大阪高等裁判所 平成24年(ネ)1946号 判決 2013年4月12日
控訴人(被告)
Y株式会社
上記代表者代表取締役
A
上記訴訟代理人弁護士
山岸久朗
同
中村誠広
同
彌田晋介
被控訴人(原告)
X
上記訴訟代理人弁護士
清王達之
主文
1 原判決中、控訴人敗訴部分(原判決主文第1項)を取り消す。
2 被控訴人の控訴人が平成22年7月4日にした普通株式500株の新株発行無効請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1・2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文第1、2項同旨
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 事案の骨子
本件は、控訴人の株主である被控訴人が、①控訴人が平成22年7月4日にした普通株式500株の新株発行(以下「本件新株発行」という。)について、主位的請求として、本件新株発行の不存在の確認、予備的請求として、本件新株発行を無効とすることを求めるとともに、②控訴人の平成22年7月8日開催の株主総会(以下「本件株主総会」という。)における、次のア~エの各決議(以下「本件各決議」という。)の取消しを求めた事案である。
ア 定款第15条中に、株主総会招集通知は「会日の3日前までに発する」とあるのを「会日の1週間前までに発する」と変更する旨の決議
イ 定款第17条2項中に、会社法第309条2項の定めによる議決は、「議決権の3分の1以上を有する株主が出席し」とあるのを「議決権の過半数以上を有する株主が出席し」と変更する旨の決議
ウ B、Cを取締役から解任し、Dを監査役から解任する旨の決議
エ E、Fを取締役に選任し、Gを監査役に選任する旨の決議
(2) 訴訟の経過
原審は、被控訴人の請求のうち、本件新株発行の不存在確認の主位的請求を棄却し、本件新株発行を無効とする旨の予備的請求を認容し、その余の請求はいずれも棄却した。
控訴人は、原判決中、控訴人敗訴部分の取消しと被控訴人の本件新株発行を無効とする旨の請求を棄却する旨の判決を求めて控訴した。被控訴人は、原判決に対し、控訴も附帯控訴もしていない。
したがって、当審における審判の対象は、被控訴人の本件新株発行を無効とする旨の請求の当否のみである。
2 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、末尾の括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、容易に認めることができる。
(1) 当事者等
ア 被控訴人
被控訴人は、控訴人の株式を60株保有する株主である(争いがない。)。
イ 控訴人
(ア) 控訴人は、株式会社a(以下「a社」という。)の製造する製品の販売を主な事業内容とする株式会社である(甲21)。
(イ) 控訴人は、株式譲渡制限会社、取締役会設置会社であり、定款において、取締役会を招集するのは社長(代表取締役)であると定めている(甲3)。控訴人の取締役は、平成20年11月以降、次のとおりであった(甲2)。
a 代表取締役 A(以下「A」という。)
b 取締役 B(以下「B」という。)、C(以下「C」という。)
ウ a社
a社は、管、継手、配管用シール材の製造、販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。a社の代表取締役は被控訴人であり、取締役の1人がAである(甲1)。
(2) 控訴人の株主構成
平成22年6月30日当時の控訴人の発行済株式の総数は300株であり、その株主構成は次のとおりであった(甲3、乙1の1~3、2、3)。
ア B 80株(27%〔小数点以下四捨五入。以下同様である。〕)
イ 被控訴人 60株(20%)
ウ H(以下「H」という。)
60株(20%)
エ I(以下「I」という。)
60株(20%)
オ C 40株(13%)
