大阪高等裁判所 平成22年(ネ)167号 判決 2010年12月17日
控訴人・附帯被控訴人(第1審原告)
X
(以下「控訴人」という。)
上記訴訟代理人弁護士
上原康夫
同
幸長裕美
被控訴人・附帯控訴人(第1審被告)
学校法人Y1大学
(以下「被控訴人大学」という。)
上記代表者理事長
A
被控訴人・附帯控訴人(第1審被告)
Y2
(以下「被控訴人Y2」という。)
被控訴人ら訴訟代理人弁護士
畑守人
同
竹林竜太郎
同
山田長正
主文
1 控訴人の本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成20年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 控訴人のその余の請求を棄却する。
2 被控訴人らの本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを15分し,その13を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して1500万円及びこれに対する平成20年10月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決中,被控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(2) 控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
本件は,被控訴人大学の設置するa病院(以下「被控訴人大学病院」という。)の耳鼻咽喉科に所属する医師である控訴人が,同大学の耳鼻咽喉科教授である被控訴人Y2から違法な差別的処遇を受けた旨主張し,被控訴人Y2に対しては民法709条に基づき,被控訴人大学に対しては民法715条に基づき,連帯して1500万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成20年10月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。
原審は,控訴人の請求について,被控訴人らに対し,連帯して100万円及びこれに対する平成20年10月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で認容したところ,控訴人がこれを不服として本件控訴を提起し,被控訴人らも本件附帯控訴を提起した。
1 前提事実及び当事者の主張
(1) 下記のとおり,被控訴人らの主張(当審における新主張)を追加するほかは,原判決2頁12行目から20頁10行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 被控訴人が追加した主張(消滅時効の抗弁)
仮に,被控訴人らが,控訴人に対し,不法行為責任を負うとしても,本件訴訟が提起された平成20年10月8日の時点において,不法行為終了時(遅くとも平成16年8月まで)から3年以上が経過している。
そこで,被控訴人らは,平成22年7月21日の当審第2回口頭弁論期日において,被控訴人らが負うべき損害賠償債務について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
2 本件の争点
(1) 被控訴人Y2は,控訴人に対し,違法な差別的処遇を行ったか【争点1】
(2) 控訴人の損害額【争点2】
(3) 消滅時効の成否【争点3】
第3当裁判所の判断
1 争点1(被控訴人Y2は,控訴人に対し,違法な差別的処遇を行ったか)について
(1) 前記前提事実のほか,証拠(<証拠省略>,控訴人本人[原審],被控訴人Y2本人[原審])及び弁論の全趣旨によれば,次の事実関係を認めることができる(但し,下記認定事実に反する証拠は採用しない。)。
ア 控訴人は,昭和49年5月に医師免許を取得した後,複数の病院勤務を経て,平成2年7月,被控訴人大学病院の耳鼻咽喉科の医局員となった。
