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大阪高等裁判所 平成23年(ネ)1301号 判決 2011年9月30日

控訴人兼被控訴人(一審原告)

X1(以下「一審原告X1」という。)

X2(以下「一審原告X2」という。)

X3(以下「一審原告X3」という。)

X4(以下「一審原告X4」という。)

被控訴人兼附帯控訴人(一審原告)

X5(以下「一審原告X5」という。)

X6(以下「一審原告X6」という。)

X7(以下「一審原告X7」という。)

X8(以下「一審原告X8」という。)

X9(以下「一審原告X9」という。)

一審原告ら訴訟代理人弁護士

竹嶋健治

吉田竜一

石塚順平

控訴人兼被控訴人兼附帯被控訴人(一審被告)

Y株式会社(以下「一審被告」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

石橋達成

主文

1  一審被告の控訴に基づき、原判決中、一審被告敗訴部分を取り消す。

2  上記取消部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。

3  一審原告X1、同X2、同X3及び同X4の控訴、一審原告X5、同X6、同X7、同X8及び同X9の附帯控訴をいずれも棄却する。

4  訴訟費用は、1、2審を通じ、一審原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  一審原告X1、同X2、同X3及び同X4

(1)  原判決中、一審原告X1、同X2、同X3及び同X4の各敗訴部分を取り消す。

(2)  一審原告X1、同X2、同X3及び同X4が、一審被告に対し、それぞれ雇用契約上の地位を有することを確認する。

(3)  一審被告は、一審原告X1、同X2、同X3及び同X4に対し、平成21年11月から本判決確定に至るまで、毎月5日限り、原判決別紙1の各一審原告に対応する1月平均欄記載の各金額及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(4)  一審被告は、一審原告X1、同X2、同X3及び同X4に対し、原審認容額に加え、各250万円及びこれに対する平成21年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(5)  一審被告の控訴をいずれも棄却する。

(6)  (3)、(4)項につき仮執行宣言

2  一審原告X5、同X6、同X7、同X8及び同X9

(1)  原判決中、一審原告X5、同X6、同X7、同X8及び同X9の各敗訴部分を取り消す。

(2)  一審被告は、一審原告X5、同X6、同X7、同X8及び同X9に対し、原審認容額に加え、各250万円及びこれに対する平成21年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(3)  一審被告の控訴をいずれも棄却する。

(4)  (2)項につき仮執行宣言

3  一審被告

主文1ないし3項のとおり

第2事案の概要

1  一審原告らは、派遣会社を通じて、一審被告のa製作所姫路工場(以下「姫路工場」という。)で就労を始め、その後、一審被告が兵庫労働局の指導に従って締結した平成21年4月24日から同年9月30日までの期間雇用契約によって引き続き同日まで就労していた者であるところ、本件は、一審原告らが、一審被告に対し、上記雇用契約締結前から一審原告らと一審被告との間に黙示の雇用契約関係が成立している、仮に黙示の雇用契約が成立していなくても上記の雇用契約を期間満了時に雇止めしたこと(更新を拒絶したこと)は違法無効であり、雇用契約が存続しているとして、①一審原告らのうち、一審原告X1、同X2、同X3及び同X4(以下「一審原告X1ら4名」という。)が、一審被告に対し、雇用契約上の地位の確認と平成21年11月から本判決確定まで、毎月5日限り、原判決別紙1記載の各一審原告の平成21年1月から3月までの各平均賃金相当額の各賃金及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②一審原告らが、一審被告に対し、一審被告が(ア)偽装出向、偽装請負、派遣制限期間の超過という派遣会社を介在させた違法状態下で一審原告らを就労させ続けたこと、(イ)恣意的に平成21年3月をもって解雇(雇止め)したこと、(ウ)直接雇用下において何の理由もなしに手当の支給を打ち切ったこと、(エ)労働局に申告を行ったことの報復として、また一審原告らが労働組合に加入したことを嫌悪して、直接雇用を一度も更新することなく雇止めにしたこと、以上によって、一審原告らが精神的な苦痛を被ったとして、民法709、710条に基づき一人当たり300万円の慰謝料及びこれに対する平成21年10月1日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり、原審は、一審原告X1ら4名の雇用契約上の地位確認及び賃金請求をいずれも棄却し、一審原告らの慰謝料請求のうち、一人当たり50万円及びこれに対する平成21年10月1日から各支払済みまでの遅延損害金を求める限度で認容したところ、一審原告X1ら4名及び一審被告が各敗訴部分の取り消し等を求めてそれぞれ控訴し、その余の一審原告らが各敗訴部分の取り消しを求めて附帯控訴した事案である。

2  本件の前提事実、争点、争点に対する当事者の主張は、次のとおり補正し、次項において当事者の当審における補足的主張を付加するほかは、原判決の「第2 事案の概要」1、2(原判決3頁13行目から19頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決3頁19行目の「なお」から21行目の「本件での呼称は、」を「なお、一審原告X6を除く一審原告らが最初に姫路工場で就労する際の雇用契約の相手方は、一審原告X1、同X7、同X8及び同X4が株式会社c、一審原告X9が株式会社d、一審原告X3、同X6及び同X2が株式会社eであったが、これらの企業は順次合併等して株式会社b(以下「b社」という。)がその権利義務を承継しているので、これらの企業を含めて以下においては、」に改める。

(2)  同4頁5行目の「株式会社である」を「株式会社であり、一審被告とは資本や役員につき何らの提携関係もない」に改める。

(3)  同4頁13行目の「21日からは」の次に「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)に基づき同月20日に締結された」を加える。

