大阪高等裁判所 平成25年(ネ)1791号 判決 2015年3月26日
控訴人兼附帯被控訴人
株式会社Y1(以下「控訴人新聞社」という。)
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
村田敏行
中川郁子
荒牧潤一
正木大輔
上記村田訴訟復代理人弁護士
東口良司
控訴人兼附帯被控訴人
Z社ことY2(以下「控訴人Y2」という。)
同訴訟代理人弁護士
澤田孝
中川朋子
山本菜穂子
被控訴人兼附帯控訴人
X1株式会社(以下「被控訴人X1社」という。)
同代表者代表取締役
B
被控訴人兼附帯控訴人
X2(以下「被控訴人X2」という。)
被控訴人兼附帯控訴人
有限会社X3(以下「被控訴人X3社」という。)
同代表者代表取締役
X2
上記3名訴訟代理人弁護士
坂元和夫
主文
1 控訴人新聞社の控訴に基づき,原判決中,控訴人新聞社の敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの控訴人新聞社に対する請求をいずれも棄却する。
3 控訴人Y2の被控訴人X1社及び同X2に対する控訴並びに被控訴人X3社の控訴人Y2に対する附帯控訴に基づき,原判決中,控訴人Y2に係る部分を以下のとおり変更する。
(1)控訴人Y2は,被控訴人X1社に対し金440万円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)控訴人Y2は,被控訴人X2に対し金66万円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)控訴人Y2は,被控訴人X3社に対し金165万円及びこれに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)被控訴人らの控訴人Y2に対するその余の請求をいずれも棄却する。
4 控訴人Y2の被控訴人X3社に対する控訴,被控訴人X1社及び同X2の附帯控訴をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,控訴人新聞社と被控訴人らとの関係では,第1,2審とも被控訴人らの負担とし,控訴人Y2と被控訴人らとの関係では,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を控訴人Y2の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。
6 この判決は,第3項(1)ないし(3)に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 当事者の求める裁判
1 控訴の趣旨
(1)原判決中控訴人ら敗訴部分をいずれも取り消す。
(2)被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
2 附帯控訴の趣旨
(1)原判決を以下のとおり変更する。
(2)控訴人らは,連帯して,被控訴人X1社に対して1405万6090円,被控訴人X2に対して166万5400円,被控訴人X3社に対して847万4400円及びこれらに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件について
本件は,被控訴人らが,その取り扱う商品である西陣織の袋帯に関し,控訴人新聞社が発行する日刊紙に,虚偽の事実を含む記事が掲載され,同記事を見た取引先から当該商品の取引を停止されることによって損害を被ったとして,民法719条1項,709条に基づき,新聞発行者である控訴人新聞社及び当該記事につき取材を受けた控訴人Y2に対し,被控訴人らがそれぞれの損害額及びこれらに対する不法行為の後である平成23年5月31日(記事の掲載日)から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
2 本件控訴及び本件附帯控訴に至る経緯並びに当審における請求の拡張と減縮
(1)原審における被控訴人らの請求は,控訴人らに対して以下の各金員及びこれらに対する平成23年5月31日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めたものである。
ア 被控訴人X1社 729万1223円
イ 被控訴人X2 157万7000円
ウ 被控訴人X3社 254万円
(2)原判決は,被控訴人らにつき,以下の各金員及びこれらに対する上記遅延損害金の支払を求める限度でその請求を認容し,被控訴人らのその余の請求をいずれも棄却した。
ア 被控訴人X1社 679万1233円
イ 被控訴人X2 107万7000円
ウ 被控訴人X3社 154万円
(3)原判決に対しては,控訴人らが控訴を,被控訴人らが附帯控訴をそれぞれ提起した。
(4)その後の請求の拡張又は減縮に伴い,本件口頭弁論終結時における被控訴人らの請求は,以下の各金員及びこれらに対する前記(1)の遅延損害金の支払を求めるものとなった。
ア 被控訴人X1社 1405万6090円(平成26年7月7日付け準備書面による減縮後の金額)
イ 被控訴人X2 166万5400円(平成25年11月28日付け準備書面による減縮後の金額)
ウ 被控訴人X3社 847万4400円(上記イの準備書面による拡張後の金額)
3 前提事実
以下の事実は,争いがない事実又は掲記の証拠によって容易に認定できる前提事実である。
(1)当事者等
ア 被控訴人X1社は,西陣織帯の製造販売を業とする会社であり,西陣織工業組合(以下「本件組合」という。)の組合員である。
イ 被控訴人X2及び同X3社は,ともに西陣織帯の販売を業とする産地問屋であり,被控訴人X1社の商品を扱っている。
ウ 株式会社D(以下「D社」という。)は,東京に本社を置き,全国に百店舗以上を有するわが国で最大手の呉服商品の販売業者である。株式会社E(以下「E社」という。)は,京都の中堅卸問屋であり,D社に呉服商品を卸している。
エ 控訴人Y2は,帯等の卸販売を業とする産地問屋であるが,本件組合の組合員ではない。控訴人Y2は,平成23年2月頃から,被控訴人X1社の商品を取り扱うようになった。
オ 本件組合は,京都市内西陣地区の絹織物の製造業者が設立した団体であり,絹織からなる長着,羽織,帯,ネクタイ等の商品を指定商品とする「西陣織」という登録商標を有している(甲32の1・2)。したがって,帯に西陣織という商標を付して取引をすることができるのは,本件組合の組合員だけである(甲25)。
カ 控訴人新聞社は,京都府と滋賀県の住民を主たる購読者とする地方紙「Y1新聞」の発行者であり,原判決言渡後の平成26年4月1日,現在の商号に商号変更した。
(2)被控訴人X1社の商品
ア 被控訴人X1社は,次の五つの銘柄の袋帯を製造している。
① 羽衣(大きな鳳凰の絵柄が入った地模様帯)
② 喜寿(大きな鶴の絵柄が入った地模様帯)
③ 倭文(しどり)(羽衣から鳳凰の絵柄を抜いた帯)
④ 倭文喜寿(喜寿から鶴の絵柄を抜いた帯)
⑤ 西コレ(西陣織物コレクションと呼ばれる帯)
(以下,①と②を「羽衣シリーズ」,③ないし⑤を「倭文シリーズ」といい,これらを併せて「本件袋帯」という。)
イ 羽衣シリーズは,被控訴人X1社が,D社及びE社(以下,この両者を併せて「D社ら」という。)と協議を行い,D社の展示会で販売することを前提に開発したものである。商品の流れは,被控訴人X1社から被控訴人X2及び同X3社を経て,D社らの順で動くというものであった。
ウ 一方,倭文シリーズは,そのような流通経路の制限のない商品である。
(3)被控訴人X1社の控訴人Y2への贈答用の本件袋帯の納品
被控訴人X1社は,平成23年4月26日から28日にかけて,控訴人Y2から,京都府議会議長(以下「府議会議長」という。)に西陣織の帯地で作ったテーブルセンターとサイドボード上掛けを寄贈し,同議長夫人にも袋帯1点を贈与したいので,協力してほしいと求められ,これに応じた。被控訴人X1社は,同月26日,サイドボード上掛け用に,羽衣の布地を無償で控訴人Y2に届けた。また,羽衣の袋帯を2万5000円で,羽衣と同じ布地で作ったテーブルセンター(以下「本件テーブルセンター」という。)を1万5000円で控訴人Y2に販売し,同年5月10日午前中に控訴人Y2に届けた。
(4)控訴人Y2への控訴人新聞社記者による取材
控訴人Y2は,同月9日,控訴人新聞社に対し,取材を依頼した。
これを受け,控訴人新聞社のH記者(以下「H記者」という。)は,翌10日午後,控訴人Y2の自宅を訪問し,同控訴人を取材した(以下「本件取材」という。)。
(5)控訴人新聞社による記事の掲載控訴人新聞社は,本件取材に基づき,平成23年5月31日付けY1新聞の朝刊23頁「地域」面に,別紙のとおりの記事(以下「本件記事」という。)を掲載した(甲1,29)。
(6)本件記事掲載後の状況
ア D社は,平成23年5月31日,本件記事を見て,E社と相談の上,被控訴人X1社の商品である羽衣シリーズの取扱いを停止することを決めた(以下「本件取引停止」という。)。
イ 被控訴人ら訴訟代理人(以下「坂元弁護士」という。)は,被控訴人X1社の代理人として,平成23年6月3日付け書面(甲3)を控訴人新聞社に送付し,本件記事で紹介されている帯地は,被控訴人X1社が開発製造したものであり,本件記事は事実と異なる旨及び同被控訴人がこれらの商品を納入している小売業者から取引の停止を申し入れられて損害を被った旨を伝えて抗議した。
ウ 控訴人新聞社は,同月17日付け紙面に,「おわび 『極細絹糸で帯軽~く』の記事で,この商品を開発,製造したのは『Z社』ではなく,X1社株式会社(京都市北区)でした。」と記載した訂正記事(甲4の2)を掲載した。
4 争点
(1)控訴人Y2の不法行為の成否(争点1)
ア 被控訴人らの主張
(ア)控訴人Y2は,平成23年4月26ないし28日,被控訴人X1社に対し,「府議会議長に,議長室のサイドボードと机のテーブルセンターとして本件袋帯を2本寄贈し,同議長の夫人にも本件袋帯1本を寄贈すること,また,これに関して新聞社の取材を受けること」について許諾を求めた。
被控訴人X1社はこれを許諾し,控訴人Y2に羽衣2本を販売し,1本を無償譲渡した。
(イ)ところが,控訴人Y2は,自らを斬新な新商品を開発した作家的な帯製造者として演出し,これを京都・滋賀地区において読者の大きな信頼を得ているY1新聞の記事にさせることを意図して,控訴人新聞社に取材を要請し,同控訴人のH記者に対し,羽衣を示しつつ,本件袋帯を自分が開発製造したとの虚偽の説明をした。
(ウ)これは,高級帯である本件袋帯について,故意にその製造者を偽り,被控訴人らと取引先との関係に不都合を来たし,ついには本件取引停止を生じさせて被控訴人らに損害を与えた行為であるから,不法行為に当たる。
イ 控訴人Y2の認否及び反論
(ア)被控訴人の主張を争う。
(イ)控訴人Y2は,平成23年3月31日,被控訴人X1社に対し,本件袋帯に屋久杉を織り込むアイデアを提案するとともに,これを控訴人Y2が開発製造した帯として販売したい,その旨新聞社の取材を受けたいと提案した。被控訴人X1社は,同年4月6日,売上げが減少していた本件袋帯の新たな販路を拡大するために,倭文シリーズを控訴人Y2が開発製造した帯として販売することを許諾した。被控訴人X1社は,本件袋帯のような高級品の場合,商品を不特定多数人に宣伝することは逆効果である旨主張するが,同被控訴人自身,小売価格30万円を超える商品をインターネットで格安販売し,しかも,小売価格と格安の販売価格とを併記し,割安感を高める販売方法に出ている。
控訴人Y2が同年4月25日,被控訴人X1社に対し,「府議会議長に西陣織の帯地で作ったテーブルセンターとサイドボード上掛けを寄贈し,同議長夫人にも袋帯1点を贈与したい」と伝えて協力を要請したところ,同被控訴人は羽衣を持参した。控訴人Y2は,被控訴人X1社の商品について,倭文シリーズである倭文,倭文喜寿及び西コレの3銘柄しか認識しておらず,羽衣シリーズが存在することを知らなかった。ところが,被控訴人X1社は,控訴人Y2に対し,本件袋帯には倭文シリーズとは別に羽衣シリーズが存し,同シリーズはD社向けの商品であり,販路が制限されていることを伝えなかった。そのため,控訴人Y2は,本件取材の際,羽衣を手に取って,これが倭文シリーズと異なることに気付かないまま,被控訴人X1社の前記許諾に基づき,自分が開発製造した帯であるとH記者に説明した。
