大阪高等裁判所 平成23年(ネ)1365号 判決 2011年8月26日
控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)
甲野花子
同訴訟代理人弁護士
岡田京一
吉村彩理詩
被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人松男」という。)
乙山松男
同法定代理人親権者父
乙山竹男
同法定代理人親権者母
乙山梅子
被控訴人(以下「被控訴人竹男」という。)
乙山竹男
被控訴人(以下「被控訴人梅子」という。)
乙山梅子
上記3名訴訟代理人弁護士
榮川和広
主文
1 本件控訴に基づき,原判決中被控訴人松男に関する部分を次のとおり変更する。
(1)被控訴人松男は,控訴人に対し,金269万7519円及びこれに対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人の被控訴人松男に対するその余の請求を棄却する。
2 本件控訴のうち,被控訴人竹男及び被控訴人梅子に対する部分をいずれも棄却する。
3 被控訴人松男の本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審ともこれを3分し,その1を被控訴人松男の,その余を控訴人の各負担とする。
5 この判決は,主文第1項(1)につき仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人(本件控訴)
(1)原判決を次のとおり変更する。
(2)被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して700万円及びこれに対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被控訴人松男(本件附帯控訴)
(1)原判決中,被控訴人松男に関する部分を次のとおり変更する。
(2)被控訴人松男は,控訴人に対し,49万3730円及びこれに対する平成18年11月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人の被控訴人松男に対するその余の請求を棄却する。
第2 事案の概要
1 事案の大要
(1)事案の骨子
本件は,歩行者である控訴人が被控訴人松男の運転する足踏み式自転車(以下,足踏み式自転車を「自転車」,同被控訴人運転の上記自転車を「本件自転車」という。)に衝突され,負傷した事故(以下「本件事故」という。)に関する訴訟である。
控訴人は,被控訴人松男に対しては,本件事故が被控訴人松男の自転車運転上の過失によって発生したものであるとして,民法709条に基づき,同被控訴人の両親である被控訴人竹男及び同梅子(以下,両名を併せて「被控訴人両親」という。)に対しては,いずれも自転車の安全運転に関する被控訴人松男に対する指導監督義務を怠っており,本件事故はこの指導監督義務違反と因果関係があるとして,民法709条に基づき,本件事故により控訴人が被った損害(人損及び物損)に関し,被控訴人らが連帯して損害賠償金902万6711円の内金700万円,及びそれに対する本件事故の発生日である平成18年11月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による各遅延損害金を支払うことを求めた。
(2)訴訟の経過
原審で,被控訴人らは,当初,控訴人に対し,本件事故に基づく被控訴人松男の損害賠償債務が上記第1の2(2)の金額を超えて存在せず,被控訴人両親の損害賠償債務が存在しないことを求める旨の債務不存在確認請求に係る訴えを提起していた(京都地方裁判所平成20年(ワ)第3633号)が,控訴人が被控訴人らに対する反訴請求として本件訴訟を提起したことに伴い,これを取り下げた。
原判決は,被控訴人松男について責任能力を認め,民法709条に基づく不法行為責任を認めたが,被控訴人両親については,上記(1)の指導監督義務は認められないと判断した。そして,原判決は,控訴人の請求のうち,被控訴人松男に対する部分については,98万7330円及びこれに対する遅延損害金の支払を命ずる限度で請求を認容し,その余の請求を棄却し,被控訴人両親に対する部分は,いずれも請求を棄却した。
そこで,原判決を不服として,控訴人が本件控訴を,被控訴人松男が本件附帯控訴を各提起した。
2 前提となる事実
本訴の争点を判断するのに前提となる事実は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要等」2「前提となる事実」(2頁14行目から30行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(1)原判決2頁23行目「反訴原告は,本件事故当時,85歳であり」を「控訴人(大正10年11月*日生)は,本件事故当時85歳であり」と改める。