(4)  同4頁17行目の「その後」から18行目の「本件派遣契約に基づき、」を削除する。

(5)  同4頁19行目の「製造業務」の次に「や倉庫管理等」を加える。

(6)  同5頁20行目から15頁25行目までの各「原告X1ら4名」とあるのをいずれも「一審原告ら」に改める。

(7)  同7頁11、12行目、15行目、21行目、同8頁3行目、7行目、11行目、19行目、23行目、同11頁22、23行目、25行目の各「原告X1及び同X4」をいずれも「一審原告X1、同X4、同X7及び同X8」に改める。

(8)  同7頁16行目の「事前面接は」から20行目までを「事前面接は、本件出向協定3条が定める一審被告の採用行為そのものである。また、一審原告らと一審被告との間における「使用従属関係」「労務給付関係」「賃金支払関係」の3つの指標で判断しても黙示の雇用契約の成立が認められる。」に改める。

(9)  同15頁1行目の「原告X1及び同X4については5回ないし6回」を「一審原告X1は6回、同X4及び同X7は各5回、同X8は4回、同X9は3回」に改める。

(10)  同15頁5行目の「原告X1及び同X4」を「一審原告X1、同X7、同X8、同X4及び同X9」に改める。

(11)  同15頁21行目の「本件期間雇用契約が」から23行目の「解するほかなく」までを「同年10月1日以降も引き続き一審被告に雇用されるとの合理的期待があったとはいえず」に改める。

3  当審における当事者の補足的主張

(争点4について)

(1) 一審原告ら

ア 一審被告の行為の違法性について

本件出向協定に基づく出向は、b社が業として行った偽装出向であるから職業安定法44条に反して違法であり、その後締結された本件業務委託契約についても、b社が一審原告らの指揮監督、労務管理等を全く行っていないことから偽装請負として違法であり、更にその後締結された本件派遣契約についても、製造業に認められた派遣可能期間を超えた違法なものである。

職業安定法44条の違反行為に対しては、1年以下の懲役または100万円以下の罰金という刑事罰が課されており、違法性が強いものであり、また、偽装請負は、労働者派遣法2条1号所定の労働者派遣に該当し、職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当する余地はないと解されているが(最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁)、本件では、偽装請負期間における一審原告らの就労状況も、職業安定法に違反している出向期間中の内容と同様であるから、偽装請負についても職業安定法違反と同程度の違法性が認められる。また、本件における偽装請負をその実質に鑑み労働者派遣であると解するとしても、常用労働代替禁止の大原則に基づく派遣可能期間の制限を潜脱している点で重大な違法性を帯び、民法90条の公序良俗に反し、少なくとも不法行為上は違法の評価を免れないと解するべきである。

そして、本件出向協定が締結された平成15年12月当初から、その実態は労働者派遣であったというべきであり、一審被告は、b社とともに偽装出向、偽装請負、労働者派遣と契約形態を巧みに変化させながら、本件是正指導がされた平成21年3月23日までの間の実に5年超の長きにわたって、違法に労働者派遣を実施してきたことは明らかであって、これらの行為が民法上の不法行為を構成するとした原判決は相当である。

イ 一審原告らの損害について

本来、労働者供給事業は、労働者の利益を損なうが故に労働者派遣法等労働関係法規を遵守する限りにおいて許容されているに過ぎないから、三面的労働関係を利用しようとする使用者は、派遣労働者に対し労働関係法規を遵守するという適正労働力利用義務を信義則上負っており、派遣労働者はそのような状態の中で就労する利益を保有しているといえるのである。しかし、本件においては、一審被告の不法行為によって、適正な賃金を受領できる地位、労働契約法16条の(類推)適用によって違法不当な解雇から守られた安定的な雇用を確保されるべき地位が侵害されたまま就労させられたことによって一審原告らは精神的な苦痛を受けたと認めることができ、これらを金銭によって慰謝するためには一審原告ら一人当たり300万円を下らず、原判決が認容した50万円というのは低きに過ぎる。

ウ 一審被告の主張に対する反論

一審被告は、一審被告自体が労働局から業務改善命令を受けた事実はないから、一審被告が本件是正指導前に業務改善命令を受けたことを重大な根拠として一審被告に不法行為責任を認めた原判決の判断は変更されるべきであると主張するが、JMIU・Y支部は、b社が姫路工場で行っている請負は偽装請負として違法である旨の指摘を一審被告に対して再三行っていたにも拘わらず、これを無視して違法派遣を継続していたのであって、労働局から直接業務改善命令を受けていないことは、一審被告の不法行為責任の成否に何ら影響しない。

一審被告は、b社との間で締結された出向契約、本件業務委託契約、本件派遣契約は違法ではなく、仮に違法であったとしても当時の労働局の見解によって進めたものであって違法性の認識を欠いていたと主張するが、厚生労働省職業安定局発行の労働者派遣事業関係業務取扱要領には、業として行われる出向は、出向目的のない違法な出向であり、職業安定法44条違反を構成すると記載されており、また、本件業務委託契約についても、姫路工場における一審原告らの就労状況が請負契約の要件を充たさないことは同工場長のBも認識していたのであり、更に労働者派遣に関する派遣期間についての労働局見解についても、厚生労働省が平成18年夏頃には派遣可能期間の算定には偽装請負の期間も通算されるとの解釈を公式見解として示していたのであるから、労働局が一審被告の主張するような見解を示したとは認めがたく、また、仮に労働局の一職員がそのような発言をしたとしても、それだけで一審被告が違法性の意識を欠いていたとしても無理からぬ状況であったとはいえず、一審被告の故意もしくは少なくとも過失責任は否定できない。