なお,控訴人Y2は,本件記事が掲載された平成23年5月31日,被控訴人X1社専務取締役であるC(以下「C専務」という。)に対し,本件記事の掲載について「大きく載せてもらいましたよ。」と電話をした。これは,控訴人Y2が被控訴人X1社の前記許諾に従って販売促進のために新聞発表を行い,それが予想以上に大きく取り上げられたことから,同被控訴人は当然に喜んでくれるはずであると思って電話をしたものであり,仮に,控訴人Y2が被控訴人X1社に無断で新聞発表をしたのであれば,このような電話をするはずがない。
(ウ)以上のとおり,控訴人Y2が本件取材の際に本件袋帯を開発製造したのは自分であると説明
したのは,被控訴人X1社の許諾に基づくものであるから,何ら不法行為には当たらない。
(エ)また,本件記事が別紙のとおりの内容となった経緯は,以下のとおりであるから,控訴人Y2には過失はない。
a 控訴人Y2が本件組合に属していないのに本件記事に「西陣織メーカー」と紹介されたのは,H記者から,肩書は「西陣織メーカー」でいいかと聞かれたので,「それで結構です」と答えたことによる。また,控訴人Y2は,被控訴人X1社から,倭文シリーズについて開発製造業者を名乗ることについて許諾を受けていた以上,西陣織メーカーと名乗ることには何ら問題がない。
b 「小石丸糸を使うことで軽量化につなげた」と本件記事に掲載された経緯は,次のとおりである。すなわち,控訴人Y2は,平成23年3月31日,C専務との商談の際,同人から,羽衣シリーズは小石丸糸を使って軽量化しているが,取材の際には小石丸糸使用の件は出すなと言われたので,H記者には,細くて軽い糸を使っているとのみ説明した。ところが,H記者が,被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)に目をとめたため,「小石丸糸を使うことで軽量化につなげた」と本件記事に掲載されてしまったのである。
c 「小石丸糸は軽くて丈夫」と掲載された理由は,これまでの商売の中で,小石丸糸は細くて丈夫という知識を持っていた控訴人Y2が,そのように説明したことによるものである。そして,小石丸糸が軽くて丈夫であることは事実であるから(乙16,17),控訴人Y2の説明に虚偽はない。
d 「5年以上の取組により軽量化実現」と掲載された理由は,控訴人Y2が,袋帯に屋久杉を織り込むアイデアについて5年以上温めていたと説明したところ,H記者が誤解したため,このような記事になったものである。
ウ 控訴人Y2の主張に対する被控訴人らの認否及び反論
控訴人Y2の主張を争う。
高級品の買い手は,商品が人目に触れれば触れるほど購買意欲を失うから,本件袋帯のような高級品の場合は,商品を不特定多数人に宣伝することは逆効果である。したがって,被控訴人X1社が,控訴人Y2に対し,そのような記事に許諾を与えることはあり得ない。また,被控訴人X1社が控訴人Y2のような零細業者に対し,OEM販売を依頼するはずがないから,同控訴人が本件袋帯を開発製造したなどとする取材要請を許諾するはずもない。被控訴人X1社が許諾したのは,あくまでも控訴人Y2が府議会議長に対して本件テーブルセンター等を寄贈する件についての取材要請に対してのみである。
(2)控訴人新聞社の不法行為の成否(争点2)
ア 被控訴人らの主張
(ア)本件記事は,控訴人Y2の控訴人新聞社に対する取材要請に基づくものであるところ,このように新聞社が,業者から宣伝目的で取材を依頼された場合,業者は営利目的で新聞という媒体を利用する意図があることが明らかであるから,新聞社としては,その説明を鵜呑みにせず,説明の真偽や真の意図を警戒すべき業務上の注意義務があるというべきである。そして,産業界では,誰もが新商品の開発製造に腐心していること及び新聞は社会に対して絶大な影響力があることを考えると,新聞社などの報道機関は,業者から新商品を開発したという取材要請を受けた場合,開発製造したのが本当にその業者であるのか,また,当該商品が果たして新商品であるのかを調査すべき高度の注意義務があるというべきである。
(イ)ところで,西陣織は,本件組合が管理する登録商標であって,これを標榜することが許されるのは組合員に限られることは,業界において常識,周知の事実であるから,控訴人Y2のような本件組合に属しない業者が持ち込んだ情報の信用性には,問題があると考えるのが常識である。したがって,H記者としては,最低限,控訴人Y2が組合員であるかどうかを照会すべきであった。
また,本件袋帯には,西陣織であれば必ず貼付されている西陣織証紙が添付されておらず,他方,貼付されていた品質表示票には被控訴人X1社の名前が記されていたのであるから,H記者は,これらを確認することによって,控訴人Y2の説明に疑問を抱くべきであった。
また,控訴人Y2は,本件袋帯を三層織構造にし,小石丸糸を使用して軽量化を実現したことを自分の新工夫として強調したが,本件袋帯が軽量であるのは,粗い織り方を三層織でカバーしているからであって,小石丸糸を使用しているからではないし,三層織は一般に知られている技法であって,特段目新しいものではない。H記者が帯の重さについて本件組合に電話で尋ねた際に,軽量化の原因についても聞いていれば,控訴人Y2の説明の間違いに気付いたはずである。
(ウ)ところが,H記者は控訴人Y2の説明を鵜呑みにし,控訴人新聞社の編集部も必要なチェックを怠った結果,本件袋帯が控訴人Y2の開発製造した商品であるという同控訴人の虚偽の説明を疑うことなく,本件記事として掲載したものである。したがって,控訴人新聞社は,新聞社に課せられている高度な注意義務に違反した過失がある。
イ 控訴人新聞社の認否及び反論
(ア)被控訴人らの主張を争う。
(イ)本件記事は,明るい社会の話題といった内容の記事である。このような記事の場合,取材相手が一応専門家である場合には,当該人物の意見に逐一裏付けを取る必要はない。この種の問題は,それが重大でない限りは,取材相手であるその道の専門家の言葉を信じるのが通常である。
また,新商品の販売促進を意図した取材要請をしてくる人物が当該商品の販売権限を持っていないことはあり得ないから,新聞社が,取材相手に販売権限があることを逐一疑い,裏付けを取ることまでは求められていないというべきである。
したがって,仮に本件記事に誤りがあるとしても,控訴人新聞社に過失はない。
(ウ)そもそも,西陣織メーカーとは,例えば,中華料理店などと同様の業種表示にすぎないから,控訴人新聞社が,控訴人Y2を西陣織メーカーと記載したことについては過失がない。また,小石丸糸が極細の丈夫な糸であることも誤りではない。さらに,被控訴人X1社自身,販売用パンフレット(乙1,2)に,本件袋帯は小石丸糸という日本古来の絹糸で織られていると記載し,皇后陛下の写真を使っており,あたかも小石丸糸を用いた織物のように強調している。
したがって,本件記事のこれらの点に関する記載は虚偽とはいえない。
(3)控訴人らの不法行為と被控訴人らの損害との間の相当因果関係(争点3)
ア 被控訴人らの主張
(ア)E社は,平成23年5月31日,仕入れ先からの通報により本件記事を知り,D社と善後策を協議し,その日のうちに本件取引停止を決定した。これは,羽衣シリーズに被控訴人X1社の保証書を添付して購入客に手渡していたD社が,本件記事に触れた顧客から,D社が製造者を偽って販売しているのではないかという不信感を抱かれることをおそれたことによる。また,E社は,控訴人Y2が本件袋帯の開発製造者と名乗ることに被控訴人X1社が許諾を与えたのではないかと疑っているようでもあった。
(イ)本件袋帯のような商品の売れ行きは,多分に販売業者の販売力と販売の仕方に関わっているため,D社から本件取引停止を受けた被控訴人らの損害は大きく,被控訴人らは,それ以降,本件袋帯の販売によって得られるべき利益を喪失した。
被控訴人X1社は,羽衣シリーズのみについて
本件取引停止になったものの,E社から疑いの目で見られた結果,展示会だけでなく,D社のファミリーセール向けの別の商品の取引も止められたため,D社関連の売上げが皆無になった。
(ウ)以上のとおり,被控訴人らは,控訴人らの不法行為の結果,本件取引停止を受け,後記の損害を被ったのであるから,控訴人らの不法行為と被控訴人らの損害との間には相当因果関係が存する。
イ 被控訴人らの主張に対する控訴人新聞社の認否及び反論
(ア)被控訴人らの主張を争う。
(イ)本件取引停止をしたD社らにとっては,Y1新聞に掲載された本件袋帯の製造者に関する誤りなどは,どうでもいい問題であったと考えられる。その理由は,①D社の展示会において,被控訴人X1社レベルの弱小メーカーの名前を基準に商品選定をする顧客はおらず,顧客にとって重要なのは日本一の小売店であるD社であること,②被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)にも,同被控訴人に関する記載は一か所もないこと,③展示会のスケジュール表(甲6,47,48)を見ると,D社の展示会の開催は,大阪の1箇所を除き,Y1新聞の読者の大部分が居住する京都・滋賀地区を含め,関西地区での開催は皆無であるから,羽衣シリーズを購入した客が本件記事を見る可能性は極めて低いことに照らし明らかである。
(ウ)むしろ,D社が本件取引停止をした理由は,以下のとおり,小石丸糸を使用して製造したという羽衣シリーズに関する誇大広告,暴利行為が,本件記事を契機として明らかになることをおそれたからであると考えられる。
すなわち,本件袋帯は,甲36によればその製造原価が7373円にすぎないのに,展示会では,1本30万円以上もの小売価格で超高級品として販売されていたのであるから,暴利行為に当たる。また,D社の羽衣シリーズの企画指示内容は,帯の垂れ部分に「小石丸糸使用」と織り込んで表示された帯を,展示会に小石丸糸コーナーを設けて販売するというものであり,被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)にも,小石丸糸使用,皇后様ゆかりの糸などと記載されている。ところが,実際に使用されている小石丸糸は,織物の緯糸(よこ糸)1本の4分の1にすぎず,全体の重さの約3%であることを被控訴人らも自認している。以上のように,被控訴人らは,羽衣シリーズを「被控訴人X1社が開発した小石丸糸使用の軽量羽衣帯」として宣伝しておきながら,実際は小石丸糸をほとんど使わずに,一般の帯としては軽い21デニールの糸を使い,ガーゼのような目の粗い織り方にするというテクニックで軽量化を図ることによって,一般消費者の目を欺いて販売をしていた。このような商法は,不当景品類及び不当表示防止法(以下「景表法」という。)4条1項1号が禁止するいわゆる優良誤認表示に該当する。
本件組合は,小石丸糸の不当表示を問題視し,袋帯に数グラムしか使用しない不当表示については警告等の厳しい指導を行ってきており,平成22年2月26日,被控訴人X1社と面談し,今後小石丸糸使用の織り込み表示を中止し,在庫がある場合はその表示を抜き,品質表示欄に「絹の一部小石丸糸使用」と記載するだけに止めることを約束させた。それにもかかわらず,被控訴人ら及びD社らは,その後も1年以上にわたって本件組合との上記約束を守らず,本件袋帯の垂れ部分に小石丸糸使用という織り込みを入れて展示会販売を続け,危ない橋を渡り続けていたものと推測される。ところが,小石丸糸使用を前面に出した本件記事が予想外に掲載されてしまったため,D社は,本件組合との合意違反の事実及び景表法違反・暴利行為の商法が明らかになることを防ぐために,本件取引停止をしたものと考えられる。このことは,控訴人新聞社が本件記事を掲載したことにつき,過失があろうとなかろうと,その結果が左右されるものではない。また,E社の上記対応は,同社がD社に対して異常な追従反応をしたことによるものであって,取引先として通常考えられるような合理的対応ではない。
