大阪高等裁判所 平成22年(ネ)344号 判決 2011年10月14日
控訴人
破産者株式会社Z興業破産管財人 小寺史郎
被控訴人
河内長野市
上記代表者市長
甲野太郎
上記訴訟代理人弁護士
俵正市
井川一裕
上記指定代理人
坂上壽彦
外3名
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
(1)被控訴人は,控訴人に対し,1600万円及びこれに対する平成17年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人のその余の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,第1・2審を通じてこれを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余は被控訴人の負担とする。
3 この判決の第1項(1)は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,控訴人に対し,2億2365万3750円及びこれに対する平成17年6月3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
(1)背景事実
株式会社Z興業(後に破産手続開始決定を受けた。以下「破産者」という。)は,河内長野市の所定の条例に基づき,特定事業として,同市の山林の土砂埋立事業(以下「本件埋立事業」という。)の事業許可を同市市長に対して申請(以下「本件埋立事業の許可申請」という。)をしたところ,同市長は,同申請の手続的要件を具備していないことを理由に,同申請の不許可処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。
そこで,破産者は,本件不許可処分の取消訴訟を提起し,破産者の勝訴判決が確定したものの,同申請の実体的要件の審査中に破産手続開始決定を受けた。
(2)請求の骨子
本件は,破産者の破産管財人に選任された控訴人が,被控訴人に対し,本件不許可処分の時点で,本件埋立事業の許可申請に対する実体審査は可能であったから,手続的要件の不備を理由とする本件不許可処分は違法であり,本件不許可処分の取消訴訟の認容判決確定までの約5年の期間,本件埋立事業に向けた活動の停止を余儀なくされて,破産者が本件埋立事業に投下した資金のうち少なくとも9億0830万4500円を運用することができず,同金額に対する本件不許可処分の日から取消訴訟の判決確定まで年5分の割合による利息相当額である2億2365万3750円の損害が生じたと主張して,国家賠償法1条1項に基づき,上記金額及びこれに対する上記取消訴訟における上告不受理決定の日の翌日である平成17年6月3日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
(3)訴訟の経過
原審は,本件不許可処分により控訴人が主張の損害を被ったものとは認められないとして,その余の争点について判断を示すことなく,控訴人の請求を棄却した。
控訴人は,原判決の取消しと自己の請求認容を求めて控訴した。
2 前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,末尾の括弧内掲記の証拠等により容易に認められる。
(1)当事者等
ア 破産者は,産業廃棄物処理などを業として行う株式会社であるところ,大阪地方裁判所堺支部により,平成18年6月27日午後5時,同社に対する破産手続開始決定を受け(同裁判所平成18年(フ)第540号),控訴人が破産管財人に選任された。
イ 被控訴人は,普通地方公共団体であり,河内長野市長(以下「被控訴人市長」という。)は,「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例」(以下「本件埋立条例」という。)及び「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例施行規則」(以下「本件埋立規則」という。)に基づく特定事業の許可申請に対する許可,不許可の処分権限を有する。
(2)本件埋立条例及び本件埋立規則の条項
本件埋立条例及び本件埋立規則のうち,本件に関連する主な条項は,別紙「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例(抜粋)」及び別紙「河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例施行規則(抜粋)」記載のとおりである。
(3)本件不許可処分に至る経緯
ア 本件埋立事業の許可申請をするに至る経過
(ア)破産者は,河内長野市丙田1553番の各土地付近の山林約15万m2を8年間かけて埋め立て,跡地を山林に復元する本件埋立事業を計画していた。
(イ)破産者は,平成9年4月18日,被控訴人の「土砂等による土地の埋立等に関する指導要綱」に基づき,被控訴人に対し,土砂の埋立等に関する事前の申出を行った。
(ウ)河内長野市市議会は,平成10年6月26日,本件埋立条例を制定し,公布した。
(エ)破産者は,本件埋立事業が「特定事業区域の面積が5万m2以上の特定事業」(本件埋立条例2条,11条1項)に該当するため,平成10年12月9日,被控訴人市長に対して事前協議を申し出たところ,被控訴人市長は,平成12年2月10日付け埋立て指導書(甲ア13)を破産者に交付して,本件埋立事業地域における土壌汚染の防止や本件土地に埋め立てられる土砂についてのダイオキシン類検査等を実施するよう指導した。
(オ)破産者は,本件埋立条例10条1項に基づき,平成12年4月13日付けで,被控訴人市長に対し,本件埋立事業の許可申請を行った(乙2)。
イ 本件補正要求
被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請書の内容に一部不備があるとして,平成12年6月12日付け「申請書類の内容補正について」と題する書面により,以下のとおり,資料の再提出等11項目にわたる補正(以下「本件補正」という。)を要求した(乙1)。
(ア)環境政策推進室
① 土砂の採取場所の特定について,土砂採取予定区域詳細図(発生場所の地形図)及び採取土砂量等の資料が不足しているので添付すること(以下「本件補正事項①」という。)。
② 土砂の採取場所について,土砂採取できることの法的許可(森林法等の許可)が必要であるので手続きを行うこと(以下「本件補正事項②」という。)。
③ 車両の登録制及び日報管理について再度検討し,実施すること(以下「本件補正事項③」という。)。
④ ダイオキシン類の検査について,土砂発生元,事業場,調整池堆積土砂のそれぞれにおける検査について実施すること(以下「本件補正事項④」という。)。
⑤ 三郷水利組合に対して,事業計画,特に事業中並びに水路の付け替えにかかる工事の詳細にわたる協議を実施し,協議書を提出すること。また,通水が確認された時期に合わせて公用廃止を行う旨の確約書(事業者と水利組合の連名)を提出すること(以下「本件補正事項⑤」という。)。
⑥ 埋立地の境界確定書類が不足しているので添付すること(以下「本件補正事項⑥」という。)。
⑦ 「河内長野市土砂埋立等に係る環境影響調査報告書」(乙12,以下「環境影響調査報告書」という。)において騒音にかかる環境基準の基準値の記載に誤りがあるので訂正すること。また,騒音に関する影響について再度検討すること(以下「本件補正事項⑦」という。)。
⑧ また,上記報告書の4頁に記載の基準値に誤りがあるので訂正すること(以下「本件補正事項⑧」という。)。
⑨ 天野グリーンヒルズ自治会への事業計画説明について,地元自治会と十分調整の上,今後2回以上説明会を実施すること。また,地元より要望があれば説明会がいつでも開催できる体制を維持すること(以下「本件補正事項⑨」という。)。
⑩ 寺ヶ池水路の無形固定資産にかかる協議について,被控訴人水道局と詳細の協議をした上で,当該協議結果書を提出すること(以下「本件補正事項⑩」という。)。
(イ)水道局
特定事業許可申請書添付の「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面(甲ア15)のうち,「6─1)」の項を「水道水源保護条例並びに水道水源保護条例に関するすべての指導事項を遵守します。その他として①水道水源保護条例の中の排水水質基準に,ダイオキシン類が新たに追加される予定であるとの報告を受けました。②協議書の中の埋立土壌について搬出場所が確定し,土壌検査結果が提出され次第,水源保護審議会を開催するとの報告を受けました。」と改め,「7─3)」の項を「協議の結果,水道局で算出した金額を代替水路の使用開始時点で支払います。その他として,寺ヶ池水路は,何時も使用状態であるので,一刻も途切れることがないようにとの指導を受けました。」と改めること(以下「本件補正事項⑪」という。)。
ウ 本件不許可処分等
(ア)破産者は,平成12年6月16日付けで,被控訴人市長に対し,「不備とされている事項については,すでに事前にすべて担当部署との間において解決済みのものであり,申請人としては何らの回答義務を伴うものではありません。」と書面で回答し,本件補正の要求には応じなかった。
(イ)被控訴人市長は,平成12年6月30日,破産者が補正書類等を提出しなかったことを理由に,本件埋立事業の許可申請が本件埋立条例10条1項所定の手続的要件を満たしていないとして,本件埋立事業の許可申請を不許可とする処分(甲ア3)をした。
(4)本件不許可処分の取消訴訟
ア 破産者は本件不許可処分の適法性を争って,平成12年9月29日,被控訴人市長に対する埋立不許可処分取消請求訴訟(大阪地方裁判所平成12年(行ウ)第107号,以下「別件取消訴訟」という。)を提起したところ,同裁判所は,平成15年4月10日,本件埋立事業の許可申請に手続不備があることを理由とする本件不許可処分は違法であり,取消しを免れず,被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請に基づき,本件埋立条例12条1項各号所定の実体的要件の有無を審査し,許可不許可の処分をすべきであったとして,本件不許可処分を取り消す旨の判決を言い渡した(甲ア4)。
イ 被控訴人市長は,上記第1審判決に対して控訴したが(大阪高等裁判所平成15年(行コ)第42号),同裁判所は,平成16年9月10日,被控訴人市長の控訴を棄却する旨の判決を言い渡した(甲ア5)。
ウ 被控訴人市長は,さらに上記控訴審判決に対して上告受理の申立てをしたが(最高裁判所平成16年(行ヒ)第360号),同裁判所は,平成17年6月2日,上告審として受理しない旨の決定をし(甲ア6),上記控訴審判決が確定した。
(5)最終不許可処分
被控訴人市長は,破産者が破産手続開始決定を受けた後の平成18年12月15日,本件埋立事業は本件埋立条例12条1項等の許可基準に適合しているとは認められないとして,不許可処分(以下「最終不許可処分」という。)を行った(甲ア7,乙23)。
3 争点及びこれに対する当事者の主張の要旨
(1)本件埋立事業の許可申請は実体的要件を具備していたか(争点(1))
〔控訴人〕
本件埋立事業の許可申請は,形式的要件のみならず,以下のとおり本件埋立条例の実体的要件も具備している。
ア 本件埋立条例12条1項1号について
破産者は,本件埋立事業区域内に事務所設置を予定しており,本件埋立事業の申請書にも設置予定場所を特定して申請している。
したがって,本件埋立事業は本件埋立条例12条1項1号の実体的要件を具備している。
イ 本件埋立条例12条1項2号について
特定事業区域の表土の安全基準は,本件埋立条例6条,本件埋立規則3条,本件埋立規則別表第1に定められている(本件埋立規則別表第1には,各検査項目(カドミウム,鉛など)につき,基準値と測定方法が規定されている。)。また土壌検査の方法については,本件埋立規則5条5項が規定しており,本件埋立事業においては,環境計量士が土壌検査を事業区域の5か所で行う必要があった(本件埋立事業の特定事業区域の面積は4万0672m2)。また,土壌検査結果の報告については,その報告様式・添付書類が本件埋立規則5条2項5号によって定められていた(本件埋立規則様式第3号・4号の書式に,土砂等採取位置図とその現場写真を添付して報告する。)。
そこで,破産者は,上記条項に従い,本件埋立事業区域内6か所において表土を採取し,本件埋立規則の定める各項目について検査を行い,規定の報告様式によって,全地点における表土が安全基準を満たすものであることを申告している。
したがって,本件埋立事業は,本件埋立条例12条1項2号の実体的要件を具備している。
ウ 本件埋立条例12条1項3号について
(ア)同号にいう「構造上の基準」とは,本件埋立規則7条1項・別表第2に規定されており,同表第2には,行政が求める具体的防災措置が記載されている。そこで,本件埋立規則別表第2の各項目について,破産者は以下のとおり対応していた。
a 別表第2─1・2項 地滑り防止措置について
破産者は,軟弱地盤での土置換や段切りの設置を予定している(防災計画書【1】~【4】に記載)。
b 別表第2─3項 埋立て等の高さ及びのり面のこう配の規制
破産者は,のり面のこう配の安定計算を行い,安全なこう配を確保している(安定計算については,防災計画書【4】に記載)。
c 別表第2─4項 擁壁の構造について
破産者は,重力式擁壁を使用する予定にしており,その構造については,重力式擁壁構造計算書で詳細に計算しており,各種規制に適合した構造であることが明らかとなっている(防災計画書【6】にも記載)。なお,構造物詳細図(断面図など)も作成されており,申請書に添付されている。
d 別表第2─5項 段きり及び排水溝の設置
段きりについては,本項規定どおり,埋立て等の高さ5m毎に幅1mの段を設けることを予定している(防災計画書【3】【4】記載)。また排水計画(排水溝)については,主に防災計画書【7】・地下排水及び工事中仮排水計算書・雨水排水計算書・U字水路工構造計算書・排水計画図に,各々詳細に記載されており,適切な排水計画が予定されている。
e 別表第2─6項・11項 特定事業施工中及び完了後の土砂の締固め等,崩落防止措置6項・11項は,特定事業施工中と完了後の地盤の緩みを防止し,ひいては土砂崩落などの災害発生防止を目的としていると思料される。この点,破産者の防災計画に含まれているあらゆる措置が土砂崩落防止のための措置であり,破産者は,6項・11項の要求を満たしていた。なお,上記両項が特に記載する「締固め」については,施工計画書7頁・防災計画【1】【4】(盛土の管理)において記載されており,適切に行われることが明らかとなっている。f別表第2─7項 のり面の風化,浸食防止措置
植生工によって,のり面を保護することが予定されている(主に,防災計画【5】に記載)。
g 別表第2─8項 特定事業区域の植林等の土砂等飛散防止措置
破産者は,防災だけでなく環境保全の観点からも,本件埋立事業完成後の事業区域を森林に戻す予定にしている(主に,防災計画【1】・土地利用計画図に記載)。
