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大阪高等裁判所 平成23年(ネ)1014号 判決 2013年1月11日

当審反訴被告

X1(以下「第1審原告X1」という。)

(第1審第1事件原告)

控訴人・当審反訴被告

X2(以下「第1審原告X2」という。)

(第1審第1事件及び第2事件原告)

上記両名訴訟代理人弁護士

阿部幸孝

表宏機

楠谷望

被控訴人・当審反訴原告

株式会社三菱東京UFJ銀行

(第1審第1事件及び第2事件被告)

(以下「第1審被告」という。)

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

高橋悦夫

西島佳男

主文

1  第1審原告X2の控訴について

第1審原告X2の控訴を棄却する。

2  第1審被告の当審反訴について

(1)  第1審原告X1及び第1審原告X2は、第1審被告に対し、連帯して、6518万7679円及びうち6480万3783円に対する平成19年5月29日から支払済みまで年14%(1年を365日とする日割計算)の割合による金員を支払え。

(2)  第1審原告X2は、第1審被告に対し、2490万円及びこれに対する平成23年8月24日から支払済みまで年14%(1年を365日とする日割計算)の割合による金員を支払え。

(3)  第1審被告の第1審原告X2に対するその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第1審原告X1と第1審被告との間においては、当審における訴訟費用(反訴請求分)は全部第1審原告X1の負担とし、第1審原告X2と第1審被告との間においては、第1審(本訴請求分)・第2審(本訴及び反訴請求分)を通じてこれを5分し、その4を第1審原告X2の負担とし、その余は第1審被告の負担とする。

4  この判決の第2項(1)(2)は、仮に執行することができる。

5  なお、原判決主文第1項のうち、第1事件のうちの第1審原告X1の債務不存在確認請求を棄却した部分及び第2事件に係る第1審原告X2の債務不存在確認請求を棄却した部分は、いずれも当審における第1審原告らの訴えの取下げにより失効している。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  第1審原告X2の控訴の趣旨

(1)  原判決中、第1審原告X2に関する部分を取り消す。

(2)  第1審被告は、第1審原告X2に対し、別紙1「株券目録」記載の株券を引き渡せ。

(3)  第1審被告は、第1審原告X2に対し、同目録記載の株券の引渡しをすることができないときは、同株券の引渡しに代えて、3327万9500円及びこれに対する平成18年4月21日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  第1審被告の当審反訴請求の趣旨

(1)  主文第2項(1)と同旨

(2)  第1審原告X2は、第1審被告に対し、1億4687万4353円及びうち2490万円に対する平成23年8月24日から支払済みまで年14%(1年を365日とする日割計算)の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  事案の要旨

(1)  事案の骨子

ア 第1事件

本件のうち、第1事件は、第1審原告X1の次の(ア)の請求、第1審原告X2の次の(イ)の請求をした事案である。

(ア) 第1審原告X1の請求

第1審原告X1が、株式会社三和銀行(以下「三和銀行」という。)との間で、平成元年6月30日付けの1億2000万円の消費貸借契約(以下「本件消費貸借契約」という。)が成立していない、あるいは、仮に本件消費貸借契約が成立したとしても、その後、第1審原告らと三和銀行との間で、平成8年11月11日付けの和解契約(以下「本件和解契約1」という。)が成立し、同月20日に1億円を支払いこれを履行したことにより、本件消費貸借契約に基づく貸金債務(以下「本件貸金債務」という。)は消滅したなどと主張して、三和銀行の承継人である第1審被告に対し、本件貸金債務が存在しないことの確認を求める請求

(イ) 第1審原告X2の請求

第1審原告X2が、三和銀行との間の平成元年1月13日付けカードローン契約(以下「本件カードローン契約」という。)に基づく第1審原告X2の債務を保証した三和信用保証株式会社(以下「三和信用保証」という。)に対する求償債務を担保するために、三和信用保証に対して差し入れた別紙1「株券目録」記載の株券(以下「本件株券」といい、その株式を「本件株式」という。)が、本件カードローン契約に基づく債務を完済したにもかかわらず、返還されていないと主張して、第1審被告に対し、本件カードローン契約の付随義務としての本件株券の返還義務に基づき、本件株券の返還と執行不能の場合の代償請求を求める請求

イ 第2事件

本件のうち、第2事件は、第1審原告X2が、三和銀行に対する昭和63年7月30日付けの7500万円の手形貸付契約(以下「本件手形貸付契約」という。)に基づく債務につき、第1審原告らと三和銀行との間の本件和解契約1の成立により遅延損害金債務が免除されたと主張して、第1審被告に対し、平成20年2月20日時点における1億0669万1798円の遅延損害金債務が存在しないことの確認を求めた事案である。

(2)  訴訟の経過

ア 原判決、本件控訴

原審は、第1審原告らの請求をいずれも棄却したので、第1審原告らがこれを不服として控訴した。

イ 第1審被告の反訴提起、第1審原告らの訴え取下げ等

(ア) 第1審被告の当審における反訴提起

第1審被告は、当審において、第1審原告らに対し、次のa及びb記載の反訴請求訴訟を提起した。

a 本件消費貸借契約等に基づく第1審原告らに対する請求

第1審被告は、上記(1)アの本件消費貸借契約及び第1審原告X2との間のその連帯保証契約に基づき、第1審原告らに対し、本件貸金債務6518万7679円及びうち残元金6480万3783円に対する、期限の利益を喪失した日の翌日である平成19年5月29日から支払済みまで約定の年14%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた。

b 本件手形貸付契約に基づく第1審原告X2に対する請求

第1審被告は、上記(1)イの本件手形貸付契約に基づき、第1審原告X2に対し、本件手形貸付債務残額1億4687万4353円及びうち残元金2490万円に対する最終弁済日の翌日である平成23年8月24日から支払済みまで約定の年14%(1年を365日とする日割計算)の割合による遅延損害金の支払を求めた。

(イ) 第1審原告らの訴え取下げ等

上記反訴提起に伴い、①第1審原告X1は、上記(1)ア(ア)の第1事件のうち、債務不存在確認請求に係る訴えを取り下げ、②第1審原告X2は、上記(1)イの第2事件の債務不存在確認請求に係る訴えを取り下げた。

したがって、原判決主文第1項のうち、上記各請求を棄却した部分は失効し、併せて第1審原告X1の控訴もその対象が消滅したことにより失効した。

ウ 第1審原告らの当審における新主張

(ア) 第1審原告X1の主張

第1審原告X1は、第1審被告の当審における反訴請求に対し、①本件消費貸借契約が虚偽表示で無効である、②第1審原告X1は、第1審被告の債務不履行により5000万円の損害を被っており、その損害賠償債権をもって、本件消費貸借契約に基づく反訴請求債権と対当額において相殺するとの主張を追加した。

(イ) 第1審原告X2の主張

第1審原告X2は、当審において、①三和銀行との間で、平成9年10月ころ、本件手形貸付契約に基づく遅延損害金債務を免除するなどの和解契約(以下「本件和解契約2」という。)が成立した、②仮に、本件和解契約2が成立していないとしても、第1審被告が本件手形貸付契約に基づき遅延損害金を請求するのは、権利の濫用として許されないとの主張を追加した。

2  前提事実

以下の事実(以下「本件前提事実」という。)は、当事者間に争いがないか、末尾の括弧内掲記の証拠等によれば、容易に認められる。

(1)  当事者

ア 第1審原告ら

第1審原告X1は、経営コンサルティングを主たる業務とする株式会社a(以下「a社」という。)の代表取締役であり、第1審原告X2は、第1審原告X1の妻である(第1審原告X1本人)。

イ 第1審被告

三和銀行は、平成14年1月15日、株式会社ユーエフジェイ銀行に商号変更し、平成18年1月4日、第1審被告に吸収合併された(争いがない)。

(2)  本件消費貸借契約に基づく貸付けの外観

ア 本件消費貸借契約等

(ア) 第1審原告X1は、平成元年6月30日、三和銀行から、1億2000万円を以下の約定で借り受ける旨が記載された、「三和ローン契約書」(乙1)の借主欄に署名押印した(本件消費貸借契約に係る契約書を「本件契約書」という。)(乙1の存在、2の1・2、弁論の全趣旨)。

a 利率

年5.50%

(この利率の1/12を月利率とする。ただし、変動利率)

b 返済方法

平成元年7月から平成31年6月まで、毎月26日限り、元利金各73万6904円宛返済する。

c 遅延損害金年 14%(1年を365日とする日割計算)

d 期限の利益喪失

借主が銀行に対する債務の一つでも期限に履行しなかったときは、銀行からの請求によらないでこの債務全額について期限の利益を失い、借入要項記載の返済方法によらず、直ちにこの債務全額を返済する。

(イ) 第1審原告X2は、平成元年6月30日、本件契約書の保証人(連帯保証人)欄に署名押印した。

(ウ) 三和銀行は、平成元年6月30日、1億2000万円を第1審原告X1名義の普通預金口座(三和銀行淡路支店、口座番号<省略>)に入金した(乙5、争いがない)。

イ 本件保証委託契約等

(ア) 第1審原告X1は、平成元年6月29日、「三和ローン保証委託申込書」(以下「本件保証委託契約書」という。)(乙3)の委託者欄に署名押印して、三和信用保証に対し、本件貸金債務の保証を委託した(以下「本件保証委託契約」という。)。

(イ) 第1審原告X2は、平成元年6月29日、本件保証委託契約書の連帯保証人欄に署名押印して、三和信用保証に対し、本件保証委託契約に基づく第1審原告X1の債務を連帯保証する旨約した(乙3)。

(ウ) 第1審原告X1及び第1審原告X2は、平成元年6月30日、三和信用保証に対し、将来負担することのある求償債務を被担保債権として、第1審原告らの所有に係る大阪府吹田市<以下省略>所在の自宅土地建物(土地及び建物それぞれにつき、第1審原告X1共有持分3分の2、第1審原告X2共有持分3分の1。以下「本件土地建物」という。)に、債権額1億2000万円の2番抵当権(以下「三和信用保証の抵当権」という。)を設定した(乙4、21の1・2)。

