大阪高等裁判所 平成24年(行コ)102号 判決 2012年10月26日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
(1) 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
(2) 上記の部分につき,被控訴人の請求を棄却する。
(3) 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
主文と同旨
第2被控訴人の請求
1 処分行政庁が被控訴人に対し平成23年4月4日付けでした同年3月23日受付第○号所有権移転登記申請を却下する旨の処分を取り消す。
2 処分行政庁は,原判決別紙物件目録記載の各土地に関し被控訴人がした平成23年3月23日受付第○号所有権移転登記申請を受理せよ。
第3事案の概要
1 本件は,亡Aの相続人の1人であり,亡Aから原判決別紙物件目録記載の各土地(いずれも農地。以下「本件各土地」という。)の遺贈を受けた被控訴人が,遺贈を原因とする所有権移転登記を申請(以下「本件申請」という。)したところ,処分行政庁が農地法所定の許可書の添付がないこと等を理由に本件申請を却下したため,この却下処分(以下「本件処分」という。)の取消しを求めるとともに,本件申請に基づく登記の実行(受理)をすることの義務付けを求める事案である。
原審は,本件処分の取消請求を認容し,本件申請に基づく登記実行の義務付け請求を棄却したため,控訴人は,原判決中控訴人敗訴部分につき不服があるとして,本件控訴を提起した(上記義務付け請求は当審の審判の対象ではない。)。
2 関係法令の定め,前提となる事実,争点及びこれに関する当事者の主張は,後記3に控訴人の当審における主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2ないし4(原判決2頁11行目から8頁10行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 控訴人の当審における主張
相続人に対する特定遺贈と,農地法令で農業委員会の許可が不要とされている遺産分割,特別縁故者への相続財産の分与及び包括遺贈との間には,法的性質やその要件,効果等において重大な相違点があり,相続人に対する特定遺贈の場合に農地法3条1項の許可を不要と解することはできない。
特定の不動産を特定の相続人に対して相続させる旨の遺言がされた場合には,不動産登記実務上,農地法3条1項の許可が不要とされているが,相続させる旨の遺言は,遺言書の記載から,その趣旨が遺贈であることが明らかであるか,又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り,当該遺産を当該相続人に対して単独で相続させるという遺産分割方法の指定(民法908条)と解すべきであり,相続させる旨の遺言があった場合には,当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情がない限り,何らの行為を要せずして,当該遺産は,被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継されることになる。このような相続させる旨の遺言による権利変動と,遺言者の意思に基づく法律行為による権利変動である特定遺贈とは,その本質的な法的性質が異なり,それにより両者の不動産登記実務上の取扱いに相違が生じるのはむしろ当然である。
第4当裁判所の判断
1 当裁判所も,被控訴人の本件処分の取消請求は理由があるものと判断する。
その理由は,次のとおり付加するほかは,原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし4(原判決8頁12行目から10頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決9頁21行目の「67頁参照),」の次に「特定の遺産を特定の相続人に遺贈する旨の遺言による権利移転の場合も,特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言による権利移転の場合も,当該遺産が,被相続人の遺言に従って,相続開始後直ちに当該相続人に承継されることになるという点では共通しているにもかかわらず,」を加える。
(2) 同9頁24行目の末尾の次に「加えて,前記関係法令の定め(1)イのとおり,包括遺贈については,農地法3条1項16号,農地法施行規則18条5号により農地法3条1項の許可を要しないとされているところ,遺言者の財産全部についての包括遺贈は,遺贈の対象となる財産を個々的に掲記する代わりにこれを包括的に表示する実質を有するもので,個々の財産についてみれば,相続財産全部の包括遺贈であっても,特定遺贈であっても,その性質を異にするものではないから(最高裁平成3年(オ)第1772号同8年1月26日第二小法廷判決・民集50巻1号132頁,最高裁平成11年(受)第385号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1886頁参照),包括遺贈の場合と特定遺贈(特に相続人に対する特定遺贈)の場合とで,農地法3条1項の許可の要否につき取扱いを異にすることには,何らの合理性も見出し難い。」を加える。
2 結論
以上によると,被控訴人の本件処分の取消請求は,理由があるからこれを認容すべきであり,これと同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷口幸博 裁判官 一谷好文 裁判官 秋本昌彦)