拘束者Y1の訴訟代理人を辞任した。

そこで,拘束者Y1は,同弁護士に代わる訴訟代理人を見つけようとしたが,ウィスコンシン州で資格を有する弁護士をなかなか見つけることができなかったため,同年×月×日ころ,州裁判所の担当裁判官に対し,直接,請求者に仮の単独監護権を付与した平成20年×月×日の決定に不服である理由,最終裁判期日(final trial)に子供と一緒に渡米すればいつごろ日本に帰国できるのかを尋ねる手紙を出した。

しかし,州裁判所は,担当書記官から,拘束者Y1に対し,裁判所に対し延期その他救済を求める場合には裁判期日に出頭する必要があると伝えさせただけで,拘束者Y1の手紙には応答しなかった。

カ 拘束者Y1は,同年×月×日,州裁判所に対し,同月×日の最終裁判期日に弁護士なしでは出頭できないので,弁護士を見つける間,日程を調整してもらいたい旨の要請をしたが,受け入れられなかった。

キ 州裁判所は,同年×月×日,拘束者Y1が欠席したまま,離婚訴訟②の最終裁判期日(final trial)を行い,同日,請求者と拘束者Y1とを離婚すること,請求者を被拘束者の単独監護権者とすること,拘束者Y1は,直ちに,アメリカに居住する請求者の元に被拘束者を戻すか,請求者が日本へ行き,被拘束者をアメリカに帰国させることを認めるべきこと,拘束者Y1に裁判所侮辱罪が成立すること等を骨子とする判決(以下「州裁判所判決」という。)を言い渡し,同判決書は,同年×月×日,州法第806章第06条(1),(2)による同判決書の登録手続がされた。なお,同判決においては,当事者への全ての通知は,他の法律の規定にかかわらず,電子メール及び普通郵便の両方の方法により行うことで遂行されるとされていた。

ク 上記判決書の写しは,拘束者Y1に対し,同年×月×日ころ,電子メールで送信されるとともに,同年×月×日,判決登録通知書が拘束者Y1の住所地宛に郵便で送付された。

ケ 拘束者Y1は,同年×月×日,州裁判所宛に,最終裁判期日の内容に対し,事実が反映されておらず,人権を考慮しない内容であるとの手紙を送付し,これを控訴として受け取ってほしい旨を申し入れたが,受け入れられなかった。

コ 州裁判所判決は,州法第806章第06条(1),(2)に基づき,同年×月×日の州裁判所業務時間終了時刻の経過により確定した。

(以上につき,甲4~6,8~11,48,53,57,58,乙1の6,14,16~18)

(4)  拘束者Y1の日本における離婚訴訟等の提起

ア 拘束者Y1は,平成21年×月×日から同年×月×日にかけて,請求者との夫婦関係,被拘束者に対する親権,監護権,養育費等の問題を解決するため,日本の○○家庭裁判所○○支部に,以下のとおりの申立て(以下「別件各申立て」という。)をした。

(ア) 平成21年×月×日 離婚・親権者指定・養育費等請求訴訟

(イ) 同年×月×日 親権者変更審判申立て及び同審判前の保全処分申立て

イ 請求者は,平成21年×月×日,州裁判所判決に基づき,拘束者Y1の本籍のある△△市役所に請求者と拘束者Y1の離婚届を提出した。

(以上につき,甲13,14,74,乙1)

(5)  被拘束者の監護状況等

ア 拘束者Y1は,ウィスコンシン州において,被拘束者が誕生して以来,授乳,入浴,保育園の送迎,検診や通院付添など,ほとんど全ての世話を行ってきた。拘束者Y3は,拘束者Y1が被拘束者を出産した直後から約3か月間,アメリカに渡り,その監護の補助をした。拘束者Y2も,1回渡米し,請求者宅に滞在したことがあった。

イ 被拘束者は,誕生以来,家の中では,主に日本語を使っていたが,請求者と話すときは,英語かスペイン語(請求者の母国語)を使っていた。

ウ 拘束者Y1は,年に1回くらい,被拘束者を連れて日本へ行き,1か月程度,拘束者Y2及び拘束者Y3宅で過ごしていた。

エ 被拘束者は,平成18年ころから,拘束者Y1が通っていた○○大学に付属する幼稚園に週2~3日程度通い,次第に,同年代の子供との関係にも慣れ,英語を話せるようになった。また,被拘束者は,平成19年×月に転居後は,近くの○○幼稚園に通ったが,この地域には白人が多く,混血児である被拘束者は,いじめられることもあり,友達も隣家の1人くらいしかいなかった。

オ 拘束者Y1は,平成20年×月×日,被拘束者を連れて,日本に帰った。被拘束者は,それ以降,現在まで,拘束者Y1の住所地において,拘束者Y1とともに拘束者Y2及び拘束者Y3と生活している。

拘束者Y2は,現在は,会社を定年退職し,無職であるが,年金を受給している。拘束者Y3も,無職であるが,年金を受給している。両名とも,健康であり,拘束者Y1の養育監護を物心両面で支えている。

カ 被拘束者は,平成20年×月からは,△△市内の△□幼稚園に通っていたが,すぐに友達ができ,のびのびと過ごしていた。同幼稚園は,平成21年×月の卒園まで,請求者との面接交渉のために1日休んだだけで,それ以外には,欠席したことはなかった。

拘束者Y1は,平成20年×月には,請求者に対し,被拘束者の遠足や家での写真を送付したりした。

キ 被拘束者は,平成21年×月×日,来日した請求者と面接交渉を持ったが,請求者を嫌がることはなく,楽しそうにはしゃいでいた。

ク 被拘束者は,平成21年×月,△△市立△□小学校に入学したが,同小学校でも多くの友達ができ,楽しく通っている。

被拘束者は,心身ともに健康で,発達の遅れもみられない。学習への理解力もある。被拘束者は,現在は日本語のみを使っており,英語は,簡単なヒアリングはできるが,話すことはできない。

ケ 被拘束者は,日本に来た当初は,請求者と電話とウェブカメラによる面談をしており,平成21年×月×日ころにも,請求者と楽しそうに会話していたが,請求者が△□小学校宛に被拘束者への手紙を送ったりしたことに感情を害し,同年×月ころからは,請求者からの電話に出ることも嫌がるようになった。