(エ) 三和信用保証は、本件保証委託契約に基づき、三和銀行に対し、第1審原告X1の本件貸金債務につき連帯保証した(乙3、4、弁論の全趣旨)。

ウ 本件消費貸借契約の債務不履行等

(ア) 第1審被告の内部書類では、第1審原告X1は、本件貸金債務につき、平成19年3月26日及び同年4月26日に支払うべき返済を怠ったこととされている。

(イ) そこで、第1審被告は、平成19年5月1日付催告書により、平成19年5月28日までに延滞金及び遅延損害金を支払うよう催告し、第1審原告X1が同日まで支払をしないときは、本件消費貸借契約につき期限の利益を喪失する旨通知し、同催告書は同月4日に第1審原告X1に到達した(争いがない。)。

(ウ) 本件消費貸借契約の約定によれば、第1審原告X1の本件貸金債務の残高は次のa~dのとおりである。前記1(2)イ(ア)a記載の反訴請求の趣旨の金額は、次のa~cの合計額6518万7679円とdの金額である。

a 残元金 6480万3783円

b 利息金 37万0508円

平成19年2月27日から同年5月28日まで年2.3%の割合による別紙2記載の約定利息合計金

c 確定遅延損害金 1万3388円

延滞元金(約定分割弁済金元金)に対する平成19年3月27日から同年5月28日まで年14%(年365日の日割計算)の割合による別紙2記載の遅延損害金の合計額

d 遅延損害金

上記aの残元金6480万3783円に対する平成19年5月29日から支払済みまで年14%(年365日の日割計算)の割合による約定遅延損害金

(3)  本件手形貸付契約とその分割返済等

ア 本件手形貸付契約等

(ア) 銀行取引約定

第1審原告X2は、昭和63年1月21日、三和銀行に対し、以下の要旨の銀行取引約定書を差し入れた(乙64の1・2)。

a 適用範囲

(a) 手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、支払承諾、外国為替その他一切の取引に関して生じた債務の履行については、この約定に従う。

(b) 借主は、借主が振出、裏書、引受、参加引受又は保証した手形を、銀行が第三者との取引によって取得したときも、その債務の履行についてこの約定に従う。

b 借入金債務

借主が手形によって貸付けを受けた場合には、銀行は手形又は貸金債権のいずれによっても請求することができる(第2条)。

c 利息

利息、割引料、保証料、手数料、これらの戻しについての割合及び支払の時期、方法の約定は、金融情勢の変化その他相当の事由がある場合には、一般に行われる程度のものに変更されることに同意する。

d 遅延損害金 年14%(年365日の日割計算)

(イ) 本件手形貸付契約

三和銀行は、昭和63年7月30日、第1審原告X2に対し、7500万円を、弁済期を同年8月30日として、手形貸付の方法で貸し付けた(以下、本件手形貸付契約及びその後の手形書換に基づく債務を併せて、「本件手形債務」という。)(甲12の1)。

(ウ) 別件株式に担保設定

第1審原告X2は、本件手形債務の担保として、以下の株券(以下「別件株券」といい、その株式を「別件株式」という。)に担保を設定した。(乙13、36の1~35)

a 日本電信電話株式会社 35株

b 株式会社ニフコ 10,000株

c 株式会社伊藤喜工作所 10,000株

イ 本件手形債務の弁済期猶予

(ア) 第1審原告X2は、本件手形債務の弁済期猶予のために、期間中の約定利息のみを支払って、手形を書き換え(このうち第1審原告X2が現在保管している手形は、以下のとおりである。)、三和銀行は、平成6年6月13日まで、その元金の弁済期を猶予した(争いがない)。

① 昭和63年8月30日振出 同年9月30日満期(甲12の2)

② 昭和63年9月30日振出 同年11月30日満期(甲12の3)

③ 昭和63年12月31日振出 昭和64年2月28日満期(甲12の4)

④ 平成元年2月28日振出 同年5月31日満期(甲12の5)

⑤ 平成元年6月13日振出 平成2年6月13日満期(甲12の6)

⑥ 平成5年6月13日振出 平成6年6月13日満期(甲12の7)

(イ) 三和銀行は、最終的に、平成6年6月13日、第1審原告X2に対し、7500万円を、弁済期を平成7年6月13日として、手形貸付の方法で貸し付けた(乙63)。

ウ 月額30万円の分割弁済等

(ア) 第1審原告X2は、平成9年10月31日以降、平成23年8月23日までの間、三和銀行ないし第1審被告に対し、別紙3の「計算期間」欄記載の各終期に、本件手形債務につき各30万円を弁済し(ただし、平成19年3月12日は450万円、いずれも元本に弁済充当)、平成23年8月23日時点における本件手形債務の残元本額は、2490万円である(争いがない。)。

(イ) その間に、第1審被告は、第1審原告X2に対し、平成19年7月3日付通知書(甲47の1)で、本件手形債務の元金3990万円、確定遅延損害金1億0313万3999円の各支払を請求している。

(4)  本件カードローン契約及びその債務完済等

ア 本件カードローン契約等

(ア) 第1審原告X2は、平成元年1月13日、三和銀行との間で、極度額を4500万円として借入れを行う旨のサンワカードローン5000型契約(本件カードローン契約)を締結するとともに、同日、三和信用保証に対し、本件カードローン契約に基づく第1審原告X2の債務の保証を委託した(乙6、7)。

(イ) 第1審原告X2は、平成元年1月13日、三和信用保証に対して、将来負担することのある求償債務を担保するため、別紙1「株券目録」記載の株券(本件株券)に担保を設定した。三和銀行は、取次銀行として三和信用保証の事務手続を代行する立場にあり、第1審原告X2から本件株券を預かり、これを三和信用保証に交付した(甲1、乙17)

イ 債務完済等

(ア) 第1審原告X2は、本件カードローン契約に基づく債務を完済し、平成3年5月17日、三和銀行との間で、本件カードローン契約を解約した。そして、三和信用保証の求償債務を被担保債権として本件株券に設定されていた担保権も、解除された。

(以上につき、乙8~10、14~16)

(イ) 第1審原告X2は、本件株券を三和銀行を介して三和信用保証に担保として差し入れた際に、三和銀行から受領した「担保有価証券お取次明細」(甲1)を現時点でも所持しており、他方、三和信用保証は、本件カードローン契約解約に際し、第1審原告から受領したと主張している担保品受取証につき、10年間の保管期間が経過して廃棄したとして、現時点においては所持していない(争いがない。)。

(5)  本件和解提案書の存在

平成8年11月4日付けで、第1審原告X1に宛てた、「三和銀行淡路支店」の記載の後に「A」の押印がある、以下の内容が記載された文書(甲14の1。以下「本件和解提案書」という。)が存在する(ただし、第1審被告は、本件和解提案書の成立を否認している。)。

ア 平成8年7月15日付け御融資明細に基づく和解について、貴殿の要求6000万円では本部の了承が得られないので断ること。

イ かねてより当方が提案している和解金1億円に同意してもらえるなら、全ての抵当権を抹消して和解の用意があること。

ウ 和解金は、平成8年11月20日までに貴口座に支払願いたいこと。

エ 第1審原告X2の借入れについては、株式との相殺ではなく、金利ゼロで元本に充当する分割返済に同意すること。

オ この和解案の許諾の回答は、10日以内にお願いしたいこと。

(6)  第1審原告らによる本訴の提起

ア 第1審原告らは、平成19年5月11日、本訴のうち第1事件に係る訴訟を提起した(顕著な事実)。

イ 第1審原告X2は、平成20年3月18日、本訴のうち第2事件に係る訴訟を提起した(顕著な事実)。

(7)  第1審原告X1による相殺の意思表示

第1審原告X1は、第1審被告に対し、平成23年8月24日の当審第2回口頭弁論期日において、第1審原告X1が第1審被告に対して有する後記3(3)〔第1審原告X1〕イ記載の5000万円の債務不履行に基づく損害賠償債権をもって、第1審被告の本件消費貸借契約に基づく反訴請求債権(本件前提事実(2)ウ(ウ))と、その対当額において相殺する旨の意思表示をした(顕著な事実)。

3  争点及びこれに関する当事者の主張

(1)  本件消費貸借契約の成否及びその効力(争点(1))

〔第1審被告〕

第1審原告X1は、平成元年6月30日、本件消費貸借契約の契約書(本件契約書)に署名押印し、三和銀行は、同日、第1審原告X1名義の普通預金口座に1億2000万円を入金して(乙5)、第1審原告X1に対して同額を交付した。これにより、本件消費貸借契約が成立した。

なお、上記普通預金口座の1億2000万円のうち7800万円は、第1審原告X1の定期預金に振替送金され、さらに第1審原告X1が代表取締役を務めるa社の普通預金口座に振替送金されており(乙5)、第1審原告X1の上記普通預金口座は第1審原告X1が管理していたことが明らかであるから、上記振替送金の処理は、いずれも第1審原告X1の指示によるものである。

〔第1審原告X1〕

ア 本件消費貸借契約の不成立-貸金の不交付

三和銀行は、平成元年6月30日、1億2000万円を第1審原告X1名義の普通預金口座に入金したが、同日、第1審原告X1の承諾のないまま、7800万円がa社の定期預金口座に振り替えられ、さらに残額のうち550万円及び3247万円は振替として出金されているので(乙5)、上記1億2000万円は実質的には三和銀行淡路支店の管理下にあったというべきであり、三和銀行から第1審原告X1に対する同額の交付があったとはいえない。

したがって、本件消費貸借契約は成立していない。

イ 本件消費貸借契約の不成立ないし通謀虚偽表示-名義貸し等

(ア) 本件消費貸借契約は、第1審原告X1の資金需要の必要性に基づいて同X1の申出によって締結されたものではなく(本件契約書(乙1)に記載された資金使途の「マンション購入」自体、架空であるし、金額欄や資金使途欄、返済期日、返済金額などの手書部分は三和銀行が記入したものである。)、当時のバブル経済時期における三和銀行淡路支店の営業成績を上げるためにされた契約である。

また、第1審原告X1の銀行口座に振り込まれた1億2000万円についても、同X1が使用したものではなく、三和銀行淡路支店で事実上管理し、同支店(担当者は実質的にはC(以下「C」という。))において、後記(3)のとおり、ゴルフ会員権購入、その他いずれかに費消したものである。

