大阪高等裁判所 平成24年(ネ)1719号 判決 2012年12月07日
判決
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2(1) 主位的請求
ア 被控訴人株式会社丸三タカギ(以下「被控訴人タカギ」という。)は,原判決別紙商品目録(1)記載の商品を譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示し又は輸入してはならない。
イ 被控訴人株式会社ノグチ,被控訴人有限会社フォーナート及び被控訴人ファミリー庭園EC株式会社は,同商品を譲渡し,引き渡し又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
ウ 被控訴人らは,同商品を廃棄せよ。
エ 被控訴人タカギは,控訴人に対し,900万円及びこれに対する平成23年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 予備的請求
被控訴人らは,京都府,大阪府及び滋賀県内において,上記商品を譲渡し,引き渡し又は譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
第2事案の概要(略称は,本判決に記載があるもの以外は,原判決に従う。)
1(1) 本件の主位的請求は,控訴人が,被控訴人らの行為が,法2条1項1号の他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている原告商品の形態からなる商品表示と同一又は類似の商品表示を使用した商品を譲渡する行為などに当たるとして,被控訴人らに対し,法3条に基づき,被告商品の譲渡等(被控訴人タカギに対してのみ輸入を含む。)の差止め及びその廃棄を求めるとともに,被控訴人タカギに対し,法4条本文及び5条1項に基づき,900万円の損害賠償及びこれに対する平成23年8月20日(本件訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたものであり,本件の予備的請求は,控訴人が,仮に原告商品が控訴人の商品表示として全国の需要者の間に広く認識されていなかったとしても,京都府,大阪府及び滋賀県(これらのうち少なくとも滋賀県)においては需要者の間に広く認識されているとして,被控訴人らに対し,法3条に基づき,京都府,大阪府及び滋賀県における被告商品の譲渡等の差止めを求めたものである。
(2) 原審が,控訴人の請求をいずれも棄却したので,控訴人が控訴した。
2 前提事実,争点及び争点に係る当事者の主張
前提事実,争点及び争点に係る当事者の主張は,原判決「事実及び理由」第2の1及び3並びに第3記載のとおりであるから,同部分を引用する。なお,控訴人の当審における主な補充主張については,後記当裁判所の判断の中で,適宜触れる。
第3当裁判所の判断
1 争点1(原告商品の形態は,法2条1項1号の商品等表示に当たるか)について
当裁判所も,原告商品の形態について,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を備えているとは認めることができないし,後記2のとおり,特定の者の商品であることを示す表示として需要者の間で広く認識されるに至っているとも認めることができないから,原告商品の形態について,法2条1項1号の商品等表示に当たるということはできないと判断する。その理由は,次の(1)のとおり補正し,次の(2)のとおり,控訴人の当審における補充主張への判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の1記載のとおりであるから,同部分を引用する。
(1) 原判決の補正
ア 原判決15頁19行目の「乙8ないし11」の後に,「,67」を挿入する。
イ 原判決16頁4行目に「乙12及び13」とあるのを「乙12,13及び68ないし70」に改める。
ウ 原判決16頁16行目の「郵便受け一般に共通する形態である」とあるのを「郵便受けとしてはありふれた形態である(乙1,15,16,29,30,34)」に改める。
エ 原判決16頁26行目末尾に,行を改めて,「また,特徴1ないし3を組み合わせることによって,特に独自の特徴が生じるともいえない。」を挿入する。
(2) 控訴人の補充主張に対する判断
ア 判断基準について
商品の形態は,通常,その商品の機能を発揮させ,又は美感を高めるために選択されるものであり,必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが,①商品の形態が,他の同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,②その商品形態が,長期間継続的かつ独占的に使用されるか,又は,短期間であっても商品形態について強力な宣伝等が伴って使用された結果,特定の者の商品であることを示す表示として需要者の間で広く認識されるに至った場合には,商品形態が,法2条1項1号の商品等表示に当たるとして,同号により保護されるものと解するのが相当である。これと同じ前提に立つ原判決の法律判断に誤りはない。