コ 拘束者Y1による別件各申立て後,○○家庭裁判所○○支部の家庭裁判所調査官は,平成21年×月×日及び同月×日,△□小学校及び拘束者ら宅を訪問し,拘束者らによる被拘束者の監護状況等を調査したが,被拘束者は,拘束者Y1によくなついており,活発で明るい印象であった。また,同調査官が,拘束者ら宅訪問時に,被拘束者に拘束者Y1の絵を描かせたところ,被拘束者は,しっかりとした筆跡で,拘束者Y1を朗らかでかわいらしい表情で描くなど,年齢相応の女児らしい絵を描いており,情緒的な問題もみられなかった。

同調査官の調査報告書によれば,被拘束者は,請求者を慕う気持ちを持っており,穏やかな請求者との面接交渉を望んでいることもうかがえるが,日本で拘束者らと暮らすことを希望しており,請求者とアメリカで住むことを拒否しているなどの事情から,被拘束者をアメリカに戻すと,不適応を起こす可能性が高いと判断されている。

(以上につき,甲15,37,58,68,乙1,4~6,8,9)

3  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  州裁判所判決による請求者の単独監護権の効力について

(請求者の主張)

ア 州裁判所判決は,ウィスコンシン州において出された外国判決であるが,日本の民事訴訟法118条1号ないし4号の外国判決の承認の要件,すなわち,「法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること」(同条1号),「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと」(同条2号),「判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと」(同条3号),「相互の保証があること」(同条4号)を満たせば,日本法上も国内判決と同様の効力が承認される。

イ 請求者が離婚訴訟②を提起した平成20年×月×日当時,拘束者Y1はアメリカに居住していたのであるから,その住所地に提起された同訴訟については,アメリカに国際裁判管轄があるものと認められ,州裁判所判決は,同条1号の要件を満たしている。また,同訴訟における送達についても,拘束者Y1に対し,ウィスコンシン州における直接送達に代わる正式な送達である郵送による送達がされており,拘束者Y1は,同訴訟に自らの訴訟代理人を出廷させた上,答弁書及び反訴状を提出するなどの応訴もしているから,同条2号の要件も満たしている。さらに,外国裁判が公序良俗に反するかの調査は,外国裁判の法的当否を審査するのではなく,これを日本で承認,執行することが認められるか否かを判断するものであるところ(東京高等裁判所平成5年11月15日判決・高等裁判所民事判例集46巻3号98頁),州裁判所判決のうち,裁判所侮辱罪に関する部分は,日本の公序良俗に反する可能性はあるが,請求者と拘束者Y1とを離婚するとした部分及び請求者を被拘束者の監護権者とした部分は日本の公序良俗に反しないことが明らかであるから,州裁判所判決のうち,請求者と拘束者とを離婚するとした部分及び請求者を被拘束者の単独監護権者とした部分(以下,「州裁判所判決」という場合は,個別に指摘する場合を除き,上記の「請求者と拘束者とを離婚するとした部分及び請求者を被拘束者の単独監護権者とした部分」の意味で用いることとする。)は,少なくとも,3号の要件も満たしている。そして,4号の要件は,判決国における外国判決の承認の条件が日本における条件と実質的に同等であれば足りるところ(最高裁判所昭和58年6月7日第三小法廷判決・民集37巻5号611頁),ウィスコンシン州における外国判決の承認は,①有効な管轄権を有する外国裁判所によるものであること(州法第767章第041条(2)),②国際礼譲の諸原則に則ったものであること(前同),③子の基本的人権を侵害しないこと(州法第822章第05条(3))が要件であるところ(甲12),同州の要件①は,民事訴訟法118条1号と同一であり,③の要件は,同条3号とほぼ同意義であり,②の要件は同条4号に等しい。したがって,ウィスコンシン州における外国判決の承認の要件は,民事訴訟法118条の要件と実質的に同等であり,州裁判所判決は,同条4号の要件も満たしている。

ウ 請求者は,平成20年×月×日に離婚訴訟②を提起した直後,直接,面前で拘束者Y1にその旨を伝えたが,拘束者Y1は,同月×日あるいは同月×日に請求者宅を出て,友人のところへ行き,同月×日ころ,日本に帰ってしまった。

また,アメリカでは,離婚訴訟が提起された場合,仮の監護権等が定められるところ,離婚訴訟②においては,拘束者Y1が裁判期日に出頭しなかったため,州裁判所は,同月×日,請求者を仮の単独監護権者とする決定をした。

しかし,上記決定第4項においては,請求者が子供の身柄を確保した時点で,仮の単独監護権についての裁判期日を入れるとの条項が入れられていたから(甲6),拘束者Y1は,被拘束者をアメリカに連れて来て,いったん請求者に引き渡しさえすれば,すぐに仮の単独監護権について裁判を求めることができ,おそらく請求者と拘束者Y1との共同監護になっていたはずである。

そして,このことは,州裁判所,被拘束者の訴訟後見人の○△弁護士及び拘束者Y1の訴訟代理人の□□弁護士から拘束者Y1に伝えられていたにもかかわらず,拘束者Y1は,アメリカに戻らなかった。

エ 以上によれば,州裁判所判決は,日本法上も承認され,請求者と拘束者Y1との離婚は,日本法上も有効に成立しており,請求者は,被拘束者の単独監護権者となっている。

(拘束者らの主張)

ア 離婚訴訟②の州裁判所判決が民事訴訟法118条1号ないし4号の外国判決承認の要件を満たすとの主張は争う。

州裁判所判決は,同条の要件,特に,同条1号の「外国裁判所の裁判権」及び同条3号の「判決内容及び訴訟手続が日本の公序に反しないこと」等の要件を満たしていない。

イ 拘束者Y1には,離婚訴訟②に関する訴訟経過に関し,以下のような特別な事情があった。

(ア) 拘束者Y1がアメリカにおける離婚訴訟②の提起を知った時期及び訴訟代理人が辞任した事情等について

請求者は,平成20年×月×日に離婚訴訟②を提起した直後,拘束者Y1の面前で同訴訟を提起した旨を伝えたと主張するが,そのような事実はなく,拘束者Y1が同日に請求者から伝えられたのは,「今回のことで自分のプライドが傷ついた。別居したい。別れたい。」ということだけであった。

