大阪高等裁判所 平成25年(ネ)1121号 判決 2013年8月23日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は、別紙物件目録記載の各不動産に係る担保不動産競売申立事件(京都地方裁判所平成23年(ケ)第115号)における債務者兼所有者であった被控訴人が、同事件につき平成24年4月27日付けで作成された配当表(以下「本件配当表」という。)中の控訴人に係る債権額及び配当実施額の変更を求めている事案である。
原審は、被控訴人の本件請求をおおむね認容したことから、これを不服とする控訴人が控訴した。
2 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記3、4のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の「2 前提となる事実」及び「3 争点及び当事者の主張」(原判決2頁15行目から10頁4行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決3頁7行目の「根抵当権を設定した」を「根抵当権の設定を受けた」と改める。
(2) 原判決4頁25行目及び5頁3行目の「前記配当表」を「前件配当表」と、5頁3行目の「原告」を「控訴人」と各改める。
(3) 原判決5頁25行目から6頁2行目までを次の文章に改める。
「 本件競売手続における控訴人債権額の算定(前件競売手続に係る配当金等の受領による控訴人の貸金債権残額の計算)において、前件配当期日である平成22年2月4日に配当留保供託金が法定充当されたものと解すべきか、控訴人が現実に配当留保供託金及び供託利息を受領した平成23年2月3日にこれらが法定充当されたものと解すべきか。」
3 当審における控訴人の補充主張
(1) 大阪高等裁判所昭和53年(ネ)第895号同54年1月30日判決は、「仮差押の場合において、まだ確定しない債権の配当額は供託すべきものとされているが、右供託は弁済のためにする供託ではないから、これによって直ちに債務者が債務を免れるものと解する事はできない。」と判示している。また、同裁判所昭和52年(ネ)第1566号同55年5月28日判決は、競売手続の債務者が提起した配当異議について、やむを得ない事情がある時は配当表提示段階で弁済の提供の効力を認め、配当表提示後の遅延損害金の発生を停止させたものの、弁済による債権消滅の効力までは認めていない。本件においては、被控訴人が配当異議を申し出たことについてやむを得ない事情があるとはいえないから、前件競売手続において配当留保供託がされたことをもって遅延損害金が発生しないことになるとはいえない。
(2) 追加配当を実施する場合に当初の配当期日までの付帯請求のみを認める民事執行実務は、民事執行手続において画一性、安定性、迅速性を確保する観点から採用されているものにすぎない。
4 当審における被控訴人の補充主張
民事執行法84条は、確定した配当表に基づき配当を実施することとしているところ、これには配当表によって配当を受けるべき債権を確定するという趣旨が含まれている。控訴人の補充主張は同条に抵触するもので失当である。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所は、被控訴人の本件請求は理由がないから、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおりである。
2 本件競売手続における控訴人債権額の算定(前件競売手続に係る配当金等の受領による控訴人の貸金債権残額の計算)において、前件配当期日である平成22年2月4日に配当留保供託金が法定充当されたものと解すべきか、控訴人が現実に配当留保供託金及び供託利息を受領した平成23年2月3日にこれらが法定充当されたものと解すべきかについて
(1) 根抵当権を実行した担保権者に対する配当金の交付は、その被担保債権に対する弁済にほかならないのであって(民法369条1項、398条の2)、執行機関がその職責において遂行する不動産競売手続において、不動産売却代金の債権者に対する交付があると実体法上弁済の効果が当然に生じるところ、配当手続における法定充当の効力発生時期については、一応、配当表作成時、配当表確定時、配当金の交付時(弁済供託時も含む。)等が考えられるが、弁済は債務の内容である給付の実現であることを考えると、その実現に至る行為が完了したと目される配当金の交付時(弁済供託時も含む。)と解するのが相当であると思料される(最高裁昭和62年(オ)第893号同年12月18日第二小法廷判決・民集41巻8号1592頁もこの考えを前提としているものと解される。同判例解説参照。)。