(イ) このように、本件消費貸借契約は、三和銀行淡路支店の営業成績を上げるために行われたものであって、第1審原告X1としては、本件消費貸借契約締結のための名義貸しと、それに伴う口座使用の承認をしたにすぎず、融資金の管理も三和銀行淡路支店が行っていたのであるから、本件消費貸借契約は、不成立又は通謀虚偽表示によるものとして無効である。

なお、当時の三和銀行淡路支店は、同和団体であるb会元理事長であるD(以下「D」という。)が巣くい、Dと結託したCなどによって腐敗していたことから(Dに対する不正融資事件で、Cの後任の三和銀行淡路支店の次長が逮捕されるなどし、三和銀行を承継した第1審被告も金融庁から処分されている。)、上記のような処理がされたとしても不思議ではない。

(2)  本件和解契約1の成否(争点(2))

〔第1審原告ら〕

ア 本件和解提案書に基づく提案

(ア) 第1審原告X1は、平成8年1月19日、自宅(本件土地建物)に対する競売申立て(以下「本件競売申立て」という。)を受け(甲2、乙21の1・2)、同年7月15日ころ、三和銀行との間で、第1審原告X1の債務につき話合いをした。

三和銀行は、同日時点の貸金債務として御融資明細(乙51の3、甲3)を示したのに対し、第1審原告X1は、本件貸金債務の不存在を主張するとともに、6000万円の支払と、第1審原告X2の本件手形債務につき、別件株式の処分代金との相殺を申し入れた。

(イ) 上記第1審原告X1の提案に対し、三和銀行淡路支店の支店長代理A(以下「A」という。)は、平成8年11月4日、第1審原告X1に対し、本件和解提案書(甲14の1)をもって、和解を申し入れた。本件和解提案書は、Aの押印があり、真正に成立した文書である。この点は、J作成の鑑定書(以下「J鑑定」という。)(甲29)によっても、裏付けられている。

イ 本件和解契約1の締結等

(ア) 本件和解契約1の締結

第1審原告X1は、平成8年11月11日、Aに電話をし、第1審原告X1本人及び第1審原告X2の代理人として、本件和解提案書に基づく和解の提案を受諾する旨の意思表示をし、平成8年7月15日付け御融資明細(乙51の3、甲3)記載の債務を対象として、三和銀行及び三和信用保証(三和銀行が根抵当権の処分については代理権を授与されていた。)との間で、以下の内容の和解契約(本件和解契約1)を締結した。

a 第1審原告X1は、三和銀行に対し、御融資明細(乙51の3)記載の全債務の免除及び全抵当権の抹消と引き換えに、平成8年11月20日限り、和解金1億円を支払う。

b 三和銀行は、第1審原告X1に対し、和解金1億円の受領と引換えに、御融資明細記載の全債務の支払を免除し、かつ第1審原告X1の所有不動産に設定済みの全ての抵当権の抹消登記手続を行う。

c 第1審原告X2は、三和銀行に対し、本件手形債務の借入残高を分割弁済する。但し、分割金は全て元本に充当するとともに、分割返済に際し金利は付けない。分割支払額は後日双方協議して決定する。

d 三和銀行は、第1審原告X2が担保として差し入れていた別件株券と、本件手形債務の借入残高を相殺しない。

(イ) 本件和解契約1締結の権限について

a 第1審原告X2は、本件和解契約1の締結に先立ち、第1審原告X1に対し、本件和解契約1の締結につき、代理権を授与した。

b 仮に、Aに本件和解契約1を締結する権限がないとしても、Aは、当時、「支店長代理」「次長」の地位を有し、支店長に代わって貸付けをはじめ銀行取引について顧客との間で交渉し、契約を締結する権限を有していた。そして、第1審原告らは、Aが本件和解契約1を締結する権限を有するものと信じていたから、民法110条に基づき、三和銀行に本件和解契約1の効果が帰属する。

(ウ) 第1審被告の主張について

第1審被告は、本件和解契約1の成立を否定し、本件競売申立ての取下げの条件として1億円の支払を提示した旨主張しているが、当時、三和銀行の単独貸付債権は8629万4000円しか存在していなかったから、これを上回る1億円の支払を本件競売申立ての取下げの条件とすることはあり得ない。

ウ 本件和解契約1の履行

第1審原告X1は、平成8年11月20日、本件和解契約1に基づき、三和銀行に対し1億円を支払い、第1審原告X2は、本件手形債務の弁済につき、三和銀行が指定した別段口座に月額30万円の分割金の振込をしている。

したがって、第1審原告X1の本件貸金債務の残額は免除されるとともに、第1審原告X2の本件手形債務の遅延損害金は免除された。

〔第1審被告〕

ア 本件和解提案書について

Aは、本件和解提案書による和解の提案をしておらず、本件和解提案書は、Aが作成したものではなく、何者かが同人の印影を偽造して作成されたものである。この点は、K作成の鑑定書(乙53)によっても、裏付けられている。

イ 本件和解契約1の締結について

本件和解契約1の内容に反し、現在も、三和信用保証の抵当権の抹消登記手続は行われていない(乙21の1・2)。

それにもかかわらず、第1審原告X1は、平成9年6月までこれに気付かず、気付いた後も、三和銀行の担当者に対し、本件和解提案書を見せて抗議したことがない。また、第1審原告X1は、平成8年11月以降も平成19年2月までの間、三和銀行に対し、本件貸金債務につき利息を含めた約定弁済(合計5345万円)を行った。

したがって、第1審原告X1とAとの間で、平成8年11月11日に本件和解契約1が締結された事実はない。

ウ 本件競売申立て及びその取下げについて

第1審原告らは、昭和54年2月17日、三和銀行に対して、本件土地建物につき極度額2000万円(その後1億円に増額)の1番根抵当権(以下「三和銀行の根抵当権」という。)を設定していたが(乙21の1・2)、平成7年11月27日の経過をもって、三和銀行の根抵当権の被担保債権につき期限の利益を喪失した。

そこで、三和銀行は、平成8年1月11日、大阪地方裁判所に対し、三和銀行の根抵当権の実行として、本件土地建物に対する競売(本件競売)を申し立て、同月19日、競売開始決定がされた(乙21の1・2、22。大阪地方裁判所平成8年(ケ)第39号事件。)。

第1審原告X1は、平成8年11月20日、三和銀行に対し、1億円を支払い、三和銀行は、うち9120万6950円を本件競売の請求債権全額(元本8629万4000円及び遅延損害金合計491万2950円)に充当し、61万円を本件競売申立費用に充当し、残りの818万3050円を大阪市信用保証協会に送金し、第1審原告X1に対してその旨を報告した。

そして、三和銀行は、平成18年11月22日、本件競売を取り下げた(乙21の1・2)

エ 本件競売申立ての取下げの条件として1億円の支払を提示したことの合理性について

なお、次の各事実に照らせば、三和銀行が第1審原告らに対し、本件競売申立ての取下げの条件として1億円の支払を提示したことは、不合理ではない。

(ア) 第1審原告X1は、平成8年当時においても資力が十分あったので、担保である本件土地建物(平成8年当時の評価額は約5000万円)の処分による弁済のみを行えば足りるとする考え方は誤っている。

(イ) 銀行が根抵当権を設定している場合、信用保証協会から代位弁済を受けるためには、保証条件担保の場合はもちろん、保証条件外担保の場合でも、代位弁済金の受領と同時に根抵当権の移転登記手続が必要であり、そのためには根抵当権の元本確定が必要である。

(ウ) 本件においても、三和銀行は、本件競売申立てにより三和銀行の根抵当権の元本確定を行い、大阪市信用保証協会に対して根抵当権一部移転登記を経由していたから(乙21の1・2)、三和銀行が三和銀行の根抵当権による回収金を第1審原告X1に対して有する債権に優先して充当した後、剰余金が発生する場合は、当該剰余金を大阪市信用保証協会に交付する必要があった。

(エ) そのため、三和銀行は、三和銀行の根抵当権の極度額1億円全額の弁済を受けなければ、本件競売の申立てを取り下げることは不可能であった。

(3)  第1審被告の債務不履行責任の有無等(争点(3))

〔第1審原告X1〕

ア 信義則違反

本件消費貸借契約に基づく1億2000万円の融資金のうち、5000万円は、瀬戸内カントリークラブ及び奈良若草山カントリークラブのゴルフ会員権購入代金として使用されているところ、これは、三和銀行が事実上管理していた木津信用組合の経営方針を背景としたゴルフ会員権の販売という営業上の理由と、Cの資金運用方策に基づいて、Cによって購入されたものである。

したがって、その購入のために費消された5000万円については、第1審被告が第1審原告X1に対して、本件消費貸借契約に基づき本件貸金債務中の5000万円の支払を請求することは、信義則に反して許されない。

イ 相殺

仮に上記アの主張が認められないとしても、第1審原告X1は、Cの勧誘によって、上記ゴルフ会員権を購入したものである。

ところで、Cは、自らはゴルフを行わず、会員権情勢について全く無関心・無知である第1審原告X1に、リスクの高いゴルフ会員権の購入を勧誘するべきではなかったし、仮に勧誘するのであれば、勧誘に当たり、その投資としての安全性と収益性、リスクと危険事態に対する対処方法などについて十分説明すべきであったのに、これを怠って、第1審原告X1に上記ゴルフ会員権を購入させた。

ところが、その後、木津信用組合や瀬戸内カントリークラブ、奈良若草山カントリークラブは経営が破綻し、第1審原告X1は、上記ゴルフ会員権の購入により5000万円の損害を被ったので、第1審被告は、信頼関係を基礎とした継続的な取引関係に対する債務不履行として、第1審原告X1に対し、5000万円の損害賠償をする義務がある。

そこで、第1審原告X1は、第1審被告に対し、本件前提事実(7)のとおり、相殺の意思表示をした。

〔第1審被告〕

ア 第1審原告X1の上記主張は、時機に後れた攻撃防御方法であるから、却下を求める。

イ 第1審原告X1主張の第1審被告の債務不履行の事実は否認する。

(4)  本件和解契約2の成否、遅延損害金請求の権利濫用の有無(争点(4))

〔第1審原告X2〕

ア 本件和解契約2の成立等

(ア) 本件和解契約2の成立

仮に、本件和解契約1が成立しなかったとしても、第1審原告X2は、平成9年10月ころ、三和銀行との間で、本件手形債務につき、同月31日から元金について毎月30万円ずつ分割して支払い、利息・損害金(ただし、当時、遅滞は生じていなかった。)については、三和銀行がこれを免除する旨の本件和解契約2を締結した。