h 別表第2─9項 仮設沈砂池の設置について
破産者は,防災計画図記載のとおり,事業区域内10か所以上に仮設沈砂池を設置する予定にしている。また,仮設沈砂池の構造等については,工事中仮設沈砂池計算書・工事後仮設沈砂池計算書を作成し,構造上の安全も確保していた。
i 別表第2─10項 調整池の設置について
破産者は,本件埋立事業区域の最下流に調整池を設置し,洪水等の災害対策を行う予定にしている(防災計画書【8】・調整池堰堤構造計算書・調整池容量計算書に記載)。
(イ)破産者は,防災については特に配慮して事業を計画しており(施工計画書,防災計画書等記載),本件埋立事業完了後の構造物の構造は,上記のとおり,本件埋立条例・本件埋立規則が規定する「構造上の基準」(本件埋立規則別表第2)に適合するものであった。
したがって,本件埋立事業は,本件埋立条例12条1項3号の実体的要件を具備している。
エ 本件埋立条例12条1項4号について
(ア)破産者は,土砂採取場所として,富田林市東板持<番地略>(以下「東板持」という。)と堺市原山台<番地略>(以下「原山台」という。)を予定し,本件埋立規則・様式第2号に定められた届出方式に従って,適切に申請した。
したがって,本件埋立条例12条1項4号の要件を具備している。
(イ)なお,土砂採取場所は申請段階ですべて明らかにできるものではない。そのため,破産者と市長らは事前協議において,本件埋立事業許可後直ちに採取が予定されていた土砂採取場所を,まずは採取場所として申請し,その後,追加変更された採取場所は,本件埋立条例13条の変更許可申請によって対応していくことで了解していた(甲ア19)。
オ 本件埋立条例12条1項5号について
破産者は,許可申請書類の中で水質測定位置図を添付して,水質測定のための措置をとることを明確にしている(水質測定位置図,水質測定地点及び現場事務所位置図)。
したがって,本件埋立事業は,本件埋立条例12条1項5号の実体的要件を具備している。
カ 本件埋立条例12条1項6号について
特定事業施工中の災害防止措置について,破産者は,防災計画書(特に,同書【9】記載)のとおり,適切な措置をとることを明らかにしている。また施工計画書にも,防災のために,施工に当たって破産者が注意する事項が記載され,破産者が防災のために十分配慮していたことが明らかとなっている。なお,破産者の防災計画が,本件埋立規則別表第2規定の水準を満たすものであったことは上記のとおりである。
キ その他
被控訴人は,本件補正事項②~⑩において,本件埋立条例に明文のない実体的要件を付加し,それに基づいて形式的要件として,各資料の提出を求めていたが,本件埋立条例に明文のない実体的要件を付加することは,事業申請者に対して不測の不利益を被らせるものであり,河内長野市行政手続条例5条に反し,違法であり許されない。
〔被控訴人〕
ア 本件不許可処分の経緯
被控訴人は,本件埋立事業者(破産者)の本件埋立事業の許可申請に対し,埋立許可の実体要件が具備されているかどうかを審査していたが,本件埋立事業者が補正を拒む姿勢を示したことなどもあり,本件埋立事業者の提出する申請図書では,それらの要件が具備されているとも否とも判断のつかない状況に置かれてしまい,本件埋立条例7条などの解釈や,許認可実務の実情も考慮する中で,本件埋立事業の許可申請については,実体要件の具備不具備のいずれとも判断がつきかねるという申請図書の不備不十分な状況であるとの理由をもって,本件不許可処分をしたものである。
イ 本件埋立条例12条1項4号について
埋立許可の実体的要件として,土砂採取場所を特定することを求めている。
ところが,破産者が土砂採取場所として申請書に記載していた「堺市原山台」の土地については,本件埋立事業の許可申請以前から既に造成が進んでいて,ほぼ土砂採取も終わっている状況にあり,ここから土砂を採取することはほとんど認められない状況にあり,「富田林市東板持」の土地及びその周辺の土地等については,破産者の実質的に所有する土地であり,同土地の開発予定等があるわけでもないのに,破産者が自己所有地の土砂を27万m3も埋立事業区域へ搬入するとは合理的に認められず,仮に搬入するとしても,同土地の山の低さなどからして,27万m3の土砂が採取されることになるのか,合理的に疑問が認められた状況であった。
したがって,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項4号の実体的要件を欠いていた。
ウ 埋立事業区域の境界の明示・特定について
(ア)本件埋立条例12条1項は,埋立許可の実体的要件として,埋立事業区域の境界の明示・特定を要求していると解するべきである。なぜなら,本件埋立条例が許可制を採用している以上,許可されている範囲・区域とそうでない範囲・区域が明確に区分けされないと,許可制の前提が崩れるからである。
(イ)ところが,本件埋立事業の許可申請には,①乙26に描かれている河内長野市丙田1340番等と1336番乙の境界線(事業区域境界線)は,乙27の明示図面をみても,明示点及び境界線をもって特定されていないこと,②乙26の1340番の土地の中に引かれている青色の事業区域境界線についても,乙27の明示図面におけるS245とTN96を結ぶ線(青色線)とされているが,それらの点は隣接地所有者と明示協議された点ではなく,その境界線(事業区域境界線)は全く特定されていないこと,③乙26の1553番1の土地の中に引かれている赤色の事業区域境界線についても,市道上の明示点を結ぶこととされてはいるのであるが,実際に乙26のような境界の状況となっているのかが全く明らかでないことなどからすると,申請図書としては,一応乙26及び乙27の提出で足りるとしても,実体的要件としての埋立事業区域の境界線の特定はされていない。
(2)本件埋立事業は着手・遂行可能性があったか(争点(2))
〔被控訴人〕
ア 寺ヶ池水路の付替工事に関する大阪府知事の工事承認の点について
(ア)本件埋立事業は,谷状の本件埋立事業区域内を建設残土等で埋め立てていく事業であり,寺ヶ池水路も埋めてしまうので,水路を付け替えることが必要不可欠であった。
そして,寺ヶ池水路は,いわゆる青線水路であり,平成17年までは,国有財産として,大阪府知事が管理していたところ,大阪府知事の工事承認(公有土地水面工事施行承認)を得るには,利害関係者の同意が必要であり(大阪府公有土地水面使用規則8条2項11号,乙28),寺ヶ池水路についていえば,その水路を管理し,その水を灌漑用水として利用している三郷水利組合(野作・上原・寺ヶ池の各水利組合の総称,以下単に「三郷水利組合」という。)の同意が必要であった。
(イ)ところが,三郷水利組合は,本件埋立事業から寺ヶ池水路の汚染・損傷等の影響を回避するために,土砂埋立行為を行う前に,現状地盤から頑丈な橋脚等を立て,現状の水路より優る水路を先に設置し,土砂埋立行為による汚染,地盤沈下等による水路損傷等のおそれのない状態をつくっておいてから,土砂埋立行為をするよう要求していた(乙5の4枚目,乙6,乙15の乙山証言34頁)。
これに対し,破産者は,本件埋立事業区域内の埋立を進めていく課程の中で,必要な段階となったときに,寺ヶ池水路の付替工事に着手すると主張していたのであって,三郷水利組合と破産者は全く折合いがついていなかったから,破産者は,三郷水利組合から水路付替工事の同意を得る見込みは皆無であり,したがって,大阪府知事からの工事承認を得る見込みも皆無であった。
イ 水道水源保護条例による規制の点について
被控訴人(水道事業管理者)は,河内長野市水道水源保護条例(乙29,以下「水道水源保護条例」という。)に基づき,水道水源の保護を目的として,河内長野市の西代浄水場及び三日市浄水場取水口の上流域を,水源保護地域に指定している。
そして,本件埋立事業区域内は,その排水が西代浄水場取水口となる河川の上流域の河川に流入することから,水源保護地域に指定されており,本件埋立事業は,水道水源保護条例にいう「対象事業」に該当している。
このため,破産者は,本件埋立事業区域(水源保護区域)内に搬入し,埋立てに供する土砂(土砂採取場所のサンプル土砂)について,所定の排水水質基準項目につき,排水水質基準をクリアするかどうか,予め検査をしなければならず(同条例6条3項1号,同条例施行規程5条・別表,乙30),クリアしなければ,本件埋立事業区域は「規制対象事業場」に該当することになり,水源保護地域に規制対象事業場を設置することは認められず(同条例9条),結局,事業の遂行はできないことになる。
本件の場合,破産者は,本件埋立事業の許可申請の際には,水道水源保護条例上の手続を全く履践していなかったこと等から,破産者が水道水源保護条例上の排水水質基準等の規制をクリアできるのかは全く明らかではなく,その保障はなかった。
なお,被控訴人の職員が水道水源保護条例上の手続を拒否した事実はない。
〔控訴人〕
ア 寺ヶ池水路の付替工事に関する大阪府知事の工事承認の点について
破産者と三郷水利組合との間では協議と話合いができており(甲ア10の1~4,甲ア24),破産者が予定していた新水路の設計図は,破産者,三郷水利組合,市の担当者と諸問題を協議した結果,了解を得て,本件埋立事業の許可申請の添付書類として市側に提出されている。
なお,破産者から三郷水利組合へは,本件埋立事業の許可申請許可後,協力金名目で5000万円が支払われる約束となっており(甲ア10の2,甲ア24),かかる金銭支払の合意からも,三郷水利組合が本件埋立事業の遂行に同意・着手することが約束されていたことは明らかである。
イ 河内長野市水道水源保護条例による規制の点について
土砂採取場所の土砂は,本件埋立条例15条・本件埋立規則10条3項の土壌検査をクリアしており,一定の安全は確保されたものであった(甲ア25の1~3)。
また事業区域の雨水等は,一旦調整池に集められてから放水されるところ(埋立地の下には透水管が張り巡らされ,水を調整池に導く。),調整池には,水の浄化装置が設置されており,水道水源保護条例の規制に対して十分な対応がされていた。
さらに,仮に,本件埋立事業の許可申請時の土砂採取場所の土砂が水道水源保護条例の規制をクリアできなくても,破産者としては他の土砂採取場所を見つければよいだけのことであり(破産者は,申請時までに約7回,土砂採取場所を変更していたことからしても,容易に見つけられた。),本件埋立事業が遂行できないことにはならない。
なお,水道水源保護条例上の手続が後回しになったのは,破産者の協議の申入れにもかかわらず,被控訴人の当時の水道局長が,本件埋立事業の許可が下りてからでなければ水道水源保護条例に基づく協議(水道水源保護条例6条1項)を受け付けないとして,協議の申入れを拒否していたからにすぎない。
(3)被控訴人市長が本件不許可処分を行ったことについて,違法性ないし過失があったか(争点(3))
〔控訴人〕
ア 違法性
破産者は,本件埋立条例10条1項にしたがって,本件埋立事業の許可申請を行った。被控訴人市長は,本件埋立条例12条1項の許可基準の適合性の要件が具備されているにもかかわらず,あるいは少なくとも,同条項の許可基準の適合性判断(以下「実体審査」という。)が可能であったにもかかわらず,被控訴人市長は,本件補正指示を行い,破産者が本件補正に応じなかったことから,本件埋立事業の許可申請には手続的要件を具備していないとして,本件不許可処分を行ったことは,職務執行行為として違法であるのみならず,国家賠償法上も違法である。
イ 過失
(ア)上記のとおり,被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請が本件埋立条例の実体的要件を具備していたにもかかわらず,あえて手続的要件を理由に本件不許可処分をしたものであるから,違法な本件不許可処分をするに当たり,故意があった。
(イ)仮に,そうでないとしても,被控訴人市長は,地方自治体の長という立場上,申請者の手続保障の観点並びに行政手続法5条2項及び河内長野市行政手続条例5条2項から,被控訴人市長の行政裁量に一定の制約が課されることは自明であり,申請の許可要件並びに申請書への添付書類及び図面を定める本件埋立条例12条1項は例示列挙ではないことについて当然理解していたはずである。
そうすると,条例解釈における被控訴人市長の幅広い裁量権を理由に,本件埋立条例及び本件埋立規則上明文で定められていない事項を実体要件や手続要件に付加して,破産者に本件補正を求め,これに応じないことを理由に,本件埋立事業の許可申請が手続的要件を具備していないとして不許可処分を行うことが違法であることは,本件不許可処分の当時,被控訴人市長にとって明白であったから,同市長には,本件埋立事業の許可申請に対して本件不許可処分をするに当たり過失があった。
〔被控訴人〕
ア 被控訴人市長において,本件埋立事業の許可申請が本件埋立条例の実体的要件を具備しているにもかかわらず,あえて本件不許可処分をした事実はない。
イ 被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請について,その申請図書が不十分であったため,実体的要件を具備するのか否か,判断が付きかねた。
このような場合,被控訴人の行政手続条例は,①実体的要件が具備されていないとして不許可処分をすることも,②実体的要件の判断そのものには言及せずに,その判断のつきかねる不十分な申請図書の状況であるとして不許可処分をすることのいずれの判断をすることも,裁量の範囲内として認めているものと合理的に解釈することができた。
そこで,被控訴人市長は,②の判断をする方が許可審査実務の実情にかない,破産者の利益に資すると考えて,本件不許可処分を行った。
ウ 以上のとおり,被控訴人は,許可審査の実務の実情や,申請図書の意味を踏まえ,破産者の利益に配慮する観点を持ち,また,行政手続条例7条の解釈等も十分に考慮して,本件不許可処分を行ったものであり,また,この点に関する裁判例等も存しなかったことにかんがみても,処分の判断過程において不合理なところはなかったというべきであって,被控訴人市長が職務上の注意義務を尽くすことなく漫然と行政処分を行ったのではないから,本件不許可処分が国家賠償法上の違法であるとも,同市長が同処分を行ったことに過失があるともいうことはできない。
(4)破産者が本件不許可処分によって被った損害及びその金額(争点(4))
〔控訴人〕
ア 控訴人主張の大要
破産者は,本件不許可処分により,次のイないしカのとおりの損害が生じたが,そのうち,2億2365万3750円を請求する。
①本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していた場合は,次のイないしカのすべてが損害になり,②本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していなかった場合には,次のウ及びカが損害となり,③本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していない可能性のある場合(実体的要件の具備の有無が,本件埋立事業の許可申請当時,全く不透明であり,補正等により実体的要件が具備された可能性がある場合)には,次のウ,オ及びカが損害となる。