(エ)また,被控訴人X1社は,羽衣シリーズの類似品をかなり無神経に販売しており,D社の競業者であるG社に対してすら羽衣シリーズを販売している。被控訴人らとD社との信頼関係破壊は,本件だけが原因ではないというべきである。
(オ)したがって,仮に控訴人新聞社が,本件袋帯の開発製造者を誤認し本件記事を掲載したことにつき過失が認められるとしても,それと,本件取引停止とは無関係であるから,控訴人新聞社の不法行為と本件取引停止との間には相当因果関係がない。
ウ 控訴人Y2の認否及び反論
(ア)被控訴人らの主張を争う。
(イ)本件取引停止の真の理由は,被控訴人X1社が,D社の許諾を得ずに羽衣シリーズの類似品を製造・販売していたこと,羽衣と同じ柄の本件テーブルセンターを控訴人Y2に納品したことなどの一連の背信行為が本件記事の掲載を契機にD社らに発覚し,その不興を買ったことにあると思われる。
また,本件記事により,被控訴人X1社が,以前本件組合との間で交わした約束に反し,本件袋帯を小石丸糸のコーナーで販売したり,小石丸糸使用を強調するなどの宣伝を行っていることが発覚し,E社が本件組合から違反行為の責任を取らされたくないと考えたのではないかと推測される。
さらに,羽衣シリーズの売上げ下落が顕著であったため,E社が本件記事を契機に,本件取引停止をD社に進言した可能性もある。
(ウ)以上によれば,仮に本件記事の掲載につき控訴人Y2に過失があったとしても,それと本件取引停止との間には相当因果関係がない。
エ 控訴人らの主張に対する被控訴人らの認否及び反論
(ア)控訴人らの主張を争う。
(イ)なるほど,平成21年末頃に,本件組合が,組合員に対し,小石丸糸使用の有無等を調査したことがあった。その結果,D社は,本件組合の勧告を入れ,展示会における小石丸糸コーナーという表示を取り止め,被控訴人X1社も平成22年3月以降,羽衣シリーズの小石丸糸の織り込み表示と品質表示票における表示を止め,小石丸糸の問題はこれで解決した。被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)には,その後も小石丸糸についての説明が記載されているが,これは,販売員向けの参考資料であり,顧客に見せるものではない。被控訴人X1社は,控訴人Y2に倭文シリーズを販売委託する際にも,宣伝材料としての小石丸糸の扱いは慎重にするよう注意していた。
羽衣シリーズは,表地と裏地の各3層の布地の一番上の布地の緯糸(よこ糸。ただし,生糸4本からなる撚り糸のうち1本)に小石丸糸を使用している。ただし,帯に使用される生糸の原価の中で小石丸糸の占める割合は,表地2469円の内1315円,裏地2273円の内1315円と高い割合を占めている。したがって,被控訴人X1社が羽衣シリーズにつき,小石丸糸一部使用と表示しても,景表法に違反する不当表示には当たらない。
希少な原料を少量使用して大きな付加価値を付けることは,世上珍しいことではなく,許された商法である。
また,D社向け羽衣シリーズの原価が非常に安いのは,1銘柄としては異例なことに502本(平成21年に363本,平成22年に139本)も売れたため,1本当たりの紋代と意匠代が大幅に下がったことによる(1本当たり271円。甲7)。これに対し,喜寿は平成22年から販売したが,35本の販売量であったので,1本当たりの原価は5341円であった(甲7)。
なお,被控訴人X1社とD社との羽衣シリーズの取引は,元々拘束力の弱い販売形式であり,被控訴人X1社は,E社から,1年間は他に販売しないでほしいと言われた程度であった。被控訴人X1社は,商売上の配慮から,羽衣シリーズをD社以外へ大々的に販売することを自制していただけである。
(4)過失相殺の有無(争点4)
ア 控訴人Y2の主張
(ア)控訴人Y2は,C専務に対し,本件袋帯を控訴人Y2が開発製造した商品として控訴人新聞社に説明することを提案し,C専務から同意を得たと理解した。ところが,C専務は,控訴人Y2が上記のとおり条件提示をしていたにもかかわらず,その話を半分位しか聞いておらず,また,控訴人Y2が何の話をしているか分からないので,適当に相づちを打っていたという。
そうすると,仮に被控訴人X1社が控訴人Y2に対し,上記許諾を与えていなかったとしても,被控訴人X1社には,そのことにつき,重大な過失がある。
(イ)また,被控訴人X1社は,控訴人Y2に,府議会議長への寄贈用として羽衣を納品した際に,羽衣シリーズがD社向けの商品であって,販路が限定されている旨の説明をしなかった。そのため,控訴人Y2は,本件取材の際に,倭文シリーズと羽衣シリーズとの違いに気付かないまま,H記者に羽衣でできた本件テーブルセンターを示して自己の開発製造に係る商品であると説明してしまった。羽衣シリーズがD社向けの商品であることを控訴人Y2に説明しなかったこともまた,被控訴人X1社の過失である。
(ウ)以上のとおり,被控訴人X1社には,本件につき過失があるから,損害賠償額を算定するに当たり,これに基づく過失相殺が行われるべきである。
イ 控訴人新聞社の主張
本件は,控訴人Y2の主張するとおり,被控訴人X1社と控訴人Y2双方の商談における詰めの甘さによってトラブルが発生した可能性がある。その場合,この両者間における意思疎通の不十分さは,取材要請をした側の内部問題であり,控訴人新聞社としては,要請に従って取材を行っている以上,完全に免責されるべきである。
ウ 控訴人らの主張に対する被控訴人らの認否
控訴人らの主張を争う。
(5)被控訴人らの損害(争点5)
ア 被控訴人らの主張
被控訴人らは,控訴人らの不法行為によって以下の損害を被った。
(ア)被控訴人X1社の損害 1405万6090円
a 得べかりし利益の喪失による損害 873万0465円
(a)被控訴人X1社は,控訴人らの前記不法行為によって,D社から本件取引停止を受け,これによって,少なくとも平成23年及び24年の2年分につき,得べかりし利益を喪失した。
(b)平成22年のD社の展示会における売上本数は,羽衣が139本,喜寿が35本,七宝が1本であった。平成23年及び24年も同様に売れたであろうから,平成23年については,本件記事の掲載前に販売済の12本(羽衣9本,喜寿1本,七宝の一製品である二図蔦が2本)を控除した純利益額(甲81の1,甲85,甲86の各1ないし4)
が逸失利益である。そして,各商品の販売単価は,羽衣が3万4000円,喜寿が3万9000円,七宝が2万円であり,製造原価は,平成23年については羽衣が8668円,喜寿が1万1659円,七宝が7653円であり,平成24年については羽衣が8521円,喜寿が1万0657円,七宝が7378円である。上記販売単価から上記製造原価を控除したものが純利益である。なお,二図蔦はD社向けの新商品であり,1本当たりの紋代と図案代が非常に高くなるが,便宜上単価の安い羽衣とみなし,逸失利益を少なめに計算した。
(c)以上によれば,被控訴人X1社の逸失利益は下記のとおりとなり,その合計金額は,873万0645円となる。
① 平成23年の逸失利益
羽衣(3万4000-8668)×(139-11)=324万2496円
喜寿(3万9000-1万1659)×(35-1)=92万9594円
七宝(2万-7653)×1=1万2347円合計 418万4437円
② 平成24年の逸失利益
羽衣(3万4000-8521)×139=354万1581円
喜寿(3万9000-1万0657)×35=99万2005円
七宝(2万-7378)×1=1万2622円
合計 454万6208円
b 資金繰りのための在庫商品見切り売りによる損害 100万円
被控訴人X1社は,本件取引停止によって資金繰りに窮し,在庫商品500本を,平均1本につき1万円を値引きして数社に見切り処分せざるを得なくなり,これにより少なくとも100万円を超える損害を被った。
c 資金繰りのための利息及び保証料の損害 254万7619円
被控訴人X1社は,本件取引停止により,D社への売上が平成23年6月以降なくなり,資金繰りに窮するようになったため,同年9月30日に運転資金として株式会社京都銀行から1000万円を借り受けた(甲54の1ないし3)。その借入れの利息合計170万9862円及び同借入れ債務を保証する京都信用保証協会に支払う保証料のうち83万7757円(甲57)は,控訴人らの不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。
d 信用毀損による損害 50万円
被控訴人X1社は,本件取引停止により,取引先の信用を毀損された。その損害額は50万円を下回らない。
e 弁護士費用 127万7826円
被控訴人X1社の支払うべき弁護士費用のうち127万7826円は,控訴人らの不法行為と相当因果関係がある損害である。
f 合計 1405万6090円
以上aないしeの合計は,1405万6090円である。
(イ)被控訴人X2の損害 166万5400円
a 得べかりし利益の喪失による損害 101万4000円
被控訴人X2は,被控訴人X3社に羽衣を売却することにより羽衣1本当たり3000円の利益を得ていた(甲37)。
平成22年のD社の展示会における売上本数は,175本(羽衣139本,喜寿35本,七宝1本)であった。平成23年及び24年も同様に売れたであろうから,本件記事の掲載前に販売済の12本(羽衣9本,喜寿1本,二図蔦2本)を控除した本数,すなわち,平成23年につき163本,平成24年につき175本にそれぞれ3000円を乗じた金額が,被控訴人X2の失った得べかりし利益である。
したがって,被控訴人X2の逸失利益は,平成23年が48万9000円,平成24年が52万5000円である。
b 信用毀損による損害 50万円
被控訴人X2は,本件取引停止によって信用を毀損された。その損害額は少なくとも50万円を下らない。
c 弁護士費用 15万1400円
被控訴人X2の支払うべき弁護士費用のうち15万1400円は,控訴人らの不法行為と相当因果関係がある損害である。
d 合計 166万5400円
以上aないしcの合計は,166万5400円である。
(ウ)被控訴人X3社の損害 847万4400円
a 得べかりし利益の喪失による損害 270万4000円
被控訴人X3社は,E社に羽衣シリーズを販売することにより,1本当たり8000円の利益を得ていた(甲38)。
平成22年のD社の展示会における売上本数は,175本(羽衣139本,喜寿35本,七宝1本)であった。平成23年及び24年も同様に売れたであろうから,本件記事の掲載前に販売済の12本(羽衣9本,喜寿1本,二図蔦2本)を控除した本数,すなわち,平成23年につき163本,平成24年につき175本にそれぞれ8000円を乗じた金額が,被控訴人X3社の失った得べかりし利益である。
したがって,被控訴人X3社の逸失利益は,平成23年が130万4000円,平成24年が140万円である。
b 売上高減少による損害 500万円
被控訴人X3社の平成19年ないし24年の1年毎(9月1日から翌年8月末日まで)の売上高をみると,平成19年は約6200万円,平成20年は約7500万円,平成21年は約6900万円の売上げがあったのに,平成22年は約2400万円,平成23年は約1200万円,平成24年は約800万円にまで減少してしまった。これは,控訴人らの不法行為の結果である。
被控訴人X3社の羽衣シリーズの利益率は25.8%であるが,これを少なく見積もって20%とみても,平成21年の売上高と比較した平成22ないし24年の売上高減少額の合計約1億6000万円の20%に当たる約3200万円が,控訴人らの不法行為による被控訴人X3社の逸失利益である。
もっとも,上記約3200万円全てが控訴人らの不法行為が原因であることの立証は困難であるから,被控訴人X3社は内金500万円を得べかりし利益として請求する。
c 弁護士費用 77万0400円
被控訴人X3社の支払うべき弁護士費用のうち77万0400円は,控訴人らの不法行為と相当因果関係がある損害である。
d 合計 847万4400円