(イ) その根拠

本件和解契約2が成立したことは、以下の事情から明らかである。

a 本件手形債務は、手形の支払期日到来毎に手形の書換えがされていたが、最終振出手形は、平成6年6月13日振出・平成7年6月13日満期の手形(乙63)で終了している。

b 三和銀行からは、平成7年6月13日以降においても、手形の取立もなく、元金の請求も利息・損害金の請求も一切なく、担保の別件株券の処分もされなかった。

c 三和銀行と第1審原告X2は、本件手形債務につき、月額30万円ずつの分割返済に合意し、第1審原告X2は、平成9年10月31日から、三和銀行から指示された下記口座に毎月30万円ずつ振込みを開始した。仮に、それまで本件手形債務に遅滞が生じていたとしても、上記の三和銀行も容認した分割支払の開始によって、遅滞状態は解消された(遅滞状態が続いているのであれば、担保になっていた別件株券の処分や三和銀行からの支払催告などの措置がされているはずであり、それもなく、高率の遅延損害金が発生する状態でもって分割支払が行われているのは、極めて不自然である。)。

銀行名 三和銀行淡路支店

口座名 融資課X2返済金口

預金種目 9番 別口

d 三和銀行ないし第1審被告は、上記30万円を利息に充当することなく、全て本件手形債務の元金に充当していた。

e 第1審原告X2が、平成18年1月以降、上記30万円の支払を停止した際、第1審原告X1と第1審被告との話合いの場に、第1審被告のリテール審査部リテール融資業務室室長L(以下「L」という。)が参加し、「ご融資取引明細表」(甲48)を提供して、このままでは、分割支払の期限の利益喪失問題が生じると指摘した。上記「ご融資取引明細表」には、利息や遅延損害金の記載はない。

これに対し、第1審原告X2は、遅滞分は一括して支払う旨の申出をし、第1審被告もこれを了承したため、第1審原告X2は、平成19年3月12日に遅滞分450万円を一括して支払い、月額30万円ずつの支払を復活させた。

f 第1審被告は、第1審原告らが本訴を提起した日の後である平成19年7月3日付書面をもって、初めて、第1審原告X2に対し、本件手形債務の遅延損害金1億0313万3999円を請求した(甲47の1)。

これに対し、第1審原告X2は、第1審被告(L)に対し、本件手形債務については第1審被告の言われるままに返済を行っており、支払を遅延した事実はなく、遅延損害金の支払催告を受ける理由はない旨などを記載した平成19年7月11日付質問書(甲47の2)を送付した。

イ 遅延損害金請求の権利の濫用

仮に、本件和解契約2の成立が認められないとしても、上記ア(イ)の事情、並びに、第1審被告は、第1審原告X2が本訴を提起するや、突如、本件手形債務の巨額の遅延損害金の支払を請求したことからすると、第1審被告の遅延損害金請求は、本訴提起に対する報復であって、権利の濫用として許されない。

〔第1審被告〕

ア 時機に後れた攻撃防御方法

第1審原告X2の上記主張は、時機に後れた攻撃防御方法であるから、却下を求める。

イ 本件和解契約2は口頭により成立するものではない

本件和解契約2は、その内容からして、文書によらずして、単なる口頭の約束によって成立するものではないところ、そのような合意が行われたことを示唆する文書は一切存在しない。

したがって、本件和解契約2は成立していない。

ウ 弁済期の猶予をしなかった理由

第1審原告X2が信用保証協会の保証付きで借り入れていた2億円につき、信用保証協会に対する追加保証料の支払を拒絶したため、三和銀行は、平成7年4月24日、信用保証協会から代位弁済を受けた。

そのため、三和銀行は、第1審原告X2の信用状況が著しく悪化したものとして、平成7年6月13日以降、本件手形債務につき弁済期を猶予することができないと判断した。

エ 三和銀行が別件株券の売却をしなかった理由

三和銀行が本件手形債務の担保である別件株券の売却を行っていれば、遅延損害金の増大をある程度軽減できたであろう。

しかしながら、三和銀行においては、株式担保の実行に関して当該債務者の同意を求める事務取扱いを行っており、第1審原告X2が本件株券の返還を求めているような状況下において、三和銀行が第1審原告X2の承諾を得ることができないと考え、別件株券の売却に踏み切ることが出来なかったことには合理的理由がある。そのため、第1審被告には、遅延損害金増大につき責任はなく、遅延損害金の請求が権利の濫用になることはない。

三和銀行は、第1審原告X2にまずは30万円の分割弁済を行わせた上、第1審原告X2と時間をかけて交渉を行い、別件株券の売却による交渉や返済額の増額を行う方針であり、遅延損害金が莫大なものとなるとは考えていなかった。

なお、三和銀行は、30万円の分割返済が開始される前に、第1審原告X2に対し、30万円の返済を継続した場合には遅延損害金が莫大なものになるとの説明は行っていない。

(5)  第1審原告X2に対する本件株券返還の有無(争点(5))

〔第1審原告X2〕

ア 第1審被告の本件株券返還義務の不履行

本件カードローン契約の解除により、本件株券に設定されていた三和信用保証の担保権が解除されたから、三和銀行は、第1審原告X2に対し、三和信用保証の取次銀行として、本件カードローン契約に基づく付随義務に基づき、本件株券を返還すべき義務を負うにもかかわらず、これを返還しない。

イ 第1審原告X2の本件株券預り証の所持

三和銀行のような大手の都市銀行では、担保有価証券を返還した際には、借主から担保品受取証を受領し、預り証を回収するのが通常であるところ、本件株券の預り証(甲1)は、未だ第1審原告X2が所持しているし、第1審被告ないし三和信用保証は、第1審原告X2作成の担保品受取証を保管していない。

ウ 三和銀行の他の貸金債権の担保として保管

また、平成3年当時、第1審原告X2は、三和銀行に対し、本件カードローン契約に基づく債務とは別に約3億円の貸金債務があったから、三和銀行は、本件株券を同債務の担保として預かり続けるのが自然であり、三和銀行が、第1審原告X2に対し、本件株券を返還したというのは不自然である。

第1審原告X2もその余の債務の担保として本件株券の預託が継続されていると考えたため、返還を求めなかったのである。

〔第1審被告〕

ア 本件株券を返還済み

三和信用保証は、平成3年4月24日、本件カードローン契約に基づく債務の完済に伴い担保異動承認申請を承認し、三和銀行に対して本件株券を送付した。三和銀行は、同年5月17日、第1審原告X2に対し、三和信用保証の事務の代行として、三和信用保証から預かった本件株券を返還した。

イ 日本新薬の株式等について

本件株式のうち、日本新薬株式会社(以下「日本新薬」という。)の株式は、三和信用保証が預かった時点では7000株であったが、無償増資等によって9240株になり、その後、9000株が売却され、現在は、単位未満株である240株が第1審原告X2の名義になっている。

このような株式の売却、特に無償増資等によって増加した2000株の売却は、第1審原告X2でなければできない行為であるから(その株券は、日本新薬から名義人の第1審原告X2に直接交付されたものであるから、第1審被告は占有していない。)、上記株券は、第1審原告X2に対して返還されたことが明らかである。そして、本件株券のうち、上記株券だけが返還されたというのは不自然であるから、本件株券は、第1審原告X2にすべて返還されている。

ウ 本件株券を返還した際の受取証等について

三和銀行に、第1審原告X2に対して本件株券を返還した際の受取証等の書類が残っていないのは、保存期間が経過し、三和信用保証において、書類が廃棄されたためである。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

本件前提事実及び証拠(甲14の1の存在、乙1の存在、甲1~3、4・5の各1・2、9の1・2、10、11、12の1~7、13の1~69、14の2、15、18の1・2、19~28、35、36、39、45、46、47の1・2、48~50、51の1~9、52の1~10、53・55の各1・2、56の1~31、60の1・2、61、63、66の1~3、71の1~7、72、74、乙2の1・2、3~19、20・21の各1・2、22、23の1~5、24~27、30~35、36の1~35、37の1~20、38~40、41の1・2、42~44、45の1~5、46の1~7、47、49、50の1・2、51の1~3、52、54~63、64の1・2、証人M、同A、第1審原告X1本人、第1審原告X2本人)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の各事実が認められる。

(1)  本件消費貸借契約関係について

ア 三和銀行・第1審原告X1間の融資関係

(ア) 三和銀行の第1審原告X1に対する貸付

三和銀行は、第1審原告X1に対し、以下のとおり金員を貸し付けた(乙18、20の1)。

① 昭和62年6月27日、5000万円(手形貸付)

② 平成2年5月24日、1600万円(手形貸付)

③ 平成5年8月23日、2億円(手形貸付、大阪市信用保証協会の保証付)

④ 昭和53年9月29日、2000万円(証書貸付)

⑤ 昭和62年3月30日、6000万円(証書貸付)

⑥ 昭和62年5月30日、2000万円(証書貸付)

⑦ 平成元年6月30日、1億2000万円(本件貸金債務、三和信用保証の保証付)

(イ) 三和銀行の根抵当権

第1審原告らは、昭和54年2月8日、第1審原告らの所有に係る本件土地建物に、三和銀行のために極度額2000万円の根抵当権(1番根抵当権)を設定し、昭和62年3月27日、極度額を1億円に増額した(三和銀行の根抵当権)。三和銀行の根抵当権の被担保債務は、上記(ア)①ないし⑥の債務であった(甲5の1・2、乙21の1・2、22)。

イ 本件消費貸借契約に基づく融資等

(ア) 1億2000万円の第1審原告X1名義の口座振込

三和銀行は、平成元年6月30日、第1審原告X1名義の三和銀行淡路支店の普通預金口座(口座番号<省略>)に、1億2000万円を入金した(乙5、争いがない)。

上記普通預金口座は、ガス代、電気代、保険料等の引き落としに使用されるなど、第1審原告X1が管理する口座であった(乙5、弁論の全趣旨)。

(イ) 1億2000万円中の7800万円の行方

上記1億2000万円のうちの7800万円は、平成元年6月30日、第1審原告X1名義の三和銀行淡路支店の定期預金口座(口座番号<省略>)に振替送金された。そして、同年9月1日、同定期預金口座が解約され、残金7848万6010円の全額が、第1審原告X1が代表取締役を務めるa社名義の三和銀行淡路支店の普通預金口座(口座番号<省略>)に振替入金された(乙24、25、29)。

a社名義の普通預金口座は、昭和56年5月23日、第1審原告X1が開設したものであり、以降、a社名義のアメリカンエキスプレスのクレジットカードの振替が行われるなど、多数回の入出金が行われている(乙30~32)。