なお,本件不許可処分が違法である以上,これにより破産者に一定の損害が生じているのは明らかであり,損害額の認定が困難である場合は,民訴法248条により,相当な損害額が認定されるべきである。
イ 本件埋立事業投下資金相当額の損害
破産者は,本件不許可処分日である平成12年6月30日の翌日には,本件埋立事業を開始に向けて着手し,事業開始後は利益を得て初期投資費用を回収する予定であったところ,本件不許可処分により,本件埋立事業を開始できないまま破産し,別表「『河内長野市丙田谷』投下費用一覧」記載の9億0830万4500円の投下費用すら全く回収することができなくなり,同額の損害を被った。
なお,破産者は,上記以外に,本件埋立事業に関し,仲介手数料,登記費用,測量費として合計7589万円を支出している。
ウ 手続の遅滞による損害
(ア)破産者は,上記のとおり,本件埋立事業を遂行するために,9億0830万4500円を支出したが,本件不許可処分により,同処分の日から別件取消訴訟の判決が確定するまでの約5年間,事業開始のための活動は全て停止し,破産者が投下した上記資金を他の事業活動に投入することができなかった。
したがって,本件不許可処分により控訴人に生じた損害は,破産者が本件埋立事業のために支出した上記資金に対する上記期間における法定利息相当額ということができ,その金額は,投下費用9億0830万4500円に対する本件不許可処分の日である平成12年6月30日から別件取消訴訟が確定した平成17年6月2日まで年5分の割合による2億2365万3750円(下記①ないし③の合計額)である。
①平成12年6月30日ないし同年12月31日(185日)
2295万5783円(=9億0830万4500円╳0.05╳185日/366日)
②平成13年ないし平成16年(4年)
1億8166万0900円(=9億0830万4500円╳0.05╳4)
③平成17年1月1日ないし同年6月2日(153日)
1903万7067円(=9億0830万4500円╳0.05╳153日/365日)
(イ)破産者の借入金は,別表「破産者の借入額推移」記載のとおりであるが,これらの借入金から,適宜,本件埋立事業に必要な額(総額9億0830万4500円)が本件埋立事業資金として出捐されていた。
破産者は,被控訴人が違法な本件不許可処分をしたため,本件行政訴訟期間中における本件埋立事業のための借入金の利息額相当の損害を被ったが,具体的な金額は特定できない。
エ 慰謝料(無形の損害)
破産者は,違法な行政処分である本件不許可処分を受けたこと,及びそれに伴って約5年間も本件埋立事業に関する活動ができなかったことにより,事業資金の借入先や取引先等からの信頼を失った。
とりわけ,破産者は,本件不許可処分により,その信用が害され,その他金融機関との取引交渉がことごとく決裂したため,平成14年3月からは,やむなく小規模の高金利金融業者から資金を借り入れるようになった。
被控訴人は,本件不許可処分により,破産者が被った信頼の喪失について,これを慰謝する義務があるところ,その損害額は2000万円を下らない。
オ 固定資産税相当額の損害
破産者は,本件不許可処分のため,別件取消訴訟の係属期間中,本件埋立事業用地の維持を余儀なくされ,平成12年度から平成17年度までに,別表「破産者(株)Z興業が支払った固定資産税額」記載のとおり,本件埋立事業用地の固定資産税として合計10万9584円を支払い,同額の損害を被った。
カ 別件取消訴訟の弁護士費用
破産者は,本件不許可処分を取り消すため,柴山譽之弁護士(以下「柴山弁護士」という。)に別件取消訴訟の提起・追行を依頼し,その弁護士費用として600万円を支払って,同額の損害を被った。
〔被控訴人〕
ア 上記イの損害(本件埋立事業投下資金相当額の損害)について
(ア)破産者が破産したのは,本件不許可処分によるものではない。破産者が破産したのは,破産者が本件埋立事業の許可申請以前から採算割れの状態にあり,多額の負債を負っていた一方,大口不良債権が発生して資金繰りが逼迫するようになった上に,破産者のメインバンクであった関西興銀が平成12年12月に倒産し,同銀行からの資金調達が困難となったこと等によるものである。
(イ)本件不許可処分時に,本件埋立事業の許可申請が許可されるべきものであったといえるような状況にはなかったし,寺ヶ池水路の付替工事に関する大阪府知事の工事承認の見込みがなかったこと(三郷水利組合から水路付替工事の同意を得る見込みが皆無であったから,大阪府知事の工事承認を得る見込みも皆無であった。)や,水道水源保護条例上の排水水質基準等をクリアできる保障がなかったことからすると,破産者が本件埋立事業の許可申請後数か月後に,直ちに本件埋立事業に着手・遂行して利益を挙げ得たとは到底認められない。
イ 上記ウの損害(手続の遅滞による損害)について
(ア)本件不許可処分時に,本件埋立事業許可申請が許可されるべきものであったといえるような状況にはなかったし,寺ヶ池水路の付替工事に関する大阪府知事の工事承認の見込みがなかったこと(三郷水利組合から水路付替工事の同意を得る見込みが皆無であったから,大阪府知事の工事承認を得る見込みも皆無であった。)や,水道水源保護条例上の排水水質基準等をクリアできる保障がなかったことからすると,破産者が本件埋立事業の許可申請後数か月後に,直ちに本件埋立事業に着手・遂行して利益を挙げ得たとは到底認められない。
(イ)破産者は,土地購入代金,借地料等,地元対策費,委託費を,いずれも一定の事業目的に基づき本件不許可処分以前に既に支出しているのであって,その合計額に対する民事法定利率の割合による金額が損害となるものではない。
(ウ)控訴人は,本件不許可処分がなく,実体的要件の観点からする不許可処分がされていたら,破産者は方針を変更し,購入等した土地を別途運用することができていた等と主張するようである。
しかし,控訴人が主張する運用の実態は不明であるし,本件埋立事業のために破産者が取得ないし賃借した土地は山間の谷間の土地であり,森林法や砂防法等による種々の規制を受けていることからすれば,これらの土地を他の用途で運用することなどできない。
また,地元対策費,株式会社地域都市計画センターコア等に対する委託費等は本件埋立事業の計画,準備に伴って支出済みの費用であり,方針変更による別途運用などというものを考える余地はない上,最終的に本件埋立事業が許可されるか否かに関わりなく当然に必要とされ,本件埋立事業者が負担すべきものであるから,本件不許可処分による損害となる余地はない。
(エ)控訴人は,破産者の借入金に係る損害を主張するが,借入れに関する立証はされていないし,仮にその立証があるとしても,借入金が本件埋立事業に利用されたかどうか等は明らかではない。さらに借入金が本件埋立事業に利用されたとしても,それはまさしく本件埋立事業遂行等の必要性からされたものであるから,その利息相当額を損害として把握することはできないというべきである。そして,このことは,本件不許可処分の以前の借入れに関してもいい得ることである。
ウ 上記エの主張(慰謝料〔無形の損害〕)について
(ア)破産者は,産業廃棄物処理業を主たる目的とし,大規模な産業廃棄物処理施設やノウハウ等を有し,全国各地に事業展開していたのであるから,破産者にとって付随的事業にすぎない本件埋立事業について本件不許可処分を受けたからといって,信用を失うようなことにはならない。
(イ)破産者に対する金融機関の態度の硬化というのは,破産者に平成11年ころから採算割れ状態が継続していたこと及び多額の金融債務を抱えていたことが原因であり,破産者の資金繰りの悪化というのは,大口債権が不良債権化したこと及びメインバンクの関西興銀が事実上破綻したことにより資金調達を受けられなくなったことが原因であって,本件不許可処分が原因ではない。
エ 上記オの主張(固定資産税相当額の損害)について
固定資産税は,土地を所有していること自体に基づき発生・負担するものであり,当該土地の利用状況や事業の状況等とも一切関係のないものである。
したがって,本件不許可処分がされると否とにかかわらず,負担しなければならないものであり,本件不許可処分による損害とはいえない。
オ 上記カの主張(別件取消訴訟の弁護士費用)について
争う。被控訴人市長が本件埋立事業の許可申請に対して実体審査を行った場合,不許可処分をしたことが想定され,破産者はかかる不許可処分に対しても取消訴訟等の提起を行ったことが考えられるので,別件取消訴訟の弁護士費用は損害として把握することはできない。また,破産者が独自に弁護士に支払った弁護士費用の全額が本件不許可処分と相当因果関係を有する損害となるものではない。
カ 全体の主張について
「手続の遅滞自体」は無色透明な概念であり,手続が遅滞することによって破産者に何らかの不利益や悪影響等が生じた場合に,はじめて損害が生じたと認められるのであって,本件においては,損害発生の主張・立証はない。
また,本件不許可処分がなかったとしても,実体的要件の観点から不許可処分がされていた可能性があり,その不許可処分が適法,有効とされた可能性があるのであるから,本件不許可処分と損害との因果関係はない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実及び証拠(甲ア1~25,甲イ1~26,甲ウ1~32,40,乙1~31(書証はいずれも枝番を含む。),証人乙山次郎)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1)破産者の設立以降の事業内容
破産者は,昭和41年に設立された株式会社であり,設立当初は土木建築業を目的としていたが,昭和49年10月に産業廃棄物処理業を主たる目的とするようになり,以後,産業廃棄物処理業者としての実績を築く中で,解体工事から廃棄物の収集運搬並びに処理まで一貫して手掛ける能力を獲得し,未仕分けの建築廃材にも対応できる数少ない業者として,大手ゼネコンや住宅メーカーを対象に南大阪地区において地盤を固め,規模及び知名度はトップクラスに位置していた(乙25)。
(2)本件埋立事業に必要な資金投下,地元関係機関からの同意取得等
ア はじめに
破産者は,産業廃棄物処理事業として,河内長野市丙田1553番1外25筆の山林約15万m2を8年間かけて埋め立て,跡地は山林に復元するという土砂埋立事業を計画し,昭和53年ころから,以下のとおり,本件埋立事業に必要な土地の取得等に着手し始めた。
なお,破産者は,最終的に,本件埋立事業地の3分の2については,破産者ないしその系列会社であるZ建設が取得し,3分の1については,個人の土地の使用許諾を得た。
イ 本件埋立事業に必要な資金投下(事業用地取得費用)
(ア)破産者は,昭和56年7月13日,Aとの間で,河内長野市丙田1567番1の土地の売買契約を締結し,同人に対し売買代金として4000万円を支払った。
破産者は,同日,Bに対し,同土地の山林下刈代金として333万円及び同人他3名に対し,上記売買契約の売買仲介手数料として126万円を支払った。
破産者は,同日,Rとの間で,河内長野市丙田1339番甲の土地の売買契約を締結し,同人に対し,売買代金として200万円を支払った。
(イ)破産者は,昭和56年7月19日,Cとの間で,河内長野市丙田1340番地,同1338番甲,同1338番乙,同1339番丁の各土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として160万円,同年11月16日,売買残代金として640万円を支払った。
(ウ)破産者は,昭和56年8月16日,Dとの間で,河内長野市丙田1337番1,同1337番乙,同1339番乙の各土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として250万円,同年11月16日,売買残代金として250万円を支払った。
(エ)破産者は,昭和59年4月9日,Eとの間で,河内長野市丙田1339番1の土地の売買契約を締結し,同人に対し,売買代金として3500万円を支払った。
(オ)破産者は,昭和62年12月22日,Fとの間で,河内長野市丙田1567番17,同1553番1の一部の各土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として1000万円,昭和63年9月29日,売買一部金として3000万円,平成元年7月28日,売買一部金として1500万円,同年12月26日,売買残代金として8060万円を支払った。
(カ)破産者は,昭和63年4月30日,Gとの間で,河内長野市丙田1567番21の土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として350万円,同年7月27日,売買残代金として3250万円を支払った。
破産者は,同年4月30日,Hとの間で,河内長野市丙田1567番22の土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として350万円,同年7月27日,売買残代金として3250万円を支払った。
(キ)破産者は,昭和63年7月5日,Iとの間で,河内長野市丙田1558番の土地の売買契約を締結し,同人に対し売買代金として1000万円を支払った。
(ク)破産者は,昭和63年11月6日,Jとの間で,河内長野市丙田1552番2の土地の売買契約を締結し,同日,同人に対し売買手付金として3000万円,平成元年12月20日,売買一部金として1100万円,同年7月28日,売買一部金として50万円,同年2月15日,本件埋立事業に関し30万円を支払った。
(ケ)破産者は,昭和63年4月10日,Kとの間で,河内長野市丙田1567番10の土地の売買契約を締結し,同人に対し売買手付金として1000万円,平成2年3月19日,売買残代金2億5100万円を支払った。
(コ)破産者は,平成2年2月17日,Jに対し,河内長野市丙田1552番1の土地の売買一部金として5025万円を支払い,同月26日,同人との間で同土地の売買契約を締結し,そのころ売買一部金として300万円を支払った。
(サ)破産者は,平成8年1月16日,Lとの間で,河内長野市丙田1311番の土地の売買契約を締結し,同人に対し売買手付金として30万円を支払った。
(シ)破産者は,平成9年12月19日,国との間で,河内長野市丙田1337番2,同1558番外地先の各土地の売買契約を締結し,国に対し,売買代金として171万円を支払った。
ウ 本件埋立事業に必要な資金投下(事業用地取得費用以外)
(ア)破産者は,Mに対し,地元対策費として,昭和62年12月26日,600万円,昭和63年7月6日,100万円,同年8月26日,500万円,同年11月29日,400万円を支払った。
(イ)破産者は,平成元年3月17日,J及びKとの間で,J及びKから河内長野市丙田1567番10,同1567番12ないし16,同1567番18,同1552番甲,同1552番乙,同1552番丙を破産者が買受け又は賃借し,破産者がJ及びKに,合計7000万円を預託した。