(2)原判決2頁25行目を「被控訴人松男(平成4年6月*日生)は,本件事故当時14歳(中学2年生)であった。」と改める。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
(1)原判決の引用等
争点(①損害の額,②被控訴人両親の責任原因)及びこれに対する当事者の主張は,次の(2)のとおり原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要等」3「争点及び争点に関する当事者の主張の概要」(1)及び(2)(原判決2頁34行目から5頁21行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
(2)原判決の補正
ア 控訴人主張の損害額関係
原判決3頁23ないし35行目(後遺障害逸失利益)を次のとおり改める。
「(ア) 控訴人は,本件事故によって胸椎及び腰椎の圧迫骨折を来たし,その結果,胸椎及び腰椎にそれぞれ自動車損害賠償保障法施行令別表第二後遺障害等級(以下「後遺障害等級」という。)12級相当の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に該当する後遺障害を残したから,後遺障害は併合11級である。
仮に,上記圧迫骨折がなかったとしても,控訴人の年齢,頸椎・腰椎が退行変性していたことに照らせば,本件事故により急激かつ強力な衝撃が加わったことにより,少なくとも頸椎及び腰椎に頑固な神経症状が残ったと解されるから,後遺障害は同じく併合11級である。
(イ) この他,控訴人については,頸椎捻挫に関する頭部,上肢のしびれないし痛み(強い頭痛,不眠,頸部から左腕にかけての痛みやしびれ等の症状が現在に至るまで継続し,後頭部の痛みのために頸部が支えきれず,上体が斜めになっている)及び腰部,下肢のしびれないし痛みが認められるべきである。
なお,控訴人は,本件事故に遭うまでは,歩行に障害がなく,単身で生活が可能であり,長男甲野太郎(以下「太郎」という。)や孫の世話をすることも可能であったから,これら全身のしびれないし痛みは,既往の症状によるものではない。
(ウ) 以上(ア)及び(イ)に,原判決も認めた左胸部打撲及び両下腿打撲をも勘案すれば,本件事故に起因する控訴人の後遺障害は,後遺障害等級11級を下回るものではない。そして,症状固定日は,平成19年12月31日と認めるべきである。また,控訴人の基礎収入は,上記ウの343万2500円,労働能力喪失率は20%であり,控訴人は本件事故当時85歳であったから,就労可能年数は3年(ライプニッツ係数2.723)である。
(エ) したがって,後遺障害逸失利益は,下記のとおり186万9340円となる。
343万2500円╳0.2╳2.723=186万9340円」
イ 被控訴人ら主張の損害額関係
(ア)原判決4頁19・20行目(通院交通費)を次のとおり改める。
「イ 通院交通費 0円
損害は生じていない。」
(イ)原判決4頁26・27行目(傷害慰謝料)を「控訴人の通院期間は2か月を超えるものではなく,その他の事情を勘案しても,44万円を上回ることはない。」と改める。
(ウ)原判決4頁34行目(損害額合計)の「50万5330円」を「49万3730円」と改める。
第3 当裁判所の判断
1 本件事故の態様及び被控訴人らの責任について
(1)認定事実
証拠(乙29,32,控訴人本人[以上いずれも一部])及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。上記証拠のうち,下記認定に反する部分は,にわかに採用できない。
ア 本件事故現場は,車両通行が南方向の一方通行に指定されている南北通りである堺町通(以下「本件道路」という。)の東側部分である。本件道路は歩道がなく,幅員約3.6メートルの車道の両側に,幅員約1.2ないし1.4メートルの路側帯が設置された幅員約6ないし6.2メートルの道路である。
イ 控訴人(85歳)は,平成18年11月24日午後6時40分ころ,長女である甲野葉子(以下「葉子」という。)に食材を渡すために,肩書住所地のマンションから本件道路に出た本件事故現場で,食材を入れたビニール袋を持って,本件道路東側の路側帯部分に立っていた(乙29:右上番号47,48頁)。
ウ 被控訴人松男(中学2年生)は,平成18年11月24日午後6時40分ころ,塾に向かうために本件自転車で自宅を出て,本件道路の左(東)側の路側帯部分を北(夷川通方向)から南(二条通方向)に向かって走行していた。
なお,本件自転車には,前輪に接触させ,その回転で点灯する形式の前照灯が設置されていたが,被控訴人松男は,故障していて前照灯が点灯していなかったと供述する。そして,本件事故当日の午後7時2分から7時35分まで実施された実況見分(乙29:右上番号46頁)によれば,上記前照灯は前輪とは接触していない状態であった。
