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大阪高等裁判所 平成24年(行コ)82号 判決 2012年10月19日

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

(1)  滋賀県知事が、平成21年5月8日付けで控訴人に対してした公文書一部公開決定処分のうち、同和対策地域総合センター要覧の「目次」部分(最初の2行を除く。)及び本文1、2頁の「同和対策地域総合センター一覧表」の「センター名」、「電話」、「郵便番号」(1、3、4及び7行目)及び「所在地」の各欄を非公開とした部分を取り消す。

(2)  滋賀県知事は、控訴人に対し、同和対策地域総合センター要覧の上記取消に係る部分を公開せよ。

(3)  控訴人のその余の取消請求を棄却し、その余の義務づけを求める請求に係る訴えを却下する。

2  訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを100分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決を取り消す。

(2)  滋賀県知事が、平成21年5月8日付けで控訴人に対してした公文書一部公開決定処分のうち、地図、地区名、施設名、施設所在地、電話番号及び同和地区名や所在地が分かる地区概要等の部分一切を非公開とした部分を取り消す。

(3)  滋賀県知事は、上記部分に係る情報を公開せよ。

(4)  訴訟費用は、第1、2審を通じ、被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴を棄却する。

(2)  控訴費用は控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は、控訴人が、滋賀県知事に対し、滋賀県情報公開条例に基づき、「同和対策事業に関する地図のうちa町b地区、c地区、d地区の事業に関するもの」(本件地図)、「滋賀県同和対策新総合推進計画(地区別事業計画)<改訂計画>」(本件推進計画文書)の全ページ及び「同和対策地域総合センター要覧」の最新のもの(本件要覧)の全ページについて公開を請求したのに対し、滋賀県知事が、本件地図の全部並びに本件推進計画文書及び本件要覧の各一部を非開示とし、その余を開示する旨の処分(本件処分)をしたため、控訴人が本件処分のうち非開示部分の取消しを求めるとともに、同部分の開示の義務付けを求めた事案である。

原判決は、控訴人の請求のうち、義務付けを求める部分に係る訴えを却下し、その余の請求(取消請求)を棄却したことから、これを不服とする控訴人が控訴した。

2  滋賀県情報公開条例の定め及び前提事実

原判決の「事実及び理由」欄の第2の1及び2(原判決2頁13行目から5頁4行目まで)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決4頁23行目の「非開示とし」を「それらの部分に係る情報には1号事由及び6号事由があるとして非開示とし」に改める。

3  争点及び争点に対する当事者の主張

原判決の「事実及び理由」欄の第3及び第4(原判決5頁5行目から12頁6行目まで)のとおりであるから、これを引用する。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は、控訴人の各請求のうち、本件処分の非公開部分中の本件要覧の「目次」部分(最初の2行を除く。)及び本文1、2頁の「同和対策地域総合センター一覧表」の「センター名」、「電話」、「郵便番号」(1、3、4及び7行目)及び「所在地」の各欄(以下「本件目次及び一覧表部分」という。)の取消及び公開の義務付けを求める各部分は理由があるが、その余の取消請求は理由がなく、義務付けに係る訴えは不適法であると判断する。その理由は、以下のとおり補正するほかは、原判決が「事実及び理由」欄の第5「当裁判所の判断」の1及び2(原判決12頁8行目から28頁26行目まで)において説示するとおりであるからこれを引用する。

(1)  原判決14頁8行目から9行目にかけての「(オ)センター一覧表」を「(オ)同和対策地域総合センター一覧表(以下「センター一覧表」ともいう。)」に、25頁18行目の「争点(2)(6号事由該当性)について」を「争点(1)(2)について」に改め、19行目を削除し、26頁5行目の「全国に存在する」から6行目の「問題は、」までを「全国に存在する同和地区の数多の関係者が社会的に差別を受けるという問題は、」に改める。

(2)  原判決26頁12行目の「しかるところ」から13行目の「これが」までを以下のとおりに改める。

「 しかも、同(5)イ記載の部落地名総鑑の事件によって明らかになったとおり、同和地区の所在に関する情報は、同和関係者に対する差別のために悪用される場合もあるから、上記のような同和地区やその関係者に対する差別意識がなお残っている現状に鑑みれば、同和地区の所在に関する情報が」

(3)  原判決26頁15行目から16行目にかけての「というべきであり、」から17行目の「その結果、」までを「。しかも、上記の部落地名総鑑の事件当時と異なり、インターネットを通じ、個人であっても容易に瞬時に、多量の情報の発受信が可能な現在では、こうした情報が、一旦流布すれば、その複製が広範囲に拡散する危険性も大きく、その所在を把握することはできなくなり、その消去は事実上不可能になる。また、コンピュータを使用して、同種の情報の集約や流布が容易になり、同和地区の調査が誰にとっても容易となれば、」に改める。