(ウ)破産者は,平成元年12月26日,Fとの間で,同人から河内長野市丙田1553番1,同1567番20の各土地を借り受ける土地賃貸借契約を締結し,平成2年11月9日,同契約に基づき,同人に対し,保証金として1200万円を支払った。
(エ)破産者は,平成6年7月,国土総合企画研究所分室との間で,河内長野市丙田における産業廃棄物に関する許可に関する設計委託契約を締結し,同研究所分室に対し,2945万8000円を支払った。
(オ)破産者は,平成6年9月6日,前記国土総合企画研究所分室に対し,河内長野市丙田地元対策費として520万円,同月7日,同趣旨で580万円を支払った。
(カ)破産者は,平成7年6月23日から平成9年までの間,Nに対し,稲作補償金として合計90万円,同月28日,本件埋立事業に関し20万円を支払った。
破産者は,平成7年6月23日,Oに対し,稲作補償金として30万円を支払った。
破産者は,同日,Pに対し,稲作補償金として20万円,本件埋立事業に関し10万円を支払った。
(キ)破産者は,平成8年6月19日,株式会社地域都市計画センター・コアとの間で,河内長野市丙田地区土砂埋立申請等に関する業務委託契約を締結し,同日,同社に対し請負代金として1854万円,平成11年7月5日,土砂埋立申請費として288万7500円,平成10年2月,設計費として315万円,同年8月18日,土砂埋立申請費として882万円,同月,農業用水路変更設計費52万5000円,同年12月,土砂埋立申請設計図書追加業務費として189万円,平成13年5月7日,パース作成費として8万4000円を支払った。
(ク)破産者は,平成8年9月1日,Jとの間で,同人から河内長野市丙田1552番1の土地を借り受ける土地賃貸借契約を締結し,同契約に基づき,平成8年12月1日から平成12年3月31日にかけて,同人に対し,借地料として合計3000万円を支払った。
(ケ)破産者は,平成8年9月13日,丙田町会との間で,土砂等による土地の埋立事業に関する協定を締結し,同会に対し土砂埋立協力金として1000万円を支払った。
(コ)破産者は,Qに対し,地元対策費として,平成9年8月4日,200万円,平成11年5月19日,1000万円,同年6月2日,1000万円を支払った。
エ 本件埋立事業に関する地元関係機関からの同意取得
(ア)破産者は,平成6年12月ころから,以下のとおり,地元自治会や地権者(破産者は,一部の土地について,当該土地所有者から使用権の設定を受ける予定であった。)及び水利組合と協議を開始し,本件埋立事業に関する同意を取り付けていった。
(イ)破産者は,平成8年11月15日,地元自治会に当たる丙田町会から埋立造成工事の同意を得た(甲ア9)。
(ウ)破産者は,平成9年2月26日に,地元水利組合の三郷水利組合の組合長から埋立造成工事の同意を得(甲ア10の1),平成10年4月26日に,野作町水利組合長及び寺ヶ池水利組合長から条件付きで水路の公用廃止の同意を得た(甲ア10の3)。
(エ)破産者は,平成9年4月末ころ,本件埋立事業に必要な土地の地権者から,当該土地を本件埋立事業に使用する同意を得た(甲ア11,弁論の全趣旨)。
(3)本件埋立事業に関する事前協議等
ア 事前協議に至る経緯
(ア)破産者は,平成9年4月18日,本件埋立条例の前身ともいうべき「土砂等による土地の埋立等に関する指導要綱」に基づき,被控訴人市長に対し土地埋立等の事前申出を行い,被控訴人担当職員から行政指導を受けた。
(イ)平成9年11月25日,本件埋立事業地周辺住民から「丙田谷埋立て中止と埋立等の規制に関する市条例の制定を求める請願」があり,同年12月2日,河内長野市議会は同請願を採択し,平成10年6月26日,本件埋立条例(甲ア1)を制定した。
被控訴人市長は,本件埋立条例が施行された平成10年11月20日,破産者に対し,本件埋立条例に基づく手続を履践するよう指導した。
(ウ)破産者は,上記指導に従い,上記事前申出を撤回して,平成10年12月9日,本件埋立条例11条1項に基づき,事前協議を申し出た。
(エ)被控訴人市長は,本件埋立条例11条2項に基づき,破産者の当該特定事業の土壌汚染の防止及び災害の防止等に関する計画について,河内長野市事業評価審議会に意見を求めた。
同審議会は,平成11年1月26日から7回の審議を経た後,同年11月19日付けで被控訴人市長に意見書を提出した。同意見書には,「土壌汚染・災害防止の観点からの諮問事項」に対する回答として,「搬入土砂が確定されていないので,本件埋立事業の安全性を評価することはできないこと」等,「生活環境への影響の観点からの諮問事項」に対する回答として,「本件埋立事業について本件埋立条例上の義務は存しないが,自主的な環境アセスメントを行政指導の一環として行うことは可能と推察されること」等が記載されていた。
イ 事前協議の内容
(ア)はじめに
破産者は,前記事前協議の申出(平成10年12月9日)以降,被控訴人の担当者との間で,事前協議を開始した。破産者は,この事前協議の中で,被控訴人市長が平成12年6月12日付けでした本件補正事項に関しても,被控訴人担当職員との間で事前協議を重ねており,その内容等は以下のとおりである。
(イ)本件補正事項①(土砂採取場所の特定)について
a 破産者側の認識
埋立事業においては,事業者は許可を取るまで,採取予定地を予約という形でしか押さえることができない。なぜなら,許可前に,採取予定地の土砂採取契約を締結してしまうと,事業が不許可になった場合,当該事業者が契約相手方に対し,債務不履行責任を負うことになるからである。また業界の実態からすると,土砂の採取予定地は,月単位で変更するものであり,長期的な採取予定地を早期の段階で確定することは困難である。
したがって,許可申請時に,厳密な土砂採取予定区域詳細図や採取土砂量の資料の提出をすることはそもそも不可能であった。そこで,破産者は,第一期工事(工期2年間・搬入予定土量30万m3)のうち,まずは3万m3で事業を開始し,最終的に約30万m3まで拡大していく予定とし,原山台と東板持において,約3万m3の土砂を採取する予定とし,その旨採取場所を被控訴人に知らせていた。
b 被控訴人の指導と破産者の対応
これに対し,被控訴人の担当職員らは,申請書に30万m3の計画とある以上,土砂採取予定地から採取できる土砂の量の合計を30万m3に合わせてほしいと指導した。
これを受けて,破産者は,単なる数字合わせとして,原山台から3万m3,東板持から27万m3の土砂を採取するものとして申請書に記載した。被控訴人担当者は,当然,上記経緯を理解していた(甲ア19:23~25頁)。
(ウ)本件補正事項②(森林法等の許可)について
本件埋立事業の土砂採取予定場所のうち,破産者以外の者が所有している土地の場合,森林法等の許可は,当該土地の所有者しか行うことができない。予約として採取予定地を押さえているにすぎない破産者が,当該土地の所有者から,森林法等の手続書類もしくは手続の経過が分かる資料を取得することはできない。
被控訴人の担当職員は,上記事情を十分に理解しており(甲ア19:27~28頁),破産者は,同担当職員から,大阪府に対する森林法や砂防法の許可申請の関係では,上記の処理で事実上了解を得ていた。
(エ)本件補正事項③(車両の登録制及び日報管理)について
本件埋立事業で使用するトラック等は全て破産者が所有しているわけではなく,本件埋立事業開始後,トラック事業者や,単独でトラック運転手として働く個人営業者のまとめ役をしている者に,その時々において手配できるトラックを用意してもらうのが一般的であるから,本件埋立事業開始前に本件埋立事業で使用するトラックをすべて登録することはできない。
そこで,破産者は,本件埋立事業開始後,その都度,使用車両にシールを貼って車両の特定を行うこととし,被控訴人担当職員も車両登録制に代わるものとして了解していた。
(オ)本件補正事項④(ダイオキシン類の検査)について
ダイオキシン類の検査は,許可要件として本件埋立条例に規定されておらず,被控訴人は,破産者に任意の協力を得る形でしか同検査を行い得ない。被控訴人担当職員も,このことを認識していた。
しかし,破産者は,ダイオキシン類の検査についての被控訴人の協力要請に応じており,事業場については,破産者自らダイオキシン類の検査を行い,土砂発生元となる原山台及び東板持については,被控訴人がダイオキシン類の検査を行い,いずれも問題がないことが判明していた。被控訴人担当職員は,このことも了解していた。
なお,調整池は,本件埋立事業の進行とともに造成されていくものであるから,本件埋立事業の許可申請時には存在せず,ダイオキシン類の検査を行うことは不可能であった。
(カ)本件補正事項⑤(水利組合との協議等)について
破産者は,三郷水利組合との間で,平成6年ころから本件埋立事業に関する協議を行っており,平成9年2月26日,本件埋立事業に対する同意を得(甲ア10の1),さらに,平成10年4月26日にも,各水利組合長から公用廃止に対する同意書も得ている(甲ア10の3)。
破産者は,本件埋立事業の許可申請前に,被控訴人担当職員に対して,各水利組合との協議の経過を報告していた(甲ア10の4)。
(キ)本件補正事項⑥(埋立地の境界確定書類)について
破産者は,河内長野市丙田1340番土地(以下,地番のみ記載)とその隣接地1336番乙土地の境界を確定する資料を提出していないが,その他の資料で実体的判断が可能な程度には特定されていた。
被控訴人担当職員らが注目していた特定されていない境界線とは,上記と異なり,1340番土地と1335番甲土地,1335番乙土地,1334番土地,1333番土地等との境界線(1340番土地の東側境界線)であった(乙9)。
1340番土地の東側境界線については,破産者が1335番甲土地等の所有者から法外な判つき料を要求され,境界確定の資料が提出できない状況であった。そこで,破産者は,本来であれば,1340番土地の東側境界線まで設定しておきたかった事業区域線を,西側にセットバックして1340番土地の中央付近を事業区域線とし(実際の埋立区域は事業区域より内部になる。),資料提出が不可能な東側境界線付近の土地を事業区域としないことで,境界確定資料が不要となるように配慮した。
当然,破産者から被控訴人担当職員に対し,上記事情を報告していたし,同職員は,当該事業区域を視察しており,東側境界線付近についても現認していて(甲ア19:33~34頁),了解していた。
(ク)本件補正事項⑦⑧(環境影響調査報告書の誤記の訂正等)について
環境影響調査や騒音軽減対策は,本件埋立事業の許可要件として本件埋立条例に規定されておらず,被控訴人市長は,破産者に任意の協力を求めるしかない。
もっとも,破産者は,被控訴人の求めに応じて同調査等を行い,土砂運搬車両の騒音状況や埋立工事による土砂・粉塵の飛散・影響,それらの対策等を検討した環境影響調査報告書(乙12)を提出していた。
なお,本件補正事項⑧の基準値の誤記については,直ちに訂正できるものであり,破産者も同訂正に応じる予定であった(甲ア19:38~39頁)。
被控訴人担当職員は,以上について十分に認識していた。
(ケ)本件補正事項⑨(地元自治会への事業計画説明等)について
本件埋立条例では,周辺住民に対する事業説明会に関する規定はなく,事業説明会の実施には,破産者の任意の協力が必要である。さらに,天野グリーンヒルズ自治会は,本件埋立事業区域に接する位置にあるものの,本件埋立事業区域内にあるものではない。本件埋立事業区域内の丙田町会は,本件埋立事業に同意している(甲ア9)。
もっとも,破産者は,事前協議の段階で,被控訴人市長から,天野グリーンヒルズ自治会に対しても事業説明会を行うよう指導を受け,平成9年から延べ6回の事業説明会を行い(乙13),同自治会から本件埋立事業に対する同意が得られるよう努力した。しかし,同自治会の本件埋立事業に対する反対の姿勢は強硬であり,それ以上の話合いの余地はなかった。
破産者は,被控訴人担当職員に対し以上について詳細に報告し,同職員は,以上の事情について十分に理解していた。
(コ)本件補正事項⑩(被控訴人水道局との協議)について
破産者は,平成12年2月21日,同年4月4日に,被控訴人水道局との間で協議を行い,廃止となる無形固定資産の価値を把握した後,当該金額を同水道局に支払う旨合意した(乙8:7─3))。
そして,破産者は,上記協議内容を被控訴人担当職員に報告しており(乙8),同職員は,破産者から被控訴人水道局との協議結果を聴取した後,自ら水道局に連絡して,協議内容・同意の有無を確認していた(乙15:77~78頁)。
ウ 本件埋立指導書
(ア)本件埋立指導書を交付するに至る状況等
平成11年3月開催の河内長野市議会の定例会において,「河内長野市水道水源保護条例」(乙29)が可決成立し,同年7月から施行された。
被控訴人担当職員は,平成11年12月28日,事前協議及び河内長野市事業評価審議会の意見書を踏まえて,本件埋立事業に対する指導内容の最終協議を行った。
被控訴人市長は,平成12年1月18日,河内長野市市議会全員協議会で挨拶を行った。この挨拶に関し,河内長野市議会の平成12年3月開催の定例会において,議員が「全員協議会での市長の挨拶は,許可の方向に進む内容になっており,市民の思いを裏切るものだといえます。」「全員協議会での市長の挨拶は,本件埋立事業の許可申請へのレールを敷いたことになります。」などと質問している(甲ア12の1)。
被控訴人市長は,平成12年2月10日,破産者に対し,埋立て指導書(甲ア13,以下「本件埋立指導書」という。)を交付した。
(イ)本件埋立指導書の内容aはじめに
本件埋立指導書の内容は以下のとおりであり,被控訴人市長が平成12年6月12日付けでした本件補正事項に関しても,本件埋立指導書の指導内容に含まれていた。b土壌汚染防止措置について(環境経済部環境政策推進室)
(a)埋立条例(本件埋立条例を指す。以下同様)に規定される土壌検査の実施はもとより,搬入する土砂について埋立条例の土砂の安全基準を遵守するため,事業者従業員,土砂の採取場所関係者及び土砂の運搬者に対して,土砂汚染防止対策に関して周知徹底すること。
(b)埋立事業に使用する土砂について,当該土砂の採取場所における履歴調査を行うこと。
(c)本申請書(許可申請書)を提出するに当たっては,当該申請区域に搬入する土砂の採取場所を特定すること(本件補正事項①)。
(d)埋立事業に使用する土砂については,許可申請書に記載する採取場所から埋立事業区域に直接運搬すること。
(e)埋立事業に使用する土砂の採取場所から埋立事業区域まで運搬するに当たっては,車両の登録制を設けると共に,車両ごとに日報を記録するなど,常にその状況が把握できるよう適切な管理を行うこと(本件補正事項③)。
(f)土砂汚染防止を確保するため,土砂の採取場所における対策並びに運搬方法及び事業地内における対策等を記載した作業手順を書類で示すこと。cダイオキシン類(コプラナPCBを含む)対策について(環境経済部環境政策推進室)
(a)土砂の採取場所,埋立現場の土砂及び排水についてダイオキイン類検査を実施するなど厳重な管理を行うこと。また,調整池に滞留する汚泥についてもダイオキシン類の検査を行う等厳重な管理及び処理を行うこと。また,検査の実施方法並びに管理及び処理の方法等は,あらかじめ書面によって提出すること(本件補正事項④)。d災害防止措置について(環境経済部環境政策推進室)
