大阪高等裁判所 平成25年(ネ)508号 判決 2013年6月19日
控訴人(原告)
SMBC信用保証株式会社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
池田靖
同
矢嶋髙慶
同
市川浩行
同
安隆之
被控訴人(被告)
Y
同訴訟代理人弁護士
渡邊亘男
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、41万9517円及びこれに対する平成24年2月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、担保不動産競売手続において要した費用の請求権は、小規模個人再生手続において共益費用に該当するとして、その全額41万9517円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成24年2月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求めているのに対し、被控訴人が同債権は再生債権に当たるなどと主張して争っている事案である。
2 原審は、被控訴人主張の競売費用の請求権は、共益債権に当たらず、再生債権として再生計画の一般的基準(元本の8割免除及び認可決定確定日である平成23年7月30日以降の利息・損害金の免除)により権利が変更され、また、控訴人が債権届出をしていなかったため、再生計画で定められた再生債権の弁済期間が満了するまで弁済を受けることができないとして、控訴人の本件請求を、平成28年8月1日(再生計画で定められた弁済期間が満了する日の翌日)限り、8万3903円の支払を求める限度で認容したので、これを不服とする控訴人が控訴した。
3 前提事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり補正し、後記4において当審における控訴人の補充主張を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の「2 前提事実」、「3 争点」及び「4 当事者の主張」(原判決2頁4行目から6頁13行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁18行目の「抵当権を設定した」を「抵当権の設定を受けた」と改め、20行目の「受任通知書」の次に「(個人債務者再生手続の申立てをする旨記載)」を加える。
(2) 原判決4頁7行目の「いわゆる巻き戻し」の前に「民事再生法204条に定める」を加える。
(3) 原判決4頁19行目の「民事再生法39条3項2号」の次に「の適用」を加える。
4 当審における控訴人の補充主張
(1) 本件手続費用請求権は、別除権である本件抵当権の被担保債権であり、控訴人が本件抵当権を実行すれば、被控訴人の住宅が失われ住宅資金特別条項を定めた意味がなくなってしまうことを考慮すると、本件手続費用請求権は共益債権であると認めるべきである。
(2) 本件手続費用は、本件競売手続においては共益費用とされるべきものであった。巻き戻しにより本件競売手続の取消決定がなされたために、控訴人は本件手続費用の支払を受けることができなかったが、競売手続が、競売申立ての取下げや担保権の不存在等債権者の責めに帰すべき事由により取り消された場合を除き、競売費用を債務者が負担することは当然のことである。本件保証委託契約においても、被控訴人に対する権利の行使又は保全に関する費用は被控訴人の負担とする旨定められている。
本件保証委託契約には、被控訴人が同契約による債務を担保するために抵当権を設定すること、被控訴人に対する権利の行使または保全に関する費用は被控訴人が負担することが定められているのであるから、本件手続費用請求権が本件抵当権の被担保債権であることは明らかである。そして、本件抵当権は別除権であって、再生計画は別除権に影響を及ぼさないのが原則であり、また、本件手続費用請求権は、民事再生法196条3号に定める住宅資金貸付債権には当たらないため住宅資金特別条項の定めによっても影響を受けないから、控訴人は本件個人再生の手続によらないでいつでも本件抵当権を実行できるのである。
(3) 個人再生手続において、住宅資金貸付債権に関する特則が設けられた趣旨は、住宅ローンを抱えて経済的な破綻に瀕した個人債務者が、その生活の本拠である住宅を手放すことなく経済生活の再生を果たすことができるようにするためである。その際、民事再生法は、住宅ローンの弁済の繰り延べのみ認め、住宅ローンの元本等の全額を支払わなければならないとするなど、住宅ローン債権者の優先的地位を不当に害することのないよう配慮している。仮に上記特則を利用せずに破産手続となれば、一般債権者への配当はほとんどないのが実情であるから、上記特則の利用により一般債権者は共同の利益を得ているといえる。にもかかわらず、本件手続費用の請求権を共益債権でないとすると、あまりに保証会社の損害が大きく、住宅資金貸付債権の特則により住宅ローン債権者を不当に害さないという上記制度趣旨にも反する結果となる。
(4) 控訴人は、本件手続費用の請求権を被担保債権として本件抵当権を本件再生手続外で実行できるのであり、そうすると被控訴人は住宅を失ってしまうことになるから、それを避けるためには被控訴人が本件手続費用を支払う必要があるが、本件手続費用請求権が再生債権であるとすると、被控訴人は再生計画の定めによらずにはこれを支払えないことになるので、被控訴人にとっても本件手続費用が共益債権であると解する必要があるのである。