(2) 一審被告の主張

ア 一審被告の不法行為責任について

原判決は、一審被告が労働局から本件是正指導を受ける以前に受けたこともない業務改善命令を受けたことを一種のテコとして一審被告に不法行為責任を認めたが、一審被告は業務改善命令を受けたことはないから、原判決は、事実認定を誤っており取り消されるべきである。

一審被告は、平成14年に業績悪化から行ったリストラという禍根から外部会社の活用を検討し、平成15年ころからa製作所において一部業務の請負化が進められており、姫路工場においてもb社と協力しながら請負化を導入するための検討を進めていた。しかし、姫路工場では常駐管理者が育っていないままでの即時の請負化の導入は難しいとの指摘がb社からなされ、将来の請負化を目指してb社の社員に技能習得させる目的での出向によって、請負化の準備を図った方が良いとの提案を受け、これを実施することになった。b社の社員に技能習得をさせる目的での出向については、人材専門会社であるb社から、他社において出向を導入した事例が既にあるとの説明を受けた。一審被告は、業として行う在籍型出向が違法となることがあることは認識していたが、本件の出向は、職業能力開発の一環として行う場合に該当し、許されるものと理解していた。平成16年11月からb社から請負化のための常駐管理者が配置され、b社の社員において一定の技能習得を終えたと見られたことから、平成17年10月1日本件業務委託契約を締結した。しかし、b社が別の会社で行っていた業務で労働局から業務改善命令を受けたため、平成18年8月上旬に、b社から派遣への切り替え要請があり、一審被告としても、一審被告の正社員が仕事の段取り指示などに及ぶ状況は「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年労働省告示37号)に照らし、請負として不十分な面もあって、一旦労働者派遣に切り替えることとした。その際、労働者派遣法40条の2に関する派遣可能期間の起算日がいつになるかについて、岐阜・兵庫・東京の各労働局に指導を仰ぎ、その結果、自主的に派遣に切り替えた場合、実際の派遣契約日が起算日であるとの見解が示された。また、平成20年10月以降、いわゆるリーマンショックにより自動車、電機産業、半導体等を初め全産業にわたり企業収益の落ち込みや大幅な減産が拡大し、平成21年2月3日b社に対して同年3月31日付けで労働者派遣契約を解除することとしたものであって、これらの経緯からみて、一審被告の行為に何ら違法性はなく、また、仮に何らかの違法性が認められるとしても一審被告に故意過失はない。

一審原告らは、一審被告の行為が労働者派遣法や職業安定法に反する旨非難するが、仮にそのような違法が認められるとしても、そのことから直ちに民法上の不法行為を構成するとはいえない。

イ 損害について

一審原告らは、自由意思で姫路工場において就労していたのであって、一審被告は、一審原告らに対し姫路工場での就業を強いたことはなく、一審原告らは姫路工場での職場環境に満足していた。したがって、仮に一審被告の行為が違法であったとしても、一審原告らに損害はなく、また、一審被告の行為と一審原告らの損害発生との因果関係も明らかでない。

第3争点に対する判断

1  認定事実

次のとおり補正するほかは、原判決の19頁12行目から31頁6行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決19頁14行目から25頁17行目までを次のとおりに改める。

「(1)ア 一審被告は、平成14年の不況時の雇用調整に苦慮したことから、その対策のため、外部企業と業務委託契約を締結して姫路工場に外部企業の従業員を受け入れることを検討し、人材派遣事業を行っていたb社と協議をし、出向の形態から始めることになり、平成15年12月1日、b社との間において、概ね下記のとおりの本件出向協定を締結し、b社と雇用契約を締結した従業員を姫路工場に受け入れることを開始した。

第1条 本協定における出向とは、b社の社員がb社の命令によりb社に在籍したまま休職し、一審被告に在籍し、一審被告の指揮命令の下で一審被告の事業所において製造等の業務に従事することをいう。

第3条 b社が一審被告に出向させる社員名、人員数はb社、一審被告協議の上、別途定める。

第5条 出向者が一審被告において勤務するにあたっての勤務時間、休憩時間、休日、休務等の勤務条件については本協定書に定める他は、一審被告の就業規則を適用する。

第6条 出向者は、b社の定めるところにより年次有給休暇、特別休暇を取得する。

第7条 出向期間中の賃金及び賞与は、b社がb社の定める基準により出向者に支給するものとし、それにかかわる費用は別に定める負担基準により双方がそれぞれ負担する。

第8条(1) 出向者にかかわる健康保険、厚生年金保険及び雇用保険は、b社の取り扱いに従い、その保険料はb社が納付する。

(2)  出向者にかかわる労災保険は、一審被告において加入し、その保険料は一審被告の負担とする。

(3)  労災法定外補償は、b社の基準に従いb社が負担する。

第13条(1) 出向期間満了と同時に出向は終了し、b社は出向者をb社に復帰させる。

(2) 出向期間中、出向者がb社又は一審被告の定める休職(出向に伴う休職を除く)、退職又は解雇事由に該当することとなった時は、出向は当然に終了するものとし、b社は出向者をb社に復帰させ、b社の定めるところにより処理する。

イ b社は、平成16年11月、姫路工場の常駐管理者としてC(以下「C」という。)を配置した。

ウ 一審被告は、平成17年10月1日、b社との間において、本件出向協定に代えて、新たに一審被告が注文者、b社を請負人とし、雇用期間を同日から平成18年3月31日まで、ただし当事者双方のいずれからも期間満了の30日前までに書面による意思表示がない場合は、請負代金、立替金等の一定の条件を除き、同一契約内容で更に6ケ月間更新するものとし、請負業務の範囲及び内容をLL(旋盤)工程(L加工、穴加工、L3加工、平面研削、反り取り、球面研削)、研削工程(平面研削、ラップ、V研削、内面研削、L3加工、手磨き)、検査(組立)工程(洗浄、組立、検査、包装、梱包)、倉庫管理(入庫、保管、出庫、切断)とする等の請負契約(本件業務委託契約)を締結した。

