大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成21年(行コ)66号 判決 2010年7月23日

主文

1  控訴人らの控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。

2  控訴人らは,尼崎市に対し,各自金3億3578万円及びこれに対する平成12年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

4  被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

5  訴訟費用は,第1審,第2審,第3審を通じ(ただし,附帯控訴費用を除く),これを8分し,その3を控訴人らの負担とし,その余の費用及び附帯控訴費用は,被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判旨

1  控訴の趣旨

(1)  原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。

(2)  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は,第1審,第2審,第3審を通じ,すべて被控訴人らの負担とする。

2  附帯控訴の趣旨

(1)  原判決を次のとおり変更する。

(2)  控訴人らは,尼崎市に対し,各自8億4872万円及びこれに対する平成12年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審における請求の減縮後のもの)。

第2事案の概要

1  事案の骨子と訴訟の経過

(1)  本件は,尼崎市(以下「市」という。)の住民である取下げ前1審原告P1が,市の発注したゴミ焼却施設の建設工事の指名競争入札において,控訴人P2をのぞく控訴人ら(以下「控訴人5社」という。)が控訴人P3を受注予定者とする談合をし,控訴人P2もそれに協力した結果,控訴人P3を構成員とする特定建設共同企業体(以下「本件JV」という。)が正常な想定落札価格と比較して不当に高い価格で落札し,上記工事を受注したため,市が損害を被ったにもかかわらず,尼崎市長(以下「市長」という。)が控訴人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っていると主張して,地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)242条の2第1項に基づき,市に代位して,怠る事実に係る相手方である控訴人らに対し,損害賠償を求めて住民訴訟を提起したところ,被控訴人らが共同訴訟参加した事案である。

(2)  原審は,上記談合の事実を認めるとともに,市長が違法に損害賠償請求権の行使を怠っているとして,被控訴人らの請求を一部認容した。そこで,これを不服とする控訴人らが控訴するとともに,被控訴人らも,認容された損害額が低きに失するとして附帯控訴するとともに,請求の一部を減縮した。

(3)  差戻し前の控訴審は,被控訴人ら主張の控訴人らによる不法行為は,談合による不公正な価格形成を行ったというものであるところ,談合は秘密裏にされ客観的な証拠がほとんど残されていないのが通常であるから,その主張,立証は複雑かつ困難であり,市の控訴人らに対する損害賠償請求権は,客観的にも明らかな債権であるとか,容易に主張,立証が可能な債権というものではなく,また本件のように怠る事実の対象となる債権が私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下各改正の前後を通じ「独占禁止法」という。)違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の場合には独占禁止法25条に基づく損害賠償請求権の行使も可能であることなどからすると,市長において,公正取引委員会による後記別件審決の確定を待って独占禁止法25条に基づく損害賠償請求権又は不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを選択し,原審口頭弁論終結時まで,控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しなかったとしても,その判断には合理性があるというべきであるから,当該債権の不行使を違法な怠る事実と認めることはできないとして,原判決を取り消し,被控訴人らの請求及び附帯控訴をいずれも棄却した。そこで,これを不服とする被控訴人らが上告した。

(4)  上告審は,地方公共団体が有する客観的に存在する債権を理由もなく放置したり免除することは許されず,原則として地方公共団体の長にその行使又は不行使について裁量はなく,その不行使が違法な怠る事実に当たるというためには,少なくとも客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を地方公共団体の長が入手し,又は入手し得たことを要するというべきであるとした上で,市長は,本件訴訟において証拠として提出された後記別件審決事件の資料や審決書等の証拠資料を容易に入手することができたものと考えられ,仮に本件訴訟において提出された証拠により,控訴人らによる上記不法行為の事実が認定されうるのであれば,市長は,客観的に見て上記不法行為を認定するに足りる証拠資料を入手し得たものということができ,遅くとも本件訴訟の第1審判決の時点では,市長において,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することにつき,格別の支障がなかったものと一応判断されるのであって,控訴審判決が指摘するような事情は,市長の損害賠償請求権の不行使を正当化する理由とはならないと判断し,本件訴訟に提出された証拠の内容,別件審決の存在・内容に照らし上記不法行為の事実が認定されうるかどうかについてさらに審理を尽くさせるため,本件を差し戻した。

(5)  したがって,差戻し後の控訴審である当審においては,①本件訴訟において提出された証拠により上記不法行為の事実が認定されるか否か,②市の損害額が主たる争点となる。

2  争いのない事実等は,原判決8頁4行目の次に改行の上,以下のとおり付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の1項に摘示のとおりであるから,これを引用する。

「エ 公正取引委員会は,別件審判事件につき,平成18年6月27日,控訴人5社が遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が発注するストーカ炉の新設等の工事について談合を行っていたとの事実を認定した上で,控訴人5社に対し,排除措置を命ずる審決(甲ア25,以下「別件審決」という。)をした。なお,同別件審決においては,平成6年4月から平成10年9月17日までに指名競争入札等の方法により入札が行われたストーカ炉の建設工事のうち,具体的な証拠から控訴人5社が受注予定者を決定したと推認される工事として,本件工事が挙げられている。

オ 控訴人5社は,別件審決の取消を求める訴訟を東京高等裁判所に提起したが,同裁判所は,平成20年9月26日,控訴人5社の請求をいずれも棄却した(甲26,以下「別件判決」という。)。

カ 控訴人5社は,別件判決を不服として上告及び上告受理申立てをしたが,最高裁判所第三小法廷は,平成21年10月6日上告棄却及び上告不受理決定をした(甲25の1ないし3)。」

3  争点及び争点に対する当事者の主張は,4以下に当事者の主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2及び3項(ただし,2項及び3項の各(3)を除く。)に摘示のとおりであるから,これを引用する。

4  控訴人P3,同P4,同P5及び同P2(以下「控訴人4社」という。)の主張

(1)  基本合意について

ア 控訴人5社の会合は,受注調整の場ではないこと

ストーカ炉の担当者は,談合する目的などなくても,正当な業務活動の一環として会合を持つことがあるから,単に控訴人5社の会合が開催されていたからといって談合の事実が推認されるわけではない。また,5社の会合に出席した者の供述調書(甲サ33,104,105,139)にも受注調整を行った旨の記載は存在しない。

イ 受注予定者の決定方法に関するルールについて

そのようなルールを認めるに足りる証拠はない。上記ルールの根拠とされている控訴人P6のP7支社環境プラント営業室長のP8の所持していたメモ(甲サ35,以下「P8メモ」という。)は,出張等の機会に同僚らと「飲み屋で一杯やりながら」聞いた話を記載したものにすぎず,聞いた相手も5社の会合の出席者ではないから,再伝聞にすぎない。また,P8はゴミ焼却炉の営業に関して素人同然であったから,同メモに証拠価値はない。また,控訴人P9P10支社化学環境装置課(後に機械一課と名称が変更された)のP11が前任者から引き継いだ書面(甲サ37,以下「P11引継ぎメモ」という。)は,そもそも作成者及び作成経緯が全く不明である上,少なくとも平成元年以前に作成されたものであることは明らかであって,基本合意との関連性すら認められない。

ウ P12リスト(甲サ89)について

P12リストは,控訴人P5の一従業員が独自に業界内の競争相手の動向を織り込んで受注予想を記載した「年度別受注予想」にすぎない。

エ 決定された受注予定者が受注できるようにしていた事実はない

原判決の挙げる甲サ111,同128,同134及び同137は,断片的な記載があるにすぎず,背景事情を一切捨象しているので意味不明であり,これらの記載から上記事実を認定することはできない。

オ 控訴人5社が入札状況を数値化して把握していた事実はない

そもそも仮に控訴人5社のうち1社だけで従業員が入札状況を把握していたとしても,それはごく当たり前の業務活動であるところ,甲サ106及び同107は,5社のうちわずか2社の社内資料にすぎない。また,甲サ106は,他の書証の記載と矛盾する点があるほか,同107には談合が行われていないことが客観的に明白な工事が記載されていることからしても,上記各書証から,控訴人5社が入札状況を数値化して把握していた事実は認められない。

カ 関係者の供述について

(ア) P13の供述調書(甲サ28,46,以下「P13供述」という。)について

P13供述は一般的な入札談合の仕組みについて知っている者であればだれても供述できるような極めて抽象的かつ概括的な内容にすぎない。また,課長就任時期やプラント処理能力の合計が平等になるように受注調整をするとの内容が客観的事実と矛盾している。

また,同供述は審査官の予断によって誘導されて作成されたものであり,その後は一貫して談合の事実を否認する供述を繰り返していることからすると,信用性はない。

(イ) P8の供述調書(甲サ44,以下「P8供述」という。)について

P8供述は,本人が体験した事実を供述したものではなく,出張等の機会に同僚らと飲食店で酒を飲みながら聞いた話を供述した再伝聞にすぎず,同人がゴミ焼却炉の営業活動について素人同然であったことからすると,およそ信用性を認めることはできない。

(ウ) 控訴人P9P10支社機械一課長のP14の供述調書(甲サ42,以下「P14供述」という。)について

P14は,一度もP15本社で勤務したことがない者であり,官公庁に対するゴミ焼却施設の営業を担当をするようになったのも平成8年3月1日であるから,同供述は,そのわずか4か月後に業界についての十分な知識もない時点で引継ぎの際に聞いた事項を供述するものであり,不正確な理解に基づく再伝聞又は再々伝聞にすぎず,信用性を認めることはできない。

(エ) P11の供述調書(甲サ47,以下「P11供述」という。)について

P11供述は,不確かな再伝聞又は再々伝聞をやみくもに列挙した上で個人的な憶測を述べたものにすぎず,その信用性は極めて低い。

(オ) 控訴人P4の環境プラント本部本部長P16の供述調書(甲サ45,以下「P16供述」という。)について

P16は,P16供述のわずか2か月前に環境プラント本部本部長に着任したばかりであり,伝聞にすぎないことからするとP16供述の信用性は低い。また,焼却炉の処理能力に関する供述内容は客観的事実に反しており,信用性は認められない。

(2)  個別談合について

ア 個別談合の立証がないこと

本件訴訟における全証拠を精査しても,控訴人P2を含めた入札参加者全員との間で談合が行われたことを直接的に示すような具体的証拠は一切存在しない。

イ P12リストについて

P12リストには,平成8年度の控訴人P3のストーカ炉の欄に「尼崎」,「150」という記載があるが,同リストは前記のとおり,受注予定者を記載したリストではない。また,平成7年ころの市発注のゴミ処理施設の整備計画としては,本件の他に「P17工場工事」も計画されていた以上,同リストに記載されている「尼崎」との記載ではいずれの工事を意味するかを直ちに断定することはできない。

ウ 落札率について

本件における落札率は99.17パーセントであるが,入札予定価格の設定の仕方によって上下する相対的な数字であり,個別談合の根拠となるものではない。また,控訴人5社がいずれも参加していないストーカ炉建設工事の落札率を見ても99.17パーセントを超える事例もあり,著しく高い割合であるともいえない。

