大阪高等裁判所 平成23年(ネ)3199号 判決 2013年1月25日
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X1
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X2
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X3
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X4
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X5
大阪府<以下省略>
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X6
同所
控訴人兼被控訴人(第1審原告)
X7
上記7名訴訟代理人弁護士
三木俊博
同
吉岡康博
同
松田繁三
同
向来俊彦
同
澤田裕和
大阪市<以下省略>
被控訴人兼控訴人(第1審被告)
髙木証券株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
川村和夫
同
積木潤
同訴訟復代理人弁護士
貫名千絵
東京都中央区<以下省略>
第1審被告補助参加人
One World Asset Management株式会社
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
石堂瑠威
主文
1 第1審原告X1の本件控訴に基づき,原判決主文1項及び2項中第1審原告X1に係る部分を次のとおり変更する。
(1) 第1審被告は,第1審原告X1に対し,915万5268円及びこれに対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 第1審原告X1のその余の請求を棄却する。
2 第1審原告ら(第1審原告X1を除く。)の本件各控訴及び第1審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。
3 第1審原告X1と第1審被告との間の訴訟費用(控訴費用を除く。)は,これを10分し,その3を第1審原告X1の負担とし,その余は第1審被告の負担とし,第1審原告らの控訴費用は第1審原告らの負担とし,第1審被告の控訴費用は第1審被告の負担とし,補助参加費用は第1審被告補助参加人の負担とする。
4 この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 第1審原告ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 第1審被告は,第1審原告X1に対し,1300万0548円及びこれに対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 第1審被告は,第1審原告X2に対し,688万8561円及びこれに対する平成19年8月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 第1審被告は,第1審原告X3に対し,168万2281円及びこれに対する平成17年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 第1審被告は,第1審原告X4に対し,1086万2994円及びこれに対する平成17年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 第1審被告は,第1審原告X5に対し,211万1992円及びこれに対する平成18年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 第1審被告は,第1審原告X6に対し,436万8948円及びこれに対する平成19年4月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8) 第1審被告は,第1審原告X7に対し,166万3183円及びこれに対する平成18年4月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第1審被告
(1) 原判決中第1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 第1審原告らの請求をいずれも棄却する。
第2事案の概要
本件は,第1審被告の従業員である販売勧誘担当者(以下「担当者」という。)らからの勧誘を受け,第1審被告が募集・媒介する「レジデンシャル-ONE」と称する不動産投資ファンドに係る匿名組合出資契約を締結し,出資した第1審原告らが,第1審被告の担当者らの勧誘には,適合性の原則又は行うべき説明義務に違反する等の違法があったとし,これによって第1審原告らに出資させた行為は第1審原告らに対する不法行為であると主張して,第1審被告に対し,民法709条,715条に基づき,控訴の趣旨1(2)ないし(8)のとおり,それぞれ損害賠償金及びこれに対する各第1審原告の最終の出資契約に基づく上記不動産投資ファンドの受渡日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,第1審原告らの各請求のうちの一部(第1審原告X1について909万4383円及びこれに対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による金員,第1審原告X2について481万7992円及びこれに対する同年8月31日から支払済みまで同割合による金員,第1審原告X3について117万2596円及びこれに対する平成17年11月30日から支払済みまで同割合による金員,第1審原告X4について760万8095円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による金員,第1審原告X5について147万5394円及びこれに対する平成18年4月28日から支払済みまで同割合による金員,第1審原告X6について305万5263円及びこれに対する平成19年4月2日から支払済みまで同割合による金員,第1審原告X7について115万9228円及びこれに対する平成18年4月28日から支払済みまで同割合による金員)を認容し,その余を棄却したところ,第1審原告らがその敗訴部分を不服として控訴し,第1審被告もその敗訴部分を不服として控訴した。
なお,当審において,第1審原告らは,後記のとおり,金融商品取引法17条に基づく主張を選択的に追加し,第1審被告補助参加人は,第1審被告に補助参加した。
1 前提事実並びに争点及びこれに対する当事者の主張は,下記(1)ないし(9)のとおり補正し,後記2のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2及び3のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁20行目の「高木住居用不動産投資ファンド」を「髙木住居用不動産投資ファンド」に改める。
(2) 原判決6頁24行目の「仕組みのうち重要な部分」を「仕組みのうちの重要な部分」に改める。
(3) 原判決7頁12行目の末尾に「なお,第1審原告X1の最終の出資に係る07年7月号の受渡日は,平成19年7月31日である。」を,同頁22行目の末尾に「なお,第1審原告X2の最終の出資に係る07年8月号の受渡日は,平成19年8月31日である。」をそれぞれ加え,8頁9行目の「4月」を「9月」に改め,同頁12行目の末尾に「なお,第1審原告X3及び第1審原告X4の各最終の出資に係る05年11月号の受渡日は,いずれも平成17年11月30日である。」を,同頁19行目の末尾に「なお,第1審原告X5の最終の出資に係る06年4月号の受渡日は,平成18年4月28日である。」を,9頁6行目の末尾に「なお,第1審原告X6の最終の出資に係る07年3月号の受渡日は,平成19年4月2日である。」を,同頁8行目の末尾に「なお,第1審原告X7の最終の出資に係る06年4月号の受渡日は,平成18年4月28日である。」をそれぞれ加える。
(4) 原判決9頁11行目から12行目にかけての「別紙3ファンド別運用結果一覧表記載のとおりである」を「本判決別紙2ファンド別運用結果一覧表(当審)のとおりであるほか,05年1月号については,さらに出資一口当たり,3万8621円(税引き前)の追加償還があった」に改める。
(5) 原判決9頁20行目の「,分配金の合計額(税引き前,税引き後)」を削除し,同行目から21行目にかけての「別紙4原告ら損益一覧表」を「本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表」に改める。
