大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成22年(ネ)2号 判決 2012年5月31日

控訴人

亡X1訴訟承継人 X2<他3名>

上記四名訴訟代理人弁護士

本多重夫

熊谷信太郎

布村浩之

坂井真由美

堀越充子

宗野恵治

石島正道

被控訴人

更生会社阪奈土地建設株式会社管財人Y1訴訟承継人 阪奈土地建設株式会社

上記代表者代表取締役

A1

上記訴訟代理人弁護士

佐々木豊

野村太爾

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は、控訴人X2に対し、本判決確定の日から一年間が経過した日限り、別紙物件目録一記載の各土地を明け渡せ。

(2)  被控訴人は、控訴人X3に対し、本判決確定の日から一年間が経過した日限り、別紙物件目録二記載の各土地を明け渡せ。

(3)  被控訴人は、控訴人X4に対し、本判決確定の日から一年間が経過した日限り、別紙物件目録三記載の土地を明け渡せ。

(4)  被控訴人は、控訴人X5に対し、本判決確定の日から一年間が経過した日限り、別紙物件目録四記載の土地を明け渡せ。

(5)  控訴人らのその余の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、第一・二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)に対し、別紙物件目録一記載の各土地(以下「本件土地一」という。)を明け渡せ。

三  被控訴人は、控訴人X3(以下「控訴人X3」という。)に対し、別紙物件目録二記載の各土地(以下「本件土地二」という。)を明け渡せ。

四  被控訴人は、控訴人X4(以下「控訴人X4」という。)に対し、別紙物件目録三記載の土地(以下「本件土地三」という。)を明け渡せ。

五  被控訴人は、控訴人甲山X5(以下「控訴人X5」という。)に対し、別紙物件目録四記載の土地(以下「本件土地四」といい、本件土地一~四を併せて「本件各土地」という。)を明け渡せ。

六  二~五につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  事案の要旨

(1)  原審における請求の骨子

本件は、被控訴人に対し、ゴルフ場用地として、本件各土地をそれぞれ賃貸していた控訴人らが、①主位的に、上記各貸借契約に係る控訴人らと被控訴人との信頼関係が損なわれたとして、債務不履行解除による上記賃貸借契約の終了に基づき、②予備的に、期間満了又は解約申入れによる賃貸借契約の終了に基づき、本件各土地の明渡しを求めた事案である。

これに対し、被控訴人は、①控訴人ら主張の債務不履行解除は認められない、②賃貸借契約の期間満了又は解約申入れによる終了については、控訴人らの本件各土地の明渡請求は権利の濫用に当たり許されない、③被控訴人は控訴人らに対し、有益費償還請求権を有するから、同請求権による留置権を行使するなどと主張して争った。

(2)  訴訟の経過

原審は、①控訴人ら主張の債務不履行解除は認められないが、本件各土地の賃貸借契約は期間満了又は解約申入れにより終了している、②控訴人らの期間満了又は解約申入れを理由とする本件各土地の明渡請求は、権利の濫用に当たり許されないなどと判断して、控訴人らの請求をいずれも棄却した。

そこで、控訴人らは、いずれも原判決を不服として控訴した。

なお、控訴人らは、原審における上記(1)の主位的主張、予備的主張を、当審において選択的主張に改めた。

(3)  関連訴訟の経緯

なお、原審当時は、被控訴人に対し、ゴルフ場用地を無償で貸し渡していた甲山A2(以下「A2」という。)も、控訴人らと同様に、所有土地の明渡しを求めていたが、同人の訴訟は、当審において、裁判上の和解の成立により終了した。

二  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、末尾の括弧内掲記の証拠等によれば、容易に認められる。証拠等の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。

(1)  被控訴人によるゴルフ場経営等

ア 本件ゴルフ場経営

被控訴人は、昭和三五年五月に設立されたゴルフ場の経営等を事業目的とする株式会社であり、大阪府大東市<以下省略>所在のaカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)を経営している。

本件ゴルフ場用地は、被控訴人所有地及び第三者からの借地で形成されているが、そのうち借地の貸主は、控訴人らを含む別表一記載のとおりである(乙一六一)。

イ 被控訴人の倒産手続等

(ア) 被控訴人は、従前、甲山A3(以下「A3」という。)が代表取締役を務める同族会社であったところ、平成一七年五月二六日、大阪地方裁判所により、民事再生手続開始決定がされた。

(イ) ところが、被控訴人の債権者である株式会社スター・キャピタル(以下「スター・キャピタル」という。)は、平成一七年七月八日付けで、大阪地方裁判所に対し、被控訴人について、会社更生手続の開始を申し立てたところ、同裁判所は、同月三一日、被控訴人に対し、会社更生手続開始決定をし、Y1弁護士を管財人に選任した(乙一)。

これに伴い、当時、被控訴人の役員であったA3及びその一族は、平成一八年六月三〇日までに退任した。

(ウ) 大阪地方裁判所は、平成一八年一〇月三〇日、被控訴人について更生手続終結決定をした。

(2)  控訴人らによる本件各土地の所有

ア X1(本件土地一)

亡X1(以下「X1」という。)は、本件ゴルフ場が所在する大東市○○地区の区長であった者であり、本件土地一をもと所有していたところ、本件訴訟係属中の平成二〇年一二月二日に死亡し、同人の五男である控訴人X2が本件土地一に関する一切の権利義務を相続した。

なお、X1は、A3の兄と戦友であった(控訴人X2本人)。

イ 控訴人X3(本件土地二)

控訴人X3は、A3の実姉の夫(A3の義兄)であるところ、本件土地二を所有している。

ウ 控訴人X4(本件土地三)

控訴人X4は、控訴人X3の長男であるところ、本件土地三を所有している。

エ A4(本件土地四)

亡甲山A4(以下「A4」という。)は、A3の実兄であり、本件土地四をもと所有していたところ、A4は、平成一五年一月一六日に死亡し、A4の妻である控訴人X5は、本件土地四に関する一切の権利義務を相続した。

オ A2所有地

A2は、亡甲山A5(以下「A5」という。)の妻であり、A5は、A3の実兄である。A5は、別紙物件目録五記載の土地(以下「A2所有地」という。)をもと所有していたところ、昭和五〇年八月四日に死亡し、A2がA2所有地に関する一切の権利義務を相続した(甲九の一~六)。

(3)  本件各土地に関する賃貸借契約締結

ア 本件土地一(X1)

X1は、昭和六二年ころ、A3が代表取締役であった株式会社b組(以下「b組」という。)に対し、賃貸期間を同年四月一日から二〇年間、賃料を一年につき坪単価六九八円(ただし、昭和六二年度以降は、昭和六一年度の米価基準を一〇〇として、その年の米価決定価格比率にスライドして昭和六一年度の坪単価を乗じた価格とする旨の合意がある。)との約定で、本件土地一を賃貸し(以下「本件賃貸借契約一」という。)(甲一)、その後、b組は、X1の承諾を得て、本件土地一の賃借権を被控訴人に譲渡した。

イ 本件土地二(控訴人X3)

控訴人X3は、昭和六三年五月二日ころ、被控訴人に対し、期間の定めなく、賃料を一年につき坪単価六九八円(ただし、二年ごとに、貸主と借主は、物価の変動がある場合には、協議の上変更する旨の合意がある。)との約定で、本件土地二を賃貸した(以下「本件賃貸借契約二」という。)。

なお、本件賃貸借契約二の契約書には、被控訴人の代表者が交代したときは、控訴人X3及び被控訴人とで協議の上、同契約を更改する旨の約定(第五条)があった(甲二の一~三)。

ウ 本件土地三(控訴人X4)

控訴人X4は、昭和六一年一二月ころ、b組に対し、賃貸期間を昭和六二年四月一日から二〇年間、賃料を一年につき坪単価六九八円(ただし、賃料増額協議条項がある。)との約定で、本件土地三を賃貸し(以下「本件賃貸借契約三」という。)(甲三)、その後、b組は、控訴人X4の承諾を得て、同土地の賃借権を被控訴人に譲渡した。

エ 本件土地四(A4、控訴人X5)

A4は、昭和六二年ころ、b組に対し、賃貸期間を同年四月一日から二〇年間、賃料を一年につき坪単価六九八円(ただし、賃料スライド条項がある。)との約定で、本件土地四を賃貸し(以下「本件賃貸借契約四」といい、本件賃貸借契約一~四を併せて「本件各賃貸借契約」という。)(甲四))、その後、b組は、A4の承諾を得て、本件土地四の賃借権を被控訴人に譲渡した。

A4は、平成一五年一月一六日に死亡し、控訴人X5は、本件土地四に係る本件賃貸借契約四における賃貸人の地位を相続した。

オ A2所有地

A5は、昭和四八年ころ、b組に対し、使用貸借期間を定めずに、A2所有地を無償で貸した(以下「本件使用貸借契約」という。甲一〇八、A2本人調書二・三頁)。

A5が昭和五〇年八月四日に死亡し、A2がA2所有地を相続して、本件使用貸借契約上の貸主の地位を承継した。その後、b組は、A2の承諾を得て、本件土地四の使用借権を被控訴人に譲渡した(甲九の一~六、弁論の全趣旨)。

カ 本件各土地及びA2所有地の位置等

本件各賃貸借契約及び本件使用貸借契約は、本件各土地及びA2所有地を本件ゴルフ場とその付属建物及びスポーツ施設として使用することを目的として締結されたものであり、本件各土地及びA2所有地のゴルフコースとの位置関係は、概ね別紙図面一記載のとおりである。

本件土地一は本件ゴルフ場の一番、二番及び四番ホールの各一部、本件土地二は九番、一二番、一三番及び一六番ホールの各一部、本件土地三は一四番及び一五番ホールの各一部、本件土地四は七番及び八番ホールの各一部として使用されている。

(以上につき、甲二九の一、七八)。

(4)  本件各賃貸借契約の解除の意思表示

X1、控訴人X3、控訴人X4及び控訴人X5は、平成一七年九月二日に被控訴人に送達された本件訴状により、被控訴人に対し、債務不履行を理由として本件各賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした(顕著な事実)。

(5)  本件各賃貸借契約の終了

ア 本件賃貸借契約二は、前記(3)イ記載のとおり、期間の定めのない賃貸借契約であるところ、控訴人X3は、平成一七年九月二日に被控訴人に送達された本件訴状により、被控訴人に対し、本件賃貸借契約二の解約申入れの意思表示をしたので(顕著な事実)、上記解約申入れから一年(民法六一七条一項一号)を経過した平成一八年九月二日をもって、本件賃貸借契約二は終了した。

イ 本件賃貸借契約一、三及び四は、いずれも契約上の期間満了日である平成一九年三月三一日の経過により、賃貸借契約期間が満了して、同各賃貸借契約は終了した。

(6)  被控訴人による賃料等の供託

被控訴人は、控訴人らに対し、別表二(被控訴人の平成二二年五月二四日付け準備書面添付の別表)記載のとおり、地代を支払ったかこれを供託した(乙八一~一〇七)。なお、控訴人X3に対する平成一八年五月一日~同年八月三一日までの地代四〇二万二五四五円は、同年五月二九日に支払われた(乙一三三の一・二)。

(7)  控訴人らの本件訴訟提起

控訴人らは、平成一七年八月一二日、本件訴訟を提起した(顕著な事実)。

三  争点及びこれに対する当事者の主張

(1)  本件各賃貸借契約の解除の効力(争点(1))

〔控訴人ら〕

ア 本件各土地は、控訴人らにとって、先祖伝来の貴重な土地であり、本来であれば、他人に貸すことなど思案の外であったが、被控訴人及びb組の代表取締役であったA3及び同人の家族らが、代々地域社会の発展のために尽力貢献し、地元住民と深い信頼関係と絆で結ばれていたことから、X1、控訴人X3、同X4及びA4(以下この四名を併せて「X1ら」ということがある。)は、このような地縁血縁に根ざした特殊な人的信頼関係に基づいて、本件各賃貸借契約を締結したものである。

また、A3は、本件各賃貸借契約を締結するに際し、X1らに対し、甲山一族が被控訴人を経営し、本件ゴルフ場を運営していくこと、また、その運営に当たっては、可能な限り地元住民の要望を取り入れ、地元との共存共栄を図っていくことなどを誓約したのであり、X1らとの間におけるこれら合意は、本件各賃貸借契約における被控訴人の債務内容となっている。

イ ところが、被控訴人の責に帰すべき事情によって、被控訴人について会社更生手続が開始され、A3及びその家族らが被控訴人の経営権等を失ったことにより、本件各賃貸借契約の存続の前提が失われ、被控訴人と控訴人らとの信頼関係は完全に損なわれたものである。

これは、被控訴人の重大な債務不履行であるというべきであるから、控訴人らのした本件各賃貸借契約の解除は有効である。

〔被控訴人〕

本件各賃貸借契約の契約書には、甲山一族が本件ゴルフ場についての経営権を有することが契約の前提条件であり、その経営権の喪失が契約の解除事由や終了事由となる旨の記載はなく、かえって、本件賃貸借契約二の契約書には、代表者が交代した時は、同契約を協議の上更改するものとされている。

また、株式会社において、株主構成や代表取締役等の会社経営者の変更は当然の前提であるところ、株式会社が経営主体であるゴルフ場は、たとえ会社の経営者が交代したとしても、それによってゴルフ場の運営や営業内容に著しい変更があり、かつその変更が社会通念上貸主に重大な不利益を与えると認められない限り、賃貸借契約当事者の信頼関係を破壊するものとはいえないし、まして経営者の交代のみをもって、貸主に対する背信行為であるとは到底いえない。

加えて、被控訴人に対する会社更生手続は、被控訴人の債権者から申立てを受けた裁判所が、更生手続開始決定をしたことによって開始されたものであるから、この点において、被控訴人に、本件各賃貸借契約の継続を著しく困難ならしめるような背信行為は存在しない。

(2)  本件各土地の明渡請求の権利濫用該当性(争点(2))

〔被控訴人〕

ア はじめに

被控訴人に対し、控訴人X2、控訴人X4及び控訴人X5が本件賃貸借契約一、三及び四について期間満了による終了を主張し、控訴人X3が本件賃貸借契約二について解約申入れ後一年間の経過による終了を主張して、本件各土地の明渡しを請求をすることは、以下の諸事情に照らし、いずれも権利の濫用として許されない。

イ 控訴人らの本件訴訟の目的

(ア) 控訴人らによる本件訴訟提起

控訴人らは、平成一七年七月三一日に被控訴人について会社更生手続開始決定がされるや、直ちに同年八月一二日に本件訴訟を提起した。

(イ) 被控訴人の即時抗告書における主張

当時の被控訴人は、会社更生手続開始決定に対し、平成一七年八月一二日付けで、即時抗告を申し立てたが、即時抗告書(乙三)において、次のとおり主張していた。

a 被申立人(被控訴人)は倒産に至ったものの、地権者や地域住民は、後記(ウ)(エ)のとおり、DIP型の民事再生手続に協力することは明らかであり、甲山一族は、これからも土地を維持・管理しつつ地元の活性化を図っていかなければならない。

b 仮にA3が退任しても、甲山一族が土地の提供を受けた当時の趣旨に従ってゴルフ場の土地を維持・管理していくという責任を果たすのであれば、地権者や地域住民の支持は得られる。