その後,控訴人は,当時の耳鼻咽喉科のB教授(以下「B前教授」という。)の下で,同科において分類されていたグループのうち,当初は頭頚部腫瘍グループ,次いで耳グループに所属し,他の医師と同様の臨床(診察,手術等を含む。以下同じ。)を担当していたところ,平成3年9月には同科の助手になった。なお,被控訴人大学病院に勤務する医師は,控訴人を含め,被控訴人大学病院の臨床を担当するだけではなく,定期的に県立b病院等の関連病院に派遣(以下「外部派遣」という。)されていた。
イ 被控訴人大学では,平成5年12月,平成6年3月をもって定年退職するB前教授の後任教授を選出するための公募制による教授選が行われることになり,耳鼻咽喉科の医局からはC助教授が推薦され,被控訴人大学の外部からは被控訴人Y2(当時,c大学医学部附属病院の講師)が応募をしてきた。
その一方で,当時助手であった控訴人が,B前教授に断りなく,上記教授選に立候補をした(なお,同じ医局から複数の立候補者が出ることは,医局内がまとまっていないことを意味するので,好ましいものとはされていなかった。)ことから,B前教授はこれに激怒し,平成6年1月以降,控訴人を医学部の学生に対する教育担当及び被控訴人大学病院におけるすべての臨床担当から外したが,外部派遣については,従前どおり,控訴人も担当することとされた。
その後,上記教授選では,被控訴人Y2が後任教授として選出され,C助教授は,平成8年1月をもって被控訴人大学病院を退職した。
ウ 被控訴人Y2は,耳鼻咽喉科の教授就任に際し,B前教授から,控訴人をすべての臨床担当から外している旨の引き継ぎを受けたが,同科の事務掌理者として,そのような処遇の当否について,控訴人からあらためて事情聴取をすることもなく,従前どおりの処遇を継続するものとし,控訴人に対しては,引き続き,被控訴人大学病院において一切の臨床を担当させなかった。
エ 控訴人は,上記のような経緯によって,被控訴人大学病院におけるすべての臨床担当を外れたが,自主的な研究活動は続ける一方で,外部派遣についても引き続き担当していたところ,平成8年ころ,外部派遣先の一つである県立b病院への派遣担当から外され,次いで,平成11年11月をもって,外部派遣先の一つであるd病院への派遣担当からも外され,その結果,すべての外部派遣の担当から外れることになった。なお,被控訴人Y2は,平成8年ころ,控訴人に対し,県立b病院から控訴人の診療態度等についてクレームが寄せられている旨伝えたものの,その事実関係を確認したり,クレームの具体的内容を説明したりすることはなく,また,平成11年11月をもって控訴人をすべての外部派遣の担当から外すにあたっても,控訴人に対し,その弁解を聴取したり,上記クレームの原因となるような言動ないし態度を改めるように指導することはなかった。
このようにして,控訴人は,被控訴人大学病院において,自主的な研究活動以外に担当する職務を有しないことになったところ,その一方で,被控訴人らは,控訴人に対し,被控訴人大学病院を離れて他の病院等に転出することを勧め,転出先の病院を具体的に紹介するなどしたが,控訴人はこれに応じなかった。
オ その後,控訴人は,被控訴人大学の理事長が交代した際などに,被控訴人らに対し,何度も臨床担当に復帰させてほしい旨要望したが,被控訴人らはこれを拒否し続けた。その主な理由は,控訴人が被控訴人大学病院におけるすべての臨床担当から外された後の平成10年ころ,被控訴人Y2に対し,他大学の教授選に立候補するためにも臨床を担当させてほしい旨述べたことがあったことから(<証拠省略>),そのような動機によって臨床に復帰させるのは相当でないというものであった。なお,日本耳鼻咽喉科学会においては,平成4年に医療法が改正され,大学病院が特定機能病院として制度化されたことに伴い,大学病院における臨床系の教授選考の基準として,多数の臨床経験に基づく高度な診療能力を有することを重視すべきであり,特に耳鼻咽喉科の教授には,外科的技能とともに内科的な診療能力を兼ね備えることが要求される旨提言されていたことから(<証拠省略>),控訴人としては,臨床の機会が与えられなければ,他大学を含めて教授に選出されることは極めて困難な状況にあった。