(3) 本件新株発行について
ア 本件新株発行決議
平成22年6月30日、控訴人の臨時株主総会(以下「6月30日株主総会」という。)が開催され、次のとおり、本件新株発行の株主総会決議(以下「本件新株発行決議」という。)がされた旨の臨時株主総会議事録が存在する(乙5)。
(ア) 募集株式の数 500株
(イ) 払込金額 1株につき5万円
(ウ) 現物出資に関する事項
控訴人とb株式会社(代表取締役は、J(以下「J」という。))(以下「b社」という。)との間における平成22年6月30日付け債務承認弁済契約書に基づく金銭債権2500万円全部(以下「本件貸金債権」という。)
(エ) 払込期日 同年7月4日
(オ) 割当方法 b社に500株を割り当てる。
イ 登記手続
平成22年7月4日付けで、控訴人の発行済株式の総数が300株から800株に増えた旨の登記手続がされた(甲2)。
(4) 代表取締役Aの解任決議について
平成22年7月2日、控訴人の取締役会(以下「7月2日取締役会」という。)が大阪市内で開催され、Aを代表取締役から解任する旨の決議(以下「本件代表取締役解任決議」という。)がされたという取締役会議事録が存在する(甲17)。
また、同日に控訴人の臨時株主総会(以下「7月2日株主総会」という。)が本店で開催され、Aを取締役から解任する旨の決議(以下「本件取締役解任決議」という。)がされた旨の臨時株主総会議事録が存在する(甲18)。
(5) 本件各決議について
平成22年7月8日、控訴人の臨時株主総会(本件株主総会)が控訴人本店において開催され、本件各決議がされたという臨時株主総会議事録が存在する(乙12)。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件新株発行決議は不存在か(争点(1))
〔控訴人〕
本件新株発行決議は存在する。
もっとも、控訴人の株主に対し、6月30日株主総会の招集通知はされていない。これは、控訴人の株主全員が平成22年6月30日に株主総会を開催することについて同意していたことから、定款の定めに基づいて招集手続を省略したことによる。招集権者である代表取締役のAは、6月30日株主総会を開催するに当たり、事前に、株主である、被控訴人、H、C、B及びIから、株主総会開催について電話で承認を得ており、株主全員が株主総会開催について同意していた。
したがって、6月30日株主総会の招集手続に瑕疵はなく、本件新株発行決議は、法的にも有効に決議されたものであって存在する。
〔被控訴人〕
6月30日株主総会は株主への招集通知を欠いており、控訴人の株主である被控訴人、H、C及びBが出席していなかったから、本件新株発行決議は不存在である。また、本件新株発行についての払込みもされなかった。以上によれば、本件新株発行は実体がなく不存在である。
(2) 本件新株発行決議の不存在は無効原因か(争点(2))
〔控訴人〕
仮に、本件新株発行決議が不存在であったとしても、本件においては、以下のとおり、既存株主が持株比率の減少を了承していたなどの、新株発行を無効としない特段の事情が存在する。
ア そもそも、Jは、平成20年6月末ころ、被控訴人から、控訴人に対し、4000万円の出資をしてくれるように依頼されたものである。
Jも、控訴人の紙製型枠事業を将来性のある事業だと考えて、これを了承した。
イ 控訴人に対しては、当初は、Bが資金提供していたが、Bが平成20年秋ころから控訴人に対する資金提供を断わるようになり、他に出資の協力を得られる人物がいなかったため、Jが出資しなければ倒産が必至の状況であった。
ウ 控訴人の経営状況が上記のような状況であるため、その後、被控訴人から他の既存株主へのJの紹介、あるいはJと他の既存株主との間の直接の面談等により、他の既存株主もJが控訴人に4000万円程度出資することを了承していた。
エ Jは、資金繰りが厳しい控訴人に対し、出資ではなく、無担保で多額の金員を貸し付ける余地はなかった。