エ 発注方法の特殊性について

本件工事は,プラントメーカー1社とゼネコン2社で結成する特定建設共同企業体(以下「JV」という。)での入札という極めて特殊な発注方法により発注されたものであり(乙A23),他の地方公共団体の発注方法と比べて談合を行うことが極めて困難であることは客観的に明らかである。

すなわち,本件工事の入札に参加するためには,控訴人4社らプラントメーカーは,市から一方的に指定される限られたゼネコンの中から極めて短期間の間にパートナーを選んでJVを結成しなければならなかったものであるが,このようなJVでの入札の場合,通常,プラントメーカーとゼネコンは,各々が施工する工事の見積価格を互いに提示し,両者が協議の上で全体の応札価格を決定することになるので,プラントメーカーが単独でJV全体の応札価格をコントロールすることはできず,ましてや日本を代表する大手ゼネコンを差し置いてプラントメーカーだけで談合を行うことは不可能である。

オ アウトサイダーの協力に関する立証の不存在

入札談合を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において,いわゆるアウトサイダーが入札に参加している場合には,アウトサイダーの協力について具体的な立証が必要不可欠であり,アウトサイダーの協力についての具体的立証ができない場合には,不法行為の成立は認められない。

しかしながら,本件記録を精査しても,本件工事に関して受注予定者とされている控訴人P3の営業担当者等がアウトサイダーである控訴人P2との間で何らかの受注調整を図ったことを具体的に認定するに足りる証拠が一切存在せず,逆に,控訴人P2は弁護士法23条の2に基づく照会に対し,控訴人5社から受注予定者決定の協力要請を受けた事実,協力に応じた事実及び協力の見返りとして控訴人5社の協力を得てゴミ焼却炉建設工事を受注した事実がない旨を明確に回答していることに加え,控訴人P2において本件工事の営業を担当していたP18もこれを否定し,控訴人P3の営業担当者であるP19もこれを否定するなど,むしろ控訴人5社とアウトサイダーである控訴人P2との間で受注調整が図られていたことを積極的に否定する証拠が多数存在する。

したがって,仮に控訴人5社による基本合意の事実が認められたとしても,控訴人5社の営業担当者らがアウトサイダーである控訴人P2との間で受注調整を図ったことを具体的に認定するに足りる証拠がない以上,不法行為の成立は認められない。

カ 談合と矛盾する競合他社の行動について

仮に本件入札までに談合が行われていたとすると,控訴人P2は本件工事を受注する意欲はなかったということになる。しかしながら,控訴人P2は本件工事の受注を目指して熱心な営業活動を行っており,4回にわたりコストをかけて本件工事の見積書を作成して市に提出している。同事実は,控訴人P2が本件工事の受注を目指していたという強い受注意欲を裏付けるものであり,控訴人5社の談合に協力したという事実を妨げる極めて重要な事実である。

キ 控訴人P3の受注過程に不自然な状況が窺われないこと

(ア) 本件工事の入札における控訴人P3の入札価格は,本件JVの構成員各社が原価低減の努力を尽くして,それぞれベストプライスを持ち寄るという方法により決定されたものであり,その決定過程に何ら不自然な点はなく,談合が行われていたことを窺わせるような不自然な状況は窺われない。

そもそも,後記(3)エでも詳しく述べるとおり,本件工事は,控訴人P3が平成2年2月に納入した施設の増設工事として市から発注されたものであったために,控訴人P3が圧倒的に有利な立場にあった。その上で,控訴人P3は,上記圧倒的有利な立場にあることに鑑み,通常より高い15パーセントの益率を目標とし,本件JVのパートナーであるP20と協議の上,100億円から105億5000万円の範囲で入札に望むことで決済をとり(乙A32),1回目103億円,2回目100億円という入札価格を決めたものである。

仮に本件工事の入札で談合が行われていたとすれば,最も高い金額である105億5000万円で入札しているはずであるが,実際にはそのような入札結果とはなっていないことからしても,個別談合の事実は認められない。

(イ) また,控訴人P2も,本件工事の最終的な発注仕様書に基づいて,社内の原価積算部門で原価表を出し,同原価表に基づいて焼却炉プラント営業部の部長と課長が相談して本件工事のプラント部分の入札価格を決定し,その後P21から出された入札価格とを合算して110億円という最終的な入札価格を決定している。

以上のような控訴人P2の入札価格の決定過程には何ら不自然な点はなく,個別談合に協力したことを窺わせるような状況は窺われない。

(3)  損害額について

ア 民事訴訟法(以下「民訴法」という。)248条の適用について

被控訴人らの主張は,損害の発生及びその額,因果関係に関する立証を完全に放棄し,安易に民訴法248条の適用を求めて損害に関する事実認定を裁判所に丸投げするものであって,不当である。

イ 課徴金の算定率等について

被控訴人らは,課徴金の算定率が6パーセントから10パーセントに引き上げられたことを根拠として,落札価格の8パーセント相当額が損害額であると主張する。

しかしながら,上記引上げは,違反行為防止という目的のため,不当利得相当額以上の金銭を徴収する仕組みとしたものであるから,上記課徴金の算定率は何ら損害の根拠とはならない。

また,公正取引委員会が調査したというカルテル・談合事件における不当利得の推計値についても,事案の相違点を考慮せず多種多様な事案の平均値にすぎず,その正確さを検証する手段もないから,これを引用する被控訴人らの主張は失当である。

ウ 受注調整の目的について

別件審判事件では,「受注機会の均等化を図る」ことを目的とした受注調整が独占禁止法違反行為として審理の対象とされていたのであって,「受注価格の低落防止等を図る」ことを目的とした受注調整行為が審理の対象とされていたわけではない。公正取引委員会が行う談合事案の行政処分においては,その談合の目的として「受注価格の低落防止等を図るため」という認定をされることがほとんどであるにもかかわらず,あえて「受注機会の均等化を図る」という文言が用いられているのは,別件審判事件で対象とされている違反行為が「受注価格の低落防止等を図る」ことを目的としているものではないことを意味する。

したがって,別件審判事件で対象とされている基本合意の目的及び効果について何の検討もせず,損害の発生があたかも所与の前提であるかのように決めつけるのは誤りである。

エ 控訴人P3が有利な立場にあったことについて

本件工事は,控訴人P3が平成2年2月に納入した施設(P44工場第2機械炉1号炉)の2号炉増設工事として市から発注されたものであり,既設の1号炉を運転しながら並行して行うものであったから,既設の1号炉の運転に支障がないような設計・工事計画・現場施工が求められるものであった。

このような既設炉を運転しながら並行して行う増設工事の場合は,既設炉との調整などが必要不可欠であることから,既設炉メーカー以外のメーカーは,発注仕様書や図面だけでは読み取れない既設炉の稼働上の特性や増設炉に影響しうる問題点の有無,経年劣化による既設炉の能力低下の有無やその程度等の事情によって不可避的に生じる既設炉の現況と図面との差異などについて,入札までの限られた時間では十分に把握することができないことから,リスク費を多めに見ざるを得ず,どうしてもコスト高になってしまうことが避けられないため,既設炉メーカーが圧倒的に有利な立場にある。

したがって,本件工事においても,既設業者であり,アフターサービスを請け負っていた控訴人P3以外の会社が受注することが全く不可能であったとまではいえないものの,同社に比べて他のメーカーが技術的及び経済的観点から圧倒的に不利な立場に立っていたことは否めず,談合なく本件工事の入札が行われたことを想定したとしても,控訴人P3が実際に行った入札額を下回る金額で入札が行われたとはいえない。

オ まとめ

以上のとおり,被控訴人らの主張する損害については何ら根拠がなく,かえって,本件においては,上記のような特殊事情が存在する以上,市に損害が生じたことを積極的に主張・立証する必要があり,それにもかかわらず被控訴人らが全く主張立証を行わない以上,損害は認められない。

5  控訴人P6の主張

(1)  基本合意について

ア 控訴人5社の会合は,受注調整の場ではないこと

そもそもゴミ焼却炉メーカーの営業担当者は,ゴミ焼却炉メーカー等で構成する社団法人P22等の会合において打合せを行う機会があり,営業担当者の集まるこれらの会合は,受注予定者決定等を目的とする会合ではない。

また,仮に同会合が受注予定者決定を目的とするものであったとするならば,出席していた各社担当者はある程度の決定権限を有していなければそのような重要な話合いに臨めないはずであるが,証拠上,出席者がストーカ炉の建設工事の入札に係る物件の選定や入札金額決定の権限を有しているとは認められない。

イ P12リスト(甲サ89)について

P12リストは,5社に共通して使用されていた書類ではなく,そのうちの1社(控訴人P5)の担当者が社内的な分析資料の一つとして作成したものにすぎないし,その表題からしても控訴人P5における単なる受注予想と見るべきである。

ウ 各社のリストについて

控訴人らのリストについては,①共通のフォームで物件リストが作成されていないこと,②証拠として提出された一部の控訴人らの物件リストを比較してみても同リストの内容がすべて一致しているわけではないこと,③リストに記載された物件情報も会社により異なる部分があることに照らすと,これらの事実は,控訴人らが各社ごとに情報を収集していたからこそ認められる事実であり,控訴人5社が受注希望表明及び受注調整の前提として物件情報を共通化していたことはあり得ない。

エ 決定された受注予定者が受注できるようにしていた事実はない

原判決の挙げる甲サ111,同128,同134及び同137は,断片的な記載があるにすぎず,背景事情を一切捨象しているので意味不明であり,これらの記載から上記事実を認定することはできない。

オ 控訴人5社が入札状況を数値化して把握していた事実はない

甲サ106及び同107は,5社のうちわずか2社の社内資料にすぎず,5者共通のルールとして入札状況が把握されていなければ,数値化をする意味など全くないし,ゴミ焼却施設の営業活動の特徴からしても,控訴人5社が数値を用いて受注予定者を決めていたなどととは到底想定できない。

カ 関係者の供述について

(ア) P13供述について

P13供述は,審査官の不当な取調べにより作成されたもので,任意性がなく,証拠能力を欠く。

P13供述は,5社の集まりに参加していなければ開示できないような内容ではなく,審査官であれば容易に誘導・作文できる内容にすぎないし,「各社が受注するゴミ処理プラントの処理能力が平等になるようにチャンピオンを決める」などと,証拠から明らかに認められる客観的事実とも矛盾しており,信用性はない。

(イ) P8供述について

P8供述は,そもそも取調べ方法に問題があるし,そもそもP8は控訴人P6のP7支社の一営業担当者にすぎない上,他の営業担当者から聞いた再伝聞証拠にすぎない。また,P8供述は,P13供述とも対象物件の区分の基準について内容が矛盾しており信用できない。

