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大阪高等裁判所 平成24年(ネ)636号 判決 2012年9月13日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  別紙物件目録記載の土地について、控訴人の被控訴人に対するa市水道事業給水条例34条に基づく施設分担金837万2695円の支払債務が存在しないことを確認する。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が、担保権の実行としての競売手続により買い受けた別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)について、a市水道事業給水条例(以下「本件条例」という。)34条に基づく施設分担金の支払義務を負わないと主張して、被控訴人との間で、同支払債務の不存在確認を請求している事案である。

原審は控訴人の請求を棄却したことから、これを不服とする控訴人が控訴した。なお、控訴人は、原審では879万1745円の債務不存在確認請求をしていたが、当審において、控訴の趣旨第2項のとおり請求を減縮した。

2  前提事実

前提事実は、原判決を次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「1 前提事実」(原判決2頁8行目から4頁14行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決2頁12行目の「設置」を「経営」と改める。

(2)  原判決3頁19行目末尾に改行の上、次の文章を加える。

「(エ) 4条 水道水を利用して、営業を行う施設又は建物については、次に該当するものを対象とする。

1号 集合住宅、店舗、事務所、倉庫等を建築し、分譲し、又は賃貸を行う場合の対象面積は、分譲又は賃貸部分の延べ床面積とする。

2号 倉庫等で一部賃貸を行う場合、又は大規模建築物の一部が水道水を利用していない場合の対象面積は、給水管敷設延べ床面積とすることができる。

3号 大規模建築物(延べ床面積が2000平方メートルを超える建物をいう。)に利用する水道メーターの容量の累計が25ミリメートル以上の場合の対象面積は、延べ床面積とする。

4号 前3号に掲げるもののほか、水道事業管理者が対象と認めた、水道水を利用して営業する施設又は建物とする。」

(3)  原判決4頁13及び14行目を「本件土地に係る施設分担金は、本件口頭弁論終結時点で、837万2695円であり、その対象面積は1万0199.53m2である。」と改める。

3  争点及び争点に対する当事者の主張

(1)  争点

控訴人が、本件条例34条に定める施設分担金の納付義務者に該当するか否か。

(2)  被控訴人の主張

ア 本件条例34条は、施設分担金の支払義務について、対象の土地及び対象の施設、建物ごとに、誰がどのような場合に負担することになるかを一括して定めたものであり、その内容の詳細は本件規程で定めることとされており、本件規程においては、宅地と宅地上施設、建物とに区分し、第3条において、本件のような小規模の住宅地については、これを造成し、分譲し、又は賃貸を行う場合には、道路、水路等公共施設面積を除く造成面積全部に対し施設分担金を課すことを規定し、第4条において、集合住宅、店舗、事務所、倉庫等施設又は建物については、これを建築し、分譲し、賃貸する場合には、その床面積を対象として負担金を課することを規定している。

控訴人は、b株式会社が造成した住宅用地を区画割りして、戸建て住宅用地として分譲する者であるから、本件条例34条、本件規程3条に基づき、「小規模の住宅地を分譲する者」として、施設分担金を負担すべきものである。

イ 本件条例34条は、住宅地を造成しようとする者、分譲し、賃貸する者が、施設分担金を納付しなければならない、また、集合住宅、店舗、事業所、事務所、若しくは、倉庫等の建物を建築し、分譲し、又は賃貸する者が、施設分担金を納付しなければならないと定めているものである。本件条例34条については、上記のように解釈しなければ、建物については、建築のみならず、分譲し、又は賃貸する者が施設分担金を負担することになるのに対し、住宅地については、宅地を造成しようとする者のみが施設分担金を負担し、宅地を分譲し、賃貸する者は、施設分担金を負担しないという不合理な結果となり、均衡を失する。したがって、本件条例34条が、宅地の場合も建物の場合と同じく、分譲し又は賃貸する者も施設分担金を負担すべきことを定めたものであることは明らかである。

また、本件条例と一体のものである本件規程3条においては、宅地を造成し、分譲し、又は賃貸を行う場合の対象面積を定めており、このことは、施設分担金を負担する者は、小規模開発の場合、宅地を造成し、分譲し、又は賃貸を行う者であることを前提としていることは明白である。本件条例と本件規程とは統一的に解釈されるべきものであって、その解釈を異にすることは許されない。

