大阪高等裁判所 平成23年(行コ)19号 判決 2013年4月25日
主文
1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 控訴人a関係
(1) 第1審甲事件
ア 豊能税務署長が平成17年7月19日付けでした控訴人aの平成14年分の所得税の更正のうち,総所得金額4852万5823円,還付を受けるべき税額238万1400円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち過少申告加算税の額6万9000円を超える部分を取り消す。
イ 豊能税務署長が平成17年7月19日付けでした控訴人aの平成15年分の所得税の更正のうち,総所得金額430万5199円,還付を受けるべき税額352万6090円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
(2) 第1審丁事件
ア 豊能税務署長が平成19年3月2日付けで控訴人aに対してした平成16年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
イ 豊能税務署長が平成19年5月18日付けで控訴人aに対してした平成17年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
3 控訴人b関係
(1) 第1審乙事件
ア 三木税務署長が平成17年2月21日付けでしたcの平成13年分の所得税の更正のうち,総所得金額2314万3045円,還付を受けるべき税額767万3750円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
イ 三木税務署長が平成17年2月21日付けでしたcの平成14年分の所得税の更正のうち,総所得金額3042万7791円,還付を受けるべき税額871万6530円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
ウ 三木税務署長が平成17年2月21日付けでしたcの平成15年分の所得税の更正のうち,総所得金額2245万3408円,還付を受けるべき税額864万3050円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。
(2) 第1審丙事件
ア 三木税務署長が平成19年3月2日付けでcに対してした平成16年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分(ただし,還付を受ける税額826万0250円を超える部分)を取り消す。
イ 三木税務署長が平成19年5月18日付けでcに対してした平成17年分所得税に係る更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要
以下においては,文中に記載するもののほか,原判決別紙略称一覧表記載のとおり略称を用いる(ただし,上記略称一覧表1枚目の「【当事者等】」欄の2行目に「原告c」とあるのを「c」と,3行目に「原告ら」とあるのを「控訴人aら」と,5行目に「承継人b」とあるのを「控訴人b」と,「【法令,概念等】」欄の4行目に「本件LPS法」とあるのを「州LPS法」とそれぞれ改め,以下同様に読み替える。本判決における原判決引用部分についても同様に読み替える。)
1 事案の骨子
(1) 本件は,控訴人aら(控訴人a及びc)が,外国信託銀行であるd銀行との間で同銀行を受託者とする信託契約を締結し,同銀行をして,本件GP(P)又は本件GP(C)(以下「本件各GP」という。)との間で,米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法(州LPS法)に準拠して,自らがリミテッド・パートナーとなるリミテッド・パートナーシップである本件LPS(P)又は本件LPS(C)(以下「本件各LPS」という。)を設立する旨のパートナーシップ契約である本件LPS契約(P)又は本件LPS契約(C)(以下「本件各LPS契約」という。)を締結させ,信託契約に基づいて控訴人aらが拠出した現金資産を本件各LPSに対して出資させたところ,本件各LPSにおいて,米国所在の中古集合住宅である本件建物(P)又は本件建物(C)(以下「本件各建物」という。)を購入し,これを賃貸する事業(以下「本件各不動産賃貸事業」という。)を行ったことから,本件各不動産賃貸事業に係る所得は控訴人aらの所得税法26条1項所定の不動産所得に当たり,その賃貸料等を収入金額として減価償却費等を必要経費として不動産所得の金額を計算すると,損失の金額が生ずるとして,①その減価償却費等による損益通算をして所得の確定申告書又は修正申告書を提出したところ,処分行政庁から,所得税の更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受け,又は②当該損益通算をせずに確定申告書又は修正申告書を提出した後,損益通算をすべきであったとして更正の請求をしたところ,処分行政庁から,更正すべき理由がない旨の通知処分を受けたため,これらの処分は違法であると主張して,被控訴人に対し,控訴人aにつき,本件a各更正処分(ただし,控訴人a主張の総所得金額及び納付すべき税額を超える部分。),本件a各賦課決定処分及び本件a各通知処分の取消しを,cにつき,本件c各更正処分(ただし,控訴人b主張の総所得金額及び納付すべき税額を超える部分。),本件c各賦課決定処分及び本件c各通知処分(以下,本件a各更正処分と本件c各更正処分を併せて「本件各更正処分」といい,本件a各賦課決定処分と本件c各賦課決定処分を併せて「本件各賦課決定処分」といい,本件a各通知処分と本件c各通知処分を併せて「本件各通知処分」といい,これらの処分を全て併せて「本件各処分」という。)の取消しを,それぞれ求めた事案である(なお,cは原審口頭弁論終結前に死亡し,控訴人bが,相続により同人の権利義務を承継したことに伴い,原審において,同人の訴訟手続を承継した。)。
これに対し,被控訴人は,本件各LPSから受託銀行であるd銀行を介して控訴人aらに割り当てられた本件各不動産賃貸事業に係る損益について,①本件各LPSは我が国の租税法上の「法人」又は「人格のない社団」に該当するから,当該損益は,本件各LPSに帰属するものであって,控訴人aらに直接帰属するものではなく,②本件各LPSが我が国の租税法上の「法人」又は「人格のない社団」に該当しないとしても,州LPS法の解釈及び本件における事実関係の下では,控訴人aらは本件各建物の貸主となり得る権原を有しておらず,控訴人aらが本件各建物を貸し付けているとは認められず,当該損益は控訴人aらの不動産所得(所得税法26条1項)には該当しないので,本件各不動産賃貸事業から生じた損失が本件各LPSから受託銀行であるd銀行を通じて控訴人aらに割り当てられたとしても,当該損失は,控訴人aらの「不動産所得の金額」の「計算上生じた損失の金額」(同法69条1項)に当たらず,これをもって損益通算をすることはできないから,本件各更正処分及び本件各通知処分は適法であり,控訴人aらには国税通則法65条4項の「正当な理由」はないから,本件各賦課決定処分も適法であると主張した。
したがって,原審では,<ア>本件各LPSの租税法上の法人該当性,<イ>本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性,<ウ>本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性,<エ>国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無が争点となった。
(2) 原判決は,要旨,以下のとおり判断して,控訴人らの請求をいずれも棄却した。
ア 上記<ア>の争点について
(ア) 我が国の租税法上の法人とは,「自然人以外のもので,権利義務の主体となることができるもの」をいうから,外国の法令に準拠して設立された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かの判断は,①その構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有するか否か,②その名において契約等の法律行為を行い,その名において権利を取得し義務を負うなど,独立した権利義務の帰属主体となり得るか否か,③その権利義務のためにその名において訴訟当事者となり得るか(以下,①,②及び③をそれぞれ「原判決基準①」,「原判決基準②」及び「原判決基準③」といい,これらを併せて「原判決基準」という。)という基準によるのが相当であり,これで必要かつ十分である。