エ 被控訴人松男は,本件道路を通行する際,道路の右(西)側を見ながら本件自転車を走行させていた。特に,被控訴人松男は,本件事故現場手前では,約10メートルにわたり,右側のマンションや店舗の方を脇見しながら本件自転車を運転していた。
オ こうして,被控訴人松男は,本件道路の前方に対する注視・確認を怠り,終始右側を脇見運転しながら,約10メートルにわたり路側帯内を本件自転車で走行し,進路前方を全く見ていなかったため,本件事故現場(路側帯内)に立っていた控訴人に後ろから衝突した(乙29:右上番号47,48頁)。
そして,被控訴人松男は,控訴人に衝突して初めて,控訴人が上記地点に佇立していたことが分かった。また,控訴人も,本件自転車に追突されるまでは,本件自転車の存在に全く気付いていなかった。
カ 控訴人は,上記オの衝突の結果,路上に転倒した。
(2)前記オ前段認定の補足説明
ア 被控訴人らの主張
被控訴人らは,「被控訴人松男は,本件事故直前,本件道路の車道内の左(東)側を,北(夷川通方向)から南(二条通方向)に向かって進行していたのであり,控訴人と衝突した地点も,路側帯内ではなく路側帯の外側の車道内である(乙29:右上番号56,57頁)。」と主張する。
イ 検討
(ア)しかし,被控訴人松男は,平成18年11月24日午後7時2分から午後7時35分(本件事故直後)に実施された実況見分では,警察官に対し,本件事故直前,本件自転車に乗車して,本件道路東側の路側帯内を南に向かい進行していたこと,控訴人と衝突した地点も,本件道路の路側帯内であると指示説明していた(乙29:右上番号46ないし49頁)。
ところが,被控訴人松男は,平成20年11月9日に実施された実況見分では,警察官に対し,本件事故直前,本件自転車に乗車して,本件道路東側の路側帯外側の車道内を進行していたこと,控訴人と衝突した地点も,本件道路の路側帯外側の車道内であると,その指示説明を変更するに至った(乙29:右上番号55ないし62頁)。
他方,控訴人は,警察官及び検察官に対し,本件道路東側の路側帯内を南に向かって立っていたところ,後ろから,被控訴人松男運転の本件自転車に追突されたと供述している(乙29:控訴人の司法警察員及び検察官に対する供述調書)。
(イ)以上の事実に照らせば,被控訴人松男は,本件事故直前,本件道路東側の路側帯内を本件自転車で南に向かって進行し,本件道路東側の路側帯内で立っていた控訴人に対し,後ろから本件自転車で追突したのに,控訴人との示談交渉が難航し,控訴人が被害感情を悪化させ,警察官に,本件事故を人身事故として扱い,被控訴人松男に厳重処罰を求めると申し出たため(乙29),本件事故の責任を少しでも軽くするために,本件事故直後の指示説明を覆し,本件事故直前,本件道路東側の路側帯外側の車道内を進行していたと,虚偽の主張をするに至ったものと認める(乙29:右上番号3頁の(5)参照)。
(3)被控訴人松男の重過失
ア 被控訴人松男の常軌を逸する無謀運転
道路交通法17条の2,同法2条1項11号は,「自転車は,著しく歩行者の通行を妨げることとなる場合を除き,路側帯を通行することができる。」(17条の2第1項),「前項の場合において,自転車は,歩行者の通行を妨げないような速度と方法で進行しなければならない。」(17条の2第2項)と規定している。
ところが,被控訴人松男は,前記(1)のとおり,本件道路の路側帯内を本件自転車で走行するに際し,進路前方を全く見ず終始右側を脇見運転しながら約10メートルにわたり進行し,控訴人に衝突して初めて控訴人が路側帯内に立っていたことに気付いたのであるから,被控訴人松男の常軌を逸した無謀運転ぶりは際だっている。
被控訴人松男は,本件事故当時,中学2年生であった。中学2年生にもなれば,路側帯内で上記のような常軌を逸した自転車の無謀運転をすれば,歩行者に衝突して傷害を負わせるおそれがあることや,そのような無謀運転は絶対にすべきではないことは,当然分かっていたはずである。
イ 控訴人は85歳の老人であった
控訴人は,本件事故当時85歳の老人であった。高齢者が自転車に追突されて転倒した場合,若者には生じないような身体の異変が起こることは,我々が常日頃から見聞するところである。
それゆえ,自転車の運転者は,自転車で道路側端を通行する場合,前方に高齢者がいたら,高齢者を追い越すに際し,高齢者に衝突して転倒させないように,あるいは,衝突しなくとも,高齢者が驚いて転倒するような事態を避けるため,速度を落とし細心の注意を払って自転車を運転すべきものである。
このようなことは,中学2年生になっていた被控訴人松男も,当然承知していたことである。ところが,被控訴人松男は,前記(1)のとおり,本件道路の路側帯内を本件自転車で走行するに際し,進路前方を全く見ず終始右側を脇見運転しながら約10メートルにわたり進行し,控訴人に衝突して初めて控訴人が立っていたことに気付いたのであるから,この点からも,被控訴人松男の常軌を逸した無謀運転ぶりは際だっていたといえる。
ウ まとめ
