大阪高等裁判所 平成25年(ラ)1030号 決定 2013年10月09日
主文
1 原決定を取り消す。
2 本件を大阪地方裁判所に差し戻す。
理由
第1抗告の趣旨
1 原決定を取り消す。
2 相手方の第三債務者らに対する別紙第1「仮差押債権目録」<省略>記載の各債権に対し,追徴保全執行としての仮差押執行命令の発令を求める。
第2事案の概要
1 大阪地方裁判所(刑事部裁判官)は,平成25年5月31日,相手方を含む共犯者8名が被害者5名から合計2600万円を詐取したという詐欺被告事件において,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織犯罪処罰法」という。)42条1項に基づき,相手方の第三債務者らに対する別紙第2<省略>の各預金債権につき,追徴保全額を2600万円とする追徴保全命令(以下,同追徴保全額を「本件追徴保全額」,同追徴保全命令を「本件追徴保全命令」という。)を発令した。
2 大阪地方検察庁検察官が本件追徴保全命令の執行を命令したことに基づき,抗告人は,別紙第1「仮差押債権目録」<省略>記載のとおり,相手方の有する別紙第2<省略>の各預金債権の1口につき,本件追徴保全額の2分の1に満つるまでの額(1300万円)を仮差押債権とする追徴保全執行としての仮差押執行命令の発令を求める申立てをした(以下「本件保全執行申立て」という。)。
3 大阪地方裁判所は,平成25年9月3日,本件追徴保全命令は無効であり,同命令に基づいて保全執行をすることができないとして,本件保全執行申立てを却下する決定をした(原決定)。
4 大阪地方裁判所(刑事部裁判官)は,上記1の詐欺被告事件の他の共犯者7名がそれぞれ金融機関に対して有する各預金債権についても,本件と同様に追徴保全額を2600万円とする追徴保全命令を発令し,抗告人は,追徴保全執行としての仮差押執行命令の発令を求める申立てを行ったが,大阪地方裁判所は,同申立てについても上記3と同様に全て却下した。
第3当裁判所の判断
1 本件追徴保全命令について
⑴ 対象財産の特定
ア 追徴保全命令は,特定の財産について発しなければならず(組織犯罪処罰法42条2項本文),対象財産が債権である場合には,「債権の種類及び額その他の債権を特定するに足りる事項」を明らかにしなければならないと解される(追徴保全命令の執行に関する組織犯罪処罰法44条3項及び民事保全規則19条2項1号参照)。
イ 本件追徴保全命令における対象財産は別紙2<省略>のとおり定められているところ,各預金「債権の額」の記載がなくても,別紙第2の各「目録」<省略>の記載により,他の預金債権との識別をすることが可能であることが明らかである。
ウ 本件追徴保全命令において,本件追徴保全額は2600万円と定められているが,対象財産については,別紙第2<省略>のとおり,対象財産の上限額の記載がない。
しかし,[判示事項1]大阪地方裁判所(刑事部裁判官)は,本件追徴保全額2600万円の執行保全のためには,別紙第2<省略>の各預金債権全部の処分を禁止する必要性があると判断して,本件追徴保全命令を発令したのであるから,上記イのとおり別紙第2<省略>の各預金債権の特定がなされている以上,本件追徴保全命令は特定の財産について発令されているものといえる。
なお,仮に,別紙第2<省略>の各預金債権全部の合計額が,本件追徴保全額を超過することが判明した場合は,その時点においては,上記各預金債権のうちのどの部分が対象財産とされているのかについて疑義が生じることになるといえなくもないが,記録によると,別紙第2<省略>の各預金債権全部の合計額は33万8471円であり,2600万円を超過していないことが認められるから,上記各預金債権の全部が対象財産であることが明らかである。
エ 以上によれば,本件追徴保全命令において,対象財産の特定はなされている。
⑵ 保全の必要性
ア [判示事項2]大阪地方裁判所(刑事部裁判官)は,本件追徴保全額2600万円の執行を保全するためには,別紙第2<省略>の各預金債権全部の処分禁止をする必要性があると判断して本件追徴保全命令を発令したのであるから,その執行裁判所である原審裁判所が,本件追徴保全命令が保全の必要性を欠くから無効であると判断して本件保全執行申立てを却下することができない。
イ なお,付言すると,相手方を含む各共犯者が本件追徴保全額について全部義務を負う不真正連帯債務者であること,本件のような任意的追徴事案の場合においては,刑事判決における各共犯者からの追徴額についての流動的要素が大きく,追徴保全の段階で,各共犯者に対してそれぞれ本件追徴保全額全額に満つるまでの追徴保全を認める必要性が高いこと,別紙第2<省略>の各預金債権全部の合計が本件追徴保全額を下回ることを考え併せると,本件追徴保全命令について保全の必要性があるものと認めることができる。
⑶ 追徴保全解放金
本件追徴保全命令は,追徴保全解放金を,対象財産額である「別紙2記載の各預金債権及びその利息債権に満つる額」と記載しているところ,上記⑴ウのとおり,上記金額は本件追徴保全額を下回っており,追徴保全解放金は上記金額となるから,上記記載は相当である。
なお,「別紙2記載の各預金債権及びその利息債権に満つる額」とは,本件追徴保全執行としての仮差押執行命令が第三債務者らにそれぞれ送達された時点における額であると解することができるから,その額が定められていないとはいえない。
⑷ まとめ
以上によれば,本件追徴保全命令が無効であるものとは認められない。
2 本件保全執行申立てについて
⑴ 追徴保全命令について,全部の共犯者に対する同命令の対象財産の価額の合計が追徴保全額を超過してはならないとの規定はない。
⑵ 追徴保全命令の執行は民事保全法その他仮差押えの執行の手続に関する法令の手続に従ってすることになる(組織犯罪処罰法44条3項)から,超過差押え禁止の規定(民事執行法146条2項)が準用される(民事保全法50条5項)。
しかし,[判示事項3]共犯者の各債務間の関係を不真正連帯と解するとしても,その性質からすれば,各債務者ごとに執行債権額全額について差押えをすることができると解するのが相当である。したがって,本件保全執行申立てが超過仮差押えの執行禁止に反するものとはいえない。
⑶ そうすると,本件保全執行申立ては相当であり,原審裁判所は別紙第1「仮差押債権目録」<省略>記載の各債権の仮差押執行命令を発令すべきである。
第4結論
よって,本件保全執行申立てについての発令手続を行わせるために,本件を原審に差し戻すこととし,主文のとおり決定する。
(裁判官 前坂光雄 杉江佳治 遠藤俊郎)
別紙第1及び別紙第2<省略>