(イ) 本件各LPSは原判決基準①ないし③の基準を充足しているものと認められるから,我が国の租税法上の法人に該当する。
(ウ) そうすると,本件各LPSが営む本件各不動産賃貸事業から生じた損益は,本件各LPS自身に帰属することとなり,本件各LPSをパススルーして不動産所得の性質を有したまま控訴人aらに直接帰属するということはできないから,上記損益は控訴人aらの不動産所得に該当しない。したがって,控訴人らが本件訴訟で争っている本件各不動産賃貸事業に係る各損失は,控訴人aらの「不動産所得の金額」の「計算上生じた損失の金額」(所得税法69条1項)に該当せず,控訴人aらは,上記各損失をもって損益通算の適用を受けることができないから,本件各更正処分及び本件各通知処分はいずれも適法である。
イ 上記<エ>の争点について
(ア) 過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであり,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定める「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,かつ,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいう。
(イ) 控訴人らが本件訴訟で争っている本件各LPSが営む本件各不動産賃貸事業に係る各損失を不動産所得に該当するとして損益通算ができると判断したことは,控訴人らの主観的な事情に基づく単なる法律解釈の誤りにすぎないから,「真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合」に該当するとはいえない。したがって,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるということはできないから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
(3) 控訴人らは,原判決を不服として,本件各控訴を提起した。
被控訴人は,当審において,予備的主張として,仮に,本件各LPSについて構成員課税が行われ,本件各不動産賃貸事業から生じた損益が不動産所得に当たるとしても,有限責任構成員であるリミテッド・パートナーの地位にある控訴人aらは,割当てを受けた損失のうち出資額を超える部分については責任を負わないから,その部分を必要経費に計上することはできないものであり,したがって,本件各不動産賃貸事業から生じた損失の全部を控訴人aらの「不動産所得の金額」の「計算上生じた損失の金額」として損益通算することは許されないとの主張を追加した。
2 関係法令の定め,前提事実並びに争点及びこれに対する当事者の主張は,次の3のとおり当審における当事者の追加・補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2,3及び「第3 主たる争点及び当事者の主張」(原判決3頁18行目から23頁2行目まで。上記各部分で引用されている原判決の別紙,別表を含む。)のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決11頁17行目の「原告」を「c」と改める。
3 当審における当事者の追加・補充主張
(控訴人ら)
(1) 本件各LPSの租税法上の法人該当性について
ア(ア) 法人という概念自体は,内国のものであろうと外国のものであろうと,共通かつ同一の概念であるから,外国の法人についても,第一次的には,内国法人と同じく,当該外国の法令が当該事業体を法人とする(当該事業体に法人格を付与する)旨規定しているか否か(以下「控訴人ら基準①」という。)という形式的判断により法人該当性を判断するのが論理的帰結である。もっとも,諸外国の法制・法体系は様々であり,我が国の「法人」概念に相当する概念が諸外国において形成されるに至った沿革や背景事情等も多様であると考えられることから,当該外国の法令の規定内容をその文言に従って形式的に見るだけでなく,当該事業体の実質を考慮するとしても,我が国の租税法が規定する法人の課税関係を含む各種事業体の課税関係を詳細に分析・観察すると同時に,当該事業体を,当該外国法の法令が規定するその設立,組織,運営及び管理等の内容に着目して経済的,実質的に見て,我が国の法人と同様に損益の帰属すべき主体(その構成員に直接その損益が帰属することが予定されない主体)として設立が認められたものといえるか否か(以下「控訴人ら基準②」という。)という基準によって法人該当性を判断すべきである。
(イ) 人格のない社団や任意組合も,その名において訴訟当事者となり得るから,原判決基準③は法人と法人でない事業体を区別する基準とはなり得ないなど,原判決基準①ないし③はいずれも,外国の事業体が法人と法人でない団体のいずれに該当するかを区別する基準として機能し得ない。
イ(ア) 本件各LPS契約の「各パートナーは,本件各LPSの資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当する不可分の持分を有する」との規定(4.5条)は,リミテッド・パートナーが本件各LPSの資産についてエクイティ上の所有権を有すること,本件各LPSの事業により生じた損益がパートナーシップ財産のエクイティ上の所有者であるリミテッド・パートナーに直接帰属することを確認したものである。
本件各LPSがその特有財産について独立した所有権の帰属主体となるとの被控訴人の主張は,何の根拠もない。
(イ) また,本件各LPS契約の損益の割当てに関する条項(4.7条及び4.8条)は,受託銀行であるd銀行を通じて不動産賃貸事業を営む控訴人aらに対する税務上の取扱いが,純額(ネット)ベースではなく,総額(グロス)ベースで行われていたこと,本件各LPSの総額の損益(収益の総額と費用の総額)を,何らの機関決定を経ることなく,かつ,不動産賃貸損益等の所得の性質を変えることなく,控訴人aらに対してそれぞれ直接に帰属させる取扱いが,契約上も事実上もされていたことを示している。LPSの事業によって生じた損益が各パートナーに直接帰属することは,米国のパートナーシップ法制の歴史上は当然のことである。
(ウ) デラウェア州においてLPSを設立するためには,LPS証明書の提出のほか,リミテッド・パートナーシップ契約の締結が必要であるところ,州LPS法201条(d)によれば,リミテッド・パートナーシップ契約の締結は,LPS証明書を提出した後でも可能とされており,この規定は,LPS証明書が提出されたか否か,提出された時期如何が,LPSの設立に何らの影響も及ぼさないことを示している。
一方,リミテッド・パートナーシップ契約が締結されていれば,LPS証明書が提出されていなくても,契約当事者間はもとより,一定の第三者(例えば,責任制限を許容して取引関係に入った債権者)との関係においても,LPSの存在は認められている。これは,LPS証明書の提出が第三者の保護のためであり,これが提出されないことは当事者間の権利及び責任に影響を及ぼさないと解されているからである。
以上のとおり,LPS証明書の提出は,LPSの設立に必須の要件ではなく,LPS証明書を提出する意義は,有限責任のみを有するリミテッド・パートナーというパートナーの参加を認めているLPSであることをいかなる第三者との関係においても主張するための対抗要件として位置付けられる。
そもそも,日本法においても,労働組合や宗教団体は,登記ではなく一定の要件を満たしたときに法人とされ,投資事業有限責任組合は,登記を備えていても法人ではない。このように,LPS証明書の提出は,LPSの法人該当性の判断とは無関係である。
ウ 以上によれば,本件各LPSは,我が国の租税法上の「法人」には該当しない。
(2) 本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性について
最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁が示した人格のない社団の4要件を丁寧にあてはめれば,本件各LPSが人格のない社団に該当しないことは明らかである。
(3) 本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性について