エ 一審被告は、平成18年8月20日、b社から要請を受けて、b社との間において、本件業務委託契約を解消して、就業場所を姫路工場、派遣期間を同月21日から平成19年8月20日まで、基本料金1時間あたり1700円等とする本件派遣契約を締結し、その後、同年8月21日に、派遣期間を同日から平成21年8月20日までとする同様の派遣契約を締結した。

(証拠省略)

(2) 一審被告とb社との間の契約は上記のとおり変更されているが、一審原告らの姫路工場での就労状況についてみると、一審原告らに対する作業内容の指導、残業や休日出勤の指示等の指揮監督は、専ら一審被告の正社員が行っており、b社がCを採用してからは、同人が常駐管理者として工場とは別の建物で、一審原告らの出退勤の管理や給与の計算等を行っていたが、それ以外の面での指揮監督をするb社の社員はおらず、生産ラインにおいても、b社独自の事業部門はなく、一審被告の正社員と一審原告らとが混在して同じ業務に従事しており、一審原告らが使用する機材や制服、更衣室、ロッカー等は、全て一審被告が用意しており、また、一審被告が上記各契約に基づきb社に支払う基本料金は、労働者1人について1時間あたり1700円で計算されていた。

なお、b社及び一審被告は、平成16年4月から、b社に採用され姫路工場で働くことが予定されている者に対して、姫路工場の職場見学をさせていた。これは、姫路工場の職場では終始油の臭いが立ちこめていることもあって、就労して直ぐに退職する者が少なくなかったので、b社の担当者が同行して事前に見学し、就労予定者に職場の状況を確認させ、体質的に就労可能か否かを自主的に判断させることを主たる目的とするものであった。

(証拠省略)

(3) 一審原告X1は、b社の子会社の派遣社員として稼動していたところ、b社に引き抜かれ、平成16年4月15日b社の担当者と姫路工場を見学し、同月19日、b社との間で、雇用期間につき同日から同年10月18日まで、配属事業所につき姫路工場(内)b社事業所、従事する業務につきベアリング加工・組立・検査、賃金につき時給1200円(その他、通勤手当や所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)で毎月20日締切・翌月5日支払、特記事項として「会社が必要とする優秀な技術又は経験を有する者は、期間満了後正社員として採用する事もある。」等の条件で、雇用契約を締結し、締結日である同年4月19日から姫路工場で就労を開始した。なお、上記契約締結にあたり、b社や一審被告から、一審被告に出向することの説明はなく、平成17年10月1日本件業務委託契約が締結された前後においても、特にそのことについて説明はなかった。一審原告X1とb社との雇用契約は平成18年8月20日までは概ね半年ごとに更新され、同月21日、採用区分につき派遣社員、雇用期間につき同日から平成19年8月20日まで、就業場所につき姫路工場、賃金につき時給1200円、年功手当6000円(月額、以下手当の金額はいずれも月額)、セッター手当2000円、並びに所定時間外、休日及び深夜の割増あり、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用契約が締結され、平成19年8月18日、雇用期間を同月21日から平成21年8月20日までとする雇用契約が締結され、同契約においては技能手当1万円、役職手当2000円に変更され、その後平成20年1月21日から技能手当1万1000円に増額されたが、この間の就労状況は当初と目立った変化はなかった。

イ 一審原告X7は、別の派遣会社で稼働していたが、友人に紹介され、b社の事務所で面接試験を受け、担当者と姫路工場を見学し、平成16年11月19日、b社との間で、雇用期間につき同月22日から同年12月6日まで、配属事業所につき姫路工場(内)b社事業所、従事する業務につきベアリング加工・組立・検査、賃金につき時給900円(その他、通勤手当や所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)で毎月20日締切・翌月5日支払、特記事項として「会社が必要とする優秀な技術又は経験を有する者は、期間満了後正社員として採用する事もある。」等の条件で雇用契約を締結し、同年11月22日から姫路工場での就労を始めた。なお、上記契約締結にあたり、b社や一審被告から、一審被告に出向することの説明はなく、平成17年10月1日本件業務委託契約が締結された前後においても、特にそのことについて説明はなかった。一審原告X7とb社との雇用契約は、平成18年8月20日まで概ね6か月毎に更新され(平成16年12月6日から賃金が時給1200円となる。)、平成18年8月21日に、雇用期間につき同年9月30日から平成19年8月20日まで、就業場所につき姫路工場、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で雇用契約が締結され、この際従来の基本賃金に加えてリーダー手当5000円が加算され、同月20日締結された同月21日から平成21年8月20日までの雇用契約から上記手当が技能手当6000円、役職手当7000円に変更され、平成20年7月28日からは技能手当1万円、リーダー手当5000円、セッター手当2000円、フォーク手当1000円となったが、この間の就労状況は当初と比べて目立った変化はなかった。