ウ 本件競売の申立て、同取下げ等

(ア) 支払催告

三和銀行は、平成7年11月14日、第1審原告X1に対し、同日発送の内容証明郵便により、三和銀行の根抵当権により担保されている前記ア(ア)①~⑥の各債務につき、支払を催告するとともに、同月27日までに支払がない場合には期限の利益を喪失する旨の通知をしたが、同月25日、保管期間満了により返送された(乙18、20の1・2)。

(イ) 本件競売の申立て

第1審原告X1は、平成7年11月27日の経過をもって、前記ア(ア)①~⑥の各債務につき期限の利益を喪失したため、三和銀行は、平成8年1月11日、大阪地方裁判所に対し、三和銀行の根抵当権の実行として、本件競売を申し立て、同月19日、競売開始決定がされた(大阪地方裁判所平成8年(ケ)第39号事件(乙20・21の各1・2、22)。

(ウ) 大阪市信用保証協会の代位弁済

大阪市信用保証協会は、平成8年2月9日、前記ア(ア)③の債務(2億0466万8493円)を代位弁済し、三和銀行の根抵当権の一部移転登記を受けた(乙21の1・2)。

(エ) 第1審原告X1の1億円返済等

三和銀行淡路支店のAは、平成8年7月15日、第1審原告X1に対し、前記ア(ア)①、②、④ないし⑦の債務の残額等が記載された御融資明細を交付した(乙51の3、甲3、証人A)。

第1審原告X1は、平成8年11月20日、三和銀行に対し1億円を支払った。三和銀行は、これを前記ア(ア)①、②、④~⑥の残債務及び本件競売申立費用(元本合計8629万4000円、利息及び遅延損害金合計491万2950円、本件競売申立費用61万円)に充当し、残額の818万3050円は、大阪市信用保証協会に支払った(甲4の1・2、乙23の1~5、56、57)。

(オ) 本件競売申立ての取下げ等

三和銀行は、平成8年11月20日、三和銀行の根抵当権を解除し、同月22日、本件競売の申立てを取り下げた(乙21の1・2)。

エ その後の本件貸金債務の返済等

第1審原告X1は、平成8年11月以降も、平成19年2月までの間、三和銀行に対し、本件貸金債務につき約定元利金の弁済を行った。上記期間中の弁済額は、元利金合計が約5345万円になる(乙18、19、42、43、55)。

なお、現時点においても、三和信用保証の抵当権は抹消されていない(乙21の1・2)。

(2)  本件手形貸付契約関係

ア 本件手形貸付契約の締結等

(ア) 第1審原告X2は、昭和63年1月21日、三和銀行に対し、本件前提事実(3)ア(ア)a~d記載の銀行取引約定書を差し入れた(乙64の1・2)。

(イ) 三和銀行は、昭和63年7月30日、第1審原告X2に対し、7500万円を、弁済期を同年8月30日、手形貸付の方法で貸し付け(本件手形貸付契約)、第1審原告X2は、その担保として、以下の株券(別件株券)に担保を設定した(甲12の1、乙13、36の1~35)。

① 日本電信電話株式会社 35株

② 株式会社ニフコ 10,000株

③ 株式会社伊藤喜工作所 10,000株

(ウ) なお、本件手形貸付契約は、第1審原告X2が資金需要に迫られて借り入れたものではなく、当時、いわゆるバブル経済の最中であったことから、三和銀行に借りてほしいと要請されたため、借り入れたものである。

イ 日本電信電話株式会社の株式35株について

(ア) 前記日本電信電話株式会社の株式35株は、別紙4「NTT株券一覧表」記載のとおり、第1審原告X1名義のものが15株、その余の20株が第1審原告X1以外の名義(名義書換未了のため大蔵大臣名義のままの分-別紙4の「なし」-を含む)であった(乙13、乙36の1~35、38)。

(イ) 第1審原告X1は、昭和62年3月31日当時、三和銀行に担保として差し入れた上記第1審原告X1名義の15株の他に、第1審原告X1名義の日本電信電話株式会社の株式7株を保有していた(いずれも記号<省略>、株券番号<省略>、<省略>、<省略>、<省略>、<省略>、<省略>、<省略>)。

上記株式7株については、平成3年2月28日、名義書換が行われた(甲10、乙36の1~35、弁論の全趣旨(平成20年6月16日付請求の趣旨変更申立書3頁))。

(ウ) 第1審原告X1は、平成19年2月ころ、第1審被告に対し、三和銀行に担保として差し入れた第1審原告X1以外の名義の20株につき、第1審原告X1名義に名義書換をすることを求めた。

そこで、第1審被告は、名義書換代理人である中央三井信託銀行株式会社に対して名義書換の取次手続を依頼し、同月13日、上記20株につき第1審原告X1名義へ名義書換が行われた(乙36の1~35、37の1~20)。

ウ 分割弁済-平成9年10月末まで

(ア) 第1審原告X2は、本件手形債務の弁済期猶予のために、期間中の約定利息のみを支払って、手形を書き換え(三和銀行の担当者が第1審原告ら宅を訪問して書換えがされていた。)、三和銀行は、平成7年6月13日まで、その元金の弁済期を猶予した(甲12の1~7、乙63)。

なお、このような長期にわたる元本返済の期限の猶予は、当初の借入れが三和銀行の要請によることに帰因するものと推認できる(甲36、第1審原告X2本人)。

(イ) ところが、平成7年6月14日以降は、三和銀行と第1審原告X1との間に争いが生じたためか、三和銀行の担当者が第1審原告ら宅を訪れて手形の書換えがされることがなくなり、返済の遅滞が生じた(甲36、第1審原告X2本人)。

しかしながら、三和銀行において、その時点で、受領していた第1審原告X2の手形(乙63)を呈示したり、書面により本件手形債務の支払を督促した形跡はない。

(ウ) 平成8年11月4日時点における別件株式の株価は、ニフコ株1250円、イトーキ株930円、NTT株77万7000円であり、合計株式価額は、4899万5000円であった(弁論の全趣旨(第1審原告らの平成23年1月24日付準備書面の3~4頁))。

第1審原告X2は、本訴の本人尋問が行われた平成22年10月時点でも、ワインショップを経営しており(第1審原告X2の供述)、第1審原告X1も、平成8年11月20日、三和銀行に対し1億円を返済していて(前記(1)ウ(エ))、第1審原告らは、平成8・9年当時、他の資産を売却したり、他から借入れをすることができるなど、それなりの資金力を有していた。

エ 分割弁済-平成9年10月末から平成17年12月まで

(ア) 第1審原告X1と三和銀行(担当・A)との間で、本件手形債務について話合いがされた後、第1審原告X2は、平成9年10月31日以降、三和銀行から指示されて、三和銀行淡路支店の別段預金口座(銀行名・三和銀行淡路支店、口座名・融資課X2返済金口、預金種目・9番 別口)に振り込む方法により、本件手形債務につき1か月30万円を弁済するようになった(争いがない。)。

元金7500万円を月額30万円ずつ分割返済すると、250か月(20年10か月)要することになり、その間、残元金に対して年14%の割合による遅延損害金が付され、その弁済を留保するとすると(本件前提事実(3)ア(ア)d)、元金完済時点では、元金額を大幅に上回る巨額の遅延損害金が蓄積されることになるが、三和銀行は、第1審原告X2の分割返済開始に当たり、そのような説明をしていない。

(イ) 三和銀行ないし第1審被告においては、上記30万円について、利息に充てることなく、全て元金に充当する内部処理をしていた(争いがない。)。

この点につき、平成14年10月から平成19年3月までの間、第1審原告らとの取引を担当していた三和銀行(当時の商号は株式会社ユーエフジェイ銀行)淡路支店の業務課主任(平成15年10月からは融資担当の支店長代理)であったM(以下「M」という。)は、本訴において、次のとおり証言している。

a 利息については、特にいただいてませんという引き継ぎを受けたと記憶しております。ご返済の処理のときに、お利息に充当することではなくて、元本に充当するようにという引き継ぎを受けました。

b (後任のNに引き継ぐときに)、金利はいただいておりませんという引き継ぎをしたと思います。返済自体は元本のほうに返済をするようにということで、引き継ぎをさせていただいております。

c (金利を請求しないということに対して)不思議に思いました。(金利を請求しないのはなぜかについて、前任者等に問い合わせしたかどうかは)ちょっと記憶にないですね。覚えてないです。

オ 分割弁済-平成18年1月から第1事件訴訟提起まで

(ア) 第1審原告X2は、平成18年1月分から、月額30万円の支払を停止した。

(イ) 平成18年10月ころ、第1審被告のリテール審査部リテール融資業務室室長Lと同室長代理のN(以下「N」という。)が、第1審原告ら宅を訪ね、第1審原告らのほか、第1審原告ら代理人弁護士阿部幸孝(以下「阿部弁護士」という。)と3回にわたり話合いをした。

その際、Lは、第1審原告X2が長年にわたって本件手形債務の分割金の支払を続けていたにもかかわらず、平成18年1月20日から支払を停止していることの事情を尋ねるとともに、これ以上支払停止を続けられると、分割支払の期限の利益を失い、一括支払をしてもらわなければならなくなる旨告知し、「ご融資取引明細表」(甲48)を第1審原告らに交付した。

上記「ご融資取引明細表」は、平成9年10月31日から毎月30万円ずつ返済がされ、それに伴って本件手形債務の元本が30万円ずつ減少している経過が、平成17年12月20日まで記載されているが(同日時点の本件手形債務の残元本額は4530万円である。)、利息や遅延損害金については何らの記載もない。