以上aないしcの合計は,847万4400円である。
イ 被控訴人らの主張に対する控訴人新聞社の認否及び反論
(ア)被控訴人らの主張を争う。
(イ)被控訴人らの損害の主張は,以下のとおり問題が多い。
a 逸失利益について
(a)逸失利益がいつ現実に発生するのかの主張がない。遅延損害金との整合の観点からも,中間利息を控除すべきである。
(b)平成22年の売却実績と同様の数を平成23年及び24年も売却できたという根拠はない。
(c)被控訴人らの主張する製造原価は,本件訴訟を通じて何度も変遷し,しかも合理的な裏付けを欠くものであり,およそ採用できない。
(d)仮に,被控訴人らの主張する原価計算の手法を前提とするとしても,被控訴人らの主張する純利益率は高すぎる。また,被控訴人X1社は,羽衣シリーズをD社以外にも販売しているから,当該売上げ分は,逸失利益から控除すべきである。
b 資金繰りのための見切り販売の損失について
本件不法行為との因果関係が不明である上に,何を見切り売りしたのかも不明である。しかも,同損失は,逸失利益と別途の損害といえるのか疑問がある。また,被控訴人X1社の主張を前提とすれば,同被控訴人は異常な在庫を抱えており,その決算書類によれば,本件記事の掲載前から大いに営業状態が悪かったものと考えられる。
c 銀行借入による損害について
銀行借入は,一般的な資金繰りにすぎず,また,上記bで述べた被控訴人X1社の営業状態をも勘案すれば,本件取引停止と因果関係のある損害とは認められない。
d 被控訴人X3社の損害について
被控訴人X3社の主張を前提とすれば,同被控訴人は,本件記事の掲載前である平成22年5月31日から平成23年5月31日までの間に,本件記事とは無関係に売上が3435万円,66%も減少したことになる。これによれば,被控訴人X3社の売上減は,本件記事とは無関係であると考えられる。
ウ 被控訴人らの主張に対する控訴人Y2の認否及び反論
(ア)被控訴人らの主張を争う。
(イ)被控訴人らの損害計算には,下記のとおり不合理な点が多い。
a 被控訴人X1社の損害について
(a)得べかりし利益に係る製造原価は,帯を織るのに当然必要となると考えられる織機の製造費など必要な経費が盛り込まれておらず,また,工賃(特に羽衣1400円,喜寿1900円が低額すぎる。少なくとも羽衣1本で5760円は必要である。)や小石丸糸等使用糸の価格を極めて低く見積もっているため,純利益額が過大に計上されている。また,生糸の価格が大幅に上昇する前の平成21年の価格で原価計算をしていることも不合理である。
(b)平成23年の売上げは,平成22年より減少しているのに,被控訴人X1社は,このことを考慮に入れずに,得べかりし利益を算定している。
羽衣シリーズの売上本数は,せいぜい1会場当たり12本で4会場分の48本にとどまる。
(c)在庫品の見切り処分について,被控訴人X1社が500本もの在庫を抱えていたとは到底考えられない。仮にそうであったとしても,売れ残り商品の累積であり,価値のないマイナス評価の商品である。これをたまたま本件の後に処分したとしても,そのことにより損失が発生したとはいえない。
(d)資金繰りのための借入利息及び保証料は,仮にこれが生じたとしても,本件と相当因果関係のある損害には当たらない。
b 被控訴人X2の損害について
(a)売上げ本数については,上記a(b)のとおりである。
(b)被控訴人X2の逸失利益を算定するに当たっては,同被控訴人が販売補助に要する旅費,宿泊代,出荷代,着付師代等の諸経費を控除すべきである。
c 被控訴人X3社の損害について
被控訴人X3社の逸失利益の基礎となる売上高を平成21年のそれとすることは合理的ではない。
また,羽衣シリーズの利益率を20%とみることについても,何ら根拠がない。
(6)時機に後れた攻撃防御方法の却下の申立て(争点6)
ア 控訴人らの主張
(ア)弁護士費用に関する主張(控訴人新聞社)
被控訴人らが附帯控訴において請求を拡張した弁護士費用相当額の損害の請求は,1審で請求することに支障がなかったにもかかわらず,原判決により,当該損害が認容されたことに乗じて付加するもので,時機に後れた主張である。
(イ)原価計算に関する主張及び立証(控訴人ら)
被控訴人らは,控訴審弁論終結段階に至って,羽衣シリーズの原価計算の裏付けとなる書証(甲88ないし91〔枝番を含む〕)及びこれに基づく平成26年11月28日付け準備書面を提出した。
これらもまた,時機に後れた攻撃防御方法である。
(ウ)したがって,被控訴人らの上記主張及び書証は,いずれも却下されるべきである。
イ 控訴人らの主張に対する被控訴人らの認否及び反論
(ア)控訴人らの主張を争う。
(イ)被控訴人らは,控訴人らから逸失利益に係る原価計算の原資料の提出を求められたので,これに応じて念のために同資料(甲88ないし90〔枝番を含む〕)及びこれを前提とする陳述書(甲91)とともに,前記準備書面を提出したものである。したがって,上記主張及び書証は,いずれも時機に後れた攻撃防御方法には当たらない。
第3 当裁判所の判断
1 事実関係
前記第2の前提事実,証拠(甲1ないし3,甲4,5の各1・2,甲6ないし15,甲16の1ないし4,甲17,甲18の1・2,甲19ないし31,甲32の1・2,甲34,甲35の1・2,甲36ないし41,甲42の1・2,甲47,48,76,77,乙1,2,19,丙1ないし4,10,証人H,同C,控訴人Y2本人,被控訴人X1社代表者本人,被控訴人X2本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)当事者及び関係者
ア 被控訴人X1社は,自社の織機と職人を有し,西陣織帯を製造販売する会社であり,本件組合に所属している。
イ 被控訴人X2及び同X3社は,西陣織帯の産地問屋(買い継ぎ問屋)である。被控訴人X3社は,同X2が経営する会社であり,両者は,帯の販売利益を会社と個人に振り分けるため,被控訴人X2が同X1社から帯を買い付けてこれを同X3社に転売し,同被控訴人がこれをE社に卸販売するという形態で取引をしていた。
ウ 被控訴人X1社がD社に販売した商品は,D社が全国で開催する「○○会」という名称の展示会において販売されていた(甲6)。被控訴人X2は,同展示会に赴き,被控訴人X1社の商品の販売を補助していた。
(2)羽衣シリーズ及び倭文シリーズの開発
ア 被控訴人X1社は,平成19年頃,D社らの意見を取り入れて,D社の展示会で販売することを前提に,3層構造の軽量袋帯である羽衣シリーズを開発した。この商品開発の経緯からして,羽衣シリーズは,事実上D社オリジナルとして,D社以外への販売が制約を受ける商品であった。羽衣シリーズは,平成21年以降上記(1)ウの展示会で販売された。その販売数は,平成21事業年度(平成21年6月1日から1年間)が363本,平成22事業年度(平成22年6月1日から1年間)
が175本であった(甲7)。
イ 被控訴人X2及び同X3社の取扱商品の大半は,羽衣シリーズであった。
ウ 一方,被控訴人X1社は,独自に販売する袋帯として,羽衣シリーズと同様に3層構造の軽量帯である倭文シリーズを姉妹品として開発した。倭文シリーズの販売数は,平成21事業年度
(平成21年6月1日から1年間)が220本,平成22事業年度(平成22年6月1日から1年間)が163本であった。
エ 本件袋帯は,一般的な袋帯と比較すると軽量であるが,それは,生地の織り方を荒くし,糸を少なくするという製法によるものである。本件袋帯(ただし,倭文シリーズの西コレを除く。)
には,絹糸の中でも耐久性に富み,柔らかでしなやか小石丸糸が一部使用されているが,その量は,全体の重量の約3%にすぎないのであって,本件袋帯の軽量化は,小石丸糸を使用したことによるものではない(甲41,被控訴人X1社代表者本人)。
(3)被控訴人X1社と控訴人Y2との取引
ア 控訴人Y2は,昭和35年から呉服の産地問屋として西陣織の商品に関係していたが,自前の織機や職人を有していない。控訴人Y2は,本件組合に属していないため,商品を西陣織として販売することはできなかったが,自ら企画した商品を他に委託して製造し,販売することがあるため,製造元(メーカー),西陣織織物の企画開発をする者(乙19)又は西陣織メーカーとして企画販売をする者(控訴人Y2本人1頁)と自称して商品を販売していた。控訴人Y2の主な販売先は,卸問屋のF株式会社である。
イ 被控訴人X1社と控訴人Y2との間には,平成19年10月から平成20年1月までの間に5本程度の袋帯の取引があったが,平成21年及び22年には取引はなかった。
ウ 被控訴人X1社は,平成23年3月頃から控訴人Y2に対し,委託販売方式で倭文シリーズを卸販売するようになった。その取引数は,以下のとおりであった。
3月18日西コレ1点(ただし同月23日返品。
甲10,乙13)
3月30日倭文2点,倭文喜寿1点,西コレ2点(甲11)
4月14日倭文喜寿1点(厄除けお守りを織り込んだもの)(甲12)
5月9日倭文喜寿1点,西コレ1点(甲15)
5月10日倭文喜寿2点(甲20,甲30)
(4)控訴人Y2の被控訴人X1社に対する取材の許諾要請
控訴人Y2は,平成23年4月26日,27日,C専務に対し,府議会議長に西陣織の帯地で作ったテーブルセンターとサイドボード上掛けを寄贈し,同議長夫人にも袋帯1点を寄贈したいので協力してほしいと依頼し,また,同寄贈について新聞社の取材を受けてもいいかと尋ねた。
被控訴人X1社は,これに応じることとし,同月26日,サイドボード上掛け用に羽衣の布地を無償で控訴人Y2に届け,また,府議会議長夫人用の袋帯として羽衣を2万5000円で,府議会議長用に羽衣と同じ布地で作った本件テーブルセンターを1万5000円で,それぞれ控訴人Y2に販売し,同年5月10日の午前中にこれらを同控訴人に届け,午後代金を受け取った。
(5)本件取材から本件記事の掲載までの経緯
ア 控訴人Y2は,平成23年5月9日,「この厳しい現状下,この織物が京都府,丹後,西陣,室町,の少しでも明るい話題になればと願っています。」,「この度,弊社は『超軽量織物』を完成させました。帯一本が,表3層,裏3層で表裏合わせて279グラム脅威(ママ)の薄さ,軽さで(以下略)」,「この度,この織物が京都府府会議長室に,永久保存される事になり(以下略)」,「是非ご高覧頂きますよう,お待ち申し上げます」などと記載した文書(丙1,2)を,控訴人新聞社のレターケースに投函し,取材を要請した。
イ H記者は,平成16年4月に控訴人新聞社に入社し,平成20年10月以降編集局社会報道部,平成22年10月以降同局地域報道部にそれぞれ所属し,上記社会報道部在籍当時から主として,地域の話題を取り上げた記事(市民版の記事)を担当しており,そのための取材も行っていた。
ウ H記者は,控訴人Y2が配布した前記アの文書を見て,織物業者の新商品に関する取材要請であると理解し,社内のデータベースで控訴人Y2のことを調べたところ,過去,平成10年5月15日の朝刊(丙3)及び平成17年5月25日の夕刊(丙4)の2度Y1新聞で取り上げられた人物であることが判明した。このうち,前者は,「悠久の美屋久杉から伝統の美西陣織」との見出しの下に,控訴人Y2が「西陣織帯製造会社『Z社』の代表取締役」として,樹齢約3000年の屋久杉の枯れ木から抽出した染料を使った帯及び着物を仕上げたという記事であり,後者は,「屋久杉悠久の木肌西陣帯に」との見出しの下に,控訴人Y2が「西陣帯メーカー」として,屋久杉の薄木を織り込んだ帯を完成させたという記事であり,そのいずれにも当該商品を手にした控訴人Y2の写真が掲載されている。
H記者は,袋帯が従来商品と比較して本当に超軽量であれば,地域の話題として新聞記事にする価値があるものと考え,控訴人Y2を取材することとした。
エ そこで,H記者は,予め電話で訪問を予約した上で,平成23年5月10日午後,控訴人Y2宅を訪問した。