(ウ) 被控訴人の即時抗告理由書における主張

また、当時の被控訴人は、即時抗告理由書(乙四)において、次のとおり主張していた。

a 関係者説明会において、ゴルフ場の土地を貸していた地権者の代理人は、被申立人(被控訴人)に対して、ゴルフ場の土地の明渡しを求めて提訴していることを表明し、地権者は今後如何なる理由があっても甲山一族以外の者とは契約しない旨明言している。

b aカントリークラブ(本件ゴルフ場)は、コース全体に占める借地の割合が約二〇%もある上、地権者の土地に対する思い入れが極めて強い。また、会員債権者の中には地権者・近隣住民と密接な関係を有する者が多い。

c したがって、地権者の意向を無視した場合、借地の利用不能ないし深刻な紛争の多発や、来場者数の減少による収益の悪化を招くことから、地権者の意向を無視しては事業の再建は極めて困難であり、会社再生手続に反対する地権者の意向も最大限尊重されなければならない。

(エ) 控訴人らの対応

これらに対して、控訴人らの対応は、次のとおりであった。

a 控訴人らは、大阪地方裁判所に、「甲山一族以外の外資系企業の経営参画に反対し、aカントリークラブ(本件ゴルフ場)が旧経営陣(甲山一族)の下で運営されることを強く希望する。」旨の上申書(乙七)を提出していた。

b 控訴人X3及び控訴人X5は、被控訴人の民事再生手続を支持する意向を、アンケート(乙三の一六頁)で表明していた。

c X1は、「民事再生手続を継続し、○○区民協力の下、甲山一族を中心とする現経営陣の手による自主再建を進めること」「地元に縁もゆかりもない外資系資本主導による、阪奈土地建設株式会社(被控訴人)の会社更生手続開始を認めないこと」を要望していた(乙六三)。

(オ) 控訴人らの本件訴訟提起の目的

以上からすると、控訴人らが本件訴訟を提起した目的は、当初は、当時の被控訴人について会社更生手続開始決定がされることを牽制し、同開始決定後は、専ら支援事業者選定手続を牽制し、あるいは本件ゴルフ場の運営に支障を生じさせ、被控訴人を困惑させることにある。

ウ 本件各賃貸借契約当事者の意思

X1らは、本件ゴルフ場の開設・経営に協力する意思で本件各賃貸借契約を締結したものであり、しかも、控訴人X3は、その意思を契約上明示しており、X1、控訴人X4及びA4は、b組から被控訴人への賃借権譲渡を承諾しているのであるから、被控訴人に対する協力義務がある。

控訴人らは、ゴルフ場及びその付属建物等に使用する目的で本件各土地を賃貸し、ゴルフ場経営に協力する意向を示していたこと、ゴルフ場開発が巨額の資金を要するのは常識であること、A3は、控訴人X3、同X5及びA4の親族であり、また、X1の兄の戦友であったこと、控訴人X3は、本件賃貸借契約二締結時、被控訴人の取締役であり、本件各賃貸借契約について賃貸借終了後の明渡しに関する具体的条項が定められていないことからすると、X1らは、本件各賃貸借契約締結の際、ゴルフ場が存続する限りは本件各土地の明渡しを求めることを予定しておらず、期間の経過等により直ちに明渡請求を行うことなどは考えていなかったというべきである。

エ 本件各土地の明渡しが認められた場合に生じる被控訴人の損失

(ア) はじめに

本件各土地を全部又は一部明け渡した場合には、以下のとおり、被控訴人は、本件ゴルフ場の経営を継続できず、閉鎖・廃業せざるを得ない。

(イ) 本件ゴルフ場改修による多大な影響

a ゴルフ場の危険性の回避の必要

ゴルフ場内では常に硬いボールが飛び交っており、打球に対し注意を払っているプレイヤーやゴルフ場従業員であっても、ときには重大な打球事故が発生する危険性がある。

したがって、本件ゴルフ場内の本件各土地を控訴人らに返還し、本件ゴルフ場内を通って本件各土地に控訴人らが往来するとなると、打球事故発生のリスクを回避するために、安全な進入路の確保、明け渡した本件各土地にボールを打ち込まないようにレイアウトの変更やプレイゾーンの限定、防球ネットやフェンス等の施設の設置が必須となる。そして、防球ネットは、自然の中でゴルフを楽しみたいと考えるゴルファーにとって目障りであるし、打球が防球ネットの支柱に当たって跳ね返り、自分や付近のプレーヤーに当たる危険は防止できない。

そのため、防球ネットの設置は、会員権相場の下落につながる。

b 開発許可及び大阪府との協定のための再協議の必要

本件各土地を明け渡した後にする改修工事については、被控訴人において、平成二三年一二月に大阪府に対して開発許可の要否と緑地の確保に関わる手続等を確認したところ、①都市計画法上の開発行為に関しては、区画(面積)形質の変更に該当するために開発許可が必要であること(乙一六七)、「自然環境の保全と回復に関する協定」に関しては、協定を再締結しなければならず、控訴人X3の本件土地二の外周は、開発区域の外縁部と解釈できるので三〇mの樹林地帯が必要であり、その余の控訴人らの土地に関しては、周囲に三〇mの樹林帯は必要でないこと(乙一六八)が確認された。

そのため、改修工事をするに当たり、開発許可の申請、緑地に関する協定の再締結のため大阪府との協議が必要になり、c国定公園内の改修箇所については、これに関連する申請も必要になる。

c 改修工事のレイアウトと改修工事費用

本件各土地を控訴人らに明け渡した上で、上記のとおり、①安全な進入経路の確保、②明け渡した土地にボールを打ち込まないようなレイアウトの変更やプレイゾーンの変更、③防球ネットやフェンス等の施設の設置、④大阪府との協定による三〇mの樹林帯の設置を前提とすると、改修可能なレイアウトは、別紙図面二(被控訴人の平成二四年一月三〇日付け準備書面添付の別紙一)のとおりとなり(ピンク部分は死地になる。)(以下「被控訴人改修案」という。)、18ホールを維持しようとすると、パー3のショートホールが多数になり、「四八四四ヤード、パー64」(現行は、六五五一ヤード、パー72)のコースになって、六〇〇〇ヤード以上、パー72以上のゴルフ場が多数を占める、大阪府・奈良県・京都府・滋賀県の地域内においては、ゴルフ場としての魅力が大幅に下落する。

別紙図面二のとおり改修するための工事費用は、三億〇三二四万円(消費税別途)(ただし、和解が成立したA2所有地返還による改修工事費用を含む。)であり、このうち本件各土地を明け渡した後のⅠ期工事費用は二億三六四〇万円であって、さらに開発許可取得のための実施設計及び許認可取得のコンサルタントフィーが三一五〇万円別途必要になる。

なお、個々の土地を明け渡した場合の改修工事費用は、本件土地一につき五二八一万五〇〇〇円(乙一八一)、本件土地二につき一億六五六九万円(乙一八二)、本件土地三につき三三九一万五〇〇〇円(乙一八三)、本件土地四につき一六六九万五〇〇〇円(乙一八四)を要する。

d 開発許可申請中及び工事期間中並びに工事後の収益

開発許可がされなければ改修工事に着工できないため、開発許可申請中も本件各土地の使用はできない。その間、仮設のティーやグリーンで運営するとしても、プレー料金を下げざるを得ない。また改修工事期間中も同様であるし、改修工事後も工事前のプレー料金を得ることはできない。

そのため、会員制ゴルフ場を廃止し、練習ラウンド用のゴルフ場としての形態に変更し、人件費などの経費を圧縮するなどの様々な経営努力をしても、修繕積立金を控除すれば、年間収益は一〇〇〇万円に満たないほど減少する(乙一七四の一の別表)。

(ウ) 会員権の価値の毀損

上記のとおり、改修工事後のコースは、ヤード数が短くなり、「パー64」になるため、会員権相場は大幅に下落し、価値のないものになる。

そのため、退会して預託金の返還を求める会員が続出するのは必至である。

被控訴人の現在の会員の内訳は、平成六年のリニューアルオープン前からの会員は全体の二九%にすぎず、七一%の会員がリニューアルオープン後に入会した会員であるから、多数の会員は、コースが短く、狭くなることにより、ゴルフ場施設利用権が侵害される結果になる。

また、改修工事により、これまで、本件ゴルフ場において会員、運営主体等が長年かけて醸成した有形・無形の価値も損なわれる。

(エ) 改修工事費用捻出の困難

本件各土地を明け渡した場合、開発許可申請期間、改修工事期間及び改修工事後の減収に照らし、被控訴人が必要な改修工事費用を投入することは、企業として経済的に不可能である。しかも、会員権価値が損なわれるため、預託金返還請求が続出することが想定される。被控訴人には、改修工事費用に見合う手持ち資金はなく、これを融資してくれる金融機関も存在しない。

したがって、被控訴人は、改修工事費用を捻出できない。

オ 本件ゴルフ場閉鎖・廃業に伴う多数の利害関係人の損失

(ア) はじめに

本件ゴルフ場の経営が継続できず、廃業となった場合、以下のとおり、多数の利害関係人に損失が生じる。

(イ) 借地に係る地権者の損失

本件ゴルフ場の用地のうち、借地に係る地権者は別表一記載のとおりであり、控訴人ら等を除いた一三名は、被控訴人との間の賃貸借契約を更新する意向を固めているところ、本件各土地の明渡しにより本件ゴルフ場を廃業した場合には、これら地権者らは、年間総額二一四九万四一二二円(平成二四年一月一〇日現在)(乙一八八)もの安定した賃料収入を失うことになる。

(ウ) ゴルフ会員の損失

本件ゴルフ場の廃業により、約一五〇〇名にものぼるゴルフ会員の施設利用権が事実上消滅することになるところ、本件ゴルフ場の一〇一一人の会員が、本件ゴルフ場の存続を要望する上申書(乙三二~三四及び乙四一)に署名している。

(エ) 地区住民の損失

ゴルフ場跡地への産業廃棄物の不法投棄、従業員の雇用喪失、交流の場が失われることによる地域の沈滞化等、地区住民にも損失が発生するところ、地元自治会は、このような事態を懸念し、本件ゴルフ場の存続を望んでいる(乙三一)。

(オ) 地元従業員の雇用損失

本件ゴルフ場の全従業員一一五名(平成二四年一月一〇日現在)のうち、○○地区在住の従業員六名、通勤時間三〇分圏内の従業員七五名の合計八一名が地元従業員であり、本件ゴルフ場の廃業により、これらの雇用は失われる(乙一八七)。

カ 控訴人らの本件各土地の必要性及び明渡しが認められない場合の不利益

(ア) 本件各土地を貸し続ける意思

控訴人らは、A3が被控訴人を経営し、本件ゴルフ場を運営している限り、本件各土地を被控訴人に貸し続ける意思であったというのであるから、そのことからしても、控訴人らが本件各土地を自ら使用する必要性は高くない。

(イ) 控訴人X4、同X5に対する代替地の提供

控訴人X4及び同X5は、本件土地三及び四を竹藪や畑として利用する旨主張している。

しかし、被控訴人が、和解案として、本件土地三及び四より広く、竹藪や畑に適している代替地の提供を申し出ているにもかかわらず、控訴人X4及び同X5は、これを拒絶していることからして、真実、竹藪や畑として利用する必要性がないことは明らかである。

(ウ) 本件各土地の賃料額

被控訴人が本件ゴルフ場用地として賃借している土地の賃料の坪単価は、年額で、最高一四五三円、最低八八二円、平均して一一七一円であるところ、控訴人X3分が一一六四円、同X4分が一一六三円、同X2分が一二五三円、同X5分が一一六四円であって、他の賃貸人と比べて著しく安いとはいえないし(乙一八八)、○○地区の資材置場の相場は、坪単価は年額でおよそ一二〇〇円であるから(乙一九二)、本件各土地の明渡しが認められない場合の控訴人らの不利益は格別大きいものではない。

キ 本件各土地の原状回復が不可能等

(ア) 原状回復が不可能

被控訴人は、大規模な開発工事を行って、昭和四九年に本件ゴルフ場をオープンしたが、平成六年に再び大規模な開発工事を行い、本件ゴルフ場をリニューアルオープンしたものであり、これにより、本件ゴルフ場の敷地の高低差や形状は大幅に変化しており、本件各土地についてもその正確な位置を特定することができず、原状回復は不可能である。

(イ) 本件各土地に到達できない

また、本件各土地は、本件ゴルフ場の敷地を通らずに到達することができない可能性がある。

ク 会社更生手続との関係

被控訴人は、会社更生手続を経て、多数の利害関係人の利害が適切に調整されて、被控訴人の維持更生が図られた。また、被控訴人は、会社更生手続によって倒産会社というレッテルを貼られ、以前のようなブランド力を発揮できなくなった。

以上の点も、控訴人らの本件各土地明渡請求が権利の濫用に当たるか否か判断するに際し、考慮されるべきである。

ケ 権利濫用の主張をする被控訴人の適格性

以下の問題によって、被控訴人の権利濫用を主張する適格性は否定されない。

(ア) 公道(市道)に関する問題

本件ゴルフ場内に市道が存在することは事実であるが、被控訴人は、この問題を大東市と相互に協力して適正な維持管理に努めるものとし、四条畷警察署の指導も受けつつ協議を重ねた結果、カート道を公道(市道)部分と私道部分に区分けし、カートは私道部分を走行し、市道部分を走行することはなくなった。

被控訴人は、大東市と継続的に、公道(市道)の付替え、公道廃止、払下げの手続につき協議中である。

(イ) 本件ゴルフ場までの進入路の問題

大阪生駒線の○○交差点から本件ゴルフ場ゲート(入口)までの進入路には、一部私有地が含まれ、現在は甲山A6(被控訴人の元取締役)が所有しているが、現在のところ、上記私有地を含め、進入路は、支障なく利用されている。

仮に、上記私有地の通行が妨げられたとしても、本件ゴルフ場の開発許認可上の進入路は、dスポーツ(練習場)のそばを通っている道であり、大阪生駒線から本件ゴルフ場への通行ができなくなるわけではない。

〔控訴人ら〕

ア はじめに

被控訴人の権利濫用の主張を争う。

本件各土地の明渡請求は、以下のとおり、権利の濫用には当たらない。

イ 判断の枠組み

(ア) 原則と例外

本件においては、本件各賃貸借契約は少なくとも期間満了により終了しているのであるから、本件各土地の明渡請求が認められるのが大原則である。

これが権利の濫用として認められないのは、権利者側に、害意などの主観的な悪質さが存在するか、明渡しにより貸主はごくわずかな利益しか得られないのに対し、借主はきわめて大きな不利益を被り、逆に明渡しをしないことにより貸主にはごくわずかな不利益しかないのに対し、借主がきわめて大きな利益を受けるといった例外的な場合、すなわち、国民の良識ある判断に照らし、権利者側に、権利侵害を受忍させて然るべき特別の事情が存在する場合に限られるというべきである。