カ 控訴人は,平成16年6月,被控訴人大学の理事長が交代した際,被控訴人らに対し,あらためて,臨床担当に復帰させることを要望したところ,同年8月,毎週月曜日に再診の患者を診察する担当が与えられたが,控訴人宛ての紹介状を持参した患者以外の患者の割当を受けることはほとんどなかった上,手術担当の機会も与えられなかったほか,被控訴人大学耳鼻咽喉科において分類されていたグループ(「耳」,「鼻」,「めまい」,「頭頚部腫瘍」等)のいずれかに所属するよう命じられたり,その希望が聴取されることはなかった。
キ 控訴人は,平成16年8月に被控訴人大学病院の臨床担当に一部復帰した以降も,被控訴人らに対し,自らの処遇改善を求めていたところ,被控訴人らは,平成19年4月11日,控訴人に対し,その担当職務について,以下のような方針とする旨伝えた。
① 診察については,毎週水曜日,初診及び再診の患者をD准教授とともに担当する。
② 耳グループに所属し,被控訴人Y2及びD准教授と協力して耳診察に当たる。
③ 手術については耳を中心に担当し,鼻の手術については,症例があれば,鼻グループの承諾を受けて行う。
上記方針に基づき,控訴人は,平成19年5月になって毎週水曜日に初診の患者を診察するようになったが,耳グループに所属することには消極的であったことからこれを断り,結局,現在に至るまで,どのグループにも所属していない。
なお,控訴人は,平成19年4月1日付けで,助教(旧助手)から被控訴人大学病院耳鼻咽喉科の学内講師となったが,学校教育法上の身分は助教のままであり,その給与(基本給)は従前と変わりはなかった。
ク 控訴人は,被控訴人らが,平成6年1月以降10年以上(外部派遣については平成11年11月以降)という長期にわたって医学部の学生に対する教育担当及びすべての臨床担当から外したのは違法な差別的処遇であり,その結果,控訴人は,医師として臨床技術を維持向上することができず,教授等に昇進したり他病院の医師に転出する機会を奪われ,人格を著しく侵害された旨主張している。
(2) 判断
ア 被控訴人らは,控訴人には他の医師及び職員との協調性がなく,患者とトラブルを起こすなど大学病院に勤務する医師としての資質に欠けていたことから,すべての臨床担当から外すことにしたものであり,人事権の行使として著しく不合理であるとはいえない旨主張する。
しかしながら,控訴人は,被控訴人大学病院に赴任するまで15年以上の間,主に勤務医師として働いてきた(複数の病院において耳鼻咽喉科部長として勤務した。)経験を有するのであるから,被控訴人大学としても,そのような控訴人を採用しておきながら,その後において,控訴人が大学病院に勤務する医師としての資質に欠けていると判断したのであれば,控訴人に対し,そのような問題点を具体的に指摘した上でその改善方を促し,一定の合理的な経過観察期間を経過してもなお資質上の問題点について改善が認められない場合は,その旨確認して解雇すべきところ,本件全証拠を検討しても,被控訴人らが,上記のような合理的な経過観察期間を設けた改善指導等を行って,その効果ないし結果を確認したなどの具体的事実は見当たらない。そうすると,被控訴人らは,控訴人に対する具体的な改善指導を行わず,期限の定めのないまま,控訴人をいわば医師の生命ともいうべきすべての臨床担当から外し,その機会を全く与えない状態で雇用を継続したというものであって,およそ正当な雇用形態ということはできず,差別的な意図に基づく処遇であったものと断定せざるを得ない。
これに対し,被控訴人らは,①控訴人は他の医師及び職員との協調性に欠け,患者とトラブルを起こすことが多かった上,②平成6年から平成10年にかけて,外部派遣先の病院から,控訴人の勤務態度等について複数のクレーム(<証拠省略>)が寄せられていた旨主張する。しかしながら,上記①の事実が常習的に存在したことを裏付けるに足りる的確な証拠はなく,また,上記②のような事実が存在したとしても,証拠上窺われる外部派遣先の病院からのクレームは3件程度にとどまること(<証拠省略>)からすると,平成6年1月以降,被控訴人大学病院におけるすべての臨床担当から外さなければならない程度の事情があったとまでは認めるに足りないところ,仮に,被控訴人大学病院の内外及び具体的なクレームの件数如何にかかわらず,控訴人について深刻な資質上の問題点が存在したというのであれば,被控訴人らとしては,前記説示のとおり,控訴人に対し,その旨具体的に指摘した上で合理的な経過観察期間を設けてそれを改善するように指導すべきであって,そのような指摘及び指導をすることなく,すべての外部派遣の担当から外したというのは,被控訴人大学病院に勤務する職員に対する人事権の行使が被控訴人らの裁量に委ねられていることを考慮しても,合理的な裁量の範囲を逸脱したものというほかなく,前記認定判断を左右するものではない。
