大阪高等裁判所 平成24年(行コ)104号 判決 2013年6月27日
主文
1 原判決を取り消す。
2 処分行政庁が控訴人に対して平成21年5月25日付けでした運転免許証の有効期間の更新処分のうち,控訴人を一般運転者とする部分を取り消す。
3 処分行政庁は,控訴人に対し,優良運転者である旨を記載した運転免許証を交付せよ。
4 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,運転免許証の有効期間の更新手続(道路交通法(以下「道交法」という。)101条1項)に際して,控訴人には,最高速度超過(同法22条1項,同法施行令11条)の違反行為があったとして,処分行政庁(京都府公安委員会)から,更新後の免許証の有効期間(道交法92条の2第1項)に関し,免許証の更新を受けた者の区分につき,同項にいう優良運転者ではなく,一般運転者に該当するものと扱われ,優良運転者である旨の記載のない運転免許証を交付されて更新処分(以下「本件更新処分」という。)を受けた控訴人が,上記違反行為を否認して,本件更新処分中の控訴人の上記区分を一般運転者とする部分の取消しを求めるとともに,処分行政庁に対し,優良運転者である旨の記載のある運転免許証を交付することの義務付けを求めた事案である。
2 原審裁判所は,控訴人には上記違反行為があったとして本件更新処分は適法であると判断して本件更新処分の取消しに係る請求を棄却した上,義務付けを求める訴えは訴訟要件を欠くので不適法であるとして却下したことから,これを不服とする控訴人が,本件控訴を提起した。
3 関係法令の定め
(1) 次のとおり付加,訂正するほかは,原判決2頁12行目から3頁26行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下では,引用に際して,「道路交通法」を「道交法」と読み替える。
(2) 原判決3頁23行目の末尾に続けて,改行の上,「(4) 道交法93条1項5号では,免許証には,免許を受けた者が優良運転者(上記(3)ア)である場合にはその旨を記載するものとされている。」を加え,さらに,改行の上,「(5) 道交法101条6項,道交法施行規則29条8項によれば,免許証の更新は,更新申請者が現に有する免許証と引き替えに新たな免許証を交付して行うものとするとされている。」を加える。
(3) 原判決3頁24行目の「(4)」を「(6)」と改める。
(4) 原判決3頁26行目の末尾に続けて,改行の上「(7) 道交法22条1項の政令で定める最高速度(以下「最高速度」という。)のうち,自動車及び原動機付自転車が高速自動車国道の本線車道(中略)以外の道路を通行する場合の最高速度は,自動車にあっては60㎞毎時,原動機付自転車にあっては30㎞毎時とする(同法施行令11条)とされている。」を加える。
4 前提事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実)
(1) 次のとおり付加,訂正するほかは,原判決4頁3行目から5頁17行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。なお,以下では,引用に際して,「原告車両」を「控訴人車両」と読み替える。
(2) 原判決4頁10行目の「速度違反取締り」の次に「(以下「本件速度違反取締り」という。)」を加える。
(3) 原判決4頁14行目の「α通(西行3車線)第1車線」を「α通(片側3車線)の西行き車線の,道路の左端から数えて1番目の車線(以下「第1車線」といい,同2番目の車線を「第2車線」,同3番目の車線を「第3車線」という。)」と改める。
(4) 原判決4頁15行目の「法定最高速度」を「道交法施行令11条所定の最高速度」と改める。
(5) 原判決4頁17行目の「(以下「本件取締り」という。)」を削除する。
(6) 原判決5頁9行目の「処分行政庁に対し,」の次に「道交法101条1項の規定に基づき,所定の更新申請書を提出して」を加える。
5 争点
本件更新処分の適法性(本件違反行為の存否)
6 争点についての当事者の主張
(被控訴人の主張)
(1) 後記(2)のとおり当審における補充主張を加えるほかは,原判決5頁22行目から6頁22行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 当審における補充主張
ア 本件測定器の誤測定の可能性について
(ア) 本件測定器は,ビーム幅(測定器が補足する範囲)内に複数の車両が存在する場合,これらの車両からの反射波の強さの比が10倍以上であれば,強い方を測定するように設計されており,また,その比が10倍以内である場合には,各車両の速度が全く同じであれば,これらの速度を表示するが,各車両の速度に差があれば,反射波の波形をチェックすることにより2台以上の車両が存在することがわかるので,誤測定を防止するためどちらの速度も表示しないように設計されている(以下,この機能を「検出停止機能」という。)。したがって,本件測定器が速度を表示するのは,次の各場合である。
① 単独走行の場合
② ビーム幅の中に複数車両が存在したが,いずれも等速度であった場合
③ ビーム幅の中に複数車両が存在したが,他の車両からの反射波が無視できるほどに小さく,反射波の最も大きな車両の速度を測定した場合
④ 測定開始時は単独で,その後ビーム幅の中に複数車両が存在するようになったが,それまでには測定を終わっていた場合
なお,上記③にいう反射波の最も大きな車両とは,単純に大きな車という意味ではなく,測定器から近い車両,ビーム軸線上に近い車両,形状の複雑な車両等の条件が組み合わされて決定されるものである。