拘束者Y1は,日本へ行く前に,□□弁護士に,請求者から受けた暴力について,再度,暴力を振るわれそうになった場合はどうすればよいか等を相談したことはあるが,拘束者Y1が,同弁護士に離婚訴訟②の訴訟代理人を正式に依頼したのは,同年×月×日であり(乙16・「××」の項),同弁護士が,同年×月×日時点では未だ同訴訟の訴訟代理人を受任していなかったことは,同弁護士が拘束者Y1に宛てた同日付の電子メールからも明らかである(乙21)。

また,同弁護士が同訴訟の訴訟代理人を辞任したのは,同弁護士によると,離婚に応じれば,請求者の仮の単独監護から請求者と拘束者Y1との共同監護に変更になるということであったのに,それが実行されないことが明らかになったこと(乙16・「××」,「××」の項)等が主な原因となって,徐々に拘束者Y1の同弁護士に対する信頼が薄らいでいったことによるものであり,拘束者Y1は,同弁護士が最終裁判期日の前である同年×月×日に辞任した後も,同弁護士に代わるウィスコンシン州で資格を有する弁護士を選任しようとしたが,なかなか見つけることができなかった。

そのため,拘束者Y1は,担当裁判官に直接,手紙を書くという方法を採らざるを得なかったが,州裁判所は,これには応答しなかった。

(イ) 拘束者Y1が離婚訴訟②に出頭しなかった事情について

請求者は,Y1が被拘束者を連れてアメリカに戻りさえすれば,請求者と拘束者Y1との共同監護となっていたと主張するが,拘束者Y1が,被拘束者を連れて裁判所に出頭するようにとの州裁判所の命令に応じなかったのは,被拘束者をアメリカへ連れて行った後,2人で日本に帰れるという確約が得られなかったからである。

アメリカにおける共同監護の実態は,せいぜい何ブロックか離れたところに父母が別々に住んで,どちらかの住居で子を監護するというものであって,仮に共同監護となっても,被拘束者の居住地は父親である請求者の住所(アメリカ)になる可能性が大であり,また,アメリカのどこに住むにしても,請求者の暴力による報復を受ける危険性もあった。

しかも,拘束者らは,日本へ帰国した直後にニューヨークの弁護士から恫喝的な文書(乙22)を送り付けられた上,被拘束者の訴訟後見人弁護士からも,日本の裁判所と違って,アメリカの裁判所には配置された警察官がいるので逮捕されることまでも告げられ,拘束者Y1は,州裁判所の法廷に出頭すれば,未成年者誘拐容疑で逮捕されるかもしれないというおそれを抱いていたのであり,さらに,請求者からも,「言っておくが,お前がアメリカに戻ってきたときはその顔がつぶれると覚悟しておけ」という脅迫も受けていたのであって(乙14),そのような状況で,請求者の度重なる暴力に脅えて被拘束者とともに日本へ逃げ帰った拘束者Y1が,再び被拘束者を連れてアメリカに戻ることは不可能であった。

(2)  拘束者らによる拘束の顕著な違法性の有無

(請求者の主張)

ア 請求者は,法律上の単独監護権を有する者であるのに対し,拘束者Y1は,州裁判所判決による離婚によって法律上の監護権を失った者である。

本件請求は,子の監護権を有する請求者が,これを有しない拘束者らに対し,人身保護法に基づいて,子である被拘束者の引渡しを請求するものであるから,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者らの監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り,拘束者らによる拘束は違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)に該当するものと判断されるべきである(最高裁判所平成6年11月8日第三小法廷判決・民集48巻7号1337頁)。

イ 被拘束者の保護の必要性

(ア) ウィスコンシン州においては,離婚訴訟提起後に子を国外に連れ出してはならないとされており,故意にこの行為を行った場合は,F級重罪に当たる行為として,最高で12年6か月の懲役刑に処せられる(甲9)。また,これらの行為は,「国際的な親の誘拐」(アメリカ合衆国法典第18編犯罪及び刑事訴訟第1204条,甲54)にも該当する。

拘束者Y1は,かつて平成18年に離婚訴訟①を提起したことがあり,その際の経験から,子を国外に連れ出すことが違法であることを認識していたにもかかわらず,被拘束者を日本に連れ帰っている。しかも,拘束者Y1は,被拘束者をアメリカに連れて来るようにという州裁判所の命令を無視し続けたため,州裁判所判決において裁判所侮辱罪として罰金刑を科されている。

すなわち,拘束者Y1は,犯罪行為に該当する違法行為をもって,現在の状況を作出し,維持し続けてきたのであり,その拘束の経緯に鑑みれば,被拘束者の保護の必要性は非常に強い。

(イ) 拘束者Y1は,離婚訴訟②において,裁判所の命令を無視し続ける一方で,訴訟代理人を選任して財産分与等自らの利益になる請求は行っていた。また,拘束者Y1は,州裁判所判決によって,アメリカに被拘束者を連れて来るようにとの命令が出た後も,控訴も行わず,また州裁判所判決に従うこともなく,漫然と現在まで違法な拘束を継続しており,拘束者Y1の法を無視する態度は顕著であるといわざるを得ない。

さらに,請求者が,離婚訴訟②の係属中,拘束者Y1と請求者間の従前の合意に基づき,来日して被拘束者との面接交渉を求めた際にも,拘束者Y1は,合意を無視して,面接交渉の条件として過大な条件を持ち出してきた(甲16)。

(ウ) 以上のとおり,拘束者Y1は,法律や裁判を全く無視して,自力救済によって築き上げた現在の状態を既成事実化しつつ,被拘束者を人質にして,財産分与等において過大な請求を行っており,このような拘束者Y1のアメリカでの裁判の争い方や訴訟外での交渉態度をみる限り,本件請求以外での解決は著しく困難であって,被拘束者の保護の必要性は強い。