オ Jが代表取締役を務めるb社は、平成21年3月25日に500万円、同年4月21日に2000万円を出資金として控訴人に送金した。
〔被控訴人〕
ア 控訴人は、株式譲渡制限が付された株式会社であり、新株を発行するに当たって株主総会決議がされていない場合、①新株発行が既存株主の持分割合に影響を与えること、②出訴期間を6か月から1年に延長した趣旨から、既存株主の持分割合をできる限り保護すべきとの考え方などからすると、その新株発行は原則無効であると解すべきである。
イ 以下のとおり、本件において、既存株主が持株比率の減少を了承していたなどの、新株発行を無効としない特段の事情は存在しない。
(ア) Jは、a社に2000万円、控訴人に2000万円の貸付けを行っている債権者にすぎず、出資者ではない。
そのため、Jは、7月2日株主総会に参加していないし、控訴人の代表取締役であるAから、事前に当該総会の開催も知らされていなかった。
(イ) 控訴人は、以前から、Jを株主として扱っていた旨主張しているが、何株の発行を容認していたのか、発行までの議決権はどうなっていたのか、その詳細は不明である。
現に、Aが作成し、平成22年6月11日に配布された「Y(株)存続計画」と題する書面(甲31の添付資料3)には、「Jの控訴人に対する貸付金が2600万円であること、そのうち2000万円は金銭消費貸借契約証書(甲36)にしていること、Jは、600万円を株式(120株)にできていないことに不満である旨の記載がされているのであり、どの時点で、500株(2500万円)という株数が合意に至ったのか不明であって、500株の新株発行は、AとJの通謀により、他の既存株主に諮らずに独断で決定したものである。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実及び証拠(甲18及び19の各存在、乙3~5・8の各存在、甲1~3、20~26、28の1・2、29~31、36、37の1・2、41~45、50、51、乙1の1~3、2、6、7、9~21、22の1・2、24~28、証人J(原審及び当審)、同C、同B(原審及び当審)、同F、被控訴人本人、控訴人代表者)並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) a社、控訴人の設立、○○の商品開発、事業展開等
ア a社の設立、○○の商品開発
平成12年6月8日、被控訴人が100%出資して、a社が設立され、被控訴人が同社の代表取締役に就任した。
a社は、コンクリート型枠に使用されている合板には、原料となる木材の大量伐採という地球環境問題があること、また、コンクリート型枠は、建築現場で数回使用された後は焼却処理をされていたという問題があることに着目し、合板を再生紙で製造し、合板回収後も再び同じ製品として再生できる商品開発を目指し、研究に取り組んだ。
その結果、平成12年12月、c株式会社(ただし、当時の商号はc1株式会社)(以下、商号変更の前後を問わず、「c社」という。)との共同開発で、「○○」の商品開発に成功した。後に、「○○」は、特許を出願している(特願2001-265884、同2001-265906)。
イ 被控訴人の3000万円流用の疑惑、控訴人の設立
ところが、平成18年夏ころ、a社やc社などにより設立されたd協会において、被控訴人が3000万円もの資金を個人的に流用したのではないかという疑惑が発覚し、a社の取引先であったc社が、a社及び被控訴人との取引を停止するおそれが生じた。
そのため、被控訴人は、a社とは別の会社を設立することとし、平成18年10月6日、控訴人が設立され、代表取締役にB、取締役に被控訴人、Aが就任した。控訴人の設立当初の資本金は、1000万円であり、発行株式数は200株で、被控訴人が60株、Bが80株、Hが60株を保有していた(1株5万円)。
(2) J、b社から控訴人、a社への出資、貸付等
ア 平成20年4月から同年9月までの出来事
(ア) a社の株式を200万円で購入
