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大阪高等裁判所 平成24年(行コ)155号 判決 2013年4月11日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2 北税務署長が平成 20年5月 28日付でした控訴人の平成 16 年4月1日から平成 17年3月 31 日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24 日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち,消費税額 9557万 7000円及び地方消費税額 2389万 4200円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

3 北税務署長が平成 20年5月 28日付でした控訴人の平成 17 年4月1日から平成 18年3月 31 日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24 日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち,消費税額 9483万 6600円及び地方消費税額 2370万 9100円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

4 北税務署長が平成 20年5月 28日付でした控訴人の平成 18 年4月1日から平成 19年3月 31 日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24 日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)のうち,消費税額 9641万 3200円及び地方消費税額 2410万 3300円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分(平成 21年6月 29 日付異議決定及び平成 22 年6月 24日付国税不服審判所長の裁決によって一部取り消された後のもの)を取り消す。

5  訴訟費用は第1,2審を通じて被控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1 事案の要旨(以下,略語については原判決の表記に従う。)区分所有建物の賃貸事業等を行っている控訴人は,北税務署長に対して,aビルの専有部分のうち地下駐車場,8階事務室及び5階 16 号室,bビルの専有部分のうち2階事務室及び地下駐車場並びにcビルの専有部分のうち事務室(aビル,bビル及びcビルを併せて「本件各ビル」)についての管理費(「本件各管理費」)の額を控除対象仕入税額に計上し,他方で,本件各ビルの専有部分のうちのaビルの5階 16 号室及びbビルの2階事務室を構成する2階 19-1-1から3までの各部屋(上記各部屋を併せて「本件各賃貸物件」)の平成 16年から平成 18年にわたる各課税期間(「本件各課税期間」)における管理費(「本件各賃貸物件管理費」)のうち本件各賃貸物件の賃借人(「本件各賃借人」)が支払った管理費相当額を課税売上額に計上していない確定申告書を提出したところ,本件各課税期間の消費税及び地方消費税(「消費税等」)について,北税務署長から,平成 20 年5月 28日付でそれぞれ更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分(「更正処分等」)を受けたことから,区分所有権を有するビルの管理組合への管理費の支払は課税控除の対象となる仕入れに当たること等を理由として,北税務署長の異議決定,国税不服審判所長の裁決を経て一部取り消された後の更正処分等の各取消しを求めた。

2  訴訟経緯

(1)  原判決(請求棄却)の要旨

ア 争点1(本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か)について

(ア) 本件各管理費が課税仕入れに係る対価であるというためには,本件各管理費が,本件各ビルのそれぞれの区分所有者全員で構成する団体(「本件各管理組合」)からの役務の提供に対する反対給付として支払われたものであることを要する。本件各管理費は,本件各管理組合が行う本件各ビルの共用部分の管理等に要する費用であるところ,控訴人の負担額は,本件各ビルの共用部分の使用収益の態様や管理業務による利益の享受の程度と直接関係なく,団体内部において定めた分担割合に従って定まり,本件各管理組合の構成員の義務として,本件各管理費を支払っているのであり,本件各管理費は役務の提供に対する対価であるとは認められない。

(イ) 本件各管理組合の存在

本件各管理組合が人格のない社団であるからといって,これに対する管理費の支払が課税の対象となるものではなく,また,管理費が管理業務の対価と認められるものでもない。

(ウ) 租税平等主義違反等について

控訴人は,本件各管理組合に対して支払う本件各管理費がビル一棟の所有者が第三者に支払う費用と実質的に何ら異なるところはないと主張するが,第三者と区分所有者との間に独立した納税義務の主体である管理組合が介在している以上,ビル一棟の所有者が第三者に対して支払う費用と実質的に同一であると評価することはできない。

また,各区分所有者が管理組合に対して支払う管理費自体は,管理組合が民法上の組合であっても仕入税額控除の対象とならないのであり,その取扱いに差異はない。なお,管理組合が民法上の組合である場合,当該組合が第三者から役務の提供を受け,その対価を支払った時点で,区分所有者が課税仕入れに係る対価を支払ったものと扱われるが,これは民法上の組合が独立して納税義務の主体となることができないためであり,かかる差異は何ら不合理な区別ではない。

(エ) 消費税法基本通達5-5-6の適用について

同通達は,対価関係の判断が困難な場合について定めたものであって,本件においては,管理費の支払について明白な対価関係があるとは認められないのであるから,そもそも同通達が適用される場面ではない。

イ 争点2(本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が,控訴人の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か)について

(ア) 控訴人及び本件各賃借人は,本件各賃借人が直接管理費を支払う旨の合意書を管理者に差し入れているが,本件各ビルの各管理規約(「本件各管理規約」)上は控訴人が管理費の支払義務を負うところ,本件各賃貸物件の賃貸借契約上の合意に基づき,本件各賃借人が本件各管理組合に直接支払うものにすぎず,本件各賃貸物件管理費は貸付けの対価に当たる。