以上の認定判断によれば,被控訴人松男は,歩道がなく路側帯のみが設置された本件道路の路側帯内を自転車で進行する場合は,進路前方を注視し,歩行者の有無及びその安全を確認しながら進行すべき注意義務があるのに,これを怠り,終始右側を脇見しながら約10メートルにわたり本件自転車を運転し,路側帯内で佇立していた控訴人に衝突するまで気付かなかったのであり,しかも,被害者である控訴人は,自転車運転者が道路側端を通行する場合に,その動向に最大の注意を払い,その安全を脅かさないように慎重な運転を求められている高齢者(本件事故当時85歳)であったのだから,被控訴人松男には本件事故の発生について重大な過失があった。
なお,京都府上京警察署長も,被控訴人松男が惹起した本件事故について,重過失傷害(平成18年法律第36号による改正後の刑法211条1項後段)で京都地方検察庁に送致している。
エ 無灯火での本件自転車運転について
被控訴人松男は,無灯火で本件自転車を運転していたが,本件事故は,日没後2時間とは経過していない午後6時40分ころという時間帯に発生した。そして,本件事故現場は,京都市内の市街地にあって,控訴人の居住するマンションのすぐ前付近で,付近には街灯等の照明もあった(甲31の2:1頁上,乙29:右上番号70頁)。
そうすると,被控訴人松男が無灯火で本件自転車を運転したことは,本件事故の発生と相当因果関係がある過失とは認められない。
(4)被控訴人らの責任について
ア 被控訴人松男の責任について
証拠(甲39,40,乙29:控訴人及び被控訴人松男の各司法警察員及び検察官に対する供述調書)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故当時,被控訴人松男は中学2年生(14歳)であり,控訴人は,被控訴人松男の体が大きいので,被控訴人松男を大学生と間違えた程であるところ,被控訴人松男は,その1年数か月後にR高等学校に進学しており,心身ともに平均以上の成長を見せていたものであることが認められる。
したがって,被控訴人松男については,民事上の責任能力が優に認められる。
イ 被控訴人両親の責任について
(ア)一般論
原判決8頁4行目から同12行目の「解される」までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(イ)本件への適用
本件事故は,前記(3)で認定判断したとおり,被控訴人松男の重大な過失によるものではあるが,所詮は,被控訴人松男が,本件事故当時(塾に行く途中),非常に危険で無謀な自転車の運転方法をしていたというに留まる。
そして,被控訴人両親から見て,本件事故当時,被控訴人松男が,①社会通念上許されない程度の危険行為を行っていることを知り,又は容易に知ることができたことや,②他人に損害を負わせる違法行為を行ったことを知り,そのような行為を繰り返すおそれが予想可能であることについて,控訴人は,具体的な主張,立証をしていない。
(ウ)まとめ
したがって,被控訴人両親について,被控訴人松男の自転車運転に関する危険防止のための具体的な指導監督義務を認めることができないから,本件事故の発生について,被控訴人両親の責任は認められない。
2 控訴人の治療状況,身体状況について
前記前提事実,証拠(<証拠等略>)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。乙32ないし35,控訴人本人中,同認定に反する部分は,採用できない。
(1)第二赤十字病院での受診等
ア 控訴人は,本件事故直後に救急車による搬送を断って,自らタクシーに乗車して,従前から診察を受けていた京都第二赤十字病院(以下「第二赤十字病院」という。)にまで行き,同病院の救命センターで受診した。
控訴人は,左半身及び左顔面を打撲し,同センター形成外科で顔面その他について診察を受けるとともに,胸部打撲箇所のレントゲン検査をしてもらったが,骨折等の異常は認められなかった。もっとも,同センターの医師は,控訴人の訴える痛みをも勘案し,左肋骨骨折の疑い,顔面打撲傷と診断した(甲4の2)。
また,控訴人は,頭部を打撲した可能性もあることから,同病院の医師から,「頭部外傷後の注意」との表題で,注意すべき事項や,症状が記載された文書(乙25)の交付を受けた。
イ 控訴人は,平成18年11月26日に再び上記救命センターを受診し,形成外科では骨盤骨折の疑い,左上腕骨骨折の疑いの診断(甲4の2)を,整形外科では,左上腕打撲傷,腰部打撲傷,骨盤骨折の疑い,左上腕骨骨折の疑いとの診断(甲8の2)を受け,骨盤についてレントゲン撮影(乙4の1・2)を受けた。また,同月30日には頸椎のレントゲン撮影(乙7の1~4)が行われたが,特に骨折部位は認められなかった。
なお,控訴人は,左半身全部,胸部,右足腰の痛みを訴えていたが,整形外科の医師から,「日にち薬」であると言われたことから,安静にして回復を待つしかないと考えるに至った。
