大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成23年(行コ)52号 判決 2011年10月05日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求める裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  処分行政庁が平成22年3月31日付けでA株式会社に対してした道路占用許可処分(高建管第○号)のうち,高槻市α×及び同市β×-3を占用場所とする部分をいずれも取り消す。

2  被控訴人

(1)  本案前の答弁

ア 原判決を取り消す。

イ 本件訴えを却下する。

(2)  本案についての答弁

本件控訴を棄却する。

第2事案の概要

1  本件は,平成22年3月31日付けで処分行政庁がA株式会社(以下「A」という。)に対してガス管の埋設を目的とする道路占用を平成23年3月31日まで許可する旨の処分(以下「本件許可処分」という。)をしたところ,占用許可の対象とされた道路の一部に既にガス管を埋設している控訴人が,保安協議を欠くこと等を理由として,本件許可処分のうち,控訴人がガス管を埋設している道路を対象とする部分の取消しを求めている事案である。

原審は,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人はこれを不服として控訴した。

被控訴人は,当審において,原判決後,本件許可処分の占用期間が終了したから訴えの利益が失われたとの主張を追加している。

2  関連法令の定め,前提事実,争点,争点に関する当事者の主張は,次のとおり改めるほか,原判決「第2 事案の概要」の1ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  3頁10行目「ガス管埋設工事」の次に「(以下,そのための下記各許可処分を併せて「本件旧許可処分」という。)」を加える。

(2)  4頁11行目末尾に続き,改行して,次のとおり加える。

「オ 処分行政庁は,平成23年3月31日付けで,Aに対し,高槻市が管理する道路(本件各道路を含む。)の占用につき,以下の内容の道路占用許可処分(以下「本件新許可処分」という。)を一括して行った(乙6)。

占用目的  ガス管埋設(継続)

占用の場所  高槻市内一円

占用の期間  平成23年4月1日から平成24年3月31日まで

占用物件  ガス管(但し,本件各道路以外の場所において新設されたガス管が新たに若干加わっている。)」

3  当審における当事者の本案前の主張

(1)  被控訴人

本件許可処分は,平成23年3月31日に占用期間が終了し,同日,占用期間を平成24年3月31日までとする本件新許可処分がなされた。

本件新許可処分は,本件許可処分と比べ,占用物件であるガス管の長さが異なっており,単に,期間を更新したものではない。したがって,本件許可処分が違法であったとしても,そのことから当然に本件新許可処分が違法となるという論理必然の関係は認められない。

よって,本件許可処分の取消しを求める訴えは,その利益を欠き,不適法である。

控訴人は,最高裁昭和43年12月24日判決(民集22巻13号3254頁。以下「昭和43年最判」という。)を援用して,訴えの利益が失われない旨主張する。しかし,これは,テレビジョンの解説に関し,同一周波数を巡って競願関係にある者が免許人の地位を得るために訴えたものであり,事案を異にする。

(2)  控訴人

本件許可処分は,占用期間を平成23年3月31日までとするものであるが,その占用は,ガス管を継続して埋設するためであるから,本来,ガスの供給目的が継続する限り,継続占用することが予定されている。これを平成23年3月31日までとしたのは,処分行政庁が,道路占用許可処分を年度単位で行っているためであり,毎年,年度初めに占用期間を1年間延長更新許可する扱いになっており,更新処分にほかならない。

したがって,本件許可処分は,その占用期間の満了後も更新許可されることが予定されており,かつ,その後の路占用許可処分はいずれも本件許可処分を前提にその占用期間を延長するだけのものであるから,本件許可処分の占用期間が満了したからといって,本件許可処分の取消しを求める訴えの利益が消滅するものではない(昭和43年最判)。

4  当審における控訴人の補充的主張

(1)  本件許可処分は,保安協議を経ておらず,違法である。

原審は,保安協議を経ることは,ガス管埋設工事のために道路を占用することを許可する場合の要件であって,工事完了後にガス管を継続して設置するために道路を占用することを許可する場合の要件ではない旨判示する。

しかしながら,法32条1項は,「物件を設け,継続して道路を使用しようとする」行為について占用許可を要するものとし,「継続して道路を使用すること」を「物件を設けること」から分離して規定しておらず,占用許可申請書にも両者を区別せず,「工事実施の方法」を記載するよう定めている(同条2項)。また,高槻市における道路占用許可は,年度単位で行われているため,本件許可処分(継続)と,これに先立つ本件旧許可処分(新設)がなされているが,前者は,後者の占用期間を1年間延長する更新処分にほかならず,実質的に1つの処分である。

したがって,道路占用許可の要件を新設の場合と継続の場合とで別意に解することは不当である。

(2)  原判決は,本件旧許可処分がなされた時点では判明していなかった本件各道路の埋設物の状況や処分後のAによるガス管埋設時の状況に基づいて,本件許可処分の要件適合性(占用場所と構造)を判断しており,抗告訴訟の審理構造に反している。