(イ) 本件各賃借人が管理組合から受ける役務の対価を支払っているものではない。

(ウ) 本件各管理費は,管理組合内で管理費の額が決定された時点で控訴人の具体的債務が発生するのであり,また,本件各賃借人が支払を怠るまで控訴人に債務が発生しないものではない。

(2)  これに対して,控訴人が本件控訴を提起した。

したがって,当審における審判の対象は,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分取消請求の当否である。

3  法令の定め等

原判決3頁 13行目から4頁 20行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

4  前提事実(争いのない事実並びに原判決文中掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

原判決4頁 23行目から8頁 12行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

5  争点及び争点に関する当事者の主張

原判決8頁 19行目から 19 頁 19 行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。

6  控訴人の当審補充主張の要旨

(1)  争点1(本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か)について

ア 独立した本件各管理組合の存在

消費税法3条により,人格のない社団等は法人とみなされ,消費税法の適用においては独立した事業者として取り扱われる結果,本件各管理組合はいわば不動産管理を業とする株式会社と同等の地位に置かれ,その結果,控訴人の課税仕入れの相手方である「他の者」に該当する(消費税法2条12号)。

本件各管理費の支払行為は,消費税法上,独立した事業者間の取引として擬制され,当該取引に起因して支払う金銭は対価に該当する。

イ 本件各管理費の管理業務の対価性

(ア) 本件各管理組合は,区分所有者から本件各ビルの管理を委託された団体であり,区分所有者との間で委任及び準委任関係にある。そして,本件各管理費は,本件各管理組合の行う管理業務という役務の提供に対する対価である。

(イ) 区分所有建物の性質から,現実に個々の区分所有者が管理組合に対して管理業務を委託するか否かによって管理費の支払義務を左右することは相当でない。本件各管理費は実質的にみて本件各管理組合の行う管理行為という役務の提供の対価である。

(ウ) 本件各管理組合が行う業務内容に応じて本件各管理費の額が定められ,また,各区分所有者の利益の享受の程度に応じて本件各管理費が定められている。さらに,管理費は管理業務に要する費用に充てられている。

ウ 租税平等主義違反

(ア) 商業ビルは,その維持管理のための費用を要するところ,この理はビルが一人によって所有される場合であろうと,多数の者によって区分所有される場合であろうと違いはなく,ビル一棟が一人によって所有されている場合と別異に取り扱うことは租税平等主義に反する。

(イ) 全く同じ管理費の支払が,区分所有者によって構成される団体が人格のない社団である場合と,民法上の組合の場合で消費税法の適用において別異の取扱いをすることは不平等である。納税者の立場からすれば,全く同じ管理費の支払を,一方は課税仕入れが認められ,他方は課税仕入れが認められないことは納得できるものではない。仕入税額控除制度は全ての事業者に適用される制度であり,民法上の管理組合であればこの制度の適用が認められるところ,本件各管理組合が消費税法3条の適用を受け法人とみなされたことにより,結果として仕入税額控除制度の適用を受けることができなくなるというのは,租税平等主義に反する。

エ 原判決の不当性

(ア) 原判決は,本件各管理組合が管理業務という役務を提供していることを認めながら,その対価性を否定するが,本件各管理組合が区分所有者に対して役務を提供し,かつ,本件各管理費が本件管理組合の行う管理業務の費用に充てられているのであり,控訴人の管理費支払義務も本件各管理組合が本件各ビルの管理業務を行っているからこそ発生するものである。また,対価性を判断するに際しては,実質に鑑みて役務の対価として支払われているかを判断すべきであり,このことは消費税法基本通達5-5-3及び5-5-6からも明らかである。

(イ) 原判決の説示によれば,控訴人が何らの対価性なく本件各管理費を支払っていることになり,社会通念に著しく反している。

(ウ) 原判決は本件各管理費について仕入税額控除の対象に含めなかった。

しかし,本件各管理費の対価性が否定されると,本件各管理組合の管理費収入は「特定収入」に該当することになり,その結果,本件各管理組合が第三者に支払った費用に課税される消費税は,本件各管理組合の仕入税額控除の対象とならず本件各管理組合の負担となる。しかし,本件各管理組合は事業者であって,消費税法が予定する消費税の最終負担者ではないから,消費税法に反することになり,実態からの乖離も甚だしい不合理な結果を招来することとなる。

(2)  争点2(本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が,控訴人の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か)について

ア 本件各賃貸物件の貸付の対価性

本件各賃借人が支払っている管理費は,契約上,賃料と諸経費としての管理費とを明確に区別しており,賃料ではなく,管理業務の対価であることは明白であり,管理費を賃料と評価する根拠は何ら存在しない。

イ 経済的利益の不存在

本件各賃借人と控訴人間の合意書(証拠<省略>)は,本件各管理費の支払義務を本件各賃借人が第一次的に負う旨を,本件各管理組合と控訴人及び本件各賃借人間で合意したものである。その結果,控訴人はいわば保証人たる地位に置かれ,本件各賃借人が本件各管理費の支払義務を怠らないかぎり,控訴人に具体的な債務が発生するものではない。また,上記管理費の支払について,控訴人に経済的利益はない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の請求は理由がなく,棄却するのが相当と判断する。その理由は,原判決説示(「第5 当裁判所の判断」)のとおりであるから,これを引用する。