これに対し,控訴人は,商品形態について法2条1項1号の「商品等表示」該当性が認められるためには,商標法3条2項の「使用による特別顕著性」の獲得と同じく,当該商品の性質,取引形態,使用期間の長短,広告宣伝の量等の諸条件を考慮し,「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったか否かを基準とすべきである旨主張する。しかしながら,商品の形態が商品表示として需要者の間で広く認識されるためには,商品が他の商品と識別し得る独自の特徴を有している必要があると解されるから,上記主張は採用できない。なお,仮に控訴人主張の基準に依ったとしても,後記2のとおり,原告商品につき,需要者が控訴人の業務に係る商品であることを認識することができるに至ったとは認められないので,結論を左右しない。
イ 控訴人は,特徴1のうち前面凹状の緩やかなカーブがある錠付き扉を有する郵便受けは,多数は販売されておらず,独自の特徴である旨主張する。
しかしながら,乙8号証,丙1号証のものが上記特徴を有していることは明らかであるし,少なくとも乙9号証,67号証のもの及び丙10号証のものについても,上記特徴を有していると認められる。なお,これらの商品は,いずれも日本で流通していると認められる(乙9号証,67号証のものについては,乙9号証の1枚目で認定)。これらからすれば,上記特徴を有する郵便受けは,複数販売されているから,これをもって原告商品の独自の特徴ということはできず,上記主張は採用できない。
ウ また,控訴人は,特徴2につき,スペーサーも,商品の設置方法等に影響を与えることから,需要者にとって重要な商品の形態であるし,また,本体とスペーサーが一体となった商品は,原告商品以外に複数は存在しない旨主張する。
しかしながら,郵便受けにおけるスペーサーは,技術的機能の観点から設けられたものにすぎないし,原判決で説示されているとおり,使用時において通常目に触れることがない背面部の形態にすぎないから,商品表示として商品の形態を構成する特徴とはいい難い。また,同一メーカーのラインナップを1つと数えたとしても,郵便受け本体とスペーサーとが一体となった商品は,複数存在すると認められる(乙12,13号証のもの,乙68号証のもの,乙69号証のもの,乙70号証のもの)。したがって,上記主張も採用できない。
エ また,控訴人は,特徴3につき,錠周りが窪んでいることにより,全体としてフラットな印象を与えることができ,これは商品の特徴的な形態の一部を構成するというべきである旨主張する。
しかしながら,錠周りが窪んでいることにより扉全体としてフラットな印象を与えることができたとしても,前面扉が全体として凹凸の少ないフラットな形態となっている点が,郵便受けとしてはありふれた形態であることは,前記(1)ウのとおり補正して引用した原判決記載のとおりである。また,前面の扉の錠周りを窪ませた郵便受けが複数存在することも,原判決記載のとおりである。したがって,上記主張も採用できない。
2 争点2(原告商品の形態は,控訴人の商品表示として需要者の間に広く認識されているか)について
当裁判所も,原告商品の形態は,控訴人の商品表示として全国の需要者の間に広く認識されているとは認めることができないし,滋賀県等限定された地域についてみても,控訴人の商品表示として需要者の間に広く認識されているとは認められないと判断する。その理由は,次の(1)のとおり補正し,次の(2)のとおり控訴人の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第4の2記載のとおりであるから,同部分を引用する。
(1) 原判決の補正
ア 原判決17頁24行目の「明らかである。」の後に,「この点,確かに,デザインポストという表現が使用されているホームページが存在する事実は認められる(甲111,112)が,これらによっても,上記のとおり一般にデザインが重要な要素となる郵便受けの中で,「デザインポスト」という商品類型が存在すると認めるには不十分である。」を挿入する。
イ 原判決19頁23行目の「しかしながら,」から同20頁6行目までを,次のとおり改める。
「しかしながら,上記テレビコマーシャルの内容(甲113ないし115)によっても,原告商品は他の商品とともに画面を短時間横切るという程度であり,原告商品の形態について,控訴人の商品表示として需要者に認識させるものであったと認めることは到底できない。」
(2) 控訴人の補充主張に対する判断
ア 控訴人は,原告商品の販売実績に関し,マンション等の集合住宅,分譲住宅,貸家を含めて占有率を判断すべきではない旨主張する。
しかしながら,集合住宅でも郵便受けを独自に設置することはある(乙62,71)し, 分譲住宅でも買い替え需要はある(乙72ないし74参照)し,貸家についても,独自に郵便受けを設置することは当然考えられる。したがって,上記主張は採用できない。
イ 控訴人は,広告宣伝につき,控訴人が行った広告宣伝全体をみると,原告商品の形態は控訴人の商品表示として需要者の間に広く認識させ得るものであったというべきである旨主張する。
しかしながら,原判決「事実及び理由」第4の2(3)(ただし,前記(1)イのとおり補正)で検討したところによれば,各媒体による広告宣伝を全体的にみたとしても,原告商品の形態が,控訴人の商品表示として需要者の間に広く認識させ得るものであったとは認められない。なお,原告商品の単品パンフレット(甲70)につき,実際に頒布された正確な数量が明らかでないことは原判決「事実及び理由」第4の2(3)エ記載のとおりであるから,上記単品パンフレットを1万部作成したことは,上記結論を左右するものではない。
したがって,上記主張も採用できない。
3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がないからいずれも棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 横路朋生 裁判官 平井健一郎)
file_2.jpg別紙