(6) 原判決23頁23行目の「4条,」を「4条(平成19年法律第90号による改正前の同法3条),平成18年法律第65号による改正前の」に改める。
(7) 原判決24頁26行目の「(別紙1請求額等一覧表の「取引による損害」欄)」を削除する。
(8) 原判決25頁2行目の「原告ら」を「第1審原告ら(第1審原告X1を除く。)」に,同行目の「別紙4原告ら損益一覧表」を「本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表」にそれぞれ改め,同頁7行目の末尾に「なお,第1審原告X1については,原判決別紙4原告ら損益一覧表の「X1」欄記載の金額によって,以上のように算定された実損の額を賠償するべきであり(主位的主張),仮に,そうでないとしても,本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表の「X1」欄記載の金額によって,以上のように算定された実損の額を賠償するべきである(予備的主張)。」を加え,同頁11行目の「(別紙1請求額等一覧表の「弁護士費用」欄)」を削除し,同頁14行目から15行目にかけての「別紙1請求額一覧表の「弁護士費用」欄記載の各金額」を「金額(第1審原告X1については主位的主張として119万円,予備的主張として118万円,第1審原告X2については62万円,第1審原告X3については15万円,第1審原告X4については98万円,第1審原告X5については19万円,第1審原告X6については39万円,第1審原告X7については15万円)」に,同頁17行目の「購入日」を「受渡日」に,同頁22行目の「衡平」を「公平」にそれぞれ改める。
(9) 原判決27頁10行目の「別紙4原告ら損益一覧表」の次に「ないし本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表」を加える。
2 当審における当事者の補充主張
(第1審原告ら)
(1) 争点(1)(不法行為の成否)について
ア 適合性原則違反について
(ア) 適合性原則違反の有無に関しては,具体的な商品特性で問題にすべきであり,第1審被告の担当者らの認識や予見可能性を問題にするべきではない。
(イ) 一般的な投資家にとって投資元本が毀損するということは重大なことであり,損失が元本に限定されていることは,適合性を肯定するための事情とはいえない。
(ウ) レジデンシャル-ONEの商品特性は,①レバレッジリスクが得られる利益に比して大きいこと,②満期(3年間)までに中途解約が許されないこと,③その基本的な仕組みやレバレッジリスクが目論見書及びパンフレットに記載されていないし,期中の運用報告書における投資対象不動産の評価額がその当時の価格を随時に反映せず不適切であること,④投資対象不動産の賃料収入に比し,ファンド運営者だけが高い利益を得ていて運用コストと称する経費が多く,投資者に損失を押しつける商品構造であり,期中の賃料収入を超える金額が配当され,投資対象不動産が最終期における売却時,値上がりをしていれば,そこで辻褄が合わされることになるという商品構造であったことからして,投資対象不動産の高騰を前提としてしか成り立たない商品であるといえることからすれば,レジデンシャル-ONEは,一般的な投資家には商品適合性を有しない。
(エ) 一審原告らは,共通して,慎重で消極的な投資意向を有し,分配型の投資信託や新規公開株などの当時安定した投資とされていた商品の取引を希望し,その意味で安定志向の投資意向を有しており,レジデンシャル-ONEの勧誘は,その投資意向に反している。
イ 説明義務違反について
下記(第1審被告)(1)イの主張は,争う。
(2) 争点(2)(損害賠償額)について
ア 基礎となるべき金額について
第1審被告が主張するような不動産価格が3年間で一般的に35%下落した事実は存在せず,仮に,レジデンシャル-ONEの投資対象不動産の価格が下落していたとしても,それは,レジデンシャル-ONEが3年間で強制的な償還期限となり,結果として当該不動産が買いたたかれることとなるという商品の性質から導かれる損失であって,当該下落分は,第1審被告の説明義務違反と因果関係のある損害である。
イ 損益相殺・過失相殺について
第1審被告の説明義務違反等によって第1審原告らが被った損害については,損益相殺がされた後過失相殺がされるべきである。また,第1審原告らは,第1審被告の説明義務違反がなければ,レジデンシャル-ONEに投資しなかったのであるから,第1審被告に支払った手数料は第1審原告らが被った損害であるし,損益相殺の仕方は,現実の利得を控除するべきであるから,控除されるべき分配金の額は,税引後価格を用いるべきである。
ウ 過失相殺に関する考慮事情ないし割合について
(ア) 本件においてされた第1審被告の勧誘行為は,組織的不法行為というべきものであること,目論見書には少なくともレバレッジリスクに係る的確と言える記載がないこと,レジデンシャル-ONEが第1審被告の専属販売であり,第1審被告の担当者らの無知もあいまって,第1審原告らが他の類似商品等を通じてそのレバレッジリスクを認識する術がなかったこと,レジデンシャル-ONEが第1審原告らにとって適合性の原則に反する商品であるにもかかわらず,安全・安定的な商品として勧誘行為が行われたことなどからして,第1審被告の違法の度合いが大きく,これとの比較において,第1審原告らは,一般的な不動産投資に係る利回り以上の高利回りを期待していたわけではないこと,第1審原告らには購入後にリスクを回避する手段がないことからすると,第1審原告らに関し過失相殺を行うことは許されない。
(イ) 以下のような,第1審原告らの個別の事情などに鑑みれば,過失相殺を行うべき事情はない。
第1審原告X1は,出資金額の元本割れを予測していなかったし,投資対象不動産の価格の値下がりを想定していたとしても,分配金によって補いがつく程度のものと考えていた。第1審原告らが交付されたレジデンシャル-ONEのパンフレットには,金融機関からの借入れに係る記載が省かれている。
第1審原告X2は,無職無収入の年金生活者であり,安定的な投資意向であった。平成15年3月ころ,第1審原告X2名義の取引口座を開設するために作成された証券総合サービス申込書(甲B1)の投資目的の記入は,第1審原告X2の妻が行ったものであるし,これに記載された従前の取引経験は,第1審原告X2の妻の取引経験である。
第1審原告X3は,安定的な投資意向であった。第1審原告X3名義の取引口座があるが,その父親が開設したものである。第1審原告X3は,レジデンシャル-ONEに係る取引を行った当時,第1審被告の担当者らに対し,利回り保証を積極的に要求しておらず,銀行金利分の利益を確保したい旨希望を述べたのみである。
第1審原告X4は,安定的な投資意向であった。第1審原告X4は,平成17年当時,77歳であり,第1審被告の担当者らからの説明により,レジデンシャル-ONEを銀行預金のようなものだと理解しており,出資元本がゼロになるというリスクは想定していなかった。
第1審原告X5は,安定的な投資意向であった。第1審原告X5は,平成16年ころから新規公開株の取引経験があるが,割り当てられた株式を取引するに際して,新規公開株のランク付けをインターネットで確認する程度である。第1審原告X5は,第1審被告の担当者らからの説明により,レジデンシャル-ONEを銀行預金のようなものだと理解しており,出資元本がゼロになるというリスクは想定していなかった。
第1審原告X6らは,安定的な投資意向であった。第1審原告X6らは,第1審被告の担当者らとのやりとりにおいて,レバレッジリスクを認識し得なかった。
(3) 金融商品取引法17条に基づく責任について(当審における新たな主張)
ア(ア) 第1審被告の担当者らによるレジデンシャル-ONEの勧誘において使用された目論見書及びパンフレットには,「記載すべき重要な事項」,「誤解を生じさせないために必要な事実」たるレバレッジリスクについての記載を欠いている。
(イ)① レジデンシャル-ONEは,投資顧問会社に対する成功報酬が高いこと,利益に占める運用コストの割合が全号を通算すると85.5%となることに鑑みると,必ず経費倒れになるものであり,また,賃料収入のみから運用コストを差し引いて出資金額に対する利回りを計算すると全号の平均で0.47%であり,レジデンシャル-ONEの1号であっても1.59%であるにも関わらず,第1審被告は,レジデンシャル-ONEの目論見書とパンフレットに「良好な利回り」,「安定収益」を得られる旨,積極的な虚偽記載をした。
② また,レジデンシャル-ONEは,経費倒れになるものであるから,レジデンシャル-ONEの購入によって良好な利回りと安定した収益を得るには,投資対象不動産が購入時より高値で売却できることを前提としていたものであるにもかかわらず,その記載を欠いている。