また,被控訴人は,本件許可処分の際には,本件各道路の埋設物の状況について何ら調査しておらず違法である。

(3)  占用の場所について

ア 本件各道路は,道路の幅員や埋設状況を勘案すれば,雨水管,汚水管,電柱,複数のガス管を埋設することは,危険であり,「他の占用物件と錯そうするおそれのない場所」に当たらない。

イ 原判決は,法は,ガス管が埋設されている道路に新たに別のガス管を埋設することを許容していると解するが,そのような根拠はない。

ウ 「他の占用物件と錯そうするおそれのない場所」を要件とするのは,占用物件が錯そうすると改修工事等を行うに当たって複雑な作業を要し,他の占用物件を毀損するおそれがあることから,そうした事態を防ぐためでもある。しかるところ,幅員が3.55メートルから4.8メートルである本件各道路においては,地下埋設物件の維持管理・改修工事のための道路占用スペースの確保がそもそも難しい上に,複数のガス管があれば,いずれのガス管からのガス漏れかが直ちに分からず,Aと控訴人の両方の緊急車両による作業を実施する必要があるが,そのようなスペースはない。

(4)  構造について

ア 原審は,控訴人所有のガス管とA所有のガス管は平行部で30センチメートル以上の離隔距離が確保され,交差部でもそれだけの距離が確保できない箇所については土嚢を挟んで配管されていることを理由にA所有のガス管が控訴人所有のガス管の構造に支障を及ぼすものではないと判示するが,維持管理や緊急時には,慎重な作業を期待できず,ガス管の材質はPE管であって容易に損傷し,損傷したときにはガス漏れを生ずる。したがって,今後の維持管理や緊急作業時を考えれば,他の占用物件の構造に支障がないとはいえないはずである。

イ 原審は,Aのガス管と電柱との関係についても,埋設物間の距離を具体的に定めた法令は存しないとするが,実際には,ガス管破損事故は極めて多く,工事作業員の不注意があっても,ガス管が損傷されることがないような離隔距離が確保される必要がある。本件は十分な距離が確保されておらず,控訴人所有のガス管の構造に支障を及ぼすものである。

第3当裁判所の判断

1  本案前の主張について

被控訴人は,本件許可処分は,占用期間である平成23年3月31日の経過により,処分の効力が失われ,処分の取消しを求める訴えの利益がない旨主張する。

確かに,本件許可処分は,平成23年3月31日の経過により,効力を失い,本件新許可処分は,占用期間を更新する旨の処分ではなく,改めて,平成23年4月1日から平成24年3月31日までの占用を許可する処分であるから,形式上新たにされた許可処分であって,単に期間を更新したものではない。しかしながら,前提事実及び証拠(乙4,6)によれば,本件旧許可処分,本件許可処分及び本件新許可処分は,いずれもAのガス管の埋設を目的とするものであり,長期間にわたって道路を占用することを前提としていること,本件新許可処分は本件許可処分と比べて占用物件であるガス管の長さが若干増加しているが,これは,本件各道路部分以外の地区に新規に敷設されたガス管分が増加しているだけであって,その他の事項に変更はなく,少なくとも本件各道路部分に係る処分については,実質的には占用期間が更新されているに等しいことが認められる。したがって,本件許可処分において,道路の占用が1年間の短期間で終了するものとして,その期間内においてのみの許可要件について判断したということはあり得ず,道路の占用が相当長期に及ぶものであり,その間,多数回占用許可処分が繰り返されることを前提として,許可要件について判断したものと推認できる。このことは,本件新許可処分についても同様である。そうすると,本件許可処分について違法事由があることを理由として判決によって取り消されれば,その事情は本件新許可処分にも引き継がれ,行政庁は,その判決によって,その後の許可を取り消さなければならない拘束を受けるものと解される(行政事件訴訟法33条1項)。

よって,訴えの利益の観点からは,本件新許可処分は実質的には本件許可処分を更新したものと解され,本件許可処分の取消を求める訴えの利益を認めるのが相当である。

なお,被控訴人は,昭和43年最判は競願関係にある当事者からの訴えの場合であり,本件とは事案を異にする旨主張するが,競願関係であることは原告適格を基礎付ける事情であると解されるから,被控訴人の主張は当たらない。

2  本案について

当裁判所も,本件許可処分は法及び施行令に違反せず,控訴人の請求は認められないと判断する。

その理由は,原判決「第3 争点に対する判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。

3  補足説明

(1)  保安協議を経ていないことについて

法32条1項は,道路に,工作物,物件又は施設を設け,継続して道路を使用しようとする場合に,道路管理者の許可を要すると定めており,各号で工作物等が列記されているから,本条は,工作物等を設けて道路を継続使用する場合が予定されており,工作物等を設けることなく,継続して道路を使用することを想定しているとは解されない。

