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大阪高等裁判所 平成23年(行コ)86号 判決 2012年3月16日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  処分行政庁が控訴人に対してした次の各処分(ただし,各項において部分を限定しているものは,当該部分に限る。)をいずれも取り消す。

(1)ア 平成 16 年5月 27 日付けでした控訴人の平成 12年4月1日から平成 13 年3月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「平成 12年度更正処分」という。)のうち,納付すべき消費税額 291万 4800 円を超える部分及び納付すべき地方消費税額 72万 8700円を超える部分

イ  平成 16年5月 27日付けで平成 12年度更正処分とともにした過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成 12年度賦課決定処分」という。)

(2)ア 平成 16 年5月 27 日付けでした控訴人の平成 13年4月1日から平成 14 年3月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「平成 13年度更正処分」という。)のうち,納付すべき消費税額 297万 2800 円を超える部分及び納付すべき地方消費税額 74万 3200円を超える部分

イ  平成 16年5月 27日付けで平成 13年度更正処分とともにした過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成 13年度賦課決定処分」という。)

(3)ア 平成 19 年4月 26 日付けでした控訴人の平成 15年4月1日から平成 16 年3月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「平成 15年度更正処分」という。)のうち,納付すべき消費税額 315万 1000 円を超える部分及び納付すべき地方消費税額 78万 7700円を超える部分

イ  平成 19年4月 26日付けで平成 15年度更正処分とともにした過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成 15年度賦課決定処分」という。)

(4)ア 平成 19 年4月 26 日付けでした控訴人の平成 16年4月1日から平成 17 年3月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「平成 16年度更正処分」という。)のうち,納付すべき消費税額 291万 7200 円を超える部分及び納付すべき地方消費税額 72万 9300円を超える部分

イ  平成 19年4月 26日付けで平成 16年度更正処分とともにした過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成 16年度賦課決定処分」という。)

(5)ア 平成 19 年4月 26 日付けでした控訴人の平成 17年4月1日から平成 18 年3月 31 日までの課税期間分の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「平成 17年度更正処分」という。)のうち,納付すべき消費税額 284万円を超える部分及び納付すべき地方消費税額 71万円を超える部分

イ 平成 19年4月 26日付けで平成 17年度更正処分とともにした過少申告加算税賦課決定処分(以下「平成 17年度賦課決定処分」という。)(以下,平成 12 年度更正処分,平成 13年度更正処分,平成 15 年度更正処分,平成 16年度更正処分及び平成 17 年度更正処分を合わせて「本件各更正処分」といい,「平成 12 年度賦課決定処分」,「平成 13年度賦課決定処分」,「平成 15年度賦課決定処分」,「平成 16 年度賦課決定処分」及び「平成 17 年度賦課決定処分」を合わせて「本件各賦課決定処分」という。)

3 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は,控訴人が,消費税及び地方消費税に係る本件各更正処分は課税対象にならないものについても課税しているから,本件各更正処分のうち,当該課税をしている部分は違法であるとして,その取消しを求めるとともに,控訴人は上記部分以外については確定申告を行っているから,過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分も違法であるとして,その取消しを求めた事案である。

原審は,控訴人の請求のうち,控訴人が更正の請求という手続を経ずに,更正処分のうち確定申告額を超えない部分について処分の取消しを求めている部分については,訴えの利益を欠き,不適法であるとして却下し,その余の部分については請求を全て棄却した。そこで控訴人が控訴の趣旨記載のとおりの判決を求めて控訴した。

したがって,控訴の対象は,原審が本案に基づく判断をした部分に限定され,原審にて却下の対象になった部分は控訴の対象とされていない。

2  前提事実及び関係法令の定め等は,原判決の「事実及び理由」第2の1,2記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,以下のとおり補正する。

(1)  原判決 17頁 19 行目から 23行目までを,以下のとおり改める。

「消費税法に基づく消費税は,導入当時の基本的な仕組みは概略次のとおりであるとされていたものである。

[1] 消費に広く薄く課税

消費税は,特定の物品,サービスに課税する個別消費税とは異なり,消費に広く薄く負担を求めるという観点から,金融取引,資本取引などのほか,医療,福祉,教育の一部を除き,ほとんどすべての国内取引や外国貨物を課税対象として課税される間接税である。

[2] 消費者に転嫁し,税の累積を排除

消費税は,事業者に負担を求めるのではなく,税金分は事業者の販売する物品やサービスの価格に上乗せされ,次々に転嫁され,最終的には消費者に負担を求める税である。また,清算,流通の各段階で二重三重に税が課されることのないよう,売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除し,税が累積しないような仕組みが採られている。」