Jは、平成20年4月中旬ころ、Aの紹介により、a社の事務所で、被控訴人と初めて会った。その時、Jは、被控訴人から紙製型枠事業の話を聞き、将来性のある事業であると感じた。
被控訴人は、平成20年6月ころ、Aを通じてJに対し、a社の経営が厳しいため、被控訴人が保有していたa社の株式のうち20%(40株)を200万円で買い取ってもらうよう依頼し、Jはこれに応じることにし、同年8月に被控訴人からa社の株式40株を買い受け、代金200万円を被控訴人の個人口座に送金した。
(イ) 4000万円出資の話
a Jは、平成20年6月末ころ、a社の事務所で被控訴人と面談した。その際、Jは、被控訴人から、控訴人の業績が伸び、将来は上場も期待できるので出資をしてほしいと頼まれ、控訴人に対し、大口で出資する旨伝えたところ、Jは、被控訴人からすぐに出資の話を進めてほしいと頼まれた。Jは、数日後、被控訴人及びAと面談し、控訴人に4000万円の出資をすることに決まった。
そこで、Jは、被控訴人に対し、控訴人内で株主総会決議や取締役会決議などの増資手続を進めるよう頼んだ。すると、被控訴人は、Jに対し、「それのあたりは大丈夫だ。すぐに控訴人の株主であるHを紹介する。」などと言った。また、被控訴人は、その場でBに電話をかけ、「Jさんに大口で出資してもらうからな。」などと伝え、Jに対し、「これでBもOKや。」と述べた。
なお、Jは、Bが代表取締役を務めるe株式会社(以下「e社」という。)の株主でもあり、従前からBとは知り合いであったため、被控訴人がBに電話した後日、JもBに直接連絡をとり、控訴人に4000万円の出資をすることを改めて伝え、Bの承諾を得た。
b 平成20年7月下旬ころ、Bの自宅マンションで、被控訴人、B、A、F(以下「F」という。)らが参加した食事会が催された。その席上、被控訴人は、Bに対し、Jから控訴人に4000万円ほど出資してもらう予定であると話した。
(ウ) 500万円の貸付
Jは、平成20年8月、被控訴人から、特許権を担保に借入れの申し入れを受け、これを了承して、同年8月25日、a社に対し、特許権(特願2001-265884号)を担保に500万円を貸し付けた(乙7)。
(エ) 4000万円出資の話
a 被控訴人は、平成20年9月初めころ、東京で、Jに対し、控訴人の株主の1人であるHを紹介した。その際、被控訴人は、Jに対し、「HはもうOKやからな。」などと言い、HもJに対し、「今後ともよろしくお願いします。」などと挨拶した。Jは、その場で、控訴人の株主となる予定で、控訴人の事情について、被控訴人及びHと話した。
b 被控訴人は、平成20年9月5日、東京の人形町の居酒屋で、Cに対し、「大口で出資するJさんです。」とJを紹介した。その場には、被控訴人、C、Jのほか、控訴人の取引先である株式会社fの社員K(以下「K」という。)、同L(以下「L」という。)、Aらも同席しており、Jが出資する4000万円を用いての事業展開などについて話した。最後に、被控訴人は、Jの元に寄って、「これでOKや。出資よろしく。」と述べた。
なお、この席には、Jから出資後に控訴人の営業を手伝うように依頼されていたMも同席し、Jが控訴人に4000万円ほどの出資をすることについて、被控訴人ら出席者全員が了承している様子を見ていた(乙21)。
イ 平成20年10月から同年11月までの出来事
(ア) 1500万円の貸付
Jは、平成20年10月18日ころ、大阪の立売堀で、被控訴人及びAと面談した。その際、被控訴人は、Jに対し、出資に関する書類の写し(ただし、400株、2000万円をJが控訴人に出資することを前提とした、取締役会議事録や株主総会議事録などの書類の書式)(乙8)を交付し、「出資の準備は進んでいるが、急ぎでc社から○○の在庫を買う必要があるので、2000万円をa社に貸してほしい。」と頼んだ。
そこで、Jは、上記のとおり、既に同年8月に、a社に特許権を担保に500万円を貸し付けていたので、差額の1500万円を同月22日にa社の銀行口座に送金して貸し渡した。これらの2000万円について、Jは、a社から返済を受けた後、控訴人に対して追加で出資する予定であった。
