大阪高等裁判所 平成23年(ネ)1492号 判決 2011年11月24日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要及び訴訟の経過
1 本件は、亡Aが平成3年3月22日付けでした公正証書遺言の遺言執行者である被控訴人が、控訴人に対し、未収金の残額2235万円及びこれに対する弁済期の後の日(後記別件訴訟の訴状送達の日の翌日)である平成17年10月22日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
本件の主な争点は、① 本訴請求に係る未収金債権の残額部分は時効により消滅しているかどうか、② 控訴人が上記未収金債権の残額部分との相殺に供する貸付金債権は存在するかどうか(架空のものでないかどうか)である。
2 原審は、別件訴訟の提起により本訴請求に係る未収金債権の残額部分についても時効の中断の効力を生ずるとして、控訴人の消滅時効の抗弁を排斥し、控訴人は、b社のBに対する1億5720万円の貸付金債権の存在を主張するが、同事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りないとして、被控訴人の本訴請求を認容した。
3 これに対し、控訴人控訴を申し立てた。
4 本件事案の概要は、原判決「事実及び理由」第2の1ないし6記載のとおりであるから、これを引用する。
ただし、原判決6頁20行目「対等額」を「対当額」に改める。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。
2 その理由は、以下のとおりである。
3 請求原因について
原判決9頁1行目から14行目記載のとおりであるから、これを引用する。
4 消滅時効について
(1) 証拠(甲9の1・2)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、平成12年6月24日、Bの相続人に対し、Bに対する債務の残高証明書を発行したことにより、Bに対し長期未払金2億4030万3637円の債務を負っていることを承認したと認められ、上記債務の承認により、Bの未収金債権の消滅時効は中断し、又は控訴人は上記時効の援用権を喪失し、消滅時効はそれ以降新たに進行を始めることになる。
(2) そして、証拠(甲7の1・2、20)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、平成17年4月16日到達の内容証明郵便をもって、控訴人に対し、Bの未収金債権のうちAが取得した1億4456万2373円につき催告をし、同年10月14日、別件訴訟を提起したことが認められ、Bの未収金債権のうちAが取得した2分の1の中で別件訴訟の訴訟物となった部分については、催告から6か月以内に裁判上の請求がされたことになるから、時効の中断の効力を生ずると解される。
(3) しかし、証拠(甲20)によれば、被控訴人が別件訴訟の提起に当たって提出した訴状には、AがBからその2分の1を取得した2億6306万6487円の未収金と、控訴人が相殺を主張するから控訴人が債権譲渡を受けたBに対するb社の1億5720万円の貸付金、利息1326万9065円とを相殺しても、未収金は9259万7422円が残存しており、その2分の1である4629万8711円の未収金をAは有しているとして、同額の未収金を請求する旨の記載があり、別件訴訟は一個の債権の数量的な一部(b社の貸付金債権との相殺がされた場合の残額部分)についてのみ判決を求める旨を明示して提起されたものと認められるから、別件訴訟の訴訟物となるのは上記数量的な一部に限られ、本訴請求に係る2235万円の未収金債権の残額部分は別件訴訟の訴訟物となっておらず、上記残額部分については時効の中断が生じないというべきである。
(4) 被控訴人は、「仮に、上記(3)のような理由で、本訴請求に係る未収金債権の残額部分については時効の中断の効力を生じていないとしても、別件訴訟が係属している間は本訴請求に係る未収金債権の残額部分についても裁判上の催告がされていたものと解すべきであり、被控訴人は、別件訴訟の事実審の口頭弁論の終結の日である平成21年1月30日から6か月以内である同年6月30日に本件訴訟を提起したのであるから、このことにより、本訴請求に係る未収金債権の残額部分についても時効の中断の効力を生じたというべきである。この点について、催告後6か月以内に催告をしても、時効期間の満了前の最後の催告から6か月以内に裁判上の請求等をしない限り、時効の中断の効力を生じないと解されているが、裁判外の催告がされた後に裁判上の催告がされた場合には、裁判外の催告が繰り返された場合と異なり、債権者の権利行使の意思が明確にされているのであるから、訴訟係属が終了してから6か月以内に裁判上の請求等がされることにより時効の中断の効力を生ずるというべきである。」と主張する。
(5) しかし、民法153条は、「催告は、6箇月以内に裁判上の請求、支払督促の申立て、和解の申立て、民事調停法若しくは家事審判法による調停の申立て、破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加、差押え、仮差押え又は仮処分をしなければ、時効の中断の効力を生じない。」旨規定しており、催告は、6箇月以内に裁判上の請求等他の確定的な時効中断手続をとらなければ時効中断の効力は生じない旨規定している。
(6) 本件の場合、被控訴人主張のように、別件訴訟において、一部請求された債権以外の債権について裁判所の判断がされたことにより、裁判上の催告がされたものとみることができるとしても、裁判上の催告も、あくまで催告としての暫定的な時効中断効しかなく(時効中断のための予備的行為と解される。)、裁判外の催告と異なる点は、訴訟終了時まで催告の効果が続き、訴訟終了時から6月以内に確定的な中断行為をすればよいというにすぎず、確定的な時効中断効が生じないという点では裁判外の催告と何ら異ならない。
(7) したがって、被控訴人主張のように、裁判外の催告の後6箇月以内に裁判上の催告がされたとしても、単に催告を繰り返したものと評価せざるを得ず(催告を繰り返しても時効中断の効力を生じない。)、裁判外の催告から6箇月以内に、裁判上の請求等、民法153条の列挙する確定的な時効中断手続がとられていない本件においては、本訴提起時までには上記債権の消滅時効が完成したというほかない。
(8) 被控訴人は、「裁判外の催告がされた後に裁判上の催告がされた場合には、裁判外の催告が繰り返された場合と異なり、債権者の権利行使の意思が明確にされているのであるから、訴訟係属が終了してから6か月以内に裁判上の請求等がされることにより時効の中断の効力を生ずる。」と主張するが、被控訴人の主張は、明文の規定なくして裁判上の催告に民法153条の「6箇月以内」という期間を延長させるという強力な効果を生じさせるものであって、相当でない。
5 以上によれば、被控訴人の本訴請求債権は時効により消滅しているから、被控訴人の請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がない。
第4結論
よって、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 安達嗣雄 池田光宏)