(イ) また,警察内部においては,ビーム幅内に複数台の車両が存在する場合には,測定を行わないよう指導がされているところ,aは,控訴人車両の後方約50m以内には他の車両がないことを確認した上で,本件測定器の電波発射ボタンを押している。なお,aが本件測定器のスイッチを「連続発射」にしていたことはない。本件測定器は,従前の測定器が電波を常時発射した状態で測定を行っていたことから,ドライバーがレーダー探知機により速度違反取締りが実施されていることを察知して,取締り現場において速度を抑制して走行するといった悪質な行為に対抗するために開発された機械であり,本件速度違反取締り時にスイッチを「連続発射」にすることはあり得ない。
また,aが本件測定器で控訴人車両の速度を測定した際,本件測定器の投射角は10度に設定されており,控訴人は,本件測定器の送受信装置を設置した地点(以下「本件送受信装置設置地点」という。)から23.4m(なお,後記イの理由により,当審において,28.8mと訂正された。)の第1車線上を走行していたのであるから,控訴人車両はビーム軸線上を走行していたと考えられる。仮に,本件測定時に,本件現場において,第1車線を走行する控訴人車両のほか,第2車線及び第3車線を走行する車両がいた場合に,控訴人車両以外の車両の速度を測定するのは,検出停止機能が作動する場合(控訴人車両の影によって,他の車両が本件測定器の死角に入る場合があることも考慮する。)以外の,他の車両(普通乗用自動車)が,控訴人車両の歩道寄りを,同車両とほぼ併走している場合程度であり,このような状況はあり得ないし,控訴人も主張していない。
したがって,本件速度違反取締りにおいて測定された控訴人車両の速度が,他の車両の速度を誤測定したものであるとは考えられない。
(ウ) 控訴人は,抽象的な誤測定の可能性を主張するのみであり,何らかの誤測定があったとの合理的な疑いを容れるような事実は存在しない。
イ 平成20年1月8日付け実況見分調書(乙9,以下「本件実況見分調書」という。)添付の「実況の略図」(以下「本件実況の略図」という。)の関係距離欄の訂正理由について
本件実況見分調書の作成者は,京都府β警察署のb巡査部長(以下「b」という。)であり,本件実況の略図の作成者は,同警察署のc巡査(以下「c」という。)であるが,本件実況の略図の関係距離欄の一部が訂正されているのは,本件実況見分調書に係る実況見分が行われた際には,本件実況の略図の①及び②の各地点以外に,控訴人の速度をホールド(固定)した地点として,③の地点が路面で特定されていた(本件実況の略図の③の地点は④の地点として特定されていた)ところ,本件実況見分調書作成時には,控訴人の速度をホールドした地点は不要であるとして,これを削除し,上記④の地点を③に繰り上げたことによる可能性がある。cは,当初,本件実況の略図に関係距離を正しく記載していたが,後に,bが,控訴人の速度をホールドした地点を測定地点と勘違いして,cに訂正の指示をしたのではないかと考えられる。控訴人車両の位置を意図的にビーム軸線上に移動させる操作をしたものではない。
ウ 控訴人車両は本件測定器の測定可能範囲にあったこと等について被控訴人は,本件測定器の検出停止機能を確認するための走行実験を実施したが(同実験の報告書が乙35,同実験の実施状況を録画したCD-Rが乙34),これによれば,検出停止機能は一定の条件下でしか作動しないことが判明したものの,本件測定器が,その送受信装置の設置位置から直線距離にして28.8mよりも明らかに遠方を走行する原動機付自転車の速度を測定することが可能であることも判明した。この点について,被控訴人は,改めて本件測定器の測定可能距離を明らかにするための実験を行ったが(同実験の報告書が乙36,同実験の状況を録画したCD-Rが乙37),これによれば,本件測定器の送受信装置設置地点から28.8mの地点は測定可能であることが判明した。したがって,本件測定時,本件測定器で控訴人車両の速度を測定することは十分可能であった。
また,本件測定器は,取扱説明書記載の測定可能距離である50mを超えた範囲に及んで,車両の速度を測定することはない。被控訴人は,控訴人車両の約50m後方を大型車両が走行していた場合に,本件測定器がいずれの車両の速度を測定するのかを明らかにする走行実験を実施したが(同実験の報告書が乙38,同実験の実施状況を本件測定器の側から録画したDVD-Rが乙39,同状況を大型車両の側から録画したDVD-Rが乙40),同実験によれば,全ての場合において,控訴人車両を仮装した原動機付自転車の速度が測定されている。
(控訴人の主張)
(1) 後記(2)のとおり付加,訂正し,後記(3)のとおり当審における補充主張を加えるほかは,原判決6頁24行目から8頁5行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
(2)ア 原判決7頁15行目の「(乙10)」を削除する。
イ 原判決7頁21行目の「本件取締り当時」を「控訴人車両が本件現場において本件測定器による速度の測定を受けた時点(以下「本件測定時」という。)よりも前に」と改める。
(3) 当審における補充主張
ア 本件実況の略図の記載及びこれを前提に実施された再現実験(乙29はその報告書。以下,この実験を「本件再現実験」という。)等について