イ 金融商品取引法17条に基づく責任に係る損害論については,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第2の3(2)【原告らの主張】及び上記(2)の主張と同様である。
(第1審被告)
(1) 争点(1)について
ア 適合性原則違反について
上記(第1審原告ら)(1)アの主張は,争う。
(ア) 適合性の原則が金融商品取引法上の義務であるのは,市場の価格形成の公正確保という公法上の要請に対応するものであり,証券会社は,金融商品取引法上,顧客に対する関係において,行う取引が当該顧客に適合的であることを保証する私法上の義務を負っていないというべきである。
(イ) 金融商品について一般的抽象的なリスクがあったとしても,直ちには適合性原則違反とはならない。レジデンシャル-ONEの募集当時の不動産市況等の状況からすれば,レバレッジリスクの発現を現実的に検討すべき事情はなかった。レジデンシャル-ONEについて結果として生じた大幅な元本割れは,平成20年秋のリーマンショックを端緒とする金融市場の混乱を原因とするものであり,第1審被告において予見することはできなかった。
(ウ) レジデンシャル-ONEは,損失が投資元本に限定され,投資が一口100万円とされていることと併せ考えれば,リスクが限定されている商品である。特に,第1審原告X1,第1審原告X2,第1審原告X3,第1審原告X5は,いわゆる消費者ではなく,資産家ないし事業家である。
(エ) 投資対象不動産の運用を安定的にする観点からは,満期まで出資者からの中途解約が許されないものとすることが必須の条件であり,レジデンシャル-ONEの当該条件には経済的合理性がある。レジデンシャル-ONEの投資対象である居住用不動産が値下がりすれば,投資した資金が戻らないことになることを理解することは難しいことではないから,第1審原告らは,レバレッジリスクを認識できたし,レジデンシャル-ONEのパンフレット等にある運用が見込まれるおよその金額と,目論見書に記載された金融機関からの借入金額の上限の記載により,投資対象不動産の運用開始時の価格と3年後の償還時の投資対象不動産の価格の値下がり比率を仮定して元本欠損の割合を計算することは,自己の余裕資金で有価証券運用をしようとする通常の社会人であれば,容易にできた。レジデンシャル-ONEの目論見書には,出資金の償還がゼロになることがあること等が記載されているし,パンフレットには,ファンドの仕組みとして金融機関からの借入れを用いることが記載されているから,これらにレバレッジリスク自体について記載がなくても,その存在について誤解を与えるようなこともない。レジデンシャル-ONEは,投資対象不動産の高騰を期待するファンドではなく,賃貸運用の収益の分配による利回りを期待する商品である。
(オ) 第1審原告らは,慎重で消極的な投資意向を持つ者ではない。レジデンシャル-ONEのパンフレットには,元本保証ではないことが記載されており,第1審原告らはこれを認識していた。第1審原告らは,銀行預金の低利息を嫌い,より高い利回りを求めて有価証券への投資を選択したのであるから,相応のリスクを負担しなければならない。
イ 説明義務違反について
(ア) レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクは,投資対象不動産の価格の値下がりリスクが具体化したものであって,一般的な経済事象として投資家自身が判断すべき事項であり,説明する必要はない事柄である。
(イ) レジデンシャル-ONEは,金融商品販売法の適用対象となるが,そのレバレッジリスクは,第1審被告の担当者らが第1審原告らに対する投資の勧誘を行った当時,金融商品販売法第3条(平成19年9月30日施行の平成18年法律第66号による改正前)の説明義務の対象事項ではない。同条は,法律上の説明義務の内容,範囲,程度を制度化するものであるから,第1審被告において,これに規定するもの以外の説明義務はない。
(ウ) レジデンシャル-ONEの仕組みとして,出資金のほか,金融機関からの借入れを用いて投資対象不動産を購入することを説明告知すれば,顧客においてレバレッジリスクがあることを認識し得るものである。また,出資金のほか,金融機関からの借入れを用いて投資対象不動産を購入した場合,当該不動産は,当該借入れの担保に供され,その売却代金は,当該借入れに優先的に充当されることは当然であるから,顧客においてもそのことを認識し得るものであり,レバレッジリスクに係る説明として当該優先充当に係る説明をする必要はない。
(エ) レジデンシャル-ONEの商品説明書及び目論見書における,投資ビークルの営業者に対する匿名組合契約に基づく金銭支払義務が金融機関からの借入金債務に劣後する趣旨の記載は,第1審原告X1,第1審原告X2,第1審原告X5,第1審原告X3,第1審原告X6にとって注目し,理解し得るものであり,第1審原告X4,第1審原告X7は,第1審原告X3,第1審原告X6と相談しさえすれば,出資金の償還に優先して金融機関からの借入れへの弁済が行われることを理解できた。
(オ) レジデンシャル-ONEの商品説明書及び目論見書の「投資リスク」の項目には元本保証がないこと等が,「出資者の権利」の項目には償還金についての「本事業の終了時に出資金の償還を受ける権利」を挙げた部分に「(運用実績により出資金の償還がゼロになることがあります)」旨がそれぞれ記載されており,レバレッジリスクが示されていると言える。
(2) 争点(2)(損害賠償額)について
ア 基礎となるべき金額
(ア) 仮に,第1審被告の担当者らのレジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクについての説明が不十分であり,不法行為が認められた場合であっても,これと法律上の相当因果関係がある損害は,出資金額のうち,レバレッジ効果が働かなくても発生した一般的な不動産価格の低下割合に相当する35%が控除された金額というべきである。
(イ) 仮に,第1審被告の担当者らのレジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクについての説明が不十分であり,不法行為が認められた場合であっても,申込手数料相当額は,第1審被告の説明義務違反とは相当因果関係のないものとして,損害額から控除されるべきである。
イ 損益相殺・過失相殺について
(ア) 第1審被告に説明義務違反による不法行為があるとされるならば,損害は,基本的に出資自体ということが自然であり,過失相殺は,その損害の発生に係る第1審原告らの過失が検討される問題であるから,まずは,損益相殺の前に過失相殺がされるべきである。
(イ) 分配金への源泉徴収額については,第1審原告らが投資によって利益を得たことによって生じるものであるから,その負担は,第1審原告らが負うべきものである。したがって,当該額は,損害から控除されるべきものである。
(ウ) 第1審原告らは,レジデンシャル-ONEへの出資により,分配金を受け,利益を上げた場合もあった。第1審原告らが,第1審被告の担当者らの説明義務違反があったというのであれば,これらの利益については,他の取引の損失との間で損益相殺として斟酌すべきである。
ウ 過失相殺に関する考慮事情ないし割合について
(ア) レバレッジリスクは,金融機関からの借入れを用いる資産運用における一般的なリスクであり,それ自体説明を要する事項ではない。レジデンシャル-ONEのパンフレットには,ファンドの仕組みとして金融機関からの借入れを用いることが記載されているから,レバレッジリスク自体について記載がなくても,また,レバレッジリスクについて第1審被告の担当者らから具体的に聞かなくても,第1審原告らは,その存在を認識し得た。レジデンシャル-ONEは,第1審被告の専属販売であるが,その商品特性に関する情報量は,第1審原告らとの間で大きな差はない。さらに,第1審原告らのレジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクの認識可能性は,取引を重ねるにつれて深まっているものであり,過失相殺においては,この点を考慮するべきである。
(イ) 第1審原告らの取引経験や職歴,具体的な取引経過等を個別に考慮すれば,大幅な過失相殺がされるべきである。少なくとも,出資金のうち,投資対象不動産の価格のレバレッジ効果が働かなくとも発生した価値下落分(35%)を控除した65%について,第1審被告の責任は,その2分の1を超えることはない。
第1審原告X3は,実質的に利回り保証を第1審被告の担当者らに求めたから,第1審原告X3に対しては,不法行為が成立しないというべきであるものの,仮に成立するとしても,10割の過失相殺が相当である。
第1審原告X5は,自ら情報収集して投資商品を選んでおり,第1審被告の担当者らによるレジデンシャル-ONEのリスクに係る説明を期待していなかったことからすれば,第1審被告の担当者らの説明義務違反があっても,後に損害が発生したとして第1審被告に損害賠償を求めるのは,禁反言の原則に照らして許されない。
