大阪高等裁判所 平成21年(行コ)163号 判決 2010年4月09日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 社会保険庁長官が平成18年6月16日付けで控訴人に対してした年金加入期間確認処分のうち,控訴人の国民年金保険料の納付済期間が昭和50年4月から平成元年3月までの168月であることを確認する部分を取り消す。
3 厚生労働大臣は,控訴人に対し,控訴人の国民年金保険料の納付済期間が昭和39年3月1日から平成元年4月1日までの301月であることを確認せよ。
第2事案の概要
1 控訴人は,社会保険庁長官から,控訴人の国民年金保険料の納付済期間が昭和50年4月から平成元年3月までの168月であることなどを確認する処分(本件確認処分)を受けたが,納付済期間は昭和39年3月1日から平成元年4月1日であると主張し,本件確認処分中控訴人の国民年金保険料の納付済期間を確認する部分の取消しを求めるとともに,控訴人の国民年金保険料の納付済期間が昭和39年3月1日から平成元年4月1日までの301月(本件期間)であることを確認する処分の義務付けを求めた。
原審は,控訴人の請求のうち,本件確認処分の取消しを求める部分を棄却し,納付済期間が本件期間であることを確認する処分の義務付けを求める部分を却下した。
2 関係する法令,前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の2ないし4に記載のとおりである。控訴理由も,控訴人の原審主張に基づき,原判決の認定判断を誤りとするものである。
なお,原判決後の日本年金機構法の施行に伴い,本件確認処分と同種の処分は社会保険庁長官に代わって厚生労働大臣が所管することとなった。
第3判断
1 当裁判所も,本件確認処分の取消しを求める請求は理由がなく棄却すべきであり,納付済期間が本件期間であることを確認する処分の義務付けを求める請求は不適法で却下すべきと判断する。その理由は,原判決「事実及び理由」中「第3 争点に対する判断」に記載のとおりである。
2 年金記録の管理等については不備があり,国民年金の保険料納付記録の訂正回復措置が執られたものがあるが,そのことは保険料納付記録の消極的証明力を一般的に減殺させるということはいえても,記録のない個別の納付の事実を裏付けるものではないし,正確さを欠く記録は一部に過ぎず,被保険者保険料の納付の事実を立証することが,不可能又は著しく困難ではないことに鑑みれば,保険料の納付という事実について被保険者に立証責任を負わせることが正義の観念に反するとはいえない。
控訴人の主張は,母であるAが控訴人に代わって保険料の納付をしていたというものであるが,本件期間中に控訴人が転居しているのであるから,それぞれの自治体で相応の手続や記録がなされているはずであるところ,転居先の複数の自治体の全てにおいて控訴人の被保険者名簿その他の保険料納付の事実をうかがわせる資料は何ら残っていないこと,Aが集金の際に控訴人の分も支払っていたとすれば,大阪府豊中市と香川県小豆郡α町のいずれもが住民ではない控訴人の保険料を徴収するという制度上予定されていない行為を行っていたことになるし,郵便局で送金していたとすると,Aは納付書や領収書をどのように入手していたのか,控訴人が京都市β区から兵庫県西宮市,同県宝塚市へと転居したことに対してどのように対応したのか不明であること,Aは,控訴人の兄であり,A方で自営業を営んでいたBに対しては,婚姻を契機に年金保険料を自分で支払うよう伝え,国民年金手帳も引き渡しておきながら(甲31,証人C),経済的に独立していた控訴人については,婚姻や転居にかかわらず本人に代わって保険料を支払い続け,控訴人が自分で年金保険料を支払うようになっても国民年金手帳の引渡をしていないことなど不自然な点がある。
控訴人は,基礎年金番号に統合されていない年金記録が5000万件余り存在していることを筆頭に年金記録の管理に多数の不備があることや,年金記録を管理していた職員の不正行為も多数に及んでいることを強調するが,そのような記録管理の不備,不正行為,統合できない年金記録の存在が直ちに本件で不備や不正があったことを裏付けるものではないし,例えば,本件に関係しては,住民ではない者の保険料を徴収することが豊中市やα町で慣行として行われていたとか,転居先の複数の自治体の全てにおいて被保険者名簿その他の控訴人の保険料納付の事実をうかがわせる資料が何ら残っていないということが相応の頻度で起こりうると認めるに足りる証拠はない。控訴人の主張は,個別の事例の差異を無視して,年金記録の管理の不備や多数の不正行為が存在しているという一般論を本件に当てはめようとするものであって,採用することはできない。
控訴人の主張を裏付けるものとして,控訴人及びCの供述や控訴人が昭和51年ころに交付を受けた国民年金手帳及び保険料の納付書に昭和39年3月1日に国民年金の被保険者資格を取得したと記載されているという事実があるが,この点に関する控訴人らの供述内容は,他人であるAの納付に関連する一場面や一資料を目撃したというものに過ぎず,納付の経緯や具体的状況は明らかでなく,納付の方法についても供述に食い違いがある上,前記のような不自然な点については合理的な説明をしていない。昭和39年3月1日に国民年金の被保険者資格を取得したとの記載についても,それに対応する他の自治体における被保険者名簿その他の資料の存在は認められず,かかる記載だけが記録として残されている点は不自然としかいいようがない。
3 以上検討したところによれば,本件では,控訴人名義で年金保険料が納付されたにもかかわらず,管理の不備により記録が滅失ないしは欠如しているというよりも,控訴人名義での年金保険料は納付されておらず,それゆえ納付にかかる記録や資料が残存していないと認めるのが自然であり,かつ,合理的である。
4 結論
よって,控訴人の請求のうち,本件確認処分の取消しを求める部分は理由がないとして棄却し,納付済期間が本件期間であることを確認する処分の義務付けを求める部分は不適法として却下した原審の判断は相当であって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 塩月秀平 裁判官 久保田浩史 裁判官 平井健一郎)