そして、特別の事情があるかどうかを判断する上で重要な判断要素の一つは、明渡請求の対象となる施設が公共的な施設であるかどうかであるが、本件ゴルフ場はあくまで営利施設であって、公共施設ではない点を考慮すべきである。

(イ) 賃借人の改修費用の負担、賃貸人の土地利用の必要性の評価

土地所有者が賃借人に一定期間、ゴルフ場用地として土地を貸していた以上、賃借人は、その明渡しに際し、ある程度の改修費用が生じるのは当然であるし、土地所有者は、賃貸期間中、自ら賃貸土地を直接利用していなかったことも自明のことである。

それにもかかわらず、賃借人に土地明渡しに当たって改修費用が生じ、また、土地所有者は、それまで土地を直接利用していなかったから、土地利用の必要性が乏しいなどとして、当該土地の明渡請求が権利の濫用であると判断されるのであれば、およそゴルフ場に土地を貸した者は、ゴルフ場が廃業でもしない限り、一生土地の返還を受けられないという不合理な結果になることに留意すべきである。

ウ 控訴人らの本件訴訟の目的

控訴人らが本件訴訟を提起したのは、あくまで本件各土地の返還を受けたい一心からであって、被控訴人について会社更生手続開始決定がされることを牽制したり、支援事業者選定手続を牽制したり、あるいは本件ゴルフ場の運営に支障を生じさせ、被控訴人を困惑させるためではない。

控訴人らが、A3が被控訴人及び本件ゴルフ場の経営から閉め出されることだけは回避したいと考えていたのは事実であるが、それは、A3が本件ゴルフ場の経営を続けてくれさえすれば、本件各賃貸借契約の期間が満了した際に、返還を希望すれば、当初の合意どおり、本件各土地を確実に返還してもらえるという信頼があったからにすぎない。

控訴人らの本件訴訟の目的が被控訴人が主張するとおりであるならば、被控訴人について会社更生手続が開始され、支援事業者が決まった時点で訴訟を止めているはずであるが、そのような事実はない。

エ 控訴人ら個別判断の必要性

本件は、いわゆる通常共同訴訟であって、権利の濫用に当たるか否かの具体的事情は、控訴人ら個々によって異なるのであるから、控訴人ら個別、さらにいえば、個々の土地毎に判断すべきである。

オ 本件各契約当事者の意思

(ア) 本件各賃貸借契約は、控訴人らがA3からゴルフ場用地として貸してほしいと執拗に頼み込まれ、必要になった場合には本件各土地を返還する旨言われたため、締結したにすぎない。これは、次の各事実からも明らかである。

a 控訴人らとA3の関係が、親族あるいは親族の親友という親密な関係にあること。

b 本件各賃貸借契約締結当時、被控訴人は実質的にはA3のみが株主であった同族会社であったこと。

c 本件賃貸借契約一、三及び四の契約書には、期間が二〇年と明記されている一方、期間満了の際の更新についての定めがないこと。

d 控訴人X3が昭和五三年五月にb組との間で交わした賃貸借契約書(甲一〇六)においては、賃貸借の期間は一〇年とされ、当事者が協議の上更新することができる旨の条項が存在したにもかかわらず、昭和六三年に被控訴人と交わした賃貸借契約書(甲二の一~三)では、期間の定めのないものとされたこと。

e 本件賃貸借契約二(甲二の一~三)においては、被控訴人の代表者が交替した時は、当事者が協議の上、更改するものと規定されていること。

f 被控訴人においても、返還の場合に備えて、多額の費用をかけて、本件各土地の位置を特定するための測量図(甲一九、甲二〇~二二の各一・二)を作成していたこと。

(イ) X1らは、期間満了後は、本件ゴルフ場が誰の手で経営されようともその運営に協力しようとの意思は有していなかったし、A3からも、本件各土地が必要になった場合には返還する旨言われていた。このことは、次の各事実によって裏付けられている。

a 本件各土地がX1らにとって子孫に引き継ぐべき大切な土地であること。

b X1らが、あえて本件各土地の被控訴人への売却は拒否していたこと。

c X1らは、更新時期にさらに賃貸期間二〇年もの更新を行った場合、自己の存命中に返還を受けられなくなる危険性があったこと。

d 控訴人X3は、賃貸期間を定めると、それまで返還を受けられなくなることから、自己の存命中に必ず返還を受けることができるように、期間の定めのない賃貸借契約を締結したものであること。

e A3のゴルフ場経営の理念は地元との共存共栄を図ることにあり、ゴルフ場経営のため、被控訴人が控訴人らの土地の返還要求を拒むことは、A3の意思に反すること。

カ 本件各土地の明渡しがされた場合に生じる被控訴人の損失

(ア) はじめに

本件各土地を明け渡した場合でも、以下のとおり、本件ゴルフ場は十分な収益を上げられ、廃業のおそれなど絶対にあり得ない。なお、本件各土地の明渡請求が権利の濫用に当たるか否かの判断に当たって考慮されるべきは、これにより「被控訴人の倒産のおそれが全くないとはいえないか」ではなく、「倒産する具体的危険性があるか否か」である。

(イ) 本件ゴルフ場の経営継続が可能

a 控訴人ら改修案

本件各土地を返還した場合であっても、ホールを短く設定するなどのコースレイアウトの変更により、現行どおり18ホールを維持して、本件ゴルフ場の経営を継続していくことは十分に可能である。

(a) 例えば、別紙図面三(甲二九の二)の案(以下「控訴人ら改修案」という。)が一例である。

これによれば、アウトコースについては、パーは36から35へ、9ホールの合計距離は三一九六ヤードから二七四二ヤードへ、インコースについては、パーは36のまま、9ホールの合計距離は三〇七七ヤードから二七九〇ヤードへ変更され、18ホール合計で五五三二ヤード、パー71のゴルフ場を維持することが可能である。

(b) そして、株式会社スポーツ・クリエイション(以下「スポーツ・クリエイション」という。)の推計によれば、控訴人ら改修案による改修後も、来場者数は年間三万七〇〇〇人、キャッシュフローも年間六〇〇〇万円~七五〇〇万円程度確保できる。

ちなみに、本件ゴルフ場は、平成六年の改修以前は、アウトコースは、パー35、二四一七ヤード、インコースはパー34、二四二〇ヤードで営業を行っていた(甲三〇)。

(c) 被控訴人は、大阪府自然環境保全条例二八条所定の「ゴルフ場の建設」に当たるから、本件各土地の返還後もゴルフ場を続けるため、本件ゴルフ場の改修工事をするためには、大阪府知事との協定の締結が必要であり、本件ゴルフ場の外周及び本件各土地の境界線から約三〇mの樹林地帯を設ける必要があるなどとして、18ホールを維持するコース変更は不可能であると主張する。

けれども、緑の保全がされるのであれば、絶対に三〇m幅で緑地帯を設けなければならないということはなく、大阪府と被控訴人との協議によって、どのようなレイアウトにするか決めることが可能である。大阪府中部農と緑の総合事務所は、協議を経て控訴人ら改修案も可能であることを示唆している。

b 被控訴人改修案

これに対し、別紙図面二の被控訴人の改修工事案(乙一六九等)(被控訴人改修案)は、専門家ではないA7氏が作成したものであること、各ホールのレイアウト案が不合理であるなど、過剰な改修案であり、結果的に費用(合計三億〇三二四万円)がかさんでいることなどから、全体として不合理な案であり、参考にならない。

c 9ホールの場合

仮に、本件ゴルフ場を9ホールで営業するとしても、18ホール未満で営業する名門ゴルフ場は多数あるし、物理的に18ホールなければプレーが不可能ではなく、コースレート査定を受けられないわけではないし、コースレート査定を受けられないことで、公認ハンディキャップを取得できなくなるわけでもない。

本件ゴルフ場コースの設計者であるA8氏は、距離が短くなっても、立地条件や戦略性次第でコースの価値を高めることができるとの意見を述べている。

(ウ) 大阪中心部から極めて近い立地条件

被控訴人の業績に最も影響している要因は、大阪中心部から極めて近いという立地条件であって、本件各土地を明け渡したことにより、コースのレイアウト変更によってコースの距離が短くなることがあるなどしても、営業収入にさほどの影響はない。

本件各土地を返還したとしても、本件ゴルフ場は、平成六年の改修前のコースの一・六倍程度のコース面積は確保できるし、平成六年以前も繁盛していたことからすれば、入場者数を維持して十分な営業利益を確保することができるし、本件ゴルフ場の会員の六、七割は、平成五年以前からの会員であるから、これらの会員の権利を害することにもならない。

(エ) 改修工事費用等

控訴人ら改修案の工事であれば、約一億四〇〇〇万円~約一億五〇〇〇万円(甲一四二の一)程度で足りるはずである。

また、コース改修工事に当たっては、9ホールずつ改修するなどの工夫をすることもできるのであり、ゴルフ場全部を閉鎖する必要はないし、実際にも、平成六年の改修の際には、半分ずつ改修している。

さらに、コース改修等に費用がかかるとしても、被控訴人は本件ゴルフ場の隣接地でゴルフ練習場(dスポーツ)を経営しており、そこからの収益もある。

(オ) 本件訴訟の存在を認識して被控訴人の経営権を取得

被控訴人の会社更生手続が終結したのは、平成一八年一〇月三〇日であり、既に五年以上前のことであるから、被控訴人は通常の事業会社にすぎず、特に保護すべき必要性が高いわけではない。

また、被控訴人のスポンサーとして、被控訴人と実質的に同一であると評価できる株式会社アーバンコーポレイション(以下「アーバンコーポレイション」という。)は、会社更生手続において、控訴人らが賃貸等している土地が相当数存在し、その賃貸期限が切迫し、裁判上、明渡しまで求められる事態に発展していることを、デューデリジェンス(甲二六)や管財人の説明・注意(甲二七、三五、三七)を通じて十分に認識しながら、大阪中心部から極めて近いという立地条件に惹かれ、安易に控訴人らの訴えの取下げを期待して、被控訴人の経営権を取得したものである。

したがって、被控訴人が本件訴訟で敗訴し、本件各土地の明渡しを余儀なくされたとしても、このようなアーバンコーポレイションの経営判断の誤りによる不利益は、被控訴人に帰すべきものであり、アーバンコーポレイションから本件ゴルフ場の経営権を譲り受けたエーシーキャピタル株式会社(以下「エーシーキャピタル」という。)や株式会社キャムコ(以下「キャムコ」という。)についても、アーバンコーポレイションと同様の立場にあるというべきである。

キ 本件ゴルフ場閉鎖・廃業に伴う多数の利害関係人の損失

(ア) 控訴人ら以外の本件ゴルフ場の地権者の賃料収入は、一人当たり年間約一七七万円にすぎないし、地権者らは比較的裕福な生活をしており、本件ゴルフ場からの賃料収入で生計を立てている者は多くない。

(イ) 被控訴人が主張するゴルフ場跡地への産業廃棄物の不法投棄は、全く根拠のない憶測にすぎず、地域沈滞は被控訴人が責任を負うべき問題ではないし、雇用喪失といっても、地元で被控訴人に勤務している人はわずかである上、被控訴人は既に大幅な人員削減を行っている。

(ウ) 本件ゴルフ場の営業継続を希望する旨の地元○○地区住民の意見書や、本件ゴルフ場会員の上申書は、被控訴人が、本件訴訟に敗訴した場合は営業廃止するなどと事実と異なる情報を伝え、不安感を煽るなどして住民や会員に署名させたものであって、これらの者の真意を反映したものとはいえない。

ク 控訴人らの本件各土地の必要性及び明渡しが認められない場合の不利益

(ア) 控訴人らの本件各土地の必要性

a 総論

控訴人らは、本件各賃貸借契約を締結する以前は、本件各土地で農業を営むなどして、本件各土地を現実に利用していた。

本件各賃貸借契約については、借地借家法の適用はなく、控訴人らが期間満了を理由に本件各土地の明渡しを求める際に、「正当事由」は要求されていないのであるから、本件各土地の自己使用の必要性について高度なものを要求すること自体誤りである。

b 控訴人X2について

控訴人X2は、地元農協の幹部であり、近時、大企業も続々と参入を表明している大都市近接型農業の将来に大きな可能性を感じている。控訴人X2は、X1の強い遺志を継ぎ、本件土地一で農業を行う予定である。

c 控訴人X3、控訴人X4について

控訴人X4は、軽度ながら知的障害を有しており、農業以外の仕事に従事できないため、事実上、農業で生計を立てるしかない。

そのため、父親である控訴人X3は、控訴人X4のために、本件土地二を梅、レモン、椎茸などの果樹園として活用する計画を具体的に策定しており(株式会社フォス(以下「フォス」という。)提案の障害者自立支援法に基づく就労継続支援A型事業所の農地としての活用プラン(甲一七八))、これによれば、年間の収益は二〇〇〇万円以上見込め、現在被控訴人から得ている地代収入年一二〇〇万円より多額の収益が得られる。

d 控訴人X5について

控訴人X5は、本件土地四を亡夫であるA4ゆかりの大切な土地と考えている。控訴人X5は、本件土地四を昔と同様に、菜園として利用する予定である。

(イ) 明渡しが認められない場合の不利益

a 本件各賃貸借契約の期間が満了しているにもかかわらず、本件ゴルフ場が営業を続ける限り、本件各土地が返還されないこと自体、重大な不利益である。賃料が得られるからといって、損失がないとはいえないのは明らかである。

控訴人らは、高齢であり、自己の存命中に本件各土地の返還を受けて、これを子孫に引き継いでおきたいという強い思いがあるし、控訴人らが生前に本件各土地の返還を受けられないと、農地の場合と比較して、ゴルフ場用地の場合、多額の相続税が課せられるという不利益も受ける。

b 実際の相場からすれば、本件各土地を資材置場として賃貸する方が、ゴルフ場用地として賃貸するよりも、はるかに高い賃料を得ることができるのであり、現在の賃料額は高額とはいえないし、そもそも、被控訴人は、本件各賃貸借契約に基づく賃料の供託をほとんど履行していない。

ケ 本件各土地の原状回復の可能等

(ア) 原状回復が可能

地積測量図(甲一九、甲二〇~二二の各一・二)に基づき作成した座標求積図(甲七八)及び測量報告書(甲七九)により、本件各土地の位置は明渡執行が可能な程度に特定できている。

(イ) 本件各土地に到達可能

控訴人らは、被控訴人から本件各土地の返還を受けた後、市道を通行し、慣習法上の通行権又は囲繞地通行権に基づき、本件各土地まで赴くことができる(甲五四)。

コ 会社更生手続との関係

被控訴人は、会社更生手続を経て、借入金債務や預託金債務の重石が取れ、周辺のゴルフ場よりも競争力が増した。

会社更生手続において、多数の利害関係人の利害が調整されたのは、借入金や預託金に関する債権債務関係にすぎず、本件のような借地問題は何ら調整されておらず、同手続においてスポンサーとされた企業が解決するべき問題である。