ウ 第二赤十字病院のA医師は,上記ア及びイのレントゲン撮影,診断等を踏まえ,平成19年10月1日付けで,控訴人について,頸椎捻挫,胸部打撲傷,腰部打撲傷,左上腕打撲傷,両下腿打撲の各傷害の診断書(甲9)を作成した。
エ 控訴人は,その後も身体左側,顔,腕,側胸,腰,脚の痛みが続くとして,第二赤十字病院整形外科のほか,従来から定期的に通院していた同病院内科をも受診し,内科では漢方の処方を受けている。
オ なお,控訴人は,平成18年12月18日,左目奧の痛みを訴えて,眼科を受診している。そして,上記アのとおり頭部打撲の可能性を指摘されていたことから,同月19日,脳神経外科でCT撮影を行った。また,控訴人は,本件事故直後から尿失禁症状があると訴えていたが,平成19年4月27日,泌尿器科を受診し,尿失禁症の診断を受けた(甲22の3)。
カ 控訴人については,第二赤十字病院のB医師によって,平成19年9月11日付けで後遺障害診断書(甲6)が作成された。同診断書によれば,控訴人は,左顔面打撲,左胸部打撲,左顔面皮下血腫を傷病名,自覚症状として顔面の痛み,症状固定日を前同日であると診断されている。なお,上記B医師は,上記左顔面皮下血腫については,頬の弾力性が弱く少し硬くなっていること,控訴人が左頬部が「ひりひりする。」と訴えていることから,そのように診断したものである。
また,控訴人については,上記A医師によって,平成19年10月1日付けで診断書(甲9)が作成された。同医師は,同診断書の中で,控訴人について,頸椎捻挫,胸部打撲傷,腰部打撲傷,左上腕打撲傷,両下腿打撲を傷病名とし,レントゲン上明らかな骨折を認めず,既往症及び後遺障害はないとの診断をしている。
キ 本件事故後,上記平成19年9月11日の症状固定日までの控訴人の第二赤十字病院の内科を除く各科における実通院日数は,17日(控訴人の平成22年12月17日付け第6準備書面末尾の通院日数参照)である。また,控訴人は,これとは別に,少なくとも5日(平成19年1月19日,同年3月6日,同年4月13日,同年5月11日及び同年6月25日)は,内科を受診したうえで,漢方を含む薬剤の処方を受けている。
ク なお,控訴人は,本件事故以前にも第二赤十字病院で診察を受けていたところ,平成17年12月9日,腰椎のレントゲン撮影を受けた(乙3の1・2)結果,変形性腰椎症,胸椎圧迫骨折の診断を受けている(甲8の2)。
(2)武田クリニックでの受診等
ア 控訴人は,上記(1)ウのとおり診断を受けた後も,同オのとおり経過を見ていたが,なお痛みが治まらないことから,リハビリのできる病院を希望し,葉子の勧めもあって,平成19年6月26日,柳馬場武田クリニック(以下「武田クリニック」という。)を受診し,両坐骨神経痛,間歇性跛行との診断を受けた(乙2の2)。
イ その後,控訴人は,平成19年6月30日,頸椎のレントゲン写真(乙5の1・2)を撮影してもらい,同日腰椎変形性脊柱症の診断を受けた。なお,武田クリニックのカルテ(乙2の2)には,第1腰椎及び第3腰椎の異常を確認したとの記載がされている。
ウ 控訴人は,平成19年9月25日付けで,両坐骨神経痛,変形性腰椎症の診断を受けた(甲25)。
エ 控訴人は,平成19年6月から平成21年4月まで,武田クリニックにおいて,治療とリハビリテーションを継続したが,控訴人は,その間,右下肢の痛みが次第に軽減されてきたとの感想を持った。
(3)C医院での受診等
ア 控訴人は,上記(2)の治療によっても痛みの原因が明らかではないとして,平成21年4月20日にC整形外科医院(以下「C医院」という。)を受診した。その際,控訴人は,顔,頭,胸,左上肢のしびれと軽い痛み,左下腿と右大腿の痛みを訴え(甲41の2),レントゲン撮影(乙8,9)をしてもらった。
イ 原審の控訴人訴訟代理人(青木苗子弁護士)は,原審係属中の平成21年4月21日付けで,C医院のC医師(以下「C医師」という。)に対し,①上記(1)クの際(平成17年12月9日)に撮影された腰部レントゲン写真(乙3の1・2),②上記(1)イの際(平成18年11月26日)に撮影された骨盤のレントゲン写真(乙4),③上記(2)イの際(平成19年6月30日)に撮影された腰椎のレントゲン写真(乙5の1・2)を対比し,④上記(3)アの際(平成21年4月20日)に撮影されたレントゲン写真(乙8,9)との確認を求める照会をした(乙6の1)。
ウ これに対し,C医師は,平成21年5月15日付けで,上記④のレントゲン写真(乙8の1・2)では,控訴人の第11胸椎及び第3腰椎に陳旧性(おおむね6か月以上経過した骨折)圧迫骨折が認められること,上記①に認められない第3腰椎の圧迫骨折が,③には認められ,現在もその状態に変化がないことから,③における腰椎圧迫骨折は,受傷後6か月以上経過したものと考えることが可能であり,本件事故により発症した可能性が高い旨の「回答書」(乙6の2)を作成した。
(4)D医師の意見