なお、Jは、この席に、自らが代表取締役を務めるb社の監査役であるNも同行させており、Nは、上記やりとりを聞いていた(乙20)。
(イ) 控訴人の経営陣に関する話題
被控訴人は、平成20年11月末ころ、J及びAと面談した。その際、被控訴人は、Jに対し、自分の代わりに、Cを控訴人の取締役に就任させることを話した。また、被控訴人は、その際、Jに対し、Bが資金を出さないことが原因で控訴人の事業がうまく回らなくなり始めていることなど、Bに対する不平不満を述べて、Bに代わり、Aを控訴人の代表取締役にしようと考えていることを話した。
なお、Jは、その際、Cが新しく控訴人の取締役に就任することに関し、Jが控訴人に対し出資することは、控訴人内の手続として大丈夫かと尋ねると、被控訴人は、「C君は、僕の分身で入ってもらうから、僕が大丈夫と言えば大丈夫ですよ。」と返答していた。
ウ 控訴人の経営陣の移動
控訴人は、設立当初は、BないしBが代表取締役を務めるe社が資金提供して運営されていたが、○○が一向に販売できる商品として完成しないことから、Bは、平成20年秋ころから、控訴人への資金提供を断るようになった。
遅くとも平成21年1月13日までに、Bが控訴人の代表取締役を辞任し、後任としてAが就任した。また、同日、取締役が被控訴人からCに変更された(甲2)。
エ 控訴人の増資、株主移動
平成21年2月21日、控訴人の新株が100株発行され、C建築設計事務所ことCが40株、K、O(以下「O」という。)及びLが各20株を取得した。これにより、控訴人の資本金は1500万円、発行株式数は300株となった(甲2)。
オ 500万円、2000万円、100万円の送金
b社は、控訴人に対し、いずれも出資金として、平成21年3月25日に500万円を送金し、平成21年4月21日に2000万円を送金した。さらに、J個人も、同日、控訴人に対し、出資金として100万円を送金した(以上につき乙9)。控訴人は、これらをいずれも預り金として会計処理した。
Jは、平成21年8月ころから、控訴人の事務所を月2回程度訪れるようになり、被控訴人やCらと、控訴人の将来の事業計画について協議するようになった。
カ Iの株式譲受け
平成22年2月16日、K、O及びLを譲渡人(各20株所有)、Iを譲受人(合計60株所有)とする株式譲渡契約が締結された(乙1の1~3)。
キ 公正証書の作成
b社と控訴人は、上記出資金の株式化が中々実行されないため、平成22年3月、上記振込送金(合計2500万円)のうち2000万円について、b社が控訴人に対し、平成21年4月に貸し付け、控訴人がこれを平成22年9月から毎月80万円ずつ返済する旨の公正証書を作成した(甲36)。
(3) 6月30日株主総会、7月2日株主総会等、本件株主総会
ア Aの取締役解任に向けた動き
(ア) 被控訴人は、平成22年6月、a社の経理を担当していたAに対し、Aがa社の銀行口座から不正に出金したと称して、追及した(甲21)。被控訴人は、同月27日ころ、Aに対し、同年7月2日に控訴人の株主総会を招集し、Aの不正な出金を問題にするなどと告げた。
(イ) Bは、平成22年6月27日ころ、被控訴人から、Aの解任の件について、同年7月2日に取締役会を開催するとの電話を受け、これを了解した。しかし、Bは、その際、同日に株主総会を開催することまでは知らされていなかった。
Cは、平成22年6月28日ころ、被控訴人から、同年7月2日に、Aの解任に関する取締役会及び臨時株主総会を開催するとの電話を受け、これを了解した(甲31)。
Hは、平成22年6月28日、P(控訴人ないしa社の従業員)を介して被控訴人から、同年7月2日に株主総会を開催する旨の連絡を受け、これを了解した(甲29)。
Iは、平成22年6月28日ころ、Aから、同年7月2日に株主総会を開催する旨の連絡を受けたが、議題については知らされていなかった(甲28)。