被控訴人の主張は,根拠なく所得税法26条の規定の文言を離れて独自の要件を付加するものである。
(4) 必要経費として計上することができる金額について(被控訴人の当審における新主張に対する反論)
被控訴人の主張は,所得税法37条1項に対する「別段の定め」又は同法69条1項に対する除外規定を挙げることなく,有限責任であることを根拠として不動産所得の計算上必要経費に算入すべき金額を制限しようとするものである。これは,所得税法の明文に反する取扱いをすべきというもので,不当である。
(被控訴人)
(1) 本件各LPSの租税法上の法人該当性について
ア 我が国の租税法上の法人とは,「自然人以外のもので,権利義務の主体となることができるもの」をいうから,外国の法令に準拠して設立された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かの判断は,原判決基準
① ないし③によるのが相当であり,これで必要かつ十分である。
イ 仮に,本件各LPSの租税法上の法人該当性を判断する基準として,控訴人ら基準①,②によったとしても,本件各LPSは,以下のとおり,控訴人ら基準①,②を満たすから,我が国の租税法上の「法人」に該当する。
(ア) 州LPS法における「separate legal entity」の規定が,「同法に基づくLPSは(その構成員から)独立した法的主体である」と規定している以上,これをその文言から読み取れるとおり解釈し,この規定を踏まえた上で,州LPS法により設立されたLPSに対し,法的主体として具体的にどのような権利・義務が付与されているのかを検討して,法人格を付与する旨の規定といえるか否かを判断すべきである。
州LPS法には,「パートナーは,特定のLPS財産に対していかなる持分も所有しない」との規定があること,本件各LPSが契約当事者となって本件各建物の売買契約を締結するとともに,米国の登録所に本件各建物の所有者として登録されていることからすれば,本件各LPSがその特有財産について独立した所有権の帰属主体となることは明らかであり,財産の所有に関して,本件各LPSは,任意組合の持ち得ない権利能力を有している。一方,「separate legal entity」に我が国の租税法上の「法人」と異なる法律効果が認められている根拠はない。
したがって,控訴人ら基準①によっても,本件各LPSが準拠法によって法人とする旨規定されているとみることができる。
(イ) 無限責任を負うジェネラル・パートナーが存在するからといって,本件各LPSが損益の帰属主体とならないとはいえないこと,損益の割当てに関する州LPS法の規定及び本件各LPS契約の条項(4.12条)の存在から本件各LPSが損益の帰属主体とならないともいえないこと,本件各LPSの米国租税法上の取扱いが,チェック・ザ・ボックス制度により,構成員課税を選択したものとみなされているからといって,私法上の損益の帰属先が直接影響されることはないことからすれば,本件各LPSが損益の帰属すべき主体として設立されたとは認められないという根拠はない。
取引から生じる損益は,権利義務の帰属主体である当該取引の当事者に帰属するものであるところ,本件では,本件各LPSが本件各建物の賃貸借契約を締結し,契約の相手方である賃借人から賃料収入を受領しているのであるから,当該賃料収入(及び必要経費)は,本件各LPSに帰属するものというべきである。
したがって,控訴人ら基準②によっても,本件各LPSは,損益の帰属すべき主体として設立が認められたものというべきである。
(ウ) また,州LPS法201条(a)は,LPSを設立するためには,LPS証明書に所定の事項を記載して州務長官登録局に登録するものとすると規定し,「LPSは,LPS証明書が最初に州務長官登録局に登録された時点,あるいはLPS証明書に記載された(当該登録後の)日付にて設立されるものとし」と規定している。したがって,LPS証明書を州務長官登録局に登録することは,パートナーシップがLPSとして認められるための要件,すなわち,LPSの成立要件と解される。
我が国では,会社の設立登記は会社の成立要件とされており,登記が創設的効力を有する。その他の法人でも,一般に,設立登記が成立要件とされている。このことと比較すると,本件各LPSが契約のみによって成立するものではなく,州LPS法の規定に従って公的機関に登録することによって初めて成立するものであることは,州LPS法が本件各LPSに法人格を付与する旨規定していることを根拠付けるものである。
(2) 本件各LPSの租税法上の人格のない社団該当性について
人格のない社団該当性の要件を満たすか否かの評価は,ある程度相対的なものであり,そのような観点から判断すれば,本件各LPSが人格のない社団に該当すると優に認めることができる。
(3) 本件各不動産賃貸事業から生じた損益の不動産所得該当性について
本件各LPSは,本件各建物の所有者として登録されており,独自の財産として本件各建物を所有している。そして,自ら契約当事者となって,本件各建物を第三者に賃貸している。一方,本件各LPSの構成員であるリミテッド・パートナーは,パートナーシップ持分を有するにすぎない上,本件各LPSの管理又は運営に参加してはならず,いかなる事項に関しても,本件各LPSの名前で行為する権利又は権限を有しないとされている。これらによれば,本件各LPSの構成員であるリミテッド・パートナーは,本件各建物の所有権を有しているとは認められず,本件各建物の貸主となり得るその余の権利・権限を有しているとも認められない。
不動産所得は,不動産の貸付けによる所得をいうところ,上記のとおり,本件各建物の所有者や本件各不動産賃貸事業に係る賃貸借契約の当事者は本件各LPSであり,リミテッド・パートナーは貸主となり得る権利・権限を有していないことに照らすと,控訴人aらが本件各建物を貸し付けているという実態は認められないから,控訴人aらが本件各LPSから割り当てられる利益又は損失は,不動産所得には当たらない。
(4) 必要経費として計上することができる金額について(当審における新主張)
ア 仮に,本件各LPSについて構成員課税が行われ,本件各不動産賃貸事業から生じた損益が不動産所得に当たるとしても,有限責任構成員であるリミテッド・パートナーの地位にある控訴人aらは,割当てを受けた損失のうち出資額を超える部分については責任を負わないから,その部分を必要経費に計上することはできないものであり,したがって,本件各不動産賃貸事業から生じた損失の全部を控訴人aらの「不動産所得の金額」の「計算上生じた損失の金額」として損益通算することは許されない。控訴人aらが債務を負わず,現実に負担する可能性がない費用は,控訴人aらの純資産を減少させ,その担税力を減殺させる支出に当たるとみる余地はない。
イ そして,具体的には,控訴人aが本件各係争年分において,本件各不動産賃貸事業から生じた損失として申告した金額のうち,別表1「不動産所得であるとした場合に損益通算の対象とすることができない金額」の「e(P)」の「損益通算の対象とすることができない金額」欄記載の各金額が,損益通算することができない金額となる。そうすると,控訴人aが本件LPS(P)から割当てを受けた損失の額について,同人の出資額の範囲内で不動産所得の計算上必要経費に計上した場合における同人の総所得金額及び税額は,平成14年分については,別表2「不動産所得であるとした場合の税額」の「a」の「被控訴人の予備的主張額」欄記載のとおりとなり,平成15年分ないし平成17年分については,必要経費に計上できる損失はないので,本件において被控訴人が主張する税額等と同額となる。
また,cが本件各係争年分において,本件各不動産賃貸事業から生じた損失として申告した金額のうち,別表1「不動産所得であるとした場合に損益通算の対象とすることができない金額」の「f(C)」の「損益通算の対象とすることができない金額」欄記載の各金額が,損益通算することができない金額となる。そうすると,cが本件LPS(C)から割当てを受けた損失の額について,同人の出資額の範囲内で不動産所得の計算上必要経費に計上した場合における同人の総所得金額及び税額は,平成13年分については,別表2「不動産所得であるとした場合の税額」の「c」の「被控訴人の予備的主張額」欄記載のとおりとなり,平成14年分ないし平成17年分については,必要経費に計上できる損失はないので,本件において被控訴人が主張する税額等と同額となる。
第3当裁判所の判断
1 所得税法69条1項に基づく損益通算の可否についての判断の枠組み