2  控訴人の当審補充主張について

(1)  争点1(本件各管理費が課税仕入れに係る支払の対価に当たるか否か)について

ア 独立した本件各管理組合の存在

控訴人は,消費税法3条により,本件各管理組合は法人とみなされ,消費税法の適用においては独立した事業者として取り扱われる結果,控訴人の課税仕入れの相手方に該当し,本件各管理費の支払行為は対価に該当すると主張する。

しかし,この点は原判決説示(22頁 18 行目から 23 行目まで)のとおりであり,消費税法3条は人格のない社団等が消費税法の適用において法人とみなされ,納税義務者とされることを規定しているにすぎず,そのことから,区分所有法等が定める管理組合の私法上の法律関係が否定されるものではない。

イ 本件各管理費の管理業務の対価性

控訴人は,本件各管理組合は,区分所有者との間で本件各ビルの管理業務について,委任及び準委任関係にあり,本件各管理費は,本件各管理組合の行う管理業務という役務の提供に対する対価であると主張する。

しかし,この点は,原判決説示(21 頁 25行目の「本件各管理費は,」から 22頁 11 行目まで)のとおりであり,控訴人は本件各管理組合の構成員の義務として本件各管理費を支払っているものというべきである。また,本件各管理費の対価性の有無については当該支払自体の性質から判断すべきであって,本件各管理費が本件各ビルの共用部分の管理費に充てられていることをもって判断するのは相当といえない(なお,管理費には,管理組合の運営費等,管理の役務に直接には対応しない費用も含まれる。)。

ウ 租税平等主義違反

控訴人は,消費税法の適用において,ビルが一人によって所有される場合や区分所有者によって構成される団体が民法上の組合の場合と別異の取扱いをすることは,租税平等主義に反する,消費税法規定の仕入税額控除制度は,全ての事業者に適用される制度であり,仕入税額控除制度の適用を受けることができなくなるというのは,租税平等主義に反すると主張する。

しかし,この点は,原判決説示(23 頁6行目から 12 行目まで及び同頁 16行目の「各区分所有者」から 24 頁1行目まで)のとおりであり,何ら不合理な区別ではない。

エ 原判決の不当性

(ア) 控訴人は,原判決が本件各管理費を仕入税額控除の対象に含めなかったため,これが「特定収入」に当たり,その結果,本件各管理組合が第三者に支払った費用に課された消費税は,本件各管理組合の仕入税額控除の対象とならず,本件各管理組合の負担となり,本件各管理組合が最終負担者となるが,このことは消費税法に反すると主張する。

しかし,本件各管理費は上記のとおり,役務との対価性がないから,不課税取引であり課税対象にならず,特定収入に当たるが,この特定収入が課税売上げの課税仕入れの一部を賄うことから,消費税法60 条4項により,課税仕入れ等の消費税額の合計額から特定収入によって賄われるものとされる課税仕入れ等に係る税額相当額を控除した後の金額が仕入控除税額とされるのである。その結果,人格なき社団等が特定収入によって賄われる課税仕入れについては消費税の最終負担者となる。このような取扱いは管理費以外にもあり,消費税法3条により人格のない社団等が法人とみなされて納税義務者と規定されていることと何ら矛盾するものではない。

(イ) 控訴人のその他の主張はいずれも上記結論を左右するに足りるものではない。

(2)  争点2(本件各賃貸物件管理費のうち本件各賃借人が支払った管理費相当額が,控訴人の事業として対価を得て行われる資産の貸付けの対価に該当するか否か)について

ア 本件各賃貸物件の貸付の対価性

控訴人は,本件各賃借人が支払っている管理費は,賃料ではなく,管理業務の対価であると主張する。

しかし,この点は,原判決説示(25 頁5行目から 10 行目まで)のとおりであり,本件各賃借人が本件各管理組合から受ける役務の対価を支払っているものではない。

イ 経済的利益の不存在

控訴人は,本件各賃借人と控訴人間の合意書により,控訴人がいわば保証人たる地位に置かれ,また,上記管理費の支払について,控訴人に経済的利益はないと主張する。

しかし,この点は,原判決説示(25 頁 23行目から 26頁2行目まで)のとおりであって,控訴人は区分所有者の地位に基づいて本件各管理費の支払債務を負っているのであって,上記合意書により控訴人が本件各管理費の支払債務を免れるものでもない。また,本件各賃借人が管理費を支払うことにより,控訴人は本件各管理費の支払を免れるという利益を得ている。

ウ 控訴人のその他の主張はいずれも上記結論を左右するに足りるものではない。

3  結論

以上のとおりであって,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 赤西芳文 裁判官 片岡勝行 裁判官 山口芳子)

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