控訴人は,医療法人回生会アンチエイジング・リハビリテーション回生にも通院していた。同病院のD医師は,青木苗子弁護士の照会(乙28の1)に対し,平成22年10月25日付けで,控訴人の初診時(同年1月)に腰椎の圧迫骨折による体幹のアライメント異常(右側彎)等の症状,並びに,上肢のしびれ,腰部の痛み,下肢のしびれ,特に右下肢の痛みが認められたこと,頸椎捻挫,腰椎圧迫骨折は,控訴人の症状と一致する旨回答している(乙28の2)。
(5)控訴人の現在の訴え等
控訴人は,平成21年8月には,介護保険法に基づく要介護1に認定された。また,控訴人は,本件訴訟の原審の本人尋問(平成23年1月14日)の際には,顔面,足腰及び頸部の痛みがある旨訴えている。
3 控訴人の損害
(1)控訴人の後遺障害
ア 当裁判所の判断
(ア)前記2(1),(2)の認定事実(特に前記2(1)アないしエ,カの認定事実)によれば,控訴人は,本件事故により,顔面・左胸部・腰部・左上腕・両下肢の打撲傷,左顔面皮下血腫,頚椎捻挫の傷害を負い,同傷害に起因して,顔面及び頸部に神経症状が生じたものと認められる。
これらの症状は,本件事故後間もなく第二赤十字病院で診断されており,控訴人の頸部に強い衝撃を加えるものであったと考えられる本件事故の状況とも矛盾せず,整合するものであることを考慮すれば,本件事故による後遺障害と認められる。
(イ)もっとも,胸椎・腰椎の圧迫骨折は,後記ウ(ア),(イ)のとおり,本件事故に基づく後遺障害であると認めることができない。
また,顔面打撲に伴う醜状痕が後遺障害と認められるためには,顔面に10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕がなければならないが(「労災補償障害認定必携」第14版184頁),平成23年1月24日に実施された控訴人本人尋問の際,控訴人に上記のような顔面醜状痕があったとは認められないので(被控訴人らの平成23年2月18日付け準備書面6頁の4(1)),控訴人には,後遺障害慰謝料,同逸失利益の対象となるような,顔面醜状痕による後遺障害があるとは認められない。
(ウ)そして,控訴人の症状固定時期は,甲6の診断書(第二赤十字病院のB医師作成)の中で症状固定時期と判断された平成19年9月11日と認める。
イ 被控訴人松男主張の検討
被控訴人松男は,本件事故に起因する控訴人の傷害は,顔面の打撲傷に止まるものである旨主張する。
しかし,前記2(1)アないしエ,カの認定事実に照らせば,控訴人が,顔面の打撲に加え,本件事故によって上記ア(ア)の受傷をしたことは明らかである。
ウ 控訴人主張の検討
(ア)胸椎及び腰椎の圧迫骨折─C医師の回答
a 控訴人主張等
控訴人は,「本件事故によって胸椎及び腰椎の圧迫骨折を来たし,その結果,胸椎及び腰椎にそれぞれ後遺障害等級第12級相当の頑固な神経症状を残したから,控訴人の本件事故による後遺障害は,併合第11級である。」旨主張する。
そして,C医師の回答(乙6の2)により,控訴人には,現在,第11胸椎及び第3腰椎圧迫骨折の所見が認められることは,前記2(3)ウで認定したとおりである。
b 検討
しかし,前記2(1)ク認定のとおり,控訴人は,本件事故以前から第二赤十字病院で診察を受けていたところ,平成17年12月9日,腰椎のレントゲン撮影を受け,変形性腰椎症,胸椎圧迫骨折の診断を受けていることが認められる。
しかも,控訴人は,本件事故直後の一連の診察の中で,腰部の痛みの訴えから出されたと思われる「骨盤骨折疑い」という診断を受けたが(甲4の2ほか),第三腰椎圧迫骨折は,そのとき(平成18年12月26日)に実施されたレントゲン撮影(乙4の1・2)によっても発見されなかったものである。
その上,控訴人は,①本件事故直後(平成18年11月24日),救急車ではなくタクシーで第二赤十字病院まで行っており,その際,自分でタクシーに乗り降りすることができ(控訴人本人尋問133項),②同月26日,第二赤十字病院で診察を受けた際,医師に対し,「全身が痛くなってきた。左上腕,右骨盤あたりが痛い。」と訴えながら,左手で持参した荷物を全て持っていたのであり(乙17:2頁上),控訴人が本件事故により胸椎及び腰椎の圧迫骨折を来たしたのであれば,控訴人の本件事故当日,同2日後の上記行動と矛盾するといわざるを得ない。
以上の事実に,控訴人の年齢(本件事故当時85歳)をも勘案すると,平成21年4月20日のレントゲン撮影によって判明した胸椎及び腰椎の圧迫骨折(前記2(3)イ,ウ参照)は,本件事故(平成18年11月24日発生)を含め,外力が加わったことを主な原因として生じたものではない可能性や,本件事故以外の転倒などにより生じた可能性を払拭できない(現に,その後の事故ではあるが,証拠〔甲41の7:3頁〕によれば,控訴人は,平成21年6月4日にベッドから転落して頭部を打撲するという事故にあったことが認められる。)。
なお,C医師は,「第三腰椎圧迫骨折は陳旧化した骨折である。」と回答しているが(乙6の2),仮にそうであったとしても,そのことから,骨折の生じた具体的な時期を推定することは困難である。
c まとめ