(エ) 国際結婚のケースにおいては,法的な手続を無視して,子を自国に連れ去るケースは世界的にみても珍しくなく,このような連れ去りは,民法上不法行為を構成し,刑法上誘拐罪が成立するが,捜査権や法律が他国に及ばないため,「国際的な子の奪取の民事面に関する条約」により救済するほかないのが国際的な実情であり,特に,日本は,多方面から批判を浴びながらも現在に至るまで上記条約を批准していないことから(甲17~19),日本人妻による子の連れ去りは,国際的な問題となっている(甲55)。

請求者は,被拘束者のために,アメリカの訴訟手続の中で,最善の解決を探ってきたものであり,州裁判所判決の確定後,拘束者Y1がそれに従わなかったため,やむなく本件請求を行ったのであり,日本が上記条約に加盟していれば,請求者は,同条約12条により,被拘束者の即時返還を請求できたものである。

それにもかかわらず,正当な手続を行った請求者への引渡しを認めず,連れ去りという犯罪行為による自力救済を行った拘束者Y1に被拘束者を養育させるのは,拘束者Y1の犯罪行為を容認し,法的保護を与えることにほかならない。

ウ 請求者の下での養育監護に支障や不安は全くないこと

(ア) 請求者は,被拘束者に強い愛情を抱いており,この面では監護について何の不安もない(甲20)。請求者は,アメリカにおいて,被拘束者に対し,十分な愛情を注いできたのであり,拘束者Y1によって引き離されるまで,被拘束者と請求者は非常に良い関係を築いてきた。請求者は,平成21年×月×日,来日し,同月×日,拘束者Y1及びその親族の同席の下,被拘束者と面接交渉をしたが,請求者・被拘束者ともに再会できた喜びに満ちあふれていた(甲15)。そのことからしても,請求者の被拘束者に対する愛情が非常に深いものであり,父子の結びつきが強いことがみて取れる。

請求者は,勤務の開始時間が午前9時からであるため,被拘束者を学校に送った後,出勤することが十分可能である。また,勤務の終了時間も午後4時30分であるため,被拘束者が学校のクラブ活動等に参加すれば,請求者と被拘束者の帰宅時間はほぼ同じくらいになるから,請求者が独りきりで過ごす時間はほとんどない。

(イ) 請求者は,○○であって,月に×万ドルという高額な給与を得ており,被拘束者がアメリカに帰国した後の経済的な不安は全くない。

(ウ) 請求者には,以下のとおり,被拘束者のサポート体制も十分あり,請求者の下での被拘束者の養育監護に支障や不安は全くない。

まず,請求者の姉である□○は,請求者宅の近くに居住しており,請求者が仕事等で被拘束者の面倒をみることができないときには,毎日でも請求者に代わって被拘束者の面倒をみることを約している。また,□○の娘(24歳)は,平成22(2010)年×月には請求者と同じ○○に移住することが決まっていることから,同人の支援も期待できる。

被拘束者が,アメリカに来ることになれば,語学の面での不安はなくはないが,請求者は,過去に3年ほど日本に留学していたことがあるため,日本語については一定のレベルにある。請求者は,被拘束者と生活を開始した場合に備え,現在も継続的に日本語を勉強し続けている(甲22)。また,請求者の親友▲▲は,○○日本人会の中心人物であるため,日本語の面で○○日本人会や▲▲夫妻のサポートを受けることも可能である(甲23)。

そして,被拘束者がアメリカに帰国した後の英語の問題についても,入学を予定する小学校には英語を第二言語とする子供のためのサービスがある上(甲24),請求者は,必要があれば英会話学校で英語の授業を受けさせることも考えており(甲22),被拘束者に対する支援体制は整っている。

また,請求者は,本件請求に先立ち,被拘束者がアメリカで通う学校や以前の被拘束者の主治医らに連絡を取り,支援の約束を取り付けており(甲21),被拘束者が新しい環境に馴染めなかった場合にも,十分な精神面のケアが可能である。

エ 以上のとおり,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者Y1の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものといえるような事情は何も存在しないから,拘束者Y1による被拘束者の拘束の違法性は顕著というべきである。

(拘束者らの主張)

ア 日本に帰国した後の被拘束者の生活状況等

被拘束者は,平成20年×月に日本に帰国して以降,本件請求時までに既に1年9か月以上の間,拘束者らと居住して,△□小学校に通っており,日本人の先生,友人らと日本語で会話しながら,毎日何一つ不自由なく,生活している(乙4)。

地域にて,友人も多くでき,自宅に友人を招いたり,放課後一緒に勉強したりと,有意義な生活を過ごしている。また,被拘束者が誕生した時から,監護の手伝いをしていた祖父母である拘束者Y2及び拘束者Y3と同居しており,拘束者Y1の妹夫婦・親戚も近隣に住んでいることから,家族を含め,多くの愛情ある擁護の下で,すくすくと成長している(乙5)。

また,日本に帰ってきてから,ようやく明るい楽しい絵を描くようになり(乙6),アメリカ在住時と比べて子供らしさを取り戻している。

イ 請求者の下における養育監護について

(ア) 請求者は,性格的に激昂しやすく,怒ると感情をコントロールできない。また,妻以外の女性と行動をともにすることも度々あり,7歳の幼女を精神的に安定した家庭環境で養育する適格性を有しない。DVの傾向として,これまで配偶者に向けられていた暴力がやがて子供に対して振るわれることも,よくあることであり,万一,被拘束者が請求者とともにアメリカで暮らすようなことになれば,請求者の暴力は被拘束者に向けられることが十分予想される。

(イ) 請求者は,姉の□○が,請求者に代わって被拘束者の面倒をみることができると主張するが,同人には,離婚したニカラグア人との間に3人の子供がおり,3人の子供をニカラグアに残してアメリカに出稼ぎに来ているような状況であるので,十分な監護を期待できないし,同人の娘も,○○に移住することが決まっているだけでは,実際に被拘束者を監護するのかどうか不明である。

(ウ) また,請求者自らが認めるように,被拘束者が新しい環境に馴染めない可能性は十分にあり,その場合に主治医やカウンセラーが精神面のケアをサポートするとしても,被拘束者が負わねばならない精神的苦痛は相当なものである。

(エ) 請求者は,○○として,○○○○万円程度の年収があるにもかかわらず,別居した以降の1年5か月の間に,請求者が被拘束者の養育料として拘束者Y1に支払ってきたのは,わずか○○万円である。