(1) 我が国の租税法上,内国法人に対しては,原則として,各事業年度の所得につき各事業年度の所得に対する法人税を,清算所得につき清算所得に対する法人税を課し(法人税法5条),外国法人に対しては,原則として,各事業年度の所得のうち所定の外国法人の区分に応じ所定の国内源泉所得に係る所得につき各事業年度の所得に対する法人税を課するとされており(同法9条),法人には,その事業(取引)の損益が帰属することを前提として,その所得に対する法人税が課されている。これに対し,法人の構成員である個人については,配当所得(法人から受ける利益の配当,剰余金の分配(出資に係るものに限る。)など所得税法24条1項所定の「配当等」に係る所得)として所得税が課され(同法7条1項1号ないし3号),当該個人が居住者の場合,その年中の配当等の収入金額を配当所得の収入金額とし(同法24条2項),これを基礎として計算した総所得金額等(同法21条1項2号,22条2項1号)に基づき所得税の額が計算される(同法21条1項4号)など,上記所得の帰属主体である法人から受ける利益の配当や剰余金の分配で出資に係るものによる所得に所得税が課されている。そして,この点は,その事業体が人格のない社団等に該当する場合においても,法人とみなされて法人税法の規定が適用されることから,同様である(法人税法2条8号,3条,所得税法2条1項8号,4条)。また,法人及び人格のない社団等のいずれにも該当しない事業体については,当該事業体の行う事業活動から生じた損益について,当該事業体自体に法人税を課す旨の規定を設けられていないから,これに対する法人税として課税はされず(法人税法4条1項参照),その構成員に対する所得税又は法人税としての課税がされることとなる(構成員課税)。例えば,法人及び人格のない社団等に該当しない事業体の典型例である民法667条の規定による組合(以下「任意組合」という。)の事業に係る利益等の帰属時期やその額の計算については,所得税法及び法人税法上の明文規定はないものの,組合に対して,法人税は課されず,当該組合の事業の損益が構成員に帰属することを前提として,その構成員に所得税又は法人税が課されている。
このように,ある事業体の事業から生じた収益がその構成員に分配された場合において,その構成員に対し課税がされるか否かは,第1次的には当該事業体が法人に該当するか否かにより判断され,これに該当しない場合に人格のない社団等に該当するか否かが問題となり,いずれもが否定される場合に初めて構成員課税がされることになる。
(2) そうすると,本件において,控訴人らが主張する本件各不動産賃貸事業から生じた損失の損益通算の可否,より具体的には,本件各不動産賃貸事業から生じる損益が控訴人aら投資家の不動産所得に該当するか否かを判断するに当たっても,その事業主体とされる本件各LPSが,我が国の租税法上の法人又は人格のない社団等に該当する場合には,当該損益は,本件各LPSに帰属することになるのであって,不動産所得の性質を有したまま直接控訴人aら投資家に帰属することはないというべきであるから,当該損益の不動産所得該当性を検討するに先立ち,本件各LPSの我が国租税法上の法人該当性や,人格のない社団等への該当性を検討すべきこととなる。
2 本件各LPSの租税法上の法人該当性について
(1) 外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断の枠組みについて
ア 旧民法33条は,法人は民法その他の法律の規定によらなければ成立しない旨を定め,法人の成立(法人格の付与)は,法律の定めによってのみ認められることを明らかにしている(法人法定主義)。これを受けて,個々の団体の成立の根拠となる準拠法は,例えば,会社法3条が「会社は,法人とする。」と規定し,消費生活協同組合法4条が「消費生活協同組合(中略)は,法人とする。」と規定する等,当該団体に法人格を付与する場合には,これを法人とする旨の明文の規定を設けている。
この点,我が国の租税法は,法人の意義に関して,内国法人を国内に本店又は主たる事務所を有する法人,外国法人を内国法人以外の法人と定義するにとどまり,法人自体の意義を定義した規定はない。
しかしながら,租税法律主義(憲法84条)の下では,課税要件の定めは明確でなければならないこと,租税法が私法上の概念を特段の定義なく用いている場合には,租税法律主義や法的安定性の確保の観点から,本来的に私法上の概念と同じ意義に解するのが相当であることをも併せ考慮すれば,我が国の租税法上の法人も,その準拠法によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されたものをいうと解すべきである。
すなわち,我が国の国内法に準拠して設立された事業体を租税法上の法人であるというためには,その準拠法である民法その他の法律によって法人とする旨を規定されたものであることを要し(民法33条),他方,民法その他の法律によって法人とする旨を規定されていない任意組合,人格のない社団等その他の事業体は,例えそれらが民法その他の法律によって法人とする旨を規定されたものと類似した属性を有するとしても,我が国の私法上の法人と認められる余地はない。
これに対し,旧民法36条1項の「外国法人」とは,外国の法令に準拠して法人として成立した団体,すなわち外国の法令に準拠して法人格を付与された団体をいうと解されるから,外国の法令に準拠して設立された事業体が我が国の租税法上の法人に該当するか否かも,基本的には,当該外国の法令の規定内容から,その準拠法である当該外国の法令によって法人とする(法人格を付与する)旨を規定されていると認められるか否かにより判断されるべきである。
そして,その判断に当たっては,当該外国の法令の規定内容をその文言に従って形式的に見た場合に,当該外国の法令が当該事業体を法人とする旨規定しているかどうかだけではなく,当該外国の法令がその設立,組織,運営及び管理等についてどのように規定しているかも併せて検討すべきである。
当該事業体に法人格が付与される場合には,当該事業体は権利義務の帰属主体となるのであるから,取引によって得た債権や収入は当該事業体の資産となり,取引によって負担した債務や支出は当該事業体の損失となるとみるほかはない。すなわち,法人格が付与されることで,当該事業体によってされた取引から生じる損益は,まず,当該事業体に帰属することとなるのであって,損益の帰属すべき主体であることは,法人格が付与されたことの結果であるというべきである。また,課税に関しては,後記のとおり,米国ではチェック・ザ・ボックス規則によって損益が事業体の構成員に帰属すると擬制されることもあることからすると,当該事業体が法人に該当するか否かを判断するに当たり,当該事業体が権利義務の帰属主体となることとは別に,損益の帰属すべき主体として設立されたものであるかどうかを判断基準とすることは,相当でない。
イ(ア) 被控訴人は,外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かは,具体的には,当該事業体の設立準拠法の内容のみならず,実際の活動実態,財産や権利義務の帰属状況等を考慮した上,個別具体的に,我が国の私法において法人に認められる権利能力と同等の能力を有するか否か,すなわち,当該事業体が原判決基準①ないし③を満たすか否かによるのが相当であり,これで必要かつ十分であると主張する。
(イ)a しかしながら,原判決基準①ないし③は,いずれも法人格が付与されることによって認められる法人の属性にすぎず,これらを満たせば法人に該当するというその立論に法的な根拠はないといわざるを得ない。殊に,独立した権利義務の主体となることが認められるのが正に法人なのであるから,法人該当性の判断基準として原判決基準②を掲げるのは,トートロジーであって,それ自体基準として不合理であるといわなければならない。
b また,以下のとおり,法人に該当しないことが明らかな任意組合や権利能力のない社団も原判決基準①ないし③の該当し得ることに照らすと,原判決基準①ないし③は,法人と法人ではない団体(事業体)とを区別する基準として機能し得ないものであるといわざるを得ない。
(a) 原判決基準①について