ウ b株式会社の造成した本件土地を含む一団の土地に対する本件条例及び本件規程による施設分担金については、現在まで別紙「施設分担金納入状況表(平成24年5月1日現在)」のとおり徴収納付されている。すなわち、同別紙番号3ないし13のとおり、分譲業者であったb株式会社又はその分譲買受人が施設分担金を支払い、控訴人が本件土地を競売により買い受けた後についても、同別紙番号14ないし25(ただし16、23を除く。)のとおり分譲買受人が施設分担金を負担し、納付してきている。そして、控訴人は、分譲に当たって、重要事項説明書に施設分担金の負担があることを記載して買受人に示しているのであるから、控訴人が、水道施設を利用する宅地分譲者として、施設分担金の納付義務があることを認識しているというべきである。

エ b株式会社が被控訴人に支払った施設分担金のうちには、被控訴人とb株式会社との間の平成6年4月8日付け覚書に基づいて支払われたものがあり、これは、分譲の都度、分譲面積に応じて支払われた施設分担金とは異なるところ、被控訴人は、上記金員を、対象土地全体に対して支払われたものとして処置をした。被控訴人が一方的に対象土地を特定して上記金員を充当すると、対象土地間や分譲前後により不公平を生じるおそれがあることからすれば、上記の処置は妥当なものである。被控訴人は、上記金員から充当した5件分を除く金額を競売時の未納の対象面積に対し支払われたものとし、控訴人の競落時点後の施設分担金の負担額を算出したものであり、この措置は、本件条例又は本件規程に反するものではない。

(3)  控訴人の主張

ア 本件条例34条においては、施設分担金を支払う義務のある者について、「①住宅地を造成しようとする者、又は、②集合住宅、店舗、事業所、事務所若しくは倉庫等の建物を建築し、分譲し、又は賃貸する者」と定めており、この定めの「又は」と「若しくは」の位置及び「造成しようとする者」と「建物を建築し、分譲し、又は賃貸する者」の文言からして、条項の文理解釈から、住宅地については、造成しようとする者のみが施設分担金の支払義務を負うと解釈すべきであり、住宅地を分譲し、又は賃貸する者が支払義務者に当たるとは到底読めないものである。控訴人は、既に造成が完了した土地の所有権を取得した者であるから、「住宅地を造成しようとする者」には当たらないし、販売するのは戸建ての住宅用地のみであるから、建物を分譲する者にも当たらない。

イ 施設分担金のような税外負担を課すには、条例主義の原則から条例にその定めがあることが必要である。本件規程は、本件条例34条に定める施設分担金の額の計算基準、納付方法等を定めているだけであり、支払義務者の定めについてまで委任されているわけではない。

したがって、施設分担金の支払義務者については、本件条例34条の解釈によるべきであって、本件規程によって、本件条例と異なる支払義務者の定めをすることは、条例主義に反して許されないというべきである。

ウ 施設分担金の金額は、本件条例において、1m2当たり1500円と定まっているにもかかわらず、被控訴人は、本件土地等に係る施設分担金について、対象面積1万1668.73m2、金額958万0035円として1m2当たり821円と算出しており、本件条例に基づく請求とはいえない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人の被控訴人に対する本件請求は理由がないからこれを棄却すべきものと判断する。その理由は次のとおりである。

2  控訴人の本件土地取得に至る経緯等について

前記前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1)  b株式会社は、平成3年ころ、本件土地を含む一団の土地を取得し、平成4年に、和歌山県知事の開発行為許可を得て宅地開発を行うこととした。

(2)  被控訴人は、b株式会社との間で、平成6年4月8日に「水道事業に関する協定書」を締結し(乙1)、次の内容について合意した。

ア 開発事業の内容

① 開発場所 a市<以下省略>外3筆

② 開発面積 2万5960.98m2

③ 開発用途 一戸建分譲住宅(81戸)

イ 給水

被控訴人は、b株式会社が建設する開発事業に対し、入居時期に支障のないように給水を行う。

ウ 送・配水施設

b株式会社は、被控訴人から給水を受けるまでに、開発区域内の給水・配水・送本施設を、開発区域とこれに接続する既設管まで建設し、被控訴人の設計審査を受け、指導監督の下に施工する。