サ 権利濫用の主張をする被控訴人の適格性

本件ゴルフ場の経営に、控訴人らの私益を凌駕するような公益的な利益がないことは明白である上、そもそも被控訴人による本件ゴルフ場の経営は違法なものであるから、被控訴人には、権利濫用の主張によって保護されるべき正当な利益は存在せず、控訴人らに対し、権利の濫用を主張する適格性にも欠けるというべきである。すなわち、

(ア) 本件ゴルフ場の客が、本件ゴルフ場内にある市道において、本来公道を走ることができない無車検、無保険の乗用カートを運転し、時に酒酔い運転を行うなど、道路交通法違反の行為が日常的に行われている。

(イ) 被控訴人は、本件ゴルフ場において、大東市の許可を得ることなく市道をトンネル状にし、無断でその上部を不法占拠して、大東市の土地の所有権を侵害している。

(ウ) 被控訴人は、本件ゴルフ場のクラブハウスを結婚式場としても利用しているが、クラブハウスがある部分は市街化調整区域であり、ホテルあるいは結婚式場建築のための開発行為を行うことができない区域である。

しかるに、被控訴人は、温泉、保養施設の建築等の用に供する目的で行う開発行為であるとして、大阪府知事から開発許可を取得したにもかかわらず、クラブハウスにあった温泉施設を取り壊して結婚式の写真撮影室に作り替えるなど、許されない営業を公然と行っている。

(エ) 本件ゴルフ場への来場者が、大阪生駒線(阪奈道路)から本件ゴルフ場への進入路として使用している道路は私有地であり、被控訴人は私有地を無断で使用しているのである。被控訴人は、上記進入路を使用することができなくなれば、他に適当な道路はないから、本件ゴルフ場の経営は成り立たず、そもそも被控訴人を保護する必要もない。

(オ) 被控訴人が、地元自治会に無断で、花火の打ち上げやヘリコプターの夜間遊覧飛行を行ったことから、地元自治会は被控訴人に抗議するなど、現時点において、被控訴人と地元住民との関係の改善は期待できない状況にある。

(3)  被控訴人による有益費償還請求権に基づく留置権の成否(争点(3))

〔被控訴人〕

ア はじめに

本件各土地は、被控訴人が行った大規模なゴルフ場開発工事により、その価値が増加しているから、被控訴人は、控訴人らに対し、有益費償還請求権に基づく留置権を主張する。

イ 被控訴人が支出した費用

被控訴人が支出した費用は、本件ゴルフ場全体で、構築物二七億一六六七万三二七〇円、コース施設一八億三九四六万二八四九円の合計四五億五六一三万六一一九円を下らない。そして、本件ゴルフ場の面積は四一七、三二〇・七二m2であるから、一m2当たりの費用支出額は、一万〇九一八円となる。

これを本件各土地の面積に乗じると、本件各土地に対する費用支出額は、以下のとおりとなる。

控訴人X2(本件土地一) 三七八六万三六二四円

控訴人X3(本件土地二) 三億六九四七万六〇三八円

控訴人X4(本件土地三) 五四〇万四四一〇円

控訴人X5(本件土地四) 四七九万三〇〇二円

ウ 価値増加額

本件ゴルフ場の価値増加額は、ゴルフ場全体で六億九七五六万六〇〇〇円であるから、一m2当たりの価値増加額は一六七二円となる。

これを本件各土地の面積に乗じると、本件各土地の価値増加額は、以下のとおりとなる。

控訴人X2(本件土地一) 五七九万八四九六円

控訴人X3(本件土地二) 五六五八万二一五二円

控訴人X4(本件土地三) 八二万七六四〇円

控訴人X5(本件土地四) 七三万四〇〇八円

エ 有益費償還請求権の放棄特約の不存在

本件では、社会通念上本件各土地の原状回復は不可能であるから、原状回復義務を負担する約定に、有益費償還請求権を放棄する旨の特約が含まれているとはいえず、仮に含まれているとしても、かかる特約は無効である。

〔控訴人ら〕

ア 有益費には当たらない

被控訴人の主張する投資額、価値増加額の金額は、いずれも根拠が乏しい。

そもそも、有益費とは、本件各土地の効用、利便性が増加し、本件各土地の客観的価値を増加するような場合における費用であるところ、ゴルフ場用地として造成整備されたからといって、客観的に本件各土地の効用や利便性が増加したとはいえない。返還された土地をゴルフ場として利用する予定のない控訴人らにとっては(控訴人らは、元々本件各土地を農地として利用していたものであるし、返還後も農地として利用する予定である。)、本件各土地の効用や利便性は、増加するどころかかえって損なわれているのであるから、土地の最有効利用とはいえず、その費用は有益費には当たらない。

仮に、被控訴人の行った本件ゴルフ場造成工事により、本件各土地の価値の増加が認められるとしても、被控訴人は、本件各土地を正にゴルフ場として長年使用してきたものであり、被控訴人の使用収益そのもののために支出した費用といえるから、この点においても有益費に当たらないことは明らかである。

イ 有益費償還義務の免除特約

仮に、被控訴人主張の費用が有益費に当たるとしても、本件各賃貸借契約においては、有益費償還義務を免除する黙示の特約があったというべきである。

すなわち、本件各賃貸借契約は、地縁血縁に根ざした特殊な人的信頼関係を理由として締結維持されてきた契約であって、控訴人らが取得する賃料にしても、一年につき坪単価六九八円と極めて低廉である。

このような特殊な本件各賃貸借契約において、控訴人らは、各契約終了時に、それぞれ多額の有益費の返還を請求されるということであれば、本件各契約を締結することはなかったし、また、被控訴人との間で、原状回復義務を明確に確認していたものであるから、被控訴人において有益費償還請求をするというのは、当事者の合理的意思解釈としても妥当でない。

ウ 期限の許与

仮に、被控訴人に有益費償還請求権が認められるとしても、控訴人らは、その償還について期限の許与(民法六〇八条二項ただし書)を求める。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

前記前提事実及び証拠<省略>によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件各土地の取得及びその利用状況等

ア X1(本件土地一)

X1は、昭和四四年六月一〇日、本件土地一のうち、一、三~九土地(当時の地目はいずれも田)を相続により取得した(甲五の一・三~九)。

X1は、昭和二二年一〇月二日、本件土地一のうち、二土地(当時の地目は田)を自作農創設特別措置法一六条による売渡しにより取得した(甲五の二)。

X1は、本件土地一を田として利用していた(甲七四)。

イ 控訴人X3(本件土地二)

控訴人X3は、昭和五三年五月四日、本件土地二のうち、一土地(地目は山林)を売買により取得した(甲六の一)。なお、同土地は、大阪府の要請により、先祖代々の耕地の一部が治水のため深野緑地になったため、それらの土地と事実上の交換により取得したものである(甲一五)。

控訴人X3は、昭和五九年二月八日、本件土地二のうち、二土地(地目は山林)を相続により取得した(甲六の二)。

控訴人X3は、昭和五三年八月二八日、本件土地二のうち、三土地(地目は山林)を売買により取得した(甲六の三)。なお、同土地も、本件土地二の一土地と同様の理由により、先祖代々の耕地と事実上の交換により取得したものである(甲一五)。

本件土地二は、柿、栗、桃の果樹園や椎茸栽培地として利用されていた。

ウ 控訴人X4(本件土地三)

控訴人X4は、昭和五五年二月四日、本件土地三(地目は畑)を売買により取得した(甲七)。

本件土地三は、良質のタケノコが採れる竹藪であった(甲一六)。

エ A4(本件土地四)

A4は、昭和四七年四月二八日、本件土地(地目は山林)を売買により取得した(甲八)。

A4は、本件土地四を菜園として利用していた。

(2)  被控訴人設立、本件ゴルフ場のオープンに向けての準備等

ア 被控訴人設立等

A3は、終戦直後から、地元である大東市○○地区の土砂を採取して、これを建設用に供給する事業を始めて成功し、昭和二三年に、土木建設業を営む「b組」を創業し、昭和三五年ころには、これを法人化して、株式会社b組を設立した(甲一一二)。

その後、A3は、○○地区の土砂が大量に搬出され、地元の山野が荒廃して水害も発生するようになったことから、地元の緑化に役立つ事業としてゴルフ場経営を考えるようになり、昭和三五年五月、ゴルフ場の経営を主たる目的とする被控訴人を設立した(甲四九)。なお、被控訴人は、実質的にはA3の一人会社である同族会社であった。

イ 本件ゴルフ場のオープンに向けての準備等

(ア) 本件ゴルフ場用地の購入、賃借等

被控訴人、b組及びA3は、被控訴人設立後、本件ゴルフ場用地の確保のため、付近の土地を購入したり、賃借したりしていった。

A3の本件ゴルフ場用地の購入交渉の際、売却に応じてくれなかった人の中に、控訴人X3及びA5が含まれていた。なお、控訴人X3は、A3の実姉の夫(A3の義兄)、A5は、A3の実兄であった。

(イ) 控訴人X3(本件土地二の賃貸借)

A3は、控訴人X3に対し、本件土地二をゴルフ場用地として買い取りたいと申し出たが、控訴人X3がどうしてもこれに応じてくれないため、賃貸借契約を締結する方針に変更し、控訴人X3に対し、賃借したい旨申し出た。

控訴人X3は、A3が義弟に当たることや同人がこれまで地元のために尽力してくれていたため、賃貸には応じることとした。

なお、賃貸借契約書は、その際には作成されず、昭和五三年五月一日になって、税金対策のため、b組との間で、本件土地二に関する賃貸借契約書(甲一〇六)が作成されたが、賃貸借期間は、交渉の結果、一〇年とされ、更新できることが記載された。

(ウ) A5(A2所有地の使用貸借)

A3は、A5(A2の亡夫)に対しても、同人の所有土地(A2所有地)をゴルフ場用地として買い取りたいと申し出た。しかし、宗教団体である真如苑の熱心な信者であったA5の妻A2が、「本件ゴルフ場周辺は地縛霊が強い地区なので、除霊し、安穏を祈願しなければならず、A2所有地にはやがて祠を建てようと考えているので、絶対売れない。」と反対し、これに応じてくれなかった。そこで、A3は、A2所有地の購入を断念し、A5に対し、代わりに一〇年間の賃貸借契約締結を申し出た。

これに対し、A5・A2夫婦は、A3が実弟・義弟に当たり、同人から、○○の発展のために本件ゴルフ場を作るので協力してほしいと頼まれたことや、今すぐに祠を建てる予定はなかったことから、必要な時には返還するとの条件で、貸借には応じるものの、賃料を受領すると返してもらいにくくなるので、無料で貸すことにすると答えた。このようにして、A5は、b組に対し、本件ゴルフ場用地として、A2所有地を無償で貸与した。

なお、A5は、A2所有地を無償で貸与した後も、自ら固定資産税を負担していた(しかも、ゴルフ場用地として、従前の農地、山林よりも高額の固定資産税が課されている。甲一二一)。

(エ) 他の賃貸人との賃貸借契約の内容

b組が本件ゴルフ場用地として付近住民から土地を貸借した際の賃貸借契約書の一般的な内容は、控訴人X3のようにA3と特別な関係にある人との間で作成された契約書の内容とは異なっていた。

例えば、A3は、昭和四六年一二月二日、A9、A10との間で土地賃貸借契約を締結した(乙九の一・二)が、同契約書には、①賃貸借契約期間は三年間であるが更新できること、②A3がA9、A10に対し一坪当たり一〇〇〇円の保証金を預託し、同人らが賃貸土地の返還を受ける際に同保証金をA3に返還すること、③A9、A10は、ゴルフ場の開設経営に協力する義務があることが記載されている。

このように、A10やA9は、A3と賃貸借契約を交わすに際し、更新を予定した条項を定め、A3から、土地を購入するのと同程度あるいはそれを上回る保証金の預託を受けていた(乙一三四の「差入保証金」)。

(オ) 本件ゴルフ場のオープン

被控訴人は、昭和四九年八月ころ、本件ゴルフ場(当時、18ホール、パー70、全長五五四五ヤード)をオープンした。当時の本件ゴルフ場の範囲及びコースレイアウトは、別紙図面四の旧コース記載のとおりであった(甲八九)。

(3)  本件ゴルフ場の拡張、本件各賃貸借契約等

ア A2の使用貸借、控訴人X3の賃貸借

(ア) A2(A2所有地)の使用貸借

A5が昭和五〇年八月四日に死亡し、A2がA2所有地を相続した(甲九の一~九)。A2は、引き続き、b組に対し、本件ゴルフ場用地として、A2所有地を無償で貸与した。

A2は、昭和五四年五月から平成一七年七月まで、A3に依頼されて、甲山A11(A2の息子)ともども、被控訴人の監査役(A11は取締役)に名目的に就任しており、被控訴人の財務諸表上は、その間、取締役報酬、監査役報酬が支給されたこととされているが(乙六七、六八~七〇の各二)、実際には、その間、取締役報酬や監査役報酬を受領していなかった(甲一一二、一二九)。

(イ) 控訴人X3(本件土地二)の賃貸借

控訴人X3は、引き続きb組に本件土地二を賃貸し、昭和五四年五月から平成一八年六月まで、A3に依頼されて、被控訴人の取締役に名目的に就任しており、被控訴人の財務諸表上は、取締役報酬が支給されたこととされているが(乙六七)、実際には、その間、取締役報酬を受領していなかった(甲一一二、一二九)。

(ウ) 控訴人X3(本件土地二)の賃貸借(更新)

A3は、b組と控訴人X3との間の一〇年の賃貸借期間の満了が迫ってきたため、控訴人X3に対し、賃貸借契約の更新を申し出て、もう二〇年間貸してくれるように依頼した。

これに対し、控訴人X3は、賃貸借契約の更新には応じたものの、「二〇年間も貸したら、期限が来た時に自分が生きているかどうかわからない。死ぬ前に、跡継ぎの控訴人X4に、きちんと本件土地二を引き継いでおきたい。いざと言うときに返してもらえるように、期限を決めたくない。」と述べるので、A3もこの提案を了承した。

そこで、控訴人X3は、平成六三年五月二日、被控訴人に対し、賃貸期間を定めずに、本件土地二を賃貸した(本件賃貸借契約二)(甲二の一~三)。同契約書には、更新に関する条項は全く存在せず、「被控訴人の代表者が交替したときは、契約を協議の上更改するものとする」旨の条項が存在する。

イ 控訴人X4、X1、A4の賃貸借

(ア) 本件土地一、三及び四の賃貸借申入れ等

a A3は、昭和六一年ころから昭和六三年ころにかけ、地元の更なる活性化のため、地元住民からさらにゴルフ場用地を買い取り、本件ゴルフ場を拡張して、大きなゴルフ大会も開ける名門コースにするため、本件ゴルフ場を改装しようと計画した。