結局,以上の事実を総合すれば,控訴人の胸椎及び腰椎の圧迫骨折が,本件事故により生じたものであると即断することはできない。
(イ)胸椎及び腰椎の圧迫骨折─腰部の痛みや歩きぶりの変調
控訴人は,「控訴人が本件事故後に腰部の痛みや歩きぶりに変調を来したことからも,胸椎及び腰椎の圧迫骨折が本件事故によるものであると認められ,控訴人の本件事故による後遺障害等級は併合11級である。」旨主張し,証拠(乙6の2,乙32,35)中には,これに沿う部分がある。
しかし,控訴人は大正10年11月生という高齢であることに照らせば,仮に控訴人について上記主張のような変調が認められたとしても,同症状は,控訴人が本件事故後にあまり運動をしなくなった(控訴人本人尋問25ないし28項)ことに伴って発生した可能性もあり,胸椎及び腰椎の圧迫骨折に伴い当然に発生したものとは認められない。
また,前記2(1)ないし(3)認定のとおり,控訴人は,本件事故後に種々の痛みを訴えていたことに照らせば,仮に控訴人主張の変調があったとしても,本件事故後の変調から,胸椎及び腰椎の圧迫骨折が本件事故によるものと認めることもできない。
さらに,腰部,下肢の痺れないし痛みなどについても,上記(ア)のとおり第三腰椎圧迫骨折が本件事故によって生じたとは認められないことに加え,既往の症状等である可能性も窺われるから,本件事故による後遺症であるとまでは未だ認めることができない。
(ウ)頸椎及び腰椎に頑固な神経症状が残った
控訴人は,「仮に胸椎及び腰椎の圧迫骨折が認められないとしても,控訴人の年齢,頸椎及び腰椎が退行変性していたことに照らせば,控訴人は,本件事故により急激かつ強力な衝撃が加わったことにより,少なくとも,頸椎及び腰椎に『頑固な神経症状が残った』(後遺障害等級12級)と認められるので,控訴人の本件事故による後遺障害は,同じく併合11級である。」旨主張する。
しかし,前記(ア),(イ)の認定判断に照らせば,控訴人には後遺障害として神経症状が存することは認められるにせよ,それが「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害等級12級)であるとまでは認められないので,控訴人の上記主張も採用できない。
エ 総括
以上によれば,控訴人の後遺障害は,後遺障害等級14級所定の「局部に神経症状を残すもの」をもって相当と認める。また,以上の認定事実,その他本件に現れた諸般の事情を勘案すれば,控訴人の労働喪失率は5%,労働能力喪失期間は3年間と認めるのが相当である。なお,前記アのとおり,控訴人の症状固定時期は平成19年9月11日である。
(2)損害額
以上を前提に,以下,控訴人の本件事故による損害額について検討する。
ア 治療費等 8万0440円
前記2(1)ないし(3)のとおり,控訴人は,本件事故により負った傷害の治療のため,第二赤十字病院,武田クリニック及びC医院において通院治療を受けたが,本件事故と相当因果関係を認められる治療費は,本件事故の日である平成18年11月24日から症状固定日である平成19年9月11日までの間の,第二赤十字病院における治療費及び調剤薬局薬代と認めるのが相当である。なお,武田クリニックにおける治療費は,本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。
そして,証拠(乙10の1ないし3,乙11の1ないし21,乙14の1ないし17)及び弁論の全趣旨によれば,その間の上記病院の治療費の合計額は3万0340円,調剤薬局薬代の合計額は5万0100円であることが認められるから,控訴人の本件事故による治療費等の損害額は8万0440円である。
イ 通院交通費 1万1600円
証拠(乙26の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件事故後平成21年7月1日まで,通院及び日々の買い物等の外出にタクシーを使用したことが認められる。
しかし,前記2(1)ないし(3)の認定及び前記3(1)の判断に照らせば,控訴人は高齢であり,本件事故の結果いかなる負傷を負ったのかについても,当時必ずしも明らかではなかったものと認められる。そして,こうした事情に加え,控訴人の通院状況をも勘案すれば,控訴人の第二赤十字病院への通院のうち10日分 (平成19年1月12日までの2か月分)については,タクシーを利用する必要性が認められるが,その余のタクシー利用については,本件事故との相当因果関係が認められないものと判断する。
そして,通院に要した片道分のタクシー料金は,弁論の全趣旨によって認められる基本料金580円の範囲で,本件事故との相当因果関係を認めることとする。
以上によれば,本件事故と相当因果関係のある通院交通費の損害は,次のとおり1万1600円となる。
[計算式]580円╳2╳10日=1万1600円
ウ 休業損害 35万3600円
(ア)認定事実
証拠(乙30,36,控訴人本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