(a)災害防止にかかる構造的な基準については,砂防法及び森林法の許可手続が必要であり,これら法律上の手続についても併行して行うこと。また,これらの法律に基づく申請手続を行っていることを証する書面(関係機関の受付印のある申請書の写しなど)を提出すること(本件補正事項②)。
(b)本件埋立事業計画は,最高盛土高が約50mに及ぶ区域があることから,埋立事業を施工するに当たり,細心の注意を払い砂防法に基づき施工管理すること。e排水管理等について
(a)埋立事業の施行中及び施行後において調整池に滞留する水質の測定及び監視,並びに堆積土砂の除却等適切な管理を行うこと。また,維持管理しやすい構造とすること。(環境経済部環境政策推進室,都市建設部下水道管理課)
(b)埋立事業による濁水を防止するため,関係機関と協議を行い,適切な監視を実施し,濁水が発生した場合は,原因究明を行うと共に速やかに適切な対策を講じること。(水道局水道総務課)
(c)特定事業区域外から流入する雨水を処理できるよう区域内の排水計画を明確にすること。また,調整池からの流末の排水計画を明確にすると共に,断面検討を行うこと。(都市建設部下水道管理課)f生活環境について(環境経済部環境政策推進室)
(a)本件埋立事業に関する生活環境(粉じん,騒音,臭気,交通対策等)への影響について,調査及びこれらに関する対策を書面にて報告すること(本件補正事項⑦⑧)。g水道水源保護条例について(水道局水道総務課)
(a)本件埋立事業計画地は,水道水源保護条例に規定する水源保護地域内にあることから,水道水源保護条例の手続を厳守すると共に,水道局の指導に従うこと。h一般的事項
(a)本件埋立事業区域内の寺ヶ池水路については,当事業により付け替えが生じるため,この施工方法等について当該水路の管理者と十分協議を行い,当該水路の付け替えに関して同意を得ること(本件補正事項⑤)。(環境経済部環境政策推進室)
(b)本件埋立事業区域内の寺ヶ池水路について,当該水路の管理者との協議書を提出すること。(環境経済部・農とみどりの整備課)
(c)本件埋立事業区域内の寺ヶ池水路の構築物(無形固定資産)について協議すること(本件補正事項⑩)。(水道局水道総務課)
(d)里道・水路敷内行為について「公共用地境界確定」「公用廃止」等富田林土木事務所と協議を行い,必要な手続を行うこと。(都市建設部下水道管理課)
(e)交通整理員の配備など運行ルート周辺における安全対策を講じること。(都市建設部道路管理交通課)
(f)事業用車両等の詳細な運行計画(使用車両・運行ルート・運行台数・期間等)を作成提出すること
(本件補正事項③)。(都市建設部道路管理交通課)
(g)運行時間帯は原則として午前9時から午後5時とし,日曜・祝日は休止すること。(都市建設部道路管理交通課)
(h)事業関係車両等で周辺道路を汚損することのないよう対策を行うこと。(都市建設部道路管理交通課)
(i)事業関係車両等の運行に起因しての道路の汚損及び損傷行為の有無の確認方法並びに事業者の費用負担による復旧に関して協議すること。(都市建設部道路管理交通課)
(j)(i)の項目についての損害賠償の責は,事業者の負担によること。(都市建設部道路管理交通課)
(k)所轄警察署との協議経過書を提出すること。
(都市建設部道路管理交通課)
(l)文化財保護法に基づく手続を厳守すること。
(教育委員会事務局教育部社会教育課)
(m)ショベル系掘削機等を使用する特定建設作業を実施する場合は,作業日の7日前までに市長に届け出ること。(環境経済部環境政策推進室)
(n)本件埋立事業の影響を受ける周辺自治会(丙田地区・旭ヶ丘地区)に対し十分説明を行い理解を得るよう努めること。また,このことに関する経過書類
(事業説明会等の開催内容)を提出すること(本件補正事項⑨)。(環境経済部環境政策推進室)
(o)本件埋立事業中のトラブルについては,事業者において,慎重かつ適切に対処すること。(環境経済部環境政策推進室)
(p)不法投棄防止に関して万全の措置を講じること。(環境経済部環境政策推進室)
(q)埋立条例及び同条例施行規則並びに関係法令を遵守すること。(環境経済部環境政策推進室)i特記事項(環境経済部環境政策推進室)
(a)本申請書(許可申請書)に記載された採取場所については,市において土砂の安全性を確認するため土壌分析を実施するので,検体採取等について,市に協力すること。
(b)旭ヶ丘地区に隣接する土地の擁壁の位置,高さ及び緩衝地帯等について,再度検討すること。
(c)隣接地との境界を確定したことを証する書類を添付のうえ本申請すること(本件補正事項⑥)。
(d)専用の監視事務所を設置すること。
(e)埋立地(事業計画地)の土壌検査については,必要に応じて,事業者にて自主的に検査すること。
エ 事前協議の終了等
(ア)破産者と被控訴人担当職員は,平成12年2月14日,本件埋立指導書(甲ア13)について協議を行った。
(イ)その後,破産者は,本件埋立指導書の指導事項を満たすべく,関係各所との追加の協議・調査等を行い,特に,平成12年2月25日,破産者と担当職員は,土砂採取予定地である原山台の土地及び東板持の土地へ赴き,両土地の土壌検査を行った。
(ウ)平成12年3月末日ころ,本件埋立事業の許可申請に係る破産者及び担当職員らの関係者のほぼ全員が一同に会し,被控訴人担当職員が作成した甲ア14のメモに基づき,本件埋立指導書記載の指導事項及び同指導事項に対する破産者の対応について最終協議を行い,これをもって事前協議が終了した。
その際,被控訴人環境経済部環境政策推進室長である乙山次郎(以下「乙山」という。)も,破産者に対し,破産者は被控訴人側の行政指導に誠実に対応したとして,大きな補正はない旨伝えた(以上につき,甲ア17:10頁中部分,甲ア21の1:19頁~22頁,乙15:51・72頁〔乙山証言からも上記認定の趣旨が読みとれる〕)。
(4)本件埋立事業の許可申請,本件補正要求等
ア 本件埋立事業の許可申請
破産者は,平成12年4月13日付けで,本件埋立条例10条1項に基づき,被控訴人市長に対し,本件埋立事業の許可申請書を提出して,本件埋立事業の許可申請を行った(乙2)。
なお,本件埋立指導書に対する破産者の回答書である「指導事項に対する回答・協議結果」(甲ア15)は,本件埋立事業の許可申請時に添付資料として被控訴人市長に提出されている。ちなみに,被控訴人は,河内長野市行政手続条例に規定する標準処理期間として,本件埋立条例に基づく事業許可申請手続については60日間と規定している。
破産者の代理人である柴山弁護士は,被控訴人市長に対し,直ちに本件埋立事業の許可申請に対する許可をされたい旨の平成12年5月26日付け上申書を提出した。
イ 本件補正要求
(ア)本件補正要求に至る経緯
ところが,平成12年6月8日,河内長野市議会において,本件埋立事業の不許可を求める請願が採択された。
すると,被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請書の内容に一部不備があるとして,平成12年6月12日付け「申請書類の内容補正について」により,資料の再提出等11項目にわたる補正(本件補正)を要求した(乙1)。
(イ)本件補正要求の内容等
a はじめに
被控訴人が本件補正を求めた趣旨あるいは補正の前提とした事実の把握は,次のとおりである(別件取消訴訟の乙山の証人調書(乙15)による。)。
b 本件補正事項①(土砂採取場所の特定)について
本件埋立条例上は,埋立ての許可後に,土砂採取予定地の検査をすることになる。乙山は,平成12年2月中旬ころに破産者の土砂採取場所に赴いて見分したが,その際には東板持では5万m3を対象にしていると聞いていた。それが本件埋立事業の許可申請時点で,なぜ27万m3になったのかは他の職員から聞いていない。
c 本件補正事項②(森林法等の許可)について
許可証を取得して被控訴人に提出することまで要求した趣旨ではない。
破産者の対応は,手続が必要な時点で手続をするという回答であったが,被控訴人としては,破産者が1日も早く本件埋立事業を開始したいという意向であったので,当然,森林法等の許可申請手続もすみやかにされると考えて補正を命じた。
d 本件補正事項③(車両の登録制及び日報管理)について
破産者が車両を登録制にすることは難しいと主張していたことは認識している。破産者から,車両毎に処分券を発行してそれを回収するという提案があったが,処分券は事前に業者にまとめて交付するというので,その方法では,処分券が本当に土砂発生元から渡されたのかの確認が難しいから,処分券は1日毎に交付する方が安全であると指摘した。破産者から,ステッカーを車両に貼るという方式の提案があったことも理解している。
e 本件補正事項④(ダイオキシン類の検査)について
本件埋立事業地において破産者が実施したダイオキシンの検査結果は,特に問題がなかった。土砂採取地については,被控訴人がダイオキシン検査をしたのは代表的な場所1か所だけであるが,その結果に問題はなかった。本件埋立事業の許可後には,採取予定地について,他の箇所でも検査する必要があると考えた。本件埋立事業の許可申請時点で,許可後の検査の手順の説明を求めたものである。
f 本件補正事項⑤(水利組合との協議等)について
破産者が水利組合の同意書を取得していたことは理解している。被控訴人が事前協議時点で指示をして,再度,水利組合の同意書をもらうのがベターであるが,それが無理ならば,破産者と水利組合とで協議を行い,その協議内容の報告をするよう求め,本件埋立事業の許可申請時には,破産者からその報告はされていた。
水利組合が同意書を作成した時点(平成10年4月)とその後の水利組合の対応が変わってきているので,再度,同意書や誓約書の提出を求めたという流れである。
g 本件補正事項⑥(埋立地の境界確定書類)について
被控訴人が問題にしているのは,本件埋立事業区域外の第三者の土地と事業区域内の破産者の土地との境界位置である。
破産者が破産者主張の境界線からセットバックするという方式を主張しているのは理解しているが,境界が決まっていなければ,後退をして線を引いたところで,間違いなく事業地という確認はできないと思われる。
本件埋立事業区域外か事業区域内かを現場で確認できるかについては,乙山は現場を確認していないのでわからない。
h 本件補正事項⑦⑧(環境影響調査報告書の誤記の訂正等)について
環境影響調査報告書(乙12)の数値の訂正については,破産者が応じる意向であったことは理解している。
i 本件補正事項⑨(地元自治会への事業計画説明等)について
天野グリーンヒルズ自治会から説明会開催の要望があったのに,破産者が拒否したという記憶はない。
破産者が本件埋立事業の許可申請後にも説明会を開いたとは聞いたが,誰も参加しなかったと聞いている。
j 本件補正事項⑩(被控訴人水道局との協議)について
被控訴人水道局が了解していることは,乙山が口頭で水道局に確認した。しかし,破産者に書面の協議録の提出を求め,破産者も了解していた。
k 補正事項⑪(許可申請書添付書類の訂正)について
本件埋立事業の許可申請書添付の「指導事項に対する回答・協議結果」と題する書面のうち,「6─1)」「7─3)」の項の記載内容を訂正してもらう必要があった。
ウ 破産者の対応
これに対し,破産者は,被控訴人市長に対し,同月16日付けで「不備とされている事項については,すでに事前にすべて担当部署との間において解決済みのものであり,申請人としては何らの回答義務を伴うものではありません。」と書面で回答して,本件補正の要求には応じなかった。
(5)本件不許可処分等
ア 被控訴人市長の市議会での答弁等
(ア)平成12年6月19日の答弁
被控訴人市長は,平成12年6月19日,河内長野市議会の定例会において,以下のとおり答弁した(甲ア12の5)。
a 丙田谷埋立事業計画につきましては,平成9年12月の市議会本会議において,丙田谷埋立て中止と埋立て等の規制に関する市条例の制定を求める請願が全会一致で採択されたわけでございます。
b この丙田谷埋立計画は,大規模かつ長期にわたる事業計画でございまして,多くの市民がこの事業の実施によって水道水源への悪影響を懸念されておるわけでございます。こういうことから,市としましてもこの請願を重く受けとめまして,丙田谷埋立計画についての行政の取り組みをどのようにしてくかということで非常に重大な決断を求められたものであります。
そういったことから,当時の状況下を振り返りまして,市民の信託を受けた私としましても,この丙田谷埋立計画について行政としてどのように対処すべきかと種々検討いたし,思い悩んだわけでございます。多くの市民が不安を感じている状況においては,この埋立計画について私は認めることはできないと考えておりました。
市としましても,市条例の制定を求める請願を受け,埋立計画の実施による土壌の汚染と災害防止を目的として,平成10年6月市議会で河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例を提案させていただきまして,議会の賛同を得て,可決・成立されました。これが11月の同条例の施行でございます。
また引き続き,平成11年3月市議会では,河内長野市水道水源保護条例が可決され,同年7月より施行されました。
c ご承知のとおりに,事業者から平成10年12月に大規模特定事業事前協議書の提出がございまして,そういった判断をする中で,やっぱり経過を踏まえながら判断する必要があるんですね。だから私はちょっと申し上げておるわけでございまして,それだったら,私は今議会中,この決断をさせていただきたい。
(イ)平成12年6月22日の意見表明
被控訴人市長は,平成12年6月22日,河内長野市議会の定例会において,「河内長野市の長といたしまして,丙田谷埋立計画は許可できないものと判断をいたします。したがいまして,私としては不許可という決断をし,今月中に行政手続を終えまして事業者に通知をいたします。」との意見を表明した(甲ア12の6)。
イ 本件不許可処分
その上で,被控訴人市長は,平成12年6月30日,破産者が補正書類等を提出しなかったことを理由に,本件埋立事業の許可申請が本件埋立条例10条1項所定の手続的要件を満たしていないとして,本件不許可処分をした(甲ア3)。
(6)別件取消訴訟等
ア 大阪地裁判決等
破産者は,平成12年9月29日,柴山弁護士を代理人として,本件不許可処分取消請求訴訟(別件取消訴訟)を提起したところ,同裁判所は,平成15年4月10日,本件埋立事業の許可申請に手続不備があることを理由とする本件不許可処分は違法であり,取消しを免れず,被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請に基づき,本件埋立条例12条1項各号所定の実体的要件の有無を審査し,許可不許可の処分をすべきであったとして,本件不許可処分を取り消す旨の判決を言い渡した(甲4)。
イ 大阪高裁判決等
(ア)はじめに
被控訴人市長は,上記第1審判決に対して控訴したが,同裁判所は,平成16年9月10日,被控訴人市長の控訴を棄却する旨の判決を言い渡した(甲5)。別件取消訴訟の第1・2審判決は,本件各補正事項の必要性について,次のとおり判示している(甲4,5)。