エ 施設分担金

b株式会社は、本件条例に基づき、対象面積1m2あたり1500円を被控訴人に納入する。

(3)  b株式会社は、被控訴人との間で、平成6年4月8日に「覚書」を交わし(乙2)、上記協定書に基づいて必要とされる施設分担金の金額とその納入方法について、対象面積1万4315.00m2につき2147万2500円とし、前記協定書交付時に全額の10分の1以上、平成6年度末日までに2分の1以上、平成7年度末日までに全額を被控訴人へ納入すること、この期間中にb株式会社の申出による給水申込みがあれば、申込みに係る施設分担金をその都度支払うことを合意した。

(4)  b株式会社は、前記施設分担金につき、平成7年3月23日に214万8000円を、同月31日に743万1630円をそれぞれ支払ったほか、5か所の分譲区画について、同年5月19日までに合計116万0360円を支払い、本件土地を含む一団の土地について、造成工事を行ったものの、平成19年3月16日、同土地に対する本件競売事件が開始された(甲5の1ないし4、乙26、控訴人代表者本人)。

(5)  控訴人代表者Bは、本件競売事件の物件明細書及び評価書に、開発協力金や上水道施設分担金の滞納につき被控訴人との協議を要する旨の記載があったことから、平成20年6月18日頃にa市役所を訪れ、開発協力金の支払の要否について尋ねたところ、被控訴人の職員は、買受人には支払義務がある旨答えた(甲25、26、乙19、証人C、控訴人代表者本人)。

(6)  控訴人は、平成20年7月2日、競売による売却により、本件土地を含む一団の土地について所有権を取得し、分譲を始めた(甲3の1ないし33、乙12の5ないし10、13の2・3、控訴人代表者本人)。

控訴人が分譲した土地のうち、別紙「施設分担金納入状況表(平成24年5月1日現在)」記載の番号14、15、17ないし25のとおり、分譲地の面積に応じた施設分担金が被控訴人に対して支払われた(乙3ないし5、8、16ないし18、20、25、28ないし30)。

(7)  Bは、平成22年6月10日ころ、被控訴人担当者との間で、開発協力金及び施設分担金の支払について協議を行ったところ、被控訴人担当者は、開発協力金については事実上免除せざるを得ない旨述べたものの、施設分担金については免除できない旨回答した(甲25、26、乙19、証人C、控訴人代表者本人)。

3  争点(控訴人が、本件条例34条に定める施設分担金の納付義務者に該当するか否か)について

(1)  証拠(乙31ないし34)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

ア 被控訴人(a市)では、昭和48年3月9日にa市長が、「a市水道事業給水条例の一部を改正する条例」によって施設分担金について定めることをa市議会に提案し、同月15日に同条例32条の4として「住宅地等を造成しようとする者または集合住宅を建築し分譲もしくは賃貸を行なう者が配水管その他の水道施設を必要とする場合は、第32条の2に定める分担金のほか管理者が定める施設分担金を納付しなければならない。」との条項を追加することが可決され、同条例は同年4月3日に施行された。なお、上記条例議決当時の条例改正に関する議案説明書等は存在せず、施設分担金条例を具体化した事項を記載した次項掲記の施設分担金規程が存在するのみである。

イ a市長は、昭和48年4月14日、本件条例(平成18年3月1日改正前のもの)に施設分担金について定められたことに伴って、以下の内容の施設分担金規程を公布、施行した。

(ア) 1条(目的) この規程はa市水道事業給水条例第32条の4の規定に基づき分担金の徴収について必要な事項を定めることを目的とする。

(イ) 2条(施設分担金) 条例第32条の4に規程する施設分担金は水源、浄水、送配水施設費等を負担するものとし次の各号の1に該当するものをいう。

1号 敷地面積1000平方米以上の宅地を造成し分譲もしくは賃貸を行なう者

2号 4戸または床面積150平方米以上の集合住宅を建築し分譲もしくは賃貸を行なう者

2項 前各号の施設分担額については管理者が別に定めるところによる。

(ウ) 3条(納付の方法) 第2条の分担金は工事申込の際納入することを原則とする。

ウ 被控訴人は、昭和57年4月1日、施設分担金規程の一部を改正し、2条1項の納付義務者について次のとおり改正した。

1号 宅地を造成し分譲もしくは賃貸を行なう者

2号 集合住宅、店舗、事務所、事業所、倉庫等の建物を建築し、分譲もしくは賃貸を行うもの

3号 大規模の建築物(高さ13m、軒の高さ9m、又は延べ面積3000m2を超える建物)を建築する者

エ 被控訴人は、昭和59年3月31日、施設分担金規程を全部改正し、現行の本件規程とほぼ同旨の内容を定め、平成18年3月1日、高野口町との合併に際して、本件条例及び本件規程をそれぞれ制定・施行した。