(ウ) P14供述,P11供述,P16供述について

上記各供述は,再伝聞ないし再々伝聞にすぎず,信用性は極めて低い。

(2)  個別談合について

ア アウトサイダーの協力に関する立証の不存在

控訴人5社以外のアウトサイダーが入札に参加している場合,仮に落札業者と相指名業者のうちの一部の業者との間でのみ受注調整が図られた場合であっても,アウトサイダーとの間においては受注調整が図られず,又はアウトサイダーが受注調整に応ずることを拒絶し,その結果アウトサイダーと落札業者との間において公正な競争が行われたときは,落札価格は,アウトサイダーとの間の公正な競争の下で形成された価格と見るべきことは当然であり,結果的に,アウトサイダーの入札価格が落札業者の入札価格よりも高額であったために落札業者が落札することができたとしても,これは,落札業者が一部の業者との間で受注調整を図った結果と見ることはできないから,不法行為は成立しない。

そして,本件全証拠によっても,受注調整の存在を認定することなど到底不可能である。

これに加え,本件工事は,プラントメーカーとゼネコン2社とで結成する3社JVによる入札という発注方式が採られており,ゼネコン各社を蚊帳の外に説いてプラントメーカーだけで入札価格の調整を行い,個別談合を行うことは不可能な工事であり,このことは証人P19及び同P18の証言からも明らかである。

よって,個別談合は認められない。

イ 落札率について

本件工事の落札率は99.17パーセントであるが,一般に予定価格は,事前に漏れることはないから,ある入札案件において落札率が高いという事実は,当該入札案件において談合が行われたことを裏付ける事情とはなり得ない。

ウ P12リスト(甲サ89)について

前記のとおりP12リストは,一企業の一担当者が作成した受注予想を記載した書面にすぎないから,個別談合の存在を推認させるものではない。

(3)  損害について

ア 民訴法248条の適用について

民訴法248条は,「損害が生じたことが認められる場合において」と規定されていることからも明らかなとおり,損害の発生や因果関係の証明がされたことを前提として適用されるものであるところ,本件においては,これらの立証を欠いているから同条を適用する基礎を欠いている。そもそも本件においては,別件審判事件においてすらその審理の対象とされている受注調整行為の目的は受注価格の低落防止とはされておらず,仮に談合が認められても,そのことから直ちに本件工事による損害の発生が認定できるものではない。

また,同条は,証明の必要性を軽減するものではあるが,主張責任,客観的証明責任について変更を加えるものではなく,当事者の証明によっても裁判所が損害額の評価の基礎を全く得られない場合には,証明責任にしたがって請求棄却の判決がされるべきものであるが,本件において,被控訴人らは,他の工事の落札率のみを挙げ,本件工事における想定落札価格について具体的な主張立証を一切放棄している。しかし,落札率と談合の存在とは結びつくものではないから,落札率は何ら損害額を基礎づける事実にはなり得ないというべきであり,請求棄却の判決されるべきである。

イ 控訴人P3が有利な立場にあったことについて

本件工事は,控訴人P3が建設した既設炉との一体運営を前提として発注されたものであるから,控訴人P3が入札において他のプラントメーカーに比してコスト競争上相当程度有利な立場にあったものであり,個別談合の存否にかかわらず,他のプラントメーカーが控訴人P3の入札価格以下の価格で入札したとは想定し難い。このことは,証人P19及び同P18の証言からも明らかである。

以上からすると,本件において損害が発生したといえないことは明白である。

6  控訴人P9の主張

(1)  基本合意について

ア 控訴人5社の会合は,受注調整の場ではないこと

控訴人5社を構成員とする会合には種々のものが存在していたから,定期的に会合が開かれていたことが談合の存在に結びつくものではない。

また,5社の会合に出席した者の供述調書(甲サ33,104,139)にも受注調整を行った旨の記載は存在しない。

イ 受注予定者の決定方法に関するルールについて

そのようなルールを認めるに足りる証拠はない。上記ルールの根拠とされているP8メモ(甲サ35)及びP11引継ぎメモ(甲サ37)は,抽象的なもので,P13供述とも矛盾し,信用性に乏しい。

ウ P12リスト(甲サ89)について

P12リストの的中率はせいぜい4割程度であるし,受注調整の結果を記載したものであるとすると矛盾するような記載が多々見られることからすると,表題にあるように,控訴人P5の受注予測を記した社内資料にすぎないと見るべきである。

エ 各社のリストについて

各社は,営業上の必要性から物件リストや実績表などを作成したものである。各社のリストはそれぞれ異なった形式によって作成されているのであり,内容がすべて一致するというわけでもない。このような事実は各社なりに情報を収集していたからこそ認められる事実であり,受注予定者を調整しようとしている工事の情報を記載していたのであれば,あり得ないことである。

オ 決定された受注予定者が受注できるようにしていた事実はない

原判決の挙げる甲サ128,同134及び同137は,作成経緯も明らかになっておらず,その記載も断片的にすぎないからこれらの記載から上記事実を認定することはできない。また甲サ111については,P23工場工事に関するものであるが,これ1件のみであたかも他のアウトサイダーが入札に参加した工事全体にも普遍的に適用されるかのように論ずることもできないというべきである。

カ 控訴人5社が入札状況を数値化して把握していた事実はない

甲サ106及び同107は,控訴人P9のP24及び控訴人P5のP12が所持していたものであるが,いずれも控訴人5社の会合の出席者ではない上,控訴人5社の会合の出席者が記載の指数を認識し,利用していたことを認めるに足りる証拠もない。また,同107には談合が行われていないことが客観的に明白な工事が記載されているばかりか,加算等の数値の算定対象工事をどのように選別したのかが明らかではないから,これらをもって談合を裏付ける根拠とすることはできない。

キ 関係者の供述について

(ア) P13供述について

P13供述は,そもそも具体的供述といえる類のものではない。また,同供述は,いずれも公正取引委員会が立入検査に入った当日に,P13を半ば強制的に同行させて長時間にわたって取り調べた際に作成されたものであり,任意性がない。また,P13供述では,各社が受注するゴミ処理プラントの処理能力が平等になるように受注調整を行う旨述べているが,これが客観的事実と異なることは明らかである。また,P13自身は,そもそも大型工事の入札に当たって決裁権限がなかったものであるから,他社との間で受注調整などなしえなかったものであり,信用性についても疑義がある。

(イ) P8供述について

P8供述は,自らが体験した供述ではなく,東京出張の際に飲み屋で一杯やりながら聞いた話にすぎず,その話を聞いた相手も5社の会合の出席者ではないから,その内容自体の信用性は乏しい。

またP8メモは,P13供述と大きな食い違いがあり,少なくともP13又はP8いずれかの供述は信用性が欠如するといわざるを得ない。

また,甲サ154によれば,P8供述が審査官の誘導によるものであることが窺われ,任意性にも問題がある。

(ウ) P14供述について

P14供述は漠然として全く具体性に欠けるものであるし,P14は,5社の会合の出席者ではなく,本社で勤務した経験もなく,伝聞又は再伝聞にすぎないから,信用性に乏しい。

(エ) P11供述について

P11は,本社の経験はないし,P11引継ぎメモは,平成元年以前に作成されたものであり,本件基本合意の対象となっている平成6年4月以降での受注調整とおよそ関連性がない。また,同供述自体,伝聞ないし推測に基づく供述にすぎない。

(オ) P16供述について

P16は,同供述のわずか3か月前に環境プラント本部本部長に着任したばかりで部下から聞いた話を供述しているにすぎないから,同供述の信用性は低い。また,同供述における受注予定者決定方法は,上記P13及びP8供述とも異なっている。

(2)  個別談合について

ア アウトサイダーの協力に関する立証の不存在

本件事例のようにアウトサイダーが指名されている場合には,アウトサイダーが協力するかどうか不確定なのであるから,基本合意の主張・立証だけでは本件工事において個別談合が成立したことを推認することはできない。

この点に関し,アウトサイダーが受注調整に協力する理由として,被控訴人らは,アウトサイダーの協力について具体的な証拠がなくても,本来の自由競争によって生じる受注機会の調整とともに,本来の自由競争によって生じる受注価格の下落の防止を目的とすることも一般に認められるのであり,ストーカ炉の受注を目指すアウトサイダーが受注調整に協力することも十分あり得るとか,基本合意は控訴人5社が,発注者に対し控訴人5社のみを指名するよう働きかけることを内容とするものであるが,指名参加者を控訴人5社に限定することができなかった場合には,次の段階としてアウトサイダーに受注調整に協力するよう求めることは何ら不自然ではないなどと主張している。

しかしながら,そもそも実績の少ないアウトサイダーの場合は,指名に入ること自体が難しいのであるから,いつ取れるとも分からない工事の価格が下落しないように慮って受注予定者が受注できるように協力するはずがない。むしろ実績作りのためにも低価格で応札し,受注を狙うのが現実である。また,発注者は,入札参加業者を決めるに当たっては,施工業者の技術力,施工実績,納入した施設の運転実績を重視するから,控訴人P2やP25のような有力なアウトサイダーであっても,5社に実績面で肩を並べられるよう実績作りを優先することは十分に考えられることであり,受注価格低落化防止のためにアウトサイダーも基本合意に協力していた旨の主張は,ストーカ炉の営業実態に照らし合理性に欠ける。

そして,本件工事においてアウトサイダーの協力を直接裏付ける証拠は一切存在せず,かえって控訴人P2及びP25からは,弁護士会からの照会に対して,協力依頼の事実を明確に否定した回答書が提出されている。

また,証人P19及び同P18は,控訴人P3が,控訴人P2に対して協力の依頼をした事実も協力を取り付けた事実のないことを証言している。

また,同人らの証言からは,本件工事は,控訴人P3が設置した既設炉の増設工事という特殊性があり,技術的及び経済的観点からコストダウンを図ることが可能であった控訴人P3が圧倒的に有利な立場にいたことは明らかである。

以上からすれば,アウトサイダーである控訴人P2の協力を裏付ける証拠は一切存在せず,かえって不存在を裏付ける証拠もあるから,個別断行の存在を認定することはできない。

イ 落札率の高さについて

本件における落札率は99.17パーセントであるが,本件工事において予定価格は非公表であったから,それが高率であったとしても談合を推認させる根拠とはならないし,控訴人P3を除く5社の入札価格が予定価格を上回っていたとしても談合の根拠となるものではない。また,予定価格は,仕様書,設計書を下に積算した価格に直近の実績価格・履行の難易度等の事情を反映した上で,さらに歩切りと称して,数パーセントをカットして厳しく設定されるのが通例であるのに対し,入札に参加する民間企業は営利企業であるから,予定価格に近い価格で落札したいと考えるのは当然であり,提示された仕様書等をもとに自社で行った積算,直近の同種工事での落札額,発注者の財政状況等を勘案して予定価格を推測して入札価格を決定するが,それが予定価格の近辺に集中することは十分あり得る。

(3)  損害について

民訴法248条は,「損害が生じたことが認められる場合において」と規定されていることから,同条が適用されるためには,損害の発生及び損害との因果関係が立証されなければならない。指名競争入札の実態に鑑みれば,適正な競争が行われた場合にも予定価格に近い価格で落札されることは十分にあり得るから,仮に談合行為が認定されたとしても,それによって直ちに損害及び談合と損害との因果関係が証明されたものとはいえない。