本件実況の略図と,本件再現実験の報告書末尾の「再現現場略図」を比較すると,本件測定時の控訴人車両の位置が,単なる誤差の範囲に止まらない程度に全く異なっている。本件実況の略図における本件測定時の控訴人の位置は②の地点であるが,同略図の関係距離欄の,測定者であるaが控訴人車両を最初に認めた時点における控訴人車両の位置である①の地点と上記②の地点の距離が35.8mから41.9mに,上記②の地点から,aが停車係に控訴人車両の特定事項を通報した時点における控訴人車両の位置である③の地点の距離が44.4mから39.7mに,aが速度の測定を行った際の同人の位置であるPの地点から上記②の地点までの距離が33.9mから28.5mに,本件送受信装置設置地点であるRの地点から上記②の地点までの距離が28.8mから23.4mに,それぞれ訂正されており,この各訂正は,上記②の地点が本件測定器のビーム軸線上から外れていたため,意図的に上記②の地点までの上記各距離を操作し,控訴人車両の位置をビーム軸線上にずらすために行われた疑いがある。したがって,本件再現実験は不正確なものである。
本件実況の略図の関係距離欄の記載の訂正理由に関する被控訴人の説明は,極めて不自然な内容のものである。
また,被控訴人は,本件測定時においては,本件測定器のスイッチを「押している時のみ発射」の設定で測定していた旨主張するが,原審証人尋問における電波発射スイッチを押したタイミングについてのaの証言は非常に曖昧である上,本件実況見分調書においても,同スイッチを押した時点における控訴人車両の位置の特定がされていないこと等からすると,同スイッチを「連続発射」の設定にしていたことが疑われる。この場合,よりいっそう,本件測定器が,控訴人車両以外の車両の速度を測定する可能性が高まることになる。
加えて,本件実況の略図における上記各距離の記載について,訂正前の各距離が正確なものであれば,控訴人車両は,本件測定器のビーム軸線上になかったことになる。
イ 本件測定器の誤測定の可能性について
(ア) 本件測定器の検出停止機能について
本件測定器においては,検出停止機能は作動していない。
本件測定器の検出停止機能について,被控訴人が行った実験結果(乙34,35)によれば,ビーム幅内に複数の車両が存在していても,被控訴人の主張する検出停止機能は働かず,また,ビーム幅内に複数の車両が存在する場合に,本件測定器が表示する数値(速度)は,反射波の大小にかかわらず,ビーム幅内に存在するいずれの車両のものでもありうることが判明した。すなわち,本件測定器は,極めて微弱な反射波であっても,それを感知すれば測定結果を表示することがあるし,ビーム軸線上に大きな有効反射断面積を有する車両があったとしても,ビーム軸線外の小さな反射断面積を有する車両の反射波に反応することがあるといえる。
(イ) 本件測定器の測定可能範囲について
本件測定器が実際に速度を測定したときには,速度が表示されるとともに警報音が出る仕組みになっているところ,被控訴人がこの点について行った実験結果を録画したCD-R(乙37)によれば,複数回にわたって行われた実験で,上記警報音が出た際に実験車両が走行していた地点は,本件測定器の送受信装置の設置位置から28.8mよりも離れた地点である場合もあれば,より近い地点である場合もあるなど一定しておらず,距離にすると10m以上の開きがある。そして,特に,上記実験の4回目及び5回目のように,本件測定器のアンテナ設置位置により近づいた位置で速度が測定される場合には,電波の発射から測定までの時間的間隔が長くなるので,たとえ,測定者が測定可能と判断した時に測定可能範囲内に他の車両がなかったとしても,実際に測定されるまでの間に,ビーム幅内に他の車両が進入する可能性が極めて高くなるといえる。このような実際の測定位置の誤差は,一般的に誤測定の危険性を極めて高くするということができる。
また,被控訴人が行った,控訴人車両の約50m後方を大型車両が走行していた場合に,本件測定器が速度を測定するのはいずれの車両かを明らかにする走行実験(乙38ないし40)は,被控訴人において控訴人の立会いを約束していながら,立会いのないまま実施されたものである。さらに,本件測定器のビーム軸は,測定器から50m程度のところで,第3車線に掛かっているにもかかわらず,上記実験で大型車両として用いられたバスは,控訴人車両を仮装した原動機付自転車の右側のビーム軸からずれた位置あるいは原動機付自転車の死角に当たる場所に位置しているのであり,実験としての適切さを欠いている。なお,実験に用いられたのは大型バスであるが,バスの前面はほとんどがガラスであるから,見た目の割には電波を反射する面積は大きいとはいえない。他方,パネルトラックは,前から見てほぼ全面が有効反射断面積の大きい金属でできているところ,日常的によくα通を走行している。加えて,控訴人は,そもそも,控訴人車両の後方に車両が存在した旨の主張をしているわけではなく,控訴人車両の周囲には,他の車線も含めて,複数の車両が存在しており,独走状態ではなかったと主張しているのである。
(ウ) 以上によれば,本件測定器は,その感度が仕様書よりも良すぎるものであり,仕様書による測定可能距離とされる50mよりも後方の車両の速度も測定してしまったり,ビーム軸の外側の信号も測定してしまう可能性があるといえ,誤測定の危険性が極めて高い機械であるということができる。
ウ 原審証人aの証言の信用性について
原判決は,a証言は,その内容が具体的であり,現認メモ(乙14)と整合していること,aが交通取締りについて十分な経験を有し,測定器の使用にも熟練していたことを根拠にその信用性を肯定するが,これらはいずれも同証言の信用性を肯定する理由にならない。
エ 控訴人供述の信用性等について
本件速度違反取締りの当時,控訴人は,本件現場付近で速度違反の取締りが行われていたことを認識していたのであり,そうである以上,控訴人が取締りの対象となる毎時45㎞の速度で走行することは考えられない。したがって,控訴人車両の速度に関する控訴人の供述には信用性がある。