(ウ) 代表取締役のAは、上記(ア)のとおり、被控訴人から、平成22年7月2日に株主総会が開催されることを知らされていたが、議題までは知らされておらず、株主総会の招集手続を取らなかった(甲28)。
また、Aは、同日に取締役会が開催されることまで知らされておらず、CやBに対し、Aの代表取締役の解任についての取締役会の招集手続を委任したこともなかった(甲28)。
このころ、C又はBから、Aに対し、取締役会の招集が請求されたことはなく、また、平成22年7月2日に取締役会を開催する旨の取締役に対する招集通知もされなかった。
イ 6月30日株主総会(本件新株発行決議)
平成22年6月30日、控訴人の臨時株主総会が開催され、本件新株発行決議(500株の新株発行、本件貸金債権による現物出資、b社に割当)がされた旨の臨時株主総会議事録が存在する(乙5)。
前記(2)イ(ウ)のとおり、本件貸金債権は現に存在しており、b社から、本件新株発行に見合う現物出資はされている。Aは、被控訴人、B、C、H及びIから、6月30日株主総会を開催することについての承認を電話によって得ていた、などと供述している。
なお、当日、少なくとも、被控訴人、B、C、Hに対する株主総会招集通知はされておらず、同人らは、6月30日株主総会の開催場所とされる、控訴人の本店事務所にはいなかった。
ウ 控訴人株主らの言動
控訴人株主ら(被控訴人、B、C、Hら)は、知人らに対して、b社ないしJが控訴人に大口で出資し、500株の新株を取得することを承諾する言動をしていた(乙15~21、24~26、28)。
エ 7月2日株主総会、7月2日取締役会等(Aの取締役等解任)
(ア) 平成22年7月2日、控訴人の取締役会が大阪市内で開催され、Aを代表取締役から解任する旨の決議(本件代表取締役解任決議)がされたという取締役会議事録が存在する(甲17)。
また、同日に控訴人の臨時株主総会が本店で開催され、Aを取締役から解任する旨の決議(本件取締役解任決議)がされた旨の臨時株主総会議事録が存在する(甲18)。
(イ) しかしながら、7月2日取締役会は、招集権限のあるAによって招集されたものではなく、C及びBが、取締役会と称して、Aを代表取締役から解職する旨の決議をしたにすぎないから、本件代表取締役解任決議は、その手続に重大な瑕疵があり無効である。
また、7月2日株主総会は、取締役会決議を経ずに、株主総会の招集権限を何ら有しない被控訴人が、招集手続を欠いたまま招集したものであって、招集手続の瑕疵の程度は大きく、株主全員が出席したものではないから、株主総会と評価することはできず、本件取締役解任決議が存在したということはできない。
(ウ) Jは、平成22年7月3日、Aから前日に開催された取締役会や株主総会の話を聞き、Bに電話をかけたが、その際、Bは、Jが控訴人に出資したことを当然知っている旨話していた。
上記電話の内容は、AやNのほか、控訴人のスタッフ数名も立ち会っており、2人のやり取りを聞いていた(乙17~20)。
(エ) Jは、平成22年7月4日、AやNのほか、控訴人の数名のスタッフが立ち会う中、Hに電話をかけたが、その際、HもJが控訴人に出資したことを当然知っている旨話していた(乙19)。
オ 本件株主総会(7月8日開催、本件各決議)
(ア) Aは、平成22年7月4日、控訴人の株主に対し、本件株主総会を同月8日に開催する旨の招集通知を発した(甲20)。もっとも、本件株主総会の招集について、取締役会決議はされていなかった。
(イ) 平成22年7月8日、本件株主総会が開催された。本件株主総会には、被控訴人、b社、C及びIが出席した。b社は、本件株主総会において株主として取り扱われ、本件各決議に係る各議案について議決権を行使し、本件各決議がされた(乙12)。
本件株主総会は、その招集についての取締役会決議が欠けていたが、Aは、本件株主総会招集時の代表取締役であったから、取締役会決議を経ずに招集したことの瑕疵は重大なものとまでいうことができず、招集手続の法令違反という決議取消事由に該当し得るにすぎない。
