大阪高等裁判所 平成22年(ラ)833号 決定 2010年9月24日
主文
1 本件執行抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
第1事案の概要
1 相手方は,抗告人が和歌山家庭裁判所平成21年(家)第×××号ないし第×××号子の監護に関する処分(子の引渡し,監護者指定)申立事件の審判で命じられた義務に違反して未成年者らを相手方に引き渡そうとしない旨主張し,上記審判を債務名義として間接強制を申し立てた。
原審は,平成22年7月20日,抗告人に対し,未成年者らを相手方に引き渡すこと,そして,抗告人が原決定の告知を受けた日から31日以内に引き渡さないときは,相手方に対し,履行期限の翌日からその履行に至るまで,1日につき未成年者1人当たり1万円を支払うことを命じる決定(原決定)をした。
2 抗告人は,「原決定を取り消す。本件間接強制の申立てを却下する。」との裁判を求めた。その理由は,別紙執行抗告理由書に記載のとおりであり,要するに,①原決定が,未成年者らの相手方を拒否する現在の意思が,抗告人の影響によって形成されたという点,及び未成年者らの上記意思が形成されることになった環境を改善し,側面から未成年者らに働きかける必要があるとする点は,到底理解ができず,原審の判断は誤っている,②原審は,抗告人が未成年者らの意向確認をとるよう主張しても,これを無視して未成年者らの意向を聴取せずに判断したもので,家事審判規則54条に違反している,③本件の場合に間接強制を認めることは,結果として子の意思を無理に抑圧するに至るものであり,子の福祉の重視,子の人権尊重の観点から,到底許されない,というものである。
第2当裁判所の判断
1 事実経過については,次のとおり補正するほか,原決定が「理由」中の「第2 判断」の1(原決定2頁10行目から3頁8行目まで)で認定したとおりであるから,これを引用する。
(1) 2頁13行目から14行目にかけての「夫婦関係が」の前に「抗告人が相手方の不貞行為を疑ったことから」を加える。
(2) 2頁17行目末尾に「相手方は,別居後の平成21年×月×日及び同年×月×日,未成年者らと各2時間程度面会交流の機会をもった。」を加える。
(3) 2頁25行目の「その間,」の次に「本件審判申立事件の原審裁判所において,平成22年×月×日,試行的面会交流が行われた。その際,未成年者らは,抗告人から離れようとせず,相手方に対しては,未成年者Aが「お母さん嫌い。」「あっちに行ってて。」などと述べ,未成年者Bが,相手方の話しかけを無視するなど,いずれも拒否的な態度を示した。そして,」を加える。
2 当裁判所も,本件間接強制の必要性があると認め,抗告人に間接強制を命じた原決定は相当であると判断する。
その理由は,次のとおり補正するほか,原決定「理由」中の「第2 判断」の3(原決定3頁14行目から4頁23行目まで)で認定判断したとおりであるから,これを引用する。
(1) 4頁13行目の「障害」を「心理的な障害ないし抵抗感」に改める。
(2) 4頁18行目の「むしろ,」から21行目末尾までを「むしろ,未成年者らが監護すべき者によって監護されないという不安定な状態が長く続くことは,子の福祉の見地から看過できないものであって,本件審判に基づき抗告人が負っている未成年者らの引渡義務は,早急に実現されるべきである。したがって,本件間接強制の必要性が認められる。そして,上記のような内容の義務を間接強制することが,抗告人に不可能を強いることとも言い難い。」に改める。
3 抗告理由について
(1) 抗告理由①について
抗告理由①に関する当裁判所の判断は,原決定を補正の上で引用したとおりであって,抗告理由①は採用できない。
(2) 抗告理由②について
本件事件は,家事審判規則54条にいう「子の監護者の指定その他子の監護に関する審判」事件にはあたらない上,未成年者らはいずれも15歳未満であるから,その意向を聴取しなくても同条に違反することはない。
(3) 抗告理由③について
抗告人は,本件の場合に間接強制を認めることは,結果として未成年者らの意思を無理に抑圧するに至るものであり,子の福祉等の観点から許されない旨主張する。しかし,別居の解消又は離婚までという将来にわたっての子の福祉の観点から,未成年者らの監護者を相手方と定めるのが相当であるとし,抗告人に未成年者らを引き渡すよう命じた本件審判の判断を前提に抗告人に間接強制を命じた原決定が,子の福祉等に反することにはならない。よって,抗告理由③も採用できない。
4 結論
以上によると,原決定は相当であって,本件執行抗告は理由がないから,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 前坂光雄 裁判官 菊池徹 白井俊美)