ウ 一審原告X8は、b社から別の会社に派遣されて稼働していたが、b社と同会社との契約が終了したため姫路工場を紹介され、担当者と姫路工場を30分程度見学し、平成17年1月21日、b社との間において、配属事業所につき姫路工場(内)b社事業所、賃金につき時給1200円(その他、通勤手当や所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)で毎月20日締切・翌月5日支払、特記事項として「会社が必要とする優秀な技術又は経験を有する者は、期間満了後正社員として採用する事もある。」等の条件で同月24日から同年7月23日までの雇用契約を締結し、同年1月24日から姫路工場で就労を始めた。なお、上記契約締結にあたり、b社や一審被告から、一審被告に出向することの説明はなく、平成17年10月1日、本件業務委託契約が締結された前後においても、そのことについて特に説明はなかった。一審原告X8とb社との雇用契約は、平成18年8月20日まで概ね6か月毎に更新され、同月21日に、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、同日から平成19年8月20日までを期間とする雇用契約が締結され、その後、同月20日締結された同月21日から平成21年8月20日までの雇用契約から、従来の賃金に加えて技能手当6000円が加算され、平成20年7月28日からは技能手当1万円、フォーク手当1000円となったが、この間の就労状況は当初と比べて目立った変化はなかった。

エ 一審原告X4は、b社の求人広告を見て姫路営業所で担当者の面接を受けたほかに積み木を使った簡単なテストを受け、その約1週間後にb社の担当者から連絡があり、姫路工場を見学し、平成17年3月22日にb社との間において、雇用期間につき同日から同年4月5日まで、配属事業所につき姫路工場(内)b社事業所とし、賃金につき時給840円(その他、通勤手当や所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)で毎月20日締切・翌月5日支払、特記事項として「会社が必要とする優秀な技術又は経験を有する者は、期間満了後正社員として採用する事もある。」等の条件で雇用契約を締結し、契約締結日である同年3月22日から姫路工場で就労を始めた(同年4月6日から賃金が時給1200円となった。)。なお、上記契約締結にあたり、b社や一審被告から、一審被告に出向することの説明はなく、平成17年10月1日本件業務委託契約が締結された前後においても、特にそのことについて説明はなかった。一審原告X4とb社との雇用契約は、平成18年8月20日までは概ね6か月毎に更新され、同月21日に賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用期間につき同日から平成19年8月20日までとする雇用契約を締結し、その際、従来の賃金に加えて年功手当3000円が加算され、同月18日締結された同月21日から平成21年8月20日までの雇用契約から、上記手当が役職手当6000円に変更され、平成20年3月21日から役職手当1万円に増額されたが、この間の就労状況は当初と比べて目立った変化はなかった。

オ 一審原告X9は、別の派遣会社を通じてブラウン管の製造の仕事をしていたが、新聞の折り込み広告を見てb社に登録し、担当者から姫路工場で働かないかと言われ、工場見学しBと面談した日の夜、b社の担当者から電話があり、平成18年2月15日、b社との間において、雇用期間につき同日から同年4月20日まで、配属事業所につき姫路工場(内)b社事業所とし、賃金につき時給1200円(その他、通勤手当や所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)で毎月20日締切・翌月5日支払、特記事項として「会社が必要とする優秀な技術又は経験を有する者は、期間満了後正社員として採用する事もある。」等の条件で雇用契約を締結し、同年2月15日から姫路工場で就労し、同年4月20日、同月21日から同年10月20日までの雇用契約を締結したが、同年8月21日、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用期間につき同日から平成19年8月20日までとする雇用契約を締結し、同月20日締結された同月21日から平成21年8月20日までの雇用契約から、従来の基本賃金に加えて技能手当3000円が加算され、平成20年7月28日から技能手当が6000円に増額された。なお、平成18年4月20日に同年10月20日までの雇用契約が締結され、その契約期間中であるにも拘わらず、同年8月21日に改めて上記雇用契約が締結されたことについて、b社や一審被告から特別な説明はなく、この間の就労状況は当初と比べて目立った変化はなかった。

カ 一審原告X3は、別の派遣会社を通じて下請部品工場で就労していたが、一審原告X4から紹介され、姫路工場で働くためにはb社と契約する必要があると言われ、b社に電話して姫路営業所で面接を受けたところ、担当者から姫路工場の工場長の面接を受ける必要があると言われ、数日後担当者とともに姫路工場を見学するとともに、工場長の面接を受け、工場長は履歴書のコピーを見ながら前の派遣のときはどういう仕事をしていたか、交替勤務だけど大丈夫か等の質問を受け、平成19年8月21日、b社との間において、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用期間につき同日から平成21年8月20日までとする雇用契約を締結し、平成19年8月21日から姫路工場で就労し、平成20年8月21日からは賃金につき時給1219円、技能手当3000円が賃金に加算されたが、この間の就労状況は当初と比べて目立った変化はなかった。

キ 一審原告X6は、b社を通じて別の会社で就労していたが、その工場が閉鎖されたことから新しく姫路工場を紹介され、姫路工場を見学し、工場長から夜勤があるけど大丈夫か、こういう仕事の経験はあるのか等の質問を受けた後、平成19年9月5日、b社との間において、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用期間につき同月1日から平成21年8月20日までとする雇用契約を締結して、平成19年9月5日から姫路工場で就労し、平成20年5月21日からはセッター手当4000円が賃金に加算された。

ク 一審原告X2は、別の派遣会社を通じて医薬品工場に勤務したが退職し、1年ほど求職していたところ、職業安定所からb社を紹介してもらい、姫路駅前の営業所で担当者の面接と筆記試験を受け、平成19年9月21日、工場見学の連絡を受けて姫路工場を見学し、Cからこういう職場だけれどどうかと言われ、Bからも「自分のペースでできる仕事だし、やってもらえへんか」と言われ、同月26日、b社との間において、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で、雇用期間につき同日から平成21年8月20日までとする雇用契約を締結して、平成19年9月26日から姫路工場で就労し、平成20年9月21日からは賃金につき時給1219円、技能手当3000円が賃金に加算された。