a 控訴人(大正10年11月生)は,本件事故前は,肩書住所地で単身で生活していたが,太郎やその子(控訴人の孫)の食事の準備をするなどもしていた。
b 控訴人は,このほか,太郎との共有地に建築した賃貸マンションの管理業務も行っていた。なお,マンション管理の主体は,本件事故当時,控訴人の肩書住所地を本店とする有限会社S(その後株式会社Sに移行)であるが,控訴人は太郎と共にその取締役であった。
c 控訴人は,上記会社の取締役報酬の名目で月額15万円を支給され,これを生活費に充てていた。
d 控訴人は,本件事故による負傷の結果,上記マンション管理業務ができなくなり,当初は太郎や葉子が上記管理業務を代行していたが,平成20年11月以降は,さらに別会社に上記管理業務を委託することになった。もっとも,こうした状況の変化にもかかわらず,控訴人の上記取締役報酬には増減がなかった。
(イ)検討
a 基礎収入
上記(ア)の認定によれば,控訴人がマンション管理業務ができなくなったことについては,それにより控訴人の収入が減額したものとは認められないので,休業損害と認めることはできないが,控訴人の家事労働については,一定の休業損害を認めることができる。
この点につき,控訴人は,家事従事分の基礎収入は,賃金センサスの平成18年女性労働者全年齢平均賃金343万2500円によるべきである旨主張する。
しかし,上記(ア)認定の控訴人の年齢,家事の内容に照らせば,上記基礎収入は認めるにせよ,相当程度制限されるものとみるべきである。結局,本件に現れた諸般の事情を勘案して,控訴人の基礎収入を年間146万円(日額4000円)と認める。
b 休業期間
休業期間は,本件事故発生日(平成18年11月24日)から症状固定日(平成19年9月11日)までの292日間とし,この間の労働能力喪失率については,前記2(1),(2)で認定した控訴人の本件事故後の治療状況,身体状況及び前記3(1)で認定した控訴人の本件事故による後遺障害の内容に照らし,本件事故から100日間は50%,残り192日間は20%と認める。
c まとめ
以上によれば,控訴人の本件事故による休業損害は,次のとおり35万3600円となる。
[計算式]
4000円╳100╳0.5=20万円①
4000円╳192╳0.2=15万3600円②
①+②=35万3600円
エ 後遺症逸失利益 19万8779円
(ア)前記(1)エのとおり,控訴人は,本件事故により,後遺障害等級14級の後遺障害が残り,その労働能力喪失率は14級に相当する5%,労働能力喪失期間は3年(ライプニッツ係数2.723)と認める。
(イ)そして,控訴人の基礎収入は,前記ウ(イ)aのとおり年間146万円であるから,控訴人の後遺障害逸失利益は,次のとおり19万8779円となる。
[計算式] 146万円╳0.05╳2.723=19万8779円
オ 傷害慰謝料 80万円
本件事故の態様,前記2(1),(2)認定の症状固定日までの通院期間,実通院日数(22日),控訴人の受傷状況,その他本件に現れた諸般の事情(殊に,被控訴人松男には,本件事故の発生について,前記1(3)ウで認定した重大な過失があったこと)を総合すると,控訴人の傷害慰謝料は,80万円をもって相当と認める。
カ 後遺障害慰謝料 120万円
控訴人の本件事故による後遺障害等級14級を前提とし,被控訴人松男には,本件事故の発生について,前記1(3)ウで認定した重大な過失があったことも併せ考えれば,控訴人の本件事故による後遺障害慰謝料は,120万円をもって相当と認める。
キ 物損 5万3100円
証拠(乙23,24)及び弁論の全趣旨によれば,控訴人は,本件事故により,当時身につけていた補聴器と眼鏡を破損したため,改めてこれらを購入したこと,その代金は,合計5万3100円(補聴器9100円,眼鏡4万4000円)であることが認められる。
これは,その金額に照らし,本件事故と相当因果関係のある損害として認めることができる。
ク 合計
以上によれば,本件事故による控訴人の損害は,合計額269万7519円となる。
第4 結論
以上のとおり,控訴人の本訴請求は,民法709条に基づき,被控訴人松男に対して269万7519円及びこれに対する不法行為(本件事故)の日である平成18年11月24日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる部分につき理由があり,同被控訴人に対するその余の請求及び被控訴人両親に対する請求は,いずれも理由がない。
そうすると,控訴人の本件控訴は,被控訴人松男に関する部分については,上記のとおり原判決を変更し,被控訴人両親に関する部分については,理由がないから棄却する。また,被控訴人松男の本件附帯控訴は理由がないから棄却する。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 田中 敦 裁判官 宮武康は,転補のため,署名押印することができない。裁判長裁判官 紙浦健二)