(2) 原判決 18 頁3行目の「存在しないが,」の次に「租税実務においては,」を加え,同頁7行目,9行目及び 15 行目の各「解される。」を「解されている。」と改める。

3  本件の争点は,本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の適法性である。

具体的には,控訴人が収受する以下の各金員について,消費税法4条1項,28 条1項の課税対象になるか否か,すなわち,これら金員が「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」(同法2条1項8号「資産等の譲渡」)における対価(28 条1項)に該当するかという点である。

(1)  本件各受任事件負担金(争点(1))

(2)  23条照会手数料(争点(2))

(3)  本件各事務委託金(争点(3))

(4)  司法修習委託金(争点(4))

4  当事者の主張

(当審における控訴人の主張については,第3「当裁判所の判断」の中で適宜触れる。)

(1) 消費税の課税要件としての「資産等の譲渡(本件においては役務の提供)」における「対価」に該当するか否かの判断基準(各争点の前提)原判決の「事実及び理由」第2の4(1)(原告の主張)アないしウ,及び,(被告の主張)アないしウ記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,27 頁4行目文頭から7行目「解される。」までを,「上記2(1)のような消費税の性格や,消費税法において採用されている立法政策の内容からすると,役務の提供の対価として消費税の課税対象となる経済的利益(金銭を含む。以下同じ。)に当たるかどうかの判断は,ある特定された具体的役務の提供と収受された経済的利益との間に条件関係があるか否かで判断するほかないものと解される。」と改める。

(2)  争点(1)(本件各受任事件負担金)について

原判決の「事実及び理由」第2の4(2)(被告の主張)アないしオ,及び,(原告の主張)アないしオ記載のとおりであるから,これを引用する。

(3)  争点(2)(23 条照会手数料)について

原判決の「事実及び理由」第2の4(3)(被告の主張)アないしウ,及び,(原告の主張)アないしウ記載のとおりであるから,これを引用する。

(4)  争点(3)(本件各事務委託金)について

原判決の「事実及び理由」第2の4(4)(被告の主張)アないしウ,及び,(原告の主張)記載のとおりであるから,これを引用する。

(5)  争点(4)(司法修習委託金)について

原判決の「事実及び理由」第2の4(5)(被告の主張)ア,イ,及び,(原告の主張)アないしウ記載のとおりであるから,これを引用する。

第3当裁判所の判断

当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。

1  消費税法上の「対価」の意義の解釈について

(1)  現在我が国が採用している消費税については,導入当時の基本的な仕組みは第2の2で補正の上引用した原判決の「事実及び理由」第2の2(1)記載のとおりであるとされていた。現在も,税率等手続面の変更は格別,税の役割及び基本的趣旨は変動していない。

そして,課税については,消費税法により,「国内において事業者が行った資産の譲渡等には,この法律により,消費税を課する」(4条1項)とされ,「資産の譲渡等」とは,「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう」(2条1項8号)とされる。納税義務者は,課税資産の譲渡等を行った事業者であり(5条1項),課税資産等の譲渡等に係る消費税の課税標準は,「課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し,又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし,課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)」とし,「ただし,法人が資産を第4条第4項第2号に規定する役員に譲渡した場合において,その対価の額が当該譲渡の時における当該資産の価額に比し著しく低いときは,その価額に相当する金額をその対価の額とみなす」(28条1項)とされている。

なお,消費税基本通達5-1-2は,「法第2条第1項第8号(資産の譲渡等の意義)に規定する「対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供」とは,資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供に対して反対給付を受けることをいうから,無償による資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は,資産の譲渡等に該当しないことに留意する。」としているが(証拠<省略>),ここで「対価を得て行われる」という文言を「・・・に対して反対給付を受ける」という意味に解しているのは,いわば同義語で言い換えたものであるということができる。