民法は,任意組合について,<ア>組合員の出資その他の組合財産は,総組合員の共有に属する旨(668条)を規定する一方で,<イ>組合員は,組合財産についてその持分を処分したとしても,その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができず(676条1項),<ウ>清算前に組合財産の分割を求めることができないし(同条2項),さらに,<エ>組合の債務者は,その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない旨(677条)を規定しており,このような民法676条及び677条等の趣旨に鑑みれば,組合財産は,特定の目的(組合の事業経営)のために各組合員個人の他の財産(私有財産)と離れて別に一団を成して存する特別財産(目的財産)であって,その結果,この目的の範囲においては,ある程度の独立性を有し,組合員の私有財産と混同されることはないと解されており(大審院昭和9年(オ)第3066号同11年2月25日判決・民集15巻4号281頁参照),また,人格のない社団(権利能力のない社団)も,その財産は構成員に総有的に帰属すると解されており(最高裁判所昭和39年10月15日第一小法廷判決・民集18巻8号1671頁参照),その各構成員は,当該人格のない社団から脱退しても,人格のない社団の財産につき,当然には共有の持分権又は分割請求権を有するものではないと解されており(最高裁判所昭和32年11月14日第一小法廷判決・民集11巻12号1943頁参照),任意組合及び人格のない社団(権利能力のない社団)は,民法の解釈上,いずれもその構成員の個人財産とは区別された独自の財産を有すると解されているものというべきであるから,原判決基準①に該当するといわざるを得ない。
(b) 原判決基準②について
任意組合については,<ア>民法は,組合の業務の執行は,組合員の過半数で決し,組合契約で組合の業務の執行を委任した者(業務執行者)が数人あるときは,その過半数で決するものとした上,組合の常務は,その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときを除き,各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる旨を規定するにとどまっているが(670条),民法の解釈上,第三者との関係においては,組合契約その他により業務執行組合員が定められている場合は業務執行組合員が組合の業務に関して組合員全員を代表する権限を有し,そうでない場合は組合員の過半数において組合を代理する権限を有するものと解されていること(最高裁判所昭和35年12月9日第二小法廷判決・民集14巻13号2994頁,最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号600頁,最高裁判所昭和43年6月27日第一小法廷判決・裁判集民事91号503頁参照),<イ>任意組合の業務の執行により形成された組合財産は,上記(a)のとおり,積極財産・消極財産を問わず,構成員の個人財産とは区別された任意組合独自の財産となるところ,そうであるが故に,任意組合に権利義務を生じさせる法律行為の名義として任意組合自体や任意組合代表者名義を用いることが許容されており(特に,厳格な要式性を要するとされている手形行為に関して,手形の受取人欄につき大審院大正14年5月12日判決・民集4巻256頁,手形の振出人欄につき最高裁判所昭和36年7月31日第二小法廷判決・民集15巻7号1982頁等参照),取引の実情としても契約等を任意組合名義で行うことが通例とされていることに照らすと,任意組合も,その名において契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負う(ただし,権利義務の帰属主体は個々の組合員である。)と評価することが可能である。
また,人格のない社団(権利能力のない社団)についても,<ア>「権利能力のない」社団でありながら,その代表者によってその社団の名において構成員全体のために権利を取得し,義務を負担するとされ,社団の名において行われるのは,一々全ての構成員の氏名を列挙することの煩を避けるためにほかならない(したがって,登記の場合,権利者自体の名を登記することを要し,権利能力なき社団においては,その実質的権利者たる構成員全部の名を登記できない結果として,その代表者名義をもって不動産登記簿に登記するよりほかに方法がないのである。)と解されており(前掲最高裁昭和39年10月15日第一小法廷判決),<イ>権利能力なき社団の代表者が社団の名においてした取引上の債務は,その社団の構成員全員に,一個の義務として総有的に帰属するとともに,社団の総有財産だけがその責任財産となり,構成員各自は,取引の相手方に対し,直接には個人的債務ないし責任を負わないと解されていること(最高裁判所昭和48年10月9日第三小法廷判決・民集27巻9号1129頁参照)に照らすと,人格のない社団も,その名において契約を締結し,(形式的には総構成員の総有とされながら)実質的にはその名において権利を取得し義務を負うものと評価することが可能である。
以上によれば,任意組合又は人格のない社団(権利能力のない社団)のいずれであっても,原判決基準②を満たすものということができる。
(c) 原判決基準③について
民事訴訟法29条は,法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあるものは,その名において訴え,又は訴えられることができる旨規定しているところ,判例上,任意組合であっても同条により訴訟上の当事者能力を認めることができると解されている(最高裁判所昭和37年12月18日第三小法廷判決・民集16巻12号2422頁参照)。
そうであるとすれば,任意組合又は人格のない社団(権利能力のない社団)であっても,その権利義務のためにその名において訴訟当事者になり得るから,原判決基準③に該当するものといわざるを得ない。
c さらに,被控訴人の主張によれば,外国の事業体についてのみ,その準拠法上の法人格の有無という画一的な基準によることなく,個別具体的な実質判断を行うこととなり,内国法人の場合の判断基準と相違する結果となる上,法人に当たるか否かの判断が恣意的で予測不可能なものになりかねず,法的安定性の観点からも許容できない。
(ウ) したがって,外国の法令によって設立された事業体が我が国の租税法上の「法人」に該当するか否かの判断基準として,被控訴人の主張する判断基準を採用することはできない。
(2) 州LPS法及び本件各LPS契約の概要
前提となる事実,証拠(乙A3,乙B4)及び弁論の全趣旨によれば,本件各LPSは州LPS法及び州LPS法に準拠する本件各LPS契約に基づいて設立されたものと認められるから,本件各LPSの法人該当性については,その準拠法である州LPS法の規定内容に照らして,本件各LPSが州LPS法によって法人とする(法人格を付与する)旨規定されていると認められるか否かを検討する。
州LPS法及び本件各LPS契約の概要については,以下のとおり補正するほか,原判決23頁5行目から34頁1行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決26頁6行目に「本件LPS契約(P)(乙A3)」とあるのを「本件各LPS契約(乙A3,乙B4)」と改める。
イ 原判決27頁6行目の「LPS(C)」を「LPS(P)」と改める。
(3) 本件各LPSの租税法上の法人該当性についての具体的検討
ア 法的主体となることについての州LPS法及び本件各LPS契約の規定内容
(ア) 上記(2)で認定のとおり,州LPS法201条(b)は,州LPS法に基づき設立されたLPSは,独立した法的主体(separate legal entity)となると規定している(甲共90によれば,この文言は,1985年改定統一LPS法の201条にはなく,1990年の州LPS法の改定により追加されたものであることが認められる。)。また,州LPS法106条(b)は,LPSは,州LPS法その他の法律,又は当該LPSのパートナーシップ契約によって付与されたすべての権利又は特権,及びこれに付随する全ての権利(当該LPSの事業,目的,活動の実行,促進,達成のために必要な,あるいは便宜的な権利や特権を含む。)を保有し,行使することができると規定している。
そして,本件各LPS契約によれば,本件各LPSは,本件各建物の購入,取得,開発,保有,賃貸,管理,売却その他の処分の目的のみのために設立され,当該目的を実施するために必要又は便宜的な範囲で,本件各建物についてのそれらの行為のほか,銀行口座の開設及び維持並びに支払のための小切手その他為替の振り出し,金員の借入れや,本件各LPSの財産の全部又は一部を担保に供するなどの行為,第三者に対する訴訟の提起や和解,本件各LPSに対する請求の解決や和解,独立した弁護士等の雇用,その他上記事項を達成するために必要,適切又は便宜的な活動及び取引を行い,契約その他約束を締結し,実施することなどの権限を有するとされている(1.3条)。