A3は、その際、X1、控訴人X4及びA4に対しても、本件土地一、本件土地三及び本件土地四の購入を申し入れた。なお、X1は、○○地区の区長を務めており、またA3の兄と戦友の関係にあり、控訴人X4は控訴人X3の長男、A4はA3の実兄であった。

b ところが、A3は、X1、控訴人X4及びA4から、「百姓にとって、土地は親から授かり子に引き継いでいく大切なものであるから、売ることはできない。」と拒絶されたので、同人らに対し、それなら土地を貸してほしいと申し入れた。

これに対し、X1、控訴人X4及びA4は、A3の上記申入れの趣旨を理解し、「期限が来たらちゃんと返してくれると約束してくれるのであれば、貸してもよい。」と述べたので、A3は、二〇年間、X1らから本件土地一、三及び四を賃借することとした。

c そして、本件賃貸借契約一、三及び四には、将来、確実に返還できるようにするため、X1、控訴人X4及びA4ら立会いの上、本件土地一、三及び四の境界を確認し、新たに土地測量図を作成する旨の条項が存し、これに基づき、実際に測量図(甲二〇~二二の各一・二、一二二)も作成された。

その際、控訴人X3及びA2の関係でも、本件土地二、A2所有地の測量図が作成された(甲一八の一~三、一九)。

(イ) 控訴人X4(本件土地二)の賃貸借

控訴人X4は、昭和六一年一二月ころ、b組に対し、昭和六二年四月一日から期間二〇年の約定で、本件土地三を賃貸した(本件賃貸借契約三)(甲三、七)。同契約書には、更新に関する条項は全く存在しない。

b組は、その後まもなく、控訴人X4の承諾を得て、被控訴人に対し、本件土地三の賃借権を譲渡した。

(ウ) X1(本件土地一)の賃貸借

X1は、昭和六二年ころ、b組に対し、昭和六二年四月一日から期間二〇年の約定で、本件土地一を賃貸した(本件賃貸借契約一)(甲一、五の一~九)。同契約書には、更新に関する条項は全く存在しない。

b組は、その後まもなく、X1の承認を得て、被控訴人に対し、本件土地一の賃借権を譲渡した。

(エ) A4、控訴人X5(本件土地四)の賃貸借

a A4は、昭和六二年ころ、b組に対し、昭和六二年四月一日から期間二〇年の約定で、本件土地四を賃貸した(本件賃貸借契約四)(甲四、八)。同契約書には、更新に関する条項は全く存在しない。なお、本件賃貸借契約一、三及び四の契約書の内容は、ほぼ同一である。

b組は、その後まもなく、A4の承諾を得て、被控訴人に対し、本件土地四の賃借権を譲渡した。

b A4は、平成一五年一月一六日に死亡し、控訴人X5(A4の妻)が本件土地四を相続して、本件土地四の賃貸人としての地位を承継した(甲八)。

ウ 本件ゴルフ場の拡張等

(ア) 「dスポーツ」の開設

被控訴人は、平成四年九月、本件ゴルフ場の隣接地に、ゴルフ練習場及びアイアンコースを新設して、スポーツ施設「dスポーツ」を開設した(甲一一五)。

(イ) 本件ゴルフ場の拡張等

被控訴人は、地下鉄中央線開通工事や第二阪奈道路建設の際に発生した多量の土砂の廃棄を依頼されたことから、これを利用して急傾斜の本件ゴルフ場を整地して改築し、平坦な距離の長いコースにするためのリニューアル工事を行うこととした。

平成六年一一月、上記リニューアル工事は完成し、コースが一・七倍に拡張され、現在の本件ゴルフ場(18ホール、パー72、全長六二七三ヤード)が整備された。

なお、上記リニューアル工事により、本件ゴルフ場内を公道(大東市の市道)(荒池田畑線、南谷荒池線、荒池田原線)が横切ることになることは認識されていたが、当時は、ゴルフカートが一般的ではなかったため、公道をゴルフカートが通行することの法的問題は意識されていなかった(甲一〇)。

リニューアル工事後の本件ゴルフ場のコースレイアウトと本件各土地及びA2所有地との位置関係は、別紙図面一記載のとおりである。

(ウ) 「eホテル」の開設

被控訴人は、平成七年九月、本件ゴルフ場のクラブハウスを新築して、ホテル「eホテル」を開設した(甲一一五)。

(4)  被控訴人の民事再生手続開始申立てから会社更生手続開始の直前まで

ア 被控訴人の借入金の増大、資金繰りの悪化等

被控訴人は、dスポーツの土地取得・造成及び建築費用として約八七億円、本件ゴルフ場のリニューアルのための土地取得・造成費用として約九〇億円を調達したが、これらの建築資金は、従前から金融機関と取引があり、被控訴人に比して信用力が高かったb組が借入れを行い、同社が被控訴人に対し融資する形で準備された。

被控訴人は、b組に対する返済に当たっては、本件ゴルフ場の新規会員募集により得られる入会金及び預託金を原資とする計画を立案していたが、いわゆるバブル経済が崩壊し、それまで右肩上がりであったゴルフ場会員権相場も大幅な反落局面に陥った煽りを受け、被控訴人の会員募集は想定を大幅に下回り、予定していた借入金の弁済ができなくなった。

そこで、被控訴人は、本件ゴルフ場、dスポーツ及びeホテルにおける事業収益を原資として、b組に対する借入金債務を弁済せざるを得なくなったが、本件ゴルフ場の一人当たりの客単価の低下やeホテルにおける結婚式の催行の減少などにより、事業収益からのb組への弁済は利息分に留まり、元本の減少が進まなかった。

被控訴人は、その後、人件費の削減やdスポーツの一部の売却などにより、b組に対する借入金返済に努めたものの、平成一六年末ころにおいても、なお同社に対する借入金は約一三〇億円に上っていた。

イ 民事再生手続開始の申立て等

(ア) 民事再生手続開始の申立て

b組は、以上のような状況下で、被控訴人から十分な弁済を受けられないため、金融債権者に対して弁済期にある債務を弁済することができない状況になり、平成一七年五月一九日、大阪地方裁判所に対し、民事再生手続開始の申立てを行った。

被控訴人は、b組が再生手続開始に至ると、その影響を受けて、預託金返還請求訴訟や仮差押えの申立てが一気に噴出することが予想されたため、前同日、大阪地方裁判所に対し、民事再生手続開始の申立てをした(乙六四)。

大阪地方裁判所は、平成一七年五月二六日、b組及び被控訴人に対し、民事再生手続開始決定をした。

(イ) 上申書の提出

○○自治会の役員(X1ほか二六名)は、平成一七年五月二九日、大阪地方裁判所に対し、①○○自治会の住民は、長年にわたり、甲山氏一族の経営する本件ゴルフ場と共存、共生してきたこと、②今後、本件ゴルフ場を外資系運営会社が経営することになると、本件ゴルフ場の名門性が失われ、ゴルフ場周辺の環境も大きく崩れ、雇用の問題や地域の出入り業者の経済的なつながり等に大きな不安を感じているので、現経営陣の下で運営されることを強く希望し、外資が参画することには強く反対することなどが記載された上申書(甲一二の一~二七)を提出した。

ウ 会社更生手続開始の申立て等

(ア) 会社更生手続開始の申立て

ところが、スター・キャピタル(b組に対する債権者であり、かつ被控訴人に対する更生担保権者であるモルガン信託銀行株式会社のグループ会社であって、被控訴人の民事再生手続開始申立後に、被控訴人の個人会員から預託金返還請求権を買い取って、申立資格を取得〔甲一六九〕)は、上記民事再生手続において予想される弁済条件(同手続開始申立書によれば、一般再生債権への弁済は一〇年間で一%である。)等を不服として、平成一七年七月八日、大阪地方裁判所に対し、被控訴人につき会社更生手続開始の申立てをした。

(イ) 被控訴人の対応

被控訴人は、会社更生手続開始の申立てが認められるべきでないとして、これを争った(乙六五)。

(ウ) 控訴人らの対応

a 賃貸借契約の解除通知等

控訴人X3及びX1は、平成一七年七月一二日、被控訴人に対し、内容証明郵便(乙二)により、被控訴人について会社更生手続が開始されれば、本件賃貸借契約一及び二を解除し、同土地の明渡しを求める旨通知した。

A10、A12、A13、A14、A15、A16、A17、A18、A19、控訴人X5、控訴人X4、A20及びA2は、同月二二日、被控訴人に対し、内容証明郵便により、被控訴人について会社更生手続が開始されれば、同人らと被控訴人との間の賃貸借契約ないし使用貸借契約を解除し、同土地の明渡しを求める旨通知した。

b 裁判所への上申書等の提出

X1、A4(代理人・控訴人X5)、A2、控訴人X4、控訴人X3は、平成一七年七月ころ、大阪地方裁判所に対し、①噂されている外資が経営参画するようなことがあれば、一切土地を貸す意思はない、②被控訴人が現経営陣の下で運営され再建を果たすことを、地元の地主として強く希望する旨の上申書を提出した(乙七の一・三・五・一一・一二)。

X1は、○○自治会区長として、平成一七年七月二一日、大阪地方裁判所及び調査委員に対し、①民事再生手続を継続し、○○区民協力の下、甲山一族を中心とする現経営陣による自主再建を進めること、②地元に縁もゆかりもない外資系資本主導による会社更生手続開始を認めない旨の要望書を提出した(乙六三)。

エ 被控訴人の概要

被控訴人の会社更生手続開始申立て当時の概要は、次のとおりであった。

(ア) 役員

代表取締役社長はA3であり、他に甲山A6(A3の長男)外七名(甲山A11を含む。)の取締役がいる。

(イ) 資本等

資本金は一〇〇〇万円であり、発行済株式総数は二万株である。株主はいずれもA3の親族(A2・一〇〇株、甲山A11・一三〇〇株を含む。)であり、そのうち甲山A6が約五二・六%を保有している。

(ウ) 本店、営業施設

本店事務所所在地である肩書住所地は、本件ゴルフ場のクラブハウス及びeホテルとして利用されている。また、同所<以下省略>にdスポーツの営業所があり、同所は本店所在地と実質的に隣接している。

(エ) 従業員

契約従業員が八四名、アルバイト従業員が六八名である。

(オ) ゴルフ会員

約一二〇〇名の正会員及び約四〇〇名のGFU会員がいる。

(5)  被控訴人の会社更生手続開始決定から同終結決定の直前まで

ア 会社更生手続開始決定等

大阪地方裁判所は、平成一七年七月三一日、被控訴人に対し、会社更生手続開始決定をし、同日、弁護士Y1を管財人に選任した(以下「Y1管財人」という。)(乙一)。同開始決定により、被控訴人の民事再生手続は中止となった。

同裁判所は、同年八月三日、再生手続中のb組に対し、管理命令を発令した。

イ 会社更生手続開始決定に対する即時抗告等

被控訴人は、平成一七年八月一二日、大阪高等裁判所に対し、会社更生手続開始決定に対する即時抗告を申し立て(乙三)、同月二六日付けで、即時抗告理由書(乙四)を提出して、その中で、次のとおり主張した。

(ア) 本件ゴルフ場に土地を貸している地権者は、関係人説明会において、被控訴人に対し、ゴルフ場の土地の明渡しを求めて提訴していることを表明し、地権者は、今後いかなることがあっても、甲山一族以外の者とは賃貸借契約をしない旨明言している。

(イ) 本件ゴルフ場は、コース全体に占める借地の割合が約二割もある上、地権者の土地に対する思い入れが極めて強いので、地権者の意向を無視した場合、借地の利用不能ないし深刻な紛争の多発を招くことから、地権者の意向を無視しては事業の再建は極めて困難であり、会社更生手続に反対する地権者の意向も最大限尊重されなければならない。

ウ 控訴人らの本件訴訟提起等

控訴人ら及びA2は、平成一七年八月一二日、本件訴訟を提起し、本件訴訟の訴状により、被控訴人に対し、債務不履行を理由に、本件各賃貸借契約の解除、A2所有土地についての使用貸借契約の解除の意思表示をした。

エ 会社更生手続の進行状況等

(ア) 支援事業者の公募等

a Y1管財人は、会社更生手続において、自主再建を断念し、第三者への営業譲渡等による手法を選択し、平成一七年一二月五日を期限として支援者を公募した(甲一六九の資料七)。

その際、被控訴人の旧経営陣の一部及び従業員らは、Y1管財人の補助者として、訴訟資料等の関係資料をもとに、候補者らに対するデューデリジェンス(特定の目的のため、依頼人等特定の者が必要としている事項について、そのニーズを充足するような範囲で調査を実施するものであり、現状を把握するための事前調査である。詳細につき甲二六)に対応することになり、①本件ゴルフ場の敷地の約二割が借地であること、②その一部について本件訴訟を提起されていること、③近く期限を迎える地権者も少なくないこと、④ゴルフ場の安定的継続には交渉等により借地人らの同意を得る必要があること等について、詳細な説明がされた(甲二七の一~三五、六二)。

b Y1管財人は、平成一七年一二月八日、支援事業者の選定手続の参加者に対し、本件ゴルフ場に関するコース場の借地問題、コース内に所在する市道の問題(前記(3)ウ(イ))(甲三八)などの解決を事業リスクとして、被控訴人の各事業を現状有姿のまま支援対象事業とした場合、支援事業者となる意向を有するか等につき、意見を求めた(甲一四、三七)。

c 当時は、被控訴人ゴルフ会員の多数も被控訴人の民事再生手続を支持しており、これを支援するゴルフ会員等が「阪奈ホールディングス株式会社」を設立して、支援事業者として応募する動きがあった(乙八)。

(イ) 支援事業者の選定等

Y1管財人は、公募入札の結果、上記の事業リスクの点を了解して支援事業者となる意向を表明したアーバンコーポレイション(甲五〇、五一)(平成一九年八月三一日現在、資本金一九〇億七三八二万〇九一六円)を支援事業者に選定した(甲三五)。

Y1管財人は、その後、アーバンコーポレイションが提供した資金をもとにした更生計画案(甲一一五、乙六一)を作成したが、同計画案にも本件訴訟の係属の事実が記載されている。上記更生計画案は、大阪地方裁判所から法定の要件を満たすとして認可され、大阪高等裁判所も、平成一八年六月九日、会社更生手続開始決定に対する即時抗告をした(甲一六九の資料九)。

これを受けて、被控訴人は、平成一八年八月三一日、一〇〇%減資になり、株式会社アーバンクラシック(資本金一〇〇〇万円)(アーバンコーポレイションの完全子会社)(以下「アーバンクラシック」という。)(甲四七)が、被控訴人(資本金一億円)が新たに発行した全株式を取得した(甲四九)。

