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大阪高等裁判所 平成22年(ラ)584号 決定 2010年7月23日

抗告人兼相手方(原審申立人)

抗告人兼相手方(原審相手方)

未成年者

主文

1  原審判を次のとおり変更する。

2  抗告人兼相手方Yが抗告人兼相手方Xに対し,本決定添付別紙面会要領記載の内容で,未成年者を抗告人兼相手方Xと面会させる義務があることを定める。

3  抗告人兼相手方Yは上記義務を履行せよ。

4  抗告人兼相手方X及び抗告人兼相手方Yのその余の抗告をいずれも棄却する。

5  手続費用は各自の負担とする。

理由

第1各抗告の趣旨

【抗告人兼相手方X(原審申立人。以下「申立人」という。)】

原審判を取り消し,直ちに月1回以上の頻度で,約2時間の申立人と未成年者との面会交流を実施し,徐々に頻度,時間を増やして,約3年後から,宿泊を伴う面会交流を実施するとともに,申立人が未成年者が通園する保育園において回数制限なく参観することができるとの裁判を求める。

【抗告人兼相手方Y(原審相手方。以下「相手方」という。)】

原審判を取り消し,相手方には,平成25年3月まで,申立人と未成年者とを面会交流させる義務がないことを定めるとの裁判を求める。

第2事案の概要

1  事案の要旨

申立人(父)が,未成年者を監護している相手方(母)に対し,申立人と未成年者とが面会交流する時期・方法などの条件を定めることを求めた(平成21年×月×日調停申立て,平成22年×月×日調停不成立となり,審判手続に移行)。

2  原審判(平成22年4月27日)の要旨

子と非監護親との面会交流が制限されるのは,面会交流することが子の福祉を害すると認められる場合に限られる。申立人が相手方や未成年者に暴力を振るっていたことは認められず,その他,申立人が未成年者と面会交流することが不適切であるとの事情は全く認められない。離婚による子の喪失感や不安定な心理的状況を回復させ,子の健全な成長を図るためにもできるだけ別居後早期に非監護親(非親権親)との面会交流を実施することが重要である。面会交流を実施することによって子が情緒的不安定や不適応な症状を呈することも予想されるが,これらは一過性のものと考えられる。本件では,相手方の生活状況や未成年者の年齢,申立人と未成年者とが約1年8か月間会っていないことを考慮し,面会交流の回数及び時間を段階的に増やすなど,原審判添付別紙の条件で申立人と未成年者との面会交流を認めるのが相当である。

3  各抗告理由の要旨

【申立人】面会交流の頻度,時間の増加の必要性

相手方は,不合理な理由によって平成20年×月以降,申立人と未成年者との面会交流を阻止し,未成年者の権利とともに申立人の権利を侵害してきた。したがって,上記の期間中に築けなかった親密な父子関係を回復するために,面会交流の頻度及び時間を増加するべきであり,また,申立人が未成年者が通園する保育園において回数制限なく参観ができるようにするべきである。

【相手方】

(1) 面会交流の開始時期が早すぎること

申立人と未成年者とは平成20年×月以降面会交流していないことからすると,原審判の面会交流の開始時期は早期にすぎ,非現実的である。未成年者が小学校に入学するころまで面会交流は差し控えるべきである。

(2) 面会交流の頻度が多すぎること

未成年者は申立人を認識する以前に申立人と別離したもので,申立人との面会交流によりパニック状態となることは明らかである。これに対応するための準備に相当の時間が必要である。また,2か月に1回の頻度では,相手方の経済的負担が大きすぎる。

(3) 面会交流の実施日の不当

原審判は,第2土曜日を面会交流の実施日とするが,相手方は,就労していることから,未成年者の受診などを土曜日に集中する必要があって,必ずしも土曜日に面会交流できるとは限らない。当事者間で話し合って実施日を変更することも困難である。

(4) 試行的面会交流実施の必要性

仮に,面会交流が命じられるならば,試行的面会交流を実施した上で頻度や日時を決定するべきである。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,基本的に原審判のとおりの頻度,方法で申立人と未成年者との面会交流を認めるのが相当であるが,面会交流の開始は平成22年8月からとし,実施日は第2日曜日とし,予定日の変更手続の対象に平成25年3月以降分も加えるのが相当であると判断する。その理由は,原審判理由説示のとおりであるから,これを引用する。

2  各抗告理由について

(1)  面会交流の開始時期(相手方の抗告理由(1))

