大阪高等裁判所 平成22年(う)556号 判決 2010年9月07日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は,弁護人玉城辰夫作成の控訴趣意書及び「控訴趣意書(補充)」と題する書面に記載のとおりであるから,これらを引用する(なお,弁護人は,控訴趣意書の第3は独立した控訴趣意ではない旨釈明した。)。
論旨は,被告人は,Aと共謀の上,原判示の売春の周旋をしたことはなく,仮に,上記売春周旋の事実があったとしても,これは売春防止法2条所定の「不特定の相手と性交すること」には該当せず,売春防止法違反の罪が成立する余地はないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認又は法令適用の誤りがあるというのである。
所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,原判決には所論が指摘するような事実の誤認や法令適用の誤りがあるとはいえない。以下,若干補足して説明する。
原判決挙示の関係各証拠によると,被告人は,いわゆる出会い系サイトを利用して遊客を募る派遣型の風俗業を経営しており,本件当時は,Cら女性従業員を雇い入れていたほか,女性の送迎等をする男性従業員としてAを雇い入れていたこと,また,原判示のとおり,Cが遊客であるB及びDを相手方として売春行為を行ったことが認められる。そして,原審公判において,Cは,採用面接の際,被告人から「売春はしてもらうよ。」と告げられて,売春を前提に採用されたものであって,その後は遊客相手に売春行為を繰り返していた旨供述し,Aも,被告人から雇われる際に,女性に売春をさせる本番屋の手伝いをしないかと誘われた旨供述しているところ,これらの供述は,内容に不自然,不合理な点がないし,遊客であるB及びDの原審公判供述等によっても裏付けられており,C及びAが,虚偽供述をして,被告人を罪に陥れなければならないような事情も見当たらないことに照らすと,十分に信用することができる。これに対し,売春行為の指示をしたことはない旨の被告人及び女性従業員Fの各原審公判供述は,信用性に富むC及びAの上記各供述と相反しており,信用性に欠けるといわざるを得ない。したがって,原判示の売春周旋の事実は優に認められる。
所論は,①遊客であるB及びDの供述によると,出会い系サイトにおいて電子メールのやりとりをしている間は売春の相手方となることは決まっておらず,Cと接触した後,売春の相手方となることが決まったのであるから,原判決が「罪となるべき事実」において,「B及びDから電子メールで売春婦紹介の依頼を受けた」旨認定したのは事実の誤認である,②被告人から売春行為をする旨の説明を受けた際の状況についてのCの原審公判供述は変遷や矛盾が多く,また,Aの原審公判供述にも矛盾が多く,いずれも信用できないなどと主張する。
しかし,①については,被告人らは,出会い系サイトで遊客を誘引する際,「ゴムあり別2」などと売春行為をほのめかす内容の書き込みをした上,これに電子メールで応答してきた遊客にCらを引き合わせて,売春をさせていたことが明らかであるから,原判決の上記認定に何ら誤りはない。②についても,原判決が説示するように,Cの原審公判供述には,信用性判断に影響を及ぼすような矛盾や変遷等は存しないし,Aの原審公判供述についても,その信用性を疑わせるような事情は認められないから,所論は失当というべきである。
さらに,所論は,被告人らは,相手方の携帯電話番号を確認して,連絡が取れる者だけを相手方としていたから,「不特定の相手と性交すること」という売春防止法2条の要件に当てはまらず,売春防止法違反の罪は成立しないと主張するが,被告人らが,出会い系サイトを利用して不特定の遊客を募っていたことは明らかであるから,所論を受け入れる余地はない。
その他,所論がるる主張する点を検討してみても,原判決には事実の誤認や法令適用の誤りはない。
論旨は理由がない。
よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して,主文のとおり判決する。