そして、さらに株式会社クラシック(資本金一〇〇〇万円)(甲一二六)が、本件ゴルフ場の管理・運営を委ねられた。

(6)  被控訴人の会社更生手続終結決定以降

ア 会社更生手続終結決定等

大阪地方裁判所は、平成一八年一〇月三〇日、被控訴人について、会社更生手続の終結決定をした。

なお、会社更生手続の終結時点では、被控訴人の確定更生担保権約二四億円、一般更生債権のうち預託金返還請求権以外約一六四億円、一般更生債権のうち預託金返還請求権約四二億円は、更生計画により一般更生債権について大幅な債務免除が認められたため、弁済により全て消滅したか消滅することが予定されていた(甲一一五)。

イ 本件ゴルフ場の経営等

(ア) 経営主体

a アーバンコーポレイションに変更

本件ゴルフ場の経営主体が、平成一八年一一月、Y1管財人からアーバンコーポレイションに変更された。

b アーバンコーポレイションが倒産

アーバンコーポレイションは、同社社長が反社会的勢力との取引が噂されて、金融機関からの資金調達が厳しくなり(甲七二)、平成二〇年八月一三日、東京地方裁判所に、民事再生手続開始の申立てをし(甲七三)、東京地方裁判所は、同月一八日、同社について、民事再生手続開始決定をした(甲六七、乙五九)。

アーバンコーポレイションは、平成二〇年一一月六日、監督委員の同意を得て、一〇〇%子会社のアーバンクラシック(被控訴人の全株式を保有)の株式を、事業再生ファンドのエーシーキャピタルに譲渡した(乙六〇)。

c エーシーキャピタル、キャムコ

これに伴い、被控訴人は、アーバンコーポレイション傘下からエーシーキャピタル傘下に移った。

エーシーキャピタルは、平成二一年七月二七日に解散し(甲一〇〇)、キャムコ(不動産再生、M&Aが事業目的)(甲一二七)がアーバンクラシックの全株式を取得し、本件ゴルフ場の経営権を取得した(甲九五)(当審第一三回弁論準備手続調書参照)。

(イ) 市道をカート道として使用している問題

被控訴人は、ゴルフ場用地内を公道が横切っている点については、大東市の行政指導に基づき、カート道として利用されている市道に関し、カート道の中央付近にカラーコーンを並べて、市道と市道でない部分に区分けするという応急措置を取った(甲一二四)。

ウ 控訴人ら(本件賃貸借契約一~四)、A2(使用貸借)の動向

(ア) 控訴人らは、平成一八年一二月二七日付け内容証明郵便(甲一三)で、被控訴人が本件各土地の明渡しを怠っていることにより発生している遅延損害金を早急に支払うように求めた。

(イ) 平成一九年三月末日、本件土地賃貸借契約一、三及び四の契約期間が満了した。

(ウ) X1は、平成二〇年一二月二日に死亡し、控訴人X2(X1の五男)が本件土地一を相続した。

(エ) 当裁判所の平成二三年一二月二六日の弁論準備手続期日において、A2と被控訴人間において、被控訴人がA2から賃借していた土地を平成二六年一一月八日限り、明け渡す旨の裁判上の和解が成立した。

エ 利害関係者の動向

(ア) ゴルフ場用地の賃貸人

被控訴人に本件ゴルフ場用地を賃貸している者は、別表一記載のとおりであるが、そのうち、以下の者は、平成一九年八月四日~同年九月九日までの間に、今後契約満了の時期が来た際には、同契約を更新する意向であることを表明した。

A16(乙一八)、A15(乙一九)、A20(乙二〇)、A13(乙二一)、A17(乙二二)、A12(乙二三)、A10(乙二四)、A21(乙二五)、A22(乙二六)、A24(乙二七)、A15(乙二八)、A19、A18(乙二九)、中垣内村有財産管理部会(乙三〇)

(イ) 地元自治会

大東市○○地区自治会の役員は、平成一九年八月三〇日、原審宛に、本件ゴルフ場が営業廃止された場合、①ゴルフ場跡地に産業廃棄物を不法投棄される危険性、②地区住民の雇用問題の惹起、③地域の沈滞化の危惧、④本件ゴルフ場への賃貸料で生計を支えている会員及び団体の収入源の消滅などを心配し、阪奈ゴルフ場が現在のままで存続することを求める上申書(乙三一)を提出した。

(ウ) ゴルフ会員

a ゴルフ会員三一七名は、平成一九年八月二四日~同月二六日ころ、原審宛に、本件ゴルフ場が今までどおり存続され、何も変わることなくプレーができることを要望する旨の上申書(乙三二の一~五、三三の一~六、三四)を作成した。

さらに、ゴルフ会員六九四名が、平成一〇年一〇月二六日ころまでに、原審宛に、本件ゴルフ場が今までどおり存続され、何も変わることなくプレーができることを要望する旨の上申書(乙四一の一~六九四)を作成した。

b ただし、上記上申書の文案は、被控訴人が作成したものであり、上申書に署名したゴルフ会員の中には、被控訴人から本件訴訟で敗訴した場合には本件ゴルフ場が営業廃止になると説明されて署名したものであって、本件ゴルフ場が改修されることにまで反対するつもりはないとの意見の人がいる(甲四二~四六)。

c ゴルフ会員二〇名(A23外)は、平成二三年一一月~一二月ころ、本件ゴルフ場を現状のまま存続させることを希望する旨の当裁判所宛の陳述書(乙一七九の一~二一)を作成している。

二  本件賃貸借契約の解除の効力(争点(1))の検討

(1)  本件各賃貸借契約書の記載内容

X1、控訴人X4及び同X5と被控訴人との間の本件賃貸借契約一、三及び四の各契約書(甲一、三、四)においては、これら各契約の終了原因として、いずれも「乙(借主)が約定の賃料を二年以上延滞したとき、その他本契約に違反したときは、甲(貸主)は催告を要せず本契約を解除することができる。」(第七条)と記載されているのみであって、控訴人らが主張するような事由(A3及びその一族が被控訴人を経営し、本件ゴルフ場を運営していくこと。)が被控訴人の債務の内容であって、その不履行をもって上記各賃貸借契約の終了原因とする旨の約定がされたことを窺わせる条項はない。

また、控訴人X3と被控訴人との間の本件賃貸借契約二の契約書(甲二の一~三)においても、「乙(借主被控訴人)の代表者が交替した時は、本契約を甲(貸主控訴人X3)乙協議の上更改するものとする。」(第五条)と記載されているに止まり、同じく、控訴人らの主張する上記事由を被控訴人の債務とし、その不履行を同契約の終了原因とすると解される条項は存在しない。

(2)  検討

後記で認定するとおり、控訴人らは、A3との間の特別な信頼関係に基づいて本件各賃貸借契約を締結したことは明らかであるものの、控訴人ら主張の債務不履行解除が認められるためには、そのような本件各賃貸借契約締結の経緯が認定できるのみでは不十分であって、A3及びその一族が被控訴人を経営し、本件ゴルフ場を運営していくことが被控訴人の債務の内容であって、その不履行をもって本件各賃貸借契約の終了原因とする旨の約定がされる必要があるところ、上記のとおり、控訴人らについて、被控訴人との間で、そのような約定がされたとまでは認め難い。

したがって、控訴人ら主張の債務不履行解除は認められない。

三  本件各土地の明渡請求の権利濫用該当性(争点(2))の検討

(1)  本件各賃貸借契約の終了について

前記前提事実(5)記載のとおり、本件賃貸借契約一、三及び四は、いずれも平成一九年三月三一日の経過によって、賃貸借契約上の契約期間満了により終了し、期間の定めのない本件賃貸借契約二は、本件訴状による解約の申入れから一年を経過した平成一八年九月二日をもって、同契約は終了したものである。

(2)  本件各土地の明渡請求の権利濫用該当性について

ア 基本的な考え方

一般に、権利濫用の成否を決定する基準として、(ア)主観的要件ないし権利濫用認定の主観的標識(権利行使者が相手方に対して加害意思ないし加害目的をもっていること)と、(イ)客観的要件ないし権利濫用認定の客観的標識(権利行使に当たって対立する当事者の利益の評価との比較考量により、両利益に不均衡があり、私的利益相互間の調整が図られる必要のあること)とが存在し、権利濫用に当たるか否かは、この二要件に従って慎重に判断する必要がある(最高裁判所昭和五七年一〇月一九日第三小法廷判決・裁判集民事一三七号三七三頁参照)。

そして、権利行使者側に(ア)の要件が存在しない場合に、(イ)の要件だけで権利の濫用に当たるかを判断する場合、これを安易に行うことは、とかくすると、巨額の投資による事業であれば、違法でも既成事実として優先してしまうという不当な結果となることから、とりわけ(イ)の要件のみで権利の濫用に当たるとの判断をする場合は、その判断を慎重に行う必要があるというべきである。

イ 控訴人らの本件訴訟の目的

(ア) 被控訴人の主張等

被控訴人は、控訴人らが本件訴訟を提起した目的は、被控訴人について、会社更生手続開始決定がされることや支援事業者選定手続を牽制したり、本件ゴルフ場の運営に支障を生じさせ、被控訴人を困惑させることにあると主張している。

なるほど、前記一(4)イ(イ)及び同ウ(イ)(ウ)、同(5)イ及びウの認定事実によれば、控訴人らが、被控訴人について、会社更生手続ではなく、A3ら旧経営陣による民事再生手続を支持していたことは明らかである。

(イ) 検討

a しかしながら、前記一(1)ないし(3)認定に係る本件各賃貸借契約締結に至る経緯をみると、控訴人らがそのような態度を示していたのは、A3と控訴人らが親族等の特別の信頼関係にあり、契約締結の経緯からしても、A3ら旧経営陣が被控訴人を経営している方が、本件各土地の返還交渉を容易に進められると考えたことにあると認められ、控訴人らが、ことさら、会社更生手続開始決定がされることや、支援事業者選定手続を牽制したり、本件ゴルフ場の運営に支障を生じさせたり、被控訴人を困惑させるために、本件訴訟を提起したとまで認めることは困難である。

b この点、控訴人らは、本人尋問において、本件ゴルフ場が甲山一族の経営によって存続する限り、本件各土地を被控訴人に貸し続ける意思であったかのような供述をしている。

しかしながら、その供述の本意も、A3ら旧経営陣が被控訴人を経営している方が、本件各土地の返還交渉を容易に進められると考えたことにあるという程度のものにすぎず、控訴人らの上記のような供述のみから、本件訴訟を提起した目的が、専らA3らの支援にあると即断することは相当ではない。

このことは、控訴人らが被控訴人の会社更生手続が終結し、A3らが経営陣に復帰する余地がなくなった後も、立証のために多額の費用をかけて本件訴訟を継続していることからも、容易に推認できるものである。

c したがって、控訴人らが本件訴訟を提起した目的が、被控訴人について、会社更生手続開始決定がされることや支援事業者選定手続を牽制したり、本件ゴルフ場の運営に支障を生じさせ、被控訴人を困惑させることにあったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

ウ 本件各賃貸借契約当事者の意思

(ア) 被控訴人の主張等

被控訴人は、X1ら本件各賃貸借契約の当事者は、本件各賃貸借契約締結の際、本件ゴルフ場が存続する限り、本件各土地の明渡しを求めることを予定していなかったと主張している。

なるほど、本件ゴルフ場用地には、別表一記載のとおりの地主から賃借した土地が含まれており、これらの土地(本件ゴルフ場用地の約二割に当たる〔乙四―五頁第三〕。)は本件ゴルフ場内に点在していて、これらの土地を全部明け渡すことになると、本件ゴルフ場の経営が困難になることが予想されることからすると、一般的には、本件ゴルフ場用地として賃借する際の貸主の意思が上記のとおりであったと考える余地は、十分にあるものと考えられる。

(イ) 検討

a しかしながら、ここで注意するべきは、控訴人らによる本件各賃貸借契約締結の際の意思は、他の貸主の賃貸借契約締結の意思とは大きく異なっているということである。

すなわち、前記一(1)ないし(3)のとおり、①X1らは、A3と親族等の特別な関係にあること、②X1らは、A3から懇願されて、本件各土地をb組に賃貸したが、その賃貸借契約には、更新を予定した条項は全く存在せず、本件賃貸借契約二には、被控訴人の代表者が交替した場合には、当事者が協議の上更改する旨の条項まで存在すること、③X1らは、返還時に備えて、実測測量図を作成していること、他方、④例えば、A10やA9は、A3と賃貸借契約を交わすに際し、更新を予定した条項を定め、A3から、土地を購入するのと同程度あるいはそれを上回る保証金の預託を受けていたことなどの事情がある。

これらの事実からすると、X1らは、単に「ゴルフ場用地」として本件各土地を賃貸したのではなく、A3との特別の信頼関係に基づき、「A3が経営するゴルフ場用地」として賃貸したものであると認められるから、本件各賃貸借契約を締結した際のX1らの意思としては、賃貸借の期間が満了した場合は、本件各土地が返還されることを原則とし、その際のA3との交渉如何によっては、引き続き更新条件等を検討した上で賃貸することもあり得る程度のものであったと認めるのが相当である。

b もっとも、本件賃貸借契約二(賃貸人は控訴人X3)の契約書(甲二の一~三)には、「貸借期間は昭和六三年五月一日からゴルフ場として被控訴人が使用し経営する間とし、期間は特に定めない」と規定されている。

しかしながら、控訴人X3が、昭和六三年五月当時、賃貸借契約当事者として、被控訴人が会社更生になり、A3ら甲山一族と無関係な会社になることを想定していたとは到底考えられないので、この条項も、「A3が経営するゴルフ場用地」に貸すという上記のような意思解釈と矛盾するものではないというべきである。

c この点、A3も、将来的には、本件ゴルフ場のコースを改修すれば、本件各土地を返還することが可能であると考えていたなどと、上記と同趣旨の陳述をしているし(甲一一二)、前記の控訴人ら本人尋問における、本件ゴルフ場が甲山一族の経営によって存続する限り、本件各土地を被控訴人に貸し続ける意思であったかのような供述も、上記と同趣旨と認めるのが相当であって、X1らが、本件各賃貸借契約締結の際、本件ゴルフ場が存続する限り本件各土地の明渡しを求めることを予定していなかったなどとは到底認めることができない。

d ところが、その後、被控訴人は、法人格こそ同一ではあるものの、会社更生手続を経て、被控訴人の実質的経営者が、甲山一族から、アーバンコーポレイション、エーシーキャピタル、キャムコへと順次移転しているのであるから(前記一(6)イ(ア))、実質的には、被控訴人が別会社に変容しているものといえるのであり、控訴人らが賃貸借契約の期間満了を理由に本件各土地の明渡しを求めても、本件各賃貸借契約当時の当事者の意思に反するものではないし、身勝手な態度と評価されるものでもない。