以上によれば,州LPS法及び本件各LPS契約によって,本件各LPSは,独立した法的主体となり,その名において権利を取得し,これを行使することができ,本件各建物の購入,賃貸その他の処分行為をすることができるものとされており,法令上法的主体性が付与されているのみならず,その属性においても,我が国の私法上の法人と異なるところはない。
(イ) 州LPS法701条は,パートナーシップ持分の性格について,パートナーシップ持分は動産であり,パートナーはLPSの特定財産についていかなる持分も所有しないと定めており,また,本件各LPS契約は,本件各LPSが行う全ての不動産投資その他所有する資産は,本件各LPSの名前又は本件各GPが随時決定できる名義人の名前で登録されると規定している。
以上によれば,本件各LPSは,その構成員の財産とは区別された独自の財産を有することになり,その限りで,我が国の私法上の法人と同様である。
(ウ) 控訴人らは,米国法ないしデラウェア州法上「corporation」こそが,日本法を設立準拠法とする「法人」と同じ法的性質を有しているが,「separate legal entity」はこれと次元を異にしており,「survivability(サバイバビリティ。GP死亡・脱退後存続性)」を明確にするにすぎないものであると主張し,その旨のアレン教授意見書(甲共90)を引用している。しかし,「corporation」が法人に該当することは争いのないところであるとしても,事業体につき,法令がそれ以外の文言を用いている場合にも,当該事業体の権能や設立手続等についての当該法令の規定内容を検討し,法人とする(法人格を付与する)旨を規定していると認められるか否かにより判断すべきことは前記説示のとおりである。しかるところ,「separate legal entity」については,これが1990年の州LPS法の改定により同法201条に追加された趣旨を検討する必要があるところ,その趣旨は,その文言どおり,LPSに法的主体性を付与することにあるとみるのが自然である。これに対し,控訴人らが引用するアレン教授の上記意見書によれば,LPSにつき,事業体としての「サバイバビリティ」を明確にするにすぎないというのであるが,それだけの目的であれば,その点に限定して明確に規定すればよいのであって,LPSが独立した法的主体となるといった包括的に法的主体性を付与するような文言を用いて規定する必要はないと考えられ,控訴人らの上記主張は理由がない。
なお,乙共22(修正統一パートナーシップ法の解説書)には,「集合体理論のアプローチは,パートナーシップを個人の集合に対する導管にすぎないとみなしている。各パートナーは,パートナーシップの資産の不可分の持分を所有しており,所有持分に比例してパートナーシップ事業を遂行するものとみられている。一方,エンティティ理論は,パートナーシップをパートナーとパートナーシップ資産の間に介在する別個のエンティティとして取り扱っている。パートナーの持分は,そのパートナーの組織への関与に関連する別個の権利及び負債として,株式における法人株主の持分と同様とみられている。統一パートナーシップ法は,いくつかの目的のためエンティティ理論を採用したが,集合体理論が支配的であった。修正統一パートナーシップ法では,その逆である。201条は,「パートナーシップは,そのパートナーと別個のエンティティである」と定めることにより,明らかにエンティティ理論を採用している。201条は,修正統一パートナーシップ法の多くの条項がエンティティ・モデルに基づいている事実を反映して加えられた。」との,上記判断を根拠付ける記述がなされている。
(エ) また,控訴人らは,パートナーシップ持分について,本件各LPS契約の「各パートナーは,本件各LPSの資産に,そのパートナーシップ出資割合に相当する不可分の持分を有する」との規定(4.5条)は,リミテッド・パートナーが本件各LPSの資産についてエクイティ上の所有権を有することを確認したものであると主張しているが,上記(イ)で認定のとおり,州LPS法701条は,パートナーシップ持分の性格について,パートナーシップ持分は動産であり,パートナーは,特定のLPS財産に対していかなる持分も所有しないと明確に規定しているのであり,本件各LPS契約の上記規定が,州LPS法701条に反して,LPSの特定の財産に対するリミテッド・パートナーの所有権を設定することを意図したものとは考え難い。この点につき,甲共124(アレン教授の第2意見書)には,本件各LPS契約の4.5条又はその他の条項をもってリミテッド・パートナーが,第三者との関係でパートナーシップの特定の財産につき,所有権を持っているかのような徴表を有しているとは一切いえず,同条の起案者の意図としては,パートナーシップ財産をパートナーシップが行う事業に供することにより生ずる利益及び損失に対する集合的な権利(これが,エクイティ〔衡平法〕上の所有権である。)を認知することを意図していたものと解するのが相当である旨の記述があり,控訴人らの上記主張に係る「エクイティ上の所有権」とは,このような趣旨の権利を称したものであり,実質的にはパートナーシップに帰属する損益の分配を受ける権利をいうにすぎないと考えられ,我が国における私法上の所有権に当たる権利(コモン・ロー上の所有権がこれに当たると考えられる。)とは異なるから,控訴人らの上記主張は,本件各LPSがその特有財産の所有者であり,リミテッド・パートナーは所有権を有しないことを左右するものではない。
イ 州LPS法による本件各LPSの設立手続等の規定内容
(ア) 上記(2)で認定のとおり,州LPS法201条(a)は,LPSを設立するためには,1以上の主体(ゼネラル・パートナーの合計数を下回らない数とする)が,LPSの名称,登記上の本社所在地,訴状・召喚状の送達のための登記代理人の名称及び住所,各ゼネラル・パートナーの名称,事業所あるいは居住地の住所等を記載したLPS証明書に署名し,これを州務長官登録局に登録するものと規定し,同条(b)は,LPSは,LPS証明書が州務長官登録局に登録された時点,あるいはLPS証明書に記載された(当該登録後の)日付けにて設立されるものとし,いずれの場合においても,上記の要件を完全に満たすものでなければならず,州LPS法の規定に基づき組織されたLPSは,独立した法的主体(separate legal entity)となり,その独立した法的主体としての地位はLPS証明書のLPSによる解除まで継続すると規定している。
以上によれば,LPSの設立には,LPS契約を締結するだけでなく,LPS証明書を州務長官登録局に登録することが必要であることが規定されている。
(イ) これに対し,控訴人らは,LPS契約が締結されていれば,LPS証明書が提出されていなくても,契約当事者間はもとより,一定の第三者(例えば,責任制限を許容して取引関係に入った債権者)との関係においても,LPSの存在は認められており,LPS証明書の提出は第三者の保護のためであり,LPS証明書の提出は,LPSの設立に必須の要件ではなく,LPS証明書を提出する意義は,有限責任のみを有するリミテッド・パートナーというパートナーの参加を認めているLPSであることをいかなる第三者との関係においても主張するための対抗要件として位置付けられると主張している。
しかしながら,上記(ア)のとおり,州LPS法201条が,LPSはLPS証明書が州務長官登録局に登録された時点,あるいはLPS証明書に記載された(当該登録後の)日付けにて設立されるものと規定しているのであるから,LPSの設立にはLPS証明書の提出が不可欠であるといわざるを得ない。この点,甲共130(州LPS法の解説書)には,「数多くの裁判所は,その裁判所が所在する州のLPS法がLPSを組成するためにはLPS証明書の提出を要求しているにもかかわらず,LPS証明書の提出前にLPSがそのパートナー間において存在し得ると判示している。」などの記述があるが,これは,リミテッド・パートナー予定者のLPS組成前の責任が問題とされているのであって,LPSの設立にLPS証明書の提出を必要としないことをいうものではなく,そのような見解が一般的であることを裏付けるものとは認められない。
また,控訴人らは,日本法においても,労働組合や宗教団体は,登記ではなく一定の要件を満たしたときに法人とされ,一方,投資事業有限責任組合は,登記を備えていても法人ではないとして,LPS証明書の提出は,LPSの法人該当性の判断とは無関係であると主張しているが,事業体の成立に公的な手続を要することを,構成員から独立した法的主体であるか否かの判断要素の一つとすることは合理性がある。