本件において,被控訴人らは他の工事における落札率のみを挙げ,市の発注した本件工事の入札における想定落札価格について具体的な主張立証を行っておらず,損害額の判断の基礎とする事情が示されているとはいえないから,本件において安易に同条を適用すべきではない。

7  被控訴人らの主張

(1)  基本合意について

ア P13供述について

控訴人らは,P13供述は,審査官の誘導によるものであり,信用性がない旨主張する。

しかしながら,P13供述は,公正取引委員会が立入検査を実施した当日に作成されたものであり,P13が他の者に相談したり,他の者からの何らの示唆,指示を受けることがない状況下で録取されたものである。そして,同供述は,審査官の立入検査によって収集した証拠を整理,検討するいとまのない時点で得られたものであるから,審査官が誘導しようとしても誘導の方向性さえ定められなかったというべきであって,誘導の可能性はむしろ低いというべきである。

また,同人が,上記供述後,弁護士等に供述内容と報告していること(甲サ187),同供述と控訴人P6の社員P26が所持していたP13と審査官のやりとりを記載したと推認されるメモ(甲サ36,80,140)の内容が概ね一致していることからすると,同人は,上記供述の内容を十分認識,記憶していたというべきであり,録取内容をよく理解しないまま,署名,捺印をしたなどということは考えられない。

むしろ同人は,上記供述後,弁護士等に上記供述内容を報告した際に,その内容が控訴人P9にとって著しく不利益な内容であることを自覚したために,その後の供述では一転して否認に転じたと見るのが合理的である。

また,控訴人らは,P13は一介の課長にすぎず,本件基本合意の対象とされた大規模工事について独断で受注調整ができるはずがないとも主張する。

しかしながら,当時の控訴人P9においては,最終的な決裁権限とは別に,ストーカ炉建設工事の見積金額についての発言権を最も有しているのはP13であり,ほとんどすべてのストーカ炉建設工事について同人が実質的に見積金額を決めていたということがいえるから(甲サ164),同人が本件基本合意に係る受注調整に参加することは何ら不合理ではない。

イ P12リストについて

控訴人らは,P12リストは単なる社内資料にすぎない旨主張する。

しかしながら,同リスト記載の22件の工事のほとんどが指名競争入札により落札業者が決定したものであるところ,競争入札制度の下では,各社が幾ら自社の受注条件に合致する工事に受注目標を絞り込んで集中的に営業しても目標どおりに契約を締結できるわけではない上,控訴人5社は,技術力,営業力,過去の受注実績が伯仲しており,このような状況において受注予想を行っても,有力2,3社を絞り込むことはできても,落札者まで予想を的中させることなどあり得るはずがない。

また,確かに,P12リスト22件中4件については,リストに記載された会社とは異なる会社が受注している。しかしながら,かかる4件中3件については,いわゆるアウトサイダーである控訴人P2が受注しているところ,かなりの回数相指名業者として控訴人5社が受注できるように協力させていたアウトサイダーには,時には落札予定業者が5社の会合に諮って了承を得た上受注させていたことがあったのであり,かかる3件がまさにこのような受注調整のケースであると考えるべきである。また,P12リストには,P25や控訴人P2などの控訴人5社に次ぐ受注実績を有するメーカーの記載がない。P12リストが受注予想を記したにすぎないのであれば,かかる控訴人5社以外のメーカーの記載が一切ないは不自然極まりない。

以上によれば,P12リストは単なる社内資料などというものではなく,受注調整の内容を記したものであるというべきであり,極めて信用性の高いものであるというべきである。

(2)  個別談合について

控訴人らは,アウトサイダーの協力が認められないとして請求を棄却した2件の判決を根拠に主張するが,全国各地で提起されている住民訴訟においては,アウトサイダーが入札に参加していた事例においても,住民側の請求が認められている。

本件においては,(1)控訴人5社の担当者が継続的に受注状況及び受注予定を把握していた資料の中には,5社のほかP25及び控訴人P2を加えたものもあったことなどから,アウトサイダーが指名入札に入った場合にはアウトサイダーの調整をして5社の会合で決定した受注予定者が受注できるように協力を求めることとしていたと認められること,(2)P23工場工事は,控訴人5社間で,控訴人P4が受注予定者と決定していたと認められるところ,P27,控訴人5社,P25,控訴人P2及びP28の間で話合いが繰り返され,その結果上記9社の会議で,控訴人P3がP23工場工事について,P27が控訴人P3が受注予定者と決定されていたP29工場工事について受注予定者となった経緯があり,談合の事実が認められること,(3)P23工場工事の入札が行われる前に,控訴人P2とP25も関わっていたこと及び実際に上記2社も入札に参加したことは明らかであって,控訴人5社からP27だけに受注の希望を事実上止めさせるような働きかけがあったと解するのは不自然であること,(4)上記(1)ないし(3)に鑑みると,控訴人5社以外のプラントメーカーが入札に参加したこと自体は当該工事に関する談合を推認することについて何ら妨げになるものではないというべきであること,(5)上記(1)ないし(4)の諸点からすると,P25及び控訴人P2の弁護士照会に対する回答も信用することができないこと,(6)控訴人5社以外の者が落札した工事の平均落札率に比べて,5社のいずれかが落札した工事の平均落札率の方が高いことは,控訴人5社ないしそのいずれかが控訴人P2などのアウトサイダーに5社のいずれかが受注できるよう協力を求めていたものと推認するのが相当であること,(7)各入札の落札率が著しく高率であること,(8)入札時期が5社間の基本合意に基づいて談合を行っていた時期であり,基本合意を無意味にするような事情は窺われないこと,(9)5社のほかアウトサイダー4社が指名業者として入札に参加したP30工場工事において,P31が控訴人5社及びP31以外のアウトサイダーと受注調整を行っていたことを窺わせる文書が存在すること,(10)談合の目的は受注機会の調整とともに本来の自由競争によって生じる受注価格の下落の防止をも目的としていることも一般的に認められるところであり,後者の目的を実現するためにストーカ炉受注を目指すアウトサイダーが受注調整に協力をすることも十分あり得ることからしても,アウトサイダーが参加していたからといって,不法行為の成立は十分に認められるというべきである。

(3)  損害について

ア 本件談合によって,控訴人P3は,その利益を最大にするため予定価格に極めて接近する金額で入札することが可能になったものと推認され,実際に落札率は99.17パーセントと著しく高い割合であったことから,本件落札価格のうち当該業者らの談合により不当につり上げられた分は,公正取引委員会の見解で平均値として示された16.5パーセントを著しく下回るものとは考えられず,同見解における売上額の8パーセント以上の不当利得が存するとされる約9割の事件に本件も含まれると推認されるから,落札価格106億0900万円の8パーセント相当額である8億4872万円であると推認すべきである。

イ 民訴法248条の適用について

控訴人らは,本件において安易に民訴法248条を適用すべきではないなどと主張するが,本件のような事案において民訴法248条を適用することは多数の裁判例でも採用されている実務上定着した見解であって,控訴人らの主張は実務からかけ離れた見解であって失当である。

ウ 課徴金の算定率等について

そもそも被控訴人らは,公正取引委員会の定めた課徴金額を基準に本件損害額を主張しているものではなく,公正取引委員会が実態調査したカルテル・談合事案における不当利得の推計値に基づいて主張しているものである。当調査の対象案件には種々のものがあることは確かであるが,だからといって同資料を本件損害額算定の参考資料から排除すべきとの控訴人らの主張には合理性はない。同調査結果において売上額の8パーセント以上の不当利得の存在する事案が全対象事案の9割を占めるという統計数字は極めて重い意味があるといわなければならない。

エ 控訴人P3が有利な立場にあったことについて

控訴人らは,本件工事が既設炉の増設工事であったために既設業者である控訴人P3が圧倒的に有利な立場に立っていたから,談合なく本件工事の入札が行われたとしても,同社が実際に行った入札額を下回る金額で入札が行われたとは認められないと主張するが,ゴミ処理施設のメーカーはいずれも,ゴミ処理施設の新築,更新,増設,補修,改築とについて豊富な知識と経験を有しており,増設工事であっても既設業者であるかどうかによって工事代金額に有意的な差異が生じるとはいえない。

控訴人らの上記主張は,これまでに出されていなかった苦し紛れの思いつき的な主張であり,採用すべきではない。

第3当裁判所の判断

1  談合の有無(基本合意の有無)

(1)  関係者の供述

本件における控訴人ら各社の関係者の供述内容は,以下に付加するほかは,原判決29頁9行目から33頁9行目のとおりであるから,これを引用する。

ア 原判決29頁15行目の次に以下のとおり付加する。

「同会合の出席者は,P13のほか,控訴人P3のP32,控訴人P6のP26,控訴人P4のP33及び控訴人P5のP34(平成3年くらいまではP35)であり,出席者は,発注が予定されている物件については大分前から情報をつかんでおり,どのような物件があるかについては出席者全員が共通の認識を持っていた。」

イ 同31頁20行目の末尾に以下のとおり付加する。

「なお,P8メモには,上記供述内容のほかに,ストーカ炉においては,控訴人5社がメンバー,P25と控訴人P2が準メンバーであり,P28,P31等は話合いの余地はある,控訴人5社のシェアは平等の20パーセントとし,20パーセントを維持する方法は,受注トン数を指名件数で除したもの(受注トン数/指名件数)であり,そのためには指名は数多く入った方がよい旨が記載されている。」

ウ 同32頁6行目の末尾に「なお,上記引継ぎの際に聞き取った内容をメモしたものが甲サ40である。」を付加する。

エ 同頁9行目の「被告5社」から11行目までを以下のとおり改める。

「同人は,平成元年4月,同社P10支社化学環境装置課(後に機械一課と名称変更。)に配属となり,官庁向けのゴミ焼却施設等の営業を担当しているが,同課に配属となった際,前任者から書面(甲サ37)を引き継いだ(P11引継ぎメモ)。同メモには,ゴミ焼却炉について,控訴人5社には受注調整のための協定があり,それにより受注機会を均等化(山積み)しており,極力控訴人5社のメンバーセットが必要である(他社介入の時は条件交渉を伴う)旨が記載されていた。また,同人は,」

オ 同32頁19行目の「P16(弁論の全趣旨)は,」の後に「平成10年6月から環境プラント本部本部長を務め,ゴミ焼却炉の営業の責任者であるが,」を付加する。

(2)  控訴人5社が行っていた会合について

後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,控訴人5社が地方公共団体にかかるストーカ炉の受注予定者を決めるためにあらかじめ発注予定の工事をリストアップし,その上で会合を開催し,受注希望表明を行っていたこと等がうかがわれる。

ア 平成8年12月9日の会合について(甲サ66,67,76)

控訴人P9のP13が所持していたノート(甲サ67)には,400トン未満の工事がリストアップされており,その横に「1順目は自由 12/9,2順目は自由,3巡目は200T/日未満」,「バッティングしたら12/18までに結着」との記載があり,控訴人P6環境第二営業部のスタッフが所持していた平成8年の手帳(甲サ76)には,前記P13の手帳(甲サ67)にリストアップされた工事の一部の記載があり,その下に「① 200t/日以上,② 200t/日未満」,「12/9 2件 ①,②双方から さらに1件 ②から 合計3件」との記載があることが認められる。