エ 本件各土地の明渡しが認められた場合に生じる被控訴人の損失

(ア) 被控訴人の主張等

被控訴人は、本件各土地を全部又は一部明け渡した場合には、本件ゴルフ場の経営を継続できず、閉鎖・廃業せざるを得ない旨主張している。

そして、被控訴人は、その根拠として、本件各土地を控訴人らに明け渡した上で、①安全な進入経路の確保、②本件各土地にボールを打ち込まないようなレイアウトの変更やプレイゾーンの変更、③防球ネットやフェンス等の施設の設置、③大阪府との協定による三〇mの樹林帯の設置を前提とすると、改修可能なレイアウトは、別紙図面(乙一六九、一七〇)(被控訴人改修案)のとおり、18ホールを維持しようとすると、「四八四四ヤード、パー64」のコースになること、その工事費用は、三億〇三二四万円(消費税別途)にのぼることを挙げている(乙一六九~一七三)。

(イ) 検討

a 被控訴人改修案

しかしながら、本件各土地を明け渡した後のレイアウトが別紙図面二(被控訴人改修案)のとおりのレイアウト(四八四四ヤード、パー64)にならざるを得ないとまでは認められない。

すなわち、まず、このレイアウトを作成したのはA7氏(以下「A7」という。)であるが(乙一七〇)、同人はもともとゼネコンの松村組の経理担当者であり、現在も被控訴人の総務人事の担当者であって(乙一九一の一)、ゴルフ場設計の専門家とは認められないこと、スポーツ・クリエイション(ゴルフ場・ゴルフ練習場を中心とするリポート施設の収益に関する専門家であり、今までに二五〇コース以上の収益の算定を行っている。甲九四)は、別紙図面二のレイアウトが過剰な改修案であり、合理性のないものと認めていること(甲二三八)、大阪府自然環境保全条例の関係でも、大阪府中部農と緑の総合事務所や大阪府住宅まちづくり部建築指導室の見解によれば、絶対に三〇mの幅で緑地帯を取らなければならないということはないし、レイアウトの変更についても双方の協議によるとのことであり、別紙図面二のレイアウトでなければならないわけではないこと(甲二三六、乙一六八)などからすると、被控訴人改修案が合理性のあるものとは認められない。

被控訴人主張の工事費用については、上記のとおり、合理性を欠く被控訴人改修案を前提としたものであるから、その前提を欠くし、工事自体にも、控訴人らから、調整池新設費用、植栽費用、返還土地管理用道路工事費用、不必要な防球ネット工事費用などの無駄な費用が含まれている可能性が指摘されている(甲二一〇、二一一、二一三~二一七、二一八の一・二、二三八)。

b 控訴人ら改修案

他方、控訴人らは、一つの改修案として、別紙図面三のとおりの改修案(控訴人ら改修案、甲二九の二)を提案している(甲二九の一・二、四〇の一・二、八九)。

そして、控訴人らは、控訴人ら改修案によれば、本件ゴルフ場は、18ホールで、五五三二ヤード、パー71のゴルフ場を維持することが可能であり、その工事費用も約一億四〇〇〇万円~約一億五〇〇〇万円程度(甲一四二の一)で足りる旨主張・立証している。

控訴人ら改修案は、ゴルフ場の設計を数多く手掛けている株式会社シーイーシーが作成したものであり、ゴルフコースの著名な設計家であり、本件ゴルフ場の設計者でもあるA8氏もこれを承認しているものであって(甲八四)、大阪府自然環境保全条例の関係でも、調整可能な案であることからすると(甲二三六、乙一六八)、検討に値する改修案といえる。

c 被控訴人が受ける不利益

(a) もっとも、控訴人ら改修案であっても、ゴルフコースは相当に短くなる上、パーも71になるという影響を受けるし、一億五〇〇〇万円程度の工事費用の負担を余儀なくされるのであるから、被控訴人にとって影響が小さいものではない。

(b) しかしながら、借主が、賃貸借契約の約定に従って土地を貸主に返還する際に、相当程度の負担を被るのはある意味当然のことであるし、本件においては、会社更生手続において被控訴人の全株式を取得して経営権を取得したアーバンコーポレイションは、会社更生手続におけるデューデリジェンスにおいて、本件訴訟の係属の事実や本件各土地の返還の可能性についての情報を入手し、そのリスクを負担した上で、そのリスクを考慮した価額で被控訴人の経営権を取得しており、アーバンコーポレイションから本件ゴルフ場の経営権を譲り受けたエーシーキャピタルやキャムコについても、経営権譲受の際に同様の情報を入手して、そのリスクを考慮した価額で経営権を取得していることが推認できる。

以上の事実に照らすと、本件各土地を返還することに伴う相当程度の負担は、アーバンコーポレイションなどと同視できるキャムコないしは被控訴人において負担を余儀なくされても、それは経営見通しの誤りに基づくものとして甘受すべき筋合いであって、このような負担を、安易に権利濫用該当性を判断する際の積極事情として評価するのは相当ではない。

(c) したがって、本件各土地を返還することにより、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業されることが相当程度の蓋然性をもって立証されるのであれば、本件各土地の明渡請求が権利の濫用に該当する方向で評価されることはやむを得ないものの、そのような立証がされていないのであれば、本件各土地を明け渡すことによって生じる被控訴人の不利益のみをもって、本件各土地の明渡請求が権利の濫用に当たると評価することは相当ではない。

d 控訴人ら改修案の被控訴人の経営に対する影響

(a) 控訴人ら改修案の工事費用は約一億四〇〇〇万円~約一億五〇〇〇万円程度であり、控訴人ら改修案の被控訴人の経営に対する影響について、以下、検討する。

(b) この点、スポーツ・クリエイションは、控訴人ら改修案によれば、進入路の問題やコース内を走る公道の問題さえ解決できれば、改修後も、本件ゴルフ場において、来場者数は年間三万七〇〇〇人で、年間六〇〇〇~七五〇〇万円のキャッシュフローが見込まれ(甲九二)(なお、本件ゴルフ場の現状は、年間一億四〇〇〇万円~一億五〇〇〇万円程度のキャッシュフローが見込まれている(甲一一八)。)、それに加えて、dスポーツにおいて、年間一億四〇〇〇万円~一億五〇〇〇万円のキャッシュフローが見込まれる(甲九三)と判断している。

もとより、上記はあくまで予想であるから、不確定要素は伴うが、いずれにしても、本件ゴルフ場と一体的に経営されているdスポーツのキャッシュフローも考慮するならば、改修工事費用を考慮したとしても、それだけで、本件ゴルフ場が倒産の危機に瀕するとは到底認め難い。

また、改修に当たってゴルフ場をクローズする必要はなく、営業を継続することが可能である(甲一四六、一五四)。

(c) さらに、証拠<省略>によれば、次の事実が認められる。

ⅰ 本件ゴルフ場の最大の利点は大阪市内から近いという利便性にあり、本件ゴルフ場のコースを設計したA8氏も、本件各土地返還後も工夫次第で十分に営業を継続できると判断している。

ⅱ 平成六年に改修される以前の本件ゴルフ場は、別紙図面四に旧コースと記載されている範囲であり、パー70、距離五〇七〇ヤードであって、現在の規模より小さな規格であったにもかかわらず(しかも、当時は、本件土地一、三及び四は、ゴルフコースに含まれていなかった。)、周囲のゴルフ場の多くを上回る年間五万人を超える来場者があった。

ⅲ 本件ゴルフ場の近隣にある大阪パブリックゴルフ場は、パー70、距離四九五一ヤードの規格で営業を行っているし、コースの価値は必ずしも距離のみで決まるものではなく、距離が短くなっても、戦略性等により来場者にとって魅力的なコース設定にすることも可能であり、全国には18ホール以下のゴルフ場も相当数存在し、また、パー72未満であっても名コースとされるコースが多数ある。

e 本件各土地を返還した場合の安全性の確保

(a) はじめに

被控訴人は、控訴人らに本件各土地を返還し、控訴人らが本件ゴルフ場内を通って本件各土地に往来するとなると、打球事故発生のリスクを回避するために、控訴人らの安全性を確保することが問題となる。

(b) 安全性の確保、ネット補修費用

そして、証拠<省略>によれば、被控訴人が控訴人らに対し本件各土地を返還し、控訴人らが本件ゴルフ場内を通って本件各土地に往来しても、次のとおり、必要な場合に防球ネットを設置すれば、その安全性を確保できることが認められる。

ⅰ 控訴人X2(本件土地一)

本件土地一は、本件ゴルフ場の一番、二番及び四番ホールの各一部として使用されている(前記前提事実(3)カ)。

一番ホールについては、移設したグリーンの奥に、本件ゴルフ場一七番ホールと同様の防球ネットを設置すれば、安全性も十分確保できる。二番ホールについては、安全性が確保されている。四番ホールについては、移設したグリーンの奥に、本件ゴルフ場一七番ホールと同様の防球ネットを設置すれば、安全性も十分確保できる(控訴人ら準備書面(16)六~八頁)。

防球ネットの設置に要する費用は、六八〇万円程度である(甲二一五、控訴人ら準備書面(16)八、九頁)。

ⅱ 控訴人X3(本件土地二)

本件土地二は、本件ゴルフ場の九番、一二番、一三番及び一六番ホールの各一部として使用されている(前記前提事実(3)カ)。

九番ホールについては、特に安全性に問題は生じないが、必要があれば、防球ネットを設置すればよい。一二番ホールについては、同ホールの奥に小規模の防球ネットを設置すれば十分である。一三番ホールについては、同ホールの右側に防球ネットを設置すれば足りる。一六番ホールについては、安全性を確保するための措置を新たに講じる必要はない(控訴人ら準備書面(17)七~一一頁)。

防球ネットの設置に要する費用は、一一〇〇万円程度である(甲二一六、控訴人ら準備書面(17)一一、一二頁)。

ⅲ 控訴人X4(本件土地三)

本件土地三は、本件ゴルフ場の一四番及び一五番ホールの各一部として使用されている(前記前提事実(3)カ)

一四番ホールについては、同ホールと本件土地三の境界に適切な防球ネットを設置すれば安全性を確保できる。一四番ホールのグリーンを手前に移設するというセッティングも考えられ、この場合、グリーンを前に移すだけなので、費用はわずかで済む。一五番ホールについては、安全性は確保されている(控訴人ら準備書面(15)六、七頁)。

防球ネットを設置するための費用は、二一〇万円程度にすぎない(甲二一四、控訴人ら準備書面(15)七~九頁)。

ⅳ 控訴人X5(本件土地四)

本件土地四は、本件ゴルフ場の七番及び八番ホールの各一部として使用されている(前記前提事実(3)カ)

七番ホールについては、安全性が確保されている。八番ホールについては、本件土地四の周囲に防球ネットを張っておけば、十分に安全性は確保できる(控訴人ら準備書面(14)五~八頁)。

防球ネットを設置するための費用は、一五〇万円程度にすぎない(甲二一三、控訴人ら準備書面(14)八、九頁)。

ⅴ 防球ネット設置費用

以上の防球ネット設置費用の合計は二一四〇万円である。また、前記のとおり、控訴人ら改修案の工事費用は約一億四〇〇〇万円~約一億五〇〇〇万円程度である(前記b)。

被控訴人が控訴人らに本件各土地を返還した場合、上記約一億四〇〇〇万円~約一億五〇〇〇万円の改修工事費用に加えて、上記防球ネット設置費用二一四〇万円が必要だとしても、前記dの認定判断に照らせば、被控訴人がこの程度の費用を負担したからといって、本件ゴルフ場が倒産の危機に瀕するとは到底認め難い。

f 被控訴人の主張・立証方法の問題点

(a) そもそも、本件各土地を控訴人らに返還した場合に、本件ゴルフ場を閉鎖・廃業せざるを得ない状況に陥るか否かについては、権利の濫用を基礎付ける事実として、被控訴人において立証責任を負担しているものである。

(b) ところで、被控訴人は、原審当時、本件各土地を全て返還すると、18ホールのゴルフ場を維持することができず、9ホールのゴルフ場にならざるを得なくなり、しかもその改修工事費用は五億八八〇〇万円も要すると主張していた。

しかしながら、被控訴人は、原審当時から、三億八七〇〇万円の工事費用の見積書(甲一四〇)も入手しながら、これを裁判所に提出していなかった(甲一三二、一八〇、一八一の一・二)。

そして、本件訴訟の最終時点において、ようやく被控訴人改修案(18ホールで、四八四四ヤード、パー64)を提示し、その工事費用は、三億〇三二四万円(消費税別途)にのぼると主張しているのであるが、これも前記のとおり過剰な改修案であると認められる。

(c) このように、被控訴人は、本件各土地の返還を阻止するため、本件各土地を返還した場合の影響を故意に過大に見せかけていると評価されてもやむを得ない応訴態度を示しているのであって(甲一三二、一八〇、一八一の一・二参照)、真摯に、本件各土地を返還した場合に、その影響を最小限にとどめる努力をしているとは到底認められない。

したがって、被控訴人が、本件各土地を返還した場合に、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業せざるを得ない状況に至る点につき、誠実に立証を尽くしているものとは到底認め難い。

g まとめ

以上からすると、本件ゴルフ場が本件各土地を控訴人らに返還後に改修を余儀なくされたとしても、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業されることが相当程度の蓋然性をもって立証されたとは到底認められない。

オ 本件ゴルフ場閉鎖・廃業に伴う多数の利害関係人の損失

(ア) 総論

上記エで検討したとおり、本件各土地を控訴人らに返還したとしても、相当程度の蓋然性をもって、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業されるとまでは認められない以上、本件ゴルフ場の閉鎖・廃業に伴う多数の利害関係人の損失については、検討の前提を欠くというべきである。

しかも、公的施設でもない本件ゴルフ場に関して、本件各土地の明渡請求が権利の濫用に該当するか否かを検討するに当たって比較考量すべき利益・損失の対象は、本来、控訴人らの利益・損失と被控訴人の利益・損失であって、間接的な影響を受けるにすぎない利害関係人の損失は、とりわけ、十分なデューデリジェンス等がされている本件においては、いわば経営見通しの誤りとして、一次的には、被控訴人において利害関係人に対してその責任を負担するべき筋合いであると考えられるから、これを大きく考慮するのは相当ではないというべきである。

(イ) 各論

a ゴルフ会員

ゴルフ会員(乙三二ないし三四、四一の上申書署名者)の意見は、被控訴人が本件各土地を返還すれば、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業になるという一方的な情報を提供して収集したものであって(甲四二~四六)、ゴルフ会員の正確な意見を反映しているとは認め難い。

b ゴルフ場用地の賃貸人

控訴人らと控訴人ら以外の賃貸人とは、本件賃貸借契約を締結するに至った経緯が異なり、控訴人ら以外の賃貸人らの多くは、A3らとの間で賃貸借契約を交わすに際し、更新を予定した条項を定め、A3らから、土地を売却するのと同程度あるいはそれを上回る保証金の預託を受けていたのであるから(前記一(2)イ、特に(2)イ(エ))、控訴人ら以外の賃貸人の多くが、被控訴人との賃貸借契約の継続を希望しているからといって、控訴人らの本件各土地明渡請求が権利の濫用を認める一要素になるものとは認められない。

c 地区住民

被控訴人が主張の拠り所とする区長らの原審宛の意見書(平成一九年八月三〇日付け、乙三一)の信用性に問題がある。すなわち、当時の区長は、f建設を経営していたA25であるが、f建設は、被控訴人の会社更生後、一四番カート道を改修するなど、被控訴人(あるいはアーバンクラシック)から工事を受注していた企業であり、被控訴人とは利害を一致する業者であった(控訴人らの平成二四年二月二九日付け準備書面三九頁)。