また,原判決は,控訴人車両の古さからして,その速度計の正確性に疑義があると判示するが,実測の結果,控訴人車両のスピードメーターにはほとんど誤差はなかった。
第3当裁判所の判断
1 前提事実及び争いのない事実に,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,以下の事実が認められる。
(1) 本件測定器の仕様及び性能等についての説明書の記載内容本件測定器の仕様及び性能等についての説明書の記載内容は,概ね,次のとおりである(乙21)。
ア 本件速度違反取締りに際して使用された本件測定器(d株式会社製e形レーダスピードメータ)は,電波のドップラ現象を利用して道路を走行中の自動車の速度を測定し,速度違反取締りに使用されるものである。本件測定器は,送受信装置,速度表示装置,記録装置,無線機(以下では,原則として,単に装置名のみを表記する。)等によって構成されており,これによって測定した自動車の速度は,速度表示装置の表示部にある数字表示器に表示され,また,測定された速度は,必要に応じて記録装置の速度記録紙に時刻とともに打ち出される。送受信装置は,自動車に取り付けられているレーダ探知器への対策として,必要な時にのみ電波を発射できる機能を備えている。また,方向識別機能により,接近,遠去,両方向と取締り対象の車両の走行方向を選択することができる。
イ 送受信装置のアンテナ形状はパラボラアンテナであり,送受信装置から発射される電波ビームの幅(以下「ビーム幅」という。)は約10度,測定可能距離は約50m(投射角0度,普通乗用自動車)とされている。
ウ 送受信装置の投射角度の設定は,「0~10度」及び「25度」がある。
本件測定器を使用する際には,送受信装置の投射角度設定と,速度表示装置の投射角切替スイッチの設定を一致させて使用する。送受信装置の設置は,装置に視準器を取り付けて行う。
送受信装置の投射角(同装置の設置点を基点とする道路と平行に走る直線と,送受信装置から発射される電波ビームの中心線(以下「ビーム軸線」という。)との角度)を10度に設定した場合のビーム幅は,ビーム軸線から左右に約5度ずつとなる。
送受信装置の投射角を「0~10度」で使用する場合の速度測定確度は,投射角が0度の場合は「+0~-2㎞/h」であり,投射角が10度の場合は上記投射角が0度の場合よりも-1.5%である。
エ 速度表示装置の表示部には,送受信装置からの電波の「発射」又は「停止」を行う電波スイッチがあり,電波を連続発射で使用する場合には,電波スイッチを「発射」側に倒し,電波を必要に応じて「発射」/「停止」する場合には,「押▲発射」側に押している間のみ電波が発射となり,スイッチを放すと,停止になる。
オ 速度表示装置には,警報設定スイッチがあり,その設定速度(以下「警報設定値」という。)以上の速度が記録装置の数字表示器に表示されると,速度表示装置の表示部及び記録装置に接続されたヘッドホーンにブザー音が鳴動する。
また,速度表示装置には,ホールド自動-手動切替スイッチがあり,「自動」の場合は,警報設定値以上の速度が表示されると,自動的にホールドされプリンタが作動するが,「手動」の場合は,同装置表示部にあるホールドスイッチ(同表示部の数字表示器に表示された測定中の車両の速度の表示を保持させるスイッチ)を押すことによってホールドされプリンタが作動する。
カ 速度表示装置及び記録装置は,電源の投入時に内部動作点検が行われる仕組みになっているが,その他に,速度表示装置の時刻の確認,測定点側及び停止点側で正常に音声が連絡できることの確認,送受信装置及び速度表示装置について校正用音叉を使用して各装置が正常に作動することの確認を行った上で,試験走行(送受信装置の設定を完了後,一般車を対象に測定を行い,警報設定値以上でブザーが鳴動する地点を確認し,各車線ごとに大型車,普通車等について確認を行うもの。)を行って,測定可能距離を確認して運用時の現認を確実にする必要がある。なお,試験走行に際しては,投射角を「0~10度」として使用する場合には,比較的近い距離で測定できる10度での使用が便利であるとされている。
(2) 本件速度違反取締り時の状況等
ア 本件現場は,東西に走る片側3車線の道路(α通)の西行き車線のα通とγ通との交差点付近路上である。
本件現場では,平成19年11月22日午後1時19分から午後4時21分までの間,現場責任者である京都府β警察署交通課員f指揮の下,測定係に指定された同署交通課員a,停車合図係に指定されたg巡査部長(以下「g」という。),停車係に指定されたb及びh巡査(以下「h」という。),告知係(取調べ係)に指定されたi巡査部長(以下「i」という。)及びc他2名の合計9名の態勢で,速度違反取締り(本件速度違反取締り)が実施された。本件速度違反取締りの際の,本件測定器の各装置の設置場所並びに同署交通課員らの役割分担及び本件現場における配置場所は,原判決別紙「現場配置図」(以下「本件現場配置図」という。)及び同「実況の略図」(本件実況の略図)にそれぞれ記載されたとおりである。なお,本件実況の略図においては,本件測定器の送受信装置が「レーダーアンテナ」と表記されている。
(乙5,9ないし11)
イ 本件現場は,制限速度を超えて走行する車両が多い等,取締りの必要性が高い場所として,反復して速度違反取締りが行われている場所である。
(争いがない)
本件現場であるα通は,京都市内でも最も幅員が広い通りの一つであり,日中の通行量は多い方である。
(甲6,7,乙9)