(2)  以上の制度趣旨及び消費税法の規定からすれば,本来,消費税は広く薄く課税対象を設定し,最終的に消費者への転嫁が予定されている税であるから,【判示事項1】事業者が収受する経済的利益が,消費税の課税要件としての「資産等の譲渡(本件においては役務の提供)」における対価に該当するためには,事業者が行った当該個別具体的な役務提供との間に,少なくとも対応関係がある,すなわち,当該具体的な役務提供があることを条件として,当該経済的利益が収受されるといい得ることを必要とするものの,それ以上の要件は法には要求されていないと考えられる。この点につき,被控訴人は同趣旨の主張をしており,控訴人も,少なくともそのような関係の存在,すなわち収入と役務の提供等との間に具体的かつ直接的な対応関係があること(関連性ないし結合性。ただし,その関連性は,単なる条件的因果関係,あるいは,全体的,抽象的な対応関係では足りないとする。)が必要であると主張する。一方で,控訴人は,そのほかにも,対価であるかどうかの検討において重要な要素として,後述の任意性及び同等性を挙げる。しかし,前述のとおり,本来,消費税の課税対象は広く設定されることが予定されているのであって,法の定めにない,対象を限定するような何らかの要素が必要かどうかという点については慎重に判断する必要がある。

(3)  控訴人は,消費税の課税対象となる対価であると評価されるためには,前述した個別具体的役務の提供との関連性のほかに,必ずしも必要条件ではないにせよ,まず,収受される経済的利益が自由な市場における価格決定の対象になっていることが基本的要素である(以下「任意性」という。)とし,さらに,当該提供された役務と収受された経済的利益が同等の経済的価値を持つことも基本的要素である(以下「同等性」という。)と主張するので,各争点の判断に入る前に,その点について以下検討する。

ア 任意性について

控訴人は,市場取引こそ消費税の基本的な課税対象であるとし,市場外取引は消費税の課税対象ではなく,その裏付けとして,いわゆる NHKの受信料については,その価格決定や徴収につき当事者間の合意に基づいたものではなく,したがって任意性がないために課税要件から外れているところを特に政策的に課税の対象にしたもの(消費税法2条1項8号,同施行令2条1項5号)であると主張する。

しかし,同施行令2条が「対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為」として定めるものは,消費税法4条4項のように,本来明らかに課税要件に該当しないものを特に対価を得て資産の譲渡が行われたものとみなして課税対象にしたものとはいえないし,元来,NHK放送とその受信料には,受信設備の設置によって契約締結が義務付けられることや,その価格についても多くの特殊性があるといえることから,対価を得て行われる役務の提供に該当することを確認的に定めたものと解することができる。むしろ,価格決定が当事者の任意で行われるわけではない附合契約や一方的な価格決定が行われるものについても,転嫁が可能なほどに個別具体的な役務の提供と結びついている場合には,法は消費税の課税対象とする趣旨であると考えられる。

前述の制度趣旨及び法の規定からすれば,消費税の課税対象を自由取引によって形成された価格に限定する必要も理由もない。任意性という要素は,控訴人も自認するとおり,少なくとも消費税の対価性の要件ないし要件に準ずるものとはいえず,その点が欠けるという理由で一般的に対価であることを否定されるべきものでもない。

イ 同等性について

控訴人は,当該役務と経済的利益は同等の経済的価値を持つべきで,それが存在しなければ終局的には関連性が認められないという趣旨で,同等性は,対価性判断の上で,重要な基本的要素であると主張する。

しかし,前掲の消費税法28 条1項ただし書の規定は,明らかに,課税標準(対価の額)が経済的な利益の額そのままであることを前提とした規定であり,また,実質的にも,現実の価値の大小というあいまいな概念を,最も明確であるべき課税要件の判断を大きく左右する要素として持ち込むことは妥当でない。同等性という要素は,少なくとも,要件ないし要件に準ずるものとして要求されているものではないことは明らかである。

ウ 弁護士会の会費に該当するとの主張について

付言すると,控訴人は,本件各事務委託金及び 23 条照会手数料については,各金員が控訴人の会費に該当するから,対価性が否定される旨の主張をしている。しかし,上記のとおり,消費税の対価性の判断要件として任意性が要求されているとは解されず,会費が強制的に徴収されるものであるという一事をもって,課税要件を満たさないという判断はできない。消費税法基本通達5-5-3も,会費であることから直ちに対価性を否定しているものではない。

一般的に,会費というだけでは,その発生する前提条件が明らかになるものではなく,したがって,何らかの役務の提供と関連性があるのか,また,関連性がある場合に提供される役務の内容等も全く明らかにならないので,対価性の検討において,本件各金員が会費に該当するか否かを判断する必要はない。

