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大阪高等裁判所 平成25年(ネ)1238号 判決 2013年11月12日

控訴人

同訴訟代理人弁護士

深田愛子

三井円

被控訴人

同代表者法務大臣

同指定代理人

德山浩司<他8名>

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載一の土地につき、昭和五五年九月三〇日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  主位的請求

主文同旨。

二  予備的請求

(1)  原判決を取り消す。

(2)  被控訴人は、別紙物件目録記載一の土地につき、別紙登記目録記載の所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

(3)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、控訴人の父・B(以下「B」という。)が元所有しており、別紙登記目録記載の所有権移転登記(売買を原因とするBから被控訴人(建設省)への所有権移転登記。以下「本件登記」という。)が経由されている別紙物件目録記載一の土地(以下「本件土地」という。)について、Bの相続人である控訴人が、被控訴人に対し、所有権ないし共有持分権に基づき、主位的に時効取得(主位的にはBから承継した占有、予備的には控訴人独自の占有による。)を原因とする所有権移転登記手続を求め、予備的にはBと被控訴人の間の売買契約が無効であると主張して本件登記の抹消登記手続を求める事案である。

原判決が、控訴人の請求をいずれも棄却したため、これを不服とする控訴人が本件控訴をした。

二  前提事実(争いのない事実、後掲の証拠等によって認定できる事実)

(1)  Bは、大阪府泉佐野市○○a丁目所在b番の土地を所有していた。同土地は、昭和二九年一一月一九日、別紙物件目録記載一の土地(本件土地)及び同記載二の土地(以下、「b番一の土地」といい、分筆の前後を通じて本件土地と併せて「本件全体土地」という。)に分筆され、本件土地については、同月一九日、同年一〇月一〇日売買を原因として建設省に対する所有権移転登記(本件登記)が経由されている。

(2)  Bは、昭和二九年一〇月一〇日以降も本件全体土地を田として耕作して占有していた。

(3)  Bは、昭和五五年九月二九日、死亡した。その相続人は、妻Cと、子であるD(以下「D」という。)、E(以下「E」という。)及び控訴人であったが、b番一の土地は、控訴人とDが持分各二分の一として相続した。Dは、平成一四年七月三〇日、死亡した。その相続人は、少なくとも妻Fと、弟である控訴人であった(E又はその子が相続人あるいは代襲相続人であった可能性があるが、記録上、Eの死亡年月日、その子の有無が明らかではない。)が、b番一の土地のD持分は、控訴人が相続した。

(4)  控訴人は、Bの死亡後、本件全体土地を、当初は田として、その後は、平成一五年頃まで畑として耕作するなどして占有していた。

(5)  控訴人は、被控訴人に対し、平成二四年二月二〇日送達の本件訴状によって、本件土地の取得時効を援用するとの意思表示をした。

三  争点及び争点についての当事者の主張

(1)  本件土地は、公用に供されている土地として取得時効の対象とならないか(主位的請求)。

(被控訴人の主張)

二級河川佐野川では、昭和二七年七月の豪雨災害をきっかけに、本件土地を含む大阪府泉佐野市○○付近の土地を買収し、西側の蛇行部分を拡幅・直線化するという災害復旧兼河川改修工事が行われた。本件土地も、後記のとおり、河川改修工事のために買収された土地であるから、河川用地として公共用財産に当たる。そして、公共用財産は取得時効の対象とならないから、本件土地を時効取得したとの控訴人の主張は、失当である。

本件土地につき黙示の公用廃止がされているとの控訴人の主張は争う。

(控訴人の主張)

佐野川は公共用財産ではあるが、本件土地は、佐野川に含まれるものではなく、一度も公共の用に供されたことはないし、国において公共の用に供するものと決定した事実も認められないから、公共用財産ではない。

仮に、本件土地が公共用財産であったとしても、昭和二九年以前も、それ以降も、Bないし控訴人が耕作するなどして占有してきたのであって、一度として公共の用に供されたことはないので、Bないし控訴人の占有によって公の目的が害されることもなく、もはや公共用財産として維持するべき理由もない。したがって、本件土地については、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の対象となる。