ウ 測定係のaは,本件速度違反取締りの開始に先立って,本件実況の略図のR地点(本件送受信装置設置地点,本件現場配置図のA地点)に送受信装置を設置した上,本件測定器について,前記(1)カの校正用音叉を用いて本件測定器が正常に作動することの確認を行った上,同カの試験走行も実施した。なお,aは,本件速度違反取締りの終了時にも上記校正用音叉を用いた確認を行い,この際も,本件測定器が正常に作動することが確認された。
本件速度違反取締りに際しては,送受信装置の投射角は,10度に設定されていた。また,速度表示装置の表示部の電波スイッチは,押している間のみ電波が発射され,スイッチを放すと停止になるように設定されており,同装置のホールド自動-手動切替スイッチは「手動」に設定されていた。
(乙10,18,原審証人a)
エ 本件速度違反取締り開始後,測定係であったaは,本件実況の略図記載のP地点においてα通の西行き車線を走行する車両を注視していたところ,平成19年11月22日午後1時29分頃,第1車線を西進してくる控訴人車両が本件実況の略図の①地点付近を走行している際に,同車両が法定速度を超えて走行していると認識したことから,このころ速度表示装置の表示部の電波発射スイッチを押したところ,同車両が本件実況の略図の②地点付近を走行している際に,速度表示装置の表示部の数字表示器に45㎞/hと表示されたので,控訴人車両に速度違反があると認め,直ちに同装置表示部のホールドスイッチを押して,停車合図係及び停車係に控訴人車両の特徴を「○,原付バイク,jシルバー,1ライン独走」と無線通報し,現認メモ(乙14)に控訴人車両が時速45㎞で第1車線を独走していた旨の記載をした。
(乙9,10,14,15)
オ 本件速度違反取締りにおいて停車合図係をしていたgは,同日午後1時29分ころ,本件現場配置図のB地点付近に設置された記録装置のブザー音が鳴動し,その直後に,aから,無線で違反車両の特定事項の通報があったことから,停車係のhに対し,本件現場配置図のC地点付近に設置されたスピーカーを通じて,違反車両の特定事項を復唱した上,記録装置のプリンターから印字されて出てきた速度記録紙を確認したところ,測定時刻が13時29分,測定速度が45㎞/hと印字されていた。
gは,停車係によって誘導されてきた違反車両である控訴人車両のナンバーを確認してこれを停車合図係メモ(乙15)に記入した上,同車両の運転者である控訴人を,記録装置の設置場所に誘導し,同所において,速度記録用紙を確認させ,違反事実の説明をしたところ,控訴人は,本件速度違反取締りが実施されていることは分かっていたので,控訴人車両のスピードメーターを見ながら毎時35㎞で走行していた旨抗議した。
そこで,gは,速度記録紙に控訴人車両のナンバーを記入した上で,道路交通法違反(速度違反)現認書(乙7)のレーダー・スピード・メーター速度記録紙実見書にこれを貼付し,控訴人を告知係のiに引き継いだ。
(乙7,11,15)
カ iは,控訴人に対し,運転免許証の提示を求めたところ,控訴人は,違反は認めない,違反をしていないので免許証を見せる必要はない等と申し立てたが,最終的には免許証の提示に応じた。iは,免許証を確認した上,控訴人について交通反則通告制度の手続によるために,いわゆる交通反則切符(乙6,17)を作成し,その綴りの1枚目に当たる「交通反則告知書・免許証保管証」を示して違反内容を告知したところ,控訴人は,違反事実を否認した上,同綴り2枚目に当たる「交通事件原票・道路交通法違反現認・認知報告書」の,違反事実を自認する旨の記載のある「供述書(甲)」欄への署名・押印を拒否し,告知書及び反則金の納付書の受領を拒否した。
(乙6,8,12,13,17)
キ 本件速度違反取締りにおいては,速度違反で22件が検挙されたが(このうち控訴人車両を含む18件は原動機付自転車によるものであった。),控訴人車両の直後(同日午後1時29分ころ)に第1車線を走行してきた原動機付自転車の運転者も違反事実を否認したが,これらの者以外には違反事実を否認する者はなかった。
(乙10,14,15)
ク 本件速度違反取締りの際の状況を記載した本件実況の略図においては,aが,本件測定器の送受信装置を設置した地点がR地点,速度の測定をしていた地点(aの位置)がP地点,控訴人車両が法定速度を超えて走行していると認識した(違反車両を最初に認め,速度の測定が可能と判断した)際の控訴人車両の位置が①地点,速度表示装置に控訴人車両の速度が表示されたとされる際(本件測定時)の控訴人車両の位置が②地点,停車係に控訴人車両の特定事項を通報した際の控訴人車両の位置が③地点として特定されているところ,同略図の「関係距離」欄の記載のうち,上記①地点から②地点までの距離が,35.8mから41.9mに,上記②地点から③地点までの距離が44.4mから39.7mに,上記P地点から②地点までの距離が33.9mから28.5mに,上記R地点から②地点までの距離が28.8mから23.4mにそれぞれ訂正されているが,これらの距離は,訂正前のものが正しく,訂正後の記載は誤りであったことが後に判明した。
(乙31)
ケ 本件送受信装置設置地点(本件実況の略図のR地点)に送受信装置を設置し,投射角を10度に設定した場合,α通の第1車線のみならず,第2車線及び第3車線も本件測定器の測定可能範囲内(ビーム幅内)に入ることになる。
(乙16,26)
コ 速度表示装置に控訴人車両の速度が表示されたとされる時点(本件測定時)における控訴人車両の位置(本件実況の略図の②地点)は,送受信装置のビーム軸線上ではない。
(争いがない)
(3) 本件測定器の実際の機能等