なお付言するに、ⅰ配当留保供託(民事執行法91条1項)は執行供託であり、債務を消滅させる効果を有する弁済供託(民法494条。不出頭債権者への供託(民事執行法91条2項)も弁済供託の性質を有する。)とは異なり、債務を消滅させる効力を有しないし、ⅱ民法492条の規定する弁済の提供の解釈としても、配当期日に所有者である被控訴人から配当異議がなされ配当留保供託がなされた以上は、債権者である控訴人は現実に配当金の交付を受けることができないのであるから、遅延損害金の発生を否定することはできないし、ⅲ金銭債務の不履行については不可抗力をもって抗弁とすることができないから(民法419条3項)、配当異議の申出にやむを得ない事情があったかどうかによって遅延損害金の発生が左右されると解することも困難である上、ⅳ民事執行法には、異議等のない破産債権に係る破産債権表の記載につき確定判決と同一の効力を有するものとする破産法124条3項などの規定と同様の規定が置かれていないから、配当期日に異議の申出がなかった場合も、配当表に確定判決と同一の効力が生じるわけではない。
これらの点を考慮すると、配当異議の申出に伴って配当留保供託がされた場合、配当異議の申出にやむを得ない事情があったかどうかを問わず、配当異議の申出があった金銭債務に係る遅延損害金が発生しないことになるものと解することはできないのであって、控訴人が前件競売手続に係る配当留保供託金を受領したことにより前件競売手続に係る配当期日である平成22年2月4日に元金、利息及び同日までに発生した遅延損害金に対して法定充当がされたものと解すべき旨の控訴人の主張は採用することができず、配当留保供託金及び供託利息の受領日である平成23年2月3日に元金、利息及び同日までに発生した遅延損害金に対して法定充当がされたものと解さざるを得ない。
(2) これに対し、被控訴人は、当審において、民事執行法84条には配当表によって配当を受けるべき債権を確定するという趣旨が含まれている旨補充的に主張する。
確かに、執行裁判所の中には、追加配当の場合に当初の配当期日までの付帯請求のみを認める形の追加配当表を作成する実務上の取扱いを採用する裁判所が存在するようである。しかしながら、上記実務上の取扱いは、債権者によって付帯請求に係る遅延損害金率が異なる場合、いつまでの付帯請求を是認する前提で配当表を作成するかによって債権者ごとの按分割合が変化するところ、その按分割合が配当異議の申出がされるかどうかという偶然の事情によって変化するというのでは、配当異議の申出をしなかった債権者にとって不公平な結果が生じ得ることがあり得ることや、そのようなことがないように個別の異議が正当な異議なのかどうかを民事執行手続において審理すべきものと解釈したのでは、配当手続が円滑・迅速に行われない結果、実体法上は遅延損害金が発生し続けるのに、各債権者に対して迅速に配当金を受領することができないという事実上の不利益を負わせ、他方で債務者に債権者らに対する関係で迅速に履行遅滞の状態を解消することができないという事実上の不利益を負わせることになることを考慮し、民事執行法84条1項につき、民事執行手続上は配当期日において示される配当表に従った按分計算をすべきものとしていると解した上、追加配当がされる場合の追加配当表が配当期日で示された配当表と一体になるものであると解することによって、配当異議の申出の有無という偶然の事情によって左右されない配当期日を基準とした按分計算をすべきものとして扱って、主として手続の円滑・迅速を確保することを目的として採用されたものと考えられ、必ずしも前記説示の民法等の解釈を否定する趣旨で採用された実務上の取扱いであるとは考え難い。
したがって、当審における被控訴人の上記補充主張は、採用することができない。
3 前記2の説示を踏まえた配当留保供託金及び供託利息の受領に伴う法定充当後の控訴人の債権額について
証拠(甲1、3、4、乙4)及び弁論の全趣旨によれば、前件競売手続における配当留保供託金及び供託利息を受領した時点において、控訴人の被控訴人に対する残元金が2717万8118円を下ることはなく、本件競売手続における配当期日である平成24年4月27日現在、同残元金が2717万8118円を下ることがなく遅延損害金が675万9189円を下ることがなかったことが認められ、この認定に反する証拠はない。
したがって、被控訴人の債権元本を2717万8118円、遅延損害金を675万9189円と記載して配当実施額等を3393万7307円と記載した上、このうち差引額を3297万0433円と記載した本件配当表の記載は正当なものである。
よって、本件配当表の記載に誤りがある旨の被控訴人の主張は、採用することができない。
4 以上によれば、被控訴人の本件請求は理由がないから、これを棄却すべきである。
よって、これと異なる原判決は失当であり、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消して被控訴人の本件請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 西垣昭利 和久田斉)
(別紙)物件目録<省略>