(2)  Bの本件土地の占有は、他主占有か(主位的請求の主位的主張)。

(被控訴人の主張)

被控訴人は、昭和二九年一〇月一〇日、Bとの間で、本件土地(本件全体土地のうち後に分筆されて本件土地となる部分)を代金五万〇〇一三円で買い受けるとの契約(以下「本件契約」という。)を締結し、その契約に基づいて本件登記も経由されているから、Bは、本件土地を被控訴人に引き渡すべき義務を負っていたのに、本件土地の占有を継続していた。したがって、その後のBの占有は、不法占有であり、他主占有である。

なお、控訴人の錯誤の主張に対する被控訴人の主張は、後記(4)の被控訴人の主張のとおりである。

(控訴人の主張)

Bが、被控訴人と本件契約を締結したことは否認する。

仮に、Bが本件契約を締結したとしても、その意思表示には、後記(4)の控訴人の主張のとおり、錯誤があり無効である。

(3)  控訴人は、Bを相続した後、独自の本件土地の自主占有を開始したか(主位的請求の予備的主張)。

(控訴人の主張)

Bの占有が他主占有であるとしても、控訴人は、本件土地を含む本件全体土地を全て相続したものと信じて、新たに、独自に、Bが死亡した翌日から、当初は田として、その後は畑として耕作し、自己所有の耕耘機を置いたり、物置小屋を設置したりして占有していた。

なお、控訴人は、本件土地の固定資産税の納税をしていないが、これは、固定資産税の課税通知書に記載されている「○○a丁目b―一」との表示が本件全体土地を指すものと理解し、本件土地の分を含めて納税するつもりで、b番一の土地の固定資産税を納税していたのであるから、控訴人の自主占有を否定する理由とはならない。また、控訴人は、被控訴人に対して本件土地の所有権移転登記手続を求めてはいないが、それは、b番一の土地が本件全体土地のことであり、b番一の土地について相続登記手続をすることによって本件全体土地について相続登記手続をしたものと考え、本件土地の登記記録等を見たことがなく、本件全体土地上にアパートを建設する話が持ち上がった平成二二年頃まで、本件土地が被控訴人(建設省)名義になっていることを知らなかったためであるから、所有者として異常な態度とはいえず、控訴人の自主占有を否定する事情とはいえない。

(被控訴人の主張)

控訴人が、Bの死亡後、本件土地を新たに独自に占有したことは否認する。

本件土地は、Bの死亡の前後を通じて田として耕作されていたのであるから、占有の外形的客観的な態様の変化はない。

控訴人は、b番一の土地が、それと一体となっている本件土地を含むもので、Bの死亡後、それを相続したものと理解していたと主張するが、その主張には根拠がない。また、控訴人は、b番一の土地については、昭和五六年五月一四日及び平成一四年一一月七日の二回、相続登記手続を行っており、その時点においては、本件土地が自己の所有地ではないことを認識していたはずである。しかし、控訴人は、本件土地については、所有名義の変更を求めないまま放置しており、固定資産税の納税もしていない。このように、真の所有者であれば通常とるべき行動にでていないのであって、これらの事情からすると、控訴人の占有が自主占有ということはできない。

(4)  Bと国との売買契約について、Bの錯誤の有無(主位的請求の主位的主張、予備的請求)。

(控訴人の主張)

Bは、昭和二九年当時、本件土地のほかに、別紙物件目録記載三の土地(以下「c番の土地」という。)を所有者から賃借して耕作していた。c番の土地の一部が佐野川の災害復旧兼河川改修工事のために買収されることになったが、被控訴人は、c番の土地の一部を買収する意図で、誤って本件全体土地の分筆手続を行い、本件土地をBから買収するという本件契約を締結し、Bも、c番の土地の耕作権を放棄する契約をする意思で本件契約を締結した。したがって、本件売買契約におけるBの意思表示には、契約内容についての錯誤があるから、無効である。

Bに錯誤について重大な過失があるとの被控訴人の主張は争う。

(被控訴人の主張)