ア 本件測定器の送受信装置の投射角を10度に設定すると,25度に設定した場合に比較して,送受信装置のビーム幅内に複数の車両が収まる蓋然性が高くなる。また,送受信装置の投射角を10度に設定した場合のビーム幅は,実際には,12度程度となり,本件送受信装置設置地点を起点とする道路と平行に走る直線に対して,4度から16度程度の範囲の車両の速さを測定することになる。
本件測定器は,ビーム幅内に複数の車両が存在した場合,これらの車両からの反射波の強さの比が10倍以上あれば,強い方の車両の速度を測定するが,10倍以内であれば,どちらの速度も測定しない(検出停止機能が働く)ように設計されていたはずであったが,本件訴え提起後に送受信装置の検出停止機能を確認するために被控訴人が実施した走行実験(乙34が実験の実施状況を録画したCD-R,乙35が実験結果の報告書)では,検出停止機能が設計どおり働くことを証明することはできなかった。
(乙25,26,34,35)
イ 送受信装置から発射される電波は,金属にはよく反射するが,プラスチックや人体には余り反射せず,原動機付自転車に人が乗車していた場合の有効反射断面積(電気的な投影面積)は,普通乗用自動車の20分の1程度である。送受信装置から発射される電波は,運転者や車両を突き抜けて背後に到達することはないので,原動機付自転車の運転者等の背後には,電波の影ができ,送受信装置の死角になる。そのため,原動機付自転車の背後に普通乗用自動車があった場合にも,同車両の有効反射断面積が原動機付自転車の20倍にはならない場合もある。
原動機付自転車は,上記のとおり有効反射断面積が普通乗用自動車に比べて小さいことから,送受信装置からの距離が遠い場合には測定できず,距離が比較的近い場合でも,ビーム軸線付近でなければ測定することは困難であるが,違反車両がビーム軸線上にいる場合には,たとえそれが原動機付自転車であっても,他の車両を測定する可能性はゼロに近いといえる。そのため,本件測定器で,原動機付自転車の速度を正確に測定することは相当に難しく,まず,測定係は,当該原動機付自転車の周囲に測定を阻害するような他の車両が存在しないことを瞬時に見極める必要がある。
(乙26,30)
ウ 本件測定器の測定可能距離を明らかにするため,本件訴え提起後に被控訴人が行った再現実験(乙36が実験結果の報告書,乙37が実験結果を録画したCD-R)によれば,本件速度違反取締りの際の状況を本件現場以外の場所において必要な限度で再現した上で,送受信装置の設置場所から28.8m,歩道縁石線と設定された場所から3.3mの地点にある,本件実況の略図の②地点を再現した場所を挟む2か所にカラーコーンを設置し,これらのカラーコーンの間を原動機付自転車(以下「実験車両」という。)で走行し,その速度を本件測定器で5回にわたって測定したところ,1回目から3回目の実験では,上記カラーコーンよりもやや遠方(本件実況の略図に当てはめれば①地点寄り)で実験車両の速度が測定されたが,4回目及び5回目の実験では,上記カラーコーンよりも手前(本件実況の略図に当てはめれば③地点寄り)で実験車両の速度が測定された。
(乙36,37)
エ 原動機付自転車の約50m後方を大型車両が走行していた場合に,本件測定器がいずれの車両の速度を測定するかを明らかにするため,本件訴え提起後に被控訴人が再現実験(乙38が同実験結果の報告書,乙39が同実験の実施状況を本件測定器の側から録画したDVD-R,乙40が同状況を大型車両の側から録画したDVD-R)を行った。同実験に先だって,本件速度違反取締りの際の状況を本件現場以外の場所において必要な限度で再現するために,基準点となる歩道縁石線を設定した上で,本件現場と同様の幅員で第1車線及び第2車線を設定して各車線の5mごとにポストコーンを設置し,送受信装置の設置場所である本件実況の略図のRの地点を特定し,同地点から28.8m,歩道縁石線と設定された場所から3.3mの地点にある同略図の②地点を再現した場所を挟む2か所にそれぞれカラーコーン(以下「各カラーコーン1」という。)を設置し,上記再現された②地点から50m後方(送受信装置から78.8mの位置)にカラーコーン(以下「カラーコーン2」という。)を設置し,送受信装置のビーム幅を明確にするために,地面にビニールテープを張ってこれを表示し,また,送受信装置の投射角を10度に設定し,速度表示装置の警報設定値を20㎞/hに設定した(なお,速度表示装置の電波発射スイッチは連続発射の状態に設定し,同装置のホールド自動-手動切替スイッチは「自動」に設定した。)。このような状況の下で,控訴人車両を仮装した原動機付自転車(以下「仮装控訴人車両」という。)が,時速30㎞前後で走行し各カラーコーン1の間を通過する際に,その後方の上記第2車線上のカラーコーン2付近を大型車両(大型バス,以下「大型バス」という。)が時速50㎞前後で通過するようにし,この状況で本件測定器によって速度測定を行う実験が,連続して10回実施された。
上記実験の結果,本件測定器によって速度測定が行われた時点での仮装控訴人車両と大型バスとの距離は約25mないし51m(送受信装置から大型バスまでの距離は約50mないし80m)であったが,いずれの実験においても,仮装控訴人車両の速度が測定された。
なお,上記実験において本件測定器によって速度測定が行われた時点での大型バスの位置は,本件測定器側から見て,いずれも仮装控訴人車両の右側で,仮装控訴人車両の位置と比較すると本件測定器のビーム軸線上からより外れた位置にあり,また,上記実験結果の中には,大型バスが,仮装控訴人車両による死角に当たる場所にある際に,速度測定が行われた可能性があるものもあった。
(乙38ないし40)
