大阪高等裁判所 平成22年(ネ)2028号 判決 2011年2月17日
主文
1 本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は、被控訴人に対し、1876万5436円及びこれに対する平成21年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被控訴人のその余の請求を棄却する。
2 本件附帯控訴を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審を通じてこれを4分し、その1を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。
4 この判決は、第1項(1)に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
(3) 本件附帯控訴を棄却する。
(4) 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 本件附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人に対し、6326万1397円並びにうち2380万3001円に対する平成18年11月22日から、うち3532万8877円に対する平成22年6月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(当審における請求の減縮)。
(3) 訴訟費用は、第1、2審とも、控訴人の負担とする。
(4) 仮執行宣言
第2事案の概要
1 被控訴人は、地金、金属屑類製鋼原料の売買等を業とする株式会社である控訴人に雇用されていたが、平成18年11月22日、控訴人チタン事業部工場内で400tプレス機(後記「本件プレス機」)を操作してチタン材のプレス作業に従事中、本件プレス機に両手指を挟まれて両手指挫滅創の傷害を負う事故(後記「本件事故」)に遭い、両手の親指を除く4指ずつを失う後遺障害を負うに至った。
本件は、被控訴人が、控訴人に対し、本件事故は控訴人が機械操作に習熟していない被控訴人に対する安全教育、指導を怠り、労働者の危険又は健康障害を防止する措置をとることを怠り、本件プレス機の危険領域に労働者の身体が入らないようにしたり、仮にそのような状態での作業が必要であれば事故防止のための措置をとるべきであるのに、それを怠るなどの安全配慮義務違反(債務不履行)又は不法行為によって生じたもので、これにより被控訴人に損害を与えたと主張し、損害賠償金7745万8026円及びこれに対する事故の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 原判決(平成22年6月1日付更正決定の内容を含む。)は、被控訴人の請求を3733万7508円及びこれに対する事故発生日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の部分を棄却した。これに対して、控訴人は、その認容部分を不服として控訴し、被控訴人は、その棄却部分を不服として、6326万1397円及び遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容する趣旨に原判決を変更するよう求めて附帯控訴した。
3 前提事実、争点及び当事者の主張は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の第2の1及び2(原判決2頁4行目から7頁17行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁8行目の「目的とする」の次に「資本金9525万円の」を、12行目の「被告の」の次に「滋賀県湖南市<以下省略>所在の」を加え、3頁22行目及び4頁5行目の各「本訴口頭弁論」をいずれも「当審口頭弁論」に改める。
(2) 原判決3頁23行目の「労働者災害補償保険法」の次に「(以下「労災保険法」ともいう。)」を加える。
(3) 原判決4頁9行目の「安全配慮義務違反」を「安全配慮義務違反の有無又は不法行為の成否」に、11行目の「安全配慮義務違反があった」を「安全配慮義務を怠る債務不履行があり、この行為は、不法行為にも当たる」に改める。
(4) 原判決6頁8行目の「合計7905万7374円」を「弁護士費用を除き、合計7668万6126円」に、14行目の「350万円」を「339万円」に、16行目の「1500万円」を「1440万円」に改め、17行目を次のとおり改める。