ケ 一審原告X5は、求人情報を見て、b社の面接試験に行き、二つの会社の紹介を受け、そこから姫路工場を選んだところ、正式に契約をする1週間ほど前に姫路工場を見学し、工場長と面談し、工場での仕事の経験などを尋ねられ、平成20年4月2日にb社との間で、雇用期間につき同日から平成21年8月20日までとし、賃金につき時給1200円(所定時間外、休日及び深夜の割増あり。)、毎月20日締切・翌月5日支払等の条件で雇用契約を締結して、平成20年4月2日から姫路工場で就労した。

(証拠省略)」

(2)  同25頁18行目の「(7)」を「(4)」に、同26頁4行目の「(8)」を「(5)」に、同26頁25行目の「(9)」を「(6)」に、同27頁18行目の「(10)」を「(7)」に、同28頁10行目の「(11)」を「(8)」に、同29頁10行目の「(12)」を「(9)」に、同30頁1行目の「(13)」を「(10)」に、同30頁18行目の「(14)」を「(11)」に、同31頁1行目の「(15)」を「(12)」に、それぞれ改める。

(3)  同26頁14行目の「も判断されず、労働者派遣」を「は判断されず、労働者派遣事業」に改める。

2  争点1(一審原告らと一審被告との間の労働契約関係の成否)について

一審原告らは、一審原告らと一審被告との間に黙示の雇用契約が成立していると主張するので検討する。

雇用契約は、契約当事者間において、一方が他方に使用されて労働に従事することと、その労働への従事に対して一方が他方に賃金を支払うことを内容とする合意である。本件において、一審原告らと一審被告との間に黙示の雇用契約の成立を認めるに足りる証拠はない。かえって、上記1において原判決を補正の上引用して認定した事実によれば、①一審被告は、景気の動向に応じて人員の調整を円滑に行うため、一審被告自らが労働者を雇用することを避けて、外部企業に所属する社員を姫路工場に受け入れることを目的として、本件出向協定、本件業務委託契約、本件派遣契約を締結し、b社に雇用されている労働者を姫路工場で就労させてきたこと、上記のとおり契約形態は変化しているが、一審被告がb社に支払う対価は、基本的に労働者1人1時間当たり1700円を基準に計算されて支払われることにおいて変わりがなかったこと、②一審原告らは、姫路工場に就労を開始した時期はそれぞれ異なるが、その就労状況は、いずれも一審被告の事業所の中で一審被告の正社員とともに一審被告の指揮命令を受けて一審被告の業務に従事するというものであったこと、③一審原告らは、姫路工場で就労するためには、一審被告とは独立した法人であるb社との間で雇用契約を締結する必要があることを認識し、b社の事務所において担当者による面接試験を受けて採用され、b社との間で雇用契約を締結し、b社が締結した各雇用契約書に定められた賃金や手当を各一審原告に支払っていたこと、④他方、一審被告は、兵庫労働局の指導に従って平成21年4月23日に各一審原告らとの間において本件期間雇用契約を締結するまで、一審被告が各一審原告と雇用契約を締結した事実がなかったことが認められ、これらによれば、一審原告らは、b社との雇用契約に基づき就労していたというべきである。

ところで、一審原告らは、一審原告らがb社に正式に採用される前に、一審被告の担当者が面接試験を行うなどして実質的に一審被告がその採用不採用を決定しているとして、一審原告らと一審被告との間においても黙示の雇用契約関係が成立していると認めるべきである旨主張する。確かに原判決を補正の上引用して認定した事実によれば、一審被告及びb社の担当者は、一審原告らに対し、b社と正式に雇用契約を締結して姫路工場に就労する前に、姫路工場の職場見学をすることを勧め、一審原告らが姫路工場を訪れた際に、Bらが工場の説明に加えて一審原告らと面談し、その際に、一審原告らの職務経験や就労の意思に関する質問もすることがあったことが認められるが(これに反する証拠(省略)は、書証(省略)に照らして採用することができない。)、姫路工場がベアリング洗浄のための油の臭いで充満する職場であることや就労者が金属アレルギーであったことが原因で勤務して1日ないし数日で退職する者が少なからずいたことは、JMIU・Y支部執行委員長のDも原審において認める証言をしているところであり、加えて上記1において原判決を補正の上引用して認定した事実によれば、一審原告らは、姫路工場を訪問する前にb社に採用されることが内定していたこと、b社を通じた工場見学者について一審被告から受け入れを拒否した事実はないこと(人証省略)が認められるから、これらの事実に照らすと、b社が一審原告らと正式な雇用契約書を作成する前に姫路工場を見学させる目的は、主として一審原告らに就労する職場を見せてその体質等に合うか否かを判断させることにあって、労働者派遣法26条7項にある派遣労働者を特定したり、一審被告が実質的に一審原告らの採用不採用を決めたりすることを目的として行われていたものとは認められない。したがって、これを前提とする一審原告らの主張は理由がない。

次に、一審原告らは、一審被告がb社に支払うべき対価(業務委託料)について労働者の人数とその時給を基準に定めており、その額からb社の諸経費及び利益を差し引いた額をb社が一審原告らに支払う賃金額としているとして、実質的に一審被告が一審原告らに支払っている報酬額を決定していると主張する。上記1において原判決を補正の上引用して認定した事実によれば、一審被告は、b社との間で、同社に支払う対価(業務委託料)につき派遣される労働者一人当たりの時給を基準として決めていたものであることが認められるが、対価(業務委託料)の決め方として不合理とはいい難く、b社は、このように決められ支払われた対価(業務委託料)の中から一審原告らに対する賃金額を決め、これを支払っていたものであり、特に一審原告X4と同X7については、b社に採用された当初はそれぞれ時給840円、900円であって、一審被告がb社に支払っていた対価(業務委託料)の時間単価よりもかなり低額であったものであり、b社が独自の判断で一審原告らに対する賃金額を決定していたことの証左になるのであり、一審原告らの主張は理由がない。