ウ 拘束者らによる養育監護について

(ア) 拘束者Y1は,これまで一貫して愛情と責任の下に子育てを行い,請求者の粗暴な振る舞いから被拘束者を守ってきており,養育能力を有することは明白である。また,母親である拘束者Y1が監護する方が,請求者が監護する場合に比べて,被拘束者に対する母性的できめこまやかな愛情に基づく監護が期待できることは明らかである。

(イ) また,拘束者Y1は,○○会社に勤務しており,給与は手取りで月○○万円位ある。拘束者Y1の両親である拘束者Y2及び拘束者Y3は,拘束者Y1と同居しており,被拘束者の面倒をみることは十分に可能である。

(ウ) そして,被拘束者も,これまで自分を養育監護してきた拘束者らとともに,日本で平和に生活することを望んでいる。

エ 被拘束者の幸福について

アメリカにおいて,妻以外の複数の女性と関係を持ち,道徳観念が完全に欠如し,偏狭的な性格を有し,暴力を振るって家族を虐待する請求者の下で居住することは,被拘束者の福祉に反することは明らかであるし,人格の形成上,重要な発達段階にある被拘束者に対し,みだりに生活環境に変更を加えるのは,心理的安定性を著しく失わせて情緒不安定に陥らせるおそれがあるので,現在の生活環境から請求者に被拘束者を引き渡すことは,子供の幸福と利益を損なう。

したがって,被拘束者を請求者の監護の下に置くことは,拘束者らの監護の下に置くことに比べて,被拘束者の福祉の観点から著しく不当というべきである。

(3)  本件請求は補充性の原則に反するか

(拘束者らの主張)

ア 人身保護法による救済は,通常の争訟手続とは異質な非常救済手続であるから,救済目的を達するのに他に適当な方法がない場合に限って許されるというべきであり(人身保護規則4条),本件のような子の奪い合い紛争についていえば,審判前の保全処分その他の家事審判手続により解決を図るべきであって,それができない場合にはじめて人身保護法による救済を考えるという順序を踏むべきである。

イ 拘束者Y1は,前記前提事実のとおり,日本の○○家庭裁判所○○支部に別件各申立てを行っているところ,親権者変更審判申立事件等については,家庭裁判所調査官の調査も完了している状況にある。

そして,同家庭裁判所調査官の調査報告書(乙1の6)によると,被拘束者の監護状況には問題がないこと(19頁),被拘束者の生活状況・心情についても,友達や教師との関係は良好であり,生活が安定している様子がうかがえること(20頁),また,被拘束者は,日本で拘束者Y1と暮らすことを希望しており,請求者とアメリカで生活することは拒否していること(20頁)が確認されており,被拘束者は,拘束者らの下で,平穏に生活しており,その養育監護に格別,火急の問題は全く存しない。

なお,本件請求の準備調査における被拘束者代理人の報告書によると,被拘束者は学校の様子を楽しそうに話したことなどが報告されており,その意見も,日本での拘束者らによる被拘束者の監護状況に問題はないという結論となっている。

ウ 請求者は,拘束者Y1が州裁判所判決の確定後,拘束者Y1がそれに従わなかったため,やむなく本件請求を行ったなどと主張するが,家族や友達や教師等とともに平穏で楽しい毎日を送っている被拘束者を無理矢理,連れ戻してアメリカで生活をさせなければならない理由は全くなく,仮に,被拘束者の引渡しを求めるとしても,請求者は,アメリカでの訴訟手続によらずに,日本で日本の弁護士に依頼して裁判を起こすことは可能であったし,補充性の原則からも,審判前の保全処分その他の家事審判手続の活用を図るべきであり,本件請求による救済を必要とする理由は見出しがたい。

エ 以上によれば,本件請求は,補充性の原則に反した不適法な申立てであるから却下されるべきであり,そうでないとしても,拘束者らによる不当な拘束は存在せず,請求の理由がないことが明らかであるから棄却されるべきである。

(請求者の主張)

ア 拘束者Y1は,○○家庭裁判所○○支部において,別件各申立てを行っていることを理由として,請求者が被拘束者を取り戻す手段は,補充性の原則からも,審判前の保全処分その他の家事審判手続の活用を図るべきであると主張する。

しかし,アメリカでの離婚訴訟②が終了し,確定した州裁判所判決が日本において承認されるべきこととの関係を措くとしても,拘束者Y1の請求者に対する離婚請求訴訟は,最高裁判所平成10年4月28日第三小法廷判決(民集52巻3号853頁)に照らし,日本に裁判管轄がない不適法な訴えである。

また,監護者指定の申立ても,既に州裁判所判決において請求者を被拘束者の単独身上託置権者とすることが定められている。アメリカにおける身上託置権は,子の養育に関する日常の決定をする権限と責任であり,日本の監護権に相当する(甲70)。そして,州裁判所判決が承認されている以上,監護者の指定ではなく,監護者の変更によるべきであるから,この申立ても適法なものではない。

なお,親権者変更の申立ては,唯一適法となる可能性があるが,拘束者Y1は,被拘束者を日本に連れ去り,犯罪行為により,○○家庭裁判所○○支部に管轄を作出していることから,管轄の不当形成(札幌高等裁判所昭和41年9月19日決定・高等裁判所民事判例集19巻5号428頁)に当たる。

イ 最高裁判所昭和59年3月29日第一小法廷判決(家裁月報37巻2号141頁)は,子の引渡しの仮処分を行わなくても,補充性の原則を満たすとしており,本件請求において,上記判例を変更する特別な事情はない。

しかも,○○家庭裁判所○○支部での親権者変更の手続については,実質的な審理は行われておらず,その判断が確定するまでは請求者が単独監護権者であることはいうまでもない。

ウ 請求者は,前記のとおり,アメリカでの法的手続(離婚訴訟②)による解決を試みたにもかかわらず,拘束者Y1は,自らに不利とみるやアメリカでの応訴を途中で放棄し,アメリカで判決が出ても控訴もせず,無視し続けたのであり,拘束者らの狙いは,被拘束者の監護を継続することで,違法な連れ去り行為により開始された現在の状態を既成事実化することにある。

したがって,このような拘束者らに対する請求を実現するためには,本件請求を行うほかない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(州裁判所判決による請求者の単独監護権の効力)について