「エ 慰謝料の加算 533万8752円
控訴人の応訴態度は、自らの安全配慮義務違反により被控訴人に後遺障害を負わせた者の態度としても、危険なプレス機を労働者に操作させる使用者の態度としても極めて不誠実であり、この事情は、上記慰謝料額の増額事由となる。加算すべき額は、533万8752円が相当である。」
(5) 原判決6頁24行目から25行目にかけての「安全配慮義務違反」を「安全配慮義務違反の債務不履行又は不法行為」に改める。
(6) 原判決7頁5行目末尾の次に行を改めて、次のとおり加える。
「(被控訴人の主張)
仮に、被控訴人にプレス板下での作業中にフットスイッチを押した過失があったとしても、当該事故は、控訴人が法令を無視して安全措置をとらなかったことにより誘発された面があることからすれば、被控訴人の過失割合は、2割を上回ることはない。」
(7) 原判決7頁8行目の「本訴提起時」を「口頭弁論終結時」に改め、9行目冒頭から11行目末尾までを次のとおりに改める。
「を受領している。そのうち障害基礎年金及び障害厚生年金の受給額合計225万6491円は過失相殺前の消極損害(逸失利益)から控除すべきであり、かつ、同受領額が受領時における損害金(過失相殺及び他の損害の填補を前提とするもの)の元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、遅延損害金の支払債務にまず充当されるべきである。
損害の填補の対象となる遅延損害金の額は、逸失利益(2割の過失相殺後)から、控訴人が労災保険法64条1項に基づいて免責又は支払拒絶を主張できる金額合計751万7022円を控除した3532万8877円を元本として、本判決別表のとおり計算されるから、前記225万6491円は、全部が遅延損害金に充当され、損害額元本には充当されないことになる。
したがって、控訴人の賠償すべき損害額は、①上記逸失利益3532万8877円と②慰謝料(2割の過失相殺後)1850万3001円とを合計した5383万1878円に弁護士費用530万円を加えた5913万1878円となる。
①:53,557,374(前記(2)(原告の主張)ア)×(1-0.2)-7,517,022=35,328,877
②:(3,390,000(前記(2)(原告の主張)イ)+14,400,000(同ウ)+5,338,752(同エ))×0.8=18,503,001
①+②=53,831,878
また、遅延損害金は、本判決別表記載の平成22年6月15日時点の確定額残金412万9519円のほか、3532万8877円(上記①)に対する平成22年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金額、その余の2380万3001円(上記②と弁護士費用530万円の合計)に対する事故の日である平成18年11月22日から支払済みまで年5分の割合による金額となる。」
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の本件請求は、損害賠償金1876万5436円及びこれに対する平成21年2月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおりである。
2 事実関係
前記前提事実に証拠(甲1~3、6ないし22、乙1~11〔ただし乙11として、原審で提出されたAの陳述書及び当審で提出されたDVDの双方を含む。〕、証人B、同A、被控訴人本人)及び弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。
(1) 被控訴人は、平成13年3月、控訴人に入社し、彦根市内に所在するITセンターに配属され、ダミーボールと呼ばれる金属球の選別作業に従事していたが、将来的にITセンターが廃止される予定であることを受け、平成18年4月24日ころ、チタン事業部に異動となり、ダミーボールの選別作業に従事するかたわら、チタン事業部の仕事も応援することになった。
(2) 被控訴人は、チタン事業部工場においては、フレコンバッグと呼ばれる袋等に詰められた様々の形状の廃チタン材を、必要に応じてプレス、せん断等の加工をした上で、ドラム缶又はPP袋と呼ばれる袋に詰め直す作業に従事することを指示された。具体的には、フレコンバッグから取り出した様々な形状及び形態のチタン材のうち、パイプ状のものや、フープ状のものが絡み合い全体としてふわふわと弾力のある軽量の塊の状態(以下「塊状」という。)のものなど、厚みのある部材を取り出して本件プレス機の上下プレス板の間に入れてプレスし、さらに、大きいものはシャーリングマシンでせん断して小さくして(せん断可能な部材は厚さ2~3cm以内のものに限られるので、それ以上の厚みのあるものは、先にプレス加工をした上でせん断する必要がある。)、本件プレス機から取り出してドラム缶等に詰め直すというものであった。