控訴人Y2は,H記者に対し,羽衣の生地で作った本件テーブルセンターを示したりしながら,自らを西陣織帯メーカーと名乗り,5年以上の取組により,小石丸糸という細くて丈夫な絹糸を使うことで,従来商品の3分の1程度である約280グラムという軽量化を実現したとか,3倍の手間をかけて,1枚では薄くて透ける帯地を,表裏をそれぞれ3層重ねの構造にしたなどと説明する一方,「この袋帯には『小石丸』という日本古来の絹糸で織られています」との記載がある被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)を示し,本件テーブルセンターを手に取っている様子などの写真をH記者に撮らせた。なお,H記者は,控訴人Y2に対し,本件袋帯の開発製造者であるのかどうかについての確認は行わなかった。
オ その後,H記者は,上司(デスク)から,本件袋帯につき,新聞記事で取り上げるほどの軽量化が図られたのかという指摘を受けたため,本件袋帯が軽いという点について裏付けを取るために本件組合に電話して,帯一本の通常の重さを尋ねたが,「商品によってまちまちである」などという回答しか得られなかった。H記者は,インターネットで様々な帯の重さを調べた結果,本件袋帯は確かに軽いものであると判断して,本件記事の原稿を作成した。
なお,H記者は,「西陣織」が本件組合の保有する登録商標であることを知っていたが,控訴人Y2が西陣織帯メーカーと名乗った点については,格別疑問を抱かなかったため,この点について裏付け取材をしなかった。
(6)本件記事の掲載等
ア 平成23年5月31日,H記者の原稿に基づき,本件記事(甲1,29)がY1新聞の朝刊に掲載された。
イ 本件記事は,「極細絹糸で帯軽~く」との見出しの下に,西陣織帯メーカーとされる控訴人Y2が,極細の絹糸「小石丸」を使うことで,従来の袋帯の重さの約3分の1まで軽くした袋帯を開発したという内容の記事で,同時に掲載された写真には,羽衣の生地で作った本件テーブルセンターを手にした控訴人Y2が写っており,写真の上には,「通常の帯の3分の1まで軽くした帯と,開発者のY2さん(京都市上京区・Z社)」という説明が付されていた。
ウ 控訴人Y2は,掲載当日,被控訴人X1社に電話して,本件記事が掲載された旨述べたところ,応対に出たC専務は,後記のとおり,本件記事を知ったD社から本件取引停止を受けたため,何ということをしてくれたとの趣旨の発言を行い,電話を切った。
(7)D社による本件取引停止E社の担当者は,平成23年5月31日,羽衣の生地から作った本件テーブルセンターが写った本件記事を見て驚き,被控訴人X2を呼び付けて,今後,被控訴人X1社の商品の取扱いを停止すると告げた。そして,E社は,D社とも協議した結果,本件取引停止を行った。その後,現在に至るまで,D社は,被控訴人X1社の商品の取扱いを再開していない。
なお,本件訴訟係属後の平成24年8月に坂元弁護士が行った照会に対し,E社の代表者は,本件取引停止の理由について,D社は,被控訴人X1社が開発した商品であると説明して羽衣シリーズを販売しているところ,本件記事を見た顧客から上記説明が嘘ではないかとのクレームが出されるおそれが生じたため,D社の信用に傷をつけてはならないと考え,D社に対して本件取引停止を上申したと回答している(甲31)。
(8)その後の被控訴人らの対応等
ア 坂元弁護士は,平成23年6月3日付けの「申入書」と題する書面(甲3)を控訴人新聞社に送付し,本件記事で紹介されている帯地は,被控訴人X1社が開発製造したものであり,本件記事は事実と異なる旨,同被控訴人は,本件記事の公表により,これら商品のほとんどを納入し,これを自社オリジナル商品として販売し又は販売する予定であった小売業者から,他社が開発した商品であるという新聞記事が公になれば,オリジナル商品であるという謳い文句が嘘ではないかと顧客から疑問を抱かれかねないので,これらの商品を販売するわけにはいかないと言われて,大規模な展示会への出品を断られ,大打撃を受けた旨,控訴人Y2が西陣織のメーカーでないことは,本件組合の名簿を一覧すれば分かることである旨をそれぞれ述べた上で,被控訴人X1社の損なわれた対外的信用と経済的打撃の回復措置について控訴人新聞社の考えを聞きたいので,同月13日までに返答を求める旨伝えた。
イ 一方,本件記事の内容を知った本件組合は,組合員でない控訴人Y2が西陣織帯メーカーであると名乗っていることを問題視し,平成23年6月3日付けの「『西陣織』について」と題する文書(甲5の1)を控訴人Y2に送付し,西陣織は本件組合の組合員しか使用できないことを注意した。
これに対し,控訴人Y2は,西陣織の商標を無断で使用したことを謝罪し,今後は西陣織,小石丸などの商標を無断で使用するなどの行為は絶対しないことを約束する旨の同月7日付け誓約書(甲5の2)を送付し,本件組合に謝罪した。
ウ 控訴人新聞社は,被控訴人X1社の前記アの申入れを踏まえ,調査を行った結果,本件記事のうち,本件袋帯の製造者を同被控訴人ではなく控訴人Y2と記載した点については誤りがあると判断し,同月17日の紙面に,「おわび 『極細絹糸で帯軽~く』の記事で,この商品を開発,製造したのは『Z社』ではなく,X1株式会社(京都市北区)でした。」と記載した訂正記事(甲4の2)を掲載した。
しかしながら,控訴人新聞社は,被控訴人X1社の前記アの申入れに対しては,同月16日付け書面(甲4の1)を同被控訴人に送付し,なぜ控訴人Y2が虚偽の説明をしたのかについては,被控訴人X1社と控訴人Y2の話を聞いたが,双方の主張に差があり,控訴人新聞社としては判断が難しい状況である旨回答した。
エ その後,被控訴人らは,平成23年9月21日,本訴を提起した。
2 控訴人Y2の不法行為の成否(争点1)について
(1)当裁判所の判断
前記1の認定事実に照らせば,控訴人Y2は,控訴人新聞社に対し,新商品を開発したとして取材を要請し,これを受けて本件取材を行ったH記者に対し,本件袋帯が被控訴人X1社の開発製造した商品であることを当然知りながら,自己が開発製造したという虚偽の事実を述べ,また,本件袋帯は,小石丸糸を使用して軽量化を図ったものであるなどという虚偽の事実を述べた結果,その旨誤信したH記者が作成した,真実と異なる内容の本件記事を控訴人新聞社に掲載させ,不特定多数の読者が認識し得る状況を作出したことが認められる。
控訴人Y2がいかなる動機によりこのような行為に出たのかは,その陳述書(乙19,28)及び本人供述を含め,本件全証拠によっても必ずしも明らかではない。しかしながら,少なくとも,前記1の認定事実に照らせば,控訴人Y2の上記行動は,自己が製造したものでないことが明らかな本件袋帯を自己が開発し,商品化し,販売する予定である旨の本件記事を,京都・滋賀地区で広く購読されているY1新聞に掲載させたものであって,被控訴人らの利益又は信用に与える影響を顧慮することなく,もっぱら自らの営業活動上の利益のみを得ようとしたとみられても致し方のない行為であることは明らかといわなければならない。そして,このような行為は,本件袋帯の開発製造者,製造方法,商品の特色,品質といった,本件袋帯に関する重要な事実について消費者の認識を誤らせて市場を混乱させ,ひいては,本件袋帯の売上げにも悪影響を及ぼすおそれがあるものというべきであるから,本件袋帯の開発製造,販売に関わる被控訴人らに対する関係で,民法709条の不法行為に該当するというべきである。
(2)被控訴人X1社の許諾に関する控訴人Y2の主張について
ア 控訴人Y2は,平成23年3月末日ころ,C専務に対し,倭文シリーズを,控訴人Y2が開発製造した商品として販売をすること及びそのことについて新聞社の取材を受けることを説明し,C専務の許諾を得た旨主張し,証拠(乙19,28,控訴人Y2本人)中には,これに沿う部分がある。
イ しかしながら,前記1の認定事実に照らせば,被控訴人X1社と控訴人Y2との取引は,平成20年からあったものの,途中,中断時期があり,その後平成23年3月頃から再開されたばかりであり,しかも,同月末の時点では数点の取引しかなかったことが認められる。このことに照らすと,被控訴人X1社が,自社商品である倭文シリーズを控訴人Y2の名義で販売することにメリットがあると考え,これに応じたとは到底考え難い。
また,控訴人Y2は,前記1(8)イで認定したとおり,本件組合から,平成23年6月3日付け書面(甲5の1)で西陣織の商標の無断使用を抗議されたのに対し,その直後である同月7日付け誓約書(甲5の2)において,被控訴人X1社から開発製造者を名乗ることの許諾を得たこと等の弁明をすることもなく,今後は無断使用をしないことを約束し,謝罪している。このこともまた,控訴人Y2が被控訴人X1社から倭文シリーズの開発製造者を名乗ることについて許諾を得ていないことを強く裏付けるものである。なお,証拠(乙19,控訴人本人〔27頁〕)中には,控訴人Y2が本件組合からの上記抗議に対して特に弁明しなかったのは,当時動転していたこと及び本件組合側の説明が不十分であったことによるものであるとの部分があるが,いずれも不自然,不合理な弁解といわざるを得ず採用できない。
さらに,控訴人Y2は,本件記事が掲載された直後,被控訴人X1社に電話してその旨を告げているが,仮に控訴人Y2が被控訴人X1社から上記許諾を受けていないのであれば,このような電話をするはずがない旨主張する。そして,控訴人Y2がそのような電話をしたことは,前記1(6)ウで認定したとおりである。しかしながら,前記1(6)ウで認定したように,控訴人Y2の上記電話に対し,C専務は当惑した旨の応対をしているところ,このことは,まさに被控訴人X1社がそのような許諾をしていないことを強く推認させるものである。また,上記(1)で判断したとおり,本件における控訴人Y2の行動の動機が明らかでない以上,少なくとも,上記電話をしたことをもって,被控訴人X1社の許諾を得ていたことを裏付けるものということはできない。
ウ 以上に加え,被控訴人X1社が控訴人Y2に対して上記許諾を与えた事実を否定する証拠(甲40,41,76,証人C,被控訴人X1社代表者本人)
をも勘案すれば,控訴人Y2の前記アの主張に沿う前記ア掲記の証拠は採用できず,他に同主張を認めるに足りる証拠はない。
エ したがって,控訴人Y2の前記アの主張は採用できない。
(3)本件記事が掲載された経緯について
控訴人Y2は,下記の本件記事が掲載された経緯に照らせば,本件記事が別紙のとおりの内容になったことについて過失はない旨主張する。しかしながら,控訴人Y2の上記主張は,いずれも採用できない。その理由は,以下のとおりである。
ア 控訴人Y2は,本件組合に属していないのに本件記事に「西陣織メーカー」と紹介されたのは,H記者から,肩書は「西陣織メーカー」でいいかと聞かれたので,「それで結構です」と答えたにすぎず,また,被控訴人X1社から,倭文シリーズについて開発製造業者を名乗ることについて許諾を受けている以上,西陣織メーカーと名乗ることには何ら問題がない旨主張する。
しかしながら,控訴人Y2が被控訴人X1社からそのような許諾を受けていないことは,上記(2)
で判断したとおりである。また,前記1の認定事実に照らせば,控訴人Y2は,西陣織に関連する業務に長らく従事し,西陣織メーカーであると自称しており,現にY1新聞が以前掲載した記事においても「西陣織帯製造会社」又は「西陣帯メーカー」として取り上げられていたことが認められる。そうすると,控訴人Y2は,本件取材においても自らを西陣織メーカーと称していたことが明らかであるから,仮に本件取材において西陣帯メーカーという呼称が出るに至った経緯が,同控訴人が主張
するとおりであったとしても,このことにつき同控訴人に過失がなかったとは認められない。
イ 控訴人Y2は,H記者に対し,本件袋帯は小石丸糸を使っているので軽くて丈夫であるとは述べておらず,H記者がそのように誤解したのは,被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)に小石丸糸を使用していると記載されているのをH記者が見て,控訴人Y2の説明と混同したからであると主張し,証拠(乙19,控訴人Y2本人)には,同主張に沿う部分がある。