以上の各記載からすれば,控訴人5社は,平成8年12月9日に,中型工事と小型工事について,各社が中型工事及び小型工事から2件ずつ,さらに小型工事から1件の合計3件の受注希望について話し合うための会合を開催したことがうかがわれる。

また,前記P13のノートの少し前の頁(甲サ66)には,「大型確定」との記載の下に,400トン以上の工事のリストが記載されていることが認められ,同記載からは,平成8年12月以前に,400トン以上の工事について受注調整の対象とする工事のリストアップが行われていたことがうかがわれる。

イ 平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日の会合について(甲サ55,58,60,62,63,155)

控訴人P6の環境第二営業部のスタッフが所持していたノート(甲サ60)には,平成9年9月1日付けで,400トン以上,200トン以上,200トン未満に分けた工事のリストが4頁にわたって記載されており,その1頁目の上部に「全連小型(200t未満) 9/29 2~3件,大型 10/16 1件,中型 10/29 2件?」,「9/11 大・中・小 対象物件確定」との記載がある。また,上記同人が所持していたメモ(甲サ62)及び控訴人P6の営業担当者が所持していたメモ(甲サ63)には,いずれも「全連 200t未満 3件 9/29(月)」,「〃  200t以上~400t未満 2件 10/29(水)」,「〃400t以上 1件 10/16(木)」との記載がある。

さらに,控訴人P6の従業員が所持していた平成10年から平成12まで各年度と平成13年度以降に発注が見込まれる工事が記載されたリスト(甲サ155)があるところ,同リストに記載された工事は,上記控訴人P6のスタッフが所持していたメモとほぼ一致するほか,同リストの一番左側の欄には,アルファベットと数字を組み合わせたものが手書きで記載されている(なお,具体的な記載については,原判決23頁9行目から23行目のとおりであるから,これを引用する。)。また,控訴人P3環境事業本部営業本部副本部長が所持していた平成10年1月27日付けの工事のリスト(甲サ55)及び控訴人P6のスタッフが所持していた平成9年12月17日付けの工事のリスト(甲サ58)には,前記リスト(甲サ155)において,手書きで「○1」等と記載された工事は,いずれも記載されていないか,リストから抹消された跡がある。

以上の各記載からすれば,控訴人5社は,平成9年9月11日ころ,会合を開いて大型工事,中型工事及び小型工事についてリストアップを行い,受注調整の対象となる工事を確定させ,同月29日に小型工事について,同年10月16日に大型工事,同月29日に中型工事について会合を開いて受注希望について話し合うための会合を開催したことがうかがわれる。そして,同年9月29日の会合においては,前記控訴人P6の従業員が所持していた甲サ155のリストに記載された工事のうち,控訴人P9が,同メモに「○1」ないし「○3」と,控訴人P6が「○1」ないし「○3」と,控訴人P5が「○1」ないし「○3」と,控訴人P3が「○1」ないし「○3」と,控訴人P4が「○1」及び「○2」と記載された工事について受注希望を表明したことがうかがわれる。

ウ 平成10年1月30日の会合について(甲サ55,58,59)

前記控訴人P3環境事業本部営業本部副本部長が所持していた平成10年1月27日付けの工事のリスト(甲サ55)の表紙には,「中型の対象物件 送付します」,「1/30 ハリツケする予定です。」と記載されている。また,前記控訴人P6のスタッフが所持していた平成9年12月17日付けの工事のリスト(甲サ58)には,「1/20 対象物件見直し 400t以下」,「1/30 張付け」との記載があり,また控訴人P6の他のスタッフは,これとほぼ同様の工事のリスト(甲サ59)を所持していた。そして,甲サ55と同58,59のリストに記載された物件のうち,中型物件については,数件を除きほぼ一致している。

以上の各記載からすると,控訴人5社は,平成10年1月20日ころに中型工事についてリストアップを行い,受注調整の対象となる工事を確定させ,同月30日に会合を開いて受注希望について話し合ったことがうかがわれる。

エ 平成10年3月26日の会合について(甲サ54,56,73,96,102,103)

控訴人P6環境第1営業部長が所持していた平成10年の手帳(甲サ73)には,同年3月26日欄に「中小物件はりつけ」との記載がある。控訴人P9にあった文書(甲サ96)には「3/26日 秘 会合で中国5県の話は出なかった。引き続き営業強化宜しく。」との記載があり,同記載について,控訴人P9のP14は,本社の課長からいわれたことをメモしたものであり,「秘 会合」とは東京での業界の受注調整のための会合であると認識している旨供述している(甲サ102,103)。

また,これに先立つ同月24日付けで控訴人P3が社内で作成したリスト(甲サ56)が存在し,その後の同年9月14日付けの同社のリスト(甲サ54)では,幾つかの物件について二重線で削除されている。

以上の各記載からすると,控訴人5社は,平成10年3月26日,中型工事及び小型工事について受注調整の話合いを行ったことがうかがわれる。

オ 平成10年9月14日の会合について(甲サ33,68,104,139,143,150)

控訴人P6,同P4,同P3及び同P9の各担当者は,平成10年9月14日に控訴人5社の担当者の会合が行われた旨供述しているところ(甲サ33,104,139,143),控訴人P3の環境事業本部P36営業部長が所持していた平成10年の手帳(甲サ150)の9月14日欄には「(東)リストアップ」との,控訴人P9の従業員が所持していたノート(甲サ68)には,「小 リストアップ 9/14 13:30~」との記載があることからすると,控訴人5社は,平成10年9月14日に,小型工事について受注調整の対象工事のリストアップを行う会合を行っていたことがうかがわれる。

(3)  受注調整の結果を記載したリストについて

また,控訴人5社においては,受注調整の結果を記載したと思われるリストが存在している。

ア P12リスト(甲サ89)について

P12リストは,控訴人P5の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部のP12が所持していた「年度別受注予想 H07.09.28」と題する書面であり(甲サ89),平成7年9月28日時点において,平成8年度から11年度までの各年度及び平成12年度以降に建設工事として発注が見込まれる工事を記載したものであり,同リストのうち「-S」と記載されている工事は,ストーカ炉として発注が見込まれている工事であると推測される。そして,同表の一番上には,「○」,「○」,「○」,「○」,「○」という,順に控訴人P5,同P9,同P3,同P6,同P4を示す記号があり,控訴人5社に各工事が割り付けられたような記載がされている。

そして,これを実際の発注状況(甲サ29)と比較すると,平成8年度に発注された工事15件のうち12件が記載されており,このうち控訴人P2が落札した2件を除く10件については,同表に記載された控訴人5社の該当者が落札している(なお,本件工事も同リストに記載されており,該当者は控訴人P3である。)。また,平成9年度発注された工事21件のうち同表には9件が記載されており,このうち控訴人P2が落札した1件及び控訴人P3が落札した1件を除く7件については,同表に記載された控訴人5社の該当者が落札している。さらに,平成10年度に発注された工事7件のうち同表には1件が記載されており,この1件については同表に記載された該当者が落札している。なお,同表に記載されたその余の工事名の工事については,平成10年度までには発注されていない。

イ その後のリスト(甲サ55,58,59,62,63,155)について

また,前記(2)イ,ウでも述べたとおり,平成9年9月ないし10月の会合のために使用されたと推測されるリスト(甲サ62,63,155)に記載された工事はほぼ一致しており,平成10年1月30日の会合で使用されたと推測されるリスト(甲サ55,58,59)はそれぞれリストに記載された工事がほぼ一致しているが,甲サ155で受注希望が表明されたと推測される工事は,甲サ55,58,59には記載がなく,また,P12リストに記載された工事は,上記いずれのリストにも記載されていない。

ウ 小括

以上からすると,控訴人5社は,発注予定のストーカ炉の工事をリスト化して情報を共有し,受注調整が終わったものについては,リストから除外している事実が推測され,したがって,P12リストは単なる受注予想のみを記載したものではなく,ストーカ炉については,受注調整の結果を記載したものであると認められる。

(4)  控訴人5社が受注調整の結果を数値化して把握していたことについて

控訴人5社は,受注に関して1日当たりの処理トン数を加算した数値を利用した数値を算出していたことがうかがわれる。この点については,以下に付加するほかは,原判決27頁16行目から29頁7行目に説示のとおりであるからこれを引用する。

ア 同28頁4行目の末尾に以下のとおり付加する。

「なお,同ノートの記載からは,JV工事については,基本トン数に0.7を乗じるという算定方法が採用されていたことを推認することができる。」

イ 同29頁7行目の次に改行の上,以下のとおり付加する。

「なお,公正取引委員会において,甲サ107の作成された平成7年12月1日から甲サ106の2枚目の作成された平成10年6月10日までの間に指名競争入札が行われた工事のうち,控訴人5社,控訴人P2及びP25の全部ないしいずれかが入札に参加した上,同7社のうち1社が落札した物件を抽出した上で,そのうちから落札率が90%未満の工事を受注調整が行われなかったフリー物件として除外し,対象となる28件の工事(本件工事を含む。)について,指名を受けた業者について1日当たりの処理トン数を分子加算し(ただし,JV工事及び土建分離工事については7掛け,入替え工事については5掛けをする。),指名に入った会社には同数を分母にそれぞれ甲サ107の1枚目の数値に加えると,甲サ106の2枚目の数値と一致したことが認められる(甲審A5,甲ア24)。」

(5)  受注予定者が受注するための行為について

また,控訴人5社が受注予定者が受注するための行為をした事実もうかがわれる。

ア 控訴人P6の環境エンジニアリング本部環境第二営業部長が所持していたメモ(甲サ124)には以下のとおりの記載がある。

file_2.jpg10) @ 62. 5f& (6 1 fi) O 65 BELO 7OOOBMEIE O 67 ” 40005M51& Oo 69 ” 30008M& O + » 50005Mseそして,上記記載中,①に記載された数字は,甲サ29によると,平成10年8月31日に指名競争入札が行われたP37工事における控訴人5社の第1回目の入札金額と一致しており(控訴人P6の入札金額を除く。),控訴人P6が62億円で落札していることが認められることからすれば,上記工事の入札に当たって,受注予定者である控訴人P6があらかじめ入札価格を決定し,これを他の4社に連絡し,他の4社はあらかじめ連絡をされた価格で入札したものと認められる。

イ また,控訴人P5の機械・環境・エネルギー事業本部環境装置営業本部東部営業部参事が所持していた平成7年5月2日付けメモ(甲サ125)には,入札価格の検討過程が示されており,その4枚目には以下のとおりの記載がある。

○ ①6,220,000,000 ②6,150,000,000 ③6,050,000,000

○ ①6,460,000,000 ②6,190,000,000 ③6,100,000,000

○ ①6,310,000,000 ②6,195,000,000 ③6,105,000,000

○ ①6,600,000,000 ②6,200,000,000 ③6,125,000,000

○ ①6,690,000,000 ②6,215,000,000 ③6,140,000,000

そして,上記数字は,甲サ29によると,平成7年5月9日に指名競争入札が行われたP38の工事の入札参加者である控訴人5社の入札価格と一致し,3回目の入札で控訴人P5が落札していることが認められることからすれば,上記工事の入札に当たって,受注予定者である控訴人P5があらかじめ入札価格を決定し,これを他の4社に連絡し,他の4社はあらかじめ連絡をされた価格で入札したものと認められる。