2 本件更新処分の取消しに係る請求について
前提事実記載のとおり,控訴人は,道交法101条1項の規定による免許証の更新申請を行っているところ,控訴人が免許証の更新を受けた場合の免許証の更新を受けた者の区分(道交法92条の2第1項の表の備考一の2)が,優良運転者となるか,それとも一般運転者となるかは,前記第2の3の関係法令の定めに記載したところによれば,特定誕生日の40日前の日前5年間において違反行為をしたことがないことによって,一義的に定まるものであるから(本件においては,控訴人が,平成21年政令第127号による改正前の道交法施行令の別表4に掲げる行為をしたことがないことについては争いがない。),以下では,本件更新処分の適法性を判断する前提として,前記1で認定した事実をもとに,控訴人による本件違反行為があったといえるか否かについて検討する。
(1) 被控訴人は,本件速度違反取締りにおいて,本件測定器で測定された控訴人車両の速度は,毎時45㎞であったとして,控訴人による本件違反行為があったと主張する。
これに対して,控訴人は,本件速度違反取締りにおいて,測定係であったaの陳述書(乙18)中には,控訴人車両の前後約50メートルの範囲内の第1車線ないし第3車線には,控訴人車両以外の他の車両はなく,控訴人車両が独走状態であることを確認して,本件測定器の電波発射スイッチを押した旨,また,本件測定器の測定範囲(ビーム幅)内に少しでも他の車両が入っている可能性があれば,ホールドボタンを押さず測定のみに止め,検挙しない旨の各陳述記載があり,原審のaの証人尋問の結果中にも同趣旨の証言があるが,これらの供述等の信用性には疑問があるとした上で,控訴人は,本件速度違反取締りが実施されていることが分かっていたので,毎時35㎞の速度で走行しており,そもそも最高速度を超過していない,また,本件測定器は,ビーム幅内に複数の車両が存在した場合には,誤測定の可能性が極めて高いものであるとして,本件測定器で測定されたとされる控訴人車両の速度は,本件測定時にビーム幅内に存在した他の車両の速度である可能性が高いとして,本件違反行為の存在を否定する。
(2) まず,aの上記各証言等の信用性について検討するに,前記1(2)ケで認定したとおり,本件送受信装置設置地点(本件実況の略図のR地点)に送受信装置を設置し,投射角を10度に設定した場合,α通の第1車線のみならず,第2車線及び第3車線も本件測定器の測定可能範囲内(ビーム幅内)に入ることになり,ビーム幅はかなり広範囲にわたるところ,同イで認定したとおり,本件現場であるα通は,京都市内でも最も幅員が広い通りの一つであり,日中の通行量は多い方であるというのであるから,本件測定時に,控訴人車両の前後約50メートルの範囲内の第1車線ないし第3車線には,控訴人車両以外の他の車両が全くなかったとの事態は,いささか想定し難いということができる。また,aの証言等に係る上記状況は,同人が速度違反取締りの経験を積んだ者であったにしても,あくまで同人の瞬時の目視に基づくものである。
更に,前記1(2)エで認定したとおり,本件においては,aが本件測定器の速度表示装置の電波発射スイッチを押した時点(本件実況の略図における①地点付近を控訴人車両が走行している時点)と,同装置の数字表示器に車両の速度が表示された時点(速度が測定された時点,同略図における②地点付近を控訴人車両が走行している時点)との間には,若干の時間差があるのであり,同クのとおり,この間に,控訴人車両は約35.8m(本件実況の略図中の訂正前の記載)進行しているのであるから,仮に,上記電波発射スイッチが押された時点では,本件測定器のビーム幅内に控訴人車両以外の車両が存在しなかったとしても,実際に速度が測定されたとされる時点までの間に,ビーム幅内に控訴人車両以外の他の車両が進入してきた可能性もあながち否定することはできない(当該車両の速度が控訴人車両より速ければ,それだけ上記の間の移動距離も控訴人車両より大きくなり,控訴人車両との距離も縮まることになる。)というべきである(なお,aが本件測定器の速度表示装置の電波発射スイッチを押した時期に関して,aは,原審における証人尋問において,控訴人車両が,本件実況の略図における②地点の直前である横断歩道の西側付近を走行している時点である旨の証言をするが,同証言は,本件実況の略図(乙9)における指示説明及び平成19年11月28日付けのa作成に係る「道路交通法違反被疑事件捜査報告書(3号)」(乙10)の記載と齟齬しており,そのまま信用することはできず,aが電波発射スイッチを押した地点は,乙第9号証及び第10号証により,前記1(2)エで認定したとおりであると認められる。)。
そうすると,上記aの各証言等は,直ちにその信用性を肯定するわけにはいかない。
(3) そこで,次に,本件測定器で測定されたとされる控訴人車両の速度が,本件測定時にビーム幅内に存在した他の車両の速度である可能性の有無について検討する。
前記1(1)イで認定したとおり,本件測定器の仕様及び性能等についての説明書(乙21)の記載によれば,本件測定器の測定可能距離は,投射角0度で普通乗用自動車を測定する場合で,約50mとされているところ,同(3)イ及びウで認定したとおり,原動機付自転車に人が乗車していた場合の有効反射断面積は,普通乗用自動車の20分の1程度ではあるものの,送受信装置の設置場所から28.8m離れた場所を,単独で走行する原動機付自転車の速度を測定することは可能であるというのである。したがって,本件測定時に,本件測定器が測定した速度は,控訴人車両のものである可能性自体を否定することはできない。