(4)  原判決27頁6行目の「地方公共団体たる被告が」から8行目から9行目にかけての「同様に考えることはできないから、」までを以下のとおりに改める。

「地方公共団体である被控訴人による実際の同和対策事業の施行という裏付けを持つものとして、より高い信憑性を持つものであり、一私人である控訴人が公開している情報や、私人が調査した内容をまとめた出版物である「滋賀の部落」に記載されている情報とは異なる意味合いを持つことは明白である。したがって、」

(5)  原判決27頁14行目から15行目にかけての「、同和地区を利用対象地域とする施設名(同施設名を冠した団体名を含む。)(類型イ)」を「(類型イ)、センターの利用対象地域名(同地域を冠した団体名を含む。)、利用対象地域の位置情報(類型エ)(本件要覧の前記(1)及び本件目次及び一覧表部分以外の非開示部分の記載情報)」に改め、26行目から28頁26行目までを以下のとおりに改める。

「(3) 本件要覧の本件目次及び一覧表部分の記載情報の6号事由及び1号事由該当性

本件目次及び一覧表部分の記載情報も、各センターの名称及び所在地を特定する情報であり、それ自体において又は他の情報を加えることにより、特定の地域が同和地区であることを特定し得る情報であるとはいえる。

しかしながら、上記非開示情報は、少なくともその多くは、それぞれの各センターが所在する市や町において、それぞれそのセンターの設置管理条例が設けられ、条例上、その名称及び所在地が明らかにされており、これらの各条例については、公報による公布がされて既に公開されたほか、各地方自治体の例規集にも登載され、インターネット上からもその閲覧が可能な状態となっている。また、各センター等は、施設の性質上、住民の利用の用に供することを前提としており、その名称、所在、連絡先は住民に周知されるべきもので、各市や町の事業としても、そのようにすることがその事業の趣旨に沿うものというべきである。

そうすると、上記の非公開情報については、それを公開することによって、被控訴人の同和対策事業の適正な遂行に更に支障が生じるとも、また各市町の事業の適正な遂行に支障が生じるともいえないというべきである。

また、上記非開示情報は、いずれも、特定の個人を識別することができるものとはいうことができず、これが公開されることによって、個人の権利利益を害するおそれがあるとまでいうことはできない。また、本件情報公開条例6条1号アにより、条例の規定により公にされ、または公にすることが予定されている情報ということもできる。

このようにみてくると、上記非開示情報は、6号事由にも、1号事由にも、いずれにも該当しないというべきである。

(4)  以上のとおり本件非開示情報のうち、本件目次及び一覧表部分に記載の情報は、1号事由にも6号事由にも該当しないが、その余の部分に係る情報は、いずれも6号事由に該当するものというべきである。」

2  上記のとおり、本件目次及び一覧表部分に記載の情報は、6号事由にも、1号事由にもいずれも該当せず、前記前提事実、前記1の認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件要覧は、本件情報公開条例上の公文書に該当し、被控訴人がこれを保有するものと認められ、同条例4条は、何人も、実施機関(滋賀県知事)に対し、その公開を求めることができると定めていることからすると、本件処分中の本件目次及び一覧表部分に係る部分は違法であって、控訴人の取消請求中のこの部分は理由があり、これを取り消すべきものである。

3  そして、本件情報公開条例4条、6条1号(特にア)、6号その他の各規定に照らすと、実施機関である滋賀県知事は、本件目次及び一覧表部分の非開示部分を公開することを同条例によって義務付けられていることが明らかであると解されるから、行訴法3条6項2号、37条の3第1項2号、5項によって、この部分においては、控訴人の義務付けの請求も理由があるというべきである。

4  まとめ

(1)  以上のとおりであるから、控訴人の請求は、本件目次及び一覧表部分に係る部分の本件処分の取消を求める部分、同部分について滋賀県知事に公開することの義務付けを求める部分は理由がある。上記非開示部分以外のその余の非開示部分については、取消請求は理由がなく、義務付け請求は、行訴法37条の3第1項2号の要件を欠くことになり、結局、同部分に係る訴えは不適法に帰する。

(2)  そうすると、原判決中、上記の判断と異なる本件目次及び一覧表部分に係る部分を上記の趣旨に従って変更することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 田川直之 杉村鎮右)

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