控訴人の主張事実を否認する。

仮に、Bに控訴人主張のような錯誤があったとしても、本件契約の契約書上、対象地が本件土地であることは明らかであるし、Bは、本件土地について、離作や立毛の手続とは別に売買の手続をし、更に離作補償金及び立毛補償金を受領した後、それとは別により多額の売買代金を受け取っている。これらの事情からすると、本件契約が、本件土地の売買ではなく、c番の土地の耕作権を放棄する内容のものと誤信したとしても、その誤信については重大な過失がある。

第三当裁判所の判断

一  本件土地は、公用に供されている土地として取得時効の対象とならないか(争点(1))について

弁論の全趣旨によると、佐野川は二級河川であることが認められるところ、後記(二(1))認定のとおり、被控訴人は、本件土地を「佐野川左右岸府費単独河川超過竝河川災害復旧工事」用地としてBから買い受ける旨の契約を締結したものであるが、その後、被控訴人が、本件土地の引渡しを受け、何らかの河川工事の対象とし、佐野川の河川本体ないし河岸、堤防等として公用を開始し、あるいは公共の用に供する旨の決定をしたことの主張立証はないから(なお、本件土地の登記簿上の地目は、現在も田であるから、河川区域内の土地ではないことがうかがわれる(不動産登記法四三条参照)。)、本件土地が公共の用に供されているとは認められない。

仮に、本件土地について佐野川に関して公用開始がされていたとしても、前提事実のとおり、Bが、本件登記が経由された後も、従前と同様に本件全体土地の耕作を続けており、他方、本件土地が佐野川の河川区域内にあることを認めるに足りる証拠はなく、Bが本件土地の占有を続けることで、佐野川の河川管理に何らかの影響を及ぼしたか、及ぼす可能性があったこともうかがえないのであるから、遅くとも昭和五五年九月三〇日までには黙示的に公用が廃止されたと認めるのが相当である。

したがって、いずれにしても被控訴人の主張は理由がない。

二  Bの本件土地の占有は、他主占有か(争点(2))について

(1)ア  証拠(乙三、乙一〇ないし一三)によると、Bは、被控訴人(河川管理者である大阪府知事)との間で、昭和二九年一〇月一〇日、本件土地を「佐野川左右岸府費単独河川超過竝河川災害復旧工事」用地として代金五万〇〇一三円で売り渡すとの契約(本件契約)を締結するとともに、それに先だって、同月六日、前記工事のために八一四二円の補償金で同月八日までに本件土地での耕作をやめる(離作する)ことを約する旨の「地上物件離作承諾書」、九三〇五円の補償金で同日までに本件土地の稲の「立毛」をすることを約する旨の「地上物件立毛承諾書」を差し入れ、同日、離作及び「立毛」が完了したとして、各補償金を請求していることが認められる。

イ  控訴人は、本件契約の締結の事実を争い、本件契約に係る「土地売渡契約書」(乙三)、上記の「地上物件離作承諾書」(乙一〇)、「地上物件立毛承諾書」(乙一一)及び各補償金の「請求書」(乙一二、一三)が真正に成立したものであることを否認している。

確かに、「土地売渡契約書」(乙三)は、売主が大阪府知事に差し入れる形式のものであるが、その作成者としては「B1」名義の署名があるものの、Bが、「B1」という名前を使っていたとの証拠はなく、署名の際に自己の氏名を誤ることは通常考えられないから、乙三の「B1」との署名はBが自署したものとは認められない。また、その名下の印影も判読は困難であって、書面自体からはBの印章によって顕出されたものと認めるに足りる証拠もない。

また、乙一〇(地上物件離作承諾書)は、「B1」名義の署名の「○」を線を引いて抹消し、その横に別の筆記具で「◎」と記載されており(当初の署名者とは別人によって訂正されたものと推認することができる。)、乙一一(地上物件立毛承諾書)、一二及び一三(いずれも請求書)は、「B」名義の署名があるものの、その「◎」の字は、他の何らかの文字の上に、別の筆記具で記載されており(いずれも後に当初の署名者とは別人によって訂正されたものと推認することができる。)、乙三と同様にBが自署したものとは認められないし、印影がBの印章によって顕出されたものと認めるに足りる証拠もない。