しかし,本件測定器の測定可能距離が,普通乗用自動車の場合で約50mであることを前提とすると,ビーム軸から2.5度ずれた位置にある原動機付自転車の測定可能距離は,理論上,約21.1mとなるのに(弁論の全趣旨),実際に28.8mないしそれ以上の距離でも測定可能であったとすれば,普通乗用自動車の場合に,ビーム軸線上ないしそれに近い位置であれば50m以上の距離にあっても測定可能となるし,普通乗用自動車より大型の車両であればさらにそれ以上離れても測定可能となるといえる。
この点に関し,前記1(3)エで認定したところによれば,送受信装置の設置場所から28.8m離れた場所で,かつ,本件測定器のビーム軸線上に比較的近い場所を原動機付自転車が走行している場合には,同所から50m以上離れ,かつ,ビーム幅内には入っているが,ビーム軸線上から上記原動機付自転車よりも更に外れた場所を走行する大型バスの速度を測定することはできなかったというのであるが,これらの事実から,直ちに,原動機付自転車以外の車両が,ビーム幅内のビーム軸線上により近い場所を走行していた場合にも,同車両の速度が,本件測定器によって測定されることがないとの結論を導くことはできないというべきである。特に,上記実験で用いられた大型バスは,控訴人主張のとおり,前から見た場合に,ガラスの部分が多いところ(乙38),金属の部分が多いパネルトラック等の有効反射断面積の大きい車両が上記場所を走行していた可能性があることを想定すると,なおさら,そのような車両の速度が本件測定器によって測定された可能性は軽視し難いものとなる。
また,前記1(3)イで認定したとおり,そもそも,原動機付自転車は,送受信装置からの距離が遠い場合には,その有効反射断面積の関係で,本件測定器によってその速度を測定することができず,送受信装置からの距離が比較的近い場合でも,ビーム軸線付近に位置していなければ,その速度を測定することは困難であるため,本件測定器で,原動機付自転車の速度を正確に測定することは相当に難しいとされている上,同アで認定したとおり,本件測定器の検出停止機能については,その存在を証明することができなかったというのである。
以上指摘した諸事情に照らせば,本件測定器で測定されたとされる控訴人車両の速度は,控訴人車両のものである可能性もある反面,本件測定時にビーム幅内に存在した他の車両の速度である可能性も十分あるといわざるを得ない。
(4) そして,このことに加え,前記1(2)イ及びオで認定したとおり,本件現場は,反復して速度違反取締りが行われている場所であるところ,控訴人は,本件速度違反取締りを受けた直後から,同取締りが実施されていることは分かっていたので,控訴人車両のスピードメーターを見ながら毎時35㎞で走行していた旨述べていたのであり,この供述は,原審の本人尋問に至るまで,終始一貫したものである上,控訴人は,原審の本人尋問において,速度違反取締りが行われている際には,普段と異なり,路上駐車をしている車両がきれいになくなっているので,本件現場に差し掛かる手前で本件速度違反取締りが実施されていることが推測できた旨の具体的で迫真性のある供述をしていることも併せ考えると,控訴人がこのような状況の本件現場付近において,敢えて最高速度を大きく超える毎時45㎞で走行したとするのは,いささか無理があるというべきである。
(5) 以上の諸事情を総合すると,本件測定器で測定されたとされる控訴人車両の速度は,本件測定時にビーム幅内に存在した他の車両の速度である可能性が高いというべきであり,その他,控訴人が本件違反行為をしたことを裏付ける的確な証拠のない本件においては,控訴人に本件違反行為があったと認めることはできないといわざるを得ない。
そうすると,本件違反行為の存在を前提に行われた本件更新処分は,適法なものであったということはできないので,本件更新処分のうち,控訴人を一般運転者とする部分は取消しを免れないというべきである。
3 控訴人に対し,優良運転者である旨の記載のある運転免許証を交付することの義務付けを求める請求について
控訴人が平成21年5月25日に行った免許証の更新の申請には,優良運転者である旨の記載のある免許証を交付されることを求める趣旨が含まれているとみることはできないから,本件更新処分は,道交法の規定に照らし,上記更新の申請中の,優良運転者である旨の記載のある免許証を交付されることを求める部分を棄却した処分(申請によって求められた授益の一部を拒否したもの)と解することはできない。しかしながら,本件更新処分は,申請に応答して授益をするに当たり,控訴人に対して法律上付与すべき権利・利益を与えなかったということができるのであるから,控訴人に対し,優良運転者である旨の記載のある運転免許証を交付することの義務付けを求める請求に係る訴えは,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)3条6項2号所定の義務付けの訴えと同様の規律に服するものとして許容されるものというべきである。そうすると,控訴人の上記訴えは,行訴法37条の3第1項2号所定の要件を満たす適法なものであるということができる。
そして,前記2で説示したとおり,本件更新処分のうち,控訴人を一般運転者とする部分は取り消されるべきであるから,控訴人の上記請求は理由がある。
第4以上のとおりであるから,控訴人の請求はいずれも理由があるから認容すべきところ,これと結論を異にする原判決は失当であって,本件控訴は理由がある。よって,原判決を取消し,控訴人の請求をいずれも認容することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中澄夫 裁判官 辻本利雄 裁判官 金地香枝)