2  争点(1)(本件各受任事件負担金)について

(1)  認定できる事実は,原判決の「事実及び理由」第3の2(1)のとおりであるので,これを引用する。

(2)  検討

ア 原判決の「事実及び理由」第3の2(2)ア(ア)(イ)記載のとおりであるから,以下のとおり補正の上,これを引用する。

(ア) 原判決 60 頁 12 行目の「相談者等」の前に,「具体的に」を加える。

(イ) 原判決 61 頁4行目から7行目までを,次のとおり改める。

「(ウ) 結局,各弁護士は,控訴人の事務処理という役務の提供によって受任の機会を得たため,本件各受任事件負担金を支払うこととされているものということができ,当該具体的役務の提供と本件各受任事件負担金との間には対応関係があるということができるので,本件各受任事件負担金は当該役務の提供の対価であるということができる。」

イ 控訴人の主張について

(ア) 控訴人は,本件各センターは,セッティング業務や名簿登載者への連絡などを行うにすぎず,事件の受任の過程に本件各センターが直接関与することはないので,担当弁護士が行う事件受任などの業務とは全く質の異なる事務を行うにすぎない以上,本件各受任事件負担金は,本件各センターの行う事務に対する反対給付としての性質は有していないという趣旨の主張をしている。また,名簿登載等の事務処理は一般消費者のために行っているものであって,弁護士の利益のために行っているものではないとも主張する。

確かに,担当弁護士の事件受任の過程に本件各センターは直接関与しない。しかし,上記アのとおり,控訴人の行う事務処理の結果,弁護士が受任の機会を得たといい得る以上,控訴人の当該役務提供との対応関係が認められるといえる。また,各当事者に,役務提供や受任機会を得ることについて,営利目的がないとしても同様である。

(イ) さらに控訴人は,機会の提供が役務の提供であるとすると,事件を受任しなくても役務の提供がされていることになり,その場合にも反対給付がなければ論理的に整合しないとか,たまたま事件を受任した担当弁護士のみから受任事件負担金を徴収したとしても,それは機会の提供と直接的,具体的に関連する反対給付とはいえないなどと主張する。

しかし,事件を受任する機会を得た弁護士のうち,どのような条件を満たした者から,いくら徴収するかという点は,単に,徴収の条件を,機会提供を受けた弁護士の中で,現実の受任に至り,一定の報酬を得た者に限定しているという徴収方法(政策)の問題にすぎないというべきである。控訴人の役務提供,すなわち機会提供自体を全く受けていない者が徴収されていない以上は,徴収された金員は当該役務提供と対応関係があるということができる。

(ウ) 以上のとおり,控訴人の主張はいずれも採用できない。

(3)  小括

以上によれば,【判示事項2】本件各受任事件負担金は,当該具体的役務の提供に対して受ける対価であるということができる。したがって,当該役務の提供は課税対象である「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)に該当し,よって,当該役務の提供は課税対象となり,本件各受任事件負担金は課税取引の対価であり課税標準となるとして本件各更正処分がされた点に,違法はない。

3  争点(2)(23 条照会手数料)について

(1)  認定できる事実は,原判決の「事実及び理由」第3の3(1)のとおりであるので,これを引用する。

(2)  検討

ア 原判決の「事実及び理由」第3の3(2)記載のとおりであるので,これを引用する。ただし,原判決 65 頁2行目の「そうすると,」から,4行目の「いうことができる。」までを,「そうすると,23 条照会手数料は,照会に係る事務という控訴人の具体的な役務の提供があるからこそ支払われているものであって,当該特定の具体的役務の提供との対応関係を有するものということができる。」と補正する。

イ 控訴人の主張について

(ア) 控訴人は,23条照会の手続は,消費税法2条1項8号の「事業として」行われたとはいえない旨主張する。

しかし,租税実務によれば,法人が行う資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供は,そのすべてが「事業として」行われる取引に該当するものと解されていること(消費税法基本通達5-1-1),23 条照会の手続に関する事務も,広く労力,技術,サービス等を第三者に提供することをいうものと解されている(消費税法基本通達5-5-1)役務の提供に該当するといえることによれば,控訴人が公益法人である以上,控訴人の事業性は,これを認めることができる。上記主張は失当である。

(イ) 控訴人は,23条照会において控訴人と各弁護士との間には委託・受託関係がないとか,控訴人には 23条照会により利潤を得ようとする動機がないとか,手数料が同額であることなどを,対価性が否定される理由の一つとする趣旨の主張をしている。また,個々の弁護士は 23条照会によって反射的利益を受けるにすぎないのであって,個々の弁護士に対する控訴人の役務提供は観念できない旨主張する。