(イ)本件補正事項①(土砂採取場所の特定)について
本件埋立条例には,土砂採取場所の特定及びこれを裏付ける資料の提出を申請の手続的要件とするような趣旨の規定は存しない。
土砂採取場所の特定の問題と同所からの採取予定土量の問題とは,必ずしも結びつくものではない。また,採取場所も,許可申請の段階ですべて明らかにできるものではない。採取土量に関する資料の提出によって汚染土砂の搬入を防ぐという目的を達するということには無理がある。
被控訴人が求めた資料は,本件埋立規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠とはいえない。
(ウ)本件補正事項②(森林法等の許可)について
本件埋立条例による埋立事業の規制と森林法等による開発行為の規制とはその趣旨・目的を異にするものである以上,土砂採取場所が特定されていることと当該土砂採取場所について森林法上の許可申請手続の準備等がされていることは,本来全くの別問題というほかない。
被控訴人が求めた資料は,本件埋立規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠とはいえない。
(エ)本件補正事項③(車両の登録制及び日報管理)について
土砂採取場所が特定されていることと,当該土砂採取場所の土砂が特定事業区域へ搬入されること又はその担保のために土砂運搬車両の登録制もしくは日報管理を実施することは本来別問題である。
被控訴人が求めた資料は,本件埋立規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠とはいえない。
(オ)本件補正事項④(ダイオキシン類の検査)について
本件埋立条例及び本件埋立規則は,埋立事業許可の前後を通じ,事業許可を受けた者に対し,ダイオキシン類の検査をすべき義務が課されていると解することはできない。
被控訴人が求めた資料は,本件埋立規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠とはいえない。
(カ)本件補正事項⑤(水利組合との協議等)について
本件埋立規則5条2項12号において,埋立事業許可申請書への添付が必要とされている「協議書」とは,特定事業区域内の雨水等を下流の水路及びため池へ放流することとなっている場合に,埋立事業許可申請者と当該下流の水路及びため池の管理者との間で,埋立事業が施工されている間に当該埋立事業に使用された土砂等の当該下流の水路及びため池への流出による災害の発生の防止を防止するために必要な措置等についてされた協議の経過及び結果を記載した書面をいうものと解するのが相当である。
破産者は,平成10年4月26日付けで,三郷水利組合から,現状に勝る新しい付替水路の建設によって通水の安全が確保される見通しがついた場合には公用廃止に同意するとの回答書(甲ア10の3)を得ており,本件埋立事業の許可申請段階にあっては,これで十分というべきである。
被控訴人が求めた資料は,本件埋立規則5条2項12号の書類に該当しない。
(キ)本件補正事項⑥(埋立地の境界確定書類)について
埋立事業の許可申請書に本件埋立規則5条2項11号所定の書類の添付を欠くことを理由に,本件埋立条例10条1項に定める手続的要件の欠缺があるというためには,当該特定事業区域とその隣接地との境界が本件埋立条例12条1項6号に定める実体的要件の該当性の判断が不可能な場合でなければならないと解すべきである。
本件特定事業区域とその隣接地との境界は,実体的要件該当性の判断が可能な程度に特定されている。
(ク)本件補正事項⑦⑧(環境影響調査報告書の誤記の訂正等)について
本件埋立条例及び本件埋立規則上,環境影響調査報告書(乙12)が本件埋立事業の許可申請に添付すべき書類及び図面に当たらない以上,その騒音規制基準値に誤った記載があり,その訂正がされないからといって,本件埋立事業の許可申請が手続的要件を欠くものということはできない。
本件埋立条例及び本件埋立規則上,排出規制基準値の記載のある環境影響調査報告書が本件埋立事業の許可申請に添付すべき書類及び図面に当たらない以上,その排出規制基準値に誤った記載があり,その訂正がされないからといって,本件埋立事業の許可申請が手続的要件を欠くものということはできない。
(ケ)本件補正事項⑨(地元自治会への事業計画説明等)について
本件埋立条例上,特定事業区域周辺の住民への事業説明に関する規定は存在しないし,本件埋立条例の目的(1条)や事業者の責務(3条4項)などから,直ちに被控訴人が求める経過書等が本件埋立事業の許可申請の審査の上で本件埋立規則5条2項各号の列挙する各添付書類に準ずる程度に不可欠なものに該当すると解することはできない。
(コ)本件補正事項⑩(被控訴人水道局との協議)について
本件埋立条例上,埋立事業許可申請に当たり,当該埋立事業について水道局と協議を実施すべき規定は存在しない。
(サ)本件補正事項⑪(許可申請書添付書類の訂正)について
「指導事項に対する回答・協議結果」(甲ア15)については,本件埋立条例上,本件埋立事業の許可申請書への添付が必要とされる根拠規定は存在しない。
ウ 最高裁判決等
被控訴人市長は,さらに上記控訴審判決に対して上告受理の申立てをしたが,同裁判所は,平成17年6月2日,上告審として受理しない旨の決定をし(甲6),上記控訴審判決が確定した。
(7)破産者の経営悪化,破産宣告等
ア 企業としての経営悪化
破産者は,平成10年9月期ころから,建築廃材などの大口需要が低下したことにより減収傾向になり,平成11年9月期以降,建築業界の不振により産業廃棄物の数量が伸び悩み,また,同業他社との競争激化に対応すべく,低価格で受注を進めたことにより減収となり,採算割れの状況が続いた。
イ 本件不許可処分の影響
破産者は,本件埋立事業の許可申請前から経営状況が下降気味であったため,本件埋立事業に期待し,同許可申請の結果に多大の関心を抱いていた。本件埋立事業は,事業規模及び予想された利益額も破産者の事業の中で最大級のものであり,業績低迷中の破産者にとっては,まさに起死回生の重要事業であった(なお,控訴人の平成22年10月22日付け準備書面5頁4~6行目)。
ところが,破産者が平成12年6月30日に本件不許可処分を受けたことにより,企業としての信用を大きく失墜し,銀行等の取引先金融機関も,不許可処分という結論を見て,もはや破産者が早期に業績回復を図る道はないと判断して,次々と手を引いていき,新規借入れや支払期限延期等の便宜を受けることができなくなった。しかも,破産者のメインバンクだった関西興銀が平成12年12月に倒産し,同銀行からの資金調達は不可能になった(以上につき甲ウ40)。
ウ 資金繰りの悪化
破産者は,銀行等からの新規借入れができなくなり,かつ,予定していた本件埋立事業からの収益が入らない一方で,本件埋立事業資産(特に事業用地)の維持や別件訴訟の遂行等により,多額の金銭を要した。さらに,破産者は,従前からの借入金(本件埋立事業の投下資金を含む。)に対する返済金も必要であった。
そのため,破産者は,本件不許可処分後,資金繰りが急激に悪化し,高利金融業者からの借入れを余儀なくされた。また,破産者は,経費節減のため,別件訴訟継続中に,パート,派遣社員のほとんど(約40名)を解雇した(以上につき甲ウ40)。
エ 事業活動の停止,破産宣告等
このようにして,破産者は,本件埋立事業開始まで,なんとか会社を維持しようとしたが,資金繰り悪化に歯止めがかからず,平成16年3月12日,銀行取引停止処分を受けた。そのため,破産者が広島県大竹市(最終処分場)及び堺市(中間処理施設)で行っていた廃棄物処理業の許可が取り消され,破産者の事業活動が停止した。
さらに,破産者は,平成18年3月22日,債権者から大阪地裁堺支部に破産申立てをされ(同裁判所平成18年(フ)第540号),破産者は上記債権者の債権の存在を争ったが,同年6月27日午後5時,同裁判所支部から破産開始決定を下され,控訴人が破産管財人に選任された。
(8)最終不許可処分
ア 平成17年8月26日付け補正要求
被控訴人市長は,別件訴訟で本件不許可処分の取消しが確定したことから,平成17年8月26日付け「特定事業許可申請にかかる補正等に関する指導について」と題する書面(乙19)により,破産者に対し,本件埋立事業の許可申請につき補正を求めた。
しかし,破産者は,これに対して回答しなかった。
イ 平成18年1月30日付け補正要求
(ア)そこで,被控訴人市長は,破産者に対し,再度,平成18年1月30日付け「特定事業許可申請にかかる補正等に関する再指導について」と題する書面により,本件埋立事業の許可申請につき,同年2月28日までの補正を要求した(乙20)。
上記補正事項のうち,被控訴人が本件埋立事業の許可申請の許可・不許可の判断に必要であるとしているのは,16項目にわたるが(甲ア8),このうち,6項目が本件補正事項①,②,③,⑤,⑥(ただし一部のみ),⑩と一致しており,本件補正事項④,⑦,⑧,⑨,⑪は含まれていない。
(イ)これに対し,破産者は,平成18年2月24日付けの回答期限延期申請書により,6か月以上の期間の猶予を求めた(乙21)。
そこで,被控訴人は,同年6月21日,破産者に対し,「回答期限延期申請書に記載された申請事項等に対する回答について」と題する書面により,同年11月30日までの補正等の回答期限を延期することを通知した(乙22)。
ウ 最終不許可処分
しかし,破産者及び控訴人は,破産手続開始決定がされたことから,平成18年11月30日までに,上記補正等についての回答をしなかった。
そこで,被控訴人市長は,平成18年12月15日,本件埋立事業は本件埋立条例12条1項等の許可基準に適合しているとは認められないとして,最終不許可処分をした(甲ア7,乙23)。
2 本件埋立事業の許可申請は実体的要件を具備していたか(争点(1))の検討
(1)双方の主張
控訴人は,本件埋立事業が本件埋立条例12条1項1号ないし6号の実体的要件を具備している旨主張しているのに対し,被控訴人は,本件埋立事業は,少なくとも,本件埋立条例12条1項4号及び埋立事業区域の境界の明示・特定がされていない旨主張しているので,以下,検討する。
(2)本件埋立条例12条1項4号について
ア 被控訴人主張等
被控訴人は,別件取消訴訟におけるのと同様に,東板持の土地から27万m3の土砂を採取するのは不可能であり,したがって,土砂採取場所が特定されていない旨主張している。
そして,東板持の土地から27万m3の土砂を採取することが困難であることは,破産者自身別件取消訴訟で自認しており(単に,数字合わせでその旨記載したにすぎないと主張していた。),一見すると,本件埋立条例12条1項4号の要件を具備しないように見える。
イ 検討
(ア)しかしながら,別件取消訴訟の第1・2審判決(甲ア4・5)が適切に判示しているように,本来,土砂採取場所は,許可申請の段階ですべて明らかにできるものではないし,土砂採取場所の特定の問題と同所からの採取予定土量の問題とは必ずしも結びつくものでもない。
(イ)すなわち,前記1(3)イ(イ)認定のとおり,破産者は,本件埋立事業の許可申請時点においては,原山台と東板持の2か所を土砂採取場所として特定していたのであり,その意味では,本件埋立条例12条1項4号の要件を具備していたといえる。
(ウ)そして,新たに土砂採取場所が追加変更される場合には,本件埋立条例13条1項の変更の許可の規定により対処することが想定されていると考えるのが合理的であって,そのように解釈しても,本件埋立条例の規制趣旨を没却することはないものと考えられる。
なぜならば,「土砂採取場所の特定」という実体的要件も,結局のところ,汚染土砂の搬入の防止という目的のために規定されているものと解されるところ,採取土量に関する資料の提出によって上記目的を達成することには無理があり,この点は本件埋立条例15条が「同条例9条の許可を受けた者は,当該許可に係る特定事業区域に土砂等を搬入しようとするときは,当該土砂等の採取場所ごとに,当該土砂等が当該採取場所から採取された土砂等であることを証するために必要な書面で規則で定めるもの(本件埋立規則10条2項),及び当該土砂等が安全基準に適合していることを証するために必要な書面で規則で定めるもの(本件埋立規則10条3項)を添付して,市長に届け出なければならない。」と定めており,同規定によって汚染土砂の搬入の防止を図ることが期待されているといえるからである。
ウ まとめ
したがって,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項4号の要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと認められる。
(3)埋立事業区域の境界の明示・特定について
まず,本件埋立条例12条1項各号には,被控訴人が主張するような埋立事業区域の境界の明示・特定という要件は規定されていない。
もっとも,本件埋立条例12条1項各号は,「特定事業区域」を前提とした規定であるから,「特定事業区域」が特定されている必要があるのはいうまでもないが,この点についても,別件取消訴訟の第1・2審判決が適切に判示しているように,本件埋立事業の許可申請においては,座標値が入った図面により,「特定事業区域」自体が特定されているのは明らかである。
特定事業区域の特定の問題と土地の境界の特定の問題は必ずしも一致しないのであって,土地の境界が厳密に特定されていなくても,特定事業区域の内部に,許可申請事業者が所有権又は使用権を有しない土地が含まれていないことが明らかであれば,本件埋立条例の規制目的からしても,特段の問題は生じないものと解される。
この点,破産者は,自ら主張する境界線からセットバックして特定事業区域を特定した旨主張していたのであって,当該特定事業区域内に,許可申請事業者である破産者が所有権又は使用権を有しない土地が含まれているか否かについては,現地の土地の形状や隣接土地所有者の境界位置の主張内容を検討することによって,比較的容易に判断することが可能であると解される。
したがって,本件埋立事業の許可申請は,特定事業区域の特定の要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと認められる。
(4)その他の要件等について
証拠(甲ア17~19,21の1・2,25の1・2,乙2)及び弁論の全趣旨(控訴人の平成22年5月27日付け準備書面3~7頁)によれば,次の事実が認められる。
ア 本件埋立条例12条1項1号(事務所の設置)について
破産者は,本件埋立事業区域内に事務所の設置を予定しており,本件埋立事業の許可申請書にも設置予定場所を特定して申請していた。
イ 本件埋立条例12条1項2号(事業区域の安全基準)について
特定事業区域の表土の安全基準は,本件埋立条例6条,本件埋立規則3条,同別表第1に定められている。また,土壌検査の方法については,本件埋立規則5条5項が規定しており,本件埋立事業においては,環境計量士が土壌検査を事業区域の5か所で行う必要があった。さらに,土壌検査結果の報告については,その報告様式,添付書類が本件埋立規則5条2項5号によって定められていた。
