大阪高等裁判所 平成23年(行コ)3号 判決 2011年3月31日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を次のとおり変更する。
2 処分行政庁が平成21年8月3日付けで控訴人に対してした原判決別紙物件目録記載の各不動産の取得に係る原判決別紙処分目録記載の不動産取得税の賦課処分を取り消す。
第2事案の概要
1 本件は,信託契約の終了を原因として原判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件不動産」という。)を取得したことについて,処分行政庁から不動産取得税賦課処分(以下「本件賦課処分」という。)を受けた控訴人が,上記不動産の取得は地方税法(平成21年法律第9号による改正前のもの。以下特記しない限り同じ。)73条の7第4号所定の不動産取得税を課することができない場合に当たると主張して,その取消しを求めた事案である。
原審は,控訴人の請求を一部認容した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり当審における当事者の主張を追加補充するほか,原判決「事実及び理由」第2の2ないし4のとおりであるから,これを引用する。
3 当審における当事者の主張
(1) 争点(1)(審査請求前置の有無)について
(控訴人)
地方税法19条の12は,「第19条に規定する処分の取消しの訴えは,当該処分についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経た後でなければ,提起することができない。」と定めているだけで,当該処分の全部の場合と一部の場合とを区別していないので,一個の処分の一部について審査請求をし,その決定を経ていた場合も,当該処分全部についての異議申立て又は審査請求に対する決定又は裁決を経たとの要件を充足している。同条の趣旨は,行政庁の再検討の機会の確保にあるが,審査請求者が処分の一部だけについて申立てをしていたとしても,行政庁が一個の処分として行っている以上,再検討の対象は一個の処分全体に及ぶのであるから,一個の処分の一部について,審査請求をし,その決定を経ていた場合に,処分の全体について処分取消しの訴えを提起したとしても,再検討の機会は確保されている。また,一個の処分の一部にでも取消訴訟が提起された場合は,当該取消訴訟が確定するまでは税務行政の早期安定確保はできないのであるから,一個の処分について,その一部について審査請求をし,その決定を経ていた場合に,処分の全体について取消しの訴えを提起しても,同条の趣旨に反することはない。
(被控訴人)
争う。
(2) 争点(2)(本件賦課処分の適法性)について
(控訴人)
平成19年改正後の地方税法第73条の7第4号は,改正により,信託設定時の委託者かつ受益者と信託解約時の受益者が異なる場合は課税されることをより明らかにしたにすぎない。本件のような場合に信託解約による信託財産の移転について課税すると,不動産が流通していないにもかかわらず課税することとなり,流通税の趣旨を逸脱してしまう。また,信託による形式的な所有権移転に対し課税しないとする地方税法73条の7第3ないし5号全体の趣旨にも反する。地方税法73条の7第4号は,平成19年の改正前後で実質的な改正はなされていないのであるから,地方税法73条の7第4号に該当するにもかかわらず,平成19年改正後の地方税法73条の7第4号に該当しないと判断することは不合理である。平成19年改正後の地方税法73条の7第4号にいう「引き続き」とは,信託設定時から解約時まで連続して委託者,受益者が変更されないままであると解することは,信託受益権の移転そのものに課税するという法の適用を不当に拡大する解釈となるので,違法である。「引き続き」とは,信託解約時の委託者・受益者が信託設定時点に引き続き同一の委託者・受益者である場合を規定するのである。
(被控訴人)
争う。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の請求は原判決が認める限度で相当であり,その余は理由がなく,本件控訴は理由がないと判断する。その理由は,当審における当事者の追加補充主張に鑑み以下のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第3の1及び2のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の補正
原判決8頁4行目末尾の次に,改行して,以下を加える。
「この点,控訴人は,審査請求者が処分の一部だけについて申立てをしていたとしても,行政庁の再検討の対象は一個の処分全体に及ぶし,一個の処分の一部にでも取消訴訟が提起された場合は,当該取消訴訟が確定するまでは税務行政の早期安定確保はできないのであるから,一の処分について,その一部について審査請求をし,その決定を経ていた場合に,処分の全体について取消しの訴えを提起しても,地方税法19条の12の趣旨に反することはない,と主張する。しかし,審査請求人が一個の処分の一部に限定して審査請求の対象とした場合には,審査請求の対象とされていない部分についてまで審査庁に再検討の機会を与えることにはならないから,控訴人の主張は採用できない。」
第4結論
よって,本件控訴は理由がないから,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 久保田浩史 裁判官 片岡早苗)