相手方は,申立人と未成年者との面会交流は未成年者が小学校に入学するころまで実施するべきではないと主張する。

しかし,未成年者の健全な成長のためには可及的速やかに非監護親である申立人との面会交流を実現するべきであり,面会交流によって生じるおそれがある未成年者の情緒的不安定や不適応な症状に対しては,相手方において適切に対応することによって収束する可能性が十分あることは原審判説示のとおりである。

(2)  面会交流の頻度,時間(申立人の抗告理由,相手方の抗告理由(2))

申立人は,これまで面会交流が実施されてこなかったことによる父子関係を回復するべく面会交流の頻度,時間を増加するべきであり,また,申立人が回数制限なく保育園において参観ができるようにするべきであると主張し,相手方は,原審判の頻度は過多であると主張する。

しかし,面会交流は基本的に子の福祉のために実施するものであり,長期間非監護親である申立人との面会交流が実現しなかったという事実,未成年者の年齢,円満な面会交流実施の可能性などを踏まえて,頻度等を決定するべきであって,これらの事情を考慮して,面会交流の頻度や時間を段階的に増加させる原審判は相当である。

長期間未成年者と面会交流できなかった申立人が,いきなり頻回に未成年者と面会交流を実施したとしても,未成年者に大きな負担を強いることになり,必ずしもよい結果が得られるとは限らない。また,相手方が申立人と未成年者との面会交流を強く拒否していることからすると,申立人が保育所で参観することによって,当事者間に紛糾が発生し,未成年者に悪影響を与えかねないし,相手方の申立人に対する不信感を増大させる結果となり,かえって円満な面会交流の実施に支障が生じかねない。したがって,申立人が保育所で参観することを認めるべきではない。申立人は,未成年者のために冷静に段階を踏んで面会交流を実施し,未成年者との信頼関係を醸成するよう心がけるべきである。なお,速やかに申立人と未成年者の面会交流の機会を確保するのが相当であるから,面会交流の開始を平成22年8月からとする。

また,相手方は,原審判が定める頻度では,相手方の経済的負担が大きすぎると主張するが,第三者機関ではなく,親族等の協力を得ることによって面会交流を実施することも可能であるから,相手方の経済的負担が過大となるとはいえない。

(3)  面会交流の実施日(相手方の抗告理由(3))

土曜日の午前中は,一般に保育園の行事があったり,病院を受診する機会となったりする場合が少なくないと考えられるから,これを避け,原則として第2日曜日を実施日とするのが相当である。また,平成25年3月分以降も予定日の変更手続の対象とするのが相当であるから,その旨変更する。

(4)  試行的面会交流実施の要否(相手方の抗告理由(4))

相手方は,試行的面会交流を実施した上で頻度や日時を決定するべきであると主張する。

しかし,原審の手続の中で試行的面会交流の実施を再三促されたにもかかわらず,これを拒否したのは相手方である。また,別居後に3~4回,当事者間で面会交流が行われたこともあるし,現時点で試行的面会交流を実施しなければ,面会交流の頻度や日時等の条件を確定できないとはいえない。

3  以上のとおりであって,本件各抗告はいずれも上記説示の趣旨に沿う限度で理由があるから,原審判を一部変更することとし,家事審判規則19条2項により,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 片岡勝行 小野木等)

(別紙)

面会要領

1 面会交流の日時

ア 平成22年8月,10月,12月,平成23年2月の各第2日曜日の午前10時から午前11時

イ 平成23年4月以降平成24年2月までの偶数月の各第2日曜日の午前10時から午後零時

ウ 平成24年3月以降平成25年2月までの各月の第2日曜日の午前10時から午後2時

エ 平成25年3月以降毎年各月の第2日曜日の午前10時から午後4時

2 面会交流の方法

ア 相手方又はその指定する親族等は,面会交流の開始時刻に○○駅改札口付近において,未成年者を申立人に引き渡す。

イ 申立人は,面会交流の終了時刻に同所において,未成年者を相手方又はその指定する親族等に引き渡す。

ウ 相手方又はその指定する親族等は,未成年者が小学校に入学するまでの間,未成年者と申立人との面会交流に立ち会うことができる。

3 予定日の変更

未成年者の病気その他やむを得ない事情により上記1のアないしエの日時を変更するときは,当該事情の生じた者は,他方に対して速やかに連絡して,双方協議の上,振替日時を定める。ただし,振替日時は,原則として,予定日の1週間後の同時刻とする。

4 申立人と相手方とは,未成年者の福祉に慎重に配慮し,申立人と未成年者との面会交流の円滑な実施につき互いに協力する。

5 申立人と相手方とは,申立人と未成年者との面会交流の日時,方法等について変更を要するときは,互いに誠実に協議する。

以上

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