そこで,破産者は,上記条項に従い,本件埋立事業区域内6か所において表土を採取し,本件埋立規則の定める各項目について検査を行い,規定の報告様式によって,全地点における表土が安全基準を満たすものであることを申告していた(甲ア25の1・2)。
ウ 本件埋立条例12条1項3号(特定事業のたい積の構造が構造基準に適合すること)について
(ア)はじめに
上記3号にいう「構造上の基準」とは,本件埋立規則7条1項,別表第2に規定されており,別表第2には,行政が求める具体的防災措置が記載されている。そこで,破産者は,本件埋立規則別表第2の各項目について,次のとおり対応していた。このように,破産者は,防災については特に配慮して本件埋立事業を計画しており,本件埋立条例,本件埋立規則が規定する「構造上の基準」に適合するものであった。
(イ)別表第2─1項・2項 地滑り防止措置
破産者は,軟弱地盤での土置換や段切りの設置を予定していた。
(ウ)別表第2─3項 埋立て等の高さ及びのり面の勾配の規制
破産者は,のり面の勾配の安定計算を行い,安全な勾配を確保していた。
(エ)別表第2─4項 擁壁の構造
破産者は,重力式擁壁を使用する予定にしており,その構造については,重力式擁壁構造計算書で詳細に計算しており,各種規制に適合した構造であった。
(オ)別表第2─5項 段切り及び排水溝の設置
破産者は,段切りについて,本項規定どおり,埋立て等の高さ5m毎に幅1mの段を設けることを予定していた。また,排水溝についても,適切な排水計画を予定していた。
(カ)別表第2─6項・11項 特定事業施工中及び完了後の土砂の締固め等,崩落防止措置
上記6項・11項は,特定事業施工中と完了後の地盤の緩みを防止し,ひいては土砂崩落などの災害発生防止を目的としている。この点,破産者の防災計画に含まれているあらゆる措置が土砂崩落防止のための措置であり,破産者は上記6項・11項の要求を満たしていた。
(キ)別表第2─7項 のり面の風化,浸食防止措置
破産者は,植生工によってのり面を保護することを予定していた。
(ク)別表第2─8項 特定事業区域の植林等の土砂等飛散防止措置
破産者は,防災だけでなく環境保全の観点からも,本件埋立事業完成後の事業区域を森林に戻す予定にしていた。
(ケ)別表第2─9項 仮設沈砂池の設置
破産者は,本件埋立事業区域内の10か所以上に仮設沈砂池を設置する予定であった。また,仮設沈砂池の構造等については,工事中仮設沈砂池計算書・工事後仮設沈砂池計算書を作成し,構造上の安全も確保していた。
(コ)別表第2─10項 調整池の設置
破産者は,本件埋立事業区域の最下流に調整池を設置し,洪水等の災害対策を行う予定にしていた。
エ 本件埋立条例12条1項5号(水質測定の措置)について
破産者は,本件埋立事業の許可申請書類の中で水質測定位置図を添付して,水質測定のための措置をとることを明確にしていた。
オ 本件埋立条例12条1項6号(特定事業施工中の災害発生防止)について
破産者は,本件埋立事業施工中の災害発生防止について,防災計画書のとおり適切な措置をとることを明らかにしていた。また,施工計画書にも,防災のために施工に当たって破産者が注意する事項を記載し,破産者が防災のために十分配慮していた。
カ まとめ
以上の認定事実によれば,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項1~3号,5・6号についても,その要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと認められる。
(5)総括
本件埋立条例12条1項各号の許可基準適合性の有無は,いうまでもなく第1次的には許可権者である被控訴人市長が判断するものであるところ,本件においては,前記1(7)エ,同(8)ウ認定のとおり,破産者につき破産手続開始決定がされた後の非正常な状態で,被控訴人市長により最終不許可処分がされているにすぎず,破産者が正常な事業活動を営んでいた状態であれば,許可基準適合性についていかなる判断がされたかについては明らかではない。
そして,本件埋立事業の許可のような行政処分の場合,処分行政庁には少なくともある程度の裁量権が与えられているのも明らかであるから,当裁判所は,前記(2)ないし(4)で,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項各号が定める要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと判断するが,最終的に,許可基準適合性を有していたとまで認定するのは困難であるといわざるを得ない。
そこで,以上の説示を前提に,その余の争点について判断を進めることとする。
3 本件埋立事業は着手・遂行可能性があったか(争点(2))の検討
(1)寺ヶ池水路の付替工事に関する大阪府知事の承認
ア 被控訴人の主張
被控訴人は,次のとおり主張する。
(ア)本件埋立事業は,谷状の本件埋立事業区域内を建設残土等で埋め立てていく事業であり,寺ヶ池水路も埋めてしまうので,水路を付け替えることが必要不可欠であった。
そして,寺ヶ池水路はいわゆる青線水路であり,平成17年までは国有財産として大阪府知事が管理していたところ,大阪府知事の工事承認を得るには,利害関係者の同意が必要であり,水路を管理し水を灌漑用水として利用している三郷水利組合の同意が必要であった。
(イ)ところが,三郷水利組合は,本件埋立事業から寺ヶ池水路の汚染・損傷等の影響を回避するために,土砂埋立行為を行う前に,現状地盤から頑丈な橋脚等を立て,現状の水路より優る水路を先に設置し,土砂埋立行為による汚染,地盤沈下等による水路損傷等のおそれのない状態をつくっておいてから,土砂埋立行為をするよう要求していた。
これに対し,破産者は,本件埋立事業区域内の埋立を進めていく課程の中で,必要な段階となったときに,寺ヶ池水路の付替工事に着手すると主張していたのであって,三郷水利組合と破産者は全く折合いがついていなかった。
それゆえ,破産者は,三郷水利組合から水路付替工事の同意を得る見込みは皆無であり,したがって,大阪府知事からの工事承認を得る見込みも皆無であった。
(ウ)以上の次第で,寺ヶ池水路の付替工事に関する三郷水利組合の同意,大阪府知事の承認の関係で,本件埋立事業は着手・遂行可能性がなかった。
イ 検討
しかし,証拠(甲ア10の1~4,甲ア17~19,甲ア21の1・2,甲ア24)及び弁論の全趣旨(控訴人の平成22年10月22日付け準備書面1~3頁)によれば,次の事実が認められ,同事実によれば,本件埋立事業について,三郷水利組合からの水路付替工事の同意や大阪府知事からの工事承認が必要であるからといって,本件埋立事業に着手・遂行可能性がなかったとまで認めるのは困難である。
(ア)破産者と三郷水利組合との間では,寺ヶ池水路の付替工事に関する協議と話合いができていた(甲ア10の1~4,甲ア24)。
破産者は,三郷水利組合,被控訴人担当職員との間で,新水路の位置,構造等について検討を重ねた結果,3者間で合意に達したので,その合意に基づき新水路の設計図を作成し,本件埋立事業の許可申請書の添付書類として,被控訴人に提出したものである。
(イ)そもそも,本件埋立事業は,谷底の調整池の造成,次いで調整池周辺の擁壁の工事というように,下から上に向かって順番に行われる。新水路は擁壁に沿うように設置されるため,調整池と擁壁の完成よりも前に新水路を設置しても,調整池・擁壁の造成工事が開始されると,新水路を潰さなければならなくなる。
それゆえ,水路の新設工事を埋立工事(調整池,擁壁造成工事)よりも先に行うことはできないのである。なお,土砂埋立工事自体は,調整池,擁壁等が完成してから行われるため,新水路は土砂埋立行為よりも前に設置される。
(ウ)破産者は,この旨を三郷水利組合に説明し,同組合の了解を得ていた。また,破産者は,三郷水利組合の意を汲んで,擁壁造成工事と同時期に新水路の造成工事に入ることを約していた。破産者は,三郷水利組合との間でその他の問題点についても全て話し合い,同組合から内諾を得ていた(甲ア24)。
なお,破産者から三郷水利組合へは,本件埋立事業の許可後,協力金名目で5000万円が支払われる約束になっていたのであり(甲ア10の2,甲ア24),かかる金銭支払の合意からも,三郷水利組合が本件埋立事業の遂行に同意,協力することが約束されていたことが窺える。
(2)水道水源保護条例による規制
ア 被控訴人の主張
被控訴人は,次のとおり主張する。
(ア)被控訴人(水道事業管理者)は,水道水源保護条例(乙29)に基づき,水道水源の保護を目的として,河内長野市の西代浄水場及び三日市浄水場取水口の上流域を,水源保護地域に指定している。
そして,本件埋立事業区域内は,その排水が西代浄水場取水口となる河川の上流域の河川に流入することから,水源保護地域に指定されており,本件埋立事業は,水道水源保護条例にいう「対象事業」に該当している。
(イ)このため,破産者は,本件埋立事業区域(水源保護区域)内に搬入し,埋立てに供する土砂(土砂採取場所のサンプル土砂)について,所定の排水水質基準項目につき,排水水質基準をクリアするかどうか,予め検査をしなければならず(同条例6条3項1号,同条例施行規程5条・別表,乙30),排水水質基準をクリアしなければ,本件埋立事業区域は「規制対象事業場」に該当することになり,水源保護地域に規制対象事業場を設置することは認められず(同条例9条),結局,事業の遂行はできないことになる。
(ウ)本件の場合,破産者は,本件埋立事業の許可申請の際には,水道水源保護条例上の手続を全く履践していなかったこと等から,破産者が水道水源保護条例上の排水水質基準等の規制をクリアできるのかは全く明らかではなく,その保障はなかった。
したがって,被控訴人は,水道水源保護条例による規制の関係で,本件埋立事業は着手・遂行可能性がなかった。
イ 検討
しかし,証拠(甲ア13,甲ア15,甲ア25の1~3,乙29)及び弁論の全趣旨(控訴人の平成22年10月22日付け準備書面3・4頁,同平成23年1月17日付け準備書面)によれば,次の事実が認められ,同事実によれば,水道水源保護条例が存在するからといって,本件埋立事業に着手・遂行可能性がなかったとまで認めるのは困難である。
(ア)破産者は,土砂採取場所の土砂は,本件埋立条例15条,本件埋立規則10条3項の土壌検査をクリアしており(甲ア25の1~3),一定の安全は確保されたものであった。そもそも,本件埋立事業は,土砂による埋立てであって,産業廃棄物による埋立てではない。
(イ)また,本件埋立事業区域の雨水は,一旦調整池に集められてから放水されるところ(埋立地の下に透水管を張り巡らせ,水を調整池に導く設計であった。),破産者は,調整池には水の浄化装置の設置を予定しており,水道水源保護条例の規制に対する対応も十分に検討していた。
(ウ)さらに,仮に,本件埋立事業の許可を得た時点で,すみやかに土砂採取場所の土砂が水道水源保護条例の規制をクリアできなくても,破産者としては,他の土砂採取場所を見つければ良いことであり,本件埋立事業が遂行できないことにはならない。
現に,破産者は,事前協議期間中に,土砂採取場所の事業主等が別の産廃業者と契約するなどしたために,土砂採取が不可能になった場合は,直ぐに別の土砂採取場所を見つけ,本件埋立事業の許可申請時までに,7回位土砂採取場所を変更していた。
(エ)なお,破産者は,本件埋立事業の許可申請の事前協議の終了に近い時点(平成12年2月21日)で,水道水源保護条例上の手続も速やかに行う予定であった(甲ア13:6の1,甲ア15:6項)。
水道水源保護条例(乙29)は,上記事前協議中の平成11年3月26日に可決成立し,同年7月1日から施行されたのであり,破産者としては,当然,水道水源保護条例の手続を行う予定でいたが,とりあえずは,現に進行中の本件埋立条例に基づく事前協議手続を優先させたのである。
4 被控訴人市長が本件不許可処分を行ったことについて,違法性ないし過失があったか(争点(3))の検討
(1)はじめに
本件不許可処分が違法であるとして,これを取り消す判決が別件取消訴訟で確定していることは,前記1(6)認定のとおりである。
ところで,行政処分が取消訴訟において取り消されたとしても,そのことから直ちに被控訴人に国家賠償法上の違法性があったということはできず,被控訴人が,本件不許可処分を行うに当たり通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と本件不許可処分を行ったと認め得るような事情がある場合に限り,国家賠償法上の違法性があったと評価できると解するのが相当である(最高裁判所平成5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁等参照)。
これは,つまり,被控訴人市長が本件不許可処分をした当時,本件不許可処分を違法であると考えなかったことに無理からぬ事情がある場合には,国家賠償法上の違法性はないということである。
以下,かかる観点から,被控訴人市長が本件不許可処分を行ったことについて,違法性ないし過失があったかについて,検討する。
(2)形式的要件を充足しているのに,あえて形式的要件の判断をしたこと ア まず,本件不許可処分は,本件埋立事業の申請許可の実体的要件を判断したものではなく,形式的要件を判断したものにすぎないこと,しかも,破産者と被控訴人との間で,本件埋立事業の許可申請について,1年数か月もかけて事前協議を経ていたことに着目する必要がある。 イ 形式的要件の欠缺を理由にされた不許可処分について,申請者が取消訴訟でその違法性を争う場合,当然のことながら,その対象は形式的要件の有無に限られるから,申請者が不許可処分を取り消す旨の確定判決を得たとしても,それだけで所期の目的を達することができるわけではなく,ようやく,実体的要件の有無を判断してもらえるスタートラインに立つにすぎず,実体的要件を満たさないとして再び不許可処分がされる可能性もあり,その場合,再度,不許可処分の取消訴訟を提起しなければならないという負担を負うことになる。
ところで,河内長野市行政手続条例(乙16)は,6条において,当該申請に対する処分をするまでの通常要すべき標準的な期間を定めるよう努め,その期間を公表することを規定するとともに,7条は,「行政庁は,申請がその事務所に到達したときは遅滞なく当該申請の審査を開始しなければならず,かつ,申請書の記載事項に不備がないこと,申請書に必要な書類が添付されていること,申請をすることができる期間内にされたものであることその他の条例等に定められた申請の形式上の要件に適合しない申請については,速やかに,申請をした者に対し相当の期間を定めて当該申請の補正を求め,又は当該申請により求められた許認可等を拒否しなければならない。」旨規定している。国の行政機関について適用される行政手続法6条,7条も,同様の規定を設けている。
この趣旨は,申請者にとって,行政庁により,許可・不許可の判断が速やかにされることが利益にかなうことから,行政庁にその旨の努力義務を課しているものと理解できる。