第1審原告X2,第1審原告X5については,9割以上,第1審原告X1,第1審原告X4には7割ないし9割,第1審原告X6らには,6割ないし7割の過失相殺がされるのが相当である。
(3) 金融商品取引法17条に基づく責任について
ア(ア) 上記(第1審原告ら)(3)の主張は,時機に後れた攻撃防御方法である。
(イ) 上記(第1審原告ら)(3)の主張を否認ないし争う。
レジデンシャル-ONEの目論見書には,出資金の償還がゼロとなることがあることが記載され,リスクの最大値が示されているし,パンフレットには,ファンドの仕組みとして金融機関からの借入れを用いることが記載されているから,レバレッジリスク自体について記載がなくても,その存在について誤解を与えるようなこともない。当該目論見書等の記載については,証券取引等監視委員会の検査の対象であったが,法令違反の認定はされなかった。
(ウ) 第1審被告は,レジデンシャル-ONEの目論見書の作成及び運用に関与していない。したがって,仮に,レジデンシャル-ONEの実際の運用が,目論見書に記載された投資方針と一致しない結果になっていたとしても,第1審被告は,その事実を知らなかったし,知らないことに過失はない。
イ 仮に,レジデンシャル-ONEの目論見書の法定記載事項の虚偽記載があったとしても,第1審原告らの投資判断及びその損害との間の相当因果関係の存在については否認ないし争う。また,その損害賠償については,過失相殺がされるべきである。
(第1審被告補助参加人)
上記(第1審原告ら)(3)の主張を否認ないし争う。
(1) 積極的な虚偽記載があったとする点について
17号(平成16年11月募集)までのレジデンシャル-ONEは,7%ないし11%の利回りを概ね達成することができていた。平成20年4月30日以降に最終償還日となる05年2月号以降については,分配金額や償還金額は,それまでと比して低額になっているが,これは,100年に1度とも言われる金融不況によるものである。
第1審原告らは,レジデンシャル-ONEが経費倒れであるとし,投資顧問会社に対する成功報酬が高いことを指摘するが,成功報酬規定によれば,一定の高い利回りが実現できた場合に限って成功報酬が生ずるものとされているに過ぎない。
また,第1審原告らは,レジデンシャル-ONEの利益に占める運用コストの割合について85.5%となる旨主張するが,レジデンシャル-ONEの全号における利益を通算すると,100年に一度という特殊な不動産不況の状況によって減じてしまった結果を含むことになるから,レジデンシャル-ONEが本来的に持っている欠陥ということはできない。第1審原告らの当該主張の前提となっているレジデンシャル-ONEの各号に係る賃料収入額,運用コストのうち営業者(親特別目的会社)及び投資ビークル(子特別目的会社)のコストについては,各第3下半期に係るものであって,レジデンシャル-ONEの各号における経費全体の内容を示すものではない。
第1審原告らは,レジデンシャル-ONEの全号における賃料収入を通算した金額から,成功報酬を除外した運用コストを差し引いた金額で利回りを計算し,利回りが低いものであったとするが,レジデンシャル-ONEの償還金や分配金の原資は,投資対象不動産の信託受益権の売却金も含まれているから,その計算は,前提を欠き相当ではない。
(2) 記載されるべき事項について記載の欠落があったとする点について
ア レジデンシャル-ONEによって利益を上げるために,賃貸マンションが購入時より高値で売却できることは不可欠ではない。したがって,その旨の記載は不要である。
イ レジデンシャル-ONEのパンフレットには,金融機関からの借入れを用いることが記載されているし,目論見書には,金融機関からの借入れを用いることのほか,当該借入れを行う際,金融機関からの借入比率等に応じて投資者への金銭の分配を制約する等の条項が設けられていること等が記載されている。したがって,レバレッジリスクは記載されている。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,第1審原告らの請求は,第1審被告に対し,それぞれ本判決別紙1認容額等一覧表(当審)の「認容額」欄記載の金額の損害賠償金及びこれに対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,下記(1)ないし(17)のとおり補正し,後記2のとおり追加するほかは,原判決「事実及び理由」第3の1ないし4のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決29頁5行目の「前記前提となる事実」を「前記前提事実(上記第2の1(1)ないし(5)による補正後のもの,以下同じ。)」に改め,同頁6行目の「21」の次に「,27」を加え,30頁9行目及び31頁6行目の各「05年4月号」をいずれも「05年1月号」に改める。
(2) 原判決31頁4行目の「分配金額」を「配当金額」に改め,同頁14行目から15行目にかけての「これらのうちには」の次に「,借入リスクとして,投資対象不動産を購入するために行われる金融機関からの借入れの際,金融機関から借入比率等に応じて投資家への金銭の分配を制約する等の財務制限条項が設けられるなどすることがあり,その結果,投資家への分配金額・償還金額等に悪影響を及ぼす可能性がある旨の記載があるものの,」を加え,同頁16行目の「F2の1」を「F2の3」に,同頁26行目から32頁1行目にかけての「あった(乙B1の3<9,10頁>など)。」を「あり(乙B1の3<9,10頁>,F2の3<12頁>など),また,レジデンシャル-ONEの運用のためにされる,出資金に対する金融機関からの借入金の割合の上限率に関しては,「財務方針」の項目の下に,これを300%ないし400%とすることについての記載があった(乙B1の3<8頁>,F2の3<10頁>,E1の3<10頁>など)。」に,同頁22行目の「乙B1の1」を「乙A4の1,B1の1」に,同頁24行目の「匿名組合契約書では,その1条17号で」を「第1審原告らが出資したレジデンシャル-ONEに係る匿名組合契約書では,その定義規定(1条17号等)において,」にそれぞれ改め,同頁26行目の「同条18号で」を削除する。
(3) 原判決33頁10行目の「と定めている」を「旨定めている」に,同頁19行目の「社内教育体制」を「社内教育態勢」に,同行目の「内部管理体制」を「内部管理態勢」に,34頁16行目の「これらを理解させる」を「これらの」に,同頁18行目の「社内教育体制」を「社内教育態勢」に,35頁8行目の「説明体制」を「説明態勢」にそれぞれ改める。
(4) 原判決35頁10行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
「 第1審被告は,上記行政処分を受け,これに従い,平成22年7月30日付け「改善報告書の提出命令に対するご回答」と題する書面を財務省近畿財務局長あて提出し,社内教育態勢の不備として,営業員向けの勉強会などでレジデンシャル-ONEのメリットを強調した説明等が中心となり,レバレッジリスクについての説明は行われていなかったことや,内部管理態勢の不備として,営業員に対し,顧客にレバレッジリスクに係る説明を行うことの周知徹底が十分に行われなかったこと等を指摘した上で,業務改善命令に係るその対応・実施状況について回答した。」
(5) 原判決35頁14行目の末尾に「なお,第1審原告X1は,当該勤務先の業務として,不動産の賃貸や管理に関わっていた。」を,37頁13行目の「株式会社a」の次に「のほか,所有不動産を賃貸する等を業務とする会社」をそれぞれ加え,同頁18行目から19行目にかけての「甲C1」を「甲C1の2」に,同頁21行目の「入れられている。その後,」を「入れられ,また,株式,債券に関し,今後,価格変動,信用,期限の3つのリスクの説明が不要であり,外国証券に関し,今後,為替リスクの説明が不要である旨のチェックが入れられている。そのころから,」に改め,同頁22行目の「ユービーエスオープン」の次に「(UBSオーストラリアドル建て社債)」をそれぞれ加える。
(6) 原判決38頁6行目末尾に「なお,第1審原告X4は,昭和3年生まれである。」を加え,同頁11行目の「5月21日」を「8月12日」に,同頁18行目の「入れられている」を「入れられ,また,株式,債券に関し,今後,価格変動,信用,期限の3つのリスクの説明が不要であり,外国証券に関し,今後,為替リスクの説明が不要である旨のチェックが入れられている」にそれぞれ改める。