ウ 州LPS法及び本件各LPS契約による本件各LPSの管理・運営及びリミテッド・パートナーの責任等についての規定内容
(ア) 上記(2)で認定のとおり,本件各LPS契約によれば,本件各LPSの管理・運営は,本件各GPに独占的に権利が付与され,本件各GPは,これにより,本件各LPSに代わり,又は本件各LPSの名前でその目的の全てを実施する権限を有するとされ,一方,リミテッド・パートナーは,本件各LPS契約に定める場合を除き本件各LPSの管理又は運営に参加してはならず,いかなる事項に関しても,本件各LPSに代わり,又は本件各LPSの名前で行為する権限を有しないと規定されている(2.1条)。
(イ) また,本件各LPS契約によれば,リミテッド・パートナーは,同契約の規定に従い出資する必要があるが,第三者に対する責任について,州LPS法303条(a)が,リミテッド・パートナーは,自己がゼネラル・パートナーである場合,あるいはリミテッド・パートナーとしての権利や権限の履行に加えて当該事業の経営管理に関与している場合を除き,LPSの債務を弁済する責任を負わないと規定し,また,本件各LPS契約は,契約,不法行為その他により生じたかを問わず,本件各LPSの負債,債務及び義務は本件各LPSの単独の負債,債務及び義務であり,リミテッド・パートナーは,リミテッド・パートナーであるという理由のみで本件各LPSの負債,債務又は義務について個人的に責任を負わないと規定している(1.4条)。
エ 州LPS法及び本件各LPS契約における本件各不動産賃貸事業による損益の帰属についての規定内容
(ア) 控訴人らは,本件各LPS契約の損益の割当てに関する条項(4.7条及び4.8条)は,受託銀行であるd銀行を通じて不動産賃貸事業を営む控訴人aらに対する税務上の取扱いが,純額(ネット)ベースではなく,総額(グロス)ベースで行われていたこと,本件各LPSの総額の損益(収益の総額と費用の総額)を,何らの機関決定を経ることなく,かつ,不動産賃貸損益等の所得の性質を変えることなく,控訴人aらに対してそれぞれ直接に帰属させる取扱いが,契約上も事実上もされていたことを示していると主張しているところ,確かに,上記(2)で認定のとおり,州LPS法503条は,LPSの損益は,パートナーシップ契約の規定に従い割当てがなされ,パートナーシップ契約に規定がない場合は,各パートナーによって拠出されLPSによって受領され返却されていない出資に関して合意された価額に基づき割り当てられると規定しており,本件各LPS契約4.7条及び4.8条は,会計年度の利益及び損失は,基本的にパートナーのパートナーシップ出資割合に応じてパートナーに割り当てられる(配分される)と規定している。
(イ) しかしながら,上記第2の2で引用した原判決の前提となる事実(5)(原判決16頁2行目から17頁7行目まで)のとおり,米国では,1997年に米国財務省規則において,いわゆるチェック・ザ・ボックス規則が定められ,ある一定の事業体はcorporation(コーポレーション)として事業体課税を受けるか,又はpartnership(パートナーシップ)として構成員(パススルー)課税を受けるかを選択できるものとされており,2人以上のメンバーを有する米国の適格事業体において上記の選択がない場合には,デフォルト・ルールとして,partnershipを選択したものとみなされ,また,適格事業体がpartnershipを選択した場合,又はデフォルト・ルールによりpartnershipを選択したものとみなされる場合には,当該事業体は納税義務者とならず,当該事業体の構成員が納税義務者となるとされている。
そうだとすると,上記の州LPS法503条や本件各LPS契約4.7条及び4.8条は,チェック・ザ・ボックス制度により構成員課税が選択可能であることを前提に,いったん事業体に帰属した利益及び損失を構成員に割り当てることとしているものとみることができる。したがって,本件各LPS契約4.7条及び4.8条により,本件各LPSの利益及び損失が各パートナーに帰属するとされていることが,本件各LPSの属性によるものであり,本件各LPSが本来的に損益の帰属主体にはならないことを示しているとはいえない。
(ウ) そもそも,私法上,取引による損益は,当該取引に伴う資産や負債が帰属することにより発生するから,その資産・負債の権利義務の帰属主体となる者に帰属すると考えられるのであって,このことを前提にすれば,上記の州LPS法503条や本件各LPS契約4.7条及び4.8条を上記(イ)のとおり解釈するのが合理的である。
この点,甲共151(ラムザイヤー教授第2意見書)には,米国において,パートナーシップは,歴史的には「共通の目的を持って行為し,損益を分かち合い,パートナーシップ資産を共有する個人の集合体」であったから,その損益はパートナー個人に直接帰属すると解されており,「集合体」理論から,パートナーシップが「separate legal entity」であるという「エンティティ」理論に移行後,1997年にチェック・ザ・ボックス制度ができるまでも,財務省によるパートナーシップに対する課税上の取扱いに変更はなく,パートナーシップがキントナー規則(法人類似性を判断する基準を定めたもの)の4要素のうち3要素以上を備えていない限り,その事業により生じた損益は各パートナーに直接帰属するとの課税上の取扱いがされてきた旨の記述があるが,上記のとおり,取引によって生ずる損益は,当該取引にかかる権利義務の帰属主体となる者に直接帰属するのがむしろ私法上の原則であるから,パートナーシップが「separate legal entity」として権利義務の帰属主体となることになった後,チェック・ザ・ボックス制度ができるまでの間も課税上の取扱いが変わらなかったとしても,それは,パートナーシップのうちキントナー規則により法人類似性の認められないものについて,その事業による損益を各パートナーに割り当てるという契約(合意)の効力が承認されてきたからにすぎないとも解され,パートナーシップの事業の損益がパートナーシップに帰属することなく各パートナーに直接帰属するとの「集合体」理論の当時の見解が,そのまま維持されていたとは必ずしもいえない。そして,そのような状況の下で1997年に定められたチェック・ザ・ボックス制度により,パートナーシップに対する課税上の取扱いに法的根拠が付与されたものと解されるのであり,上記記述は,上記判断を左右するには至らない。
オ 控訴人ら提出の文献や国税不服審判所長の裁決について
(ア) 控訴人らが提出した我が国の英米法に関する文献や税務当局の実務家の文献の中には,米国の州法に基づくLPSが法人には当たらない旨の記述がなされているものがあるが(甲共75等),そのような文献が存するというだけでは,租税実務において,州LPS法に基づき設立されたLPSが我が国の租税法上の法人と同等の事業体ではないとの理解が広く共有されていたとまでは認められない。逆に,甲共137(論理体系会社法6)には,米国の各州法に基づき設立されるパートナーシップ,リミテッド・パートナーシップについては,いずれも「会社に類似するもの」として外国会社に該当するとする有力説があるとの記述もある。
(イ) また,国税不服審判所長の裁決(甲共47。控訴人aらについての裁決は,甲A2,甲B3)の判断内容をみると,①州LPS法に準拠する本件各LPS契約においては,本件各LPS名義又はゼネラル・パートナーが随時指名した者の名義で,本件各LPSが所有する全ての不動産投資その他の財産を登録することができるとされ,また,本件各LPSは,州LPS法上,取引や訴訟の当事者となることができ,現に本件各建物の売買契約,本件管理委託契約等の契約当事者となるなど,我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であるという意味においては,我が国の法律でいう「法人」の要素を備えているということができる,②しかしながら,どのようなものに法人格を与えるかは,税法上の観点のみにとどまらない様々な政策目的を実現するための各国の立法政策の問題であるから,各国の法律に基づいて外国で設立された法人格を有しない団体について,単に我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であると認められる事実のみにより,当該団体が我が国の法律でいう「法人」に該当すると判断するのは相当ではなく,また,民法33条及び同法36条の規定からしても,単に権利義務の帰属主体であるという実体を備えていることのみをもって「法人」に該当するということは相当でないとし,単に本件各LPSが我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であると認められる事実のみをもって,本件各LPSの持分を有する者が得る所得が不動産所得に該当しない旨の原処分庁の主張は採用できないと判断していることが認められる。上記裁決の判断は,本件各LPSが我が国の法律でいう権利義務の帰属主体であると認めつつ,それだけで我が国の法律でいう「法人」に該当すると断定することはできないとしているものであり,少なくとも,本件各LPSに法人格がないとの見解を示したものということはできない。