したがって、上記意見書についても、被控訴人から作成の依頼があり、区長であるA25が他の役員に働きかけ、他の役員からも署名押印を集めた可能性を否定できない。その後、大東市○○地区自治会から目立った動きがないのも(上記準備書面)、そのことを裏付けるものといえる。

それゆえ、区長らの原審宛の意見書が存在するからといって、控訴人らの本件各土地明渡請求が権利の濫用を認める一要素になるものとは認められない。

d 従業員の雇用喪失

被控訴人は本件ゴルフ場の従業員が一一五人も存在するというが、現時点で、本件ゴルフ場(dスポーツ、eホテルを含まない。)の正規従業員が一一五名もいることなど考えられない。本件ゴルフ場で働く者の多くはアルバイト等と思われる(前記一(4)エ(エ)の認定事実参照)。

しかも、本件ゴルフ場は、大阪市の中心部から至近距離にあり、大阪の中心部からの通勤圏内にある(甲一六八)。その意味で、ゴルフ場が地域の数少ない産業であり、働く場がほとんどない過疎地と同一に論じることができない。

したがって、控訴人らの本件各土地の明渡しが認められ、それが被控訴人の経営に悪影響を及ぼし、被控訴人の従業員(アルバイトを含む)の雇用にも影響したとしても、それを理由に、控訴人らの本件各土地明渡請求が権利の濫用を認める一要素になるものとは到底認められない。

カ 控訴人らの本件各土地の必要性及び明渡しが認められない場合の不利益

(ア) 被控訴人の主張

被控訴人は、次のとおり主張する。

a 控訴人らが本件各土地を自ら使用する必要性は高くない。

b 被控訴人が控訴人X4及び同X5に対し、和解案として、本件土地三及び四より広く、竹藪や畑に適している代替地の提供を申し出たにもかかわらず、控訴人X4らはこれを拒否していることからみて、控訴人X4らが、真実、本件土地三及び四を竹藪や畑として使用する必要性がないことは明らかである。

(イ) 検討

a 控訴人X3及び同X4の自己使用の必要性について

しかしながら、控訴人X3は、控訴人X4のために、フォスに依頼して、本件土地二において、障害者を雇用して、梅、レモン、椎茸を栽培する果樹園を営む具体的なプランを作成しており(甲一七二~一七八、二一九~二三三〔枝番を含む〕)、控訴人X4に知的障害があり、農業にしか従事できないことからすると(甲一一〇、控訴人X3本人)、控訴人X3において、本件土地二の返還を受け、農地として自ら使用する必要性は非常に高いものと認められる。

控訴人X4についても、本件土地三の返還を受ければ、同土地を農地として使用したいと考えており(甲一一〇)、控訴人X3と同様、自ら使用する必要性が高い。

b 被控訴人の代替地の提供の申出について

弁論の全趣旨(控訴人らの平成二二年九月二日付け上申書、同平成二三年一一月二九日付け上申書〔当審記録の第三分類編綴〕)によれば、被控訴人から提供の申出のあった代替地は急斜面の利用価値の乏しい土地であったことから、控訴人X4及び同X5は、上記代替地提供の申出を断ったことが認められる。

したがって、控訴人X4及び同X5が、被控訴人からの上記代替地提供の申出を断ったからといって、同控訴人らに本件土地三及び本件土地四の自己使用の必要性がないとはいえない。

c 明渡しが認められない場合の不利益

(a) 控訴人X2及び同X5については、本件土地一及び本件土地四の返還を受けて農地として使用したいというが、具体的に農地としてどのように使用するのかについては、必ずしも明らかではない。

しかしながら、本件各土地は、本件ゴルフ場用地として被控訴人に賃貸される前は、いずれも控訴人らないしその祖先によって、現実に農地等として使用されていたのであって、元の農地としての使用の必要性自体、十分な自己使用の必要性として評価できる。

そして、本件各土地は、いずれも一団の相当な面積を有する土地(最も狭い本件土地四でも公簿面積は四三九m2である。)であって、何らの利用価値のない狭小な土地といえないことは明らかである。

(b) むしろ、本件において重視されるべきは、本件各土地の明渡請求が権利の濫用と評価された場合の控訴人らの不利益である。

本件において、控訴人らは、契約上は返還時期を明示した本件各賃貸借契約を締結して、本件各土地を被控訴人に賃貸したにすぎないにもかかわらず、その明渡請求が権利の濫用と評価されることになれば、本件各賃貸借契約の更新のための交渉の機会も奪われ、本件ゴルフ場が廃業でもしない限り、一生、あるいは子孫の代までも、本件各土地の返還を受けられないということになるが、それは、所有権者である控訴人らにとって、重大な権利侵害になるということに留意する必要がある。

(c) なお、控訴人X3(現在八四歳)の場合、生前に返還が受けられず、このまま相続が発生すると、土地の面積が広いことから、相続税法上の評価額が一億八〇〇〇万円以上になって、控訴人X4が多額の相続税の負担を余儀なくされるという不利益もあり(甲一二三)、この点も無視できない。

キ 本件各土地の原状回復等

(ア) 本件各土地の原状回復

被控訴人は、本件各土地の正確な位置を特定することができないから、本件各土地の明渡請求が認められても、原状回復は不可能であると主張しているが、土地の位置の特定は強制執行の際に適切に解決されるべき問題であって、この事情は、権利濫用に当たるか否かの判断とは無関係というべきである。

しかも、控訴人らは、本件各土地の正確な位置について、本件各賃貸借契約締結の際に作成された測量図(甲一九、甲二〇~二二の各一・二)を基にして、本件訴訟手続において、既に特定していることが認められる(甲七八、七九)。

(イ) 本件各土地に到達可能

本件各土地については、本件ゴルフ場内のカート道から本件各土地に至るアクセスが確保されている(甲二一七)。したがって、控訴人らは、被控訴人から本件各土地の返還を受けた後、本件ゴルフ場内にある市道を通行し、慣習法上の通行権又は囲繞地通行権に基づき、本件各土地まで赴くことができる(甲五四)。

ク 会社更生手続との関係

(ア) 被控訴人の主張

被控訴人は、被控訴人が会社更生手続を経て、多数の利害関係人の利害が適切に調整されたとか、会社更生手続によって倒産会社というレッテルを貼られ、以前のようなブランド力を発揮できなくなったことを、被控訴人に有利に考慮するべきである旨主張している。

(イ) 検討

しかしながら、会社更生手続においては、本件各土地の権利関係を調整する手続は何ら行われておらず、むしろそれは、デューデリジェンス等により、新しい被控訴人の株主から信任を受けた新経営陣が責任をもって処理すべき課題とされたのであるから、これを被控訴人に有利に考慮するのは相当ではない。

また、被控訴人が一旦倒産したことによって、社会的信用力が低下したのは事実であろうが、これは、控訴人ら賃貸借契約の貸主にとっても由々しき事態であって、それ自体信頼関係が損なわれたとして、貸主が賃貸借契約を解除することを容認する方向で評価されてもやむを得ないものであって(本件各賃貸借契約においては、明示の条項はないが、市販の賃貸借契約書のひな型では、借主が銀行取引停止処分を受けたり、法的な倒産手続の申立てをした場合には、賃貸借契約を解除できる旨の特約が定められている場合が多い。)、いずれにしても、この点も被控訴人に有利に斟酌することは困難である。

さらに、前記一(6)アのとおり、被控訴人は、会社更生手続において、当時の確定更生担保債権約二四億円、一般更生債権のうち預託金返還請求権以外約一六四億円、一般更生債権のうち預託金返還請求権約四二億円の債務について、更生計画により、一般更生債権の大幅な債権カットが認められ、残った債権についても弁済により消滅して、競争力が増していることからすると、むしろ、この点は、被控訴人の経営にとってプラス要素になると考えられる。

したがって、被控訴人が会社更生手続を経ているという事情は、少なくとも権利濫用を基礎付ける積極事情とはいえない。

ケ 権利濫用の主張をする被控訴人の適格性

控訴人らは、そもそも、被控訴人による本件ゴルフ場の経営は違法なものであるから、被控訴人には、権利濫用の主張によって保護されるべき正当な利益は存在しないし、控訴人らに対して権利の濫用を主張する適格性にも欠けると主張する。

しかしながら、証拠<省略>によれば、控訴人らが指摘するゴルフカートが市道を通行しているとの点については、既に一定の防止措置等が採られており、現在も大東市と抜本的な解決策を求めて交渉が継続されていることが認められる。そして、その他、本件ゴルフ場の経営における違法事由として控訴人らが指摘する点(前記第二の三(2)〔控訴人ら〕サ(イ)~(オ))は、いまだ具体的な問題が生じていることを認めるに足りる証拠はない。

したがって、被控訴人が違法に本件ゴルフ場を経営しているとまで評価することは困難であって、控訴人らが主張するこれらの問題をもって、被控訴人に権利の濫用の主張をする適格性がないとまではいえない。

コ まとめ

(ア) 本件各土地の明渡請求が権利の濫用とは認められない

以上のとおり、次の各事実に照らせば、控訴人らが本件各土地の明渡請求をすることが権利の濫用に当たると評価することはできない。

a 本件各賃貸借契約は、X1らとA3との間の特別な信頼関係の下で締結されたものであり、本件ゴルフ場が存続する限り本件各土地の明渡しを求めることを予定していなかったとはいえず、X1らあるいはその後継者において、被控訴人の経営がA3ら甲山一族の手から離れた場合に、賃貸借契約の解消を求めることが、本件各賃貸借契約当時の当事者の意思に反するとか、身勝手とはいえないこと。

b 被控訴人が、本件各土地を全部明け渡した場合においても、相当な蓋然性をもって、本件ゴルフ場が閉鎖・廃業に至るとまで認められず、かえって、コースレイアウトを変更の上、営業を継続できる可能性が高いと認められること。

c 被控訴人が控訴人らに対し本件各土地を返還し、控訴人らが本件ゴルフ場内を通って本件各土地に往来しても、必要な場合に防球ネットを設置するなどの措置を講ずれば、その安全性が確保されること。

d 本件各土地返還によるコースレイアウトの変更のための改修工事費用等の負担については、会社更生手続におけるデューデリジェンス等により、アーバンコーポレイション等が本件各土地の返還の可能性の情報を十分に入手した上、そのリスクを負担して、そのリスクを前提とした価額で被控訴人の経営権を取得した本件においては、経営見通しの誤りとして、被控訴人において負担を余儀なくされてもやむを得ないといえること。

e したがって、本件各土地を返還することが、本件ゴルフ場関係者等の利害関係人に与える影響もそれほど大きいものではなく、利害関係人の不利益を大きく評価することは相当ではないこと。

f 本件各土地は、一団の相当な面積の土地であり、返還後も利用価値のない土地とは認められず、控訴人らは、本件各土地が返還された後に自ら農地等として利用する予定を有していること。

g 控訴人らの本件各土地の明渡請求には、被控訴人を害する目的は認められないこと。

(イ) 明渡猶予期間の設定

もっとも、前記で検討したとおり、被控訴人は現に本件ゴルフ場の営業中であり、本件各土地は、ゴルフコースの中に存在するのであるから、被控訴人が本件各土地の明渡しを命じられた場合、まず、本件ゴルフ場の営業にとって最も影響の少ないゴルフコースのレイアウトの変更案を策定し、必要な官公庁の許可等も得た上、工事業者と請負契約を締結して、本件ゴルフ場の改修を行う必要があることは明らかであるところ、このような諸手続のためには相当期間を要するものと推認できる。

したがって、これらの準備は、本来、被控訴人において、賃貸借契約の終了時期までに行うべきものであることを考慮しても、本件訴訟の経緯からすると、なお本判決確定後、直ちに本件各土地の明渡しを命じるのは、権利濫用の観点から相当ではなく、諸般の事情を考慮すると、一年間の猶予期間を設けるのが相当であって、この程度の負担は、本件ゴルフ場用地として、被控訴人に本件各土地を賃貸した控訴人らも甘受すべきものというべきである。

四  被控訴人による有益費償還請求権に基づく留置権の成否(争点(3))の検討

(1)  被控訴人の主張

被控訴人は、本件各土地が被控訴人の行った大規模なゴルフ場開発工事により、その価値が増加したから、控訴人らに対し、有益費償還請求権を有している旨主張している。

(2)  検討

ア 有益費とは認められない

しかしながら、有益費とは、賃貸借契約の目的から客観的に判断して目的物の価値を増加させる費用であるところ、前記認定のとおり、本件各土地は、従前、農地等として利用されており、返還を受けた後も基本的には農地としての利用が予定されているのであって、控訴人らが個人として返還後の本件各土地をゴルフ場用地として利用することは想定し難いから、そもそも、被控訴人の主張するゴルフ場造成費用は、賃貸借契約の目的から客観的に判断して、目的物の価値を増加させる費用とは認められない。

したがって、被控訴人主張の費用は有益費とは認められない。

イ 黙示的な免除特約

また、仮に、被控訴人主張の費用が有益費に当たるとしても、前記認定にかかる本件各賃貸借契約締結の経緯等からして、本件各賃貸借契約終了の際には、控訴人らが元の農業を営めるように原状回復する旨の特約が黙示的に合意されていたと認めるのが相当である。

そうすると、上記の原状回復特約の趣旨に反する有益費償還義務については、これを免除する黙示的な特約があったと認めるのが相当である。

ウ まとめ

したがって、上記いずれの観点からしても、被控訴人は、本件各賃貸借契約上、有益費償還請求権を有しているとは認められず、これに基づいて留置権を行使することはできないのは明らかである。

第四結論

以上によれば、①控訴人ら主張の本件各賃貸借契約の債務不履行解除は認められない、②本件各賃貸借契約は、期間満了又は解約の申入れにより終了している、③控訴人らの本件各土地の明渡請求は、本判決確定後、一年間の猶予期間を設ければ、権利の濫用とは認められない、④被控訴人主張の有益費償還請求権に基づく留置権は認められない。

したがって、控訴人らの本訴請求は、被控訴人に対し、本判決確定の日から一年間が経過した日限り、本件各土地の明渡しを求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。

よって、これと異なる原判決を上記の趣旨に変更することとして、主文のとおり判決する。なお、控訴人らの仮執行宣言の申立てはいずれも相当でないものと認め、これを却下する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 神山隆一 堀内有子)

別紙 物件目録一~五<省略>

別表一 二〇〇四年度(平成一六年度)賃借料支払一覧表<省略>

別表二 賃料支払状況一覧表<省略>

別紙 図面一~四<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例