(6)  アウトサイダーに対する協力要請について

控訴人5社以外のいわゆるアウトサイダーが指名された場合に,自社が受注できるようにアウトサイダーに協力を依頼した事実もうかがわれる。

ア P31のエンジニアリング事業本部のスタッフが所持していた平成9年7月1日付けのメモ(甲サ109)には,「P39の件」として,「ここまでは業界,歩調できたが,これからどうするか」,「見積もり段階の時は協調するが,本番→フリー方向」,「結果的シバリあった場合・・・最終的には従うかもしれないがP40ではgoingしたいと言っている」,「次回,P3に対して(中略),他物件に対して言いやすい」という記載がある。

上記記載のP39の件とは,平成9年8月8日に指名競争入札が行われ,控訴人P3が落札し,その後随意契約に変更されたP30工場のことであると推測され,同入札の見積書提出に当たって,P31が,他社と協調するか,フリーで入札するかを検討し,仮に協調した場合でも,次回控訴人P3に対して他物件について要請がしやすいことなどを検討していたことがうかがわれ,同事実からは,上記工事に関し,受注予定者であった控訴人P3から受注の協力要請を受けていたことがうかがわれる。

イ また,P23工場の入札に関して,控訴人5社のほかに,控訴人P2,P25,P28及びP27の合計9社で話合いが行われた経緯については,原判決26頁23行目から27頁14行目に説示のとおりであるから,これを引用する。ただし,同26頁23行目の「111」の次に,「112,114ないし118」を付加する。

(7)  その他のメモについて

そのほかにも,個別の工事について控訴人5社の間で受注予定者を決めていたことをうかがわせるメモ(甲サ84,85,128,134,135,137,138)が多数存在する。

(8)  落札率について

平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事は87件のうち予定価格が判明しているのは84件であるが,そのうち,控訴人5社のうちいずれかが受注した工事63件の平均落札率は,96.6パーセントであり,控訴人5社以外が落札した工事21件の平均落札率は89.8パーセントであった(甲サ29,146)。

(9)  小括

以上のとおり,控訴人5社の関係者の供述は,控訴人5社において,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事について,受注調整を行っていたという点で一致しており,中でもP13供述とP8供述については,控訴人5社において,受注調整のための会議を開催し,ゴミの処理能力に応じて工事を区分し,各区分に応じて受注調整を行って受注予定者を決定し,同受注予定者をチャンピオンと呼んで,チャンピオンが受注できるように協力するという談合の主要部分について概ね符合している。

また,前記(2)以下で説示したとおり,控訴人5社があらかじめ地方公共団体が発注するストーカ炉の工事をリストアップした上で会合を開催し,受注希望の話合いを行っていたことがうかがわれ,受注調整の結果を記載したとうかがわれるリストが存在し,控訴人5社が受注調整の結果を数値として把握していたことがうかがわれるばかりでなく,実際に入札金額を各社に通知するなど受注調整の結果を実現するためにされた行為までもをうかがわせる証拠があることなど上記供述を裏付ける多数の客観的証拠があることからすれば,上記供述の主要部分には十分な信用性があるというべきである。

そして,上記供述に,前記(2)以下に説示したところを総合考慮すると,控訴人5社においては,遅くとも平成6年4月以降,地方公共団体が発注するストーカ炉の建設工事について,これをストーカ炉の規模に応じて大型・中型・小型に3区分し,控訴人5社の会合において,同区分に応じて受注希望を表明し,それが1社であれば当該プラントメーカが受注予定者となり,2社以上ある場合には話合い等により受注予定者を決定し,受注予定者は積算価格等を他の4社に連絡することにより受注予定者が受注できるように協力を行い,控訴人5社以外のプラントメーカーが指名業者に入った場合には,受注予定者が当該プラントメーカーと話し合う等の基本合意が成立したと認められる。

(10)  控訴人らの主張に対する判断

これに対し,控訴人らは,上記各供述には信用性がなく,各種メモ等も基本合意を裏付けるものではないと主張するので,以下検討する。

ア 関係者の供述について

(ア) P13供述について

控訴人らがP13供述の信用性を否定する根拠は,これをまとめると①P13供述は,極めて抽象的であり,一般的な談合について知っている者であれば誰でも供述できるような内容であるところ,P13供述の録取経過には問題があり,審査官の予断によって誘導されたものである,②課長就任時期という客観的事実について誤りがある,③受注調整の基準について客観的事実と合致しない,④P13には決裁権がなく受注調整をなしえない,⑤その後P13は基本合意を一貫して否認しているというところにある。

しかしながら,そもそもP13供述は,控訴人P9に対する独占禁止法違反の疑いによる立入検査の初日である平成10年9月17日に録取されたものであるから,いまだ記憶が鮮明で他者からの働きかけがない時期に録取されたものである上,審査官も,本件基本合意について証拠関係を十分に把握しないで録取したものと推測されることからすると,審査官による誘導の可能性は低いというべきである。また,本件全証拠によっても,P13からの事情聴取の過程において,審査官が同人に対し,大声を上げたり,有形力を行使した事実は認められない。さらに,控訴人P6の環境エンジニアリング本部環境第1営業部第1営業室長が所持していたメモ(甲サ36,80)は,上記立入検査初日に行われたP13の事情聴取の際に同人が話した内容のメモであると認められるところ,その内容は,P13供述と概ね一致していることからすると,P13供述が審査官の誘導によるものであるとは到底認められない。

P13供述(甲サ28)においては,同人が課長に就任した平成6年4月以降控訴人5社の会議に出席するようになったと記載され,同事実は,客観的事実に反するが,同供述調書には平成8年4月に課長に就任した旨も記載されているから,平成6年とするのは単なる誤記というべきであるし,仮に同記載に客観的誤りがあったからといって,記憶違いや単なる審査官のタイプミスの可能性も否定できないのであって,そのことをもってP13供述全部の信用性を否定する控訴人らの主張は,失当というほかはない。

P13供述においては,各社が受注したプラントのゴミ処理能力の合計が平等になるように決めるという方法で受注調整が行われているとされており,同供述は,前記(4)で述べたような数値化とは異なっていることが認められるものの,前記(4)で述べたような数値化においても,受注予定となったプラントの処理能力の合計が考慮されていることからすれば,上記供述内容があながち誤りとまではいえないし,前記のとおり,上記供述は,立入検査の当日に審査官が証拠関係を十分に把握しないで録取したものであることからすると,概括的で幾分不正確な部分があることはむしろ当然ともいうべきであって,上記の点をもって,P13供述の信用性を否定することはできない。

また,控訴人らの主張するとおり,P13には大型のプラント受注については決裁権限を有していなかったことが認められるが(乙共審C13の1ないし3)が,会社組織においては,決裁権限を有するものが実際に行為をするものとは限らず,むしろ決裁権者の授権をうけた部下が実際行為をすることが多いというべきであるから,P13が事前に上司の決裁ないし授権を経た上で受注調整の会議に参加することは十分可能というべきであり,上記の点をもって,P13供述の信用性を否定することはできない。

一方,P13は,P13供述録取の後は,一貫して受注調整の事実を否認しているものの(甲サ165ないし173,182ないし189),覚えていないとの供述を繰り返すのみであって到底信用することはできない。

以上のとおり,P13供述の信用性がないとする控訴人らの主張にはいずれも根拠がなく,かえって,前記のとおりP13供述は,記憶が新鮮で他者からの働きかけがない状態でされたものであること,他の供述及び客観的証拠とも符合する部分が多数あることからすると,その中核部分についての信用性は十分に認められるというべきである。

(イ) P8供述及びP8メモについて

控訴人らが,P8供述及びP8メモの信用性を否定する根拠は,これをまとめると①供述録取の過程に問題がある,②飲み屋で聞いた話にすぎない,③伝聞ないし再伝聞にすぎない,④P13供述と矛盾しているという点にある。

しかしながら,そもそも同供述は,同人が所持していたメモについての説明であるし,同供述録取の過程において,審査官がP8に対し,有形力を行使したり,誘導を行った事実を認めるに足りる証拠はない。

そして,同人が話を聞き取った相手は,控訴人P6本社の営業第2部長であって,控訴人5社の出席者ではないものの,受注調整に関わる情報を十分に入手できる立場にあったものと推測され,P8自身も控訴人P6のP7支社の機械プラント部環境プラント営業室長の地位にあったことからすれば,それがたとえ伝聞であったとしても,同情報が全く信用できないものとは到底いえない。また,控訴人らは,話を聞いた場所が飲み屋であったことを問題とするようであるが,この点につき,同人は,社内でも秘密に属することであることから勤務時間外に飲み屋で一杯やりながら聞いたと述べているところ,同供述に不自然な点はなく,この点をもって信用性を否定することはできない。

また,同供述は,受注調整の方法,対象物件の区分及びアウトサイダーが入った場合の扱いについてP13供述とは異なっている。しかしながら,両者の供述(ないしメモ)は,本件基本合意の枢要部分については合致しているし,アウトサイダーが入った場合についても,アウトサイダーとの話合いが付かなければ,いわゆる「たたき合い」になることは同様であって,矛盾しているとはいえない。また受注調整の方法や対象物件の区分についても,矛盾するといえるまでの食い違いがあるとまではいえないというべきであって,この点に関する食い違いが,両者の供述ないしメモの信用性を否定する事情とまではいえない。

(ウ) P11供述,P14供述及びP16供述について

控訴人らは,上記各供述について,伝聞ないし再伝聞であり,信用性に乏しいと主張する。

しかしながら,上記各人は,控訴人ら社内において,ゴミ焼却施設の営業についてそれなりの職制上の地位にあったものであるから,仮に伝聞ないし再伝聞であったとしても,その信用性を一概に否定することはできないというべきである。

イ P12リストについて

控訴人らは,P12リスト(甲サ89)は,表題どおり年度別の受注予想にすぎないと主張するので検討する。

まず,控訴人らは,談合の事実がなくても,予算金額や入札参加業者について情報を入手できれば,落札者及び落札金額を想定することは不可能ではないし,また,同リストに記載されているすべての工事と実際の入札結果を比較すればその的中率は4割程度であることを根拠として主張する。

しかしながら,控訴人らがその予想が一致しないとする物件はすべて平成10年度以降に発注されたものであることからすると,リスト作成時である平成7年9月28日の時点では受注予定者が決定されていなかった可能性があり,そうであれば,その予想の的中率が低いことは何ら不自然とはいえない。むしろ,作成時の直近である平成8年度から平成10年度にかけて発注された工事についての受注予想の的中率が,むしろその後に発注された工事の受注予想のそれに比して著しく高い点を考慮すれば(控訴人らの主張によれば,その後の工事についても的中率が高くなるはずである。),少なくとも上記リストのうち,前記22件の工事に関しては,受注調整の結果を記載したものであることが強く推認されるというべきである。