もっとも,工作物等には,ある程度の期間道路に設置し,その後は撤去することが予定される物とその撤去時期を予定せずに継続的に工作物等を設置して道路を占用することが予定される物があると解されるから,同条1項の「設け」には,「新たに設ける」場合と「継続して設置する」場合が含まれると解される。しかるところ,同条2項5号は,「工事実施の方法」を記載した申請書を提出することを求め,施行令13条6号は,これを受けて,工事実施の方法に関する基準として,「ガス管……が地下に設けられていると認められる場所又はその付近を掘削する工事にあっては,保安上の支障のない場合を除き,イ 試掘その他の方法により当該電線等を確認した後に実施すること ロ 当該電線等の管理者との協議に基づき,当該電線等の移設又は防護,工事の見回り又は立会いその他の保安上必要な措置を講ずること」を定めるが,このような保安協議等は,工作物等を新たに設ける場合にのみ意味があるのは明らかであり,本件のように,既設のガス管を敷設した状態で道路の占用を継続する場合にまで,保安協議等を経ることを要件としているとは解されない。

そうすると,保安協議を欠くことを理由として,本件許可処分が違法であるとの控訴人の主張は認められない。

なお,控訴人は,本件許可処分が,これに先立つ,本件旧許可処分(新設)と,実質上1つの処分である旨も主張するが,これらは,別個の処分であって,控訴人の主張は採用できない。

(2)  要件適合性の判断資料について

控訴人は,①被控訴人は,本件許可処分をする際,占用の場所及び構造適合性について,要件適合性を調査していない,また,②原判決は,処分後,Aのガス管埋設工事によって判明した事情に基づいて,占用場所や構造についての要件適合性を判断しており,不当であると主張する。

しかしながら,処分行政庁は,本件許可処分(及びその前提となる本件旧許可処分)を行うに当たり,Aから,道路の占用の目的,場所,工作物の構造,工事実施の方法等を記載した申請書の提出を受けており(法32条2項),それによって,本件道路の幅員が3.55メートルないし4.8メートルであることや住宅街の一般的な市道であること等の状況を確認しているのであるから,控訴人の主張は認められない。

また,確かに,原判決は,埋設工事の際のガス管の敷設状況(甲16,20)をも資料として占用の場所や構造が処分要件に適合していると判断しているが,実際に,ガス管が設置された後の状況をも資料として,処分の違法性を判断することは何ら抗告訴訟の構造に反するものではない。

(3)  占用の場所について

ア 施行令10条2号は,法33条の道路の占用許可基準に関する占用の場所について,「イ 一般工作物等の種類又は道路の構造からみて,路面をしばしば掘削し,又は他の占用物件と錯そうするおそれのない場所であること。ロ 保安上又は工事実施上の支障のない限り,他の占用物件に接近していること。ハ 道路の構造又は地上にある占用物件に支障のない限り,当該一般工作物等の頂部が地面に接近していること。」を定めているところ,上記認定事実によれば,本件各道路は,幅員が3.55メートルないし4.8メートルの住宅街にある一般的な市道であることが認められ,これによると,本件各道路について,路面をしばしば掘削するおそれや,他の占用物件と錯綜するおそれのない場所に当たると判断した行政処分庁の判断が,法32条2項3号,1項,施行令10条2号に反するとは認められない。

イ 控訴人は,法が複数のガス管の敷設を許容していると解すべきでないと主張する。しかしながら,ガス管を複数敷設することになることが,他の占用物件と錯そうするおそれを生じさせることになると解することはできず,控訴人の主張は失当である。

また,控訴人は,ガス漏れ等の場合に改修工事をする上で支障が生ずる旨主張するが,仮に,いずれのガスが漏れているかが不明であった場合があり,改修工事の際に支障が生ずる可能性があるとしても,他の占用物件と錯そうするおそれを生じさせる事情として,そのような事情を考慮すべきであると解することはできず,控訴人の主張は失当である。

(4)  構造について

控訴人は,緊急作業時に作業が困難となる旨主張して,Aのガス管の構造が,構造についての要件を充足しない旨主張する。しかしながら,地下に設けられるガス管については,その構造が堅固で耐久性を有するとともに,道路及び地下にある他の占用物件の構造に支障を及ぼさず,道路の強度に影響を与えないものであれば足り(施行令12条2号),他の占用物件との距離や作業の困難性に影響するかどうかは,上記要件に影響しない。

4  以上によれば,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 永井ユタカ 裁判官 泉薫 裁判官 舟橋恭子)

file_2.jpg別紙

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例