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大阪高等裁判所 平成23年(ネ)1506号 判決 2012年2月10日

控訴人(1審原告)

同訴訟代理人弁護士

田中泰雄

康由美

被控訴人(1審被告)

Y株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

武智順子

福岡宏海

下尾裕

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  控訴人が被控訴人に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

3  被控訴人は控訴人に対し,平成20年9月以降,毎月25日限り,17万0617円の割合による金員を支払え。

4  第3項につき仮執行宣言

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,被控訴人に新卒者として採用された控訴人が,試用期間中,技術社員としての資質や能力などの適格性について問題があるとして解雇の意思表示を受けたところ,同解雇は解雇事由がないにもかかわらずなされたものであって,解雇権の濫用で無効であるとして,被控訴人に対し,労働契約に基づいて,①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とともに,②平成20年9月以降,毎月25日限り,17万0617円(ただし,公租公課控除後の賃金額)の割合による賃金の支払を求める事案である。

原審は,控訴人の請求を棄却したので控訴人が控訴した。

2  前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張

前提事実並びに争点及び争点に対する当事者の主張は,次のとおり付加ないし訂正するほか,原判決「事実及び理由」第2の2及び3に記載のとおりであるから,同部分を引用する。

(1)  原判決6頁23行目と24行目との間に「新たに採用する職員には,原則として6か月間の見習期間を設ける。」を挿入する。

(2)  原判決13頁26行目「同作業が終了した場合」を「ロッドが固定されているチャックが可動範囲の最下部に到達して,その限りでいったん操作手順が終了した場合」に改める。

(3)  原判決14頁18行目末尾の後に改行して次のとおり付加する。

「 控訴人は,オペレーターとしてロッドを上げる操作を行う際に,手元作業員が工具を持って離れたところに待機していることや他の班員が機械から離れていることを確認し,チャックの回転部の安全カバーが閉じられていることを目視し,チャックを最上部まで上げている。被控訴人は,手元作業員がチャックを締める作業を行っている最中にボーリングマシンを稼働させた場合の負傷等の可能性を述べるが,手元作業員が作業を行う前には既に電源は切られているのであり,電源を切ったことを確認の上,手元作業員が機械に近づいて作業を行うのであるから,被控訴人主張の場面設定は考えられないし,被控訴人の仮定論は適切ではない。」

(4)  原判決15頁16行目「取付け作業」の後に「(練習)」を付加する。

(5)  原判決17頁17行目「注意を受けることはあったが,」の後に「その理由は聞かれていない。」を付加する。

(6)  原判決18頁15行目「数回」を「3回」に改める。

(7)  原判決19頁11行目末尾の後に改行して次のとおり付加する。

「キ 改正後の就業規則8条は,控訴人を含む従業員に周知されておらず,本件解雇は改正前の就業規則7条の『見習期間中は,会社はいつでも採用を取り消すことができる』の規定により,解雇自由の考え方により行われたもので無効である。

解雇判断の前提となった研修状況報告書には,被控訴人が解雇に際して重視したという4つの問題行動は全く指摘されていないし,解雇通知においても言及されることはなかった。」

第3当裁判所の判断

1  認定事実

当裁判所が認定する事案は,次のとおり付加ないし訂正するほか,原判決「事実及び理由」第3の1に記載のとおりであるから,同部分を引用する。

(1)  原判決20頁24行目末尾の後に「控訴人は,平成20年4月18日の問題行動について,手元作業員も他の班員も離れた所におり,具体的危険性はなかったと主張するが,仮に,そうだったとしても,そのような問題行動を繰り返していれば,いずれ負傷者が発生することは確実であって,当該行動に対する前記の評価を否定する事情となるものではない。」を付加する。

(2)  原判決21頁24行目「を総合すると,」の後に,「I副部長が2,3分様子を見ていたものの,控訴人がメモを取るのに一生懸命だったので,声を掛けて止めさせたという証人Bの供述するような状況であったと考えるのが自然であり,他の班員が離れていることを確認し,チャックの回転部の安全カバーが閉じられていることも目視してチャックを最上部まで上げる操作を行った後,手元作業員らの方を見て声かけをしていたが,控訴人が空回りさせた時点で他の班員から声をかけられたとの控訴人の供述は研修日誌の記載と状況が整合しないから採用できず,」を付加する。

(3)  原判決23頁3行目「を総合すると」を「,特に証人Bの供述が具体的であることを総合すると,新入社員評価に記載がないことや接続端子部分の形状(証拠<省略>,端子部分に触れる可能性が低いことは認められるが,接触事故が100パーセント起こり得ないとまでは認められないし,可能性が低かったとしても,触れようとする行為自体が危険な行為で,このような行為を看過したまま事故が発生すれば,雇用主は安全配慮義務違反を免れないから問題行為と評価すべきことは当然である。)を考慮したとしても,」に改める。

(4)  原判決30頁8行目「理由がない。」の後に「仮に,ショートではなかったとしても,控訴人が事前の指導に反した行動を取ったこと,その行為が控訴人本人及び周囲の作業員の生命身体に関わる危険な行為であることに変わりはなく,解雇事由としての評価に変わりはない。」を加える。

2  本件解雇の当否

当裁判所も,被控訴人が留保解約権を行使して控訴人を解雇したことには相当性が認められると考えるが,その理由は,次のとおり,付加ないし訂正するほか,原判決「事実及び理由」第3の2に記載のとおりであるから,同部分を引用する。

(1)  原判決35頁15行目末尾の後に改行して,「控訴人は,試用期間中の解雇であっても普通解雇の場合と同様に厳格な要件の下に判断されるべきであると主張するが,解約権の留保は,採否決定の当初においては,その者の資質,性格,能力その他適格性の有無に関連する事項について必要な調査を行い,適切な判定資料を十分に蒐集することができないため,後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨でされるものと解されるのであって,今日における雇傭の実情にかんがみるときは,一定の合理的期間の限定の下にこのような留保約款を設けることも,合理性を有するものとしてその効力を肯定することができるというべきである。それゆえ,留保解約権に基づく解雇は,これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず,前者については,後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない(最高裁昭和48年12月12日大法廷判決・民集27巻11号1536頁参照)。したがって,控訴人の主張は理由がない。」を付加する。

(2)  原判決39頁7行目「総合すると,」の後に「4か月弱が経過したところではあるものの,繰り返し行われた指導による改善の程度が期待を下回るというだけでなく,睡眠不足については4か月目に入ってようやく少し改められたところがあったという程度で改善とまではいえない状況であるなど研修に臨む姿勢についても疑問を抱かせるものであり,今後指導を継続しても,能力を飛躍的に向上させ,技術社員として必要な程度の能力を身につける見込みも立たなかったと評価されてもやむを得ない状態であったといえるから,」を付加する。

(3)  原判決39頁20頁「そうすると,」の後に,「控訴人としても改善の必要性は十分認識でき,改善するために必要な努力をする機会も十分に与えられていたというべきであるし,被控訴人としても本採用すべく十分な指導,教育を行っていたといえるから,被控訴人が解雇回避の努力を怠っていたとはいえないし,改めて告知・聴聞の機会を与える必要もないのであって,」を付加する。

(4)  原判決40頁1,2行目「上記認定説示したとおりであって」を,「上記認定説示したとおり控訴人の技術社員としての適性不足と,改善可能性の少なさにあるのであって,そのことは,改正前の就業規則7条の内容やH部長らの対応によって左右されるものではないから,」に改める。

3  以上によれば,控訴人の請求は理由がなく,同人の請求を棄却した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 横路朋生 裁判官 平井健一郎)

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