しかしながら,本件袋帯が軽量であるという点は,まさに新聞記事掲載の要否を左右する,その新規性に関わる重要な事実であるところ,当時入社8年目の経験を有する新聞記者であるH記者が,そのような重要な事実の説明について,控訴人Y2が述べもしないことを,販売用パンフレットの記載内容と混同してしまうなどということは考え難い。
したがって,控訴人Y2自身がH記者に対し,本件袋帯は小石丸糸を使用して軽量化を実現したと説明したと認めるのが合理的である。
ウ 控訴人Y2は,仮に上記イの主張が認められないとしても,平成23年3月31日にC専務と商談した際に,本件袋帯が軽いのは小石丸糸を使用しているからであるという説明を受けたことがあり,これまでの商売の中で,小石丸糸は軽くて丈夫という知識を持っていたので,H記者にそのとおり説明したところ,小石丸糸が軽くて丈夫であることは事実であるから,「小石丸糸は軽くて丈夫」と掲載されたことにつき,控訴人Y2の説明に虚偽はない旨主張し,証拠(乙19,控訴人Y2本人)中には,これに沿う部分がある。そして,小石丸糸が軽くて丈夫であることは,証拠
(乙16,17)により,これを認めることができる。
しかしながら,前記1(2)エの認定事実のとおり,本件袋帯に使用された小石丸糸は,全体の重量の約3%にすぎす,本件袋帯が軽量化を実現できたのは,小石丸糸を用いたことによるものではなく,生地の織り方を荒くし,糸を少なくするという製法によるものであることが認められる。また,C専務が控訴人Y2に対し,本件袋帯が軽いのは小石丸糸を使用しているからであると説明したという事実について,控訴人Y2の供述(乙19)を裏付ける証拠はない。仮に,C専務がそのような趣旨のことを述べたことがあったとしても,それは,控訴人Y2との商談における雑談中でのことと認められる。そうすると,控訴人Y2が,被控訴人X1社に無断で本件取材を敢行した上に,C専務との雑談中に出た話をさも自分の開発製造した商品に関する知識のように述べ,結果として,真実と異なる記事を掲載させてしまったことについては,少なくとも過失があると認めざるを得ない。
エ 控訴人Y2は,「5年以上の取組により軽量化実現」と掲載された理由は,控訴人Y2が,袋帯に屋久杉を織り込むアイデアについて5年以上温めていたと説明したにもかかわらず,H記者の誤解によってこのような記事になってしまったものであり,5年以上かかって軽量化を実現したとは述べていない旨主張する。そして,控訴人Y2が袋帯に屋久杉を織り込むアイデアを有しており,そのことがY1新聞においても記事とされたことは,前記1(5)ウで認定したとおりである。
しかしながら,本件記事には,上記アイデアに関する記載は全くないから,本件取材当時,このことが話題になっていたとは,にわかに考えられない。また,上記アイデアは,商品の新規性に関する重要な事実であるから,H記者がそのような明らかな誤解をするとも考え難い。さらに,本件全証拠を検討しても,前記1(5)エの認定を左右するに足る証拠はない。
(4)まとめ
以上のとおり,控訴人Y2は,本件取材において虚偽の事実を述べ,これが本件記事に掲載されたことにつき,被控訴人らに対し,不法行為責任があるというべきである。
3 控訴人新聞社の不法行為の成否(争点2)
について
(1)被控訴人らの主張
被控訴人らは,新聞社などの報道機関は,業者から新商品を開発したという取材の誘いを受けた場合,開発製造したのが本当に当該業者であるのか,当該商品が果たして新商品であるのかどうかを調査すべき高度の注意義務があると解すべきところ,H記者は,控訴人Y2が本件組合の組合員であるかどうかを照会したり,本件袋帯の品質表示票の製造者名を確認したりして,同控訴人が本件袋帯の開発製造業者であるかどうかを確認すべきであったのにこれをしなかったこと,また,控訴人Y2の,小石丸糸を使用して本件袋帯の軽量化を実現したなどという説明が虚偽であることに気付くべきであったのに,これを鵜呑みにしたこと,控訴人新聞社の編集部も,必要なチェックを行わなかったことについて,同控訴人が新聞社に課せられた高度な注意義務に違反した過失がある旨主張する。
(2)報道機関の注意義務について
前記1(6)イの認定事実からも明らかなように,本件記事は,西陣織メーカーである控訴人Y2が小石丸糸を使用し,三層構造にすることによって,一般的な商品より軽い袋帯を開発したという,新商品を紹介するビジネス記事である。このような新商品の紹介記事の場合には,業者が,実際には商品を販売する権限がない,あるいは,新規性がない又は乏しいにもかかわらず,これらがあるかのように偽って取材を要請し,虚偽の事実を記事に掲載させ,これを宣伝の道具にすることによって,不正の利益を得ようとする可能性があるところ,こうした記事が掲載されると,当該記事を信頼した消費者や業界等に不測の損害を与えるおそれがあるから,報道機関としては,商品の新規性に関する業者の説明が真実かどうかを慎重に吟味する必要があるというべきである。
もっとも,このような新商品の紹介記事は,仮にその内容に誤りがあったとしても,犯罪報道や調査報道とは異なり,第三者の名誉や信用を直接毀損する可能性は低いというべきである。また,新商品の新規性に関する業者の説明が虚偽であった場合には,早晩このことが発覚し,ひいては商品の売行き自体も先細り,さらには業界において,一定の制裁を受ける可能性もあると考えられる。これらに照らすと,業者の新商品を紹介する報道機関に求められる注意義務は,当該商品が消費者の生命,健康又は財産等に関わるものであって,当該業者の説明が真実でなかった場合に社会に与える影響が重大であるような特段の場合を除き,犯罪報道,調査報道の取材時におけるほど高度のものが求められると解すべきではなく,相当と思われるべき根拠があれば足りると解すべきである。また,当該業者が商品を販売する権限を有するかどうかという点も重要であるとはいえるものの,販売権限のない者が商品の宣伝記事の取材を申し込んでくることは必ずしも一般的なことではない上に,その業者に販売権限がないことは,報道によって判明する事実であるといえることにかんがみると,当該業者の販売権限の有無についての報道機関の注意義務もまた,商品の新規性に関する説明に対する上記注意義務と同様に解すべきである。
(3)販売権限に関する調査義務違反について
ア 前記1の認定事実によれば,控訴人Y2は,真実は,本件袋帯の開発製造者ではなく,被控訴人X1社から開発製造者と名乗ることについて許諾を受けてもおらず,さらに,本件組合の組合員でもないのに,H記者に対して,本件袋帯を開発製造した西陣織メーカーであると名乗り,同人が,この点について格別の疑問を抱くことなく信用し,本件袋帯を自ら開発したのかどうかを控訴人Y2に確認しなかった結果,誤った報道である本件記事を掲載するに至ったといわなければならない。
イ しかしながら,前記1(5)ウで認定したように,Y1新聞は,これまで平成10年5月15日及び平成17年5月25日の2回にわたり,控訴人Y2が開発したとする商品を新聞記事として掲載しており,前者においては「京の西陣織帯製造業者」,「西陣織帯製造会社『Z社』の代表取締役」,後者においては「西陣帯メーカー」であると取り扱っていたこと,H記者はこれらの記事を事前に確認し,控訴人Y2を西陣織メーカーと信じた結果,本件取材を行い,その結果を本件記事としたものである。
これらによれば,H記者としては,本件袋帯の販売権限について一応の調査義務を果たしたと認められることから,この点に関する控訴人Y2の説明が虚偽であることに気付かなかったことについて,過失があると認めることはできない。
ウ 被控訴人らは,本件組合の組合員でない者が西陣織を販売することができないことは業界の常識,周知の事実であるから,H記者は,本件組合に対し,控訴人Y2が組合員であるかどうかを照会すべきであった旨主張する。
しかしながら,仮に上記事実が西陣織業界の常識であったとしても,社会一般において周知されている事実であるとまでは認められない。
エ また,被控訴人らは,H記者が,本件取材時に,本件袋帯に西陣織の証紙が添付されていないこと,本件袋帯に貼付されている品質表示票に製造者として被控訴人X1社の名前が記されていることを見れば,控訴人Y2の説明に疑問を抱くことができたはずであるから,その確認をしなかったことにつき過失があった旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,業者が,商品を販売する権限を有しないにもかかわらず,報道機関に取材の誘いをかけてくるということは一般的に考え難いことに照らすと,H記者が本件袋帯の証紙や品質表示票を確認しなかったからといって直ちに過失があると認めることはできない。
オ なお,証拠(乙4ないし7,10)によれば,本件記事及び前記イの控訴人新聞社の以前の記事以外にも,控訴人Y2を西陣織の製造業者として紹介している記事として,「西陣の帯製造業者,Z株式会社のY2社長」との記載のある雑誌ビーパル平成10年8月号の記事(乙4),同控訴人が「西陣織の帯を製作した」との記載のある平成17年6月12日付け朝日新聞の記事(乙5),同控訴人が代表者を務める株式会社Zについて「西陣織の着物,帯,バッグ,タペストリーなどの製造を手がけ」ているとの記載のある,平成19年11月21日付け読売新聞の記事(乙6),京都府庁旧本館で開催されたイベントを誘致した同控訴人を「西陣織職人」と記載した平成22年1月1日付けの同新聞の記事(乙10),同控訴人を「西陣織メーカーのZ社(Y2社長)」と記載した昭和63年11月9日付けの日本繊維新聞の記事(乙7)などがあることが認められる。
これらの記事を掲載した新聞社,出版社及びその記者たちも,控訴人新聞社及びH記者と同じく,控訴人Y2が本件組合の組合員でなく,西陣織の製造業者でないことに気付かなかったものと推認される。これらの記事の存在も,これらの点について控訴人新聞社に報道機関に求められる注意義務を怠ったとの過失がないことを推認させる事実というべきである。
カ 以上によれば,控訴人新聞社には,控訴人Y2に本件袋帯の販売権限があったのかどうかの調査について過失があったとはいえない。
(4)商品の新規性について
ア 前記1の認定事実によれば,控訴人Y2は,本件取材を行ったH記者に対し,本件袋帯は小石丸糸を使用し,三層構造にしたことによって,通常の袋帯よりも軽いものとすることができたと述べるところ,本件袋帯に使用されている小石丸糸の量は,実際には,被控訴人X1社の述べるところによっても約3%にすぎず,本件袋帯が比較的軽いのは,生地の織り方を荒くし,糸を少なくしたことによるものであって,小石丸糸を使用したことによるものではないから,この点は,真実と異なると認められる。
イ しかしながら,前記1(5)エ及びオで認定したとおり,H記者は,本件取材時に,控訴人Y2から,「この袋帯には『小石丸』という日本古来の絹糸で織られています」との記載がある被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)を見せられたこと,取材後,上司の指摘を受け,本件袋帯が一般の袋帯よりも軽いかどうかを確認するために,本件組合に対し,一般的な袋帯の重さについて電話で照会したり,インターネットで袋帯の重さを確認するなどの裏付け取材を行ったことが認められる。
ウ これらの事実に照らすと,H記者は,本件袋帯の新規性について,独自の調査を含め,一応の裏付けを行った上で本件記事を作成するに至ったものであるから,控訴人新聞社には,本件袋帯の新規性の調査に当たって注意義務違反の過失があったとまで認めることはできない。
(5)まとめ
以上のとおり,控訴人新聞社には,本件記事の掲載につき故意又は過失があったとは認められないから,不法行為を原因とする被控訴人らの同控訴人に対する本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
4 相当因果関係(争点3)について
(1)前記2(1)で認定したとおり,本件記事は,本件袋帯につき,控訴人Y2が開発製造し,しかも小石丸糸を使用して軽量化を図ったものであるという虚偽の内容を記載したものであるところ,前記1の認定事実に照らせば,D社らは,被控訴人X1社が開発製造した商品であると顧客に説明