(1)  前記前提事実によれば,請求者は,平成20年×月×日,拘束者Y1に対し,アメリカのウィスコンシン州において,離婚訴訟②を提起したこと,州裁判所は,同年×月×日,請求者と拘束者Y1との離婚を認めるとともに,請求者を被拘束者の単独監護権者とすること等を内容とする州裁判所判決を言い渡したこと,その後,同判決は,州法第806章第06条(1),(2)により,同年×月×日の州裁判所業務時間終了時刻の経過により確定したことが認められる。

(2)  請求者は,州裁判所判決は,民事訴訟法118条1号ないし4号の外国判決の承認の要件を満たすと主張するのに対し,拘束者らは,日本法上の効力を争う。

そこで,検討するに,まず,前記前提事実によれば,離婚訴訟②が提起された平成20年×月×日当時,拘束者Y1はアメリカに居住しており,同訴訟は被告である拘束者Y1の住所地を管轄する州裁判所に提起されたのであるから,同訴訟については,アメリカに国際裁判管轄が認められ,民事訴訟法118条1号の要件は満たされているということができる。

また,前記前提事実によれば,拘束者Y1は,州裁判所から,離婚訴訟②の裁判期日の呼出しを受け,□□弁護士を訴訟代理人として選任して出廷させた上,答弁書及び反訴状を提出するなど,同訴訟に応訴していることが認められるから,州裁判所判決は,同条2号の要件を満たしていると認められる。

さらに,同条3号の要件に関しても,州裁判所判決のうち,裁判所侮辱罪に関する部分は日本法上の効力を有しないものと解されるが,請求者と拘束者Y1とを離婚するとした部分及び請求者を被拘束者の単独監護権者とした部分については,前記前提事実中の州裁判所における離婚訴訟②の訴訟経過及び判決内容等に照らしても,それが日本における公の秩序又は善良の風俗に反するとまではいえないから,同条3号の要件を満たすものと認められる。

そして,同条4号所定の「相互の保証があること」とは,判決国における外国判決の承認の条件が日本における条件と実質的に同等であれば足りると解されるところ,疎明資料(甲12)によれば,ウィスコンシン州における外国判決の承認の要件は,①有効な管轄権を有する外国裁判所によるものであること,②国際礼譲の諸原則に則ったものであること,③子の基本的人権を侵害しないこと,とされていることが認められ,その内容は,実質的に民事訴訟法118条(同条1号,3号,4号)と同様と認められるから,同条4号の要件も満たしているということができる。

(3)  この点に関し,拘束者らは,州裁判所判決の効力を争い,離婚訴訟②の訴訟経過等に関する特別な事情の存在を主張する。

しかし,まず,拘束者Y1が離婚訴訟②の提起を知った時期が平成20年×月×日の訴訟提起直後ではなかったこと,□□弁護士に同訴訟の訴訟代理人を正式に依頼したのも同年×月×日になってからのことであったこと,同弁護士が最終裁判期日の前である平成21年×月×日に辞任してしまい,同弁護士に代わる弁護士を見つけることができなかったことは,いずれも拘束者Y1側の事情であるにとどまる上,前記前提事実のとおり,拘束者Y1は,少なくとも,いったんは同弁護士を訴訟代理人に選任して離婚訴訟②に応訴した上,反訴まで提起していることからすれば,これらの事情は,州裁判所の訴訟手続に何らかの瑕疵があったことを示すものとはいえず,そのことを理由として,州裁判所判決の効力を否定すべき特別な事情があったということはできない。

次に,拘束者らは,拘束者Y1が,裁判所に出頭するようにとの州裁判所の命令に応じなかったのは,被拘束者をアメリカへ連れて行った後,2人で日本に帰れるという確約が得られなかったこと,州裁判所の法廷に出頭すれば,未成年者誘拐容疑で逮捕されるかもしれないと思っていたためであるなどと主張する。

しかし,拘束者Y1が,離婚訴訟②の訴訟活動のために州裁判所に出頭した場合に,実際に州裁判所により逮捕されたとまで推認することはできない上,州裁判所が,請求者を仮の単独監護権者とした平成20年×月×日の決定第4項において,請求者が被拘束者の身柄を確保した時点で,仮の単独監護権について審理するための裁判期日を入れることを予定していたこと,被拘束者の訴訟後見人であった○△弁護士も,州裁判所の担当裁判官から,拘束者Y1がアメリカに帰った場合も拘置命令は発令しないと聞いていたこと(甲45)等からすれば,拘束者Y1が州裁判所に出頭した場合に逮捕されるかもしれないとのおそれを抱いていたことは主観的には相応の理由があったとはいえ,そのことから直ちに,州裁判所判決の効力を否定すべき特別な事情があったとまでいうことはできない。

以上によれば,州裁判所判決は,日本法上も,国内判決と同様の効力を有するというべきであるから,本件請求を判断するに際しても,州裁判所判決による請求者の単独監護権の効力が有効に生じているものとして,その当否を判断するのが相当であると解される。

(4)  なお,前記前提事実(4)アのとおり,拘束者Y1は,日本の家庭裁判所である○○家庭裁判所○○支部において,請求者に対し,離婚訴訟を含む別件各申立てをしていることが認められるところ,同裁判所が,離婚訴訟について,州裁判所の判決と異なり,被拘束者の親権者を拘束者Y1とする判決をした場合や,州裁判所判決による離婚が成立していることを前提として,被拘束者の親権者や監護権者を請求者から拘束者Y1に変更する審判をした場合などは,拘束者Y1は,日本法上は,被拘束者に対する親権や監護権を有することになるが,そうした判決あるいは審判が確定するまでは,被拘束者の監護権者は,州裁判所判決によって請求者とされていることを前提とするのが相当であるから,別件各申立てがされていることは,本件請求の当否の判断において,州裁判所判決に基づいて,拘束者Y1の被拘束者に対する監護が,法律上の監護権を有しない母親による事実上の養育監護であるとすることを妨げるものではない。