(ウ) 上記話合いの際、阿部弁護士が第1審原告らに対し、本件貸金債務の弁済を中止する目的で、本件手形債務の30万円の分割金の支払を停止するのはおかしいとの指摘をしたことから、第1審原告X2は、本件手形債務の分割金支払を再開するとともに、滞納分の一括支払を行うこととした。

そして、第1審原告X2は、平成19年3月12日、分割滞納分450万円(平成18年1月分から平成19年3月分まで15か月分)の支払と、平成19年4月分から分割金30万円の支払を再開した(甲56の1~31)。

なお、三和銀行は、第1審被告に合併されてから、従前の別段預金口座が閉鎖されたことから、第1審原告X2は、以後、平成22年2月ころまでは、第1審被告淡路支店のNに対して月額30万円を支払い、同年3月ころからは、後任のOに支払った(途中からは、第1審原告X2の口座からの振替処理による支払)(甲36)。

カ 分割弁済等-第1事件訴訟提起以降

(ア) 第1審原告らは、平成19年5月11日、本訴のうち第1事件に係る訴訟を提起した。

すると、第1審被告は、平成19年7月3日付書面(甲47の1)をもって、初めて、第1審原告X2に対し、本件手形債務の遅延損害金1億0313万3999円を請求した。

これに対し、第1審原告X2は、第1審被告(L)に対し、本件手形債務については、第1審被告の言われるままに返済を行っており、支払を遅延した事実はなく、遅延損害金の支払催告を受ける理由はない旨などを記載した、平成19年7月11日付質問書(甲47の2)を送付した。

(イ) 第1審原告X2は、本訴提起後も平成23年8月23日まで、本件手形債務の分割金月額30万円の支払を継続しており、同日時点の残元本額は2490万円である(別紙3の末尾)。

なお、本件手形債務の担保株券(別件株券)については、現時点まで担保権の実行はされておらず、三和銀行ないし第1審被告から第1審原告X2に対し、少なくとも書面で、別件株券の任意売却を勧めた形跡はない。

(ウ) 第1審被告は、本訴において、別紙3記載のとおり、第1審原告X2支払の月額30万円の分割金は本件手形債務の元本に充当するものの、最終の手形(乙63)の支払期日の翌日である平成7年6月14日から本件手形債務は遅滞が続いているから、残元本に約定の年14%の割合による遅延損害金が発生しているとして、平成23年8月23日現在、1億2197万4353円の確定遅延損害金が存在すると主張している。

(3)  本件カードローン契約関係

ア 本件カードローン契約の締結等

第1審原告X2は、平成元年1月13日、三和銀行との間で、本件カードローン契約を締結し、三和信用保証に対し、本件カードローン契約に基づく第1審原告X2の債務の保証を委託して、将来負担することのある求償債務を担保するため、本件株券に担保を設定した(甲1、乙6、7、17)。

第1審原告X2は、平成元年1月13日、本件カードローン契約に基づき、三和銀行から4500万円を借り入れ、同日、4500万円が第1審原告X2名義の三和銀行淡路支店の普通預金口座(口座番号<省略>)に入金された。第1審原告X2は、同普通預金口座から入出金を繰り返し、同普通預金口座を使用していた。

イ 債務完済、本件カードローン契約の解約等

その後、第1審原告X2は、本件カードローン契約の指定預金口座である上記普通預金口座からの引き落としにより、本件カードローン契約の専用口座である第1審原告X2名義の三和銀行淡路支店の当座預金口座(口座番号<省略>)において、上記借入れの約定弁済を行なった(以上につき、乙26、27)。

第1審原告X2は、平成3年4月22日、三和銀行を取次銀行として、三和信用保証に対し、本件カードローン契約の解約及び担保として差し入れていた本件株券を返済するよう申請し、三和信用保証は、本件カードローン契約の残高が0になっていることを確認した上で、これを承認し、同月24日、取次銀行である三和銀行に対し、本件株券を返還した(乙14~16)。

第1審原告X2は、平成3年5月17日、三和銀行との間の本件カードローン契約を解約し、三和銀行から前記当座預金口座の残金1万1542円を受領した(乙8~10)。

ウ 本件株式について

(ア) 本件株式は、平成3年9月30日から平成9年3月31日までの間に、別紙5「本件株券名義書換一覧表」記載の銘柄欄の株式が、名義書換日欄記載の日付に、第1審原告X2あるいは第1審原告X1から第三者に対して名義書換がされた。

本件株式は、いずれも別紙5の名義書換前直近配当金欄、名義書換前々期配当金欄、名義書換前々前期配当金欄記載のとおり、それぞれ名義書換直前まで株主に対する配当が行われていた(乙45の1~5、46の1~7)。

(イ) 本件株式のうち日本新薬の株式は、三和信用保証が預かった平成元年1月13日当時、7000株であったが、平成2年5月18日、無償増資が行われて7700株となり、平成7年5月19日、株式分割により9240株となり、第1審原告X2名義のまま合計2450株が増資及び分割により増加した。

上記株式は、それぞれ第1審原告X2名義で、平成9年2月19日に株式会社証券保管振替機構に対して4000株が譲渡され、同年3月19日にBに対して1000株が譲渡され、同月31日に日本生命保険相互会社に対して4000株が譲渡され、その結果、単位未満株である240株のみが第1審原告X2の名義となった(乙45の5、58)。

2  本件消費貸借契約の成否及びその効力(争点(1))の検討

(1)  当裁判所の認定

本件前提事実(2)ア・イ及び前記1(1)イ(ア)の認定事実によれば、第1審原告X1は、平成元年6月30日、本件消費貸借契約の契約書に署名押印し、三和銀行は、同日、1億2000万円を、第1審原告X1名義の三和銀行淡路支店の普通預金口座(口座番号<省略>)に入金しており、上記普通預金口座は、第1審原告X1が管理する口座であったから、同日、三和銀行は、第1審原告X1に対し、本件消費貸借契約に基づき1億2000万円を交付し、三和銀行と第1審原告X1との間で、同日、本件消費貸借契約が成立したこと、だからこそ、第1審原告らは、同日、本件貸金債務の連帯保証をした三和信用保証を権利者とし、その求償債務を被担保債権として、第1審原告らが所有する本件土地建物上に、三和信用保証の抵当権を設定したことが認められる。

(2)  第1審原告X1主張の検討

ア 第1審原告X1に無断で振り替えたのか

(ア) 第1審原告X1は、平成元年6月30日に1億2000万円が第1審原告X1名義の前記普通預金口座に入金されたのは、第1審原告X1の承諾なく行われたものであり、うち7800万円が第1審原告X1名義の定期預金口座へ振替入金され、a社名義の普通預金口座に振替されたことにつき、了知しておらず、すべては三和銀行が勝手に行った処理である旨主張し、第1審原告X1は、概ねこれに添う供述をする。

(イ) しかしながら、前記定期預金口座は第1審原告X1名義の口座であり、a社名義の普通預金口座は、第1審原告X1が、a社の代表取締役として開設し、a社名義のクレジットカードの決済に使用されるなど、a社の代表取締役である第1審原告X1が管理していた口座であって(前記1(1)イ(イ))、第1審原告X1の指示に基づかずに7800万円もの金員につき、一連の振替がされたものと認めるに足りない。

第1審原告X1の上記供述は、このような客観的な事実と異なる記憶に基づくものというほかなく、採用できない。

イ 三和銀行淡路支店の不正処理の一環であるか

第1審原告X1は、本件消費貸借契約の契約書(乙1)は、第1審原告X1の実印が押印されているものの、第1審原告X1の署名は第1審原告X2の代筆であるし、資金使途につき、マンション購入と虚偽の事実が記載されるなど、その内容に疑義があり、当時、三和銀行淡路支店の次長であったCが、b会理事長Dと緊密な関係にあり、同支店における不正処理を行う一環として、本件消費貸借契約も締結された旨供述(甲35を含む。)する。

なるほど、本件契約書(乙1)の資金使途欄には、「マンション購入」と記載されているにもかかわらず、本件消費貸借契約の融資金の移動経過を見る限り、マンション購入に利用された形跡はなく、その一部が三和銀行の定期預金にされている(前記1(1)イ(イ))。以上からしても、三和銀行も、第1審原告X1がマンション購入に利用するものではないことを承知しながら、本件消費貸借契約を締結したものと推認できる。また、当時、三和銀行淡路支店が、c同盟d支部長、b会理事長のDと、緊密かつ不健全な関係にあったことも認められる(甲34、35、40)。

しかしながら、融資の経過がどうであれ、上記(1)イのとおり、本件消費貸借契約に基づく融資金が現実に第1審原告X1に交付されている以上、消費貸借契約として有効に成立しているのは明らかであって、第1審原告X1の上記主張は採用できない。

ウ 名義貸しか

第1審原告X1は、本件消費貸借契約は、三和銀行淡路支店の営業成績を上げるために行われたものであって、第1審原告X1としては、本件消費貸借契約締結のための名義貸しと、それに伴う口座使用の承認をしたにすぎないから、本件消費貸借契約は不成立又は通謀虚偽表示によるものとして無効である旨主張している。

なるほど、本件消費貸借契約が締結された時期(平成元年6月)は、いわゆるバブル経済の最盛期に当たり、この時期は金融機関が融資額を増額すべく熾烈な競争をしていた時期であるから、時には、顧客に特段資金需要の必要性がないのに、金融機関側が懇請して、顧客との間で融資契約を締結したりしていたことは公知の事実であり、本件消費貸借契約もそのような経緯でされた可能性は否定できない。

しかしながら、そうだからといって、直ちに、第1審原告X1が本件消費貸借契約締結のための名義貸しと、それに伴う口座使用の承認をしたにすぎないなどとは到底認められないし、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない(むしろ、上記1(1)イで検討したとおり、本件消費貸借契約に基づく融資金は、第1審原告X1が管理していたと認められる。)。

したがって、本件消費貸借契約が不成立又は通謀虚偽表示により無効であるとはいえない。

3  本件和解契約1の成否(争点(2))の検討

(1)  第1審原告らの主張等

第1審原告らは、第1審原告らと三和銀行との間で、平成8年11月11日、本件和解契約1が成立した旨主張する。

そして、第1審原告らは、①Aが作成した本件和解提案書(甲14の1)が存在すること、②本件和解契約1の締結に至る経緯をメモした第1審原告X1作成に係る手帳の記載(甲15)が存在すること、③本件和解契約1の内容と、平成8年11月20日に第1審原告X1が三和銀行に対して1億円を振り込み、三和銀行が、本件競売の申立てを取り下げ、三和銀行の根抵当権を抹消した経過や、第1審原告X2が、本件手形債務につき、元本のみ月額30万円の弁済を継続している経過とが整合することからも、第1審原告ら主張内容の本件和解契約1が成立したことが推認される旨主張する。