また、一審原告らは、一審原告X1、同X2、同X3、同X4、同X6、同X7、同X8及び同X9に対し、3000円から1万8000円の各種手当金を一審被告が負担していることから、賃金支払関係があり、一審原告らと一審被告との間に雇用契約の成立を認めるべきと主張しているが、上記1において原判決を補正の上引用して認定した事実に証拠(省略)をあわせれば、これらの手当についても上記一審原告らに対する支払は賃金と併せてb社が行っているのであって、b社と一審被告との間の交渉により実質的には対価(業務委託料)の一要素として付加するかどうかが決められているものと認められるのであるから、一審原告らに各種手当てが支払われていたことによって上記認定は左右されない。

更に、一審原告らは、一審原告X1、同X7、同X8及び同X4については、b社との雇用契約の当初、本件出向協定に基づき姫路工場で就労していたが、本件出向協定によれば、上記一審原告らは、b社の命令により、b社に在籍のまま休職し、一審被告に在籍する旨記載されているから、上記一審原告らと一審被告との間にも雇用契約が成立している旨主張する。しかしながら、後記5において説示するとおり、本件出向協定に基づく上記一審原告らとb社及び一審被告との関係は、実質的には労働者派遣契約であり、当時、派遣が許容されていた対象業務に製造業が含まれていなかったため、出向形態が利用され、本件出向協定が締結されたに過ぎないと見るべきであるから、本件出向協定上、一審原告らが一審被告に在籍する旨の記載があることをもって一審原告らと一審被告との間に黙示の雇用契約が成立していることの根拠とすることはできず、この点に関する一審原告らの主張は理由がない。

なお、一審原告らは、b社と一審被告との間の本件出向協定や本件業務委託契約、本件派遣契約は、いずれも職業安定法44条、労働者派遣法40条の2第1項に違反している旨主張するところ、後記5のとおり本件の各契約関係等について職業安定法44条違反があるとは認められないものの、労働者派遣法違反は否定できないが、そうであるからといって、一審原告らとb社との雇用契約が無効となるとはいえないし、一審原告らと一審被告との間に雇用契約が成立しているともいえないから、この点に関する一審原告らの主張は理由がない。また、一審被告が、一審原告らと締結した本件期間雇用契約を雇止めしたこと(更新を拒絶したこと)が違法無効とはいえないことは、後記3において原判決を引用して認定説示するとおりである。

以上によれば、一審原告らと一審被告との間において、黙示の雇用契約が成立していると認めることはできず、したがって、一審原告X1、同X2、同X3及び同X4の各雇用契約関係上の地位確認請求はいずれも理由がない。

3  争点2(解雇(更新拒絶)の無効)について

当裁判所も、一審原告らと一審被告との間に黙示の雇用契約が成立することを前提とする一審原告らの解雇無効の主張、一審原告らと一審被告との本件期間雇用契約を雇止めしたこと(更新を拒絶したこと)が違法無効であるとの一審原告らの主張は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の39頁10行目から41頁末行までに記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決39頁10行目の「上記3説示のとおり」を「上記2で説示したとおり」に改める。

(2)  同39頁10行目の「原告X1ら4名」を「一審原告ら」に改め、以下同様に改める。

4  争点3(賃金請求権の有無)について

当裁判所も一審原告X1ら4名の賃金請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決42頁2行目から4行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

5  争点4(一審被告の不法行為)について

(1)  一審被告が恣意的に平成21年3月をもって解雇(雇止め)する旨の通知をしたこと、直接雇用下において何の理由もなしに手当の支給を打ち切ったこと、兵庫労働局に申告を行ったことの報復として直接雇用を一度も更新することなく雇止めにしたことが違法であるとの主張について

当裁判所も、一審原告らの主張はいずれも理由がないと判断する。その理由は、原判決42頁6行目から43頁5行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。

(2)  偽装出向、偽装請負、派遣制限期間の超過という派遣会社を介在させた違法状態下で就労させ続けたことが違法であるとの主張について

ア まず、一審原告らは、一審被告が本件出向協定に基づき労働者を姫路工場に就労させていたことは職業安定法44条に違反するし、その後の本件業務委託契約による偽装請負についても、それ以前の就労状況と同様であったのであるから、職業安定法違反と同程度の違法性が認められるなどとして上記行為につき不法行為が成立する旨主張するので検討する。

原判決を補正の上引用して認定した事実によれば、一審被告は、平成18年8月20日に本件派遣契約を締結するまでに、b社との間において平成15年12月1日に本件出向協定、平成17年10月1日に本件業務委託契約をそれぞれ締結してb社の社員を姫路工場に受け入れて就業させており、一審原告らのうち、本件派遣契約が締結される前からb社と契約していた一審原告X1、同X7、同X8、同X4及び同X9の各雇用契約書記載の配属事業所は、いずれも姫路工場(内)b社事業所とされていたが、姫路工場内にはb社の社員として平成16年11月からCが常駐していたものの、一審原告らの出退勤の管理や給与の計算を行っていたに過ぎず、姫路工場内に製品の製造その他の部門におけるb社の事業所は存在しないだけでなく、請負の実施に向けてそれにふさわしいb社の事業部門を立ち上げようとした形跡もなく、上記一審原告らは、姫路工場に採用されてから一審被告の正社員とともに一審被告の指揮監督を受けて一審被告の製造等の業務に従事し、その就労実態は、一審被告とb社との間の契約が労働者派遣法に基づく契約に変更になる前後で何らの変化はなかったことが認められる。そして、このような一連の経過及び就業状況によれば、本件出向協定及び本件業務委託契約に基づく一審原告らの就労は、自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて当該他人のために労働に従事させ、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まない(労働者派遣法2条1号)ものであり、労働者派遣に当たるというべきである。