(7) 原判決39頁2行目の「原告X5は」の次に「,平成17年当時,NPOの代表者をしており,その後」を加え,同行目の「勤務している。」を「勤務するなどしている。第1審原告X5は,自らの名義によるものではないが,平成13年ころ,その父親が亡くなった際,その遺産に含まれていた証券,株等の金融商品を売却するなどの管理処分を行い,損害を負う経験をし,また,平成17年ころまでにその妻の株等の取引に関し,その代理として関与する経験を有していた。」に改め,同頁4行目の「原告X5が」の次に「同月4日に」を加え,同頁12行目の「入れられている」を「入れられ,また,株式,債券,転換社債に関し,今後,価格変動,信用,期限の3つのリスクの説明が不要であり,外国証券に関し,今後,為替リスクの説明が不要である旨のチェックが入れられている。これらの記載は,上記妻の株式等の取引の代理等をした経験を踏まえたものであった」に,同頁14行目から15行目にかけての「平成16年」を「平成18年」にそれぞれ改め,同頁16行目の「新規公開株を」の次に「百万円程度のものもあるが基本的には」を加え,同頁20行目及び21行目を削除する。
(8) 原判決40頁22行目末尾に「なお,第1審原告X6は,Cからレジデンシャル-ONEの運用実績等に係る資料(甲G2)を交付された際,その記載内容である予想利回り等について,近所の不動産業者のチラシによる賃料情報等を参考にして,自分なりに検討し納得するなどしていた。」を加える。
(9) 原判決41頁6行目の「不法行為法になる」を「不法行為法上も違法となる」に改め,同頁12行目の末尾に「なお,レジデンシャル-ONEのうち17号以前のものは,募集時点では証券取引法上の有価証券に該当しないが,平成18年法律第66号による改正前の金融商品販売法8条1項,2項1号の規定の趣旨(レジデンシャル-ONEのような不動産の信託の受益権に関する投資事業に係る匿名組合契約の匿名組合員との締結を「金融商品の販売」に含め,金融商品販売業者等は,業として行う金融商品の販売等に係る勧誘をしようとするときは,あらかじめ,当該勧誘に関する方針を定めなければならないものとし,当該方針の内容として,勧誘の対象となる者の知識,経験及び財産の状況に照らし配慮すべき事項について定めるものとしていた。)のほか,第1審被告の担当者らがレジデンシャル-ONEの購入を顧客に勧誘をする際,特にレジデンシャル-ONEについて他の金融商品とは別異の取扱をしていたといった事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらないことに鑑みれば,上記の17号以前のレジデンシャル-ONEについても,その勧誘が適合性の原則から著しく逸脱したものであるときは,同様に不法行為法上も違法になると解するのが相当である。」を加える。
(10) 原判決42頁15行目から16行目にかけての「別紙3ファンド別運用結果一覧表」を「本判決別紙2ファンド別運用結果一覧表(当審)」に,43頁13行目の「上記①」から同頁14行目の「上記のとおり」までを「しかし,上記①の主張については」に,同頁19行目の「重要な要素」を「資料となるべき事情」に,同頁25行目の「ことが可能であるし,」を「のが相当である。」にそれぞれ改める。
(11) 原判決44頁18行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
「 なお,第1審原告X2は,その名義の取引については妻が行っていたものであるから,投資経験がなく積極的な投資意向はないものと主張する。
しかし,仮に,証券会社等との金融商品の取引に係る個別具体的なやりとりを第1審原告X2の妻が行っていたものとしても,証拠(原審における第1審原告X2の本人尋問,乙B13)によれば,第1審原告X2は,平成になったころからその妻が行う取引について,その内容を含めて認識していたこと,平成15年3月ころからの第1審被告における第1審原告X2名義の口座での取引については,妻が行った直後にその内容を聞き,これに特段の異議を述べたことがなかったことが認められることに照らせば,第1審原告X2においても,相応の取引経験があるものと認めるのが相当であるし,平成15年3月に第1審被告あて作成した証券総合サービス申込書(甲B1)の内容は,第1審原告X2の認識・意向に沿うものと推認されるものというべきである。したがって,第1審原告X2は,上記のとおり,金融商品についての取引経験と,積極的な投資意思を有していたものというのが相当である。上記第1審原告X2の主張は採用することができない。」
(12) 原判決45頁1行目の「いること」の次に「,同月21日に第1審被告あて作成したお届出事項追加届には,一定のリスク説明について不要であるという趣旨の記載していること」を,同頁12行目から13行目にかけての「いること」の次に「,同年8月に第1審被告あて作成した証券総合サービス申込書には,一定のリスク説明について不要であるという趣旨の記載していること」をそれぞれ加え,同頁23行目の「チェックを入れており」から同頁24行目の「購入している」までを「チェックし,一定のリスク説明について不要であるという趣旨の記載をしている」に改め,46頁4行目の末尾に「なお,この点に関し,第1審原告X5は,原審における本人尋問において,平成17年10月に第1審被告あて作成した証券総合サービス申込書(甲E1)の取引経験に係る記載は,その妻の取引経験に関する記載である旨供述するが,上記認定のとおり,当該記載は,その妻の株式等の取引の代理等をした経験を踏まえて記載したものであることからすれば,第1審原告X5は,妻の株式等の取引内容について相応の関心と認識をもって関与していたものと推認するのが相当であるから,上記第1審原告X5の供述に鑑みても,第1審原告X5は,金融商品について取引経験があり,一定のリスクを引き受ける投資意向もあるとの上記認定を左右するものではない。」を,同頁14行目の「勧誘することが」の次に「第1審原告X6らの投資経験と投資意向に反するものとまで認めることは困難であると言わざるを得ず,これをもって」をそれぞれ加える。
(13) 原判決47頁3行目の「勧誘時において」の次に「,信義則上」を加える。
(14) 原判決48頁3行目の「原告らがこれらのパンフレット等」を「一般的な投資家が当該記載内容に着目してこれら」に,同頁20行目の「被告の担当者ら」から同頁21行目の末尾までを「第1審原告らは,レジデンシャル-ONEの上記レバレッジリスクの存在を知らなかったものと認められ,第1審被告の担当者らは,そのような第1審原告らに対し,レジデンシャル-ONEへの出資を勧誘時,そのレバレッジリスクの内容等について十分に理解できるよう具体的に説明していないものと認められるところ,上記担当者らの行為は,上記説明義務に違反するものというべきである。そして,証拠(原審における第1審原告X1,第1審原告X5,第1審原告X2,第1審原告X3,第1審原告X7の本人尋問)及び弁論の全趣旨によれば,第1審被告の担当者らにおいて上記説明義務を果たしていれば,第1審原告らは,いずれもレジデンシャル-ONEに出資をしなかったものと認めるのが相当である。」に,同頁22行目から23行目にかけての「上記勧誘は不法行為に該当する」を「上記説明義務に違反した勧誘は不法行為に該当し,第1審被告は,その使用者としてこれによって第1審原告らが被った損害を賠償する義務を負う。」にそれぞれ改める。
(15) 原判決48頁26行目から49頁4行目までを次のとおり改める。
「ア(ア) 前記前提事実(5)に加えて,証拠(甲A9)及び弁論の全趣旨によれば,第1審原告らのレジデンシャル-ONEに係る分配金の合計額(税引前,税引き後)及びその損益の金額(税引き前,税引き後)は,本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表③及び⑤欄記載のとおりと認められる。なお,第1審原告X1は,主位的主張として,そのレジデンシャル-ONEに係る分配金の額(税引き後)及びその損益(税引き後)の額は,原判決別紙4原告ら損益一覧表のX1欄記載のとおりである旨主張するが,その主張内容に鑑み関係証拠を検討しても上記認定は左右されない。
(イ) そして,レジデンシャル-ONEの取引によって第1審原告らに生じた損害の額は,第1審原告らが支払った出資金額(本判決別紙3第1審原告ら損益一覧表の①欄)及び申込手数料(同表の②欄)の合計額から,第1審原告らが現実に受け取った税引き後の分配金額(同表の③「税引き後」欄)及び出資金返還額(同表の④欄)の合計額を控除した金額(同表の⑤「税引き後」欄)とするのが相当である。」
(16) 原判決49頁26行目の「等にも記載があり」を「のほか,レジデンシャル-ONEの運用実績等に係る資料(例えば甲G2)にも記載があり,また,レバレッジリスクについてはともかく,少なくとも不動産価格の下落といった不動産投資特有のリスクを伴うものであることは,パンフレットや上記レジデンシャル-ONEの運用実績等に係る資料に記載されていたものであるから,これらについては」に,50頁16行目の「予測していたものと認められる」を「予測することが可能であったというのが相当である」に,同頁19行目の「乙A10等」を「乙A12等」にそれぞれ改める。