(2)  本件条例34条は、施設分担金について、「住宅地を造成しようとする者又は集合住宅、店舗、事業所、事務所若しくは倉庫等の建物を建築し、分譲し、又は賃貸する者」が、水源、浄水、送配水施設等を必要とする場合には、同条例32条が定める給水分担金のほかに、施設分担金を支払うべきものと定めている。

上記給水分担金は、給水装置すなわち「需要者に水を供給するために水道事業管理者の施設した配水管から分岐して設けられた給水管及びこれに直結する給水用具」(本件条例3条1項)の新設及び改造に要する費用とされている(本件条例)のに対し、施設分担金は、水源、浄水、送水、配水施設費等を負担するものである(本件規程2条1項参照)から、宅地造成工事等によって新たに水道事業管理者において配水管設備を敷設するなどして給水を行う需要が生じた場合に、同設備の利用者に水源、浄水、送水、配水施設費用等の負担を求めるものと解される。すなわち、施設分担金は、水道事業管理者である被控訴人(a市)が設置する水道施設等について、その設置によって特に利益を受ける者から、受益の限度において分担金を徴収し、水源、浄水、送配水施設の維持管理費用に充てようとするものであり、地方自治法224条に定める分担金として、条例によって定めることを要するものと解される(同法228条1項)。

(3)  被控訴人は、本件条例34条について、本件のような小規模開発においては、宅地を造成しようとする者だけでなく、宅地を分譲し又は賃貸する者も施設分担金を支払う義務を負うと定めている旨主張している。

ア 前記(2)のとおり、同条が、宅地造成工事等に伴って新たに水道設備等を敷設する必要が生じた場合に、敷設によって特に利益を受ける者から受益者負担として分担金を徴収することを定めたと解されることからすれば、宅地造成を行う者に限定することなく、造成後の土地を譲り受けるなどして分譲し又は賃貸する者についても、新たに敷設された水道設備等から特に利益を受ける者として分担金を徴収することには十分な合理性があると認められる。そして、証拠(乙37、38)によれば、水道事業を営んでいる多くの自治体は、水道施設の建設や維持管理費用について、開発事業者すなわち宅地を造成する者に費用負担を求めている例が多いとみられるところ、本件条例34条は、宅地についての定めを置くことに加えて、建物についても、建築のみならず、分譲し、又は賃貸する者が施設分担金を納付すべきことを定めていることからすれば、造成された土地について水道施設等が敷設されることによって、当該土地や土地上の建物から収益を得る者から幅広くかつ漏れなく施設分担金を徴収し、水源、浄水、送配水施設の維持管理費用に充てることを目指したものと解される。したがって、このような本件条例34条の趣旨からすれば、その文言上若干措辞明瞭を欠く点はあるが、建物についての定めと同様に、宅地についても、宅地を造成しようとする者だけでなく、宅地を分譲し又は賃貸する者も施設分担金を納付すべき旨を定めたものと解するのが相当である。

なお、証拠(乙37ないし40)によれば、被控訴人の近隣の市であるc市やd市においても、宅地を造成する者のほか、宅地を分譲し又は賃貸する者に対する負担を定めていることは、それぞれの水道事業給水条例の規定から明らかである。そして、c市水道事業給水条例13条の2第1項では「施設分担金は、給水区域内において開発行為等を行い、水道施設を設置又は使用する者(以下「事業者」という。)から徴収する。」とし、2項では「事業者とは、次に掲げる者をいう。」とし、その(1)として「2区画以上の住宅地の造成又は共同住宅の建築を行い、賃貸又は分譲を行う者」をあげていて、この規定は平成18年3月1日改正前の本件条例32条の4の規定振りに類似しているし、また、d市上水道事業給水条例16条の3第1項柱書きでは「住宅地等を造成しようとする者又は集合住宅、店舗を建築し、分譲若しくは賃貸を行う者が、当該地内に配水管その他の水道施設を必要とするときは」施設負担金を納入すべきとして、本件条例34条と同様の規定振りを定めている。これらのことからすると、被控訴人とc市及びd市の各水道事業給水条例は互いに影響を与えている可能性を否定できないものと考えられる。