(3) 本件プレス機は、幅約120cm、奥行き約140cm、高さ約223cmの直方体に近い形状の400tプレス機で、高さにして地上約68cm~約107cmの部分に、いずれも、幅約70cm、奥行き約70cmの上部プレス板及び下部プレス板が設置されており、停止時の上下各プレス板の間隔は約18cmであった。
本件プレス機は、当時、手で操作するようにはなっておらず、作業者が足をフットスイッチに乗せて操作されていた。作業者がその足でフットスイッチを押すと、上部プレス板は、下降して下部プレス板と接着してこれに圧をかけ、その後当初の位置まで上昇して停止する。この間に作業者がフットスイッチから足を離してもプレス機の動きは止まることはなく、また、作業者が本件プレス機の動きを止めようと思っても、手動で止められるようにはなっておらず、上部プレス板は、上下一行程を終えるまで動作を継続する。上部プレス板が下降を開始してから下部プレス板と接着するまでに要する時間は約13秒であり、その移動速度を秒速に換算すると、約1.38cm/秒であった。
本件プレス機の前面には、上部プレス板の移動中、その範囲内に作業者の身体の一部が入らないようにする安全囲いその他の装置は取り付けられていなかった。
(4) 本件プレス機を用いたプレス作業として、当時、長いパイプ状の部材を上下プレス板の間に差し込んでプレスするなど、プレス板からはみ出る大きさの部材もプレスしたり、そのままではプレス面に納まりきらない塊状の部材を手で押し入れてプレスするなどの作業も予定されていた。
(5) 被控訴人は、平成18年4月24日、チタン事業部において、OJT教育訓練の実施として、現場の機械設備の説明及び使用方法について、チタン事業部主任のA(以下「A」という。)から、作業指示書に基づいて一般的な説明を受け、Aから「問題なく作業できている。以後継続」「力量能力向上は期待できる」と評価され、その旨「OJT教育訓練実施記録」(乙8)に記録された。平成18年9月以降、プレス作業が急激に増加し、被控訴人は、同月21日にプレス作業に従事したほか、少なくとも、同年11月13日、14日、20日、21日に本件プレス機を操作してチタン材のプレス作業に従事した。
被控訴人は、この間、Aから、本件プレス機の使用方法を説明・実演してもらって指導を受けた。
(6) 被控訴人は、平成18年11月22日、本件プレス機を1人で操作し、チタン材のプレス作業に従事し、両手に革手袋を装着し、直径にして約20数cmの塊状(ビデオテープの中身が出てもつれ合ったような状態のもの)のチタン材を本件プレス機の上下プレス板の間に押し入れてプレスしようとして、両手を上部プレス板の下に挿入したところ、上部プレス板が作動して相当程度下りた状態になり、両手を上下各プレス板の間に差し入れた状態のまま上部プレス板が更に下降し、被控訴人が危険を感じて両手を抜こうとしたがそれができず、そのまま本件プレス機が動作を継続したため、被控訴人は、両手の親指以外の各4指をプレス板に挟まれる事故(本件事故)に遭い、これにより、両手指挫滅創の傷害を負った。
(7) 控訴人は、平成19年4月19日、東近江労働基準監督署監督官から、本件プレス機について①駆動スイッチは手動に固定し、押しボタンを押している間のみ下降するようにすること、②フットスイッチは今後も使用しないことなどを含む改善措置をとるよう指導を受け、それ以降、本件プレス機の機構及び使用方法を改めた。
3 争点(1)(安全配慮義務違反又は不法行為の成否)について
(1) 前記認定事実によれば、控訴人チタン事業部では、様々な形状・大きさのチタン材をプレス機にかける必要があり、プレス面から部材がはみ出したままプレスすることも予定され、また、チタン材の形状如何によっては上下プレス板の間に部材を押し入れるなどの作業も当然に予定されたにもかかわらず、本件プレス機は、プレス板の移動中に作業者の手が危険領域に入らないようにするための装置は、そもそも設置されていなかったものである上に、本件プレス機は、フットスイッチを一旦踏むと、踏むのを止めてもプレス板が動作するのを最早止めることができない構造になっていたもので、このような作業を業務として多数回反復継続するときには、短期間で多くの結果が求められる労務作業の下では、何らかの要因(作業者の不注意も含む。)で作業者の手がプレス板に挟まれるなど従業員の身体に対する具体的な危険が予想されるもので、それに対する防止措置がとられていなかったといえる。