しかし、被控訴人は、昭和二九年当時、「佐野川左右岸府費単独河川超過竝河川災害復旧工事」のため、本件土地付近の多数の土地を買収し、それに伴って多数の離作補償、立毛補償を行っており、本件土地もその一部として買収、離作補償及び立毛補償の対象となったものであり、他の土地の買収の効力、代金や補償金の支払の有無等について紛争が生じたこともうかがわれないところ、本件土地に限って、Bの意思によらずに契約書等を偽造して買収の手続を進めなければならなかった事情もうかがえない。また、本件登記が経由されているところ、その登記手続のためにはBの協力が必要であったし(当時の不動産登記法施行細則四二条一項)、乙三、乙一〇ないし一三に記載された「B1」あるいは「B」の住所「泉佐野市○○d番地」は、その当時のBの住所であって、大阪府は、昭和二九年一二月八日、本件土地の買収代金を「泉佐野市○○d B1」に支払う手続をとっており、同所の住民に実際の本件土地代金が支払われたと推認できる。以上からすると、乙三、乙一〇ないし一三のBの氏名(「B1」を含む。)は、Bの意思に基づいて何人かがBに代わって代書したものと推認でき、アの事実を認めることができる。

(2)  上記認定事実によると、Bは、本件土地を被控訴人に売却し、被控訴人(建設省)への所有権移転登記も経由し、その所有権を喪失し、本件土地を被控訴人に引き渡すべき義務を負っていたのであるから、少なくとも本件登記が経由された後の占有は、権原の性質上所有の意思のないもの(他主占有)というべきである。

なお、控訴人は、本件契約は、控訴人(及び被控訴人)に契約内容についての錯誤があるから無効である旨主張するが、Bが被控訴人に本件土地を売却する旨の契約を締結し、本件登記も経由したことによって、所有権という占有権原を失い、その後の占有は、占有権原のないものとして、性質上他主占有となったとの判断は、売買契約に基づいて目的物の引渡しを受けた者の占有が錯誤等の理由で当該売買契約の効力が否定されても権原の性質上自主占有とされることと同様、売買契約の私法上の効力の有無によって左右されるものではない。

そうすると、Bの占有の承継を主張する主位的請求の主位的主張は、理由がない。

三  控訴人は、Bを相続した後、独自の本件土地の自主占有を開始したか(争点(3))。

(1)  前記前提となる事実のほか、証拠<省略>によると、次の事実を認定することができる。

Bは、昭和二九年一〇月以前から、本件全体土地から徒歩で約一〇分のところに所在する泉佐野市○○d番地の自宅に居住し、自宅から本件全体土地に赴いて田として耕作していた。控訴人は、Bと同居していたが、昭和三八年頃、上記自宅を出て同市○○町e丁目に居住するようになり、収穫期などに本件全体土地での農作業を手伝うことはあったが、Bが主となって稲作をしていた。

Bが昭和五五年九月二九日に死亡した当時、控訴人は、自動車整備工の仕事をしていたが、Bの死亡の翌日以降、本件契約がされたことを知らないまま、本件全体土地が相続財産であると信じて、本件全体土地で稲作(収穫後はたまねぎの栽培)を行っており、田植や稲刈りについて親族の協力を得たほかは、出勤の前後や休日に本件全体土地に赴き、単独で作業に当たっていた。

控訴人は、昭和六〇年、○○町e丁目から本件全体土地により近い肩書住所地に転居し、二〇年か二五年前、本件全体土地を、Eの手伝いを受けて、一人で田から畑に転換し、その後は、地上に耕耘機を置いたり、物置を設置したりして、各種の野菜を栽培していたが、平成一五年頃、本件全体土地での野菜の栽培をやめた。

Bや控訴人が上記のように本件土地を使用していることについて被控訴人が異議を述べたことはなく、控訴人は、平成二二年頃、業者から本件全体土地にアパートを建築することを持ちかけられたが、業者との話を進める中で、業者から本件全体土地が本件土地とb番一の土地に分かれており、本件土地は被控訴人(建設省)が所有名義人であることを教えられて、これらの事実を知った。

b番一の土地については、昭和五六年五月一四日、昭和五五年九月二九日相続を原因とするD及び控訴人への所有権移転登記が、平成一四年一一月七日、同年七月三〇日相続を原因とする控訴人へのD持分の持分全部移転登記がそれぞれ経由されている。

b番一の土地の平成二四年度の固定資産税額及び都市計画税額は合計八五円であり、近隣の地積五四二m2の田(泉佐野市○○a丁目f番)のこれらの税額は合計一三六三円である。

