大阪高等裁判所 平成25年(行コ)167号 判決 2014年1月30日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
第2事案の概要
1 事案の要旨
(1) 被控訴人は,昭和19年9月30日から昭和20年8月15日までの間(以下「本件請求期間」という。),厚生年金保険及び健康保険の適用事業所に勤務していたにもかかわらず,被控訴人の被保険者記録にその記録がないと主張して,本件請求期間について厚生年金保険法31条及び健康保険法51条1項による被保険者資格の確認請求(以下「本件確認請求」という。)をしたところ,控訴人は,平成23年3月28日付けで,上記勤務の事実がないことを理由として本件確認請求を却下する旨の処分(以下「本件却下処分」という。)を行った。
本件は,被控訴人が控訴人に対し,本件却下処分には事実誤認の違法があるなどと主張して,同処分の取消しを求めた事案である。
(2) 原審は,被控訴人の請求を認容したので,控訴人がこれを不服として控訴した。
2 関係法令等の定め
原判決の「事実及び理由」の第2の2(原判決2頁12行目から同4頁3行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実)
原判決の「事実及び理由」の第2の3(原判決4頁6行目から同5頁21行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
4 主たる争点及び当事者の主張
(1) 原判決の引用
(2)のとおり,控訴人の当審における補充主張を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第2の4(原判決5頁23行目から同7頁19行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人の当審における補充主張
ア 争点①(訴えの利益)について
被保険者資格は,保険給付のために存在しているのであるから,被保険者資格の確認処分の法的利益は,それが保険給付に結びつくことが前提といえる。確認請求の期間に係る保険料を徴収する権利が時効によって消滅している場合には,当該資格確認処分がされても保険給付を受けることはできないのであるから,被保険者資格の確認処分の法的利益はないというべきである。
したがって,本件請求期間における厚生年金保険の保険料を徴収する権利が既に時効消滅している以上,本件訴訟には訴えの利益がない。
イ 争点②(本件請求期間における被保険者資格)について
通常,行政処分の取消訴訟においては,原処分の適法性が争われるのであるから,被控訴人(原告)は原処分の違法性について主張・立証する責任があり,控訴人(被告)(行政庁)は,原処分の適法性について主張・立証責任があるのであり,本件訴訟においては,被保険者資格の取得原因事実(適用事業所に使用されていた事実)については被控訴人(原告)が立証責任を負うことになる。
ところが,被控訴人は,上記について,自らの主観的な主張のみでそれを裏付ける客観的な証拠を何ら示していないのであるから,上記立証責任が果たされていない。
したがって,被控訴人の本件請求期間の被保険者資格は認められない。
第3当裁判所の判断
1 判断の概要
当裁判所も,被控訴人には本件訴訟につき訴えの利益が認められ,本件請求期間において被控訴人は被保険者資格を有していたと認めるのが相当であるから,本件却下処分は違法であって,その取消しを免れないと判断する。
その理由は,2項において,「当審における控訴人の補充主張に対する判断」を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1及び2(原判決7頁21行目から同14頁7行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
(1) 争点①(訴えの利益)について
控訴人は,前記(第2の4(2)ア)のとおり,本件請求期間における厚生年金保険の保険料を徴収する権利が既に時効消滅している以上,本件訴訟には訴えの利益がないと主張している。
しかしながら,被控訴人は,本件請求期間における厚生年金保険の保険料が納付されていたと主張し,年金記録の訂正を求める前提として,本件請求期間における被保険者資格の確認処分を求めていると認められる。このような場合,控訴人の上記主張を前提とすると,本来,被控訴人(原告)は,本件確認請求において,本件請求期間における被保険者資格の取得原因事実(適用事業所に使用されていた事実)を立証すれば足りるはずであるのに,本件請求期間において厚生年金保険料が納付されていたことまで立証する必要があることになってしまうが,保険給付を受ける権利についての裁定とは別個に被保険者資格の確認の制度が設けられていることに照らし,相当ではないというべきである。
したがって,控訴人の上記主張は採用できない。
(2) 争点②(本件請求期間における被保険者資格)について
控訴人は,被控訴人が立証責任を負っている,本件請求期間における被保険者資格の取得原因事実(適用事業所に使用されていた事実)について,自らの主観的な主張のみでそれを裏付ける客観的な証拠を何ら示していないのであるから,上記立証責任が果たされていないと主張している。
しかしながら,被保険者資格の取得原因事実(適用事業所に使用されていた事実)の立証のために,必ずしも客観的な証拠が必要とされているわけではなく,これが立証されたか否かは,あくまで裁判所の自由心証に基づく事実認定に委ねられている。
しかも,本件においては,総務省奈良行政評価事務所職員(調査員)でさえも,本件請求期間における被控訴人の勤務実態は推認できると判断していること(甲9)に照らしても,前記で原判決を引用して判示したとおり,被控訴人が本件請求期間において,Aに使用されていた事実は優に認定できるというべきである。
したがって,控訴人の上記主張も採用できない。
3 結論
以上によれば,本件却下処分の取消しを求める本訴請求は理由があるからこれを認容すべきところ,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴は理由がない。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山下郁夫 裁判官 神山隆一 裁判官 堀内有子)