なるほど、J鑑定(甲29)によれば、本件和解提案書に押捺された「A」の印影は、Aが当時使用していた印章によって顕出された可能性は高く、他方、第1審原告ら側が真正なAの印章によって顕出された印影を下に印章を偽造することは容易ではないことが認められるので、本件和解提案書が真正に成立したと認められる余地はあるものといえる。

(2)  当裁判所の判断

しかしながら、本件和解提案書は、その体裁は、Aの肩書や氏名も記載されていないメモ的な書面であり、その内容も「和解の用意があります」などと記載されていて、あくまで和解の提案をしたにすぎない書面であり(甲14の1の存在)、金融庁の厳格な監督を受ける都市銀行たる三和銀行が、このような書面だけで正式な和解契約を締結することなど、認め難いというべきである。

しかも、第1審原告らが主張する本件和解契約1の内容は、第1審原告X1が1億円を支払うことと引き換えに、三和銀行の根抵当権のみならず、三和信用保証の抵当権をも抹消するというものであるのに、三和信用保証が、本件和解契約1の締結に当事者として関与したり、三和銀行に対して本件和解契約1の締結に関する代理権を付与したものと認めるに足りる的確な証拠はないから、なおさら、本件和解提案書のみで、本件和解契約1が成立したと認めることはできない。

さらに、第1審原告X1は、平成8年11月以降も平成19年2月までの間、本件貸金債務につき合計約5345万円も弁済しているのであり(前記1(1)エ)、これは、第1審原告らが主張する本件和解契約1の内容、すなわち、本件和解契約1の成立により、本件貸金債務が免除されたことと矛盾するし、三和信用保証の抵当権(本件土地建物上に設定した2番抵当権)は、本件和解契約の成立後14年以上が経過した現在も抹消されていないにもかかわらず(乙21の1・2)、経営コンサルタントとして(本件前提事実(1)ア)、法的知識もそれなりに有していたと推認できる第1審原告X1が、三和信用保証に対し、上記抵当権の抹消登記手続を求めて訴訟提起するなどの措置を講じていないことも、本件和解契約1が成立したことと矛盾した行動といえる。

以上からすると、仮に、本件和解提案書が真正に成立したものであるとしても、その後、正式な和解契約書が交わされておらず、第1審原告X1も、その後、本件和解契約1と相容れない行動をしていることなどからすると、本件和解提案書のみで、本件和解契約1が成立したと認めるのは困難であるといえる。

(3)  第1審原告らの主張の検討

ア この点、第1審原告らは、当時、三和銀行の単独貸付債権は8629万4000円しか存在していなかったから、本件和解契約1が成立していないのに、これを上回る1億円の支払を本件競売申立ての取下げの条件とすることはあり得ない旨主張している。

イ しかしながら、銀行が根抵当権を設定している場合、信用保証協会から代位弁済を受けるためには、保証条件担保の場合はもちろん、保証条件外担保の場合でも、代位弁済金の受領と同時に根抵当権の移転登記手続が必要であり、そのためには根抵当権の元本の確定が必要である。

本件においても、三和銀行は、本件競売申立てにより本件根抵当権の元本確定を行い、大阪市信用保証協会に対して根抵当権一部移転登記をしていたから(前記1(1)ウ(イ)(ウ))、三和銀行は、本件根抵当権による回収金を第1審原告X1に対して有する債権に優先して充当した後、剰余金が発生する場合は、当該剰余金を大阪市信用保証協会に対して交付する必要があり、三和銀行は、本件根抵当権の極度額1億円全額の弁済を受けなければ、本件競売の申立てを取り下げることは不可能であった。

以上の事実からすれば、三和銀行が本件競売申立ての取下げの条件として1億円の支払を提示したことは、不合理とはいえない。

4  第1審被告の債務不履行責任の有無等(争点(3))の検討

(1)  時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立てについて

第1審原告X1は、5000万円の請求が信義則に反するとか、第1審被告に対し、債務不履行による5000万円の損害賠償債権を有しており、これをもって、本件消費貸借契約に基づく本件貸金債務中の5000万円の請求債権と相殺する旨主張しているところ、第1審被告は、同主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、その却下を求めている。

しかしながら、当裁判所は、既に第1審原告X1の上記主張に対して、第1審被告に十分な反論・反証の機会を与えており、現時点では上記主張の審理・判断が訴訟の完結を遅延するとはいえず、第1審原告X1の上記主張は時機に後れた攻撃防御方法とはいえないから、第1審被告の同申立ては却下する。

(2)  第1審被告の債務不履行責任等について

第1審原告X1は、第1審原告X1ではなく三和銀行のCがゴルフ会員権を購入したとか、三和銀行(担当者・C)が第1審原告X1にゴルフ会員権購入を勧誘したことが違法であることを前提に、本件消費貸借契約に基づく本件貸金債務中の5000万円の請求の信義則違反や、第1審被告が有する同5000万円の請求債権と第1審被告に対する債務不履行に基づく5000万円の損害賠償債権との相殺を主張している。

しかしながら、Cがゴルフ会員権を購入したことや、三和銀行が第1審原告X1に違法にゴルフ会員権の購入を勧誘したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

第1審原告X1は、自らはゴルフをしないことを強調しているが、いわゆるバブル経済最盛期の当時、ゴルフ会員権の価格相場も高騰しており、ゴルフをするためにゴルフ会員権を購入するのではなく、資産としてゴルフ会員権を購入する者が多数存在していたことは公知の事実である。それゆえ、第1審原告X1もそのような目的で、瀬戸内カントリークラブや奈良若草山カントリークラブのゴルフ会員権を購入したと考えても不思議ではなく、第1審原告X1がゴルフをしないことのみから、第1審原告X1が三和銀行(担当者のC)の違法な勧誘によって、上記ゴルフ会員権を購入したと推認することはできない。

したがって、三和銀行(担当者のC)について、第1審原告X1にゴルフ会員権購入を勧誘したことが違法であるとか、三和銀行に債務不履行責任があるものとは認められず、第1審原告X1主張の信義則違反や相殺の主張は採用できない。

5  本件和解契約2の成否、遅延損害金請求の権利濫用の有無(争点(4))の検討

(1)  時機に後れた攻撃防御方法却下の申立てについて

第1審原告X2は、本件和解契約2が成立したとか、第1審被告による遅延損害金請求は権利の濫用に当たり許されない旨主張しているところ、第1審被告は、同主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たるとして、その却下を求めている。

しかしながら、当裁判所は、既に第1審原告X2の上記主張に対して、第1審被告に十分な反論・反証の機会を与えており、現時点では、上記主張の審理・判断が訴訟の完結を遅延するとはいえず、第1審原告X2の上記主張は時機に後れた攻撃防御方法とはいえないから、第1審被告の同申立ては却下する。

(2)  本件和解契約2の成立について

第1審原告X2の主張によると、口頭により本件和解契約2が成立したことになる。

しかしながら、本件和解契約2は、本件手形債務につき、元金について毎月30万円ずつ分割して支払い、利息・損害金は免除する旨の内容であって、金融庁による厳格な監査を受ける都市銀行である三和銀行が、このような内容の和解を書面によらずして締結するとは到底考えられず、その点のみからしても、本件和解契約2が成立したとは認められない。

(3)  遅延損害金請求の権利濫用について

ア 事実関係

前記1(2)で認定した事実によれば、次の各事実が認められる。

(ア) 本件手形債務に係る7500万円の貸付けは、三和銀行からの要請により、第1審原告X2が借り入れたもので(前記1(2)ア)、その後、手形の書換えを繰り返して、期間中の利息のみを支払い、元金7500万円の返済を猶予する措置が、貸付時期から7年後の平成7年6月13日まで継続された(前記1(2)ウ(ア))。

(イ) その後、三和銀行と第1審原告X1との間の争いなどのため、手形の書換えがされなくなったものの、三和銀行において、最後に残った第1審原告X2の手形(乙63、額面7500万円)を支払呈示したり、書面により本件手形債務の支払を督促した形跡はない(前記1(2)ウ(イ))。

(ウ) 別件株式は、平成8年11月4日時点で、約5000万円の価値があったし、第1審原告らは、平成8・9年当時、他の資産を売却したり、他から借入れをすることができるなど、それなりの資金力を有していた(前記1(2)ウ(ウ))。

(エ) 第1審原告X1と三和銀行(担当者・A)との間で、本件手形債務の弁済に関して話合いがされた結果、別件株式に対する担保権の実行をすることなく、第1審原告X2は、平成9年10月31日以降、三和銀行が指示する別段預金口座に月額30万円を振り込むようになった(前記1(2)エ(ア))。

(オ) 本件手形債務の元金7500万円を月額30万円ずつ分割返済すると、250か月(20年10か月)要することになり、その間、残元金に対して年14%の割合による遅延損害金が付され、その弁済を留保するとすると、元金完済時点では、元金額を大幅に上回る巨額の遅延損害金が蓄積されることになるが、三和銀行は、分割返済開始に当たり、第1審原告X2に対し、そのような説明をしていないし(前記1(2)エ(ア))、平成19年7月3日付書面を送付するまで、第1審原告X2が分割返済中、利息・損害金の請求や担保権実行の請求をしたことはなかった(前記1(2)カ(ア))。

(カ) 第1審原告X2が毎月支払う分割金30万円は、三和銀行ないし第1審被告淡路支店の担当者間で、全て本件手形債務の元金に充当し、利息は徴収しないという引継ぎがされており、証人Mの証言内容からすると、同担当者は、本件手形債務が遅滞していて、別途遅延損害金が発生しているという認識を有していなかったと推認できる(前記1(2)エ(イ))。Lが第1審原告らに交付した「ご融資取引明細表」にも、利息・損害金の記載は全くなかった(前記1(2)オ(イ))。