(17) 原判決51頁6行目の「別紙2認容額等一覧表」を「本判決別紙1認容額等一覧表(当審)」に改め,同頁11行目の「なお,」の次に「第1審原告らは,上記のとおり,第1審被告の担当者らの説明義務に違反する勧誘により,それぞれレジデンシャル-ONEへの出資をしたものであるが,これらの不法行為は,第1審原告らそれぞれとの関係において,その取引終了に至るまで一連一体のものとみるのが相当である。したがって,」を加え,同頁12行目の「購入日」を「受渡日」それぞれに改める。
2 当審における補充主張について
(1) 争点(1)(不法行為の成否)について
ア 適合性原則違反について
(ア) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(1)ア(ア)のとおり主張するが,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3(上記1による補正後のもの,以下同じ。)の2(2)イのとおり,レジデンシャル-ONEに係る募集が行われていた当時,証券会社である第1審被告が大幅な元本割れが発生する程度に不動産価格が下落するという事態を予見できたかどうかといった事情は,レジデンシャル-ONEの商品特性の評価に係る一つの事情であるということができるから,その判断の合理性も含め,当該事情は,レジデンシャル-ONEが金融商品としてどのようなリスクを含むのか等を判断する際の資料となり得る事情であるというのが相当である。
(イ) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(1)ア(イ)のとおり主張するが,金融商品への投資をしようとする者にとって,その損失が投資元本に限定されているという事情は,被りうる損失の最大値を予測させるものであることに照らせば,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2(2)イのとおり,損失が元本に限定されているという事情は,一般的な投資家との関係においても,適合性の原則への違反を否定する一つの事情として斟酌することが相当である。
(ウ) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(1)ア(ウ)のとおり主張する。
しかし,レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクが,得られる利益と比して常に大きいとまで評価することを首肯させる事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらないし,レジデンシャル-ONEが投資対象不動産の価格高騰を前提としてしか成り立たない商品であるとまで評価することを首肯させる事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。また,レジデンシャル-ONEの運用報告書における投資対象不動産の評価額がその当時の価格を随時に反映しないものであったことを認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
ところで,前記前提事実(1)のとおり,レジデンシャル-ONEは,原則として中途解約ができず,営業者に対する匿名組合出資持分を第三者に譲渡することはできないところではあるが,金融商品の中には,かかる流動性リスクを有する商品も少なくなく,レジデンシャル-ONEの流動性リスクも表示されていたこと(原判決別紙5「ファンドの概要」欄の「ファンド運用期間」欄及び「中途解約」欄など)からすれば,当該事情をもって,レジデンシャル-ONEの商品特性として,第1審原告らとの関係において,直ちに適合性の原則に反することを基礎付ける事情であるということは困難である。また,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(1)ア,イのとおり,レジデンシャル-ONEのパンフレット,商品説明書ないし目論見書には,リスクとして,レバレッジリスクに関する直接的,具体的な記載はないものの,当該パンフレット,商品説明書ないし目論見書の記載のあり方が,レジデンシャル-ONEの商品特性として,第1審原告らとの関係において,直ちに適合性の原則に反することを基礎付ける事情であるということも困難である。第1審原告らの上記主張は,採用することができない。
(エ) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(1)ア(エ)のとおり主張するが,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2(3)のとおり,第1審原告らが第1審被告の担当者らからレジデンシャル-ONEに係る勧誘を受けた当時,当該主張に係るような投資意向を有し,その投資意向に反していたものとまでいうことは困難である。第1審原告らの上記主張は,採用することができない。
(オ) その他,第1審原告らに対し,レジデンシャル-ONEを勧誘することについて,適合性の原則に著しく反するものとまでいうことができないとした,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の2(4)の認定及び判断を左右するに足りる事情は,証拠上,見当たらない。
イ 説明義務違反について
(ア) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(1)イ(ア)のとおり主張するが,レジデンシャル-ONEのレバレッジリスクは,金融機関からの借入れにより投資対象不動産の物件数を増やす一方,当該借入金債務の弁済が出資金の返還に優先されるというその仕組みに由来するものであり,これをもって,不動産価格の値下がりというリスクが具体化した一般的な経済事象と捉えることは困難である。第1審被告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
(イ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(1)イ(イ)のとおり主張する。
確かに,前記前提事実(3)のとおり,平成19年9月30日施行の平成18年法律第66号による改正前の金融商品販売法3条は,金融商品販売業者等が,金融商品の販売等を業として行おうとするときは,当該金融商品の販売等に係る金融商品の販売が行われるまでの間に,顧客に対し,重要事項を説明する義務があるものとし,その重要事項の内容として,元本欠損のおそれがあるときのその旨とその要因を定めており(同条1項1号),当該金融商品の仕組みについては,平成18年法律第66号による改正後の金融商品販売法3条の重要事項の内容として明文上規定されたところである(同条1項1号ハ)。
しかし,平成18年法律第66号による改正前の金融商品販売法3条1項1号は,単に収益が変動し元本割れが生じるおそれがある旨を告げるだけではなく,その要因を併せて説明することを義務づけており,その説明のためには,通常,リスクがどのような仕組みにより収益変動に至るかについて必然的に説明することとなり,結果的に,金融商品の仕組みがリスクと不可分の事項として説明されるものと解されること,金融商品販売法に係る国会での法案審議において,金融商品の仕組みに関し,平成18年法律第66号による改正前の同法3条に規定する重要事項に密接に関連する部分については「当然に説明する必要性があり,当然説明されることになる。」との政府参考人の言及がなされていること(甲48),上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(2)イのとおり,第1審被告は,財務省近畿財務局から,平成22年6月25日,平成16年12月以降のレジデンシャル-ONEの販売に係る顧客に対する勧誘行為について,投資判断に影響を及ぼす重要な事項であるレバレッジリスクを説明していない状況が認められたとされた上で重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為が長期にわたり継続して行われていた状況等を指摘され,金融商品取引法に基づく行政処分を受けていること,第1審被告は,当該行政処分に従い,同年7月30日付け「改善報告書の提出命令に対するご回答」と題する書面で,少なくとも内部管理態勢の不備として,その営業員に対し,顧客にレバレッジリスクに係る説明を行うことの周知徹底が十分に行われなかったことを自ら指摘した上で,業務改善命令に係るその対応・実施状況を財務省近畿財務局長あて回答していること,そして,上記の金融商品販売法3条の規定の趣旨に従ってレジデンシャル-ONEのリスクを説明するためには,投資対象不動産の価格の値下がりという要因だけではなく,金融機関からの借入債務の弁済が優先される結果,元本欠損のおそれが生じるという,レジデンシャル-ONEの仕組みの具体的な説明が不可分のものとして必要であると解されることに照らせば,平成18年法律第66号による改正前の金融商品販売法3条に金融商品の仕組みが明文上規定されていなかったことに鑑みても,第1審被告は,レジデンシャル-ONEの勧誘時において,信義則上,顧客に対し,そのレバレッジリスクについて十分に理解できるよう具体的に説明すべき義務があったとした,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の3(1)イの認定及び判断は左右されるものではない。