イ そして、前記(1)ア、イ認定のとおり、昭和48年3月15日の改正により本件条例に施設分担金納付を定める条項が追加されたことに伴って、ほぼ同時期である同年4月14日にa市水道施設分担金規程(本件規程。昭和57年4月1日改正前のもの)が制定され、それ以後の改正によっても一貫して、本件規程上も「宅地を造成し分譲しもしくは賃貸を行なう者」が施設分担金の徴収の相手方として規定されてきており、実際にもその後現在に至るまで被控訴人において本件規程に基づいて施設分担金を徴収してきたことは、本件条例の立法者意思は、住宅地について、宅地を造成した者に限定せず、宅地を分譲し又は賃貸する者についても施設分担金の納付義務者としていたことを裏付けるものというべきである。

ウ 上記ア、イを総合して考えれば、本件条例34条は、当該土地や地上建物から収益を得る者から幅広くかつ漏れなく施設分担金を徴収し施設の維持管理費用に充てるという立法趣旨であると考えられ、その内容は十分な合理性を有しており、また、その立法者意思は本件規程の制定の経緯などからも裏付けられているというべきであるから、同条は、宅地を造成しようとする者だけでなく、宅地を分譲し又は賃貸する者も施設分担金を納付すべき旨を定めたものと解することができる。

(4)  これに対し、控訴人は、本件条例34条の文言を文理上解釈すれば、住宅地については、集合住宅、店舗、事業所、事務所又は倉庫等の建物と異なり、造成しようとする者のみが施設分担金の納付義務者とされ、下位規定である本件規程によって、本件条例と異なる納付義務者を定めることは条例主義に反して許されない旨主張する。

しかしながら、上記(3)アのとおり、施設分担金の納付義務者について、本件条例34条は、土地の造成に伴って新たに水道施設等を敷設する必要が生じた場合に、当該土地や土地上の建物から収益を得る者から幅広くかつ漏れなく分担金を徴収することを定めたと解されるのであって、建物については、建築した者だけでなく、分譲し又は賃貸する者が施設分担金を負担するにもかかわらず、住宅地については、宅地を造成しようとする者のみが施設分担金を負担し、造成された宅地を譲り受けて分譲し又は賃貸する者が負担しないというのはいかにも不合理といわざるを得ない。

なお、仮に本件条例34条につき形式的に厳格な文理解釈をするならば、控訴人が主張するように、宅地を分譲し又は賃貸する者については納付義務者と定めていないと解される余地があり得ることは一応否定できないところであり、前記(2)のとおり、受益者に対する分担金については条例で定めることとされている趣旨に照らして、被控訴人においては、納付義務者の範囲に疑義が生じることのないように稚拙な規定振りを早期に改正することが望まれる。

(5)  また、控訴人は、本件条例において、施設分担金の金額が1m2当たり1500円と定まっているにもかかわらず、被控訴人が、本件土地に係る施設分担金について、異なる計算によって算出しており、条例に基づく請求とはいえない旨主張する。

しかしながら、前記2(1)ないし(4)認定の事実に加えて、証拠(乙20、21)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人とb株式会社との間では、当初、本件土地を含む一団の土地について、対象面積1m2当たり1500円として、施設分担金の総額を算出したこと、その後、b株式会社が対象面積を特定せずに施設分担金の一部を支払ったことから、施設分担金の残債務額が変更になったこと、本件競売事件において、被控訴人とb株式会社との間で当初協定した時点に比べ、対象面積が変動したこと、被控訴人は、これらの経緯を踏まえ、本件口頭弁論終結時点での本件土地に係る施設分担金の額を837万2695円、対象面積を1万0199.53m2と算出したことが認められ、これらの経緯に照らせば、被控訴人による上記算出方式は、本件条例及び本件規程に反するとか、造成を行ったb株式会社から本件土地を取得した控訴人に対して不利益な取扱いをするものとはいえないから、本件口頭弁論終結時点での本件土地に係る施設分担金の額が、対象面積1m2当たり1500円という計算方式に則っていないことをもって、本件条例に基づかない請求であるとはいえないというべきである。

(6)  したがって、控訴人は、被控訴人に対し、本件条例34条に基づく施設分担金として、本件土地につき837万2695円の納付義務を負うというべきである。

4  以上によれば、控訴人の被控訴人に対する本件請求は、理由がないからこれを棄却すべきである。

よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 西垣昭利 森木田邦裕)

物件目録<省略>

別紙 施設分担金納入状況表(平成24年5月1日現在)<省略>

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