して販売していた羽衣シリーズについて,本件記事を見た顧客から嘘ではないかというクレームが寄せられるおそれがあるとして,本件取引停止に至ったものである。
そして,本件袋帯が西陣織の帯の中でも高級品として,D社が販売していた商品であり,帯そのものの丈夫さや機能よりも,むしろ西陣織であることや,業界における信用のあるD社という大手販売店が高級品として販売していることに対する顧客の信用が何よりも重視される性質のものであったと考えられることに照らせば,D社らによる本件取引停止は,致し方のないものであったということができる。
以上によれば,本件記事の掲載に係る控訴人Y2の前記不法行為と本件取引停止との間には,相当因果関係を認めることができる。
(2)控訴人Y2は,D社による本件取引停止の原因について,①D社らが,被控訴人らと共謀して,羽衣シリーズについて,実際はほとんど小石丸糸を使用していないにもかかわらず,小石丸糸を使用して製造した商品であるという誇大広告を行い,原価7000円程度の商品を約30万円で販売するという暴利行為の商法を行っていたところ,本件記事によって,小石丸糸の不当表示に目を光らせていた本件組合にそのことが発覚するのをおそれて,D社が羽衣シリーズの取引から手を引いた可能性がある,②被控訴人らが,D社に無断で,羽衣シリーズの類似品である倭文シリーズを販売していたことが発覚したからである,③羽衣シリーズの売上げ下落が顕著であったために,E社が本件記事を契機にD社に本件取引停止を進言したからであるなどとして,控訴人Y2の不法行為と本件取引停止との間には相当因果関係がない旨主張する。
なるほど,本件袋帯に占める小石丸糸の割合が重量で約3%にすぎないことは,被控訴人らが自認するところである(平成26年1月27日付け被控訴人ら準備書面(8))。また,証拠(甲81の1ないし3,甲85,86の各1ないし4,乙1,2,丙27の1・2,丙32)によれば,羽衣シリーズは,原価が約6000円から約1万3000円であるとされるところ(甲81の1ないし3,甲85,86の各1ないし4),D社の展示会では約30万円の値段で売られていること,被控訴人X1社の本件袋帯の販売用パンフレット(乙1,2)には,「この袋帯には『小石丸』という日本古来の絹糸で織られています」という,あたかも本件袋帯が小石丸糸によって製造されたかのような記載があること,本件組合が,小石丸糸使用の誇大広告,不当表示を問題視し,平成21年から平成22年にかけて,組合員に対してこうした行為を止めるよう指導したこと,本件組合が,平成22年2月26日,被控訴人X1社に対しても指導を行った結果,同被控訴人は,今後は小石丸糸を表示した織り込み表示を中止し,在庫商品については同表示を抜く旨約束したことが認められる。
しかしながら,以上の事実が認められるからといって,そのことから直ちに,控訴人Y2の主張
する上記①ないし③の事情が認められるものではなく,また,本件全証拠によっても,同控訴人の同主張を認めることはできない。
(3)もっとも,証拠(甲6,甲16の1,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,製造者として被控訴人X1社の名前が記載された羽衣シリーズの品質表示票は,本件袋帯の内部に閉じ込まれた縦2,3センチメートル,横4,5センチメートル程度の小さなものであること(甲16の1),被控訴人X1社の販売用パンフレット(乙1,2)には,同被控訴人の名前が掲載されていないこと及び平成22年のD社の展示会の予定表(甲6)をみると,関西地区で展示会が開催されたのは大阪市のみであり,Y1新聞が主に配布される京都・滋賀地区の開催予定はないことが認められる。これらの事実に照らすと,本件記事が羽衣シリーズの顧客に与える影響はそれほど重大ではないのではないかと推認され,羽衣シリーズの製造者に関する顧客の信用を害するという理由で本件取引停止をしたというD社らの前記言い分は,いささか過剰な反応であるとみる余地がなくはない。そして,D社らは,むしろ,本件記事を見て,D社の展示会向けに被控訴人X1社に開発させた羽衣シリーズを,同被控訴人が無断で控訴人Y2に卸し,かつ,同控訴人が開発製造した商品と名乗らせているのではないかと疑い,被控訴人X1社に対して不信感を抱いたため,本件取引停止に至ったのではないかとも考えられなくもない。
しかしながら,前記(1)で指摘したように,D社による本件袋帯の販売が何よりも顧客の信頼の上に成り立っているものであることに照らせば,上記認定の各事情は,本件取引停止という措置の相当性を左右するだけの事情とはなり得ないものであると認められる。また,仮に本件取引停止の真の理由が上記のとおりであるとしても,そのことと控訴人Y2の前記不法行為との間の相当因果関係を認めるにつき,何らの支障はないものというべきである。
したがって,上記認定の各事情は,前記(1)の結論を左右するに足るものではない。
(4)結局,控訴人Y2の前記(2)の主張は,憶測に基づくものといわざるを得ず,他に控訴人Y2の前記2(1)の不法行為と本件取引停止との間の相当因果関係を左右するに足りる証拠はない。
5 過失相殺(争点4)について
(1)控訴人Y2は,仮に,本件記事の掲載について不法行為責任を負うとしても,被控訴人X1社には,①平成23年3月末日,C専務が,控訴人Y2から,本件袋帯を同控訴人が開発製造したものとして販売する旨提案された際に,言っていることがよく分からないまま返事をしたことによって,同控訴人に,被控訴人X1社の許諾を得たと誤信させたこと,②被控訴人X1社が,控訴人Y2に対して,D社向けの商品である羽衣シリーズと自社販売商品である倭文シリーズとの区別をよく伝えなかったことにつき過失が認められるから,これを損害の認定において斟酌すべきである旨主張し,証拠(乙19,控訴人Y2本人)中には,同主張に沿う部分がある。
(2)しかしながら,前記1及び同2(2)で認定したとおり,控訴人Y2が本件袋帯の開発製造者としてこれを販売すること及びそのことを新聞社に取材させることについて,C専務に説明をしたという事実は認められない。また,仮に,控訴人Y2がその旨をC専務に説明した際に,同人が,同控訴人の話す内容がよく分からないまま返事をした事実があったとしても,同控訴人としては,他社の商品を自己の名義で販売するという重大な商取引については,相手方にその内容をよく説明
し,明確な合意を得てこれを実行すべきであるのが当然である。したがって,相手方の生返事を聞いて許諾を得たものと理解し,実行したとすれば,それ自体が控訴人Y2の過失というべきである。このように,仮に,C専務が控訴人Y2の話す内容がよく分からないまま返事をしたからといって,それを被控訴人X1社の過失として斟酌すべきではない。
なお,仮に,被控訴人X1社が,控訴人Y2に対し,羽衣シリーズはD社向け商品であって,倭文シリーズと販売先が異なることを説明していれば,本件取材の際に,控訴人Y2がH記者に対し,羽衣から作られた本件テーブルセンターを自己の開発製造商品であるとは説明しなかった可能性がないとはいえない。しかしながら,それは結果論であって,前記1及び2(2)で認定したとおり,故意の不法行為を行った控訴人Y2が,そのことを被控訴人X1社の過失ととらえて過失相殺の主張をすることは,公平の観点に照らし,許されないというべきである。
(3)以上によれば,控訴人Y2の前記(1)の主張に沿う前記証拠は採用することができず,他に同主張を認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人Y2による過失相殺の主張は採用できない。
6 被控訴人らの損害(争点5)について
(1)被控訴人X1社の損害
ア 得べかりし利益の喪失による損害 250万円
(ア)控訴人Y2の不法行為によって,被控訴人らはD社から本件取引停止を受けたことにより,従来D社に販売していた羽衣シリーズの売上げを喪失したことが認められる。
(イ)まず,喪失した売上本数について判断する。
a 被控訴人X1社は,平成22年におけるD社向け帯の展示会における売上本数が羽衣が139本,喜寿が35本,七宝が1本であったことを根拠に,平成23年及び24年においても同様に売れたであろうから,本件記事の掲載前に販売済の12本(羽衣9本,喜寿1本,二図蔦2本)を控除した本数に純利益額を乗じた金額が逸失利益である旨主張する。
b しかしながら,一般的に,商品は,特別な定番商品を除き,その新規性が乏しくなるにつれ,次第に陳腐化して売上げが減少すると考えられる。現に,証拠(甲7)によれば,平成21事業年度(平成21年6月1日から1年間)と平成22事業年度(平成22年6月1日から1年間)とを比較すると,羽衣シリーズの売上数は363本から175本に,倭文シリーズの売上数は220本から163本に減少したことが認められる。そうすると,平成22年の販売実績と同じ数を平成23年及び24年にも販売できたものと推認することはできない。
c なお,証拠(甲34,77,被控訴人X2本人)中には,羽衣シリーズは平成21年に爆発的に売れたが,平成22年以降は,平成22年と同じ程度の売上げを見込んでいたとか(甲34),平成22年の売上数が減少したのは,D社の展示会場のうち,売れ行きの良くないコースを割り当てられたという一過性の事情によるものにすぎない(甲77)との部分がある。しかしながら,これを的確に裏付ける証拠はない。他に,平成23年以降も平成22年の販売実績と同じ数を販売できたであろうことを認めるに足りる証拠はない。
d そして,上記bの平成21年及び22年の販売実績のとおり,1年間で羽衣シリーズの売上数が半分以下に減少し,倭文シリーズの売上数が約4分の3に減小していることに照らすと,平成23年及び24年における羽衣シリーズの売上数は,それぞれその前年の3分の2程度に減少するとみるのが合理的である。また,七宝については,本件全証拠によっても平成23年及び24年における売上げを認めることができない。
e 以上によれば,平成23年及び24年の羽衣シリーズの売上本数は,以下のとおりであったと認められる。
① 平成23年
羽衣 139×2÷3=92本(1本未満切り捨て。以下同様)。そして,本件記事の掲載前に売れた11本を除くと81本。
喜寿 35×2÷3=23本。そして,本件記事の掲載前に売れた1本を除くと22本。
② 平成24年
羽衣 92×2÷3=61本
喜寿 23×2÷3=15本
(ウ)売上原価
a 被控訴人X1社は,平成23年及び24年における,本件袋帯各1本当たりの純利益を立証するために,原価計算書(甲85,86の各1ないし4)を提出する。
しかしながら,これらの原価計算書は,その記載内容の一部を裏付ける原資料である納品書等(甲90の1ないし4)が本件提訴から3年以上が経過した当審最終弁論期日である平成26年12月12日に提出されたこと,同納品書等は,上記原価計算書のうち,平成23年分の一部を裏付けるにすぎず,平成24年分の原価計算書(甲86の1ないし4)については,何らこれを裏付ける資料がないことなどを考えると,これらに記載された金額を全面的に信用することはできない。
b また,控訴人Y2は,被控訴人X1社の主張する製造原価は,工賃が低額すぎる上,帯を織るのに当然必要となると考えられる織機の製造費など必要な経費が盛り込まれていないことなどによって,低すぎる旨主張する。
c そこで,前記aの事情に,控訴人Y2の上記bの主張,帯の販売価格,販売実績,その他本件に現れた一切の事情を併せ考慮すると,羽衣シリーズにおける1本当たりの純利益としては,被控訴人X1社が上記原価計算書に基づいて主張する金額の半額をもって相当と認める。
(エ)なお,控訴人Y2は,当審最終弁論期日において被控訴人らが提出した,上記納品書等を含む書証(甲88ないし91。枝番を含む)及びこれを引用した被控訴人らの平成26年11月28日付け準備書面は,時機に後れた攻撃防御方法であることを理由に却下を求める。
しかしながら,上記証拠の扱いについては,上記(ウ)aのとおり,審理の最終段階で提出されたことをその信用性の判断において考慮すれば足りるから,攻撃防御方法の却下はしないこととする。