第1審被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(1)イ(ウ)ないし(オ)のとおり主張するが,その主張の根拠とするところは,必ずしも証拠上明らかではないほか,上記(イ)において判示したとおり,上記の金融商品販売法3条の規定の趣旨に従ってレジデンシャル-ONEのリスクを説明するためには,その原因となるレジデンシャル-ONEの仕組みの具体的な説明が不可分のものとして必要であると解されることなどに照らせば,当該主張は,いずれも採用することができない。
(エ) その他,第1審被告の主張に照らして関係証拠を検討しても,第1審被告の担当者らが第1審原告らに対し,レジデンシャル-ONEへの出資を勧誘時,レバレッジリスクの内容等について十分に理解できるよう具体的に説明していないことについて,第1審被告が負う説明義務に違反しているものとした,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の3(3)の認定及び判断を左右するに足りる事情は,見当たらない。
(2) 争点(2)(損害賠償額)について
ア(ア) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)ア(ア)のとおり主張する。
上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の4(2)ア(ウ)のとおり,第1審原告らが投資したレジデンシャル-ONEの運用報告書(乙A12等)によれば,元本割れしたレジデンシャル-ONEの多くで,投資対象不動産は,その物件投資金額から3割から4割程度減額された額で売却されているが,同3(3)のとおり,第1審被告の担当者らは,第1審原告らに対し,レジデンシャル-ONEへの出資を勧誘時,レバレッジリスクの内容等について十分に理解できるよう具体的に説明せず,第1審原告らは,第1審被告の担当者らにおいて第1審被告の負う同(1)イの説明義務を果たしていれば,いずれもレジデンシャル-ONEに出資をしなかったものであり,また,前記前提事実(1)のとおり,レジデンシャル-ONEは,投資後,3年間の運用期間中,原則として営業者との間の匿名組合契約を中途解約をすることができないのであるから,第1審原告らが,自らの判断で出資者としての地位を維持,保有し続けていたということもできないことを踏まえれば,結局,第1審原告らは,第1審被告の担当者らから上記説明がなかったために出資金が毀損する損害を被ったものということができる。そして,第1審原告らのレジデンシャル-ONEに対する投資資金が,当該投資という出来事がなくても,当時の不動産価格の一般的な下落分に相当する減額を免れ得ない性質の財産であったことを首肯させるような事情を認めるに足りる的確な証拠も見当たらない。
以上によれば,第1審被告の担当者らの説明義務に違反する勧誘によって第1審原告らがレジデンシャル-ONEに投資したこと自体により被った損害との間には,投資対象不動産の価格の値下がり分も含めて相当因果関係があるものというべきである。第1審被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)ア(イ)のとおり主張するが,第1審原告らが支払った申込手数料は,レジデンシャル-ONEに係る出資がなければ支払うことがなかったものであるから,当該出資が第1審被告の担当者らの説明義務に違反する勧誘によってされたものである以上,第1審被告の当該不法行為と上記申込手数料との間には,相当因果関係があるものというべきである。第1審被告の上記主張は,採用することができない。
イ(ア) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)イ(ア)のとおり主張する。
しかし,前記前提事実(1)のとおり,レジデンシャル-ONEが,金融商品としては,予め分配金や償還金の仕組みを想定していること,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の4(3)のとおり,第1審被告の担当者らの説明義務に違反する不法行為は,第1審原告らそれぞれとの関係において,その取引終了に至るまで一連一体のものとみるのが相当であることに照らせば,レジデンシャル-ONEの各号に係る分配金や償還金の金額如何は,当該不法行為によって第1審原告らが被った損害の確定の問題であるというのが相当であり,これを損益相殺の問題とすることは相当ではない。第1審被告の上記主張は,採用することができない。
(イ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)イ(イ),(ウ)のとおり主張するが,当該各主張が採用できないことは,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の4(1)イのとおりである。
ウ 過失相殺に関する考慮事情ないし割合について
(ア) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(2)ウ(ア)のとおり主張するが,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1で認定した事実によれば,損害の公平な分担という観点に照らし過失相殺が許されないものとまでの事情があるものということは困難であるし,また,当該主張に沿って関係証拠を検討しても,他にこれを首肯させる事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。第1審原告らの上記主張は,採用することができない。
(イ) 第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(2)ウ(イ)のとおり主張するが,当該主張に沿って上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(3)で認定した事実に鑑みても,第1審原告らについて,いずれもその過失割合を3割とした,同4(2)イの認定及び判断を左右するまでには足りないというのが相当であるし,また,当該主張に沿って関係証拠を検討しても,他に上記認定及び判断を左右する事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
(ウ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)ウ(ア)のとおり主張する。
しかし,レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクを投資対象不動産の価格の値下がりというリスクが具体化した一般的な経済事象と捉えることが困難であり,それ自体説明を要する事項ではないとする第1審被告の上記主張が採用することができないことは,上記(1)イ(ア)のとおりである。また,レジデンシャル-ONEのパンフレットに金融機関からの借入れを用いることが記載されていることからレバレッジリスクについて第1審原告らは認識し得たとする第1審被告の上記主張が採用できないことは,上記(1)イ(イ),(ウ)のとおりである。そして,第1審被告は,レジデンシャル-ONEの商品特性に関する情報量について第1審被告と第1審原告らとは大きな差がないと主張するが,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(3)のとおりの第1審原告らの投資経験の内容を踏まえても,金融商品取引業を目的とする株式会社である第1審被告との関係において,レジデンシャル-ONEの商品特性に関する情報量につき第1審被告と第1審原告らとは大きな差がないとする評価が妥当するものとは解されないから,第1審被告の当該主張は,採用することができない。さらに,第1審被告は,第1審原告らは,レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクの認識可能性は取引を重ねていく上で深まっていくものであり,これを過失相殺において考慮するべきである旨主張するが,第1審原告らが,レジデンシャル-ONEに係る取引を行うことによって,そのレバレッジリスクについての認識可能性がどの程度変化し得たかについて具体的に認定するに足りる的確な証拠は見当たらない。
