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大阪高等裁判所 平成25年(行コ)18号 判決 2013年7月25日

主文

1  本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

2  控訴人の当審における新請求を棄却する。

3  附帯控訴費用は被控訴人の,当審におけるその余の訴訟費用は控訴人の各負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決中,昭和59年度から平成17年度までに生じた被控訴人に対する固定資産税及び都市計画税の過誤納金に係る請求部分を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴人に対し,2293万1100円及びうち1316万7300円に対する平成23年7月16日から宝塚市長が返還のための支出を決定する日まで年5分の割合による金員を支払え(当審における新請求を含む。)。

(3)  宝塚市長が,平成23年7月6日付で控訴人に対してした固定資産税及び都市計画税の過誤納金不還付決定を取り消す。

(4)  本件附帯控訴を棄却する。

(5)  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(1)  本件控訴及び当審における控訴人の新請求をいずれも棄却する。

(2)  原判決中,被控訴人敗訴部分を取り消す。

(3)  上記取消部分に係る控訴人の請求を棄却する。

(4)  訴訟費用は,第1,2審とも控訴人の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,宝塚市α×番所在の山林790㎡(以下「本件土地」という。)の登記名義人であった控訴人が,昭和59年度分から平成22年度分まで,本件土地につき宝塚市長から固定資産税及び都市計画税(以下「固定資産税等」といい,本件土地に係る固定資産税等を「本件固定資産税等」という。)の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)をされて,これらの税金をいずれも納付したが(昭和59年度分については控訴人の父親宛に賦課決定がされたが,控訴人が納付した。),本件土地が登記簿上の地番だけで法律上存在していないことが後記別件訴訟で確定したとして,上記の各年度分の本件賦課決定はいずれも当然に無効であり,上記の各年度分の本件固定資産税等相当額はいずれも過誤納金である旨主張し,被控訴人に対し,(1)平成18年度ないし平成22年度分については,主位的に不当利得返還請求として234万8250円と還付加算金の支払を,予備的に国家賠償法1条1項の規定に基づいて140万8950円とその遅延損害金の支払を,(2)昭和59年度ないし平成17年度分については,主位的に宝塚市固定資産税及び都市計画税過誤納金返還事務要綱(以下「本件要綱」という。)に基づく返還請求として2293万1100円と遅延損害金の支払を,予備的に不当利得返還請求として1316万7300円の支払をそれぞれ求めるとともに(原審甲事件),(3)宝塚市長が平成23年5月20日付けで控訴人に対してした平成18年度ないし平成22年度分の各本件固定資産税等に係る過誤納金不還付決定,並びに,宝塚市長が平成23年7月6日付けで控訴人に対してした昭和59年度ないし平成17年度分の各本件固定資産税等に係る過誤納金不還付決定の各取消しを求めた(原審乙事件)事案である。

2  原判決は,上記1(3)の各取消請求に係る訴えをいずれも却下し,上記1(1)の不当利得返還請求を234万7500円及びこれに対する還付加算金の支払を求める限度で認容し,その余の控訴人の各請求をいずれも棄却した。控訴人は,原判決の控訴人敗訴部分のうち昭和59年度ないし平成17年度分に係る各金員の支払請求及び同各年度に係る過誤納金の不還付決定(後記本件通知2)の取消請求の部分のみを不服として控訴し,当審において,上記各年度分の不還付(不払)についての国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を追加請求し,被控訴人は,被控訴人敗訴部分を不服として附帯控訴した。なお,原判決中,平成18年度ないし平成22年度分の過誤納金に係る金員の支払請求を棄却した部分,平成23年5月20日付けの過誤納金の不還付決定取消に係る訴えを却下した部分は,いずれも,当審の口頭弁論の範囲外である。

3  関連法令等の定め,前提事実,争点及び争点に対する当事者の主張は,下記のとおり補正し,控訴人の当審における新主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」欄の2ないし4(原判決3頁24行目から16頁24行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。

4  控訴人の当審における新請求に係る主張

(1)  控訴人の主張

宝塚市長は,本件要綱に基づき,控訴人から昭和59年度から平成17年度までに生じた過誤納金の返還請求を受けたときは,平等原則・自己拘束の法理に従い,本件要綱を公正に解釈し,適用するべき義務があるところ,これに違反し,返還を拒否したものであって,地方公共団体の公権力の行使にあたる公務員がその職務を行うにつき故意又は過失により違法に損害を加えたものというべきであるから,被控訴人は,控訴人に対し,本件要綱が適正に適用された場合の返還金相当額を控訴人の被った損害として賠償しなければならない。

(2)  被控訴人の反論

控訴人の上記主張は争う。被控訴人には過誤がないから,本件要綱を適用する前提を欠くのであって,係る本件要綱の解釈・運用は,適法適式であり,被控訴人には何らの過失も違法性もなく,公権力の行使もない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所は,控訴人の平成18年度ないし平成22年度分の過誤納金の不当利得返還請求は,原判決が認容した限度で理由があり,平成23年7月6日付けの過誤納金不還付決定(本件通知2に係る決定)の取消を求める訴えは不適法であり,被控訴人の昭和59年度ないし平成17年度分の各過誤納金に係る金員の支払請求は,当審における新請求も含めてすべて理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,後記2のとおり控訴人の当審における新請求に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」欄(原判決16頁26行目から24頁19行目まで及び26頁から29頁まで。ただし,本件通知1に係る不還付決定の取消請求のみに関する部分は除く。)に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決20頁21行目の「地積更正によって」から26行目の「認め難い」までを「地積更正によって地積が減少した場合には,課税客体である一筆の土地の地積認識が補正されたに過ぎず,課税客体の存在自体に疑義はないのであるから,課税客体の存在しない本件とは事案を異にし,前記課税台帳主義の適用や上記出訴期間の徒過による不可争的効果の発生により固定資産税の徴収実務の安定性はある程度保たれ,混乱を来すとは考え難い。」に改める。

(2)  原判決23頁22行目から24頁5行目までを削除する。

2  控訴人の当審における新請求に対する判断

前記のとおり,本件要綱は,固定資産税等に係る過誤納金について返還を申し込む者に対して何らかの請求権を与えるものではないから,被控訴人が返還を拒否したからといって,控訴人の権利又は法的に保護すべき利益が侵害されたことにはならず,国家賠償法上違法であるとはいえない。また,被控訴人が,昭和59年度ないし平成17年度分の過誤納金の返還を拒否したことが,控訴人の権利又は法的に保護すべき利益を侵害して違法となることを肯認しうる事情も認めるに足りない。控訴人の当審における新請求は理由がない。

3  よって,上記と同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから,これを棄却し,控訴人の当審における新請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 八木良一 裁判官 浅井隆彦 裁判官 杉村鎮右)

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