(オ)以上によれば,被控訴人X1社が喪失した得べかりし利益の金額は,以下のとおりである。
なお,これらは将来損害ではあるものの,その期間が2年間であり,しかも当該期間が既に経過していることをも勘案すれば,中間利息控除を行う必要はないものと考える(以下,1円未満切捨て。
以下同じ。)。
a 平成23年分
羽衣(3万4000-8668)÷2×81=102万5946
喜寿(3万9000-1万1659)÷2×22=30万0751
合計 132万6697円
b 平成24年分
羽衣(3万4000-8521)÷2×61=77万7109
喜寿(3万9000-1万0657)÷2×15=21万2572
合計 98万9681円c 総計 231万6378円
前記a及びbの合計は,231万6378円であるところ,その他本件に現れた一切の事情を斟酌し,被控訴人X1社が喪失した得べかりし利益は,250万円をもって相当と認める。
イ 資金繰りのための在庫商品見切り売りによる損害 30万円
(ア)被控訴人X1社は,本件取引停止によって資金繰りに窮し,在庫商品500本を,平均1本1万円値引きして数社に見切り処分せざるを得なくなり,これにより少なくとも100万円を超える損害を被った旨主張し,証拠(甲41,被控訴人X1社代表者本人)中には,これに沿う部分がある。
(イ)しかしながら,上記(ア)の証拠は,被控訴人X1社が一定の在庫を有していたであろうこと及びD社との取引打切によって資金繰りに窮して一定の在庫を処分したであろうことを推認させるものであるとはいえるが,いかなる商品をいつ,誰に,いくらで売ったのかは不明である上に,上記供述全体を裏付ける証拠もない以上,上記の供述のみから直ちにこれを認定することはできない。
(ウ)一方,控訴人Y2は,被控訴人X1社が500本もの在庫を抱えているということはあり得ず,仮にあったとしても,そのような在庫品は無価値に近いものであったと考えられるから,1本当たり1万円で処分できることもあり得ない旨主張し,証拠(乙28)中には,これに沿う部分がある。
そして,被控訴人X1社の前記(ア)の主張が,にわかにその全てを採用できるものではないことも上記認定のとおりである。
しかしながら,控訴人Y2の上記主張に沿う上記証拠もまた,これを裏付けるに足る的確な証拠を欠くものとして,にわかに採用することができない。したがって,控訴人Y2の上記主張は採用できない。
(エ)結局,当裁判所は,前記(ア)ないし(ウ)を総合勘案した結果,資金繰りのための在庫商品見切り売りによる損害は,被控訴人X1社の主張する損害額の約3分の1である30万円の限度でこれを認める。
ウ 資金繰りのための借入利息及び保証料 70万円
(ア)被控訴人X1社は,本件取引停止により,D社からの売上が平成23年6月以降なくなり,資金繰りに窮するようになったため,同年9月30日に運転資金として株式会社京都銀行から1000万円を借り入れたことに関し,同借入れの支払利息合計170万9862円及び京都信用保証協会に支払う保証料83万7757円の合計254万7619円が損害として発生した旨主張する。そして,証拠(甲54の1ないし3,甲57)及び弁論の全趣旨によれば,上記事実を認めることができる。
(イ)しかしながら,被控訴人X1社の資金繰りが悪化した事情が,本件取引停止のみが原因であるかどうかは不明であるし,仮にそうであるとしても,そうなった事情としては,同被控訴人の側の経営状況,財務状況等の問題も疑われるから,金利及び保証料の全額について本件取引停止と相当因果関係のある損害であると認めることはできない。
(ウ)そこで,上記利息と保証料の約4分の1に当たる70万円をもって本件取引停止による損害として認める。
エ 信用毀損による損害 50万円
前記1の認定事実及び証拠(甲40,41,被控訴人X1社代表者本人)によれば,被控訴人X1社は,本件取引停止により,その信用が毀損される損害を被ったことが認められ,これを金銭に評価すると50万円を相当と認める。
オ 小計 400万円
以上の損害額を合計すると400万円となる。
カ 弁護士費用 40万円
本件訴訟の認容額,難易等に照らすと,被控訴人X1社が支払うべき弁護士費用のうち40万円の限度で,控訴人Y2の不法行為と相当因果関係のある損害と認める。
キ 合計 440万円
したがって,被控訴人X1社の損害は,440万円である。
(2)被控訴人X2の損害
ア 得べかりし利益の喪失による損害 60万円
(ア)被控訴人X2は,被控訴人X1社から仕入れた羽衣シリーズを1本当たり3000円の利益を計上して被控訴人X3社に売り渡していたとして,平成23年及び24年に売れたであろう本数に3000円を乗じた金額を得べかりし利益として主張する。
しかしながら,上記(1)ア(イ)bないしeで説示したとおり,平成23年及び24年の販売数は,それぞれ115本と76本の合計191本と推認されるから,本件記事の掲載前に売れた12本を除くと,179本と認められる。
(イ)前記1(1)イ及びウのとおり,被控訴人X2は,西陣織帯の産地問屋として,被控訴人X1社が製造し,D社に販売していた商品につき,これを同被控訴人から買い受け,被控訴人X3社に転売の上,E社に卸販売するという販売形態を取り,D社が全国で開催する展示・販売の会場で上記商品の販売の補助をしていたものである。
そして,証拠(甲34,37,被控訴人X2本人)
及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X2は,上記販売において,売上1本当たり3000円の利益を得ていたことが認められる。
(ウ)控訴人Y2は,被控訴人X2の逸失利益を算定するに当たっては,販売補助に要する旅費,宿泊代,出荷代,着付師代等の諸経費を控除すべきである旨主張し,証拠(乙28)中には,これに沿う部分がある。
しかしながら,上記(イ)で認定した被控訴人X2の営業形態,羽衣シリーズの仕入値及び売値等を勘案すると,上記3000円は,控訴人Y2の主張する経費を織込み済みの金額であると認めることができる。したがって,控訴人Y2の上記主張は採用できない。
(エ)前記(イ)の3000円に前記(ア)の179本を乗じると53万7000円になるところ,その他本件に現れた一切の事情を斟酌し,被控訴人X2が喪失した得べかりし利益は,60万円をもって相当と認める。
イ 信用毀損による損害 0円
被控訴人X2は,本件取引停止による信用毀損の損害として50万円を主張する。
しかしながら,証拠(甲34,被控訴人X2本人)
によれば,被控訴人X2は,本件取引停止によって西陣織帯の買い継ぎ問屋業を廃業せざるをえない状況に追い込まれ,平成23年9月から滋賀県<中略>駅前でうどん屋を開業したことが認められる。そうすると,被控訴人X2には,取引継続を前提とする損害である信用毀損による損害を認めることはできない。
ウ 弁護士費用 6万円
本件訴訟の認容額,難易等に照らすと,被控訴人X2が支払うべき弁護士費用は,6万円の限度で,控訴人Y2の不法行為と相当因果関係のある損害として認める。
エ 合計 66万円
したがって,被控訴人X2の損害は,66万円である。
(3)被控訴人X3社の損害
ア 得べかりし利益の喪失による損害 150万円
(ア)被控訴人X3社は,被控訴人X1社から仕入れた羽衣シリーズを1本当たり8000円の利益を計上してE社に売り渡していたとして,平成23年及び24年に売れたであろう本数に8000円を乗じた金額を得べかりし利益として主張する。
しかしながら,上記(1)ア(イ)bないしe及び
(2)ア(ア)において説示したとおり,平成23年及び24年の販売数は,それぞれ115本と76本の合計191本と推認され,本件記事の掲載前に売れた12本を除くと179本と認められる。
(イ)前記1(1)イ,ウ及び6(2)ア(イ)のとおり,被控訴人X3社は,被控訴人X2とともに商品を被控訴人X1社から買い受け,これをE社に販売するとともに,D社の開催する展示会で上記商品の販売の補助をしていたものである。
そして,証拠(甲34,38,被控訴人X2本人)
及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人X3社は,上記販売において,売上1本当たり8000円の利益を得ていたことが認められる。
(ウ)上記(イ)の8000円に前記(ア)の179本を乗じると143万2000円になるところ,その他本件に現れた一切の事情を斟酌し,被控訴人X3社が喪失した得べかりし利益は,150万円をもって相当と認める。
イ 売上高減少による損害 0円
(ア)被控訴人X3社は,平成19年から平成24年までの1年毎の売上高をみると,平成19年は約6200万円,平成20年は約7500万円,平成21年は約6900万円の売上げがあったのに,平成22年は約2400万円,平成23年は約1200万円,平成24年は約800万円にまで減少してしまったのは,控訴人らの不法行為の結果であるところ,羽衣シリーズの利益率は少なく見積もっても20%はある(実際は25.8%)として,平成22ないし24年の売上高減少額の合計約1億6000万円の20%に当たる約3200万円の内金500万円を得べかりし利益として請求する。
(イ)しかしながら,上記(ア)の得べかりし利益に相当する損失はまさに,上記アの得べかりし利益の損失と重複するものというべきである。
また,証拠(甲64,65)によれば,被控訴人X3社の総勘定元帳上は,平成21年9月1日から平成22年5月31日までの売上げが5147万8468円であるところ(甲64),本件取引停止(平成23年5月31日)の影響を受けないはずの平成22年9月1日から平成23年5月1日までの売上げが既に1711万0019円に激減していること(甲65)が認められるところ,本件全証拠によっても,同激減の理由は明らかではない。
そうすると,この売上高の減少は,仮にこれが存在するとしても,本件取引停止以外の何らかの原因が影響しているとしか考えられないから,控訴人Y2の本件不法行為と相当因果関係のある損害とは認められない。
(ウ)以上によれば,被控訴人X3社の主張する売上高減少による損害は,これを認定することができない。
ウ 弁護士費用 15万円本件訴訟の認容額,難易等に照らすと,被控訴人X3社が支払うべき弁護士費用は,15万円の限度で,控訴人Y2の不法行為と相当因果関係のある損害として認める。
エ 合計 165万円したがって,被控訴人X3社の損害は,165万円である。
7 結論
(1)以上によれば,被控訴人らの控訴人新聞社に対する請求は,いずれも理由がないから棄却すべきであり,被控訴人X1社の控訴人Y2に対する請求は,440万円及びこれに対する不法行為の後である平成23年5月31日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,被控訴人X2の控訴人Y2に対する請求は,66万円及び上記と同様の遅延損害金の支払を求める限度で,被控訴人X3社の控訴人Y2に対する請求は,165万円及びこれに対する上記と同様の遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるから,それぞれ以上の限度で認容し,その余の請求はいずれも棄却すべきである。
(2)そうすると,控訴人新聞社の控訴は理由があるから,これに基づき原判決中被控訴人らの控訴人新聞社に対する請求に関する部分を取り消して,被控訴人らの控訴人新聞社に対する請求をいずれも棄却し,控訴人Y2の被控訴人X1社及び同X2に対する控訴並びに被控訴人X3社の控訴人Y2に対する附帯控訴は一部理由があるから,これらに基づき,原判決中被控訴人らの控訴人Y2に対する請求に係る部分を変更し,控訴人Y2の被控訴人X3社に対する控訴並びに被控訴人X1社及び被控訴人X2の附帯控訴は,いずれも棄却することが相当である。
(3)よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中敦 裁判官 太田敬司 裁判官 竹添明夫)