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大阪高等裁判所 平成25年(ウ)426号 決定 2013年10月04日

申立人

株式会社X金融公庫

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

冨田武夫

峰隆之

上記訴訟復代理人弁護士

山畑茂之

相手方

高松労働基準監督署長 Y

主文

一  相手方は、本決定送達の日から二週間以内に、別紙一文書目録記載一、二の各文書(ただし、同目録記載一の文書については、別紙二除外部分目録に記載した部分を除く。)を当裁判所に提出せよ。

二  申立人のその余の申立てを却下する。

理由

第一本件申立て

一  申立人の本件申立ての趣旨及び理由は、別紙「文書提出命令申立書」(写し)記載のとおりである。

二  相手方及び監督官庁の意見は、別紙「文書提出命令の申立に対する意見書」(写し)記載のとおりである。

第二当裁判所の判断

一  基本事件は、a金融公庫の従業員であった亡B(亡B)が自殺した原因は、公庫における過重業務により精神疾患を発症したことにあるとして、亡Bの相続人である基本事件控訴人兼被控訴人C(一審原告C)、同D(一審原告D(母))及び同E(一審原告E(妻))が、同公庫の権利義務を承継した申立人(基本事件控訴人兼被控訴人)に対し、安全配慮義務違反(民法四一五条)又は不法行為(民法七〇九条)に基づき、損害賠償を請求した事案である。

原審は、一審原告らの請求を一部認容し、その余の請求をいずれも棄却する旨の判決をしたところ、双方がこれを不服として控訴した。

二  申立人の本件申立てに係る文書は、別紙一文書目録記載一の文書(本件陳述書)及び同二の文書(本件時系列表)である。本件記録によれば、上記各文書は、いずれも亡Bの妻であった一審原告E(妻)が亡Bの死亡に係る労災保険給付の請求をするに当たって作成し、長崎労働基準監督署長に提出し、亡Bの労災保険支給決定の資料とされた文書であるところ、本件陳述書は、亡Bの生前の様子について一審原告E(妻)が陳述した内容が記載された文書であり、本件時系列表は、亡Bにあった出来事、生前の会社での様子、生前の家庭での様子について一審原告E(妻)が時系列にまとめた文書であり、現在、相手方がこれらを所持していることが認められる。

三  本件陳述書及び本件時系列表の提出義務について、申立人は、民訴法二二〇条四号イないしホのいずれの除外事由にも該当しないから、相手方は同条四号の一般義務に基づいて提出義務がある旨主張するので、以下判断する。

本件陳述書及び本件時系列表は、その文書の趣旨に照らし、同条四号イ、ハないしホの各除外事由に該当しないものと認められる。

次に、同条四号ロの除外事由については、「公務員の職務上の秘密」とは、公務員が職務上知り得た非公知の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるものであり、公務員の所掌事務に属する秘密だけでなく、公務員が職務を遂行する上で知ることができた私人の秘密であって、それが本案事件において公にされることにより、私人との信頼関係が損なわれ、公務の公正かつ円滑な運営に支障を来すこととなるものも含まれると解され、また、「その提出により公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがある」とは、その文書の記載内容からみてそのおそれの存在することが具体的に認められることが必要であると解される(最高裁判所平成一七年(許)第一一号同年一〇月一四日第三小法廷決定・民集五九巻八号二二六五頁)ところ、相手方及び監督官庁の意見は、本件陳述書及び本件時系列表の内容が公にされることにより、公務の公正かつ円滑な遂行に著しい支障を生ずるおそれが具体的に存在するとまではいえないから、個人のプライバシーに関する事項並びに融資先の企業及び個人の秘密に関する事項を除き、民訴法二二〇条四号ロに掲げる文書に該当するものではないというものである。

そこで、当裁判所は、本件陳述書及び本件時系列表が民訴法二二〇条四号ロに該当するかどうかの判断をするため、民訴法二二三条六項に基づき、相手方に上記各文書の提示を命じ、その提示を受けてインカメラ手続を行った。

上記手続により提示された上記各文書を検討したところ、本件陳述書は、一審原告E(妻)が亡Bの生前の私生活における言動や出来事を同一審原告の所感等をも交えて具体的に記述し、亡Bの様子等を撮影した写真なども添付された文書であり、また、本件時系列表は、同一審原告が亡Bの勤務先及び私生活での様子、出来事や同僚の亡Bの勤務状況等に関する発言等を時系列的にまとめて記載した文書である。そうすると、上記各文書の記載事項は、公務員が職務上知り得た非公知の事項に当たり、これらのうち基本事件と直接関連しない亡B及び一審原告E(妻)以外の第三者のプライバシーに関する記載部分は、これが公にされると公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあると認められるので民訴法二二〇条四号ロに該当するが、その余の部分は、その記載内容からみて、これが公にされることにより公共の利益を害し、又は公務の遂行に著しい支障を生ずるおそれがあるとは認められないから民訴法二二〇条四号ロ所定の文書には該当しない。

そして、本件陳述書及び本件時系列表の記載のうち、基本事件と直接関連しない亡B及び一審原告E(妻)以外の第三者のプライバシーに関する記載部分を特定すると、本件陳述書中の別紙二除外部分目録記載の部分がこれに当たるものと認められ、当該部分は本件文書提出命令の対象とならないが、その余の部分は本件文書提出命令の対象となるというべきである。

四  よって、相手方に対し、本件陳述書及び本件時系列表(ただし、本件陳述書については、別紙二除外部分目録に記載した部分を除く。)の提出を命ずることとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金子順一 裁判官 上田卓哉 小池覚子)

別紙一 文書目録

一 基本事件控訴人兼被控訴人E(妻)が作成し、労働基準監督署に提出した陳述書(基本事件の甲一(香川労働者災害補償保険審査官作成の平成二〇年一〇月一〇日付け決定書)で「乙第七〇号証」と表示された文書)

二 基本事件控訴人兼被控訴人E(妻)が作成し、労働基準監督署に提出した時系列表(基本事件の甲一(香川労働者災害補償保険審査官作成の平成二〇年一〇月一〇日付け決定書)で「乙第七一号証」と表示された文書)

別紙二 除外部分目録

一 別紙一文書目録記載一の文書中一八/四五頁一四行目の「マネージャー役の」から同一五行目の「忙しく、」まで

二 同一八/四五頁一七行目の「隣家の」から同二三行目の「はずや」まで

三 同二〇/四五頁二八行目(下から五行目)の「課長は」から同二一/四五頁一行目の「相手にやで。」まで

四 同二二/四五頁二二行目の「遠距離」から同行の「いない」まで

五 同二三/四五頁六行目の「次長の」から同行の「声が」まで

六 同二三/四五頁八行目の「昼間は」から同一二行目の「構わんわ。」まで

七 同二九/四五頁二〇行目の「でも」から同行ないし同二一行目の「みえますよ。」まで

八 同三〇/四五頁一〇行目の「特に」から同一一行目の「らしいで」まで

九 同三〇/四五頁一二行目の「課長も」から同行の「少なそう。」まで

別紙 文書提出命令申立書(写し)<省略>

別紙 文書提出命令の申立てに対する意見書(写し)<省略>

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