イ 当裁判所の判断

(ア) 以上の事実関係からすると、少なくとも三和銀行淡路支店の担当者は、第1審原告X2が月額30万円の分割弁済を開始した時点で、元金につき分割弁済の期限の利益を与え(したがって遅滞扱いしない。)、利息は免除して分割金は全て元金に充当するとの合意が存在するかのような態度を示しており、第1審原告X2も同様の認識であったものと認められる。

そうすると、第1審被告の第1審原告X2に対する本件手形債務の遅延損害金の請求は、第1審原告らが本訴を提起したことから、第1審被告内部で正式な利息・遅延損害金の免除措置をしていないことを奇貨としてされたものと推認できる。

(イ) 以上の経緯のほか、遅延損害金の額が巨額で、遅延損害金が発生するのであれば、第1審原告X2において、これを回避する措置(三和銀行と別件株券の処分を相談したり、他の資産を売却したり、他から借入れをして早期に弁済するなど)を講じることが可能であったのに(前記1(2)ウ(ウ)参照)、三和銀行淡路支店の担当者がその機会を奪っていることなどを併せ考慮すると、第1審原告X2が分割金の支払を続けていた平成23年8月23日までの間の遅延損害金の請求は、権利の濫用として許されないというべきである。

ウ 第1審被告の主張の検討

(ア) 第1審被告は、第1審原告X2が本件株券の返還を求めているような状況下では、担保権の実行として、別件株式の売却を行うことが出来なかったことに合理的な理由がある旨主張している。

(イ) しかしながら、第1審被告の主張によっても、第1審原告X2が別件株券の返還を求めたのは平成15年ころのことであり(証人M3頁)、分割返済の開始時である平成9年10月ころから5年以上が経過していて、それまでの間も、三和銀行が第1審原告X2に対し、別件株券の売却の相談を持ちかけた形跡はないし、何よりも、三和銀行ないし第1審被告において、月額30万円の分割金を全て本件手形債務の元金に充当しつつ、他方で、一挙手一投足で可能な書面による遅延損害金の請求すら行っていなかったのである。

(ウ) したがって、第1審被告の上記主張は採用できない。

6  第1審原告X2に対する本件株券返還の有無(争点(5))について

(1)  第1審原告X2の主張

第1審原告X2は、三和銀行が、三和信用保証の取次銀行として、本件カードローン契約に基づく付随義務により、第1審原告X2に対し、本件株券を返還すべき義務を負うにもかかわらず、これを返還しない旨主張する。

(2)  検討

ア 当裁判所の判断

しかしながら、三和信用保証は、平成3年4月24日、取次銀行である三和銀行に対して本件株券を返還しており、第1審原告X2は、同年5月17日、本件カードローン契約の解約に伴い、三和銀行から当座預金口座の残金を受領しているのであるから(前記1(3)イ)、第1審原告X2は、同日、本件株券についても、返還を受けているものと推認できる。

イ 第1審原告らが平成18年頃から本件株券の返還請求をしていること

もっとも、第1審原告らは、平成17年以降、本件株式が名義書き換えされたことに気付いたとして、平成18年ころから、第1審被告に対して本件株券の返還請求をしている。

しかしながら、第1審被告が、第1審原告X2に本件株券を返還したとする平成3年5月17日以降、同年9月30日から平成9年3月31日までの間に、別紙5記載のとおり、第1審原告X2あるいは第1審原告X1から第三者に対して本件株券の名義書換がされており、上記名義書換の直前まで、本件株券につきそれぞれ株主に対する配当が行われていた(前記1(3)ウ(ア))。

したがって、第1審原告らは、遅くとも平成9年ころには、本件株券の株主に対する配当がされなくなり、名義書き換えがされたことを認識し得たというべきであるから、平成17年ないし平成18年になるまで三和銀行に対して本件株式の返還請求をしなかったという経過にも、合理性がない。

ウ 日本新薬の株式について

しかも、本件株式のうち日本新薬の株式7000株については、増資又は分割がされ、2450株が増加して9450株になり、平成9年3月、上記増加した2450株のうち2000株を含む9000株が第三者に譲渡されて、名義書換がされているのであるから(前記1(3)ウ(イ))、上記増加した2000株(これらの株券を第1審被告が所持していると解する余地はない。)を取得した第1審原告X2の関与なしに、これらの取引がされたと考えるのは困難である。

そうすると、本件株券のうち他の株券についても、第1審原告X2に返還されたものと推認される。

エ 第1審原告X2が本件株券の預り証を所持していること

とはいえ、第1審原告X2は、本件株券の預り証(甲1)を未だ所持していること、本来、三和銀行が、債務者に対して有価証券を返還した上、債務者から担保品受取証を受領することになっているが(前記1(3)イ)、現在、第1審原告X2作成の担保品受取証は存在しないことが明らかである。

しかしながら、三和銀行において、債務者である第1審原告X2から受領した担保品受取証は、三和銀行から三和信用保証に返還されることとなっているものの、10年間の保存期間経過後に廃棄されたため、現在、三和信用保証がこれを保管していない旨主張しており、これをあながち虚偽として排斥する根拠に乏しいし(乙34、39、証人M)、また、三和信用保証が三和銀行を介して担保品受取証を回収した以上、三和銀行が第1審原告X2から本件株券の預り証(甲1)を回収しなかったことにつき、何らかの事情ないしは事務手続上の手落ちがあったとしても、これをもって、直ちに前記アの認定事実は左右されない。

オ 第1審原告らの供述について

(ア) 第1審原告らの供述

なお、第1審原告らは、いずれも、本件株券は三和銀行から返還されていない旨供述している(甲35、36、第1審原告X2本人、第1審原告X1本人)。

(イ) 第1審原告X2供述の検討

しかしながら、第1審原告X2は、本件訴訟において、当初は、本件株券は7500万円の本件手形債務の追加担保として差し入れたものであって、本件カードローン契約に関する担保として差し入れたものではなく、本件カードローン契約を解約した意識もない旨主張し(平成19年6月21日付け訴状訂正申立書)、第1審原告X2の記憶に基づくものであるとして、上記主張を堅持していたのである。

第1審原告X2は、それにもかかわらず、訴訟提起から約1年後の平成20年6月16日付け請求の趣旨変更申立書において、突然、本件カードローン契約の債務についての三和信用保証に対する求償債務の担保のために、本件株券を差し入れた旨主張を変遷させている。

このような合理的な理由のない主張の変遷の経過に鑑みれば、第1審原告X2の本件株券に関する供述内容は、客観的な事実と異なる記憶に基づくものというほかなく、採用できない。

(ウ) 第1審原告X1供述の検討

また、第1審原告X1は、本件手形債務の担保であるNTT株について、第1審原告X1名義の22株のうち7株が三和銀行により勝手に名義書換がされたとし、その交渉の経過で、第1審原告X2の本件株券についても勝手に名義書換がされたことが判明した旨供述する。

しかしながら、前記1(2)イの認定事実によれば、昭和62年3月31日当時、第1審原告X1は、NTT株を22株保有しており、うち15株が本件手形債務の担保として三和銀行に差し入れられ、第1審原告X1の手元に残った7株には担保権が設定されておらず、名義書換がされたという上記7株の株券の株券番号は、別紙4記載の第1審原告X1名義の15株の株券番号とは異なるのであるから、平成3年2月28日に名義書換がされたのは、担保権が設定された15株ではなく、第1審原告X1の手元に残った上記7株であったことが認められる。

ところが、上記第1審原告X1の供述内容は、以上の客観的な事実と異なる記憶に基づくものというほかなく、これ又採用できない。

カ まとめ

以上の認定判断を総合すれば、第1審原告X2は、平成3年5月17日、本件カードローン契約の解約に伴い、三和銀行から本件株券の返還を受けていることが認められ、第1審原告X2の本件株券返還請求は理由がない。

7  総括

以上によれば、本件の結論は次のとおりとなる。

(1)  第1審原告X2の本件株券引渡請求及びその代償請求(原審当時からの請求)について

第1審原告X2は、本件株券の返還を受けたものと認められるから(前記6(2))、上記請求は理由がない。

(2)  第1審被告の第1審原告らに対する本件消費貸借契約及びその連帯保証契約に基づく請求(当審反訴請求)について

本件消費貸借契約は成立し、通謀虚偽表示により無効ともいえないし(前記2)、本件和解契約1が成立したものとは認められず(前記3(2))、第1審被告の請求が信義則に反するとも、第1審被告に債務不履行があるとも認められないので、第1審被告の第1審原告ら(主たる債務者が第1審原告X1、連帯保証人が第1審原告X2)に対する請求、すなわち、本件貸金債務の残元金、利息金及び確定遅延損害金合計6518万7679円及びうち残元金6480万3783円に対する期限の利益を喪失した日の翌日である平成19年5月29日から支払済みまで約定の年14%の割合による遅延損害金の連帯支払を求める請求(本件前提事実(2)ウ(ウ))は、いずれも理由がある。

(3)  第1審被告の第1審原告X2に対する本件手形債務の請求(当審反訴請求)について

本件手形債務は、平成7年6月14日から遅滞に陥っており(前記1(2)ウ(ア)(イ))、本件和解契約1及び2の成立は認められず、期限の猶予も与えられていないが(前記3(2)、5(2))、第1審被告による平成23年8月23日までの遅延損害金の請求は権利の濫用として許されないから(前記5(3))、第1審被告の第1審原告X2に対する本件手形債務の請求は、同日時点の残元金2490万円(本件前提事実(3)ウ(ア))及びこれに対する同月24日から支払済みまで約定の年14%(本件前提事実(3)ア(ア)d)の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

第4結論

1  以上によれば、第1審原告X2の本件株券引渡請求等は理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、第1審原告X2の控訴は理由がない。また、第1審被告の当審反訴請求の結論は、上記第3の7(2)(3)のとおりである。

2  よって、第1審原告X2の控訴を棄却し、第1審被告の当審反訴請求につき、上記の趣旨のとおり、一部認容・一部棄却することとして、主文のとおり判決する。

3  なお、原判決主文第1項のうち、第1事件のうちの第1審原告X1の債務不存在確認請求を棄却した部分及び第2事件に係る第1審原告X2の債務不存在確認請求を棄却した部分は、いずれも当審における第1審原告らの訴えの取下げにより失効している。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 神山隆一 内山梨枝子)

(別紙)<省略>

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