なお,被控訴人らは,控訴人が被控訴人大学病院の外来診療等に復帰した平成16年以降,被控訴人大学病院に勤務する他の医師及び職員から,控訴人とは一緒に仕事をしたくない旨の意見が多数寄せられているとして,それらの意見が記載された「嘆願書」等と題する書面(<証拠省略>)を提出するところ,これらによれば,上記医師等からは,控訴人の診療態度等について,控訴人は他の医師及び職員との連携意欲に乏しく,医療技術及び医学的知識に不足があり,安心して診療を任せられないなどの問題点が指摘されていることが認められる。しかしながら,本件訴訟において検討すべき事項は,平成6年1月以降の被控訴人らの控訴人に対する処遇の違法性であって,前記認定事実のとおり,控訴人が,10年以上の長きにわたり,被控訴人大学病院において臨床を担当する機会が全く与えられてこなかったことを考えれば,控訴人に上記のような問題点があったとしても,そのことは控訴人に対するそれまでの処遇に起因する側面もあるというべきであり,上記各書面(<証拠省略>)は,必ずしも控訴人に対する平成6年1月以降の処遇の当否を判断するのに的確な資料とはいえない。
イ したがって,被控訴人らが,平成6年1月以降,控訴人を被控訴人大学病院におけるすべての臨床担当から外すものとし,平成11年11月以降,控訴人をすべての外部派遣の担当からも外すものとしたこと(以下「本件処遇」という。)は合理的な裁量の範囲を逸脱した違法な差別的処遇というべきであるから,被控訴人らは,控訴人に対し,本件処遇によって受けた精神的苦痛について,不法行為に基づく損害賠償責任を免れることはできない。
なお,控訴人は,平成6年1月以降,医学部の学生に対する教育担当から外されたことについても,違法な差別的処遇である旨主張するが,医師として医療に従事するのが職務であるのは当然であるとしても,大学病院に勤務しているとはいえ,教育に従事することが必要不可欠であるとまではいえない上,教育という性質を考えると,学生に対する教育担当者の適正判断については被控訴人大学の理念及び方針に基づく独自かつ広範な裁量に委ねられるものというべきであるから,上記教育担当から外されたことが著しく不合理な処遇であったということはできない。また,控訴人は,被控訴人大学病院における臨床担当に一部復帰した平成16年8月以降の処遇(他の医師と比較して昇進が遅れていることを含む。)についての不満を主張するが,前記認定の事実関係等によれば,それ自体を独立した不法行為ではなく,本件処遇の延長として捉えた上で,損害額の算定事情として考慮するのが相当である。
2 争点2(控訴人の損害額)について
(1) 次に,控訴人の損害額(控訴人が本件処遇によって受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額)について検討すると,控訴人が大学病院に勤務する医師とはいえ,臨床担当の機会を与えられなければ,医療技術の維持向上及び医学的知識の経験的取得を行うことは極めて困難といわざるを得ず,そのような期間が長期化するほど,臨床経験の不足等から,被控訴人大学病院において昇進したり,他大学ないし他病院等に転出する機会が失われるであろうことは容易に推測されるところ,前記認定説示のとおり,違法な差別的処遇である本件処遇が10年以上という長期に及んだものであったことからすると,控訴人が本件処遇によって受けた精神的苦痛は相当に大きいというべきである。そして,控訴人は,平成16年8月以降,外来診療等の一部を担当するようになったとはいえ,被控訴人大学病院の耳鼻咽喉科において専門的な診療を継続的に担当するのに必要であることが推認されるグループ(「耳」,「鼻」,「めまい」,「頭頚部腫瘍」等)のうち耳グループに所属するよう命じられたのが平成19年4月であったことを考えると,少なくともそれまでの間は十分な臨床の機会が与えられたものとはいえず,控訴人の上記精神的苦痛が解消されたものということはできない。