しかし,23条照会の事務は,弁護士会である控訴人しか行い得ないもので,照会を申し出た会員が,本来は自分でできる事務を控訴人に委託して行ってもらったという関係にはないとしても,これによって,23条照会手数料が照会事務を行ったことに対して交付されるという対応関係が否定されるものではなく,23 条照会手数料が利潤を得るためのものであるかどうか,手数料が定額であることなども,対価性の有無の判断には関係しない。

また,控訴人の指摘する裁判例(東京高裁平成 22年9月 29日判決・判時 2105 号 11頁)において,23条照会によって個々の弁護士が受ける利益が反射的利益であると判断されているのは,照会先との関係においてであって,控訴人と個々の照会を申し出た弁護士の間においては,個々の弁護士が照会事務という個別的な役務の提供を受けることを前提に,23条照会手数料を支払っているといい得るので,具体的な照会事務との間に上記のような対応関係があることは明らかである。

(ウ) 以上のとおり,控訴人の主張はいずれも採用できない。

(3)  小括

以上によれば,【判示事項2】23条照会手数料は,特定の役務の提供に対して受ける経済的利益,すなわち,対価であるということができる。したがって,当該役務の提供は課税対象である「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)に該当し,よって,当該役務の提供は課税対象となり,23条照会手数料は課税取引の対価であり課税標準となるとして本件各更正処分がされた点に,違法はない。

4  争点(3)(本件各事務委託金)について

(1)  認定できる事実は,原判決の「事実及び理由」第3の4(1)記載のとおりであるから,これを引用する。

(2)  検討

ア 本件組合の関係

原判決の「事実及び理由」第3の4(2)ア(ア)(イ)記載のとおりであるので,これを引用する。

イ 本件協会の関係

原判決の「事実及び理由」第3の4(2)イ(ア)(イ)記載のとおりであるので,これを引用する。

ウ 本件組合の事務についても,本件協会の事務についても,控訴人は,控訴人の職員が本件組合又は本件協会に出向して行っているものであって,事務委託ではなく,控訴人職員の出向であり,本件各事務委託金は,出向に係る給料相当額として支給されたものである旨主張する。そして,出向か請負委任かの区別は労務遂行の指揮監督の所在で決定すべきであるとし,契約書の標題や委託条項の記載文言などの形式は考慮すべきでないと主張する。しかし,労働法上は,他の企業の労働力を利用する局面において,労働者の利益が不当に害されることのないように,業務委託請負と出向を峻別する必要性があるものであるが,本件における本件各事務委託金の消費税法上の対価性の判断は,結局,本件各事務委託金が,一般に消費税の対象にならないとされている給与に該当するか否か(すなわち,労働者の労務の提供に対する実質的な対価と評価できるか否か)という問題に帰着する。そして,その判断においては,労務遂行の指揮監督の所在を含め,契約書の標題や委託条項の記載文言,会計上の処理等,当事者の意思を推認できる事情は全て考慮に入れるべきであり,本件においては,控訴人及び本件組合等が,ことさらに実体と異なる形式を採用していると考える理由もない。

したがって,控訴人の主張は採用できない。

(3)  小括

以上によれば,【判示事項2】本件各事務委託金は,具体的役務の提供に対して収受される金員であり,その役務の提供は対価を得て行われたものであるということができる。したがって,当該役務の提供は課税対象である「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)に該当し,よって,当該役務の提供が課税対象となり,本件各事務委託金を課税取引の対価であり課税標準となるとして本件各更正処分がされた点に,違法はない。

5  争点(4)(司法修習委託金)について

(1)  認定できる事実は,原判決の「事実及び理由」第3の5(1)のとおりであるから,これを引用する。

(2)  検討

ア(ア) 司法修習委託金については,次のような特徴がある。

a 司法修習委託金を支払うか否か及びその金額については,控訴人と司法研修所や最高裁判所,国との間で合意されるものではなく,予算として一方から示達されるだけであって,控訴人は,これについて決定する権限を一切有していない。

b 司法修習委託金を支払う旨の定めは,法律にも,最高裁判所規則である司法修習生に関する規則にも存在せず,司法研修所事務局発行の「司法修習生の修習に関する事務便覧」証拠<省略>において,司法研修所における予算に係る事務処理として,控訴人などの弁護士会に司法修習委託金を支払うこととされているにすぎない。

(イ) 上記(ア)aのような特徴に加え,上記(1)で引用した原判決の「事実及び理由」第3の5(1)エなどの事情によれば,司法修習委託金は,これまで検討してきた本件各受任事件負担金,23 条照会手数料及び本件各事務委託金とは異なり,控訴人の内部でその構成員の総体的意思として決定されたと捉え得る控訴人の規程・規則等に基づくものとして説明することはできない。さらに,司法修習委託金は,上記(ア)bのとおり,国の予算に係る事務処理として支払われるものである。