2  争点(2)(拘束者らによる拘束の顕著な違法性の有無)について

(1)  前記1に説示したとおり,州裁判所判決において請求者が被拘束者の単独監護権者とされていることからすれば,本件請求は,子の監護権を有する者から,これを有しない者に対する人身保護請求ということになるから,本件請求の当否を判断するについては,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者らの監護の下に置くことに比べて被拘束者の幸福の観点から著しく不当なものといえるかどうかによって検討するのが相当である(最高裁判所平成6年11月8日第三小法廷判決・民集48巻7号1337頁)。

(2)  拘束者らの下における被拘束者の監護状況等について

ア そこで,まず,拘束者らの下における被拘束者の監護状況等について検討するに,前記前提事実のほか,疎明資料(乙1の6,3の1・2,6の1~4)によれば,拘束者らの下における被拘束者の従前及び現在の監護状況等は,以下のとおりであることが認められるところ,これらの事実によれば,拘束者らの下における被拘束者の監護状況等には,何ら不適切なところはなく,被拘束者は,拘束者らの下において,心身ともに健全な発育を遂げており,被拘束者自身も引き続き拘束者らの下で養育されることを希望していることが認められる。

(ア) 拘束者Y1は,ウィスコンシン州において,被拘束者が誕生して以来,授乳,入浴,保育園の送迎,検診や通院付添など,ほとんど全ての世話を行ってきた。拘束者Y3も,拘束者Y1が被拘束者を出産した直後から約3か月間,アメリカに渡り,その監護の補助をした。

(イ) 被拘束者は,年に1回くらい,拘束者Y1に連れられて来日し,その都度1か月程度,拘束者Y2及び拘束者Y3宅で過ごしていた。

(ウ) 被拘束者は,平成18年ころから,拘束者Y1が通っていた○○大学付属の幼稚園に週2~3日程度通い,英語を話せるようになったが,平成19年×月に転居し,近くの○○幼稚園に通うようになった際には,混血児であるため,いじめられることもあり,友達も隣家の1人くらいしかいなかった。

(エ) 拘束者Y1は,平成20年×月×日,請求者から暴力を振るわれ,頭部に大きなコブができる傷害を受けたが,被拘束者は,その際には,拘束者Y1のお墓やいじめの絵を描くなど,精神的に不安定な様子がみられた。

(オ) 拘束者Y1は,その後,州裁判所DV部のカウンセラーのアドバイスに従って,被拘束者とともに日本人女性の友人宅に一時泊めてもらった後,同月×日,被拘束者を連れて日本に帰り,請求者と別居するようになった。

(カ) 被拘束者は,同年×月から△△市内の△□幼稚園に通うようになったが,同幼稚園ではすぐに友達ができ,平成21年×月の卒園まで,請求者との面接交渉のために休んだ1日以外は,欠席しなかった。

(キ) 被拘束者は,平成21年×月,△□小学校に入学したが,同小学校でも多くの友達ができ,楽しく通っている。

(ク) 被拘束者は,現在,心身ともに健康で,発達の遅れもみられず,学習への理解力もあり,活発で明るい子供に育っている。被拘束者が描く絵は,年齢相応の女児らしいものであり,情緒的にも安定している。なお,日本に帰った平成20年×月以降,約2年間近く日本語のみを使っているため,英語は,簡単なヒアリングができるだけで,話すことはできない状況にある。

(ケ) 被拘束者は,請求者を慕う気持ちを持っており,請求者との面接交渉を望んでいることもうかがえるが,拘束者Y1によくなついており,日本で拘束者Y1と暮らすことを希望し,請求者とアメリカで生活することを拒否しており,被拘束者をアメリカに戻すと,不適応を起こす可能性が高い。

被拘束者は,○○家庭裁判所○○支部の家庭裁判所調査官が平成21年×月×日に面会した際,拘束者らの下で日本の生活を続けたい旨を明確に述べた。また,本件人身保護請求事件において被拘束者のために選任された被拘束者代理人も,被拘束者との面談の結果,被拘束者が請求者に配慮して明言はしなかったものの,拘束者らの下での現在の生活を望んでいる様子がうかがえるものと判断している。

(コ) 拘束者Y2及び拘束者Y3は,拘束者Y1が日本に帰った平成20年×月以降,現在まで,被拘束者と同居し,拘束者Y1の被拘束者に対する養育監護を物心両面で支えている。

イ 以上の事実によれば,拘束者らは,被拘束者の母親あるいは祖父母として,愛情を持って適切に被拘束者を養育監護しており,被拘束者の心身の発達にも何らの問題が生じていないことが認められる。

(3)  請求者の下で監護される場合の被拘束者の監護状況等について

ア 被拘束者が請求者を慕う気持ちを持っており,請求者との面接交渉を望んでいることもうかがえることは前記(2)ア(ケ)認定のとおりであり,疎明資料(甲15,20,57,58,乙1の6)によれば,請求者は,被拘束者に強い愛情を抱いており,被拘束者が平成20年×月に日本に行くまでは,被拘束者と請求者は非常に良い関係を築いてきたこと,平成21年×月×日に日本で被拘束者と面接交渉した際も,被拘束者とは円滑な交流が可能であったこと,請求者は,○○として月に○万ドルという高額な給与を得ており,経済的な不安もないことが認められる。

イ また,疎明資料(甲9,20~24,35,36,乙1の6)によれば,請求者は,被拘束者がアメリカで生活することになった場合に備えて,以下のとおり,種々のサポート体制を整えていることが認められる。

(ア) 請求者は,勤務の開始時間が午前9時であることから,被拘束者を学校に送った後に出勤し,勤務の終了時間は午後4時30分であるため,被拘束者を学校のクラブ活動等に参加させ,請求者と被拘束者の帰宅時間はほぼ同じくらいにすることにより,被拘束者が独りきりで過ごす時間をなくすことを考えている。

(イ) 請求者宅の近くに居住している請求者の姉である□○は,請求者が仕事等で被拘束者の面倒をみることができないときには,請求者に代わって被拘束者の面倒をみることを約している。

また,同人の娘(24歳)も,平成22年×月には請求者と同じ○○に移住することが決まっており,その支援も期待できる。

(ウ) 請求者は,過去に3年ほど日本に留学していたことがあるため,日本語については一定のレベルにあるが,被拘束者と生活を開始した場合に備え,現在も継続的に日本語を勉強し続けている。○○日本人会の中心人物である請求者の親友のサポートを受けることも可能である。