そして、既に平成22年7月8日の本件株主総会から会社法831条所定の3か月を経過しているから、その決議が取り消されることはない。
2 本件新株発行決議は不存在か(争点(1))について
(1) 控訴人の主張
控訴人は、被控訴人らを含めた株主全員が6月30日株主総会を開催することに同意していたと主張し、Aは、被控訴人、B、H、C及びIから、6月30日株主総会を開催することについての承認を電話によって得ていたなどと供述をする。
(2) 検討
a しかしながら、被控訴人、B、H及びCは、上記の電話の事実を否定する供述をしていて、Aが上記のような電話をかけたことを裏付ける証拠はない。
b しかも、前記1(3)ア認定のとおり、被控訴人は、それに先立つ平成22年6月27日ころ、Aがa社から不正出金をしていることを疑い、B、C及びHに対して、7月2日に取締役会や株主総会を開催してAを解任するとの話を持ちかけ、Aも議題は知らなかったものの、7月2日に株主総会が開催されることを知らされていたのである。
したがって、Aが7月2日より前の6月30日に、本件新株発行決議のための株主総会を開催する旨を、上記のような態度をとっている被控訴人、B、C及びHに電話をかけて、同意を求めること自体考え難いし、仮にそのような電話があったとしても、被控訴人、B、C及びHらが、Aが代表取締役のままで、6月30日に株主総会が開催されることを了承したとは到底考え難い。
そうすると、Aの上記(1)の供述は採用できず、本件新株発行決議に係る6月30日株主総会の開催に当たり、招集手続がとられておらず、控訴人の株主である被控訴人(60株所有)、H(60株所有)、C(40株所有)及びB(80株所有)は、同日に株主総会が開催されること自体も知らなかったことになる。
c したがって、少なくとも発行済株式総数(300株)の8割(240株)を占める、被控訴人、B、C及びHに対して招集通知がされず、同人らが6月30日株主総会に出席することができなかったのであるから、6月30日株主総会を、法律上の意義における株主総会であると評価することはできない。
よって、本件新株発行決議は不存在であるというべきである。
3 本件新株発行決議の不存在は無効原因か(争点(2))について
(1) 一般論
a 会社法においては、株式譲渡制限会社と公開会社を明確に区別し、株式譲渡制限会社が新株を発行する際には株主総会の特別決議を必要とし、公開会社よりも新株発行の手続をより厳格にしている。これは株式譲渡制限会社において、新株発行が既存株主の持株比率を変動させることから、既存株主の持株比率の維持をできる限り保護することにある。
そして、株式譲渡制限会社において新株を発行する場合、株主に対して新株の募集事項を通知又は公告することが不要とされているから、既存株主には、会社に対し、新株発行についての株主総会以外に新株発行を阻止する機会が十分に保障されていない。
b そうだとすれば、株主総会の決議を経ずに新株が発行されたことは、当該新株発行時点において、既存株主が持株比率の減少を了承していたなど特段の事情がない限り、無効原因に該当するものと解するのが相当である。
(2) 本件への適用
ア 本件新株発行決議の存否
これを本件についてみると、まず、控訴人は株式譲渡制限会社であり、新株発行には株主総会の特別決議を要するところ、上記2のとおり、本件新株発行決議は不存在である。
イ 特段の事情の存否
次いで、上記の既存株主が持株比率の減少を了承していたなどの、特段の事情の存否について検討する。
(ア) 判断
まず、被控訴人は、前記1(2)認定のとおり、自らJに控訴人に対する出資を勧誘し、Jとの間で、Jから4000万円程度の出資を受けることを合意していたのであるから、本件新株発行時点においても、その一部である本件新株発行による持株比率の減少を了承していたものと推認できる。
また、B、H及びCについても、前記1(2)アの事実によれば、被控訴人を介して、あるいはJとの直接の面談等により、Jが控訴人に対し4000万円程度の出資をすることを知っており、本件新株発行時点においても、500株程度の新株(2500万円程度の出資金に見合う株式)を取得することを承諾していたと推認できる。