(2) 労働安全衛生法及び労働安全衛生規則においても、事業者は、機械による危険を防止するために必要な措置を講じなければならず(労働安全衛生法20条1号)、プレス機については、スライド(上下動する部分)による危険を防止するための機構を有するプレス機を除いては、当該プレス機を用いて作業を行う労働者の身体の一部が危険限界(スライドが作動する範囲)に入らないような措置を講じなければならず(労働安全衛生規則131条1項)、作業の性質上このような措置を講じることが困難なときは、所定の安全装置を取り付ける等必要な措置を講じなければならない(同規則131条2項)ものとされている(なお、甲8、9、15参照)。
(3) 控訴人としては、本件事故当時、本件プレス機の使用については、作業者の身体が危険領域にある場合に作動を自動停止させる機構を設けたり、スイッチを両手押しボタン操作式とすることで作動中に手が危険領域の外にある状況を確保したり、フットスイッチを押している間のみプレス板が作動する機構として作業者がプレス板移動中にプレス面上で作業する危険を回避できるようにするなど、何らかの安全装置を本件プレス機に設けることで、作業者の手がプレス板に挟まれる事故を確実に回避する措置をとるべきであったもので、使用者としてこのような安全配慮義務を負っていたというべきである(労働安全衛生規則131条1項、2項の規定内容に照らしても、上記のことは肯定される。プレス板の作動速度が秒速約1.38cmと相当遅いものであったことは前記のとおりであるが、そのことは、直ちに上記義務を否定する根拠にならない。)。しかし、本件プレス機は、前記のとおり、フットスイッチで操作する方式を採用し、一旦、この操作によってスイッチを入れると上下一行程を終えるまで本件プレス機の動作を停止する機構がなかったのであり、控訴人は、上記の安全配慮義務に違反し、その結果本件事故を生じさせたものと認められるから、債務不履行に基づき、被控訴人の被った損害を賠償する義務を負うものと解するのが相当である。
(4) また、前記認定事実によれば、被控訴人は、Aから本件プレス機の使用方法を説明・実演してもらって指導を受けたことがあったが、上記のような本件プレス機の具体的な危険性を前提とした明確な注意まで受けたことは、これを認めるに足りる証拠はない。証人Aの証言や同人の陳述書である乙11の中には、「フットスイッチに足を入れながら」プレス板の間に部材を入れてはならないとの注意をしたとの部分があるが、前記認定のとおり、そもそも、フットスイッチは一旦入ってしまうと足を離しても本件プレス機の操作を止めることはできなかったものであるから、上記の表現は誤解を生じかねない不正確なものといわざるを得ない。なお、控訴人は、当審においてAは被控訴人に「フットスイッチから足を離すよう指導した」とも主張するが、その主張自体、原審における上記の表現とも意味が異なる余地が十分にある。むしろ、フットスイッチから足を離しても本件プレス機の動作を止めることができず、更に手動で止めることもできなかったことが最も重要であって、このことまでAが被控訴人に説明し注意したことは、これを認めるに足りる証拠はない。したがって、前記認定事実の下では、この観点からも、控訴人は、チタン事業部に異動した被控訴人に対し、Aを含むその担当者らをして本件プレス機の使用の際の具体的な注意を与えさせるべき安全配慮義務を負っていたのに、これに違反し、その結果、本件事故を生じさせたものといわざるを得ない。
4 争点(2)(3)(損害及び因果関係)について
次のとおり付加訂正するほかは、原判決「事実及び理由」中の第3の2(原判決9頁末行から10頁末行まで)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決10頁3行目、7行目及び12行目の各「上記第2の1」をいずれも「前記前提事実」に改める。
(2) 原判決10頁14行目末尾の次に「なお、上記の各慰謝料に加え、更に慰謝料額が加算されるべきである旨の被控訴人の主張は、採用しない。」を加え、15行目から16行目にかけての「弁護士費用を除いて、」を削除する。
(3) 原判決10頁21行目の「上記1で」を「前記のとおり」に改める。
5 争点(4)(5)(過失相殺及び損害の填補)について
次のとおり付加訂正するほか、原判決「事実及び理由」中の第3の3(原判決11頁1行目から12頁25行目まで。ただし、平成22年6月1日付け更正決定により更正されている。)のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決11頁2行目から20行目までを次のとおりに改める。
