大阪高等裁判所 平成22年(ラ)803号 決定 2011年4月06日
別紙当事者目録記載のとおり
主文
一 抗告人X1の原決定別紙物件目録二記載の土地に関する仮処分申立てを却下した部分について、本件抗告を棄却する。
二 上記部分を除いて原決定を取り消し、これを神戸地方裁判所に差し戻す。
理由
一 事案の概要
(1) 抗告人X1は、相手方らの共有にかかる原決定別紙物件目録一記載の土地(本件土地一)のうち、同別紙不動産目録一記載の範囲を、同抗告人の先代が相手方らの被相続人(ただし、数次相続がある。)であるAから買い受け、あるいは時効取得したと主張して、本件土地一及びこれに隣接する相手方らの共有にかかる同別紙物件目録二記載の土地(本件土地二)につき、譲渡禁止等の仮処分を申し立てた。
また、抗告人X2は、本件土地一及び二のうち、原決定別紙不動産目録二記載の範囲を、同様に買い受け、あるいは時効取得したと主張して、本件土地一及び二につき、譲渡禁止等の仮処分を申し立てた(以下、抗告人らの申立てを「本件申立て」という。)。
(2) 原決定は、一筆の土地の一部についての権利の保全のために、その土地の全部について仮処分をすることは、保全の必要性を超えるものであり、また、相手方らについては本件土地一及び二を処分するおそれも認められない(なお、抗告人X1は、本件土地二を一部なりとも占有しておらず、同土地について仮処分を申し立てることはできない)として、抗告人らの本件申立てを却下したことから、抗告人らが本件抗告に及んだ。
(3) 本件申立ての理由は、原決定「理由」欄「第一 申立ての趣旨及び理由」のうち、一頁一一行目から二三行目までのとおりである。
二 当裁判所の判断
(1) 抗告人X1は、本件土地二に関しては、その一部についても、なんらの被保全権利ももたないことがその主張から明らかであるので、同抗告人の同土地に関する本件申立てはその必要性につき疎明がなく、これを却下した原決定は相当であり、同抗告人の同土地に関する部分についての本件抗告は理由がない。
(2) さらに、一筆の土地の一部についての権利を保全するため、当該一筆の土地全部について処分禁止の仮処分の申立てをすることも、原則として、保全の必要性を欠くものとして、理由がないというべきである。
しかしながら、仮処分債権者において、一筆の土地の一部についての仮処分命令の発令を得た場合、その執行として公示のための登記をするには、当該仮処分命令の正本を代位原因を証する書面として、債務者に代位して当該対象部分の分筆の手続を行い、その上でその部分について仮処分の内容に沿う仮処分登記手続をすることになるのであるが、現行の登記実務においては、実際には、分筆手続のためには、すでに地積測量図が作成されているような場合を除いて、隣地所有者立会の上作成された筆界確認書、立会者の印鑑登録証明書、測量図の提出が要求されることとなる。したがって、仮処分債権者において、仮処分発令後に分筆のための手続を履践していると、測量等に相当の時間を要するばかりでなく、その密行性を保てなくなるおそれがあり、その間に債務者が土地を一筆ごと転売するなどして、仮処分の目的が達成されなくなることも十分に考えられる。
(3) そして、本件にあっては、抗告人X1(本件土地二にかかる部分を除く。)及び同X2の本件申立てにかかる被保全権利については、その疎明はあると認められる。また、「一筆の土地の一部に対する処分の制限の登記の嘱託は受理することができないが、債権者が当該命令正本を代位原因を証する書面として、債務者に代位してその部分の分筆の登記の申請することができるので、その分筆の登記がなされた後に当該処分の制限の登記の嘱託がなされたときは、これを受理することができる。」とする昭和二七年九月一九日民事甲三〇八号民事局長回答、並びに「土地の一部について(被保全権利が)存するに過ぎない場合は、処分禁止の措置はこの部分のみについて講ずべきである。」とする最高裁判所昭和二八年四月一六日第一小法廷判決・民集七巻四号三二一頁は、いずれも分筆登記について上記のような厳格な手続が要求されていなかった時期における先例や判例であること、一件記録によると、抗告人らがAから買い受けてそれぞれ占有してきた土地の範囲は、本件土地一及び二の約八〇パーセントを占めることが認められ、残余部分の処分を制限されることにより債務者らが被る不利益は小さいといえることからすると、本件申立て(抗告人X1の本件土地二に関する部分を除く。)は、いずれも理由があるというべきである。
(4) よって、抗告人X1の本件土地二に関する本件申立てにかかる抗告を棄却し、その余の本件申立ては、仮処分保証金の額を決定する手続等を行わしめる必要があるから、これを原審に差し戻すこととする。
(裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 菊池徹 前原栄智)
別紙 当事者目録
抗告人(債権者) X1
抗告人(債権者) X2
抗告人ら代理人弁護士 大塚明 大内麻水美
相手方(債務者) Y1<他12名>