これらからすれば,第1審被告の上記主張に鑑みても,第1審原告らについて,いずれもその過失割合を3割とした,同4(2)イの認定及び判断を左右するまでには足りない。
(エ) 第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(2)ウ(イ)のとおり主張するが,当該主張に沿って上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(3)で認定した事実に鑑みても,第1審原告らについて,いずれもその過失割合を3割とした,同4(2)イの認定及び判断を左右するまでには足りないというのが相当であるし,また,当該主張に沿って関係証拠を検討しても,他に上記認定及び判断を左右する事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
なお,第1審被告は,第1審原告X1が第1審被告の担当者らに実質的に利回り保証を求めた旨主張する。確かに,証拠(甲C5,原審における第1審原告X1の本人尋問)によれば,平成16年6月28日ころ,レジデンシャル-ONEの取引に関し,第1審被告の担当者らが第1審原告X1に対し,レジデンシャル-ONEの購入に用いた元金金利が銀行金利を下回った場合は,新規公開株の割当等での穴埋めを約束する旨発言したことが認められる。しかし,そのような約束に至る経過は,証拠上明らかではないほか,実際にそのような新規公開株の割当等が行われたことを認めるに足りる的確な証拠も見当たらないことに鑑みれば,第1審原告X1が第1審被告の担当者らに実質的に利回り保証を求めたものとまでは認めるには足りず,上記約束をもって,第1審原告X1の過失割合認定に際して,第1審原告X1に不利な事情として考慮すべきとまではいえない。
また,第1審被告は,第1審原告X5は,第1審被告の担当者らによるレジデンシャル-ONEのリスクに係る説明を期待していなかったから,第1審被告の担当者らに説明義務違反の不法行為があっても,これによる損害賠償をすることは,禁反言として許されない旨主張するが,第1審原告X5が第1審被告の担当者らによるレジデンシャル-ONEのリスクに係る説明を期待していなかったというべき事情を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。第1審被告の上記主張は,採用することができない。
(3) 金融商品取引法17条に基づく責任について
ア なお,第1審原告らは,上記第2の2(第1審原告ら)(3)のとおり主張する(この点,第1審被告は,第1審原告らの当該主張について,上記第2の2(第1審被告)(3)ア(ア)のとおり主張するが,第1審原告らの当該主張により訴訟の完結を遅延させることとなるものとは認められないから,採用することができない。)。
イ 上記第2の2(第1審原告ら)(3)の主張は,レジデンシャル-ONEのような匿名組合契約が平成16年法律第97号により証券取引法上のみなし有価証券とされた05年1月号からのレジデンシャル-ONEに関し,第1審被告の金融商品取引法17条に基づく責任を主張するものと解される(平成18年法律第65号附則14条,平成16年法律第97号附則1条3号,2条1項,3条)。
ウ 上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(1)アのとおり,第1審被告の担当者らは,顧客に対し,概ねパンフレットを用いて商品内容等についての説明を行っていたものであり,当該パンフレットには,レバレッジリスクに関する記載は無かった。証拠(原審における証人D,同E<第1,2回>,同F,同G,同C)によれば,第1審被告の担当者らは,第1審原告らに対し,上記パンフレットを交付してレジデンシャル-ONEの勧誘をしたことが認められる。確かに,同イのとおり,目論見書及び商品説明書には,レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクに関する直接的,具体的な記載はないものの,金融機関からの借入金の優先弁済及び出資金に対する借入金の割合の上限率に係る記載があるから,レバレッジリスクに関する記載がないものとまでいうことはできず,また,同ウのとおり,重要事項確認書には,レジデンシャル-ONEが出資元本及び配当金額を保証するものではないことが記載されているところではあるが,一般の投資家において,当該各記載の内容によってレバレッジリスクの内容を理解することは困難であるというのが相当であって,仮に,第1審被告の担当者らが第1審原告らに対するレジデンシャル-ONEに係る勧誘を行うに当たり,上記パンフレットの他に,上記目論見書,商品説明書又は重要事項確認書を交付していたものとしても,上記パンフレットにおけるレジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクの記載が存在しないことを補うものということもできない。そして,レバレッジリスクは,その内容からして,投資家にとってその投資判断に極めて重要な影響を及ぼすものというのが相当である。
そうすると,少なくとも,第1審被告の担当者らが使用したパンフレットには,誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けているものといわざるを得ない。そして,同3(3)のとおり,第1審原告らは,レジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクの存在を知らず,第1審被告の担当者らの上記勧誘により,レジデンシャル-ONEを購入したものであるから,第1審被告は,誤解を生じさせないために必要な事実の表示が欠けている資料を使用して,当該事実の記載を欠いていることを知らない第1審原告らにレジデンシャル-ONEを取得させたものと認められる。
第1審被告は,上記第2の2(第1審被告)(3)ア(イ)のとおり,レジデンシャル-ONEのパンフレットに金融機関からの借入れを用いることが記載されていることからレバレッジリスクの存在に誤解を与えることはない旨主張するが,当該主張を採用することできないことは,上記(1)イ(イ),(ウ)のとおりである。
なお,上記第2の2(第1審被告)(3)ア(ウ)の主張が,上記パンフレットにおけるレジデンシャル-ONEに係るレバレッジリスクの記載が存在しないことにつき,第1審被告においてこれを知らず,かつ,相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかったとの主張を含むものと解したとしても,当該主張を首肯させる事情を認めるに足りる証拠は見当たらず,上記主張が証明がされたものということはできない。第1審被告の当該主張は採用することができない。
エ したがって,第1審被告は,その余の点を判断するまでも無く,金融商品取引法17条の適用を受ける限度で損害賠償義務を負う。しかし,これによる損害額については,同条が故意過失の立証責任の点において不法行為法上の特則であると解されることに加えて,これまでに認定説示してきた諸事情に鑑みると,第1審原告らと第1審被告の過失割合も含め,上記1で引用に係る原判決「事実及び理由」第3の4のとおりの損害を超えるものではないと認められる。
(4) その他,第1審原告ら並びに第1審被告及び同補助参加人の主張に鑑み,関係証拠を検討しても,これまでの認定及び判断を左右するものは見当たらない。
第4結論
以上によれば,第1審原告らの請求は,第1審被告に対し,それぞれ本判決別紙1認容額等一覧表(当審)の「認容額」欄記載の金額の損害賠償金及びこれに対する同表の「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がないところ,これと異なり,第1審原告X1の請求について,909万4383円及びこれに対する平成19年7月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の限度で認容し,その余を棄却した原判決は一部失当であって,第1審原告X1の本件控訴は一部理由があるから,当該控訴に基づき,第1審原告X1に係る原判決を上記の限度で変更し,その余の第1審原告ら及び第1審被告の本件各控訴にはいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 泉薫 裁判官 内野宗揮)
<以下省略>