「(1) 過失相殺について
ア 前記認定事実によれば、本件プレス機のプレス板の作動速度は秒速約1.38cmと相当に遅く、上部プレス板が約18cmの距離を下降し終わるまでに約13秒を要するため、上部プレス板が下降を始めてからそれが作業者の手に触れるまでにも一定の時間の猶予があったものと考えられ、被控訴人としては、仮に部材の出し入れの途中にフットスイッチを押してプレス板が作動を始めたとしても、プレス板の作動状況に気付き次第、部材又は手を危険領域から外に出しさえすれば、危険を回避することは比較的容易であったと認められる。
イ 被控訴人本人は、この点について、本件事故の直前にどのような作業をしていたかは明確な記憶がない旨を供述し、また、プレス板が下降しているのに気づいてから1秒もしない間に、もはや手が動かせなくなり、そのまま挟まれた、機械の故障により、通常より大幅に速い速度でプレス板が降りてきた可能性も考えられる旨を供述する。しかし、本件全証拠によっても、本件プレス機に異常動作を来すような故障等があったと認めるには足りず、上記供述によっても、むしろ、被控訴人は危険が迫ったことに気付くのが遅れたことは明らかである。
ウ このようにみると、本件事故が発生する直前の詳細な状況は証拠上明らかでないものの、少なくとも、被控訴人には、本件事故発生直前において、本件プレス機のプレス板の作動状況を確認することを怠った相当大きな過失があったといわざるを得ず、被控訴人の過失割合は、これを6割と認めるのが相当である。
エ したがって、上記に従い過失相殺をした後の被控訴人の損害額は、2853万8949円(71,347,374×[1-0.6]≒28,538,949)となる。
(2) 障害基礎年金及び障害厚生年金の控除
前記前提事実によれば、被控訴人は、当審口頭弁論終結の日までの間に、国民年金法に基づく障害基礎年金及び厚生年金保険法に基づく障害厚生年金として合計225万6491円を受領したことが認められるが、これらの各給付は、被控訴人の後遺障害による逸失利益を填補するために支給されるものであるから、填補の対象となる損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する関係にある後遺障害による逸失利益の元本との間でのみ損益相殺的な調整を行うべきであり(最高裁平成20年(受)第494号、第495号同年9月13日第一小法廷判決参照)、また、この調整は、過失相殺後の損害元本との間で行うべきものと解するのが相当である。
上記過失相殺後の損害のうち逸失利益に相当する部分は2142万2949円(53,557,374×[1-0.6]≒21,422,949)であるから、この部分から前記金額を控除した1916万6458円と他の前記認定の損害を合計すると、2628万2458円となる。」
(2) 原判決12頁7行目及び12行目の各「上記第2の1」をいずれも「前記前提事実」に改め、8行目の「本訴口頭弁論」を「当審口頭弁論」に改める。
6 以上のとおりであり、控訴人は、安全配慮義務の不履行によって、被控訴人に対し、損害賠償として前記の2628万2458円から前記の751万7022円を控除した1876万5436円の支払義務を負うというべきであって(法人である控訴人に対する不法行為の請求については、被控訴人の主張・立証によってもこれを肯認し得る事実は認めるに足りない。)、被控訴人が主張する弁護士費用の損害賠償の主張は失当であり、また、遅延損害金については、期限の定めのない債務として本件訴状が控訴人に送達された日の翌日であることが記録上明らかな平成21年2月1日から遅滞に陥ると解され、控訴人は、被控訴人に対し、上記損害賠償金に対する同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務を負うものというべきである。
7 その他、控訴人及び被控訴人の当審における主張、立証によっても、前記判断を左右するに足りないというべきである。
8 結論
以上によれば、被控訴人の本件請求は、債務不履行に基づく損害賠償金1876万5436円及びこれに対する平成21年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきものであり、その余の部分は理由がないから棄却すべきものである。
よって、控訴人の控訴に基づき、上記の趣旨に従って原判決を変更し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 比嘉一美 土屋毅)
(別表)<省略>