また,控訴人4社及び控訴人P9は,同リスト記載の大阪市の3件の工事(「P40-P41」,「P40-P42」,「P40-P43」)については,将来にわたって受注調整が不可能な技術提案審査方式による発注が見込まれていたものであり,このような工事名が記載されていること自体,同リストが受注調整の結果を記載したものではないことを示しているなどと主張する。

この点,上記3工事は,技術提案審査方式による発注が見込まれていたことが認められるものの(甲サ141,甲審A14の1ないし7,15の1ないし5),これらの工事が記載されているからといって,直ちに同リスト中控訴人らの略称を付した工事がすべてが単なる受注予想にすぎないとまではいえないから,前記認定を左右するものではない。

ウ 控訴人5社の会合について

控訴人らは,ストーカ炉の担当者は正常な業務活動の一環として会合を持つことがあるから,単に控訴人5社会合が開催されたからといって談合の事実が推認されるわけではないと主張する。しかしながら,前記認定のとおり,平成8年12月9日,平成9年9月29日,同年10月16日,同月29日,平成10年1月30日,同年3月26日及び同年9月14日の会合は,単なる会合ではなく,各会合前に発注予定の工事をリストアップし,その上で各社が受注希望を表明したこと等が認められる会議であるから,到底正常の業務活動の一環としての会合とは認められないというべきであり,控訴人らの上記主張は理由がない。

エ その他のリストについて

控訴人らは甲サ155が平成9年9月ころに作成された証拠はないから,その後に作成された甲サ55に,甲サ155で控訴人5社の略称が付された工事が消えているなどということはできないとか,P12リスト(甲サ89)に記載された工事でも,その後に作成されたリスト(甲サ50,51,123)には,記載されているとして,受注調整が行われた工事がリストから削除された事実はないなどと主張する。

しかしながら,甲サ155は,平成10年以降に発注が予想される工事が記載され,見積欄に記載されている年月は平成9年9月が最後であること,前記のとおり平成9年9月29日,同年10月16日及び同月29日に受注調整の会合が行われたと認められることからすると,同リストは平成9年9月ころに作成されたと推測することは合理的である。また,控訴人らの主張する上記各リストは,いずれも控訴人ら各社が全社的にゴミ処理施設の建設計画等をとりまとめた営業用の資料であると認められるから(甲サ24,53,179),これらの資料について受注調整を前提としない記載があったからといって何ら不自然ではない。また,そもそも,受注調整を行っているという事実は,会社内部であってもこれが公にされているはずがないのが通常であるから,受注調整が行われていない前提の資料が存在することもまた当然であって,そのような資料の存在があるからといって前記基本合意の存在を否定する決定的な根拠となるものではないというべきである。前記のとおり,受注調整を前提とする資料が多数存在していることからすれば,控訴人らの主張する諸点を考慮しても,前記認定を覆すに足りない。

オ 数値化(甲サ106,107)について

まず,控訴人らは,甲サ106ないし107における指数の計算方法が,P13供述及びP8メモと異なっている点を指摘する。しかしながら,前記のとおりP13供述は,立入検査当日という審査官が証拠関係を把握する前に録取されたものであるから,幾分不正確なところもあって当然であるし,またP8メモは,受注トン数を「指名件数」で除すると記載されているが,上記記載は上記各メモの記載からすると「指名トン数」の誤記であると認められるが,そうであるからといってP8メモあるいは上記各メモの信用性が完全に否定されるものではない。

また,控訴人らは,甲サ107には談合が行われたとは考えにくい工事が記載されているから,受注調整の結果を数値化して把握していたことの根拠とならない等と主張する。確かに,控訴人らの主張するとおり,甲サ107には受注調整が行われたとは考えにくい工事も記載されているから,同表に記載の工事であるからといって直ちに受注調整が行われたと認められるものではないし,上記各メモをもって直ちに本件基本合意が認められるものではない。しかしながら,前記のとおり,基本合意を裏付ける多数の証拠があること,仮に上記各メモが受注調整の結果を数値化して把握するためのものでないのであれば,各作成者の所属先である控訴人P6ないし控訴人P9から上記各メモの作成目的について具体的な主張がされて当然であるのに,そのような主張がないことを弁論の全趣旨で考慮すれば,上記各メモは,受注調整の結果を把握するために作成されたものと認められるというべきである。

カ その他のメモ(甲サ111,128,134,137)について

なお,控訴人らは,上記各メモについて,作成の経緯が明らかではないなどと主張するが,いずれも揚げ足取りの域を出ないというべきであり,失当である。

2  談合の有無(個別談合の有無)

(1)  前記1で認定のとおり,控訴人5社は,ストーカ炉建設工事について,上記の基本合意をしていたことが認められること,P12リスト(甲サ89)には,平成8年度の控訴人P3のストーカ炉の欄に「尼崎」,「150」との記載があり,その所在地及び1日当たりの処理トン数からして本件工事を指すものと推測されること,同リストの記載のとおり,本件工事の指名競争入札においては,控訴人P3を構成員とするJVが落札していること,本件工事の入札者は,基本合意の当事者である控訴人5社のほかは,控訴人P2を構成員とするJVのみであるところ,前記P8供述によれば,控訴人P2は,本件基本合意の「準メンバー」であり,話合いの余地があるとされていること,控訴人5社は,入札結果を数値化して把握していたと推測されるところ,前記1(4)イのとおり,公正取引委員会が,平成7年12月1日から平成10年6月までに談合が行われたと推測される工事について上記数値化のルールに従って計算した結果が甲サ106の2枚目と一致したところ,上記談合が行われたと推測される工事には本件工事が含まれていること,本件工事の落札率が99.17パーセントと極めて高いことに加え,特に本件のみが基本合意の対象外とされた事情が認められないことからすれば,本件工事についても,本件入札までに控訴人P3を受注予定者とする個別談合が行われ,これに控訴人P2も協力することによって,控訴人P3を構成員とするJVが本件工事を受注したものと認められる。

(2)  控訴人らの主張に対する判断

ア P12リストについて

控訴人らは,P12リストについて,そもそも受注調整の結果を記載したものではないと主張するが,同主張に理由がないことは前記1(10)イに説示のとおりである。

また,控訴人4社は,仮にP12リストが受注調整の結果を示すものであるとしても,平成7年ころの市発注のゴミ処理施設の整備計画としては,本件工事のほかに「P17工場」も計画されていた以上,同リストにおける「尼崎」が,本件工事を意味するかは断定することができないとも主張する。

しかしながら,上記「P17工場」工事は,処理能力としては1日当たり480トンを予定していたものと認められる(甲ア25)ことからすると,「尼崎」,「150」との記載は,本件工事を意味することは明らかであり,控訴人らの同主張は理由がない。

イ 落札率について

控訴人らは,落札率は入札予定価格の設定の仕方によって上下する相対的な数字であり,かつ,入札予定価格は事前に明らかではないから,個別談合の根拠とはなり得ない旨主張する。

確かに,落札率は,入札者には不明な入札予定価格に対する落札価格の比率にすぎないから,これが高率であることをもって直ちに談合が行われた根拠とすることはできない。しかしながら,落札札率が高率であることは,それが低率である場合に比して,入札価格が高額であることを意味するところ,談合が行われた場合には,正当な入札が行われた場合に比して入札価格(落札価格)が高額になることは経験則上明らかであるから,入札率が高率であることは,個別談合が行われたこととは矛盾しない。また,入札予定価格が不明であるといっても,これをある程度の幅を持って推定することは十分可能であることからすると,落札率が高率であることは,そのことを殊更重視することはできないとしても,個別談合が行われた根拠となりうるというべきであり,控訴人らの上記主張は失当である。

ウ 発注方法の特殊性について

控訴人4社及び控訴人P6らは,本件工事は,控訴人ら各社が単独で入札したものではなく,ゼネコン2社とのJVで発注であったものであったところ,JVでの入札の場合にはプラントメーカーが単独でJV全体の応札価格を決めることはできないから,談合を行うことは不可能であると主張し,証人P18及び同P19もこれに沿う証言をする。

確かに,証拠(乙A23,24)によれば,本件入札において,ゼネコン2社とのJVによることが条件とされたのは,入札のわずか1か月余り前の平成8年6月27日であり,控訴人P3がJVを結成して市に申請したのは同年7月4日になってからであることが認められることからすると,控訴人らが,JVの構成員であるゼネコン2社をも巻き込んで談合を行ったとは考えにくいといわなければならない。

一方,証拠(乙A32)によれば,控訴人P3が想定していた最低入札価格100億円のうち,ゼネコン2社の建設工事価格は21億5000万円であって,全体の2割強にすぎないことが認められることからすると,控訴人P3のみの意図によって入札価格を上下させることも十分可能であるというべきであり,また,前記1(4)のとおり,控訴人らは,受注調整の結果を数値化して把握する際に,JVの場合には1日の処理トン数に0.7を乗じていたことが推測されることからすると,JVによる入札であったということのみで談合の事実を否定することはできない。さらに,証拠(乙A32,証人P19)によれば,控訴人P3においては,ゼネコン2社の建設工事の価格を21億5000万円とした上で,入札価格を100億円から105億円の間で決定することで決裁がされていることからすると,最終的な入札価格の決定は控訴人P3にゆだねられていると推測されることからすれば,本件工事において,JVによる入札が行われていたことをもって個別談合を否定する根拠とはならないというべきである。

よって,上記控訴人らの主張は,前記認定を左右するには至らない。

エ アウトサイダーの協力について

控訴人らは,仮に基本合意が認められても,本件工事において個別談合が認められるためには,アウトサイダーである控訴人P2の協力が認められることが必要不可欠であるところ,控訴人P2は,弁護士法23条の2に基づく照会の回答において,同事実を否定しているし,控訴人P2の担当者である証人P18も談合を否定していると主張する。

しかしながら,前記認定のとおり,控訴人P2は,本件基本合意における「準メンバー」であって,基本合意によって決定された受注予定者が落札者となるように協力していたことがうかがわれるから,控訴人P2の弁護士法23条の2に基づく照会に対する回答は,にわかに信用することができない。また,証人P18も,本件入札に当たって控訴人P3から働きかけがなかった旨証言しているところ,同人は,平成7年4月に控訴人P2に入社したばかりで,本件入札当時でも2年目の新人に過ぎず,本件工事の営業を担当したのも勉強を兼ねていたというのであり,実際の入札価格の決定についても,課長と部長が相談して決めていたということ以外には分からないと述べていることからすると,控訴人P3が控訴人P2に働きかけを行った事実を聞かされていなかったにすぎない可能性が高いというべきである。

したがって,控訴人らの主張は,前記認定を左右するに至らない。

オ 談合と矛盾する競合他社の行動について

控訴人4社は,控訴人P2が本件工事の受注を目指して4回にわたりコストをかけて見積書を作成して提出するなど熱心な営業活動をしているが,同事実は,控訴人5社の談合に協力していたこととは矛盾すると主張し,乙A39によれば,控訴人P2は,本件工事に関し,平成8年2月から4回にわたり,本件工事の見積書を市に提出していることが認められる。