このような趣旨からしても,行政手続条例は,申請者から提出された資料等のみでは,実体的要件の有無を判断することができないような特段の事情がある場合を除き,行政庁に速やかな実体的判断の有無を判断するよう義務付けているものと解するのが相当である。
ウ 本件の場合,前記1(3)認定のとおり,被控訴人は,控訴人との間で,1年数か月もの長期間にわたり事前準備を行い,その間,本件埋立指導書(甲ア13)に記載があるように,まさに「箸の上げ下ろし」といっていいほど細部についてまで破産者を行政指導し,それに対して,破産者も可能な範囲でその趣旨に沿うよう対応策を考え,これを被控訴人に提示していたのである。そして,破産者の前記対応策に対しては,被控訴人からさらに強い是正指導がされることもなく,事前協議が円満に終了し,本件埋立事業の許可申請に至っているのであり,被控訴人担当職員も,事前協議終了時点では,本件補正事項についても破産者の対応に理解を示し,「今後大きな補正はない」との発言までしているのである(前記1(3)エ)。
以上のような事実経過や,前記認定に係る本件補正を命じた被控訴人側の意図・趣旨,別件取消訴訟における第1・2審判決の判示内容等を踏まえると,本件埋立事業の許可申請の時点で,本件補正を促さなくても,速やかに実体的判断が可能であったことは明らかであって,被控訴人が主張するような実体的要件が具備されているのか否かについて判断が付きかねるような状況であったとは到底考えられない。この点は,被控訴人の本件埋立事業の許可申請についての標準処理期間が60日間とされていることからしても,申請後に多数の補正を促して申請の是正を求めることが予定されていたとは考えられないことからも,裏付けられているといえる。
エ したがって,河内長野市行政手続条例の観点だけからしても,被控訴人市長が職務上の注意義務を尽くすことなく,漫然と本件不許可処分を行ったと認められる。
(3)政治的意向が強く働いていること
ア 加えて,本件不許可処分については,きわめて政治的な意向が強く働いていることが推認できる。
イ すなわち,前記1(3)ア(イ),同ウ(ア)によれば,そもそも,本件埋立条例や水道水源保護条例自体,本件埋立事業をいわば狙い撃ちにしたものであることが認められる。この点で,最高裁判所平成16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2536頁の事案(紀伊長島町水道水源保護条例事件)と,その背景事情が酷似している。
その後も,市議会においては,本件埋立事業の不許可を求める請願が採択されているし(前記1(4)イ(ア)),本来,本件埋立事業が本件埋立条例により許可されるか否かは,本件埋立条例の許可要件を満たすか否かについて淡々とした判断がされるべきであるのに,被控訴人市長自身,市議会の答弁において,本件埋立条例の制定等の経過を踏まえて判断しなければならないと明言した上,被控訴人の事務方が未だ本件埋立事業の許可申請の審理をしている最中に,市議会で本件埋立事業の許可申請は許可できないなどと言明しているのである(前記1(5)ア)。
ウ 以上のような事実関係と,前記1(3)(5)のとおり,被控訴人は,本件埋立事業の許可申請に先立ち,破産者との間で1年数か月もの期間をかけて事前協議の手続を行い,被控訴人担当職員自身が,事前協議終了時点では,本件補正事項についても破産者の対応に理解を示し,「今後大きな補正はない」との発言までしていたこと,ところが,被控訴人市長は,本件埋立事業の許可申請は形式的要件を充足しているのに,同申請が形式的要件を欠くという間違った理由で本件不許可処分をしていることを考え併せると,被控訴人市長は,同申請について,本件埋立条例の許可要件(形式的要件及び実体的要件)について真摯に検討した結果,本件不許可処分をしたのではなく,本来は解決済みの本件補正事項をあえて再度持ち出し,本件埋立事業を強く嫌悪する市民の意向を過度に重視して,あえて本件不許可処分をしたものと推認することができる。
(4)総括
以上のとおりであるから,被控訴人市長が本件不許可処分をした当時,本件不許可処分を違法であると考えなかったことに無理からぬ事情がある,などとは到底認めることはできず,したがって,少なくとも,被控訴人市長は,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく,漫然と本件不許可処分を行ったものと認めるのが相当であり,国家賠償法上の違法性も過失も認められる。
そうすると,被控訴人は,国家賠償法1条1項に基づき,破産者に対し,本件不許可処分により破産者が被った損害を賠償する責任があるというべきである。
5 破産者が本件不許可処分によって被った損害及びその金額(争点(4))の検討
(1)控訴人主張の3段階のいずれに当たるか
ア 控訴人主張
控訴人は,①本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していた場合は,次の(ア)ないし(オ)のすべてが損害になり,②本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していなかった場合には,次の(イ)(オ)が損害となり,③本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していない可能性のある場合には,次の(イ)(エ)(オ)が損害となる旨主張する。
(ア)本件埋立事業投下資金相当額の損害9億0830万4500円
(イ)手続の遅滞による損害2億2365万3750円
(ウ)慰謝料(無形の損害)2000万円
(エ)固定資産税相当額の損害10万9584円
(オ)別件取消訴訟の弁護士費用600万円
イ 検討
(ア)控訴人主張①について
前記2で認定判断したとおり,本件埋立条例12条1項各号の許可基準適合性の有無は,第1次的には許可権者である被控訴人市長が判断するものであり,被控訴人市長は,その判断に当たっては,ある程度の裁量権が与えられていることから,当裁判所は,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項各号が定める要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと認められると判断したが,最終的に,許可基準適合性を有していたとまでは認定するのが困難であるといわざるを得ない。
したがって,上記アの控訴人主張①を前提とする損害賠償請求は理由がない。
(イ)控訴人主張③について
前記2,3の認定判断によれば,本件埋立事業の許可申請は,本件埋立条例12条1項各号が定める要件を具備していると判断された蓋然性が高いものと認められる上,水路付替工事の水利組合の同意や大阪府知事の承認が必要であり,また,水道水源保護条例の規制が定められているからといって,本件埋立事業に着手・遂行可能性がなかったとまで認めるのは困難であることに照らせば,本件は,上記アの控訴人主張③(本件埋立事業の許可申請が実体的要件を具備していない可能性のある場合,すなわち,許可申請当時,実体的要件の具備の有無が全く不透明であり,補正等により実体的要件が具備された可能性がある場合)を前提とする損害賠償請求が問題となる。
そこで,以下,上記アの控訴人主張③に基づき,破産者が本件不許可処分によって被った損害及びその金額を検討する。
(2)控訴人主張③に基づく破産者の損害及びその金額
ア 手続の遅滞による損害について
(ア)控訴人主張の問題点
破産者が凍結したと主張する費用は,いずれも,本件埋立事業の準備のために,土地の売買代金,地代等,地元対策費,設計費用等の名目で,本件埋立事業の許可申請時には既に支出されていた費用である。
控訴人が凍結していたと主張する9億円を超える金額は,破産者が現金や預貯金の形で保管していたものではないし,破産者が実体審査を経た上で不許可処分を受けて本件埋立事業から撤退した場合に,支出済みのこれらの費用について,土地の売買契約や賃貸借契約を解除し,又は地権者らを説得するなどしても,その全額を回収することなどできないことは明らかであるし,その一部にせよ直ちに回収することが可能であったということもできない。
すなわち,破産者が支出した費用のうち,①前記1(2)ウ(ア)(オ)(カ)(ケ)(コ)の費用は,本件埋立事業を行うに当たって地権者らを説得するために支出した稲作補償金,土砂埋立協力金,地元対策費等であり,②前記1(2)ウ(エ)(キ)の費用は,本件埋立事業を計画,設計,申請するために支出した設計委託契約料,土砂埋立申請委託費用等であり,これらに加えて,③前記1(2)ウ(エ)(キ)の費用中の賃料相当額については,被控訴人市長が,直ちに本件埋立事業の許可申請について実体審査を行い,許可又は不許可処分を行っていたとしても,破産者が負担しなければならなかった費用であって,破産者の資産となるものではなく,そもそも,投下資金の凍結がなければ回収・運用できたという性質のものではない。
(イ)当裁判所認定の損害額
もっとも,前記4(2)で判示したように,本件不許可処分(平成12年6月30日付け)は,本件埋立事業の許可要件のうち,形式的要件の欠缺を理由とする不許可処分であるから,本来は,本件不許可処分の時点で実体的要件の有無が判断されるべき状況であったにもかかわらず,別件取消訴訟の確定時点で,ようやく実体的要件の審査がされることになったのであるから,破産者が本件不許可処分を受けた後,別件取消訴訟が確定する(平成17年6月2日)までの期間(5年弱,前記1(5)イ・同(6))は,破産者にとっては全く無駄な期間であったということができる。
そうすると,いわば無駄な時の経過自体が損害といえるから,本件埋立事業のための借入金の別件取消訴訟の審理期間中の利息相当額は当然に損害といえる。
また,そのように考えないとしても,仮に,本件不許可処分の時点で,実体的要件の許可・不許可の判断がされていれば,不許可の判断であったにせよ,破産者がその時点で本件埋立事業からの撤退の有無の判断を下すことが可能であったから,その時点で少なくとも本件埋立事業のための借入金の一部を返済したり,他の事業に振り向けたりすることが可能になったものであるから,破産者は,本件不許可処分により,少なくとも,本件埋立事業のための借入金のうちの一部の借入金の別件取消訴訟の審理期間中の利息相当額の損害を被ったものと認められる。
さらに,前記1(7)イ~エの認定によれば,破産者は,本件不許可処分前から建築業界の不振により経営が悪化していたところに,本件不許可処分を受けたことにより,企業としての信用を大きく失墜し,その上,メインバンクだった関西興銀の倒産(平成12年12月)も加わり,銀行からは新規借入れや支払期限延期等の便宜を受けることができなくなって,高利金融業者からの借入を余儀なくされ,銀行借入金利率と高利金融業者利率との差額の負担に喘ぐようになったことが認められる。
そして,破産者は,平成16年3月12日に銀行取引停止処分を受け,平成18年6月27日に破産宣告を受けたのであるから(前記1(7)エ),破産者は,銀行取引停止処分を受けるまでは,借入金に対する高利の利息金を支払い,銀行借入金利息との差額について損害を被っていたし,別件取消訴訟が確定した平成17年6月2日までの間も,被控訴人(破産者の破産財団)の利息債権が積み上がっていって,損害を被ったことが認められる。
そうすると,破産者の本件埋立事業資金のための借入金に対する,本件不許可処分日から銀行取引停止処分を受けるまでの3年8か月強に相当する利息相当額,ことに本件不許可処分により破産者の信用が失墜し,高利金融業者からの借入によらざるを得ず,高利借入金利息と銀行借入金利息との差額は,破産者が本来負担する必要のなかった利息ということになり,本件不許可処分により被った損害と評価するのが相当である。
もっとも,弁論の全趣旨によれば,破産者の借入金の推移は,別表「破産者の借入額推移」記載のとおりであることが認められるものの,本件埋立事業のための借入金を特定するに足りる証拠はない。
そこで,民訴法248条に基づき,相当な損害額を算定することとし,通常は,破産者のような事業者の場合,事業のための資金につき,その過半を金融機関から借り入れているものと容易に推認できるが,控え目に見て,本件埋立事業のための借入金は,本件埋立事業資金(総額9億0830万4500円)のうち,少なくとも1割強である1億円を上回る金額であるものとし,損害と評価できる借入金の利息としては,年3%の利率として,上記3年8か月強の利息相当額を算定することとして,同損害額は1000万円と認めるのが相当である。
イ 固定資産税相当額について
上記ア(イ)の判断を前提とすると,本件不許可処分から別件取消訴訟が確定するまでの間の本件埋立事業のための不動産の固定資産税の負担も,破産者にとっては無駄な支出であるとも考えられないではない。
しかしながら,固定資産税は,土地を所有していること自体に基づき発生・負担するものであり,本件不許可処分がなくとも上記固定資産税の負担を免れたと認めることは困難であるから,控訴人の主張する固定資産税相当額は,本件不許可処分と相当因果関係を有する損害とは認められない。
ウ 別件取消訴訟の弁護士費用について
証拠(甲ウ39)及び弁論の全趣旨によれば,破産者は,別件取消訴訟(第1・2審)の提起・追行を柴山弁護士に依頼し,その報酬等として総額600万円(内訳は,着手金180万円,費用20万円,報酬400万円)を支払ったことが認められる。
別件取消訴訟が行政訴訟であって,一般的に見ても高度な法律知識や能力を要することが推認できること,別件取消訴訟は,第1・2審とも破産者の勝訴判決であったことからすると,上記金額があながち不相当な金額であるとまでは認められず,そうである以上,上記弁護士費用全額は,本件不許可処分と相当因果関係のある損害と認められる。
エ まとめ
そうすると,破産者が本件不許可処分により被った損害額は,合計1600万円である。
なお,控訴人は,控訴人主張③で,本件不許可処分による信用失墜を理由とする慰謝料については請求していないので,当裁判所は判断を示さないこととするが,前記1(7)の認定事実によれば,控訴人が控訴人主張③で慰謝料を請求しておれば,認められる余地があったことを付言する。
第4 結論
以上によれば,控訴人の本訴請求は,損害金1600万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成17年6月3日(別件取消訴訟の確定日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが,その余は理由がないから棄却を免れない。
よって,控訴人の本訴請求を全部棄却した原判決を上記の趣旨に変更することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 田中敦 裁判官 神山隆一)
別紙
河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例(抜粋)<省略>
河内長野市土砂埋立て等による土壌汚染と災害を防止するための規制条例施行規則(抜粋)<省略>
別表
「河内長野市丙田谷」投下費用一覧<省略>
破産者の借入額推移<省略>
破産者(株)Z興業が支払った固定資産税額<省略>