なお、大阪地方裁判所は、巻き戻しの場合の保証会社の追加保証料請求権について共益債権として扱い、東京地方裁判所でも、競売費用を住宅資金貸付債権と解することも不可能とまではいえないとしているが、このように、住宅資金貸付債権の特則を生かそうとして、実務的に対処されているのである。
第3当裁判所の判断
1 当裁判所も、控訴人の本件請求は原判決掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由は、後記2において当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1及び2(原判決6頁15行目から11頁26行目まで)に認定・説示するとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決7頁16行目から17行目にかけての「しかしながら、民事再生法は、」を削除し、25行目の「相当でない。」の次に「民事再生法は、」を加える。
(2) 原判決8頁9行目の「民事再生法は」から11行目末尾までを次の文章に改める。
「民事再生法は、巻き戻しによって手続が取り消されることとなる競売に関して、その費用を再生手続における共益債権として扱うことを認めていないというほかはなく、本件手続費用請求権を共益債権と解することはできない。」
(3) 原判決11頁26行目の末尾に改行の上次の文章を加える。
「 したがって、控訴人の請求は、平成28年8月1日限り、8万3903円の支払を求める限度で理由があり、被控訴人が請求額を争っていること等に照らせば、現段階で将来給付を命じるべき必要性も肯定される。」
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 控訴人は、本件手続費用は、被控訴人が負担すべきものであることは明らかであるところ、この請求権を共益債権とせず再生債権としたのでは、被控訴人が任意にこれを支払うことができず、本件手続費用の請求権は本件抵当権の被担保債権であるから抵当権の実行により被控訴人自身が住宅を失うことになりかねないこと、巻き戻しにより一般債権者も共同の利益を得ていることなどを挙げて、本件手続費用の請求権は共益債権と認めるべきであると主張する。
しかしながら、仮に本件手続費用の請求権が本件抵当権の被担保債権であるとしても、前記説示のとおり(原判決引用部分)、民事再生法が、共益債権の範囲について詳細な規定を有しているところ、競売手続が巻き戻しによって取消しになった場合の競売手続費用については、これらの規定のいずれの要件にも当てはまらないことから、これを共益債権と解することはできないというべきである。なお、証拠(乙1、2)及び弁論の全趣旨によれば、本件個人再生手続において、再生計画案には、共益債権として固定資産税14万3000円のみが記載されており、これに対して住宅資金貸付債権者である株式会社三井住友銀行は、裁判所宛意見書において、本件手続費用を共益債権として再生計画案の共益債権欄に記載し、認可決定の確定と同時に一括支払するよう被控訴人に指示されたいとの意見を表明していたが、裁判所はそのような指示をすることなく可決された再生計画を認可したことが認められ、本件個人再生手続を行った裁判所においても、本件競売手続費用を共益債権としては扱わなかったものである上、これについて同認可決定を争う抗告などの手続が執られたことをうかがわせる証拠もない。
(2) また、本件手続費用の請求権が本件抵当権の被担保債権であるとの控訴人の主張については、甲2号証の1ないし3(全部事項証明書)によれば、本件抵当権は根抵当権ではなく通常の抵当権であって、債権額は3300万円(甲1号証によれば、被控訴人の株式会社三井住友銀行からの借入額と同額である。)、原因として本件保証委託契約に基づく求償権とされているところ(甲16号証の抵当権設定契約書においても「求償債務を担保するため」と記載されている。)、控訴人の主張を肯定すると、控訴人が保証している株式会社三井住友銀行からの借入債務の代位弁済による求償債権のみでなく、被控訴人との本件保証委託契約(甲1)において被控訴人の負担とされた費用全て(例えば担保権設定費用、訴訟費用及び弁護士費用なども明記されている。)が被担保債権であることになるのであって、その主張の相当性については疑問があるものといわざるを得ない。
なお、仮に本件手続費用の請求権が本件抵当権の被担保債権であるとすると、本件手続費用については、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権額についてのみ権利行使できる可能性があるにすぎないことになるところ、控訴人は、別除権の行使によって弁済を受けることができない債権額(あるいはその見込額)を明らかにしていないため、再生債権としても控訴人主張額を認めることはできないことになる(さらに、この不足額については民事再生手続の中で行使することを要する。)が、原判決を控訴人に不利益に変更することはできないので、本判決の結論に影響することはないといわざるを得ない。
3 結論
以上によれば、控訴人の本件請求は原判決掲記の限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 坂本倫城 裁判官 西垣昭利 和久田斉)