なお、この点、前記認定のとおり、被控訴人は、6月30日株主総会に先立って、B、H及びCと諮って、Aを代表取締役から解任しようと考えていたことは事実であるが、不正を働いたことを理由にAを解任することと、控訴人において既定路線であった本件新株発行を取り止めることとは必ずしも直結するものではないから、前記推認を覆して、既存株主である被控訴人、B、H及びCらが本件新株発行時点において、本件新株発行や自らの持株比率の減少に反対していたとまで認めるのは困難である。
また、Iは、甲37の1・2の決議の際の行動を見ても、J側の人物であり、Jないしb社に対する本件新株発行に異議を唱えていないから、当然、本件新株発行時点において、本件新株発行による持株比率の減少を了承していたと認められる。
(イ) 被控訴人主張の検討
a 控訴人の債権者にすぎない旨の主張
被控訴人は、Jは、控訴人に2000万円の貸付けを行っている債権者にすぎないから、7月2日株主総会にも参加していないし、その開催も知らされていないなどと主張している。
しかしながら、前記1(2)ウで認定したとおり、控訴人は、当初資金援助していたBがこれを取りやめたことから、経営状況が悪化していて他のスポンサーを探していたのであり、そのような会社に多額の資金を貸し付ける第三者が存在するとは考えられず(控訴人が倒産すれば、回収不能になる。)、将来上場を果たした場合の上場益を期待して出資した旨のJの供述は、信用できるものというべきである。
また、Jが7月2日株主総会に参加しなかったり、その開催も知らされていないのは、本件新株発行が7月2日株主総会後の平成22年7月4日とされていたこと(前提事実(3))に照らすと、その点は、特段、不自然、不合理なことではない。
b 「Y(株)存続計画」に基づく主張
被控訴人は、「Y(株)存続計画」(甲31の添付資料3)には、Jに対する新株発行が120株である趣旨の記載がされていることから、既存株主が500株という本件新株発行を了承したことはないという趣旨の主張をしている。
しかしながら、証拠(乙15、24)によれば、上記書面は、平成22年1月~3月ころに、被控訴人がa社グループ運営の意思決定機関として結成した組織である、元老院会の同年5月25日ころの会合の内容を元に作成されたものであること、元老院会は、被控訴人、C、A、Q、Rをメンバーとする組織で、被控訴人が主導していたこと、上記記載は、被控訴人がJに交付した「出資に関する書類の写し」(乙8)の内容とも矛盾すること(前記認定事実によれば、乙8は真正に成立したものと認められる。)が認められ、これらの事実に照らすと、上記書面の内容が客観的真実を反映しているとは認め難いから、同書面の記載をもってしても、前記(ア)の判断を左右するものではないというべきである。
(ウ) まとめ
以上のとおり、被控訴人、B、H及びCらは、一旦は本件新株発行を含むJないしb社の4000万円程度の出資を了承し、現実に、Jないしb社によりその出資金が控訴人に入金されて本件新株発行がされたにもかかわらず、その後、言を左右にして前言を覆すという信義に悖る言動をしているのであって、本件新株発行については、本件新株発行決議は不存在ではあるものの、既存株主が全て本件新株発行時点において、本件新株発行による持株比率の減少を了承していたと認められるから、新株発行の無効原因とはならないと解するのが相当である。
第4結論
以上によれば、被控訴人の控訴人が平成22年7月4日にした普通株式500株の新株発行無効請求は、理由がないから棄却すべきである。
よって、これと異なる原判決中、控訴人敗訴部分(原判決主文第1項)を取り消して、被控訴人の上記請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判官 神山隆一 堀内有子 裁判長裁判官紙浦健二は、退官につき、署名押印することができない。裁判官 神山隆一)