大阪高等裁判所 平成23年(ネ)3569号 判決 2012年5月16日
東京都中央区<以下省略>
控訴人
GA株式会社
同代表者代表取締役
Y1
さいたま市<以下省略>
控訴人
Y1
東京都中央区<以下省略>
控訴人
Y2
上記3名訴訟代理人弁護士
寺尾幸治
和歌山県<以下省略>
被控訴人
X1
和歌山県<以下省略>
被控訴人
X2
上記両名訴訟代理人弁護士
石津剛彦
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人らの負担とする。
第2事案の概要
1 事案の要旨(以下,略語は原判決の表記に従う。また,控訴人GA株式会社を控訴人会社といい,その余の当事者は「氏」で表記する。)
被控訴人らは,控訴人会社との間で商品CFD取引(本件取引<店頭差額決済取引>・証券取引所等を介さずに客と会社の相対取引を行い,現物の受渡しは想定されていない取引)を行った。控訴人Y1は控訴人会社の代表者,控訴人Y2は控訴人会社の従業員であり,被控訴人らに本件取引の説明等をした者である。被控訴人らは控訴人らに対し,①本件取引は違法な賭博行為であり,同取引に勧誘したこと等が不法行為に該当するとして,不法行為(共同不法行為)に基づく損害賠償を求めるとともに,②控訴人Y1に対しては職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったとして,①と選択的に,会社法429条1項に基づく損害賠償を求めるものである(附帯請求は最終の証拠金支払日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金請求である。)。
2 訴訟経緯
(1) 原判決(一部認容)の要旨
ア 争点(1)(本件取引の違法性<控訴人らに対する不法行為責任の成否・本件取引の賭博性など>)
被控訴人らにとって,本件取引は不確実な相場変動を指標として多額の財物の得喪を争う意味しかなく,このような取引に社会的相当性はない。証拠上,本件取引の違法性阻却事由はない。要するに,本件取引は違法な賭博行為であり,本件取引を被控訴人らに行わせた控訴人会社の行為は不法行為に該当する(民法709条)。そして,被控訴人Y1は本件取引を行っていた控訴人会社の代表取締役であり,本件取引を控訴人会社の業務として遂行していたこと,控訴人Y2は,控訴人会社の業務として,被控訴人らに対して本件取引への参加を勧誘し,証拠金預託事務等を行ったことから,控訴人Y1及び控訴人Y2も控訴人会社と一体となって違法取引を行っていたといえる。よって,各人に不法行為が成立し,控訴人らには共同不法行為(民法719条1項)が成立する。
イ 争点(2)(損害額)
(ア) 被控訴人X1の損害
被控訴人X1は,上記不法行為により証拠金として303万4580円を支払ったから,同額の損害を被ったものの,控訴人会社から合計70万6560円の返還を受けているから,同額を損益相殺する。
慰謝料請求は金銭賠償以上の無形的損害が生じたとは認められないから,理由がない。弁護士費用相当額は,本件訴訟の難易,認容額などを考慮すれば,25万円が相当である。
よって,損害合計は257万8020円となる。
(イ) 被控訴人X2の損害
被控訴人X2は,上記不法行為により証拠金として130万円を支払ったから,同額の損害を被ったものの,控訴人会社から1万5041円を受領しているから,同額を損益相殺する。
慰謝料請求は,上記同様に理由がない。弁護士費用相当額は,上記同様の考慮をすれば,13万円が相当である。
よって,損害合計は141万4959円となる。
ウ 争点(3)(控訴人Y1に対する会社法429条責任)
判断しない。
(2) これに対して,控訴人らが本件控訴を提起した。したがって,本件における審判の対象は,被控訴人らが主張する損害賠償請求権の成否である。
3 前提事実(争いのない事実並びに原判決文中掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
原判決2頁21行目から5頁23行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
4 争点及び争点についての当事者の主張
原判決5頁24行目から8頁7行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
5 控訴人らの当審補充主張
(1) 本件取引が賭博に当たらないこと
原判決は,本件取引が賭博に当たり,違法であると判断したが,不当である。本件取引は賭博に当たらない。その理由は,①本件取引の一種である外国為替証拠金取引(FX取引)は法規制を受けているので,違法ではないといわれているが,経済的実質は本件取引もFX取引も同じであり,業者と顧客の間に偶然の勝敗によって財産の得喪を争う関係はないこと(乙33),②平成21年改正商品先物取引法施行以後における,施行以前のCFD取引の扱いにつき,施行以前の建玉を決済することが認められているが,これは施行以前の建玉を公序良俗違反による無効という扱いをしていないことを意味する。
(2) 違法性判断の枠組み
本件取引の違法性判断について,まず賭博行為該当性を考える手法は議論が大雑把になる上,金融商品開発を委縮させることになるので,本件取引の実態を詳細に認定した上で,先に適合性原則違反,説明義務違反等の有無を検討すべきである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人らの請求は原判決の認容する限度で理由があると判断する。その理由は,原判決説示のとおりであるから,これを引用する。
2 控訴人らの当審補充主張について
(1) 本件取引が賭博に当たらないこと
控訴人らは,①本件取引は違法ではないといわれているFX取引と経済的実質は同じであり,業者と顧客の間に偶然の勝敗によって財産の得喪を争う関係はないこと,②平成21年改正商品先物取引法は同法施行以前の建玉決済を認めるが,これは同法施行以前の建玉を公序良俗違反による無効と扱っていないことを理由に,本件取引は賭博に当たらない旨主張する。
しかし,上記①については,本件取引は,その決済方法は注文に対する反対売買による差金決済のみであり,現物の受け渡しは全く想定されておらず,売買差額の受払い自体を目的とする取引であると認められ,これらの売買差額は当事者が関与できず,正確に予測もできない各取扱商品の市場価格を元に決定される価格によって計算されるのであるから,各取扱商品の市場における価格変動という偶然かつ不確実な要素を用いて財物の得喪を争う取引に当たり,賭博行為に該当すると認められることは原判決説示のとおりである。上記②については,平成21年改正商品先物取引法が同法施行以前の建玉決済を認める趣旨は消費者保護の見地から消費者に簡易迅速な契約解消手段等を認めるものであって,規制対象としている取引を適法な取引として保護する趣旨ではないと解されるから,上記建玉決済が認められるからといって,CFD取引の違法性が阻却されるものではない。
したがって,本件取引は賭博行為に該当するところ,公の取引所において取引されるものでもなく,その他の違法性阻却事由も認められないから,違法な取引行為といわざるを得ないのであって,控訴人らの主張は理由がない。
(2) 違法性判断の枠組み
控訴人らは,本件取引について,賭博行為該当性より適合性原則違反,説明義務違反等の有無の検討を優先させるべき旨主張する。
しかし,本件取引の違法性判断について,そのような優先関係を付すべき根拠はないから,原判決の説示方法が不当とはいえない。
したがって,控訴人らの主張は理由がない
3 以上のとおりであって,原判決は相当であり,本件各控訴はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 赤西芳文 裁判官 片岡勝行 裁判官 山口芳子)