もっとも,前記認定事実によれば,控訴人としても,平成5年12月以降に行われた被控訴人大学病院の耳鼻咽喉科の教授選において,上司であるB前教授に何ら相談することもなく独自に教授選に立候補するような行為が当時の実情としては人事的に一定の不利益を生じさせる可能性のあったことは容易に認識し得たというべきであるし,その一方で,被控訴人らは,被控訴人大学病院において控訴人がすべての臨床担当から外れるようになった後,控訴人に対し,被控訴人大学病院を離れて他の病院等に転出することを勧め,転出先の病院を具体的に紹介するなどしたが,控訴人はこれに応じないまま,自ら被控訴人大学において研究活動に従事することを選択したことが認められる。さらに,証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,平成6年から平成10年ころにかけて,外部派遣先の病院から控訴人の勤務態度等について複数のクレームが寄せられていたことが認められ,また,平成16年8月に被控訴人大学病院における臨床担当に一部復帰した以降であるとはいえ,被控訴人大学病院の他の医師及び職員から被控訴人らが指摘するような不満(<証拠省略>)が出ているのも事実であることを併せ考えると,控訴人としても,大学病院という組織に所属する以上,人事をはじめとする円滑な運営等に配慮したり,外部派遣先の病院並びに被控訴人大学病院の他の医師及び職員との協調を心がけるなど組織内において円満な人的関係を維持するように柔軟な対応が求められていたにもかかわらず,自己の考え方に固執し,これを優先させる余り,組織の一員として配慮を欠くような行動傾向があり,そのために周囲との軋轢をかなり生じさせたことは否定できないところである。
(2) そこで,以上のような事実関係等のほか,本件に現れた一切の事情を総合考慮すると,控訴人が違法な差別的処遇というべき本件処遇を受けたことについて,被控訴人らから支払いを受けるべき慰謝料は200万円と認めるのが相当である。
3 争点3(消滅時効の成否)について
前記認定事実によれば,控訴人は,本件処遇がなされる以前,被控訴人大学病院耳鼻咽喉科の頭頚部腫瘍グループあるいは耳グループにおいて他の医師と同様の臨床を担当していたものであったところ,平成16年8月以降,同科の臨床担当に一部復帰したものの,その当初は毎週月曜日に再診の患者を診察するにとどまるものであったことが認められる。そうすると,10年以上臨床を離れていた控訴人を直ちに他の医師と同様の職務に復帰させるのは患者を診療するという臨床医療の性質に照らして慎重にならざるを得ないとしても,被控訴人らが主張するような遅くとも平成16年8月までに本件処遇による不法行為が終了したものと認めるのは相当でない。もっとも,前記認定事実のとおり,控訴人は,平成19年4月,被控訴人大学病院の耳鼻咽喉科において専門的な診療を継続的に担当するのに必要であることが推認されるグループ(「耳」,「鼻」,「めまい」,「頭頚部腫瘍」等)のうち耳グループに所属するよう命じられたことからすると,その時点をもって,本件処遇がなされる以前と同質的な処遇にまで改善され得る機会が付与されたものということができるから,本件処遇に基づく不法行為が終了したのは,被控訴人らから上記耳グループに所属するように命じられた平成19年4月であったと認めるのが相当である。
したがって,本件訴訟が提起された平成20年10月8日の時点において,消滅時効の期間が経過しているものとは認められないから,被控訴人らの消滅時効の抗弁は理由がない。
4 結論
よって,控訴人の請求は,被控訴人らに対し,連帯して200万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成20年10月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるところ,本件控訴に基づき,原判決を一部変更するとともに,本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦潤 裁判官 大西忠重 裁判官 井上博喜)