(ウ) そして,他にも,控訴人らの主張を根拠付ける有力な見解は,本件証拠上見当たらない。
カ まとめ
以上によれば,州LPS法に基づき設立された本件各LP Sは,「separate legal entity」として構成員から独立した法的主体として存在しており,その構成員と区別された独自の財産を有し,その名において契約を締結し,その名において権利を取得し義務を負い,権利義務の帰属主体となるものであるということができ,州LPS法や本件各LPS契約の規定内容についての上記アないしオの認定説示を総合考慮すると,州LPS法201条(b)の規定は,州LPS法に基づき設立されたLPSを法人とする旨を規定しているものと解するのが相当である。
(4) 以上のとおり,本件各LPSは我が国の租税法上の「法人」に該当するというべきであるから,本件各LPSが営む本件各不動産賃貸事業から生じた損益は,本件各LPS自身に直接帰属することになる。したがって,本件各不動産賃貸事業から生じた損益が本件各LPSをパススルーして不動産所得の性質を有したまま控訴人aらに帰属するということはできず,上記損益は控訴人aらの不動産所得には該当しない(なお,本件各LPSから配分された利益は配当所得に該当すると解される。)。
したがって,控訴人aらの本件各損失は,控訴人aらの不動産所得の金額の計算上生じた損失の金額(所得税法69条1項)に該当せず,控訴人aらは,本件各損失をもって損益通算の適用を受けることができない。
そして,控訴人aに対する本件a各更正処分及び本件a各通知処分並びにcに対する本件c各更正処分及び本件c各通知処分については,上記の点(本件各損失による損益通算の可否)に関する部分を除き,計算の基礎となる金額及び計算方法に関しては当事者間に争いがないから,上記各処分はいずれも適法である。
3 国税通則法65条4項の「正当な理由」の有無について
控訴人らは,平成12年7月政府税調中期答申(甲共25)及び「法人税制関係資料ー法人税の現状と課題ー」(甲共26。平成12年4月28日開催の第6回政府税制調査会法人課税小委員会の討議用資料として大蔵省主税局によって作成提出された資料。)によれば,米国のLPSに法人格はないという租税法立法当局等の理解が示されており,他方,平成18年1月に至るまで外国のパートナーシップが法人に該当し得るとの公式の解釈は示されておらず,国税不服審判所長も,同年に本件各LPSや州LPS法を準拠法として設立されたLPSの法人該当性を否定する裁決をしているのであるから,控訴人aらが,本件各不動産賃貸事業から生じた損失が控訴人aらに直接帰属すると解し,かつ,これらが不動産所得に当たるとして損益通算をしたことには,真に控訴人aらの責めに帰することのできない客観的事情があり,国税通則法65条4項の「正当な理由」があると主張する。
そこで検討するに,過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対して課されるものであり,これによって,当初から適正に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定めた「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁判所平成18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁判所平成18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁,最高裁判所平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
これを本件についてみるに,平成12年7月政府税調中期答申(甲共25)の記載内容は,法人課税の項目では,近年,外国で設立されるパートナーシップやリミテッド・ライアビリティ・カンパニー(LLC)といった我が国には制度のない外国の事業体が,我が国で事業活動を行ったり,逆に,我が国企業がこうした外国の事業体に投資する例も増加しているから,我が国に制度のない事業体に対する課税の在り方を今後検討する必要が生じているということ(190頁)や,国際課税の項目では,我が国の税制では,外国の事業体がその外国において私法上「法人」とされているかどうかにより,法人課税の対象とするかどうかを判断しているが,外国の多様な事業体の中には,その実態を見れば法人税の課税対象とすることがふさわしいものがあるから,法人課税の対象とするかどうかの基準の内容等,検討すべき課題が多岐にわたるということ(343,344頁)にすぎないのであるから,これらの記載から直ちに,米国のLPSに法人格はないという租税法立法当局等の理解が示されているとは認められない。
また,「法人税制関係資料ー法人税の現状と課題ー」(甲共26)では,「日米における事業体に係る課税上の取扱い」と題する表(48頁)において,米国のパートナーシップは非法人の事業組織体であると記載されているが,これは,あくまで討議用資料にすぎず,公式の見解を表示したものとは認められない上,米国においては各州ごとに法制度が異なることは周知のことであり,パートナーシップの設立の準拠法となる具体的な各州の法律を見なければ,特定の州のLPSが法人に当たるか否かを判断できないことは明らかであるから,上記の記載も直ちに,米国のLPSに法人格はないという租税法立法当局等の理解が示されているとは認められない。
現に,g証券が投資家向けにLPSを利用して建物を賃貸することやその投資効果など本件スキームの内容を説明した「"DOIT" Dual Ownership Investment Tactics 海外不動産投資事業プログラムのご案内(基本コンセプト)」と題するパンフレット(乙A13,乙B14)には,「不動産所得と損益通算制度」の説明として,一定額以上の所得条件を前提として,損益通算制度を利用することにより不動産所得に約2100万円の税務計算上の赤字を計上することができ,年間約1050万円の節税額が生ずる旨の説明があり(5,6頁),米国のパートナーシップから外国信託銀行に収益分配がされ,外国信託銀行から日本人投資家の方々に分配収益が来るという,事業損益分配の流れを示す図(17頁)が載っているが,「税務・法務リスク」との見出しの下に「税務上の取扱はあくまで税務当局の判断で決定されますので,現在の税制に関して前項で記した概略・その他に関しての取り扱いが異なる場合があります。是非,御自身の顧問税理士の方に御相談の上,十分ご理解のうえ投資事業の是非を御判断下さい。」との説明もなされている(20頁)。
さらに,国税不服審判所長の裁決について,州LPS法上のLPSの法人該当性を否定する見解を示したものと理解するのが相当でないことは,上記2(3)オ(イ)で説示したとおりである。
したがって,控訴人aらが本件各損失を不動産所得に当たるとして損益通算ができると判断したことは,控訴人aら自身の法令の解釈の誤りにすぎないというべきである。
そうすると,控訴人aらが上記損益通算をしたことに真に控訴人aらの責めに帰することのできない客観的事情があるとの主張は採用できず,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるということはできないから,本件各賦課決定処分はいずれも適法である。
4 以上によれば,控訴人らの請求はいずれも理由がなく棄却すべきものであるから,これと同旨の原判決は結論において相当であって,本件各控訴はいずれも理由がない。
よって,本件各控訴をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中澄夫)
裁判官大西忠重及び裁判官橋本眞一は,転補のため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 田中澄夫