もっとも、本件出向協定では、b社の社員は、b社を休職し、一審被告に在籍して一審被告の指揮命令の下で一審被告の事業所において一審被告の業務に従事する旨規定されている。しかしながら、原判決を補正の上認定した事実によれば、①一審原告らのうち、本件出向協定が締結されている期間中にb社に雇用された一審原告X1、同X7、同X8及び同X4の各雇用契約書の就労場所は、上記のとおり姫路工場(内)b社事業所となっており、上記一審原告らが一審被告に在籍する旨の記載はなく、上記一審原告らにそれに関する説明もなかったこと、②上記一審原告らは上記雇用契約以外に一審被告と契約した事実はないこと、③上記一審原告らは、上記のとおり姫路工場で一審被告の指揮命令によって就労していたが、本件出向協定では、労働の対価となる賃金、賞与は、b社の基準に従ってb社が支払うことが規定され、健康・厚生年金・雇用各保険もb社の基準に従って定められており、実際にも規定のとおり実行されていること、④これに対し、本件出向協定によると、一審被告には、勤務時間や休憩時間等の勤務条件を定める権限や労災保険の責任を負担することが定められているが、これらは、派遣社員の就労場所が一審被告の工場で一審被告の指揮命令下で就労するために必要な事項であって、その実態を労働者派遣と見ることの妨げとはならないこと、⑤一審被告とb社との契約が、本件出向協定から本件業務委託契約に切り替わった時期において、上記一審原告らの就労状況に何らかの変化があったり、b社や一審被告から何らかの説明があったり、上記一審原告らとb社との雇用契約を変更したりした事実はないことが認められるから、これらの事実に照らし、当時、製造業が労働者派遣の対象事業として許容されていなかったため、出向形態が利用され本件出向協定が締結されたものに過ぎず、上記一審原告らとb社及び一審被告との関係は、実質的には労働者派遣に当たるものと認めるのが相当である。

したがって、一審被告とb社との間の本件出向協定、本件業務委託契約に基づいてb社の労働者である一審原告らを姫路工場に受け入れていたことは、労働者派遣に当たるというべきであるから、職業安定法44条に違反するとは認められず、一審原告らの上記主張を採用することができない。

イ 次に、一審原告らは、本件出向協定がされた平成15年12月当初から本件是正指導がされた平成21年3月23日までの間、一審被告はb社とともに、偽装出向、偽装請負、労働者派遣と契約形態を巧みに変化させながら、5年超の長きにわたって違法に労働者派遣を受け入れてきたものであり、明らかに労働者派遣法に違反し、この労働者派遣受入行為は不法行為に当たる旨主張する。

確かに、原判決を補正の上引用して認定した事実によると、一審被告は、b社との間で、平成15年12月1日に本件出向協定を締結し、平成17年10月1日に本件業務委託契約を締結し、実質的にはb社から労働者である一審原告らの派遣を受け、平成18年8月20日にはb社との間で本件派遣契約を締結し、当初から起算すると期間制限を超えた労働者派遣を受け、結局、本件是正指導がなされた平成21年3月23日までの5年超の期間にわたり労働者派遣法違反による労働者派遣受入行為を継続していたことが認められる。

しかしながら、労働者派遣法は、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講ずるとともに、派遣労働者の就業に関する条件の整備を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的として制定された行政上の取締法規であって、同法4条の規定する労働者派遣を行うことのできる事業の範囲や同法40条の2が規定する派遣可能期間等についてどのようにするかは、我が国で行われてきた長期雇用システムと、企業の労働力調整の必要に基づく労働者派遣とをいかに調整するかという、その時々の経済情勢や社会労働政策にかかわる行政上の問題であると理解される上、労働者派遣法によって保護される利益は、基本的に派遣労働に関する雇用秩序であり、それを通じて、個々の派遣労働者の労働条件が保護されることがあるとしても、労働者派遣法は、派遣労働者と派遣先企業との労働契約の成立を保障したり、派遣関係下で定められている労働条件(一審原告らの労働条件は、労働基準法や最低賃金法に違反しているとは認められない。)を超えて個々の派遣労働者の利益を保護しようとしたりするものではないと解される上、少なくとも労働者派遣法に反して労働者派遣を受け入れること自体については、労働者派遣法は罰則を定めておらず、また、社会的にみると、労働者派遣は、企業にとって比較的有利な条件で労働力を得ることを可能にする反面、労働者に対して就労の場を提供する機能を果たしていることも軽視できないことからすると、非許容業務でないのに派遣労働者を受け入れ、許容期間を超えて派遣労働者を受け入れるという労働者派遣法違反の事実があったからといって、直ちに不法行為上の違法があるとはいい難く、他にこの違法性を肯定するに足りる事情は認められない。

したがって、一審原告らのこの点に関する上記主張も採用することができない。

(3)  以上によれば、一審原告らの不法行為による損害賠償請求はいずれも理由がない。

第4結論

よって、一審原告らの請求はいずれも理由がなく、これらを棄却すべきところ、これと異なる原判決中の一審原告らの損害賠償請求を一部認容した部分は相当でないから、一審被告の控訴に基づき、これを取り消して、一審原告らの同請求を棄却し、原判決のその余の部分は相当であり、一審原告X1ら4名の控訴及び一審原告X5、同X6、同X7、同X8及び同X9の附帯控訴はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂井満 裁判官 田中義則 裁判官 渡邊雅道)

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