(2)  相続人が、被相続人の死亡により、相続財産の占有を承継したばかりでなく、新たに相続財産を事実上支配することによって占有を開始し、その占有に所有の意思があるとみられる場合においては、被相続人の占有が所有の意思のないものであったときでも、相続人は、所有の意思をもって占有を始めたものというべきである(最高裁昭和四四年(オ)第一二七〇号同四六年一一月三〇日第三小法廷判決・民集二五巻八号一四三七頁参照)が、前記認定の事実によると、控訴人は、本件土地について、Bの相続人として、Bの占有を観念的に承継したのみならず、B死亡後、新たに自ら田として耕作するなどして現実に占有を開始しており、その占有は、外形的客観的に見て独自の所有の意思に基づくものと認められるから、控訴人が本件土地の占有を開始した昭和五五年九月三〇日から二〇年の経過により取得時効が完成したものと認めるのが相当である。

(3)  被控訴人は、①Bの死亡の前後で本件土地の占有の外形的客観的な態様の変更は認められない、②控訴人は、b番一の土地の相続登記を行った時点で本件土地の存在を認識していたはずであるのに、本件土地について控訴人への所有権移転登記を求めておらず、また、本件土地(三八三m2)とb番一の土地(四二m2)の地積の差は明確であり、控訴人が本件土地の分を含むものとしてb番一の土地の固定資産税及び都市計画税を支払っていると考えていたことはあり得ないのに、本件土地の固定資産税の納税を申し出ておらず、所有者であれば通常とるべき行動に出ていないから、控訴人が外形的客観的に見て独自の所有の意思に基づいて本件土地を占有していたとは認められない旨主張する。

①については、確かに、他主占有者である被相続人の相続人につきその独自の占有に基づく取得時効が認められるためには、相続人が相続をきっかけに現実に占有(事実的な支配)を開始する必要があり、かつその現実の占有は外形的客観的にみて独自の所有の意思に基づくものと認められるものであることが必要である。しかし、他主占有者である被相続人が真の所有者と比べて全く欠けるところのない振る舞いをしていたような場合には、仮に相続人に所有の意思があったとしても、その占有の態様が被相続人の従前のそれから変更されることは期待し難いところ、そのような場合にまで一律に相続人の独自の占有に関して所有の意思を否定するのは相当でないから、相続人の占有の態様が被相続人の占有の態様から変更されることまでは必要としないと解するのが相当である。

また、②については、前記認定のとおり、控訴人は、平成二二年頃まで、本件全体土地が本件土地とb番一の土地に分筆されており、本件土地については被控訴人(建設省)名義で登記がされていることを知らなかったのであるから、控訴人が、被控訴人に対し、本件土地の所有権移転登記手続や固定資産税等の負担を申し出なかった(なお、そもそも本件土地は被控訴人の所有名義であったから、固定資産税等は課税されていない。)ことが、真の所有者であれが通常出るべき行動に出ていないと評価することはできず、これによって控訴人が独自の所有の意思に基づいて本件土地を占有していたとの認定判断は左右されない(なお、相続登記手続の際に、b番一の土地の面積が実際に占有している本件全体土地の面積に比べ著しく少ないことや、b番一の土地の固定資産税等の税額が近隣の同様の土地に比べて著しく低額であることから、控訴人が占有する本件全体土地が、b番一の土地以外の土地も含むことを知り得たとしても、そのような事情は過失を基礎づける事情とはなっても、控訴人が所有の意思に基づいて占有しているとの認定判断を動かすものではない。)。

四  そうすると、控訴人の請求のうち主位的請求の予備的主張は理由があるから認容すべきところ、これを棄却した原判決は失当であって、本件控訴は理由がある。

よって、原判決を取り消し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上敏 裁判官 池田光宏 山田兼司)

別紙 物件目録<省略>

別紙 登記目録<省略>

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