大阪高等裁判所 平成21年(行コ)18号 判決 2009年7月30日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 長田税務署長が,控訴人に対し,平成18年4月27日付けでした控訴人の平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度の法人税に係る更正の請求に理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,青色申告書を提出する法人である控訴人が,平成15年7月1日から平成16年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について,確定申告後に,平成17年法律第21号による改正前の租税特別措置法(以下「措置法」という。)68条の2第1項の適用を受けた場合の税額に基づき減額更正の請求をしたところ,長田税務署長が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため,同処分の取消しを求めた事案である。
原判決は,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴した。
2 関係法令等の定め,前提事実,争点及び当事者の主張
後記3のとおり,当審における控訴人の補充的主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 関係法令等の定め」,「2 前提事実」,「3 争点」及び「4 当事者の主張」(原判決1頁21行目から同14頁18行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における控訴人の補充的主張
(1) 確定申告における税額計算の過程を分解すると,それは,①課税要件事実の認定,②私法上の法律構成(契約解釈などの問題),③税法の発見,選択,解釈,④税法の適用(税法の課税要件事実への当てはめ),⑤申告・納税の5種のプロセスに分解することができ,税額の誤りが発生する原因としては,それぞれのプロセスに対応して,①課税要件事実の認定の誤り,②私法上の法律構成の誤り,③税法の選択及び解釈の誤り,④課税要件事実への税法の当てはめ(税法の適用)の誤り,⑤申告手続の誤りがある。
通則法23条1項1号の更正の要件としては,①税額が過大になったこと,②その原因としての誤法又は誤算が存したことが必要であるが,誤法・誤算が生じた原因については限定を加えていないから,上記の誤りによって税額が過大となる原因のすべてが誤法又は誤算の観念に包括されるというべきである。
(2) 措置法68条の2第1項の規定(留保金課税不適用制度)は,文言上「・・・適用しない。」という断言的あるいは指示命令的な文言によって表現されており,納税者の選択に委ねたことを示唆する文言になっていない。選択的規定であると理解するためには,その必要条件として,納税者による選択権行使の意思表示を要する法制度であることが必要であるところ,措置法68条の2第2項は,同条1項の適用要件として,単に,財務省令で定める書類の添付を要求するにすぎず,それ以上に納税者の意思表示を要求していない。
また,納税者にとっては,留保金課税不適用制度の実体的要件に該当するのに,不適用規定の適用を受けないことについて直接的なメリットも反射的なメリットも発生しないのであるから,留保金課税不適用制度を看過した税額計算には常に過誤(誤法ないし誤算)が含まれている。
したがって,確定申告において留保金課税不適用制度を見落として税額計算をしたため税額が過大になった場合には,誤法又は誤算があるとして,更正の請求の要件を充足すると解すべきである。
第3当裁判所の判断
1 後記2のとおり,原判決の補正をし,後記3において当審における控訴人の補充的主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(原判決14頁19行目から同22頁1行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の補正
(1) 原判決17頁5~6行目の「確定申告における納税者の意思表示により」から14~15行目の「誤りはないのであるから,」までを「具体的に納付すべき税額が納税者の申告によって確定するという申告納税方式の性質にかんがみ,租税確定手続の明確化及び円滑化の観点から,同項の適用を受けることを選択するには,措置法規則書類の添付を要することとし,かつ,その選択の方式を措置法規則書類の添付に限ることを定めたものと解される。ところが,本件確定申告においては,本件確定申告書に措置法規則書類が添付されていない以上は,同項適用の選択はされなかったと認めるほかはなく,現に,本件確定申告書においては,原判決添付別表のとおり法人税法67条1項に基づいて留保金額に対する税額が計算されており,同項に基づく計算自体に誤りはないのであるから,措置法68条の2第1項の適用を受けた場合よりも納付すべき税額が多額となるとしても,」に改める。
(2) 同18頁16行目の「措置法規則書類の添付がないことをもって」から18行目の「意思表示の有無はひとまず措くとして,」までを「同項をもって選択的規定と解することはできず,同項を看過した税額計算には常に過誤が含まれていると主張するが,」に改める。
3 当審における控訴人の補充的主張に対する判断
控訴人は,納税者にとっては,留保金課税不適用制度の実体的要件に該当するのに,不適用規定の適用を受けないことについて直接的なメリットも反射的なメリットも発生しないのであるから,留保金課税不適用制度を看過した税額計算には常に過誤(誤法ないし誤算)が含まれており,確定申告において留保金課税不適用制度を見落として税額計算をしたため税額が過大になった場合には,更正の請求の要件を充足するなどと主張する。
しかし,措置法規則書類の添付がない本件確定申告書に基づいてされた本件確定申告は,措置法68条の2第1項の適用を受けるという選択をしなかったことになること,その結果,留保金不適用制度の適用を受けた場合よりも納付すべき税額が多額になったとしても,本件確定申告の内容それ自体には誤りはなく,税額に違算があるとはいえないことは,前記説示(引用にかかる原判決16頁21行目から同19頁13行目まで)のとおりであって,本件確定申告について,更正の請求の要件が充足されていると認めることはできない。
したがって,控訴人の上記主張には理由がない。
第4結論
以上によれば,控訴人の請求は理由がないから棄却すべきであって,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとする。
(裁判長裁判官 成田喜達 裁判官 亀田廣美 裁判官 三木素子)