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大阪高等裁判所 平成24年(く)145号 決定 2012年4月02日

主文

原決定を取り消す。

理由

本件抗告の趣意は,検察官宮本健志作成の「抗告及び裁判の執行停止の申立書」と題する書面に記載のとおりであるが,要するに,再審請求人については刑訴法448条2項に基づく刑の執行停止をすべきではなく,刑の執行を停止するとした原決定は判断を誤ったものであるから,その取消しを求める,というのである。

なお,所論に対する検討に先立ち,本件抗告の適法性について,職権で判断する。

再審に係る手続も訴訟手続に準ずるものと解され,また,刑訴法450条が再審請求棄却決定(刑訴法446条,447条1項,449条1項)と再審開始決定(刑訴法448条1項)に対しては即時抗告をすることができると規定し,刑訴法448条2項を挙げていないことからすると,再審開始決定に基づく刑の執行の停止の決定は,刑訴法419条に基づく一般抗告を許す決定から除外されているとも解し得るところである。しかし,刑訴法420条2項が,訴訟手続に関し判決前にした決定であっても,勾留など身柄関連の決定等に関してはその重要性に鑑み抗告による不服申立てを認めていること,再審開始決定の確定によっても直ちに確定判決の効力に影響を及ぼすものではないところ,刑訴法448条2項の措置は,再審開始決定の告知から再審の終局裁判の確定までの間に随時なし得るものであり,しかも再審開始決定が未確定の段階から確定判決の効果を事実上否定し受刑者の身柄を釈放するという重大な結果を生じさせることなどに鑑みれば,刑訴法448条2項に基づく職権発動としての刑の執行の停止決定に対しては,刑訴法420条2項に準じて一般抗告ができるものと解するのが相当である。そうすると,本件抗告は適法というべきである。

そこで,記録を調査して,その当否について検討する。

再審裁判の確定を待つことなく再審開始決定に伴って刑の執行を停止することを認める刑訴法448条2項は,再審開始決定がされたことにより確定判決に基づく刑の執行が不都合となる蓋然性が高まり,これを継続することが正義に反する場合があり得ることをその根拠とするものと解される。したがって,刑の執行停止の当否を判断するに当たっては,再審開始決定から再審の終局裁判の確定までのどの段階にあり,今後どのような審理が予想されるかという点や,再審開始決定の判断構造,事案の重大性,受刑者の身柄保全の必要性等を総合考慮すべきである。

本件については,再審開始決定に対して検察官からの即時抗告がされた段階であること,再審開始決定の理由は,再現実験という科学的な証拠の新規明白性を柱とするものではあるが,犯人性を否定する直接の根拠は再審請求人の自白の信用性であるところ,検察官の上記即時抗告は,上記再現実験の証拠価値等を論難するものであり,これらの証拠の証明力が即時抗告審で更に審査されるべきこと等からすれば,本件が無期懲役に処せられた重大事案であることにも照らすと,原決定が付した指定条件を考慮するとしても,再審開始決定が未確定の現段階において直ちに確定判決の効果を否定する刑の執行停止の措置を講じなければ正義に反するような状況にあるとはいえず,原決定はその裁量判断を誤ったというべきである。

よって,本件抗告は理由があるから,原決定を取り消すこととし,刑訴法426条2項により主文のとおり決定する。

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