(ウ) 控訴人は,司法修習制度につき,単なる最高裁判所の業務ではなく,法曹三者全体の業務として維持運営されてきたのであるとし,司法修習委託金についても,弁護士会自身が法制度上負担する責務を遂行するに際して最高裁判所から一方的に支給される,特定の政策目的の実現を図るための給付金であると主張する。

イ(ア) 確かに,司法修習制度は我が国の法曹制度及び法曹養成制度の基礎を形成する重要な制度として,法曹三者の協力により,維持・運営されてきたものである。しかし,司法修習については,裁判所法,司法修習生に関する規則等によれば,最高裁判所によって設置された司法研修所によって司法修習生の修習に関する事務が取り扱われ(同法14条),司法修習生は最高裁判所が採用し,司法修習生に所定の事由があるときは最高裁判所が罷免することができ(同法66 条,68 条),司法研修所長は,修習の全期間を通じて,修習に関しては,司法修習生を統轄する(司法修習生に関する規則1条)ものとされているのであって,控訴人は,司法研修所長から弁護実務修習の委託を受け(原判決の「事実及び理由」第3の5(1)ア),実際に,同(1)ウ(イ)記載の各年度において,弁護実務修習を実施しているということができる。そうすると,上記司法修習制度の枠組みからすれば,控訴人などの弁護士会は,現実の弁護実務修習を行うという具体的な役務を,司法研修所,ひいては最高裁判所,国に対して,提供したものであることが認められ,弁護士会自身の特定の政策目的を実現させる業務の遂行とは異なるものということができる。したがって,司法修習委託金を,特定の政策目的を実現させるための給付金(消費税法基本通達5-2-15)と同視することはできない。

(イ) そして,司法修習委託金は,上記(1)で引用した原判決の「事実及び理由」第3の5(1)イのとおり,弁護実務修習の指導に要する経費に充てることをその使途とすることが明らかであり,控訴人などの弁護士会が弁護実務修習の委託を受けてこれを実施したからこそ支払われるものであって,弁護実務修習という個別具体的な役務の提供と司法修習委託金の間には,対応関係があるということができる。

(ウ) また,消費税法施行令2条により,負担付き贈与による資産の譲渡や(同条1項1号),土地収用法等に基づく所有権等の権利の収用に際して補償金を取得した場合(同条2項)も,課税対象となるとされていることに加え,消費税は,消費全体に広く薄く税負担を求めることを目的とするものであることなどからすると,「その金額が対応する資産の譲渡や役務の提供の客観的価値よりも低いと考えられるような金員」や,「一方当事者が支払の有無やその金額を決定できるような金員」についても,上記の消費税法基本通達5-2-15の規定するような給付金であるといえるような場合等でない限りは,資産の譲渡や役務の提供に対する対価であるとするのが,法の趣旨であると解される。

ウ なお,控訴人は,最高裁判所は,司法修習委託金が消費税の課税対象ではない旨判断していると主張しているところ,確かに,上記(1)で引用した原判決の「事実及び理由」第3の5(1)ウ(イ)の金額の推移に照らすと,予算の示達の場面において,司法研修所ひいては最高裁判所は,司法修習委託金を消費税の課税対象と意識していなかったようにもうかがわれるけれども,そのことと対価性の有無の判断には直接の関係はないから,この点からも,上記の判断は左右されない。

(3)  小括

以上のとおりであるから,【判示事項2】司法修習委託金は,個別具体的な役務の提供に対応して収受される金員であるので,対価性があり,その役務の提供は対価を得て行われたものであるということができる。したがって,当該役務の提供は課税対象である「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」(消費税法4条1項)に該当し,よって,当該役務の提供が課税対象となり,司法修習委託金は課税取引の対価であり課税標準となるとして本件各更正処分がされた点に,違法はない。

6  まとめ

以上の検討結果によれば,本件各更正処分は,その算出された税額も含め違法はなく,いずれも適法である。したがって,控訴人の行った各確定申告も過少申告であったことになり,これに基づいてされた本件各賦課決定処分も,その算出された税額も含め違法はなく,いずれも適法である。

第4結論

よって,控訴人の請求は理由がなく,原判決は相当であるから,本件控訴を棄却し,主文のとおり判決する。

(裁判官 小松一雄 裁判官 遠藤曜子 裁判官 平井健一郎)

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