(エ) 被拘束者がアメリカに帰国した後の英語の問題については,入学を予定する小学校には英語を第二言語とする子供のためのサービスがある。

請求者は,必要があれば英会話学校で英語の授業を受けさせることも考えている。

(オ) 請求者は,被拘束者が新しい環境に馴染めなかった場合の精神面のケアのために,被拘束者がアメリカで通う学校や以前の被拘束者の主治医らに連絡を取り,支援の約束を取り付けている。

(4)  以上の事実に基づいて判断すると,①前記第2の2の(2)及び(3)のとおり,もともと請求者と拘束者Y1が別居,離婚に至ったのは,請求者が拘束者Y1に対して暴力を振るったことが原因であり,また,ウィスコンシン州においては,子供の監護は,両親の共同監護とされることが原則であるのに,州裁判所判決において請求者が被拘束者の単独監護権者とされたのは,必ずしも被拘束者の福祉の観点から拘束者Y1が被拘束者の養育監護を行う上で不適格であるとの理由によるものではなく,専ら,拘束者Y1が州裁判所の裁判期日に出頭しなかったという手続的な理由によるものであること,②実際には,前記(2)のとおり,被拘束者は,平成20年×月に日本に帰って以来,ずっと日本で安定した生活を送っており,△□幼稚園や△□小学校にも適応し,多くの友達と交流するなど,心身ともに健全な発育を遂げていること,③被拘束者は,拘束者らによくなついており,調査の専門家である家庭裁判所調査官に対して,拘束者らの下で日本での生活を続けたい旨を明確に述べており,被拘束者がこのような希望を有していることは,本件人身保護請求事件の被拘束者代理人との面談の結果でも裏付けられていること,④また,前記(2)のとおり,被拘束者が,現在,わずか7歳の女児であって,その安定した生育のためには出生時から継続して日常の養育監護を行ってきた母親である被拘束者Y1による養育監護を今後とも引き続き受けることが望ましいとみられること,⑤前記(3)認定のとおり,請求者も被拘束者に対する強い愛情を有し,経済的不安もなく,被拘束者に対する種々のサポート体制を準備しているものの,○○として多忙な請求者が被拘束者に対して拘束者Y1と同様の細やかで良好な養育監護状況を維持できるかどうかは極めて疑問であること,⑥また,かつてウィスコンシン州の幼稚園に通っていた際には混血児であるためにいじめられ,友達もほとんどいなかったという経験のある被拘束者が,ほとんど英語も話せない現在の状態で,同州の学校生活等に順応することは著しく困難であり,多大の精神的負担をもたらすであろうことが予測されること,⑦特に,拘束者らの下で日本での生活を続けたいとの明確な意思を有している被拘束者を人身保護命令という方法によって拘束者Y1から引き離し,遠く離れたアメリカで請求者と生活することを強いることは,被拘束者に著しい精神的負担を負わせることが十分に予測されることなどの諸点を総合勘案すると,被拘束者を請求者の監護の下に置くことは,拘束者らの監護の下に置くことに比べて被拘束者の幸福の観点から著しく不当な結果をもたらすものといえる。

(5)  この点に関し,請求者は,拘束者Y1は,ウィスコンシン州においては,離婚訴訟提起後に子を国外に連れ出すことが違法であることを認識していたにもかかわらず,被拘束者を日本に連れ帰るという,犯罪の構成要件に該当するような違法行為をもって現在の状況を作出し,維持し続けてきたのであり,法律や裁判を全く無視して,自力救済によって築き上げた現在の状態を既成事実化しつつ,被拘束者を人質にして,財産分与等において過大な請求を行っており,本件請求以外での解決は著しく困難であって,被拘束者の保護の必要性は強いと主張する。

しかし,前記前提事実のとおり,拘束者Y1が被拘束者を連れて日本に帰ったのは,請求者の暴力が契機となっていること,州裁判所が,拘束者Y1に対し,被拘束者とともにアメリカに戻ってくることを命じたのは,拘束者Y1が日本に帰った後であり,拘束者Y1が,その後,州裁判所に出頭しなかったのも,未成年者誘拐容疑で逮捕されるかもしれないというおそれを抱いていたことによるものであることが認められる。

そうだとすれば,拘束者Y1が,被拘束者を連れて日本に帰り,その後,拘束者Y2及び拘束者Y3と被拘束者を養育監護していることをもって,拘束者Y1が,法律や裁判を全く無視して,自力救済によって築き上げた現在の状態を既成事実化しつつ,被拘束者を人質にして,財産分与等において過大な請求を行っていると認めることはできないから,それを前提として,被拘束者の保護の必要性が強いとする請求者の主張は,これを採用することができない。

さらに,請求者は,国際結婚のケースにおいて,法的な手続を無視して,子を自国に連れ去る行為は,民法上不法行為を構成し,刑法上誘拐罪が成立するのであり,連れ去りという犯罪行為による自力救済を行った拘束者Y1に被拘束者を養育させるのは,拘束者Y1の犯罪行為を容認し,法的保護を与えることにほかならないなどと主張する。

しかし,前記前提事実によれば,州裁判所判決が,請求者を被拘束者の単独監護権者としたのは,拘束者Y1が州裁判所の裁判期日に出頭しなかったことが多分に影響していることが推認される上,拘束者Y1が州裁判所の法廷に出頭しなかったのは,未成年者誘拐容疑で逮捕されるかもしれないというおそれを抱いていたことによるものであり,しかも,州裁判所判決においては,前記(2)に認定したような日本における拘束者らの被拘束者に対する監護状況等が考慮された形跡はないことからすると,拘束者らに被拘束者の養育監護をさせることが,連れ去りという犯罪行為による自力救済を行った拘束者Y1の犯罪行為を容認し,法的保護を与えることになるということはできない。したがって,請求者の上記主張も理由がない。

(6)  以上によれば,本件は,拘束者らによる被拘束者の拘束の違法性が顕著である場合(人身保護規則4条)には当たらないというべきである。

3  結論

よって,本件請求は,争点(3)について判断するまでもなく,理由のないことが明白であるから,人身保護法11条により,これを棄却することとし,手続費用につき,同法17条,人身保護規則46条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり決定する。

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