しかしながら,そもそも前記認定のとおり,本件基本合意においては,指名業者に控訴人5社以外の者が指名された場合に,同業者に対して受注予定者が協力要請を行うのであるから,控訴人P2が指名前に見積書作成等の営業活動を行っていたからといって,そのことが個別談合と矛盾するものではない。また,指名を受けた以上は,市の要請に応じて見積書を提出するのは,また当然のことであって,このことは個別談合に控訴人P2が後に協力したとしても同様であるから,結局,控訴人P2が,本件工事受注のために見積書の提出等の営業活動を行っていたという事実は,本件入札において個別談合が行われていたことと何ら矛盾しないというべきである。

したがって,控訴人4社の上記主張は,前記認定を左右するに至らない。

カ P3の受注過程について

控訴人4社は,控訴人P3は原価低減の努力を尽くした上,同控訴人において,後記既設炉施工実績から有利な状況にあることに鑑み,JVのパートナーであるP20と協議の上,100億円から105億5000万円の範囲で入札に望むとの決裁を取ったにもかかわらず,103億円で入札していることからすると,個別談合の事実は認められないと主張する。

しかしながら,原価低減の努力を尽くして見積価格を算定することは,入札予定価格がある以上は談合行為の有無にかかわらず当然であり,そのことが個別談合を否定する根拠となるものではない。また,控訴人4社主張のとおり,乙A32によれば,決裁額の上限より低い金額で入札した事実が認められるものの,そのことは,単に入札予定価格を105億5000万円より低く予想した結果にすぎない可能性もあり,事実,105億5000万円では,本件入札の予定入札価格を上回っていたことが認められることからすると,個別談合の事実と矛盾するとはいえない。

一方,証拠(甲3の1ないし3,乙A21ないし32,37,証人P19,証人P18)及び弁論の全趣旨によれば,本件工事の内容は,①処理能力150トン/24時間の焼却炉を既設の第1機械炉と第2機械炉との間に建設(既設第2機械炉に増設)する工場棟建設工事,②P44工場内の既設第1機械炉,第2機械炉,増設する第2機械炉増設炉の各排水と局庁舎,し尿基地等の生活系排水を処理のあと公共水域に放流するための設備を建設する排水処理棟建設工事,③今回の増設により契約電力が2000Kwを超えることに伴い受変電設備を増強する特高受電棟建設工事,④ボイラー式発電設備を新たに追加し,その機能を拡充する余熱利用棟拡幅工事であったこと,このうち,①の工場棟建設工事は,上記のとおり,既設第2機械炉の1号炉に増設する工事であり,既設炉と増設炉で共有する設備や調整といった工事が多数含まれていたところ,同既設炉は,平成2年2月に控訴人P3が施工したものであり,定修工事等のアフターサービスも控訴人P3が請け負っていたこと,そのため,既設炉のメーカではない控訴人P3を除く控訴人らにとっては,発注仕様書や図面だけからでは読み取れない既設炉の稼働上の特性や増設炉に影響しうる問題点の有無,経年劣化による既設炉の能力低下の有無やその程度等の事情について,入札までの限られた時間では十分に把握することができず,そのようなブラックボックスに対処するためのリスク費を多く見ざるを得ないという側面があり,本件工事の入札においては,控訴人P3がある程度有利な立場にあったことがうかがわれ,これに反する証拠はない。

しかしながら,控訴人4社の主張するところの既設炉と増設炉で共有する設備や調整といった工事の本件工事全体に対する割合は控訴人らの主張自体からも必ずしも明らかではなく,前記争いのない事実等記載のとおり控訴人5社は,ストーカ炉の建設について高い技術を有していることからすると,これに対するリスク費についてもその程度はさほど高いとはいえないこと(現に,控訴人らの入札価格の差は最小2パーセント,最大7パーセント前後であるから,リスク費を20パーセント見る必要があるとの証人P19の証言は採用することができない。),結局本件工事については,随意契約ではなく,指名競争入札が行われていることからすれば,控訴人P3が圧倒的に有利であったとまでいうことはできない。

そして,控訴人P3が,上記のような有利な立場であることを考慮しても,本件入札において,通常より高い15パーセントの益率で入札価格を決定した経過からすれば(乙A32,証人P19),むしろ個別談合によって受注予定者とされていたからこそ強気の益率で入札価格を決定したと見ることも可能であり,結局,上記事実も,前記認定を左右するには至らないというべきである。

(3)  小括

以上によれば,控訴人5社は,本件工事について,本件基本合意に基づき,受注予定者を控訴人P3と決定し,これに控訴人P2が協力することによって控訴人P3を構成員とするJVが本件工事が落札できるように互いの入札価格を調整し,その結果,控訴人P3を構成員とするJVが本件工事を受注したものと認められる。

3  損害の発生及び損害額について

(1)  損害の発生について

ア 上記2で説示したところによると,市は,控訴人5社が談合行為を行い,控訴人P2がこれに協力したことによって,入札参加者の自由競争によって形成されたであろう想定落札価格に基づく契約金額と実際の契約金額との差額分の損害を受けたと認められる。

イ 受注調整の目的について

この点,控訴人4社は,別件審決手続で認定された受注調整の目的は,「受注価格の低落」の防止を図るものではなく,「受注機会の均等化を図る」ものであるから,仮に談合が認められたとしても,損害の発生が所与のものであるとはいえないと主張する。

しかしながら,仮に本件基本合意及び個別談合の目的が受注機会の均等化を図るものであったとしても,受注予定者は,他の指名業者の動向を考慮する必要がなく,自らの利益を最大にするべく落札予定価格になるべく近い入札価格を設定することが可能となるというべきであり,前記のとおり,本件においても,控訴人P3は,自己が有利な立場にあることを考慮に入れたとしても,利益率を通常より高い15パーセントに設定して入札価格を設定したものであることからすると,本件談合によって,市に対し,健全な自由競争によって形成される想定落札価格より不当に高額な代金で本件工事の請負契約を締結させたというべきである。

ウ 控訴人P3が有利な立場であったことについて

また,控訴人4社及び控訴人P6は,本件入札において控訴人P3が圧倒的に有利な立場であったものであるから,談合なく本件入札が行われたとしても,控訴人P3の実際の入札金額を下回る金額で入札が行われたとはいえないと主張する。

しかしながら,前記のとおり,本件入札においてP3を構成員とするJVが有利な立場にあったことが認められるものの,控訴人らが主張するような圧倒的に有利な立場にあり,他の指名業者の動向を全く考慮する必要がなかったなどとは到底認められない。

したがって,上記事情は,後記のとおり損害額算定の一事情として考慮することができるにとどまるというべきである。

エ 小括

以上によれば,控訴人らは,上記2に認定の受注調整行為により,市に対し,想定落札価格と実際の契約金額の差額分の損害を与えたものであるから,同行為は共同不法行為を構成し,上記差額分の損害を賠償する義務を負う。

(2)  損害額について

ア 本件における想定落札価格は,現実には存在しなかった価格であり,しかも,同価格は,入札当時の経済情勢,入札参加者の数・事業規模・価格競争力・受注意欲等,当該工事の規模・種類・特殊性,地域特性等種々の価格形成要因が複雑に絡み合って決定されるため,上記差額分の損害は,その性質上その額を立証することは極めて困難であるといわざるを得ない。

したがって,当裁判所は,民訴法248条に基づき,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することとする。

イ ところで,被控訴人らは,平成18年1月4日に施行された独占禁止法における課徴金算定率が10パーセントとされているのは,公正取引委員会が過去の違反事例について実証的に不当利得を推計したところ,平均16.5パーセントであり,9割の事件において8パーセント以上の不当利得が存在するという結果が得られたこと(甲18)によるものであるとして,本件入札金額の8パーセントが損害であると主張する。

しかしながら,上記公正取引委員会の調査の対象とした工事等の内容は,本件全証拠によっても全く不明である。かえって,前記認定のとおり,平成6年4月1日から平成10年9月17日までの間に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉の建設工事のうち,控訴人5社のうちいずれかが受注した工事63件の平均落札率は,96.6パーセントであるのに対し,控訴人5社以外が落札した工事21件の平均落札率は89.8パーセントであり,その差は6.8パーセントにすぎないこと,甲ア25によれば,上記期間後に地方公共団体が指名競争入札等の方法により発注したストーカ炉48件の落札率の平均は91.9パーセントであり,そのうち控訴人5社が落札した31件の落札率は90.1パーセントであり,6.5パーセントの低下にとどまっていることが認められることからすれば,控訴人らの主張する公正取引委員会の調査数値をそのままに用いることはできない。

一方,本件入札においては,前記認定のとおり,控訴人P3が有利な立場にあったことが認められるから,仮に受注調整が行われていなかったとしても,その他のストーカ炉の入札ほどには想定落札価格が低下しなかったと推測することができる。なお,この点について,被控訴人らは,控訴人らの主張が苦し紛れの思いつきであると主張するのみであり,これに対する具体的な主張立証をしないから,このような被控訴人らの訴訟態度を弁論の全趣旨として考慮せざるを得ない。

さらに,本件については,前記認定のとおり,控訴人P3のほかにゼネコン2社によるJVでの入札であるところ,JV構成員であるゼネコン2社をも巻き込んだ談合の事実は認められないことからすると,本件落札価格のうち,ゼネコン2社にかかる建設工事費用分については受注調整によって影響を受けたものとは認められない。

以上の諸事情を考慮すると,本件における損害額は,本件落札価格106億0900万円から,ゼネコン2社にかかる建設工事費用分22億1450万円(21億5000万円プラス消費税)を控除した83億9450万円の4パーセントに相当する3億3578万円と認めるのが相当である。

(3)  小括

以上によると,市は,控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として,3億3578万円及びこれに対する不法行為後の日である平成12年5月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求めることができる。

4  怠る事実について

以上の認定説示によれば,本件訴訟に提出された証拠によって控訴人らの上記共同不法行為の事実を認定することが可能であるから,市長は,客観的に見て上記共同不法行為を認定するに足りる証拠資料を入手し得たということができ,市長において,控訴人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することにつき,格別の支障がなかったものと判断され,他に,市長が損害賠償請求権と行使することについて障害となるような事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると,市長が損害賠償請求権を行使しないことは,債権管理を違法に怠るものであって,「違法」に「怠る事実」が認められるというべきである。

5  まとめ

以上のとおり,市は,控訴人らに対して前記3億3578万円の損害賠償請求権を有しているところ,市長は違法にかかる損害賠償請求権の行使を怠ったものであるから,被控訴人らは,控訴人らに対し,市に代位して3億3578万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成12年5月1日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

第4結論

以上のとおり,被控訴人らの請求は,前記第3の5記載の限度で理由があり,その余の請求は理由がないから,控訴人らの控訴に基づき,原判決を主文2,3項のとおり変更し,被控訴人らの附帯控訴は理由がないから,これを棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 安達嗣雄 裁判官 三村憲吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例